炭素‐炭素複合材料におけるCNT浸出繊維
炭素/炭素複合材料は、炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む。織物材料を用いる場合には、CNTsを不織状態の元の炭素繊維材料に浸出する。炭素/炭素複合材料は、CNT浸出繊維材料上にバリヤコーティングを含む。製品を、これら炭素/炭素複合材料で作る。炭素/炭素複合材料の製造方法は、連続CNT浸出炭素繊維材料を型板構造体の周囲に巻き付ける工程と、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを形成する工程と、を含むか、或いは、別に、混合物を形成するために炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維材料を分散する工程と、型内に前記混合物を載置する工程と、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形する工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には複合材料に関し、より具体的には、炭素‐炭素複合材料に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本出願は、2009年11月23日出願の米国仮出願第61/263,805号の優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
炭素繊維強化グラファイトマトリックスをベースとする炭素‐炭素(C/C)複合材料は、種々の用途で用いられている。1つの例示的用途は、航空機産業や自動車産業で用いられるハイエンド・ディスクブレーキである。これらのブレーキは、摩擦を与えてディスクと取り付けられた車輪を減速或いは停止させる。そのブレーキシステムにおける接触要素の表面温度は、ブレーキ性能と寿命に影響を与える可能性がある。より一般的には、C/C複合材料は、高温で構造的用途に用いられるか、或いは、耐熱衝撃性及び/又は低熱膨張係数が有用となる所に用いられる。C/C複合材料の他の用途は、ホットプレス金型、発熱体、及びロケット・ノズル等のターボエンジン部品における耐熱材料としての使用が挙げられる。C/C複合材料は、類似する用途で用いられるセラミックスよりは脆くないが、耐衝撃性に欠ける。
【0005】
耐衝撃性を改善すると共に、トライボロジーシステムにおける摩耗を改善するために、熱放散能力の高められたC/C複合材料を提供することは有益である。本発明は、これらのニーズを満たし、更に、関連する利点をも提供する。
【発明の概要】
【0006】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素/炭素(C/C)複合材料に関する。
【0007】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含むC/C複合材料に関する。そのようなCNT浸出炭素繊維材料が織物である場合、CNTsを、不織状態で元の炭素繊維材料に浸出する。
【0008】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNT浸出炭素繊維トウを提供するために開繊炭素繊維トウにCNTsを成長させ、前記CNT浸出炭素繊維トウを成形し、そして成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周りに炭素マトリックスを形成するプロセスによって製造されたC/C複合材料に関する。
【0009】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含み、前記CNT浸出炭素繊維材料がバリア・コーティングを含んだC/C複合材料に関する。
【0010】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素/炭素(C/C)複合材料を含む製品に関する。前記複合材料は、炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む。
【0011】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法に関する。前記方法は、連続CNT浸出炭素繊維を型板構造体の周囲に巻き取ることと、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形することと、を含む。
【0012】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法に関する。前記方法は、混合物を形成するために炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維材料を分散することと、型内に前記混合物を載置することと、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する2層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出するバリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】繊維全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像。
【図6】本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の生成処理を示すフローチャート。
【図7】連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して熱伝導度及び電気伝導度を向上させる方法を示すフローチャート。
【図8】「逆(reverse)」バリア・コーティング処理を用いた連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度等の界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図9】「ハイブリッド(hybrid)」バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度や層間破壊じん性等の界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図10】層間破壊じん性について、IM7炭素繊維に浸出したCNTsの効果を示す説明図。基準材料は、サイジングされていない(unsized)IM7炭素繊維である一方、CNT浸出材料は、長さ15ミクロンのCNTsを備えたサイジングされていない炭素繊維である。
【図11】炭化前に形作られ硬化されたフェノール樹脂における6mmの短CNT浸出炭素繊維のSEM画像。
【図12】3mmの短繊維を有するC‐Cペーパー(1工程熱分解)状のC/C複合材料のSEM画像。
【図13】ハイブリッド・バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出する方法を示すフローチャート。その後、CNT浸出炭素繊維は、刻まれ、向上した比表面積を要求する電極等の用途のためのC‐Cペーパー・マトリックス内に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
炭素‐炭素(C/C)複合材料の用途が、拡大し続けるとき、C/C複合材料の性質改善の要求は、グラファイト炭素マトリックスに与えられる炭素繊維特性によって制限される。本発明は、炭素マトリックスと少なくとも前記マトリックスの一部を介して分散されたカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素‐炭素複合材料を提供する。そのようなC/C複合材料は、改善された電気的、構造的、熱的、トライボロジー的、或いはEMI的性質を与えることができる。より具体的には、C/C複合材料における炭素繊維マトリックス上に浸出されたCNTは、耐熱衝撃性を改善し、熱膨張係数及び摩擦係数を下げ、弾性係数を増大し、熱伝導度及び電気伝導度を増大し、強度を高め、耐熱性及び耐摩耗性を改善できる。また、CNT浸出炭素繊維を組み込んだC/C複合材料は、これまで従来の炭素繊維強化材料で実現されなかったEMI遮蔽等の新たな性質も提供できる。
【0015】
当技術分野における複合材料は、通常、40%のマトリックスに対して60%の繊維を用いるが、浸出したCNTsの導入により、この比率を変化させることが可能となる。例えば、最大約25体積%のCNTsの添加により、マトリックスの範囲が約25体積%〜約85体積%へと変化するのに従って、繊維部分は、約10体積%〜約75体積%の範囲内で変化することが可能となる。様々な比率により、複合材料全体の性質を変化させることができ、これにより、1以上の所望の特性を対象としての調整が可能となる。CNTsの性質は、CNTsによって強化される繊維に与えられる。これらの強化繊維がC/C複合材料に用いられていると、繊維の割合に従って、変化の度合も増すが、C/C複合材料の性質は、それでも当該技術分野で知られている複合材料と比較して、依然として著しく変化させることができる。
【0016】
本発明の炭素‐炭素複合材料は、改善された熱的、電気的、構造的、トライボロジー的、又は熱的に強い用途に用いることができる他の性質のために選択されたCNTsを有するCNT浸出炭素繊維を使用して製造される。CNTsは、現在知られている炭素の最も強い形態であり、また、高い表面積を与える高いアスペクト比も有する。これら2つの因子は、本発明のC/C複合材料のCNTsに関して2元的役割、即ち、1)熱の吸収と放射及び2)耐衝撃性を与える。電気伝導度が向上されるので、C/C複合材料の役割は、電気伝導度の要求が厳しいために以前は達成不可能であった分野にまで広げることができる。CNTsによって与えられるEMI遮蔽特性は、ステルス用途やEMI遮蔽が重要な他の用途に使用可能なC/C複合材料を提供する。
【0017】
異なる繊維タイプの付加によってC/C複合材料の性質を変える種々の方法がある。しかしながら、CNTsの特性は、当分野で用いられたあらゆる添加物の強度値を上回っており、且つ、CNTsは、EMI遮蔽に対して有効であると同様に熱伝導性及び電気伝導性にする特性を有する。異なる長さのCNTsを用いることは、微視的レベル(人間が対象物と互いに作用するレベル)において異なる性質をもたらすので、C/C複合材料のカスタマイズ可能性は、炭素繊維の多様性の増大によって高まるであろう。
【0018】
既製の炭素ベース構造体にCNTsを組み込むC/C複合材料システムは、記載されているが、CNT成長は、略不均一であることが証明されている。従って、CNT成長は、CNTsのない基材のかなりの部分で塊となって現れる。また、既製の構造体も試薬の接近が妨げられる繊維と繊維の結合点においては、CNTの存在に減少が生じ得る。更に、そのような既製システムの例の中には、実質的に全てのCNT構造体と比較して構造的強化を低減する実質的に多数のナノ繊維を示すものもある。場合によっては、CNT成長にはむらがあり、そのため触媒湿潤の均一性が不十分なこともあり得る。炭素ベース構造体におけるCNTs成長の質が、一部において、ひとつには合成低下をもたらす触媒被毒によって劣悪となることもある。他の問題は、炭素ベース構造体とCNT成長触媒との間の相互作用やCNT成長温度での触媒の凝集によって生じることである。特に、凝集は、CNT特性の厳格な制御を難しくする。
【0019】
図4及び図5に示された走査型電子顕微鏡画像によって例示されたように、本発明の複合材料を構成するために用いられる方法は、高密度及び高均一性のCNT成長をもたらす炭素繊維材料上のCNT浸出を含む。そのような成長の達成は、その全体が参照により本明細書に組み込まれた米国特許出願第2010‐0178825号に記載されたように、バリア・コーティングの使用を含むことができる。もう1つの方法として、又は、バリア・コーティングの使用に加えて、炭素繊維材料における類似した品質のCNT成長は、アルミニウム塩の存在下で塩形態の遷移金属CNT成長触媒を用いるCNT成長触媒システムの使用によって達成される。理論に拘束されるものではないが、アルミニウム塩は、米国特許出願第2010‐0178825号に記載されたと同様の保護的なバリア・コーティング効果を提供する。両保護システムは、遷移金属CNT成長触媒とそこに配置された炭素ベース基材の表面間の有害な相互作用を改善し、これによって、繊維ベース構造体へのダメージを軽減し、CNT触媒の被毒の機会を低減し、凝集を低減し、そして、最終的に劇的に改善されCNT成長を提供する。
【0020】
本明細書に記載されたC/C複合材料の製造方法により、織物(woven)や他の布様炭素基材上におけるCNT成長が可能となるが、CNTsを連続炭素トウ(carbon tow)に浸出する積み上げ法でそのようなCNT浸出基材を作ることも可能である。下記の連続的なCNT浸出方法は、非常に大規模な、例えば50ポンド巻きの炭素繊維トウを用いて実行される。好都合に、その処理は、個々の繊維についてCNT被覆をより効果的にする開繊器にトウの個々のフィラメントを晒す。その後、CNT浸出トウは、織られ、多様な配列の可能性があるCNT浸出構造体やその後のC/C複合材料を提供するために、刻まれ、固められ、マンドレル等の型板に巻き取られる。織物構造に関して、特に、繊維と繊維の結合点は、既製の2次元及び3次元の構造体にCNTsを成長させようとするシステムと比較してCNT担持量が少ないということはない。
【0021】
本明細書では、用語「炭素/炭素(C/C)複合材料」とは、ホウ素又はリン等の非炭素成分をドープすることを排除しないが、主なマトリックス相要素として炭素を有する複合材料構造をいう。C/C複合材料の強化相は、一般的に、カーボン・ナノチューブが浸出された炭素繊維である。ある実施形態では、他の強化繊維類を、炭素に付加して、又は炭素の代わりに用いることができる。例示的な代替強化繊維類には、例えば、炭化ケイ素繊維等の炭化物繊維を含むことができる。代替強化繊維類は、選択的にそこに浸出されたCNTを含んでもよい。
【0022】
本明細書では、用語「不織」とは、炭素繊維材料又はCNT浸出炭素繊維材料に関して用いられる場合、織りのない構造をいう。不織構造は、例えば、トウ、ロービング(rovings)、ヤーン(yarns)等の形態の連続繊維を含む。不織構造は、刻んだ材料も含むことができる。「炭素繊維材料」とは、その基本構成成分として炭素繊維を有するあらゆる材料をいう。前記用語は、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ、テープ、織布及び不織布、プライ(plies)、マット等を包含する。
【0023】
本明細書では、用語「炭素マトリックス」とは、C/C複合材料に用いられるバルクグラファイトマトリックス材料をいい、「炭素マトリックス前駆体」とは、炭素マトリックスに転換することができるあらゆる材料をいう。炭素マトリックスは、例えば、熱分解及び/又は有機樹脂、タール(tar)、ピッチ(pitch)を用いる化学蒸着法又は化学蒸着浸透法(CVD又はCVI)によって形成され、また、CVD及びCVI法を用いる場合、他の炭化水素源は、アセチレン、エチレン等のガスを含む。炭素マトリックスの密度は、その形成に用いられた方法に依存して変化する。
【0024】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は開口端を有していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0025】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファン・デル・ワールス力の介在による物理吸着等が含まれ得る。例えば、CNTsは、共有結合担体の繊維に直接結合される。結合は、例えば、不活性化しているバリア・コーティング及び/又はCNTsと炭素繊維間に配置された遷移金属ナノ粒子を介した繊維へのCNT浸出等、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出炭素繊維において、カーボン・ナノチューブは、直接的又は間接的に繊維に「浸出」することが可能である。CNTを炭素繊維材料に浸出させる具体的な方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。CNT浸出炭素繊維の実際の結合モチーフに拘わらず、本明細書に開示された浸出処理は、繊維に既製のCNTsを簡単に軽く塗布するより強固な結合を提供する。この点において、触媒含有繊維基材上のCNTsの合成は、ファン・デル・ワールス付着単独のものよりもより強い「浸出」を提供する。本明細書で更に後述される処理によって製造されたCNT浸出繊維は、特に、より高密度では、隣接するCNTs間の共有壁モチーフを示す、非常にもつれた枝分かれしたカーボン・ナノチューブ網を提供する。ある実施形態では、成長は、例えば電界の存在下で影響を受け、これによって別の成長形態を提供する。また、より低密度では、前記成長形態は、枝分かれした共有壁モチーフからも離れるが、一方、更に強い繊維への浸出を提供する。
【0026】
本明細書では、用語「有機樹脂」とは、相対的に不揮発性で本発明のC/C複合材料の炭素マトリックスを形成するための前駆体源として機能する重合(体)、オリゴマー、又は他の炭素に富んだ材料のあらゆるものをいう。
【0027】
本明細書では、用語「マトリックス改質剤」とは、C/C複合材料のバルクグラファイトマトリックスへの添加剤をいう。マトリックス改質剤は、例えば、酸化に対してバルクマトリックス材を保護するのに役立つ。
【0028】
本明細書では、用語「炭素ナノ構造」とは、ナノスケールで少なくとも1つの寸法を有する炭素同素構造のあらゆるものをいう。ナノスケール寸法は、約0.1nmから約1000nmの範囲のあらゆる寸法を含む。
【0029】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、炭素繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、炭素繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法の繊維材料の1つとしては、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンドの寸法を有するAS4 12k炭素繊維のトウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、工業用の炭素繊維のトウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量のスプール用で、通常、3k/12Kのトウ)のスプールで入手されるが、より大きなスプールには特注を必要とする場合もある。本発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、取り扱いが容易な寸法、例えば、50ポンドのスプール2つに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0030】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器で成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%又はそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するということを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロン等では、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0031】
本明細書で、「分布が均一」とは、炭素繊維材料上のCNTの密度に一貫性のあることをいう。「均一な分布」は、炭素繊維材料上のCNTsの被覆率が、±10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの被覆率とは、CNTsで被覆される繊維の表面積の割合として定義される。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0032】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のd‐ブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物等)も含まれる。
【0033】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、炭素繊維材料上におけるCNTを成長させる触媒として機能する。
【0034】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」、又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素繊維を完全な状態で保護し、複合材料における炭素繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を高め、及び/又は、炭素繊維の特定の物理的性質を変える及び/又は高めるためのコーティングとして炭素繊維の製造において用いられる材料を総称するものである。ある実施形態では、炭素繊維材料に浸出したCNTsが、サイジング剤として作用する。
【0035】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の繊維材料に沿った各ポイントが、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長状態にさらされる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0036】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法の繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0037】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素・炭素(C/C)複合材料を提供する。そのような複合材料の中には、不織,CNT浸出炭素繊維材料が、巻き取られたトウ等の連続CNT浸出炭素繊維材料であるのに対し、他の実施形態では、不織,CNT浸出炭素繊維材料が、短CNT浸出炭素繊維材料なものもある。短繊維システムの場合、短繊維を、連続CNT浸出トウから作ることができるが、この場合、1つのCNT浸出処理が、連続材料と短材料の両方を作るために用いられるので、製造の効率性をもたらす。
【0038】
C/C複合材料は、繊維状の材料に有機樹脂を含浸させ、その後、そのマトリックスを炭化温度まで加熱又は熱分解することによって形成させる。炭素/炭素複合材料を作るための種々の方法や炭素マトリックス前駆体材料が記載されており(例えば、Buckley,John D.and Edie, Dan D., ed., Carbon-Carbon Materials and Composites, Noyes Publication, P-ark Ridge, N.J.(1993); Delmonte, John, Technology of Carbon and Graphite Fiber Composites, Van Nostrand Reinhold Company, New York, N.Y.(1981); Schmidt et al, “Evolution of Carbon-Carbon Composites(CCC)” SAMPE Journal, Vol.32, No.4, July/August 1996, pp44-50;“Expanding Application Reinforce the Value of Composites“High Performance Composites 1998 Sourcebook; U.S. Pat. Nos.3,914,395,4,178,413,5,061,414,4,554,024及び5,686,027)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明のC/C複合材料は、炭素マトリックスを作るための当該分野でよく知られたあらゆる炭素源前駆体を用いることができる。ある実施形態では、炭素マトリックスを有機樹脂から抽出する。C/C複合材料用の有機樹脂は、例えば、フェノール樹脂、フタロニトリル及びフェノールとフルフリルアルコールの混合物等が挙げられる。ある実施形態では、炭素マトリックスを、タール又はピッチから抽出する。また、化学蒸着/化学蒸着浸透(CVD/CVI)で用いられるこれら等の炭化水素物質は、前記炭素マトリックスを生成するためにも使用できる。
【0039】
本発明のC/C複合材料は、炭素マトリックス内にいくらかの添加剤を含むことができる。ある実施形態では、更に、C/C複合材料は、リン又はホウ素を含むマトリックス改質剤を含むことができる。そのようなマトリックス改質剤は、高温で問題となる酸化の持つ有害作用を抑制するように作用する。本発明のC/C複合材料への他の添加剤は、遊離したCNTs、フラーレン、ナノ‐オニオン、ナノフレーク、ナノスクロール、ナノペーパー、ナノファイバー、ナノホーン、ナノシェル、ナノワイヤー、ナノスプリング、ナノクリスタル、ナノダイヤモンド、バッキーダイヤモンド、ナノコンテナー、ナノメッシュ、ナノスポンジ、ナノスケールのグラフェンプレート(NGPs)及びナノビーズからなるグループから選択されたドーパントカーボン・ナノ構造体が挙げられる。ある実施形態では、ドーパント炭素ナノ構造体を、炭素マトリックスの緻密化中にその場で作ることができるが、一方、他の実施形態では、ドーパント炭素ナノ構造体を緻密化の前で予め作られた成分として加えることができ、そして、ある実施形態では、緻密化に先立ち第1熱分解の前でも加えることができる。ある実施形態では、1つ以上の前述した炭素ナノ構造体及びあらゆるマトリックス改質剤は、初期の熱分解工程中や次の緻密化工程中においていつでも加えることができる。
【0040】
CNT浸出炭素繊維は、米国特許出願第2004‐0178825号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。そのようなCNT浸出炭素繊維は、C/C複合材料の中で強化材料として用いられる典型的なタイプである。他のCNT浸出繊維タイプ材料が記載されており、混合複合材料システムに用いられる。そのような混合繊維‐炭素マトリックス複合材料は、例えば、CNT浸出ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、及びアラミド繊維のような有機繊維等が挙げられる。上記の出願に記載されたCNT浸出処理では、炭素繊維材料は改質されて、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(通常は単分子層のみ)をもたらす。触媒含有繊維は、その後、CNTsをインラインで連続的に成長させるために用いられるCVDをベースとする処理に晒される。成長したCNTsは、繊維材料に浸出する。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体、複合材料の構造である。この処理によって作られたCNT密度は、繊維軸の周りに半径方向のCNTs成長をもたらす。連続処理によって達成されたその密度は、炭素繊維とのCNT触媒ナノ粒子相互作用を弱める炭素繊維材料上のバリア・コーティングを使用することによってより高くなる。
【0041】
繊維処理後、炭素/炭素複合材料は、通常、例えば熱分解、化学蒸着(CVD)及び化学蒸着浸透(CVI)等の当該分野で知られたあらゆる処理を用いて作られる。熱分解の場合、CNT浸出炭素繊維を、通常の官能基化されていない炭素繊維に置き換えることができ、樹脂を注入でき、使用する官能基化されていない炭素繊維のままで炭素がCNT浸出繊維の周りに形成する。CVD(Chemical Vapor Deposition)は、少なくとも2つの方法で行われる:1つの方法は、既製のCNT浸出炭素繊維を形成し、その後、複合材料が完成するまでCNT浸出繊維の周囲にグラファイト状の炭素を付着する方法である。第2の方法は、CNT浸出繊維を生成するためにCNTsを成長し、繊維上のCVDCNTs成長のために使用したのと同じガスを用いてグラファイトマトリックスに付着し続けることである。非晶質の炭素付着は、CNT成長後又はCNT成長中に生じる。
【0042】
このように、CNT浸出炭素繊維を用いれば、C/C複合材料製造プロセスを変更する必要がない。CVDに対する第2の選択肢は、例えば、CNTsが複合材料それ自体に結合しないことが望ましい場合等、いくつかの条件の下では有利である。更に、1つは、CVD成長中に成長するCNTsの特注生産を選択できる。CNT浸出炭素繊維を、生成されたCNTのタイプ、配向性及び長さに基づいて特注生産することができ、従って、前記繊維により、特定用途の必要性に的確に対処するために非常に特殊な複合材料の作成が可能となる。
【0043】
C/C複合材料は、強化CNT浸出炭素繊維の異なる配向で製造することができる。例えば、前記繊維は、一方向構造、例えば多数の炭素繊維ヤーンで作られた布等の双方向構造、3次元等の多方向構造である。多方向の強化は、織物構造体の配向において最高レベルの機械的性質をもたらす。
【0044】
繊維材料の一部分に浸出したCNTsは、一般的に、長さが均一である。均一な長さとは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するという意味である。例えば、1〜4ミクロン等、極めて短い長さの場合では、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。本発明のC/C複合材料が、CNT浸出繊維材料上に有するCNTsは、ある実施形態では約80から約500ミクロン、他の実施形態では約250から約500ミクロン、更に他の実施形態では約50から約250ミクロンの範囲内と、これに、この間のあらゆる長さ及びその端数を含めた長さを有する。熱伝導度向上に関して、ある実施形態では、約80から約500ミクロンの範囲の、他の実施形態では、約250から約500ミクロンの範囲(250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン及び500ミクロン、並びに、この間のあらゆる数値及びその端数を含めたあらゆる数値)の長さを有するCNTsを使用することは有用となり得る。同様に、耐衝撃性向上に関して、約50から約250ミクロンの範囲(50ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン及び250ミクロン、並びに、この間のあらゆる数値及びその端数を含めたあらゆる数値)の長さを有するCNTsを使用することは有用となり得る。ある実施形態では、C/C複合材料は、種々の部分において異なる長さのCNTsとなるように調整し、これにより、製品の異なる部分における特性強化が異なるようにできる。このようにして、例えば、C/C複合材料の第1の部分は、約50から約250ミクロンの長さのCNTsを有し、C/C複合材料の第2の部分は、約250から約500ミクロンの長さのCNTsを有するようにすることができる。ある実施形態では、第1のCNTsは、例えば、複合材料製品の表面を包含し、これに対し、第2の部分のCNTsは、例えば、複合材料製品の中心部を包含する。
【0045】
ある実施形態では、CNT浸出炭素繊維は、従来の強化炭素繊維と比較して大幅に向上された電気伝導度及びEMI遮蔽等の他の性質をC/C複合材料に与えることができる。CNT浸出繊維は、様々な性質を得るように、繊維表面における特定の種類のCNTsで調整される。例えば、電気的性質は、様々な種類、直径、長さ及び密度のCNTsを繊維上に塗布することにより改良可能である。適切なCNT−CNT架橋が可能となる長さのCNTsを用いて、複合材料の伝導性を向上させるパーコレーション経路を形成する。繊維の間隔は、通常、一繊維の直径に等しいか、それよりも大きく、約5〜約50ミクロンであるので、CNTsは、効果的な電気経路を得るため、少なくともこの長さの半分である。これより短いCNTsは、構造的性質を改善するために用いられる。ある実施形態では、CNT浸出炭素繊維材料は、同じ繊維材料の異なる部分に沿って様々な長さのCNTsを含んで構成される。このような多機能のCNT浸出繊維は、C/C複合材料強化材として用いられた場合、それらが組み込まれるC/C複合材料の1以上の性質を向上させる。
【0046】
ある実施形態では、第1の量のカーボン・ナノチューブは炭素繊維材料に浸出する。この量は、カーボン・ナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択された少なくとも1つの値が、繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。得られたCNT浸出炭素繊維材料のこれらの性質は、そのどれもが最終的なC/C複合材料に付与される。
【0047】
引張強度には、3つの異なる大きさ、即ち、1)材料の歪が弾性変形から塑性変形(その結果、材料の永久的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び、3)破断点における応力−歪線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0048】
多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成しており、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。更に、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。従って、CNT浸出繊維材料は、元の繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の増加は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、繊維材料におけるCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出繊維材料では、例えば、引張特性において2〜3倍増加することが示されている。例示的なCNT浸出炭素繊維材料は、機能化されていない元の繊維材料の3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有する。強化繊維材料のこのような強度増加は、CNT浸出繊維が組み込まれたC/C複合材料の強度増加となる。
【0049】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸歪に対する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−歪線図の傾きから決定される。
【0050】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティ(chirality)に関連している、例えば、撚度(degree of twist)等の特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、従って金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により正式なものとして承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気伝導度及び熱伝導度を有している。更に、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0051】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気伝導度に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズが制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導度はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導度を有する。
【0052】
繊維材料の一部に浸出したCNTsは、略均一な分布であり、更に、実質的に長さも均一である。分布が均一とは、繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。均一な分布とは、繊維材料におけるCNTsの密度が、被覆率±約10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの被覆率とは、CNTsで被覆される繊維の表面積の割合として定義される。ある実施形態では、許容誤差は、直径8nmの5層CNTでは、1平方ミクロン当たり約±1500CNTsの範囲である。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約10000CNTsの範囲の密度で、CNT浸出炭素繊維材料にCNTを有する。他の実施形態では、CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約5000CNTsの範囲である。
【0053】
ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、CNT浸出繊維の約20重量%から約40重量%の範囲(20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39及び40重量%等、並びに、これらの端数を含む)でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有する。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、CNT浸出繊維の約35重量%から約40重量%の範囲でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有し、他の実施形態では、CNT浸出繊維の約15重量%から約30重量%の範囲でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有する。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、複合材料体積の約10%から約60%の範囲でCNT浸出繊維材料を有し、他の実施形態では、複合材料体積の約30%から約40%の範囲でCNT浸出繊維材料を有する。ある実施形態では、CNT浸出繊維材料は、複合材料体積の10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60%、並びに、これらの間にある全ての値と端数を含んで構成される。
【0054】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料を含むC/C複合材料を提供する。このような実施形態の中には、CNT浸出炭素繊維材料が織物である場合には、CNTsを、不織状態の元の炭素繊維材料に浸出する。従って、織物材料はC/C複合材料製品に用いられる。CNT密度と担持量に関しては、略1次元構造体にCNTsを担持することによる2次元及び3次元構造体への積み上げ式接近法が有益である。これは、より高い次元の構造物ほど全体にわたってより均一なCNT密度のC/C複合材料を提供できる。従って、ある実施形態では、本発明は、CNT浸出炭素繊維トウを形成するために開繊炭素繊維トウにCNTsを成長させ、CNT浸出炭素繊維トウを成形し、そして、成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周囲に炭素マトリックスを形成するプロセスによって製造されたC/C複合材料を提供する。CNTsは、上述したように、また、下記に詳述するように、炭素繊維上に成長される。CNT浸出繊維の成形は、例えば、型板又はマンドレル構造体の周りに連続的なCNT浸出炭素繊維トウを巻き取ることを含むことができる。巻き取りは、型板の周りに巻き取る間にトウの開繊を含むことができる。また、成形は、繊維を刻むこと、炭素複合材料マトリックス前駆体にそれを分散すること、及びそれを型に入れること、も含むことができる。例えば、型の場合、ディスクブレーキ製品に用いられる構造体が含まれてもよい。また、成形は、全ての織り(weaving)或いは元の炭素繊維トウから作るあらゆる織物構造の形成も含むことができる。また、成形は、織りと型板巻き付けの組み合わせ、又は、織りと切断後の型入れの組み合わせも含むことができる。炭素マトリックスの形成は、熱分解、CVD、CVI及びこれらの組み合わせのうちの1つ以上の工程を含むことができる。
【0055】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む本発明の炭素‐炭素(C/C)複合材料を含む製品を提供する。ある実施形態では、製品は、連続的である不織CNT浸出炭素繊維材料を用いる。ある実施形態では、製品は、刻まれた不織CNT浸出炭素繊維材料を用いる。製品の正確な下流用途に応じて、複合材料構造は、保護コーティング、マトリックス改質剤、又は、これらの組み合わせを含むことができる。
【0056】
ある実施形態では、保護コーティグは、金属又は酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、及びこれらの組み合わせから選択された形態の半金属を含むことができる。典型的な保護コーティングは、限定するものではないが、塩化物、酸化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、炭化ホウ素、ホウ化クロム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ホウ化アルミニウム、ホウ化ジルコニウム‐炭化ケイ素、ケイ酸イットリウム‐炭化ケイ素、ムライト‐酸化アルミニウム‐炭化ケイ素、炭化ケイ素‐ケイ素‐ケイ酸ジルコニウム、酸化ホウ素、窒化ケイ素、窒化チタン、ホウ化チタン、ケイ化チタン、ケイ化ハフニウム、ケイ化モリブデン、炭化ハフニウム、ホウ化セリウム‐炭化ケイ素、ケイ酸ジルコニウム‐酸化ホウ素、ホウ化ハフニウム‐酸化ホウ素、窒化ケイ素‐窒化ホウ素、窒化ケイ素‐窒化チタン、窒化ケイ素‐炭化ケイ素、炭化ケイ素‐ケイ化チタン、窒化アルミニウム‐窒化ホウ素、セルフシールホウケイ酸塩ガラス、窒化アルミニウム‐窒化ケイ素、ホウ化チタン‐炭化チタン、炭化ジルコニウム‐窒化ホウ素、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、タングステン‐モリブデン‐ケイ素‐炭化ケイ素、及び炭化ハフニウム‐ケイ化ハフニウムが挙げられる。ある実施形態では、そのようなコーティングは、高温塗布の際のC/C複合材料の酸化を抑制するために用いられる。この点において、製品は、上述したように、ホウ素或いはリン等のマトリックス改質剤を含む複合材料もまた有することができる。
【0057】
ある実施形態では、本発明の製品は、ブレーキローターを含む。ある実施形態では、本発明の製品は、一部の極超音速機を含む。それぞれの製品の求める要求及び背景は、用いられるC/C複合材料の組成を決定づけることができる。例えば、ある実施形態では、ブレーキローターは、短CNT浸出繊維材料を用いて組み立てられる。極超音速機部品では、型板構造体の周りへの巻き取り技術を用いて大きな部品を形作るために、連続のCNT浸出繊維材料が用いられる。また、それぞれの用途が求める要求は、あらゆる添加剤も決定づけることができる。例えば、極超音速機の場合、本明細書で上述したように保護コーティング及びマトリックス改質剤の追加が必要となるくらいに極度の高温レベルである。
【0058】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスにCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法を提供する。前記方法は、型板構造体の周りに連続のCNT浸出炭素繊維を巻き取ること;及び、初期のC/C複合材料を作るために炭素マトリックスを成形することを含む。炭素マトリックスの成形工程は、炭素マトリックス前駆体を備えた巻き取られた連続CNT浸出炭素繊維材料を浸出することと、続く炭素マトリックス前駆体の熱分解を含む。ある実施形態では、炭素マトリックス前駆体は、フェノール樹脂等の有機樹脂である。ある実施形態では、炭素マトリックス前駆体は、タール又はピッチである。ある実施形態では、巻き取り工程は、炭素マトリックス前駆体を用いたウェットワインディング(wet winding)を含み、そして、成形工程は、熱分解を含む。従って、本発明方法は、連続CNT浸出繊維材料のドライワインディング(dry winding)又はウェットワインディングのいずれかを用いることができる。ある実施形態では、炭素マトリックスの成形は、化学蒸着(CVD)及び/又は化学蒸着浸透(CVI)を含むことができる。
【0059】
第1の熱分解又はCVD/CVI工程によって初期のC/C複合材料を形成した後、初期のC/C複合材料を、1つ以上の高密度化(densifying)工程に晒す。高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、炭素マトリックス前駆体への浸出及び熱分解を繰り返し行うことを含む。ある実施形態では、高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、CVD及び/又はCVIを繰り返し行うことを含む。ある実施形態では、高密度化は、初期のC/C複合材料にCNT成長触媒を付着させること、及び、その触媒含有初期C/C複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含むCVD条件に晒すことを含む。そのような実施形態では、本明細書で記載したように、CNTs及び他の炭素ナノ構造化されたドーパントの形態は、緻密化中にその場で作られる。
【0060】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスにCNT浸出炭素繊維を含んだC/C複合材料の製造方法を提供する。前記方法は、混合物を提供するために炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維を分散すること;前記混合物を型入れすること;及び初期C/C複合材料を提供するため炭素マトリックスを形成すること;を含む。ある実施形態では、炭素マトリックスの形成工程は、フェノール樹脂等の有機樹脂、タール、又はピッチである炭素マトリックス前駆体を熱分解することを含む。
【0061】
連続CNT浸出炭素繊維複合材料と同様に、短CNT浸出炭素繊維複合材料もまた初期のC/C複合材料の高密度化に晒すことができる。そのような高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、炭素マトリックス前駆体への浸出と熱分解を繰り返し行うこと及び/又はCVDを繰り返し行うことを含む。また、高密度化は、初期のC/C複合材料にCNT成長触媒を付着させること、及び、その触媒含有初期C/C複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含むCVD条件に晒すことも含むことができる。
【0062】
本発明は、カーボン・ナノチューブ浸出CNT浸出炭素繊維材料を活用するC/C複合材料を提供する。炭素繊維材料へのCNT浸出は、上述したものに加えて、例えば、水分(moisture)、酸化、摩耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤として、多くの機能を果たすことできる。また、CNTベースのサイジング剤は、複合材料内の炭素繊維材料と炭素マトリックス材間の接合(interface)を強化することもできる。CNT浸出炭素繊維材料を作るために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsを提供し、これにより改質される炭素繊維材料一面に均一に有用な性質が与えられる。また、本明細書に開示されたプロセスは、巻き取り可能な寸法のCNT浸出炭素繊維材料の生成に適している。
【0063】
本明細書に開示されたプロセスを、炭素繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を塗布する前に、又はその代わりに、生成された発生期の炭素繊維材料に塗布することができる。あるいは、本明細書に開示されたプロセスは、市販の炭素繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が塗布された炭素トウを利用することができる。このような実施形態においては、以下で更に説明されるように、バリア・コーティング及び/又は遷移金属粒子は、間接的な浸出をもたらす中間層として機能するが、サイジング剤は、炭素繊維材料と合成されたCNTsとを直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤を、CNTの合成後、所望により炭素繊維材料に塗布することができる。
【0064】
本明細書に開示されたプロセスにより、トウ、テープ、織物及び他の3次元織物構造体の巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生成が可能となる。様々なマット、織物及び不織布等は、本発明のプロセスにより機能化されるが、これに加え元となるトウ、ヤーン等からも高規則構造を生み出すことも、これら母材をCNTで機能化した後で可能である。例えば、CNT浸出織物は、CNT浸出炭素繊維トウから作り出すことができる。
【0065】
ある実施形態において、本発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出した炭素繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出炭素繊維材料には、巻き取り可能な寸法の炭素繊維材料、炭素繊維材料の周囲に等角的に配置されたバリア・コーティング、及び炭素繊維材料に浸出するカーボン・ナノチューブ(CNTs)が含まれる。炭素繊維材料へのCNTsの浸出には、炭素繊維材料に対する個々のCNTsの直接結合、又は、遷移金属NP、バリア・コーティング、若しくはその両方による間接結合の結合モチーフが含まれる。
【0066】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属NPsは、CNT成長の核構造を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。一つの実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングに固定されて、炭素繊維材料の基部に留まり、炭素繊維材料の表面に浸出する。このような場合、当該技術分野でよく観察されるように、遷移金属ナノ粒子触媒により当初形成された核構造は、触媒をCNT成長の前縁(leading edge)に沿って移動させなくても、連続的な無触媒有核CNT成長には十分である。このような場合、NPsは、炭素繊維材料へのCNTの付着点として機能する。また、バリア・コーティングの存在により、更なる間接的な結合モチーフとなる。例えば、CNT形成触媒は上述したようにバリア・コーティング内に固定されるが、炭素繊維材料とは表面で接触しない。このような場合、バリア・コーティングがCNT形成触媒と炭素繊維材料間に配置されて積層構造となる。いずれにしても、形成されるCNTsは、炭素繊維材料に浸出する。ある実施形態において、バリア・コーティングの中には、CNT形成触媒を、成長するナノチューブの前縁になおも従わせるものもあろう。このような場合には、その結果として、炭素繊維材料、又は、任意的に、バリア・コーティングに対するCNTsの直接結合となる。カーボン・ナノチューブと炭素繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTは強固であり、これによりCNT浸出炭素繊維材料がカーボン・ナノチューブの性質及び/又は特徴を示すことが可能となる。
【0067】
かさねて理論に拘束されるものではないが、CNTsが炭素繊維材料上に成長するとき、反応チャンバー内に存在する高温及び/又は残留酸素及び/又は水分は、炭素繊維材料にダメージを与える。更に、炭素繊維材料それ自体は、CNT形成触媒自体との反応によりダメージを受ける。これは、炭素繊維材料が、CNT合成のために用いられる反応温度で触媒に対する炭素原料として作用することである。このような過量の炭素は、炭素原料ガスの制御導入を阻害すると共に、炭素を過度に担持させることにより触媒を被毒化する働きさえする。本発明で用いられるバリア・コーティングは、炭素繊維材料上のCNT合成を容易にするために設けられる。理論に拘束されるものではないが、コーティングは、熱分解に対する遮熱層を提供したり、炭素繊維材料を高温環境に晒すことを抑制する物理的障壁となる。選択的に又は追加的に、コーティングは、CNT形成触媒と炭素繊維材料間の接触表面積を最小化したり、CNT成長温度で炭素繊維材料をCNT形成触媒に晒すことを抑制する。
【0068】
CNT浸出炭素繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さで提供される。本明細書に記載された連続処理の場合、CNT成長チャンバーにおける炭素繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量並びに反応温度の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0069】
更に、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散して炭素繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、炭素繊維材料に均一に分布したCNT浸出炭素繊維材料を提供する上で有用である。このように凝集したCNTsは、炭素繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質は、仮に結合したとしても、かすかにしか現れない。ある実施形態において、被覆率、即ち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度は、直径約8nmの5層CNTsを想定すると、約55%もの高率となる。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させると共に、ガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上にとって有用となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上にとって有用となる。密度が低くなるのは、より長いCNTsが成長したときであるが、これは、触媒の粒子収量を低下させるより高温かつより急速な成長によるものである。
【0070】
CNT浸出炭素繊維材料を有する本発明の組成物には、例えば、カーボンフィラメント、炭素繊維ヤーン、炭素繊維トウ、カーボンテープ、炭素繊維ブレード(carbon fiber braid)、炭素織物(woven carbon fabric)、不織炭素繊維マット、炭素繊維プライ(carbon fiber ply)、及び他の3次元織物構造体が含まれる。カーボンフィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比の炭素繊維が含まれる。炭素繊維トウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0071】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約200テックスから約2000テックスまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0072】
トウには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、トウにおけるフィラメントの直径は、概して均一である。また、トウも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、200テックスから2000テックスの間となる。それらは、しばしば、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等のトウ内にある数千のフィラメントで特徴付けられる。
【0073】
カーボンテープは、織物として組まれるか、又は、不織の扁平なトウを示す材料である。カーボンテープは、様々な幅を持ち、通常リボンに類似する両面構造である。本発明のプロセスでは、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。更に、本発明のプロセスは、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0074】
炭素繊維ブレードは、繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0075】
ある実施形態において、多数の一次炭素繊維材料の構造体は、織物又はシート状構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、炭素織物、不織炭素繊維マット及び炭素繊維プライが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、フィラメント等から、その母繊維にCNTsを既に浸出させて組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0076】
炭素繊維には、繊維の生成に用いられる前駆体(そのいずれもが本発明に使用可能)、即ち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(pitch)に基づいて3種類に分類される。セルロース系材料であるレーヨン前駆体から作られる炭素繊維は、炭素含有量が比較的低い約20%であり、繊維が低強度かつ低剛性の傾向にある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量をもつ炭素繊維を提供する。PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも概して高い引張強度を有する。
【0077】
石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体もまた、炭素繊維を生成するために用いられる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率が高いが、既知のバッチ処理における不均一性という問題がある。
【0078】
炭素繊維材料への浸出のために有用なCNTsには、単層CNTs、二層CNTs、多層CNTs及びこれらの組み合わせたものが含まれる。用いられるべき的確なCNTsは、CNT浸出炭素繊維の用途に依存する。CNTsを、熱的及び/又は電気的伝導性用途或いは絶縁体用に用いることができる。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、単層ナノチューブと多層ナノチューブの組み合わせである。単層ナノチューブと多層ナノチューブの特徴的な性質には、その繊維の最終用途に関して、ナノチューブのどれか一つの種類の合成を決定付ける相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体又は金属であるが、多層ナノチューブは金属である。
【0079】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導度等の特有の性質を、CNT浸出炭素繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、母材の炭素繊維材料の電気抵抗率よりも低い。より一般的に言えば、得られたCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによる炭素繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTを想定すると、0〜55%の繊維のあらゆる繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、約15,000CNTs/μ2に相当する。更に、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形で炭素繊維材料に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、25ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの中間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロン等、長さを約1ミクロン未満にすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値等、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0080】
本発明の組成物は、約0.1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さはせん断強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNT長さは、CNTsが繊維方向に配列されている場合には、引張強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTの長さは機械的性質同様、電気的/熱的性質を向上するのに有用である。また、本発明に用いられるプロセスは、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、これは電気的及び熱的性質の向上にも有益である。このようなCNT長さの制御は、様々なラインスピード及び成長温度と相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0081】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出炭素繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、せん断強度特性を高めるためには、CNT浸出炭素繊維材料のうちの均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的又は熱的性質を高めるために、同一の巻き取り可能な材料のうちの均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0082】
炭素繊維材料にCNTを浸出させるための本発明のプロセスにより、CNTの長さを均一に、かつ、連続処理で制御することが可能となり、これによって、巻き取り可能な炭素繊維材料は、CNTsを用いて高速の官能基化が可能なる。5秒から300秒の材料滞留時間で、長さ3フィートのシステムの連続処理におけるラインスピードを、約0.5フィート/分から約36フィート/分以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下で更に説明されるように、様々なパラメータによって決まる。
【0083】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、ある実施形態では、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、更なる実施形態では、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsが製造される。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により調節可能であることを認識できるであろう。
【0084】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料には、バリア・コーティングが含まれる。バリア・コーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)、ガラスナノ粒子が含まれる。後述されるように、CNT形成触媒は、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共に炭素繊維材料に塗布される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前に炭素繊維材料に加えられる。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長のために炭素原料にCNT形成触媒を晒すのに十分な薄さである。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径未満か、それと略等しい。ある実施形態では、バリア・コーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。また、バリア・コーティングは、10nm未満であり、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm及びこれらの中間の値等が含まれる。
【0085】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、炭素繊維材料とCNTsの中間層として機能し、CNTsを炭素繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、炭素繊維材料にCNTsの性質をなお付与しつつ、炭素繊維材料がCNTsを組織化するための基盤として機能する強固な機構を更に提供する。また、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分に晒されることからくる化学的ダメージ、及び/又は、CNT成長促進のために用いられる温度で炭素繊維材料を加熱することからくるあらゆる熱的ダメージから、炭素繊維材料を直接保護するという点にある。
【0086】
本明細書に開示された浸出CNTsは、従来の炭素繊維「サイジング剤(sizing)」の代替品として効果的に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出炭素繊維材料の性質が、浸出CNTsの性質に加えて炭素繊維材料の性質を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されたCNT浸出炭素繊維材料は、それ自体が複合材料である。従って、本発明の実施形態は、炭素繊維材料に所望の性質を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、炭素繊維材料には、このような性質が欠如するか、又は不十分である。炭素繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計が可能である。サイジング剤として作用するCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収から炭素繊維材料を保護する。また、疎水性のマトリックス材は、以下で更に例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0087】
前述の浸出CNTsを有する炭素繊維材料が、有益な性質を付与されるにもかかわらず、本発明のCNT浸出炭素繊維材料は、C/C複合材料構造体の形成前に保存用の「従来の」サイジング剤を更に含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在からは繊維へ付与することができない更なる性質を提供するために、補助的に用いることができる。
【0088】
図1〜5は、本明細書に記載されたプロセスにより作られた炭素繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1及び図2は、夫々、連続処理においてAS4炭素繊維上に作られた多層カーボン・ナノチューブ及び2層カーボン・ナノチューブのTEM画像を示す。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出した後に、バリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。図5は、炭素繊維の全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【0089】
C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、耐摩耗性が要求される用途に用いることができる。そのような炭素繊維摩擦材料は、例えば、自動車のブレーキディスクに用いられる。他の耐摩耗性用途は、例えば、ゴム製O‐リングやガスケット・シールが挙げられる。
【0090】
C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、航空宇宙及び弾道学上の用途において構造要素を強化できる。構造体(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、航空機の補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出炭素繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠等にとっても、全てC/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料の使用は有益である。
【0091】
また、CNT浸出炭素繊維の電気的性質は、様々なエネルギー及び電気的用途に影響を与える。例えば、C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネット等であり、この場合、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他の用途には、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピュータ端子箱等)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0092】
ある実施形態において、本発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法の炭素繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料を形成すること、が含まれる。長さ9フィートのシステムの場合、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載されたプロセスにより達成されるラインスピードは、商業的に妥当なCNT浸出炭素繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、毎分36フィートのラインスピードでは、独立した5つのトウ(1トウ当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、CNT浸出炭素繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量で100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のトウを製造するように構成されている。また、CNTsの製造工程には、当該技術分野で知られているように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、当該技術分野で知られている標準的なプロセスにおいて、CNT形成触媒の低減工程を実施するのに1〜12時間かかる。また、CNT成長自体も時間を浪費しており、例えば、CNT成長に数10分を必要とし、本発明において実現される高速のラインスピードを不可能にしている。本明細書に記載されたプロセスは、このような速度を制限する工程を克服する。
【0093】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料の形成プロセスは、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液を繊維材料に塗布しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。即ち、前もって形成されたCNTsは炭素繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、炭素繊維材料に弱く付着するCNTsが不均一に分布する。しかし、本発明のプロセスは、必要に応じて、成長密度を低減することにより、炭素繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初に炭素繊維材料に浸出する。このような実施形態において、繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、炭素繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、炭素繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0094】
図6は、本発明の具体例に従ってCNT浸出炭素繊維材料を生成するプロセス700のフローチャートを示す。
【0095】
プロセス700には、少なくとも以下の工程が含まれる。
工程701:炭素繊維材料の官能基化。
工程702:官能基化された炭素繊維材料へのバリア・コーティング及びCNT形成触媒の塗布。
工程704:カーボン・ナノチューブの合成に十分な温度に達するまでの炭素繊維材料の加熱。
工程706:触媒を含んだ炭素繊維におけるCVDを介したCNT成長の促進。
【0096】
工程701において、炭素繊維材料は官能基化され、繊維の表面湿潤を促進すると共に、バリア・コーティングの付着を向上させる。
【0097】
炭素繊維材料にカーボン・ナノチューブを浸出させるために、カーボン・ナノチューブは、バリア・コーティングで等角的にコーティングされた炭素繊維材料に合成される。一つの実施形態において、これは、工程702のように、まず炭素繊維材料をバリア・コーティングで等角的にコーティングし、その後、バリア・コーティング上にナノチューブ形成触媒を配置することにより達成される。ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒配置前に、部分的に硬化していてもよい。これにより、CNT形成触媒と炭素繊維材料との表面接触を許容する等、触媒を受け入れてバリア・コーティング内への組み込みが可能となる表面がもたらされる。このような実施形態では、バリア・コーティングは、触媒を組み込んだ後、十分に硬化する。ある実施形態において、バリア・コーティングは、CNT形成触媒の配置と同時に炭素繊維材料全体にコーティングされる。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置された時点で、バリア・コーティングは十分に硬化する。
【0098】
ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒の配置前に十分に硬化される。このような実施形態では、十分に硬化したバリア・コーティングを施した繊維材料は、プラズマで処理され、触媒を受容するために表面を調整する。例えば、硬化したバリア・コーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置が可能な粗面化した(roughened)表面をもたらす。バリア・コーティングの表面を「粗面化(roughing)」するプラズマ処理は、このようにして触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートルのスケール(scale)である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又は窪みが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素等、種々の異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。ある実施形態では、プラズマによる粗面化は、炭素繊維材料自体に直接行われる。これにより、炭素繊維に対するバリア・コーティングの付着が容易になる。
【0099】
更に後述されるように、また図6を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、金属粒子のサイズに関係する。ある実施形態では、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を含有する工業用の分散液を利用して希釈せずに使用され、他の実施形態では、触媒を含有する工業用の分散液は希釈される。このように溶液を希釈するかどうかは、前述のように、成長させようとするCNTの所望の密度及び長さによる。
【0100】
図6に例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。従って、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成を促進する前記範囲における温度まで炭素繊維材料を加熱することが含まれる。
【0101】
次に、工程706において、触媒含有炭素繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により進められる。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して用意される。
【0102】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界の存在を任意に用いて、ナノチューブの成長に影響を与えることができる。即ち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配列の(即ち、炭素繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又はフォレストに似た高密度配列のCNTsになる。
【0103】
炭素繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。方法の選択は、バリア・コーティングに適用される方法と連係してなされる。このように、ある実施形態では、触媒を溶媒に溶かして溶液を形成した後、触媒は、その溶液を用いて、スプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料に塗布される。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一にコーティングされた炭素繊維材料を提供する。浸漬コーティングが使用される場合、例えば、炭素繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、炭素繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いて、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層である、約5%未満から約80%の表面被覆率の触媒表面密度を備えた炭素繊維材料を処理する。ある実施形態では、炭素繊維材料上におけるCNT形成触媒のコーティング処理は、単分子層だけを生成すべきである。例えば、CNT形成触媒の積層上におけるCNT成長は、CNTの炭素繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に知られている他の処理(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加すること等)を用いて、遷移金属触媒を炭素繊維材料上に配置する。
【0104】
本発明のプロセスは連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能な炭素繊維材料は、一連の槽で浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。発生期の炭素繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布して硬化、又は部分的に硬化させた後の第1段階である。バリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用は、新たに形成された炭素繊維材料のために、サイジング剤の適用に代えて行われるものである。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングの後、他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された炭素繊維に塗布される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時適用であっても、CNT形成触媒を炭素繊維材料のバリア・コーティングと表面接触させて供給し、CNTの浸出を確実にすることができる。
【0105】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であってよいが、これは、前述したように、d‐ブロックの遷移金属であればいかなるものでもよい。加えて、ナノ粒子には、d‐ブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。ある実施形態において、バリア・コーティングの配置と同時に、CNT形成触媒を炭素繊維材料に直接に塗布あるいは浸出することにより、このようなCNT形成触媒は炭素繊維上に配置される。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)等の様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0106】
CNT形成触媒の全体にわたる均一な分散を可能とするいかなる共通溶媒にも、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布するために用いられる触媒溶液が含まれる。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために制御された極性を有する他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。このような濃度は、バリア・コーティング及びCNT形成触媒が同時に適用されるときにも用いられる。
【0107】
ある実施形態において、炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置後、約500℃〜1000℃までの温度で加熱されて、カーボン・ナノチューブを合成する。この温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又は略同時に行われる。
【0108】
ある実施形態において、本発明により提供されるプロセスには、炭素繊維材料からサイジング剤の除去、炭素繊維材料全体の等角的バリア・コーティングの塗布、繊維材料へのCNT形成触媒の塗布、炭素繊維材料の少なくとも500℃までの加熱、そして、炭素繊維材料上へのカーボン・ナノチューブの合成が含まれる。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、炭素繊維材料からのサイジング剤の除去、炭素繊維材料へのバリア・コーティングの塗布、炭素繊維へのCNT形成触媒の塗布、CNT合成温度までの前記繊維の加熱、及び触媒含有炭素繊維材料におけるCVD促進のCNT成長が含まれる。従って、工業用の炭素繊維材料が使用される場合、CNT浸出炭素繊維を構成するための処理には、炭素繊維材料上にバリア・コーティング及び触媒を配置する前に、炭素繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。
【0109】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものを含め、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本発明の繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)等の、当該技術分野において知られている技術により可能となる。CVDの間、特に、CNT形成触媒が配置され、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成前に除去可能である。ある実施形態において、アセチレンガスは、イオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを形成する。プラズマは触媒を有する炭素繊維材料に導入される。このように、ある実施形態では、炭素繊維材料におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)炭素繊維材料に配置された触媒に炭素プラズマを導入すること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は約550℃〜約800℃に加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、処理ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流し込まれる。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0110】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長したCNTsは電界の方向に従う。従って、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維の周囲に放射状に成長する。ある実施形態では、繊維の周囲に放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する炭素繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(pile)等)に対して、触媒は片面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも片面又は両面で成長する。
【0111】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能な炭素繊維材料を官能基化する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0112】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理で構成される。オール・プラズマ処理には、前述のように、プラズマによる炭素繊維材料の粗面化が含まれ、これにより繊維表面の湿潤特性を向上させ、より等角的なバリア・コーティングをもたらすと共に、アルゴン又はヘリウムをベースとしたプラズマ中の酸素、窒素、水素等の特定の反応ガス種を用いて官能基化された炭素繊維材料の使用により、機械的連結あるいは化学的接着を介したコーティングの接着性を向上させる。
【0113】
バリア・コーティングの施された炭素繊維材料は、更なる多数のプラズマ介在工程を経て、最終的なCNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、オール・プラズマ処理には、バリア・コーティングが硬化した後の第2の表面改質が含まれる。これは、炭素繊維材料のバリア・コーティング表面を「粗面化」して、触媒の配置を容易にするプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素等の種々の異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0114】
表面改質後、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料は触媒の塗布へと進む。これは、繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境の室温で塗布可能である。ある実施形態では、炭素繊維材料が触媒の塗布前に冷却される。
【0115】
オール・プラズマ処理を継続すると、カーボン・ナノチューブの合成がCNT成長反応器で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理のために、炭素繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、炭素繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルにより炭素繊維材料に導入される。繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内等、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、炭素繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、炭素繊維材料を高温に維持する。
【0116】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブを炭素繊維材料で直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を生成するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理により、大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理と整合する別の利点は、CNTの成長が秒単位で発生するというものであり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0117】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0118】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器は横断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英等)に容易に対応する)、並びに製造の容易性等の多くの理由がある。本発明は、従来の円筒形状から脱却して、矩形横断面を有するCNT合成反応器を提供する。脱却の理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数の炭素繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状等相対的に平面的であるので、円形横断面では反応器の容積を効率的に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)乃至c)等、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前記a)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kの炭素繊維トウは、矩形横断面を有する合成反応器の全容積に対して2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の円筒状の成長反応器(即ち、矩形横断面の反応器と同様に平坦化された炭素繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、炭素繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVD等のガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。矩形反応器の構成には、矩形チャンバーの高さが低いことを利用することで、反応器の容積が低減され、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできるという1つの利点がある。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約3000倍にしか過ぎない。また、ある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約4000倍にしか過ぎない。また、更なる実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約10,000倍未満である。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される横断面を有し、円形横断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられる等、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、炭素繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(即ち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面状基材が用いられた場合、反応器の高さを、基材の上方向のスケールサイズとして一定に維持できる。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端で導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面、又は、反応器の天板及び底板の、いずれかを介して、対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0119】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(即ち、反応器の外部)と接触すると、炭素繊維材料の分解が増加すると断定した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となるものを提供する。当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0120】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(即ち、煤及び副生成物の形成)し易いため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素の析出が少なく、また、石英が洗浄しやすく、試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上における煤及び炭素析出物の増加は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させるということに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。即ち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動していると仮定した場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、反応器が、金属製の反応器ウォールに煤が析出して「汚れて(dirty)」いる場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体を覆って容易に析出する。利用可能な炭素には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0121】
CNT合成を、前述のように「汚れて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部位(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、煤が閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長処理に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該部位を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgO等の煤抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部位は、煤抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの適切な接着性を確実にすると同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおける煤の著しい堆積を抑制するので、例えば、INVAR等の金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0122】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程は、個別の工程として実施されると、連続処理に用いるものとして十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において知られている標準的なプロセスにおいて、低減工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部に炭素原料ガスが導入されることによるものである。低減処理は、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用により)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0123】
ある実施形態において、緩くまとめられた(loosely affiliated)炭素繊維材料(例えば、炭素トウ)が使用される場合、連続処理には、トウのストランド(strand)及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。トウは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。サイジングされた比較的堅い炭素繊維を使用する場合、トウを「軟化」して開繊し易くするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、トウが、次の処理工程でより効率的に反応することを可能にする。このような開繊により、3kトウの直径を約4インチ〜約6インチに近づけることができる。開繊されたトウは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。バリア・コーティングが塗布され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒に浸漬槽を通過する。その結果、繊維表面で放射状に分布した触媒粒子を有する炭素トウ繊維となる。触媒を含んだトウ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバー等の適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。トウ繊維は、こうして放射状に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0124】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、更に別の処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsを官能基化するために用いられるプラズマ処理である。CNTsの更なる官能基化は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本発明が、官能基化されたCNTsを有するCNT浸出炭素繊維材料を提供するものがある。
【0125】
巻き取り可能な炭素繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を塗布するために、CNT浸出炭素繊維材料がサイジング剤の浸漬槽を更に通過してもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出炭素繊維材料は、樹脂槽を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られた炭素繊維材料/樹脂の組み合わせは、CNTsを炭素繊維材料上に固着し、これにより、取り扱い及び複合材料の製造をより容易くする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(filament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、炭素トウ等の炭素繊維上に形成されるCNTsは、樹脂槽を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出炭素トウを生成する。樹脂含浸後、炭素トウは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に位置付けられる。その後、トウは、既知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0126】
前述のワインディング処理により、雄型を介して特徴的に製造されるように、パイプ、チューブ、又は他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示されるプロセスにおいて、その構造体は、CNT浸出トウを含む複合材料から作られる。このため、このような構造体にとって、CNT浸出トウによりもたらされる強度の向上等は有益となるであろう。
【0127】
ある実施形態において、巻き取り可能な炭素繊維材料上においてCNTsを浸出させる連続処理により、毎分約0.5フィート〜毎分約36フィートのラインスピードが可能となる。CNT成長チャンバーが、長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動するこの実施形態において、例えば、長さが約1ミクロン〜約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィート〜毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われる。また、例えば、長さが約10ミクロン〜約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィート〜毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われる。長さが約100ミクロン〜約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィート〜毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さは、ラインスピード及び成長温度のみに関係しているだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスのいずれの流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が1%未満からなる流量により、長さが1ミクロン〜約5ミクロンのCNTsが得られる。高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分約36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が約1%を上回る流量の場合には、5ミクロン〜約10ミクロンの長さを有するCNTsが得られる。
【0128】
ある実施形態においては、複数の炭素材料は同時に処理過程を通過する。例えば、複数のテープ、トウ、フィラメント、ストランド等が並行して処理過程を通過する。こうして、炭素繊維材料の既製の繊維スプールは幾らでも並行に処理過程を通過して、処理が終わると再度巻き取られる。並行して通過して巻き取られる炭素繊維材料の数には、1、2、3、4、5、6、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に収まるいかなる数も含まれる。更に、複数の炭素繊維材料が処理過程を通過する場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ストランド、トウ等は、当該炭素繊維材料をより高い規則構造の炭素繊維材料(例えば、織物等)に結合する更なる処理を経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0129】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、炭素繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、炭素繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0130】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元の炭素繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、巻き取り可能な材料の2つの異なる長さに沿って異なる性質が求められれば、例えば、CNTの長さ等、CNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有用であるのに対し、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0131】
炭素繊維材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される有益な性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用された場合、それを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類の変化を反映する。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層等)を用いることで、炭素繊維材料の性質を調整できることを認識するであろう。
【0132】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、この第1の量により、カーボンチューブ浸出炭素繊維材料が炭素繊維材料自体の有する第1群の性質とは異なる第2群の性質を示すことが可能となる。即ち、炭素繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度等)を変化させることができる量の選択である。第1群の性質及び第2群の性質には、炭素繊維材料の向上した性質及び既存の性質を表す同一の性質のうち少なくとも1つが含まれる。ある実施形態においては、CNTの浸出により、炭素繊維材料自体の有する第1群の性質の中には含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料に与えられる。
【0133】
ある実施形態では、第1の量のカーボン・ナノチューブは、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、圧縮弾性率、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択される少なくとも1つの値が、炭素繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。
【0134】
CNT浸出炭素繊維材料にとって、CNTsの存在は前述の性質の点で有益であるだけでなく、本処理でより軽量な材料も提供できる。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。
【0135】
当然のことながら本発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本発明の定義内に含まれる。従って、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
実施例1
【0136】
本実施例は、熱伝導度及び電気伝導度の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。
【0137】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量を最大にすることが目的である。炭素繊維基材として、テックス値800である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0138】
図7は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維材料を生成するためのシステム800を表している。システム800には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナー(tensioner)ステーション805、サイジング剤除去及び繊維開繊器(fiber spreader)ステーション810、プラズマ処理ステーション815、バリア・コーティング塗布ステーション820、空気乾燥ステーション825、触媒塗布ステーション830、溶媒フラッシュオフ(flash-off)ステーション835、CNT浸出ステーション840、繊維束化ステーション845、及び炭素繊維巻き取りボビン850が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0139】
繰り出し及びテンショナーステーション805には、繰り出しボビン806及びテンショナー807が含まれる。繰り出しボビンにより、炭素繊維材料860は処理にまわされるが、繊維には、テンショナー807により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0140】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維開繊器870を含むサイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810に送られる。このステーションで、繊維860上のあらゆるサイジング剤が除去される。通常、繊維からサイジング剤を燃焼させて除去される。この目的のために、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉、及び他の非接触加熱処理等、様々な加熱手段のいかなるものも用いられる。また、サイジング剤の除去は、化学的に達成することもできる。繊維開繊器は繊維を個々のフィラメントに開繊する。開繊繊維には、例えば、水平な均一直径のバー(flat, uniform-bar)の上下で、或いは、可変の直径のバーの上下で、或いは、放射状に広がる溝及び混練(kneading)ローラーを備えたバーの上、振動を生じるバーの上等で、繊維を引き出すといった、様々な技術及び装置が用いられる。開繊は、より多くの繊維表面積を晒すことにより、例えば、プラズマの適用、バリア・コーティングの塗布、触媒の塗布といった下流の工程の効果を高める。
【0141】
多数のサイジング剤除去加熱器865が、段階的、同時的なサイジング除去及び開繊を可能にする繊維開繊器870全体に配置される。繰り出し及びテンショナーステーション805、並びに、サイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810は、繊維産業で一般的に使用されており、当業者であれば、それらの設計及び使用に熟知しているであろう。
【0142】
サイジング剤を燃焼させるために必要な温度及び時間は、(1)サイジング剤、及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性に応じて変化する。炭素繊維材料における従来のサイジング剤は、約650℃で除去される。この温度で、サイジング剤の完全燃焼を確実にするため15分間を要する。温度をこの燃焼温度以上にするとで、燃焼時間を短縮することができる。特定の市販製品のサイジング剤を燃焼させるための最低温度は、熱重量分析を用いて決定される。
【0143】
サイジング剤除去に必要なタイミングによっては、サイジング剤除去加熱器を、必ずしも、CNT浸出に固有の処理に含めなくてもよく、むしろ、除去は独立して(例えば、並行して)行われてよい。この方法において、サイジング剤のない炭素繊維材料の在庫が、サイジング剤除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために集積されて巻き取られている。サイジング剤のない繊維は、その後、繰り出し及びテンショナーステーション805で巻き取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含むものよりも高速に運転される。
【0144】
サイジングされていない繊維880は、プラズマ処理ステーション815へ送られる。本実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より1mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料はヘリウム100%で構成される。
【0145】
プラズマ強化繊維885は、バリア・コーティング塗布ステーション820へ送られる。例示的な本実施例に関して、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上のバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で塗布される。
【0146】
バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、ナノスケールのバリア・コーティングの部分的硬化のために、空気乾燥ステーション825に送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0147】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、触媒塗布ステーション830に送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15体積%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0148】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒フラッシュオフステーション835へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0149】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維895は、最後にCNT浸出ステーション840に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、相対的に高い成長温度であり、考え得る最速の成長速度がもたらされる。
【0150】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維897は、繊維束化ステーション(fiber bundler station)845で再び束化される。この工程は、ステーション810で行われた開繊工程を実質的に逆転にすることで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0151】
束化されたCNT浸出繊維897は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン850の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維897は、長さ約50μmのCNTsを担持しており、その後、熱伝導度及び電気伝導度を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0152】
前述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気或いは真空中で行われるものがあることに注目されたい。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤を燃焼している場合、繊維は環境隔離されて、ガス放出を阻止すると共に、水分からダメージを受けることを抑制する。便宜上、システム800において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例2
【0153】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(例えば、せん断強度等)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。この場合、繊維上により短いCNTsを担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0154】
図8は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同一のものを多く含んでいる。システム900には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902、繊維開繊器ステーション908、プラズマ処理ステーション910、触媒塗布ステーション912、溶媒フラッシュオフステーション914、第2の触媒塗布ステーション916、第2の溶媒フラッシュオフステーション918、バリア・コーティング塗布ステーション920、空気乾燥ステーション922、第2のバリア・コーティング塗布ステーション924、第2の空気乾燥ステーション926、CNT浸出ステーション928、繊維束化ステーション930、及び、炭素繊維材料巻き取りボビン932が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0155】
炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902には、繰り出しボビン904とテンショナー906が含まれる。繰り出しボビンにより、炭素繊維材料901は処理にまわされるが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0156】
繊維材料901は、繊維開繊器ステーション908に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション908の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0157】
繊維材料901は、プラズマ処理ステーション910に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0158】
プラズマ強化繊維911は、触媒塗布ステーション912へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0159】
触媒含有炭素繊維材料913は、溶媒フラッシュオフステーション914へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0160】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維913は、触媒塗布ステーション912と同一の触媒塗布ステーション916に送られる。溶液は、体積で800倍の希釈率により「EEH−1」をヘキサンで希釈したものである。本実施例に関して、多数の触媒塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマ強化繊維911における触媒の被覆を最適化する。
【0161】
触媒含有炭素繊維材料917は、溶媒フラッシュオフステーション914と同一の溶媒フラッシュオフステーション918へ送られる。
【0162】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有炭素繊維材料917はバリア・コーティング塗布ステーション920に送られる。本実施例において、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で塗布される。
【0163】
バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0164】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティング塗布ステーション920と同一のバリア・コーティング塗布ステーション924に送られる。溶液は、体積で120倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」をイソプロピルアルコールで希釈したものである。本実施例に関して、多数のバリア・コーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、触媒含有繊維917におけるバリア・コーティングの被覆率を最適化する。
【0165】
(0177)
バリア・コーティングを施した炭素繊維925は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922と同一の空気乾燥ステーション926へ送られる。
【0166】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維925は、最後にCNT浸出ステーション928に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の97.75%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.25%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、650℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、650℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0167】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維929は、繊維束化ステーション930で再び束化される。この工程は、ステーション908で行われた開繊工程を実質的に逆転にすることで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0168】
束化されたCNT浸出繊維931は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン932の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維929は、長さ約5μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0169】
本実施例において、炭素繊維材料は、バリア・コーティング塗布ステーション920及び924の前に、触媒塗布ステーション912及び916を通過する。このコーティングの順序は、実施例1に図示される順序とは逆になっており、炭素繊維基材に対するCNTsの固定を向上させることができる。CNT成長処理中、バリア・コーティング層はCNTsにより基材から持ち上げられ、これにより、(触媒NPの接合を介して)炭素繊維材料とのより直接的な接触を可能にする。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の向上を目的としているので、順序が逆になるコーティング構成は好ましい。
【0170】
上述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム900において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例3
【0171】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(層間せん断等)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにCNTsを浸出させるかを示す。
【0172】
本実施例では、繊維上により短いCNTsの担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0173】
図9は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム1000を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同一のものを多く含んでいる。システム1000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション1002、繊維開繊器ステーション1008、プラズマ処理ステーション1010、コーティング塗布ステーション1012、空気乾燥ステーション1014、第2のコーティング塗布ステーション1016、第2の空気乾燥ステーション1018、CNT浸出ステーション1020、繊維束化ステーション1022、及び炭素繊維材料巻き取りボビン1024が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0174】
繰り出し及びテンショナーステーション1002には、繰り出しボビン1004とテンショナー1006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料1001を処理に送るが、繊維には、テンショナー1006により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0175】
繊維材料1001は、繊維開繊器ステーション1008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション1008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0176】
繊維材料1001は、プラズマ処理ステーション1010に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、延いては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0177】
プラズマ強化繊維1011は、コーティング塗布ステーション1012へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響をなくす点で有益である。理論に拘束されるものではないが、炭素繊維の分解は、(CNTsの成長には不可欠な温度に等しい)高温における触媒NPsの焼結により増大する。このような影響は、各触媒NP自体をバリア・コーティングで覆うことにより制御することができる。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の増大が目的とされているので、炭素繊維ベースの材料を完全な状態で維持することは好ましく、このため、「ハイブリッド」コーティングを採用する。
【0178】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料1013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0179】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1013は、コーティング塗布ステーション1012と同一のコーティング塗布ステーション1016へ送られる。同一の「ハイブリッド」溶液が用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維1011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0180】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014と同一の空気乾燥ステーション1018に送られる。
【0181】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、最後にCNT浸出ステーション1020に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.7%は不活性ガス(窒素)であり、残りの1.3%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、675℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、675℃は、より短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0182】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維1021は、繊維束化ステーション1022で再び束化される。この工程は、ステーション1008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0183】
束化されたCNT浸出繊維1021は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン1024の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維1021は、長さ約2μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0184】
上述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例4
【0185】
本実施例は、電極用途のための特定の表面領域改善を実証するために、連続処理において、炭素繊維材料にどのようにCNTsを浸出させ、その後、C‐Cペーパーに組み込むかを示した。
【0186】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量をより高くすることを目的とした。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値446であるHexTow(登録商標)IM7 12k炭素繊維トウ(Hexcel Corporation, Stamford, Ct)が導入された。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約5.2μmである。
【0187】
図13は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム3000を表している。システム3000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション3002、繊維開繊器ステーション3008、プラズマ処理ステーション3010、コーティング塗布ステーション3012、空気乾燥ステーション3014、第2のコーティング塗布ステーション3016、第2の空気乾燥ステーション3018、CNT浸出ステーション3020、繊維束化ステーション3022、炭素繊維材料巻き取りボビン3024、及び繊維チョッパー3035が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0188】
繰り出し及びテンショナーステーション3002には、繰り出しボビン3004とテンショナー3006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料3001を処理に送るが、繊維には、テンショナー3006により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は、320グラムの張力で毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0189】
繊維材料3001は、繊維開繊器ステーション3008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション3008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、4インチの距離へ繊維を個々の要素に開繊する。
【0190】
繊維材料3001は、プラズマ処理ステーション3010に送られる。この連続処理運転では、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。このプラズマガス流は、20slpmの割合で流れるヘリウム100%のガス流である。
【0191】
プラズマ強化繊維3011は、コーティング塗布ステーション3012へ送られる。この連続処理運転では、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響をなくす点で有益である。
【0192】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料3013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション3014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、300℃である。
【0193】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3013は、コーティング塗布ステーション3012と同一のコーティング塗布ステーション3016へ送られる。「ハイブリッド」溶液には同一のものが用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維3011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0194】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション3014と同一の空気乾燥ステーション3018に送られる。
【0195】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3017は、その後CNT浸出ステーション3020に送られる。この連続処理運転では、24インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、長いCNTの成長制御を可能にするのに使用する相対的に高い成長温度である。
【0196】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維3021は、繊維束化ステーション3022で再び束化される。この工程は、ステーション3008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0197】
束化されたCNT浸出繊維3021は、その後、繊維チョッパー3035への移送を容易にするために、巻き取り繊維ボビン3024の周囲に巻き取られる。
【0198】
その後、巻き取られたCNT浸出繊維3030は、繊維チョッパー3035を通過する。短CNT浸出繊維3040を、2つの異なる長さ(3mmと6mm)で製造した。
【0199】
2つの繊維長さの短CNT浸出繊維3040を、65重量%の樹脂と35重量%の繊維の比率でフェノール樹脂と混合した。得られた材料を、圧力200psi、温度180℃で、5時間硬化して四角いパネルの形にした。得られた硬化され形作られたフェノールパネルを、長さ6mmの短CNT浸出繊維3040について図11に示す。
【0200】
その後、硬化され形作られたフェノールパネル3045を、不活性(窒素)雰囲気下でオーブン内に載置し、炭化処理或いは熱分解処理を開始するために950℃の温度で3時間晒した。単一の熱分解工程だけが、全比表面積を向上する空隙を作るためにこの処理で達成される。
【0201】
C‐Cペーパー3050を、3mmと6mmの短CNT浸出繊維3040を用いて作った。3mmの短繊維を含んだCNTsを備えるC‐Cマトリックスの一例を、図12に示す。3mmと6mmのC‐Cペーパーと関連する比表面積は、それぞれ257m2/gと284m2/gであった。
【0202】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【0203】
本発明は、開示された実施形態を参照して説明されたが、当業者であれば、これらが、本発明の例示にすぎないことを容易に認識するであろう。当然ではあるが、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には複合材料に関し、より具体的には、炭素‐炭素複合材料に関する。
【0002】
(関連出願の参照)
本出願は、2009年11月23日出願の米国仮出願第61/263,805号の優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
(連邦政府の資金提供による研究開発の記載)
適用なし。
【背景技術】
【0004】
炭素繊維強化グラファイトマトリックスをベースとする炭素‐炭素(C/C)複合材料は、種々の用途で用いられている。1つの例示的用途は、航空機産業や自動車産業で用いられるハイエンド・ディスクブレーキである。これらのブレーキは、摩擦を与えてディスクと取り付けられた車輪を減速或いは停止させる。そのブレーキシステムにおける接触要素の表面温度は、ブレーキ性能と寿命に影響を与える可能性がある。より一般的には、C/C複合材料は、高温で構造的用途に用いられるか、或いは、耐熱衝撃性及び/又は低熱膨張係数が有用となる所に用いられる。C/C複合材料の他の用途は、ホットプレス金型、発熱体、及びロケット・ノズル等のターボエンジン部品における耐熱材料としての使用が挙げられる。C/C複合材料は、類似する用途で用いられるセラミックスよりは脆くないが、耐衝撃性に欠ける。
【0005】
耐衝撃性を改善すると共に、トライボロジーシステムにおける摩耗を改善するために、熱放散能力の高められたC/C複合材料を提供することは有益である。本発明は、これらのニーズを満たし、更に、関連する利点をも提供する。
【発明の概要】
【0006】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素/炭素(C/C)複合材料に関する。
【0007】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含むC/C複合材料に関する。そのようなCNT浸出炭素繊維材料が織物である場合、CNTsを、不織状態で元の炭素繊維材料に浸出する。
【0008】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、CNT浸出炭素繊維トウを提供するために開繊炭素繊維トウにCNTsを成長させ、前記CNT浸出炭素繊維トウを成形し、そして成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周りに炭素マトリックスを形成するプロセスによって製造されたC/C複合材料に関する。
【0009】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含み、前記CNT浸出炭素繊維材料がバリア・コーティングを含んだC/C複合材料に関する。
【0010】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素/炭素(C/C)複合材料を含む製品に関する。前記複合材料は、炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む。
【0011】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法に関する。前記方法は、連続CNT浸出炭素繊維を型板構造体の周囲に巻き取ることと、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形することと、を含む。
【0012】
ある態様において、本明細書に開示された実施形態は、炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法に関する。前記方法は、混合物を形成するために炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維材料を分散することと、型内に前記混合物を載置することと、初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長する2層CNT(DWNT)のTEM画像。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出するバリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図4】炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像。
【図5】繊維全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像。
【図6】本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の生成処理を示すフローチャート。
【図7】連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して熱伝導度及び電気伝導度を向上させる方法を示すフローチャート。
【図8】「逆(reverse)」バリア・コーティング処理を用いた連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度等の界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図9】「ハイブリッド(hybrid)」バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出して機械的性質、特にせん断強度や層間破壊じん性等の界面特性を向上させる方法を示すフローチャート。
【図10】層間破壊じん性について、IM7炭素繊維に浸出したCNTsの効果を示す説明図。基準材料は、サイジングされていない(unsized)IM7炭素繊維である一方、CNT浸出材料は、長さ15ミクロンのCNTsを備えたサイジングされていない炭素繊維である。
【図11】炭化前に形作られ硬化されたフェノール樹脂における6mmの短CNT浸出炭素繊維のSEM画像。
【図12】3mmの短繊維を有するC‐Cペーパー(1工程熱分解)状のC/C複合材料のSEM画像。
【図13】ハイブリッド・バリア・コーティングを用いた別の連続処理において炭素繊維材料をCNTsで浸出する方法を示すフローチャート。その後、CNT浸出炭素繊維は、刻まれ、向上した比表面積を要求する電極等の用途のためのC‐Cペーパー・マトリックス内に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
炭素‐炭素(C/C)複合材料の用途が、拡大し続けるとき、C/C複合材料の性質改善の要求は、グラファイト炭素マトリックスに与えられる炭素繊維特性によって制限される。本発明は、炭素マトリックスと少なくとも前記マトリックスの一部を介して分散されたカーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素‐炭素複合材料を提供する。そのようなC/C複合材料は、改善された電気的、構造的、熱的、トライボロジー的、或いはEMI的性質を与えることができる。より具体的には、C/C複合材料における炭素繊維マトリックス上に浸出されたCNTは、耐熱衝撃性を改善し、熱膨張係数及び摩擦係数を下げ、弾性係数を増大し、熱伝導度及び電気伝導度を増大し、強度を高め、耐熱性及び耐摩耗性を改善できる。また、CNT浸出炭素繊維を組み込んだC/C複合材料は、これまで従来の炭素繊維強化材料で実現されなかったEMI遮蔽等の新たな性質も提供できる。
【0015】
当技術分野における複合材料は、通常、40%のマトリックスに対して60%の繊維を用いるが、浸出したCNTsの導入により、この比率を変化させることが可能となる。例えば、最大約25体積%のCNTsの添加により、マトリックスの範囲が約25体積%〜約85体積%へと変化するのに従って、繊維部分は、約10体積%〜約75体積%の範囲内で変化することが可能となる。様々な比率により、複合材料全体の性質を変化させることができ、これにより、1以上の所望の特性を対象としての調整が可能となる。CNTsの性質は、CNTsによって強化される繊維に与えられる。これらの強化繊維がC/C複合材料に用いられていると、繊維の割合に従って、変化の度合も増すが、C/C複合材料の性質は、それでも当該技術分野で知られている複合材料と比較して、依然として著しく変化させることができる。
【0016】
本発明の炭素‐炭素複合材料は、改善された熱的、電気的、構造的、トライボロジー的、又は熱的に強い用途に用いることができる他の性質のために選択されたCNTsを有するCNT浸出炭素繊維を使用して製造される。CNTsは、現在知られている炭素の最も強い形態であり、また、高い表面積を与える高いアスペクト比も有する。これら2つの因子は、本発明のC/C複合材料のCNTsに関して2元的役割、即ち、1)熱の吸収と放射及び2)耐衝撃性を与える。電気伝導度が向上されるので、C/C複合材料の役割は、電気伝導度の要求が厳しいために以前は達成不可能であった分野にまで広げることができる。CNTsによって与えられるEMI遮蔽特性は、ステルス用途やEMI遮蔽が重要な他の用途に使用可能なC/C複合材料を提供する。
【0017】
異なる繊維タイプの付加によってC/C複合材料の性質を変える種々の方法がある。しかしながら、CNTsの特性は、当分野で用いられたあらゆる添加物の強度値を上回っており、且つ、CNTsは、EMI遮蔽に対して有効であると同様に熱伝導性及び電気伝導性にする特性を有する。異なる長さのCNTsを用いることは、微視的レベル(人間が対象物と互いに作用するレベル)において異なる性質をもたらすので、C/C複合材料のカスタマイズ可能性は、炭素繊維の多様性の増大によって高まるであろう。
【0018】
既製の炭素ベース構造体にCNTsを組み込むC/C複合材料システムは、記載されているが、CNT成長は、略不均一であることが証明されている。従って、CNT成長は、CNTsのない基材のかなりの部分で塊となって現れる。また、既製の構造体も試薬の接近が妨げられる繊維と繊維の結合点においては、CNTの存在に減少が生じ得る。更に、そのような既製システムの例の中には、実質的に全てのCNT構造体と比較して構造的強化を低減する実質的に多数のナノ繊維を示すものもある。場合によっては、CNT成長にはむらがあり、そのため触媒湿潤の均一性が不十分なこともあり得る。炭素ベース構造体におけるCNTs成長の質が、一部において、ひとつには合成低下をもたらす触媒被毒によって劣悪となることもある。他の問題は、炭素ベース構造体とCNT成長触媒との間の相互作用やCNT成長温度での触媒の凝集によって生じることである。特に、凝集は、CNT特性の厳格な制御を難しくする。
【0019】
図4及び図5に示された走査型電子顕微鏡画像によって例示されたように、本発明の複合材料を構成するために用いられる方法は、高密度及び高均一性のCNT成長をもたらす炭素繊維材料上のCNT浸出を含む。そのような成長の達成は、その全体が参照により本明細書に組み込まれた米国特許出願第2010‐0178825号に記載されたように、バリア・コーティングの使用を含むことができる。もう1つの方法として、又は、バリア・コーティングの使用に加えて、炭素繊維材料における類似した品質のCNT成長は、アルミニウム塩の存在下で塩形態の遷移金属CNT成長触媒を用いるCNT成長触媒システムの使用によって達成される。理論に拘束されるものではないが、アルミニウム塩は、米国特許出願第2010‐0178825号に記載されたと同様の保護的なバリア・コーティング効果を提供する。両保護システムは、遷移金属CNT成長触媒とそこに配置された炭素ベース基材の表面間の有害な相互作用を改善し、これによって、繊維ベース構造体へのダメージを軽減し、CNT触媒の被毒の機会を低減し、凝集を低減し、そして、最終的に劇的に改善されCNT成長を提供する。
【0020】
本明細書に記載されたC/C複合材料の製造方法により、織物(woven)や他の布様炭素基材上におけるCNT成長が可能となるが、CNTsを連続炭素トウ(carbon tow)に浸出する積み上げ法でそのようなCNT浸出基材を作ることも可能である。下記の連続的なCNT浸出方法は、非常に大規模な、例えば50ポンド巻きの炭素繊維トウを用いて実行される。好都合に、その処理は、個々の繊維についてCNT被覆をより効果的にする開繊器にトウの個々のフィラメントを晒す。その後、CNT浸出トウは、織られ、多様な配列の可能性があるCNT浸出構造体やその後のC/C複合材料を提供するために、刻まれ、固められ、マンドレル等の型板に巻き取られる。織物構造に関して、特に、繊維と繊維の結合点は、既製の2次元及び3次元の構造体にCNTsを成長させようとするシステムと比較してCNT担持量が少ないということはない。
【0021】
本明細書では、用語「炭素/炭素(C/C)複合材料」とは、ホウ素又はリン等の非炭素成分をドープすることを排除しないが、主なマトリックス相要素として炭素を有する複合材料構造をいう。C/C複合材料の強化相は、一般的に、カーボン・ナノチューブが浸出された炭素繊維である。ある実施形態では、他の強化繊維類を、炭素に付加して、又は炭素の代わりに用いることができる。例示的な代替強化繊維類には、例えば、炭化ケイ素繊維等の炭化物繊維を含むことができる。代替強化繊維類は、選択的にそこに浸出されたCNTを含んでもよい。
【0022】
本明細書では、用語「不織」とは、炭素繊維材料又はCNT浸出炭素繊維材料に関して用いられる場合、織りのない構造をいう。不織構造は、例えば、トウ、ロービング(rovings)、ヤーン(yarns)等の形態の連続繊維を含む。不織構造は、刻んだ材料も含むことができる。「炭素繊維材料」とは、その基本構成成分として炭素繊維を有するあらゆる材料をいう。前記用語は、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ、テープ、織布及び不織布、プライ(plies)、マット等を包含する。
【0023】
本明細書では、用語「炭素マトリックス」とは、C/C複合材料に用いられるバルクグラファイトマトリックス材料をいい、「炭素マトリックス前駆体」とは、炭素マトリックスに転換することができるあらゆる材料をいう。炭素マトリックスは、例えば、熱分解及び/又は有機樹脂、タール(tar)、ピッチ(pitch)を用いる化学蒸着法又は化学蒸着浸透法(CVD又はCVI)によって形成され、また、CVD及びCVI法を用いる場合、他の炭化水素源は、アセチレン、エチレン等のガスを含む。炭素マトリックスの密度は、その形成に用いられた方法に依存して変化する。
【0024】
本明細書では、用語「カーボン・ナノチューブ」(単数ではCNT、複数ではCNTs)とは、単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)、二層カーボン・ナノチューブ(DWNTs)、多層カーボン・ナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン群からなる多数の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてをいう。CNTsは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は開口端を有していてもよい。CNTsには、他の物質を封入するものが含まれる。
【0025】
本明細書では、用語「浸出する」とは結合されることを意味し、用語「浸出」とは結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及び/又はファン・デル・ワールス力の介在による物理吸着等が含まれ得る。例えば、CNTsは、共有結合担体の繊維に直接結合される。結合は、例えば、不活性化しているバリア・コーティング及び/又はCNTsと炭素繊維間に配置された遷移金属ナノ粒子を介した繊維へのCNT浸出等、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出炭素繊維において、カーボン・ナノチューブは、直接的又は間接的に繊維に「浸出」することが可能である。CNTを炭素繊維材料に浸出させる具体的な方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。CNT浸出炭素繊維の実際の結合モチーフに拘わらず、本明細書に開示された浸出処理は、繊維に既製のCNTsを簡単に軽く塗布するより強固な結合を提供する。この点において、触媒含有繊維基材上のCNTsの合成は、ファン・デル・ワールス付着単独のものよりもより強い「浸出」を提供する。本明細書で更に後述される処理によって製造されたCNT浸出繊維は、特に、より高密度では、隣接するCNTs間の共有壁モチーフを示す、非常にもつれた枝分かれしたカーボン・ナノチューブ網を提供する。ある実施形態では、成長は、例えば電界の存在下で影響を受け、これによって別の成長形態を提供する。また、より低密度では、前記成長形態は、枝分かれした共有壁モチーフからも離れるが、一方、更に強い繊維への浸出を提供する。
【0026】
本明細書では、用語「有機樹脂」とは、相対的に不揮発性で本発明のC/C複合材料の炭素マトリックスを形成するための前駆体源として機能する重合(体)、オリゴマー、又は他の炭素に富んだ材料のあらゆるものをいう。
【0027】
本明細書では、用語「マトリックス改質剤」とは、C/C複合材料のバルクグラファイトマトリックスへの添加剤をいう。マトリックス改質剤は、例えば、酸化に対してバルクマトリックス材を保護するのに役立つ。
【0028】
本明細書では、用語「炭素ナノ構造」とは、ナノスケールで少なくとも1つの寸法を有する炭素同素構造のあらゆるものをいう。ナノスケール寸法は、約0.1nmから約1000nmの範囲のあらゆる寸法を含む。
【0029】
本明細書では、用語「巻き取り可能な寸法」とは、炭素繊維材料をスプール(spool)又はマンドレル(mandrel)に巻き取っておくことが可能な、長さの限定されない、炭素繊維材料の有する少なくとも1つの寸法をいう。「巻き取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書に記載されるように、CNT浸出のための1回分の処理又は連続処理のいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻き取り可能な寸法の繊維材料の1つとしては、800テックス(1テックス=1g/1,000m)又は620ヤード/ポンドの寸法を有するAS4 12k炭素繊維のトウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、工業用の炭素繊維のトウは、例えば、5、10、20、50及び100ポンド(高重量のスプール用で、通常、3k/12Kのトウ)のスプールで入手されるが、より大きなスプールには特注を必要とする場合もある。本発明の処理は、5〜20ポンドのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールの使用も可能である。さらに、例えば、100ポンドまたはそれよりも大きい極めて長大な巻き取り長を、取り扱いが容易な寸法、例えば、50ポンドのスプール2つに分割する前処理工程を組み込むこともできる。
【0030】
本明細書で、「長さが均一」という場合、反応器で成長するCNTsの長さについて言及するものである。「均一な長さ」は、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%又はそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するということを意味する。極めて短い長さ、例えば、1〜4ミクロン等では、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。
【0031】
本明細書で、「分布が均一」とは、炭素繊維材料上のCNTの密度に一貫性のあることをいう。「均一な分布」は、炭素繊維材料上のCNTsの被覆率が、±10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの被覆率とは、CNTsで被覆される繊維の表面積の割合として定義される。これは、直径8nmの5層CNTでは、1平方マイクロメートル当たり±1500のCNTsに相当する。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。
【0032】
本明細書では、用語「遷移金属」とは、周期表のd‐ブロックにおけるあらゆる元素又はその合金をいう。また、用語「遷移金属」には、卑遷移金属元素の塩形態(例えば、酸化物、炭化物、窒化物等)も含まれる。
【0033】
本明細書では、用語「ナノ粒子」若しくはNP(複数ではNPs)、又はその文法的な同等物とは、NPsは球形である必要はないが、球の等価直径が約0.1から約100μmの間のサイズの粒子をいう。遷移金属NPsは、特に、炭素繊維材料上におけるCNTを成長させる触媒として機能する。
【0034】
本明細書では、用語「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」、又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素繊維を完全な状態で保護し、複合材料における炭素繊維及びマトリックス材間の界面相互作用を高め、及び/又は、炭素繊維の特定の物理的性質を変える及び/又は高めるためのコーティングとして炭素繊維の製造において用いられる材料を総称するものである。ある実施形態では、炭素繊維材料に浸出したCNTsが、サイジング剤として作用する。
【0035】
本明細書では、用語「材料滞留時間」とは、巻き取り可能な寸法の繊維材料に沿った各ポイントが、本明細書に記載されるCNT浸出処理の間、CNTの成長状態にさらされる時間をいう。この定義には、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の材料残留時間が含まれる。
【0036】
本明細書では、用語「ラインスピード」とは、本明細書に記載されるCNT浸出処理により、巻き取り可能な寸法の繊維材料を送り込むことができるスピードをいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバー長を材料残留時間で除して算出される速度である。
【0037】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含む炭素・炭素(C/C)複合材料を提供する。そのような複合材料の中には、不織,CNT浸出炭素繊維材料が、巻き取られたトウ等の連続CNT浸出炭素繊維材料であるのに対し、他の実施形態では、不織,CNT浸出炭素繊維材料が、短CNT浸出炭素繊維材料なものもある。短繊維システムの場合、短繊維を、連続CNT浸出トウから作ることができるが、この場合、1つのCNT浸出処理が、連続材料と短材料の両方を作るために用いられるので、製造の効率性をもたらす。
【0038】
C/C複合材料は、繊維状の材料に有機樹脂を含浸させ、その後、そのマトリックスを炭化温度まで加熱又は熱分解することによって形成させる。炭素/炭素複合材料を作るための種々の方法や炭素マトリックス前駆体材料が記載されており(例えば、Buckley,John D.and Edie, Dan D., ed., Carbon-Carbon Materials and Composites, Noyes Publication, P-ark Ridge, N.J.(1993); Delmonte, John, Technology of Carbon and Graphite Fiber Composites, Van Nostrand Reinhold Company, New York, N.Y.(1981); Schmidt et al, “Evolution of Carbon-Carbon Composites(CCC)” SAMPE Journal, Vol.32, No.4, July/August 1996, pp44-50;“Expanding Application Reinforce the Value of Composites“High Performance Composites 1998 Sourcebook; U.S. Pat. Nos.3,914,395,4,178,413,5,061,414,4,554,024及び5,686,027)、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明のC/C複合材料は、炭素マトリックスを作るための当該分野でよく知られたあらゆる炭素源前駆体を用いることができる。ある実施形態では、炭素マトリックスを有機樹脂から抽出する。C/C複合材料用の有機樹脂は、例えば、フェノール樹脂、フタロニトリル及びフェノールとフルフリルアルコールの混合物等が挙げられる。ある実施形態では、炭素マトリックスを、タール又はピッチから抽出する。また、化学蒸着/化学蒸着浸透(CVD/CVI)で用いられるこれら等の炭化水素物質は、前記炭素マトリックスを生成するためにも使用できる。
【0039】
本発明のC/C複合材料は、炭素マトリックス内にいくらかの添加剤を含むことができる。ある実施形態では、更に、C/C複合材料は、リン又はホウ素を含むマトリックス改質剤を含むことができる。そのようなマトリックス改質剤は、高温で問題となる酸化の持つ有害作用を抑制するように作用する。本発明のC/C複合材料への他の添加剤は、遊離したCNTs、フラーレン、ナノ‐オニオン、ナノフレーク、ナノスクロール、ナノペーパー、ナノファイバー、ナノホーン、ナノシェル、ナノワイヤー、ナノスプリング、ナノクリスタル、ナノダイヤモンド、バッキーダイヤモンド、ナノコンテナー、ナノメッシュ、ナノスポンジ、ナノスケールのグラフェンプレート(NGPs)及びナノビーズからなるグループから選択されたドーパントカーボン・ナノ構造体が挙げられる。ある実施形態では、ドーパント炭素ナノ構造体を、炭素マトリックスの緻密化中にその場で作ることができるが、一方、他の実施形態では、ドーパント炭素ナノ構造体を緻密化の前で予め作られた成分として加えることができ、そして、ある実施形態では、緻密化に先立ち第1熱分解の前でも加えることができる。ある実施形態では、1つ以上の前述した炭素ナノ構造体及びあらゆるマトリックス改質剤は、初期の熱分解工程中や次の緻密化工程中においていつでも加えることができる。
【0040】
CNT浸出炭素繊維は、米国特許出願第2004‐0178825号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。そのようなCNT浸出炭素繊維は、C/C複合材料の中で強化材料として用いられる典型的なタイプである。他のCNT浸出繊維タイプ材料が記載されており、混合複合材料システムに用いられる。そのような混合繊維‐炭素マトリックス複合材料は、例えば、CNT浸出ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、及びアラミド繊維のような有機繊維等が挙げられる。上記の出願に記載されたCNT浸出処理では、炭素繊維材料は改質されて、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(通常は単分子層のみ)をもたらす。触媒含有繊維は、その後、CNTsをインラインで連続的に成長させるために用いられるCVDをベースとする処理に晒される。成長したCNTsは、繊維材料に浸出する。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体、複合材料の構造である。この処理によって作られたCNT密度は、繊維軸の周りに半径方向のCNTs成長をもたらす。連続処理によって達成されたその密度は、炭素繊維とのCNT触媒ナノ粒子相互作用を弱める炭素繊維材料上のバリア・コーティングを使用することによってより高くなる。
【0041】
繊維処理後、炭素/炭素複合材料は、通常、例えば熱分解、化学蒸着(CVD)及び化学蒸着浸透(CVI)等の当該分野で知られたあらゆる処理を用いて作られる。熱分解の場合、CNT浸出炭素繊維を、通常の官能基化されていない炭素繊維に置き換えることができ、樹脂を注入でき、使用する官能基化されていない炭素繊維のままで炭素がCNT浸出繊維の周りに形成する。CVD(Chemical Vapor Deposition)は、少なくとも2つの方法で行われる:1つの方法は、既製のCNT浸出炭素繊維を形成し、その後、複合材料が完成するまでCNT浸出繊維の周囲にグラファイト状の炭素を付着する方法である。第2の方法は、CNT浸出繊維を生成するためにCNTsを成長し、繊維上のCVDCNTs成長のために使用したのと同じガスを用いてグラファイトマトリックスに付着し続けることである。非晶質の炭素付着は、CNT成長後又はCNT成長中に生じる。
【0042】
このように、CNT浸出炭素繊維を用いれば、C/C複合材料製造プロセスを変更する必要がない。CVDに対する第2の選択肢は、例えば、CNTsが複合材料それ自体に結合しないことが望ましい場合等、いくつかの条件の下では有利である。更に、1つは、CVD成長中に成長するCNTsの特注生産を選択できる。CNT浸出炭素繊維を、生成されたCNTのタイプ、配向性及び長さに基づいて特注生産することができ、従って、前記繊維により、特定用途の必要性に的確に対処するために非常に特殊な複合材料の作成が可能となる。
【0043】
C/C複合材料は、強化CNT浸出炭素繊維の異なる配向で製造することができる。例えば、前記繊維は、一方向構造、例えば多数の炭素繊維ヤーンで作られた布等の双方向構造、3次元等の多方向構造である。多方向の強化は、織物構造体の配向において最高レベルの機械的性質をもたらす。
【0044】
繊維材料の一部分に浸出したCNTsは、一般的に、長さが均一である。均一な長さとは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲内にあるCNT長さに関して、CNTsが、CNTの全長の±約20%またはそれ未満の許容誤差を伴う長さを有するという意味である。例えば、1〜4ミクロン等、極めて短い長さの場合では、この誤差は、CNTの全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲内、即ち、CNTの全長の約20%よりも若干大きくなる。本発明のC/C複合材料が、CNT浸出繊維材料上に有するCNTsは、ある実施形態では約80から約500ミクロン、他の実施形態では約250から約500ミクロン、更に他の実施形態では約50から約250ミクロンの範囲内と、これに、この間のあらゆる長さ及びその端数を含めた長さを有する。熱伝導度向上に関して、ある実施形態では、約80から約500ミクロンの範囲の、他の実施形態では、約250から約500ミクロンの範囲(250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン及び500ミクロン、並びに、この間のあらゆる数値及びその端数を含めたあらゆる数値)の長さを有するCNTsを使用することは有用となり得る。同様に、耐衝撃性向上に関して、約50から約250ミクロンの範囲(50ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン及び250ミクロン、並びに、この間のあらゆる数値及びその端数を含めたあらゆる数値)の長さを有するCNTsを使用することは有用となり得る。ある実施形態では、C/C複合材料は、種々の部分において異なる長さのCNTsとなるように調整し、これにより、製品の異なる部分における特性強化が異なるようにできる。このようにして、例えば、C/C複合材料の第1の部分は、約50から約250ミクロンの長さのCNTsを有し、C/C複合材料の第2の部分は、約250から約500ミクロンの長さのCNTsを有するようにすることができる。ある実施形態では、第1のCNTsは、例えば、複合材料製品の表面を包含し、これに対し、第2の部分のCNTsは、例えば、複合材料製品の中心部を包含する。
【0045】
ある実施形態では、CNT浸出炭素繊維は、従来の強化炭素繊維と比較して大幅に向上された電気伝導度及びEMI遮蔽等の他の性質をC/C複合材料に与えることができる。CNT浸出繊維は、様々な性質を得るように、繊維表面における特定の種類のCNTsで調整される。例えば、電気的性質は、様々な種類、直径、長さ及び密度のCNTsを繊維上に塗布することにより改良可能である。適切なCNT−CNT架橋が可能となる長さのCNTsを用いて、複合材料の伝導性を向上させるパーコレーション経路を形成する。繊維の間隔は、通常、一繊維の直径に等しいか、それよりも大きく、約5〜約50ミクロンであるので、CNTsは、効果的な電気経路を得るため、少なくともこの長さの半分である。これより短いCNTsは、構造的性質を改善するために用いられる。ある実施形態では、CNT浸出炭素繊維材料は、同じ繊維材料の異なる部分に沿って様々な長さのCNTsを含んで構成される。このような多機能のCNT浸出繊維は、C/C複合材料強化材として用いられた場合、それらが組み込まれるC/C複合材料の1以上の性質を向上させる。
【0046】
ある実施形態では、第1の量のカーボン・ナノチューブは炭素繊維材料に浸出する。この量は、カーボン・ナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択された少なくとも1つの値が、繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。得られたCNT浸出炭素繊維材料のこれらの性質は、そのどれもが最終的なC/C複合材料に付与される。
【0047】
引張強度には、3つの異なる大きさ、即ち、1)材料の歪が弾性変形から塑性変形(その結果、材料の永久的な変形が生じる)に変化する応力を評価する降伏強度、2)引張荷重、圧縮荷重又はせん断荷重を受けたとき、材料が耐え得る最大応力を評価する終局強度、及び、3)破断点における応力−歪線図上での応力の座標を評価する破壊強度、が含まれる。複合材料のせん断強度は、繊維方向に対して垂直に荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が破壊する応力を評価する。
【0048】
多層カーボン・ナノチューブは、特に、63GPaの引張強度を達成しており、今までに測定された材料の中で最も高い引張強度を有する。更に、理論計算によれば、CNTsには約300GPaの引張強度も可能であることが示されている。従って、CNT浸出繊維材料は、元の繊維材料と比較して大幅に上回る終局強度を有することが見込まれる。前述のように、引張強度の増加は、用いられるCNTsの正確な性質に加え、繊維材料におけるCNTsの密度及び分布によって決まる。CNT浸出繊維材料では、例えば、引張特性において2〜3倍増加することが示されている。例示的なCNT浸出炭素繊維材料は、機能化されていない元の繊維材料の3倍のせん断強度と、2.5倍の圧縮強度を有する。強化繊維材料のこのような強度増加は、CNT浸出繊維が組み込まれたC/C複合材料の強度増加となる。
【0049】
ヤング率は等方性弾性材料の剛性の1つの尺度である。それは、フックの法則が有効な応力範囲において、1軸歪に対する1軸応力の比率として定義される。これは、経験的に、材料サンプルについて行われる引張試験中に形成される応力−歪線図の傾きから決定される。
【0050】
電気伝導度又は特定の伝導性は、電流を伝導する材料の性能についての1つの尺度である。CNTのキラリティ(chirality)に関連している、例えば、撚度(degree of twist)等の特定の構造的なパラメータを有するCNTsは、伝導性が高く、従って金属特性を示す。CNTのキラリティに関して、広く認められている命名方式(M.S.Dresselhaus, et al.Science of Fullerences and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp.750-760, (1996))が、当業者により正式なものとして承認されている。このように、例えば、CNTsは、2つのインデックス(n,m)で相互に識別される(ここで、nとmは、六方晶のグラファイトが円筒の表面上で巻かれて端部同士を接合した場合にチューブとなるように、六方晶のグラファイトの切断及び巻き方を表す整数である)。2つのインデックスが同じである場合(m=n)、得られるチューブは、「アームチェア」(又はn−n)型であるといわれているが、これは、チューブがCNT軸に対して垂直に切断されたときに、六角形の辺のみが露出し、そのチューブ端部の周辺に沿ったパターンが、n回繰り返されるアームチェアのアームと座部に似ているからである。アームチェアCNTs、特にSWNTsは、金属的であり、非常に高い電気伝導度及び熱伝導度を有している。更に、このようなSWNTsは非常に高い引張強度を有している。
【0051】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気伝導度に影響を与える。前述のように、CNTの直径は、サイズが制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御可能である。また、CNTsは、半導体材料としても形成される。多層CNTs(MWNTs)における伝導度はより複雑である。MWNTs内の層間反応は、個々のチューブ一面に、電流を不均一に再分布させる。対照的に、金属単層ナノチューブ(SWNTs)の様々な部位においては電流に変化はない。また、カーボン・ナノチューブは、ダイヤモンド結晶及び面内(in-plane)グラファイトシートと比較して、非常に高い熱伝導度を有する。
【0052】
繊維材料の一部に浸出したCNTsは、略均一な分布であり、更に、実質的に長さも均一である。分布が均一とは、繊維材料におけるCNTの密度が不変であることをいう。均一な分布とは、繊維材料におけるCNTsの密度が、被覆率±約10%の許容誤差範囲にあることを意味するが、この場合、CNTsの被覆率とは、CNTsで被覆される繊維の表面積の割合として定義される。ある実施形態では、許容誤差は、直径8nmの5層CNTでは、1平方ミクロン当たり約±1500CNTsの範囲である。この形状ではCNTsの内部空間を充填可能と仮定している。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約10000CNTsの範囲の密度で、CNT浸出炭素繊維材料にCNTを有する。他の実施形態では、CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約5000CNTsの範囲である。
【0053】
ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、CNT浸出繊維の約20重量%から約40重量%の範囲(20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39及び40重量%等、並びに、これらの端数を含む)でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有する。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、CNT浸出繊維の約35重量%から約40重量%の範囲でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有し、他の実施形態では、CNT浸出繊維の約15重量%から約30重量%の範囲でCNTsをCNT浸出繊維材料中に有する。ある実施形態では、本発明のC/C複合材料は、複合材料体積の約10%から約60%の範囲でCNT浸出繊維材料を有し、他の実施形態では、複合材料体積の約30%から約40%の範囲でCNT浸出繊維材料を有する。ある実施形態では、CNT浸出繊維材料は、複合材料体積の10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60%、並びに、これらの間にある全ての値と端数を含んで構成される。
【0054】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料を含むC/C複合材料を提供する。このような実施形態の中には、CNT浸出炭素繊維材料が織物である場合には、CNTsを、不織状態の元の炭素繊維材料に浸出する。従って、織物材料はC/C複合材料製品に用いられる。CNT密度と担持量に関しては、略1次元構造体にCNTsを担持することによる2次元及び3次元構造体への積み上げ式接近法が有益である。これは、より高い次元の構造物ほど全体にわたってより均一なCNT密度のC/C複合材料を提供できる。従って、ある実施形態では、本発明は、CNT浸出炭素繊維トウを形成するために開繊炭素繊維トウにCNTsを成長させ、CNT浸出炭素繊維トウを成形し、そして、成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周囲に炭素マトリックスを形成するプロセスによって製造されたC/C複合材料を提供する。CNTsは、上述したように、また、下記に詳述するように、炭素繊維上に成長される。CNT浸出繊維の成形は、例えば、型板又はマンドレル構造体の周りに連続的なCNT浸出炭素繊維トウを巻き取ることを含むことができる。巻き取りは、型板の周りに巻き取る間にトウの開繊を含むことができる。また、成形は、繊維を刻むこと、炭素複合材料マトリックス前駆体にそれを分散すること、及びそれを型に入れること、も含むことができる。例えば、型の場合、ディスクブレーキ製品に用いられる構造体が含まれてもよい。また、成形は、全ての織り(weaving)或いは元の炭素繊維トウから作るあらゆる織物構造の形成も含むことができる。また、成形は、織りと型板巻き付けの組み合わせ、又は、織りと切断後の型入れの組み合わせも含むことができる。炭素マトリックスの形成は、熱分解、CVD、CVI及びこれらの組み合わせのうちの1つ以上の工程を含むことができる。
【0055】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む本発明の炭素‐炭素(C/C)複合材料を含む製品を提供する。ある実施形態では、製品は、連続的である不織CNT浸出炭素繊維材料を用いる。ある実施形態では、製品は、刻まれた不織CNT浸出炭素繊維材料を用いる。製品の正確な下流用途に応じて、複合材料構造は、保護コーティング、マトリックス改質剤、又は、これらの組み合わせを含むことができる。
【0056】
ある実施形態では、保護コーティグは、金属又は酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、及びこれらの組み合わせから選択された形態の半金属を含むことができる。典型的な保護コーティングは、限定するものではないが、塩化物、酸化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、炭化ホウ素、ホウ化クロム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、ホウ化アルミニウム、ホウ化ジルコニウム‐炭化ケイ素、ケイ酸イットリウム‐炭化ケイ素、ムライト‐酸化アルミニウム‐炭化ケイ素、炭化ケイ素‐ケイ素‐ケイ酸ジルコニウム、酸化ホウ素、窒化ケイ素、窒化チタン、ホウ化チタン、ケイ化チタン、ケイ化ハフニウム、ケイ化モリブデン、炭化ハフニウム、ホウ化セリウム‐炭化ケイ素、ケイ酸ジルコニウム‐酸化ホウ素、ホウ化ハフニウム‐酸化ホウ素、窒化ケイ素‐窒化ホウ素、窒化ケイ素‐窒化チタン、窒化ケイ素‐炭化ケイ素、炭化ケイ素‐ケイ化チタン、窒化アルミニウム‐窒化ホウ素、セルフシールホウケイ酸塩ガラス、窒化アルミニウム‐窒化ケイ素、ホウ化チタン‐炭化チタン、炭化ジルコニウム‐窒化ホウ素、ケイ化タングステン、ケイ化モリブデン、タングステン‐モリブデン‐ケイ素‐炭化ケイ素、及び炭化ハフニウム‐ケイ化ハフニウムが挙げられる。ある実施形態では、そのようなコーティングは、高温塗布の際のC/C複合材料の酸化を抑制するために用いられる。この点において、製品は、上述したように、ホウ素或いはリン等のマトリックス改質剤を含む複合材料もまた有することができる。
【0057】
ある実施形態では、本発明の製品は、ブレーキローターを含む。ある実施形態では、本発明の製品は、一部の極超音速機を含む。それぞれの製品の求める要求及び背景は、用いられるC/C複合材料の組成を決定づけることができる。例えば、ある実施形態では、ブレーキローターは、短CNT浸出繊維材料を用いて組み立てられる。極超音速機部品では、型板構造体の周りへの巻き取り技術を用いて大きな部品を形作るために、連続のCNT浸出繊維材料が用いられる。また、それぞれの用途が求める要求は、あらゆる添加剤も決定づけることができる。例えば、極超音速機の場合、本明細書で上述したように保護コーティング及びマトリックス改質剤の追加が必要となるくらいに極度の高温レベルである。
【0058】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスにCNT浸出炭素繊維を含むC/C複合材料の製造方法を提供する。前記方法は、型板構造体の周りに連続のCNT浸出炭素繊維を巻き取ること;及び、初期のC/C複合材料を作るために炭素マトリックスを成形することを含む。炭素マトリックスの成形工程は、炭素マトリックス前駆体を備えた巻き取られた連続CNT浸出炭素繊維材料を浸出することと、続く炭素マトリックス前駆体の熱分解を含む。ある実施形態では、炭素マトリックス前駆体は、フェノール樹脂等の有機樹脂である。ある実施形態では、炭素マトリックス前駆体は、タール又はピッチである。ある実施形態では、巻き取り工程は、炭素マトリックス前駆体を用いたウェットワインディング(wet winding)を含み、そして、成形工程は、熱分解を含む。従って、本発明方法は、連続CNT浸出繊維材料のドライワインディング(dry winding)又はウェットワインディングのいずれかを用いることができる。ある実施形態では、炭素マトリックスの成形は、化学蒸着(CVD)及び/又は化学蒸着浸透(CVI)を含むことができる。
【0059】
第1の熱分解又はCVD/CVI工程によって初期のC/C複合材料を形成した後、初期のC/C複合材料を、1つ以上の高密度化(densifying)工程に晒す。高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、炭素マトリックス前駆体への浸出及び熱分解を繰り返し行うことを含む。ある実施形態では、高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、CVD及び/又はCVIを繰り返し行うことを含む。ある実施形態では、高密度化は、初期のC/C複合材料にCNT成長触媒を付着させること、及び、その触媒含有初期C/C複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含むCVD条件に晒すことを含む。そのような実施形態では、本明細書で記載したように、CNTs及び他の炭素ナノ構造化されたドーパントの形態は、緻密化中にその場で作られる。
【0060】
ある実施形態では、本発明は、炭素マトリックスにCNT浸出炭素繊維を含んだC/C複合材料の製造方法を提供する。前記方法は、混合物を提供するために炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維を分散すること;前記混合物を型入れすること;及び初期C/C複合材料を提供するため炭素マトリックスを形成すること;を含む。ある実施形態では、炭素マトリックスの形成工程は、フェノール樹脂等の有機樹脂、タール、又はピッチである炭素マトリックス前駆体を熱分解することを含む。
【0061】
連続CNT浸出炭素繊維複合材料と同様に、短CNT浸出炭素繊維複合材料もまた初期のC/C複合材料の高密度化に晒すことができる。そのような高密度化は、前記初期のC/C複合材料に、炭素マトリックス前駆体への浸出と熱分解を繰り返し行うこと及び/又はCVDを繰り返し行うことを含む。また、高密度化は、初期のC/C複合材料にCNT成長触媒を付着させること、及び、その触媒含有初期C/C複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含むCVD条件に晒すことも含むことができる。
【0062】
本発明は、カーボン・ナノチューブ浸出CNT浸出炭素繊維材料を活用するC/C複合材料を提供する。炭素繊維材料へのCNT浸出は、上述したものに加えて、例えば、水分(moisture)、酸化、摩耗及び圧縮によるダメージから保護するサイジング剤として、多くの機能を果たすことできる。また、CNTベースのサイジング剤は、複合材料内の炭素繊維材料と炭素マトリックス材間の接合(interface)を強化することもできる。CNT浸出炭素繊維材料を作るために用いられる処理は、略均一な長さ及び分布のCNTsを提供し、これにより改質される炭素繊維材料一面に均一に有用な性質が与えられる。また、本明細書に開示されたプロセスは、巻き取り可能な寸法のCNT浸出炭素繊維材料の生成に適している。
【0063】
本明細書に開示されたプロセスを、炭素繊維材料に対して標準的なサイジング溶液を塗布する前に、又はその代わりに、生成された発生期の炭素繊維材料に塗布することができる。あるいは、本明細書に開示されたプロセスは、市販の炭素繊維材料、例えば、既に表面にサイジング剤が塗布された炭素トウを利用することができる。このような実施形態においては、以下で更に説明されるように、バリア・コーティング及び/又は遷移金属粒子は、間接的な浸出をもたらす中間層として機能するが、サイジング剤は、炭素繊維材料と合成されたCNTsとを直接接触させるために除去される。追加のサイジング剤を、CNTの合成後、所望により炭素繊維材料に塗布することができる。
【0064】
本明細書に開示されたプロセスにより、トウ、テープ、織物及び他の3次元織物構造体の巻き取り可能な長さに沿って、長さ及び分布が均一なカーボン・ナノチューブの連続的な生成が可能となる。様々なマット、織物及び不織布等は、本発明のプロセスにより機能化されるが、これに加え元となるトウ、ヤーン等からも高規則構造を生み出すことも、これら母材をCNTで機能化した後で可能である。例えば、CNT浸出織物は、CNT浸出炭素繊維トウから作り出すことができる。
【0065】
ある実施形態において、本発明は、カーボン・ナノチューブ(CNT)が浸出した炭素繊維材料を含む組成物を提供する。CNT浸出炭素繊維材料には、巻き取り可能な寸法の炭素繊維材料、炭素繊維材料の周囲に等角的に配置されたバリア・コーティング、及び炭素繊維材料に浸出するカーボン・ナノチューブ(CNTs)が含まれる。炭素繊維材料へのCNTsの浸出には、炭素繊維材料に対する個々のCNTsの直接結合、又は、遷移金属NP、バリア・コーティング、若しくはその両方による間接結合の結合モチーフが含まれる。
【0066】
理論に拘束されるものではないが、CNT形成触媒として機能する遷移金属NPsは、CNT成長の核構造を形成することにより、CNT成長に触媒作用を及ぼす。一つの実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングに固定されて、炭素繊維材料の基部に留まり、炭素繊維材料の表面に浸出する。このような場合、当該技術分野でよく観察されるように、遷移金属ナノ粒子触媒により当初形成された核構造は、触媒をCNT成長の前縁(leading edge)に沿って移動させなくても、連続的な無触媒有核CNT成長には十分である。このような場合、NPsは、炭素繊維材料へのCNTの付着点として機能する。また、バリア・コーティングの存在により、更なる間接的な結合モチーフとなる。例えば、CNT形成触媒は上述したようにバリア・コーティング内に固定されるが、炭素繊維材料とは表面で接触しない。このような場合、バリア・コーティングがCNT形成触媒と炭素繊維材料間に配置されて積層構造となる。いずれにしても、形成されるCNTsは、炭素繊維材料に浸出する。ある実施形態において、バリア・コーティングの中には、CNT形成触媒を、成長するナノチューブの前縁になおも従わせるものもあろう。このような場合には、その結果として、炭素繊維材料、又は、任意的に、バリア・コーティングに対するCNTsの直接結合となる。カーボン・ナノチューブと炭素繊維材料間に形成される実際の結合の種類にかかわらず、浸出したCNTは強固であり、これによりCNT浸出炭素繊維材料がカーボン・ナノチューブの性質及び/又は特徴を示すことが可能となる。
【0067】
かさねて理論に拘束されるものではないが、CNTsが炭素繊維材料上に成長するとき、反応チャンバー内に存在する高温及び/又は残留酸素及び/又は水分は、炭素繊維材料にダメージを与える。更に、炭素繊維材料それ自体は、CNT形成触媒自体との反応によりダメージを受ける。これは、炭素繊維材料が、CNT合成のために用いられる反応温度で触媒に対する炭素原料として作用することである。このような過量の炭素は、炭素原料ガスの制御導入を阻害すると共に、炭素を過度に担持させることにより触媒を被毒化する働きさえする。本発明で用いられるバリア・コーティングは、炭素繊維材料上のCNT合成を容易にするために設けられる。理論に拘束されるものではないが、コーティングは、熱分解に対する遮熱層を提供したり、炭素繊維材料を高温環境に晒すことを抑制する物理的障壁となる。選択的に又は追加的に、コーティングは、CNT形成触媒と炭素繊維材料間の接触表面積を最小化したり、CNT成長温度で炭素繊維材料をCNT形成触媒に晒すことを抑制する。
【0068】
CNT浸出炭素繊維材料を有する組成物はCNTsが略均一な長さで提供される。本明細書に記載された連続処理の場合、CNT成長チャンバーにおける炭素繊維材料の残留時間は調節されて、CNTの成長、及び最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段が提供される。また、CNTの長さは、炭素原料ガス及びキャリアガスの流量並びに反応温度の調節を介しても制御される。CNTの性質は、例えば、CNTsを作るために用いられる触媒のサイズを制御することにより、更なる制御が可能となる。例えば、1nmの遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために用いられる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために用いられる。
【0069】
更に、用いられるCNT成長処理は、前もって形成されたCNTsを溶媒溶液中に懸濁又は拡散して炭素繊維材料に手作業で塗布する処理において発生し得るCNTsの束化及び/又は凝集を回避しつつ、炭素繊維材料に均一に分布したCNT浸出炭素繊維材料を提供する上で有用である。このように凝集したCNTsは、炭素繊維材料に弱く結合する傾向にあり、CNT特有の性質は、仮に結合したとしても、かすかにしか現れない。ある実施形態において、被覆率、即ち被覆される繊維の表面積の百分率として表される最大分布密度は、直径約8nmの5層CNTsを想定すると、約55%もの高率となる。この被覆率は、CNTsの内部空間を「充填可能な(fillable)」空間とみなして算出される。分布/密度の値は、表面における触媒の拡散を変化させると共に、ガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な値とすることができる。一定のパラメータに関しては、概して、全繊維表面で約10%以内の被覆率が達成される。密度が高くなりCNTsが短くなると、機械的性質の向上にとって有用となるのに対し、密度の増大が好ましいことに変わりはないが、密度が低くなりCNTsが長くなると、熱的性質及び電気的性質の向上にとって有用となる。密度が低くなるのは、より長いCNTsが成長したときであるが、これは、触媒の粒子収量を低下させるより高温かつより急速な成長によるものである。
【0070】
CNT浸出炭素繊維材料を有する本発明の組成物には、例えば、カーボンフィラメント、炭素繊維ヤーン、炭素繊維トウ、カーボンテープ、炭素繊維ブレード(carbon fiber braid)、炭素織物(woven carbon fabric)、不織炭素繊維マット、炭素繊維プライ(carbon fiber ply)、及び他の3次元織物構造体が含まれる。カーボンフィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの直径を有する高アスペクト比の炭素繊維が含まれる。炭素繊維トウは、一般的にフィラメントを密に結合した束であり、通常は撚り合わされてヤーンとなる。
【0071】
ヤーンには、撚り合わされたフィラメントを密に結合した束が含まれる。ヤーンにおける各フィラメントの直径は、比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメーターのグラム重量として示される「テックス(tex)」、又は10,000ヤードのポンド重量として示されるデニール(denier)により、通常は、約200テックスから約2000テックスまでの標準的なテックス範囲で表される様々な重量を有する。
【0072】
トウには、撚り合わされていないフィラメントを緩く結合した束が含まれる。ヤーンと同様に、トウにおけるフィラメントの直径は、概して均一である。また、トウも様々な重量を有し、テックス範囲は、通常、200テックスから2000テックスの間となる。それらは、しばしば、例えば、12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等のトウ内にある数千のフィラメントで特徴付けられる。
【0073】
カーボンテープは、織物として組まれるか、又は、不織の扁平なトウを示す材料である。カーボンテープは、様々な幅を持ち、通常リボンに類似する両面構造である。本発明のプロセスでは、テープの一面又は両面におけるCNTの浸出が両立可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット(carpet)」あるいは「樹木林(forest)」に似ている。更に、本発明のプロセスは、テープの巻き取りを機能させるために、連続的なモードで実施できる。
【0074】
炭素繊維ブレードは、繊維が高密度に詰め込まれたロープ状構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンから組まれる。編み上げ構造は中空部分を含んでもよく、あるいは、別のコア材料の周囲に組まれてもよい。
【0075】
ある実施形態において、多数の一次炭素繊維材料の構造体は、織物又はシート状構造体に組織化される。これらには、前述のテープに加えて、例えば、炭素織物、不織炭素繊維マット及び炭素繊維プライが含まれる。このような高い規則構造は、元となるトウ、ヤーン、フィラメント等から、その母繊維にCNTsを既に浸出させて組まれる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載されたCNT浸出処理のための基材として機能する。
【0076】
炭素繊維には、繊維の生成に用いられる前駆体(そのいずれもが本発明に使用可能)、即ち、レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(pitch)に基づいて3種類に分類される。セルロース系材料であるレーヨン前駆体から作られる炭素繊維は、炭素含有量が比較的低い約20%であり、繊維が低強度かつ低剛性の傾向にある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量をもつ炭素繊維を提供する。PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維よりも概して高い引張強度を有する。
【0077】
石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体もまた、炭素繊維を生成するために用いられる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率が高いが、既知のバッチ処理における不均一性という問題がある。
【0078】
炭素繊維材料への浸出のために有用なCNTsには、単層CNTs、二層CNTs、多層CNTs及びこれらの組み合わせたものが含まれる。用いられるべき的確なCNTsは、CNT浸出炭素繊維の用途に依存する。CNTsを、熱的及び/又は電気的伝導性用途或いは絶縁体用に用いることができる。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、単層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、多層ナノチューブである。ある実施形態では、浸出炭素ナノチューブは、単層ナノチューブと多層ナノチューブの組み合わせである。単層ナノチューブと多層ナノチューブの特徴的な性質には、その繊維の最終用途に関して、ナノチューブのどれか一つの種類の合成を決定付ける相違がある。例えば、単層ナノチューブは、半導体又は金属であるが、多層ナノチューブは金属である。
【0079】
CNTsは、例えば、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率、高熱伝導度等の特有の性質を、CNT浸出炭素繊維材料に与える。例えば、ある実施形態では、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、母材の炭素繊維材料の電気抵抗率よりも低い。より一般的に言えば、得られたCNT浸出繊維がこれらの特徴を示す程度は、カーボン・ナノチューブによる炭素繊維被覆の範囲及び密度の関数となる。直径8nmの5層MWNTを想定すると、0〜55%の繊維のあらゆる繊維表面積が被覆される(この場合も、この計算はCNTsの内部空間を充填可能とみなしている)。この数字は、CNTsの直径が小さくなると低くなり、CNTsの直径が大きくなると高くなる。55%の表面積被覆率は、約15,000CNTs/μ2に相当する。更に、CNTの性質は、前述のように、CNTの長さに依存する形で炭素繊維材料に付与される。浸出したCNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンの範囲(1ミクロン、2ミクロン、3ミクロン、4ミクロン、5ミクロン、6ミクロン、7ミクロン、8ミクロン、9ミクロン、10ミクロン、15ミクロン、20ミクロン、25ミクロン、30ミクロン、35ミクロン、40ミクロン、45ミクロン、50ミクロン、60ミクロン、70ミクロン、80ミクロン、90ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン、及びこれらの中間の全ての値など)において様々である。また、CNTsは、例えば、約0.5ミクロン等、長さを約1ミクロン未満にすることもできる。また、CNTsは、例えば、510ミクロン、520ミクロン、550ミクロン、600ミクロン、700ミクロン及びこれらの中間の全ての値等、500ミクロンよりも長くすることもできる。
【0080】
本発明の組成物は、約0.1ミクロンから約10ミクロンまでの長さを有するCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さはせん断強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNT長さは、CNTsが繊維方向に配列されている場合には、引張強度を向上する用途に有用である。CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有してもよい。このようなCNTの長さは機械的性質同様、電気的/熱的性質を向上するのに有用である。また、本発明に用いられるプロセスは、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsを提供できるが、これは電気的及び熱的性質の向上にも有益である。このようなCNT長さの制御は、様々なラインスピード及び成長温度と相まって、炭素原料ガス及び不活性ガスの流量を変化させることで容易に達成される。
【0081】
ある実施形態において、巻き取り可能な長さのCNT浸出炭素繊維材料を含有する組成物には、CNTsの長さが異なる様々な均一領域がある。例えば、せん断強度特性を高めるためには、CNT浸出炭素繊維材料のうちの均一に短いCNT長を備えた第1の領域を、そして、電気的又は熱的性質を高めるために、同一の巻き取り可能な材料のうちの均一に長いCNT長を備えた第2の領域を有することが好ましい。
【0082】
炭素繊維材料にCNTを浸出させるための本発明のプロセスにより、CNTの長さを均一に、かつ、連続処理で制御することが可能となり、これによって、巻き取り可能な炭素繊維材料は、CNTsを用いて高速の官能基化が可能なる。5秒から300秒の材料滞留時間で、長さ3フィートのシステムの連続処理におけるラインスピードを、約0.5フィート/分から約36フィート/分以上のあらゆる範囲とすることが可能である。選択されるラインスピードは、以下で更に説明されるように、様々なパラメータによって決まる。
【0083】
ある実施形態において、約5秒から約30秒の材料残留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、ある実施形態では、約30秒から約180秒の材料残留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンの長さを有するCNTsが生成される。また、更なる実施形態では、約180秒から約300秒の材料残留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンの長さを有するCNTsが製造される。当業者であれば、これらの範囲がおおよそのものであり、また、CNTの長さが、反応温度、並びに、キャリア及び炭素原料の濃度及び流量により調節可能であることを認識できるであろう。
【0084】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料には、バリア・コーティングが含まれる。バリア・コーティングには、例えば、アルコキシシラン、メチルシロキサン、アルモキサン、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)、ガラスナノ粒子が含まれる。後述されるように、CNT形成触媒は、未硬化のバリア・コーティング材に加えられて、その後、共に炭素繊維材料に塗布される。他の実施形態において、バリア・コーティング材は、CNT形成触媒の配置前に炭素繊維材料に加えられる。バリア・コーティング材は、この後のCVD成長のために炭素原料にCNT形成触媒を晒すのに十分な薄さである。ある実施形態では、その厚さは、CNT形成触媒の有効径未満か、それと略等しい。ある実施形態では、バリア・コーティングの厚さは、約10nmから約100nmの範囲である。また、バリア・コーティングは、10nm未満であり、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm及びこれらの中間の値等が含まれる。
【0085】
理論に拘束されるものではないが、バリア・コーティングは、炭素繊維材料とCNTsの中間層として機能し、CNTsを炭素繊維材料に機械的に浸出させる働きをする。このような機械的な浸出は、炭素繊維材料にCNTsの性質をなお付与しつつ、炭素繊維材料がCNTsを組織化するための基盤として機能する強固な機構を更に提供する。また、バリア・コーティングを含むことの利点は、水分に晒されることからくる化学的ダメージ、及び/又は、CNT成長促進のために用いられる温度で炭素繊維材料を加熱することからくるあらゆる熱的ダメージから、炭素繊維材料を直接保護するという点にある。
【0086】
本明細書に開示された浸出CNTsは、従来の炭素繊維「サイジング剤(sizing)」の代替品として効果的に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング剤よりも一層強固であり、複合材料中の繊維−マトリックス間界面を改善し、より一般的には、繊維−繊維間界面を改善することができる。実際には、CNT浸出炭素繊維材料の性質が、浸出CNTsの性質に加えて炭素繊維材料の性質を組み合わせたものであるという点で、本明細書に開示されたCNT浸出炭素繊維材料は、それ自体が複合材料である。従って、本発明の実施形態は、炭素繊維材料に所望の性質を与える手段を提供するが、その手段によらなければ、炭素繊維材料には、このような性質が欠如するか、又は不十分である。炭素繊維材料は、特定用途の必要性を満たすために調整又は設計が可能である。サイジング剤として作用するCNTsは、疎水性のCNT構造により水分の吸収から炭素繊維材料を保護する。また、疎水性のマトリックス材は、以下で更に例示されるように、疎水性のCNTsと良好に相互作用して繊維−マトリックス間の相互作用を向上させる。
【0087】
前述の浸出CNTsを有する炭素繊維材料が、有益な性質を付与されるにもかかわらず、本発明のCNT浸出炭素繊維材料は、C/C複合材料構造体の形成前に保存用の「従来の」サイジング剤を更に含むことができる。このようなサイジング剤には、多様な種類及び機能があり、例えば、界面活性剤、静電気防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの組み合わせが含まれる。このようなサイジング剤は、CNTs自体を保護するために、又は浸出CNTsの存在からは繊維へ付与することができない更なる性質を提供するために、補助的に用いることができる。
【0088】
図1〜5は、本明細書に記載されたプロセスにより作られた炭素繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を作るための手順は、以下及び実施例I〜IIIにおいて詳述される。図1及び図2は、夫々、連続処理においてAS4炭素繊維上に作られた多層カーボン・ナノチューブ及び2層カーボン・ナノチューブのTEM画像を示す。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が機械的に炭素繊維材料の表面に浸出した後に、バリア・コーティング内部から成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で目標長さ約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。図5は、炭素繊維の全域で約10%以内のCNT密度の均一性を明示する炭素繊維上のCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【0089】
C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、耐摩耗性が要求される用途に用いることができる。そのような炭素繊維摩擦材料は、例えば、自動車のブレーキディスクに用いられる。他の耐摩耗性用途は、例えば、ゴム製O‐リングやガスケット・シールが挙げられる。
【0090】
C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、航空宇宙及び弾道学上の用途において構造要素を強化できる。構造体(例えば、ミサイルのノーズコーン、翼端)、主要構造部品(例えば、フラップ及びエアロフォイル(aerofoil)、プロペラ及びエアブレーキ、小型飛行機の胴体、ヘリコプターのシェル(shell)及びローターブレード)、航空機の補助的な構造部品(例えば、フロア、ドア、シート、空調装置)、並びに、補助タンク及び航空機のモーター部品にとって、CNT浸出炭素繊維によりもたらされる構造の強化は有益である。その他の多くの用途においても構造強化がなされるが、これには、例えば、掃海艇の船体、ヘルメット、レードーム(radome)、ロケット・ノズル、担架、及びエンジン構成部品が含まれる。建造物及び建築物において、屋外機能の構造的な強化には、柱、ペディメント(pediments)、ドーム、コーニス(cornices)、及び型枠が含まれる。同様に、建造物の内部構造において、例えば、ブラインド、衛生陶器、窓枠等にとっても、全てC/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料の使用は有益である。
【0091】
また、CNT浸出炭素繊維の電気的性質は、様々なエネルギー及び電気的用途に影響を与える。例えば、C/C複合材料におけるCNT浸出炭素繊維材料は、風力タービンブレード、太陽光利用システム、電子回路の筐体(例えば、ノート型パソコン、携帯電話、コンピューター・キャビネット等であり、この場合、このようなCNT浸出材料は、例えば、EMI遮蔽に利用される)に用いられる。他の用途には、電力線、冷却機、照明用ポール、回路基板、配電盤、ラダーレール(ladder rail)、光ファイバー、建造物に組み込まれた機能(例えば、データ回線、コンピュータ端子箱等)、事務機器(例えば、コピー機、キャッシュレジスター、郵便機器など)が含まれる。
【0092】
ある実施形態において、本発明はCNT浸出の連続処理を提供するが、この処理には、(a)巻き取り可能な寸法の炭素繊維材料の表面にカーボン・ナノチューブ形成触媒を配置すること、及び(b)炭素繊維材料上にカーボン・ナノチューブを直接合成して、これにより、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料を形成すること、が含まれる。長さ9フィートのシステムの場合、処理のラインスピードは毎分約1.5フィートから毎分約108フィートの範囲となる。本明細書に記載されたプロセスにより達成されるラインスピードは、商業的に妥当なCNT浸出炭素繊維材料を短い製造時間で形成可能にする。例えば、毎分36フィートのラインスピードでは、独立した5つのトウ(1トウ当たり20ポンド)を同時に処理するように設計されたシステムにおいて、CNT浸出炭素繊維(繊維上に5重量%超のCNTsが浸出する)の量は、1日の製造量で100ポンド以上に及ぶ。このシステムは、成長ゾーンを繰り返すことにより、一度に、又はより高速に大量のトウを製造するように構成されている。また、CNTsの製造工程には、当該技術分野で知られているように、連続運転モードを阻む極低速なものがある。例えば、当該技術分野で知られている標準的なプロセスにおいて、CNT形成触媒の低減工程を実施するのに1〜12時間かかる。また、CNT成長自体も時間を浪費しており、例えば、CNT成長に数10分を必要とし、本発明において実現される高速のラインスピードを不可能にしている。本明細書に記載されたプロセスは、このような速度を制限する工程を克服する。
【0093】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料の形成プロセスは、前もって形成されたカーボン・ナノチューブの懸濁液を繊維材料に塗布しようとする場合に生じるCNTの絡み合いを回避できる。即ち、前もって形成されたCNTsは炭素繊維材料に結合しないため、CNTsは束になって絡みやすくなる。その結果、炭素繊維材料に弱く付着するCNTsが不均一に分布する。しかし、本発明のプロセスは、必要に応じて、成長密度を低減することにより、炭素繊維材料の表面で高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初に炭素繊維材料に浸出する。このような実施形態において、繊維は、垂直配列を生じさせるほどには高密度に成長しない。その結果、炭素繊維材料表面で絡み合ったマットとなる。これとは対照的に、前もって形成されたCNTsを手作業で塗布する場合、炭素繊維材料上のCNTマットの分布及び密度を確実に均一にすることはできない。
【0094】
図6は、本発明の具体例に従ってCNT浸出炭素繊維材料を生成するプロセス700のフローチャートを示す。
【0095】
プロセス700には、少なくとも以下の工程が含まれる。
工程701:炭素繊維材料の官能基化。
工程702:官能基化された炭素繊維材料へのバリア・コーティング及びCNT形成触媒の塗布。
工程704:カーボン・ナノチューブの合成に十分な温度に達するまでの炭素繊維材料の加熱。
工程706:触媒を含んだ炭素繊維におけるCVDを介したCNT成長の促進。
【0096】
工程701において、炭素繊維材料は官能基化され、繊維の表面湿潤を促進すると共に、バリア・コーティングの付着を向上させる。
【0097】
炭素繊維材料にカーボン・ナノチューブを浸出させるために、カーボン・ナノチューブは、バリア・コーティングで等角的にコーティングされた炭素繊維材料に合成される。一つの実施形態において、これは、工程702のように、まず炭素繊維材料をバリア・コーティングで等角的にコーティングし、その後、バリア・コーティング上にナノチューブ形成触媒を配置することにより達成される。ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒配置前に、部分的に硬化していてもよい。これにより、CNT形成触媒と炭素繊維材料との表面接触を許容する等、触媒を受け入れてバリア・コーティング内への組み込みが可能となる表面がもたらされる。このような実施形態では、バリア・コーティングは、触媒を組み込んだ後、十分に硬化する。ある実施形態において、バリア・コーティングは、CNT形成触媒の配置と同時に炭素繊維材料全体にコーティングされる。CNT形成触媒及びバリア・コーティングが適切に配置された時点で、バリア・コーティングは十分に硬化する。
【0098】
ある実施形態において、バリア・コーティングは、触媒の配置前に十分に硬化される。このような実施形態では、十分に硬化したバリア・コーティングを施した繊維材料は、プラズマで処理され、触媒を受容するために表面を調整する。例えば、硬化したバリア・コーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置が可能な粗面化した(roughened)表面をもたらす。バリア・コーティングの表面を「粗面化(roughing)」するプラズマ処理は、このようにして触媒の配置を容易にする。粗度は、通常、ナノメートルのスケール(scale)である。プラズマ処理工程において、深さ及び直径がナノメートル単位のクレーター(crater)又は窪みが形成される。このような表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素等、種々の異なる1以上のガスをプラズマに用いて可能となる。ある実施形態では、プラズマによる粗面化は、炭素繊維材料自体に直接行われる。これにより、炭素繊維に対するバリア・コーティングの付着が容易になる。
【0099】
更に後述されるように、また図6を併用して、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含有する溶液として調整される。合成されたナノチューブの直径は、前述のように、金属粒子のサイズに関係する。ある実施形態では、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒を含有する工業用の分散液を利用して希釈せずに使用され、他の実施形態では、触媒を含有する工業用の分散液は希釈される。このように溶液を希釈するかどうかは、前述のように、成長させようとするCNTの所望の密度及び長さによる。
【0100】
図6に例示の実施形態に関して、カーボン・ナノチューブの合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示されており、高温で生じる。具体的な温度は触媒の選択に応じて変化するが、通常は、約500℃〜約1000℃の範囲である。従って、工程704には、カーボン・ナノチューブの合成を促進する前記範囲における温度まで炭素繊維材料を加熱することが含まれる。
【0101】
次に、工程706において、触媒含有炭素繊維材料上でCVDにより促進されるナノチューブ成長が実施される。CVD処理は、例えば、炭素含有原料ガス(例えば、アセチレン、エチレン、及び/又はエタノール)により進められる。CNT合成処理では、主要なキャリアガスとして、通常、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)が用いられる。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲で供給される。CVD成長のための略不活性環境は、成長チャンバーから水分及び酸素を除去して用意される。
【0102】
CNTの合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部位で成長する。強プラズマ励起電界の存在を任意に用いて、ナノチューブの成長に影響を与えることができる。即ち、成長は、電界方向に従う傾向がある。プラズマ・スプレーの配置及び電界を適切に調節することにより、垂直配列の(即ち、炭素繊維材料に対して垂直な)CNTsが合成され得る。一定の条件下では、プラズマがない場合であっても、密集したナノチューブは、成長方向を垂直に維持して、カーペット又はフォレストに似た高密度配列のCNTsになる。
【0103】
炭素繊維材料上に触媒を配置する工程は、溶液のスプレー、若しくは溶液の浸漬コーティングにより、又は、例えば、プラズマ処理を用いた気相蒸着により可能である。方法の選択は、バリア・コーティングに適用される方法と連係してなされる。このように、ある実施形態では、触媒を溶媒に溶かして溶液を形成した後、触媒は、その溶液を用いて、スプレー若しくは浸漬コーティングすることにより、又はスプレー及び浸漬コーティングの組み合わせにより、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料に塗布される。単独で、又は組み合わせて用いられるいずれかの方法は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも使用され、CNT形成触媒で十分均一にコーティングされた炭素繊維材料を提供する。浸漬コーティングが使用される場合、例えば、炭素繊維材料は、第1の浸漬槽において、第1の滞留時間、第1の浸漬槽内に置かれる。第2の浸漬槽を使用する場合、炭素繊維材料は、第2の滞留時間、第2の浸漬槽内に置かれる。例えば、炭素繊維材料は、浸漬の形態及びラインスピードに応じて約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらされる。スプレー又は浸漬コーティングを用いて、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層である、約5%未満から約80%の表面被覆率の触媒表面密度を備えた炭素繊維材料を処理する。ある実施形態では、炭素繊維材料上におけるCNT形成触媒のコーティング処理は、単分子層だけを生成すべきである。例えば、CNT形成触媒の積層上におけるCNT成長は、CNTの炭素繊維材料への浸出度を損なうことがある。他の実施形態では、蒸着技術、電解析出技術、及び当業者に知られている他の処理(例えば、遷移金属触媒を、有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物として、プラズマ原料ガスへ添加すること等)を用いて、遷移金属触媒を炭素繊維材料上に配置する。
【0104】
本発明のプロセスは連続処理となるように設計されるため、巻き取り可能な炭素繊維材料は、一連の槽で浸漬コーティングを施すことが可能である(この場合、浸漬コーティング槽は空間的に分離されている)。発生期の炭素繊維が新たに生成されている連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布して硬化、又は部分的に硬化させた後の第1段階である。バリア・コーティング及びCNT形成触媒の適用は、新たに形成された炭素繊維材料のために、サイジング剤の適用に代えて行われるものである。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリア・コーティングの後、他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された炭素繊維に塗布される。このようなCNT形成触媒及び他のサイジング剤の同時適用であっても、CNT形成触媒を炭素繊維材料のバリア・コーティングと表面接触させて供給し、CNTの浸出を確実にすることができる。
【0105】
使用される触媒溶液は、遷移金属ナノ粒子であってよいが、これは、前述したように、d‐ブロックの遷移金属であればいかなるものでもよい。加えて、ナノ粒子には、d‐ブロック金属の入った元素形態又は塩形態の、合金や非合金の混合物、及びそれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。限定されない例示的な遷移金属NPsには、Ni、Fe、Co、Mo、Cu、Pt、Au及びAg、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。ある実施形態において、バリア・コーティングの配置と同時に、CNT形成触媒を炭素繊維材料に直接に塗布あるいは浸出することにより、このようなCNT形成触媒は炭素繊維上に配置される。この遷移金属触媒の多くは、例えば、Ferrotec Corporation(Beford, NH)等の様々なサプライヤーから市販されており容易に入手できる。
【0106】
CNT形成触媒の全体にわたる均一な分散を可能とするいかなる共通溶媒にも、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布するために用いられる触媒溶液が含まれる。このような溶媒には、限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために制御された極性を有する他のいかなる溶媒、が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒で、およそ1:1から1:10000の範囲内である。このような濃度は、バリア・コーティング及びCNT形成触媒が同時に適用されるときにも用いられる。
【0107】
ある実施形態において、炭素繊維材料は、CNT形成触媒の配置後、約500℃〜1000℃までの温度で加熱されて、カーボン・ナノチューブを合成する。この温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入前に、又は略同時に行われる。
【0108】
ある実施形態において、本発明により提供されるプロセスには、炭素繊維材料からサイジング剤の除去、炭素繊維材料全体の等角的バリア・コーティングの塗布、繊維材料へのCNT形成触媒の塗布、炭素繊維材料の少なくとも500℃までの加熱、そして、炭素繊維材料上へのカーボン・ナノチューブの合成が含まれる。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、炭素繊維材料からのサイジング剤の除去、炭素繊維材料へのバリア・コーティングの塗布、炭素繊維へのCNT形成触媒の塗布、CNT合成温度までの前記繊維の加熱、及び触媒含有炭素繊維材料におけるCVD促進のCNT成長が含まれる。従って、工業用の炭素繊維材料が使用される場合、CNT浸出炭素繊維を構成するための処理には、炭素繊維材料上にバリア・コーティング及び触媒を配置する前に、炭素繊維材料からサイジング剤を除去する個別の工程が含まれる。
【0109】
カーボン・ナノチューブの合成工程には、同時係属の米国特許出願第2004/0245088号に開示され、参照により本明細書に組み込まれるものを含め、カーボン・ナノチューブを形成するための多数の技術が含まれる。本発明の繊維上におけるCNTs成長は、限定するものではないが、微小共振器(micro-cavity)、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザー・アブレーション、アーク放電、高圧一酸化炭素(HiPCO)等の、当該技術分野において知られている技術により可能となる。CVDの間、特に、CNT形成触媒が配置され、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料が直接用いられる。ある実施形態において、従来のいかなるサイジング剤もCNT合成前に除去可能である。ある実施形態において、アセチレンガスは、イオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマジェットを形成する。プラズマは触媒を有する炭素繊維材料に導入される。このように、ある実施形態では、炭素繊維材料におけるCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)炭素繊維材料に配置された触媒に炭素プラズマを導入すること、が含まれる。成長するCNTsの直径は、前述のように、CNT形成触媒のサイズにより決定される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は約550℃〜約800℃に加熱され、CNT合成を容易にする。CNTsの成長を開始するために、処理ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム又は窒素)及び炭素含有ガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン)の2つのガスが反応器(reactor)に流し込まれる。CNTsは、CNT形成触媒の部位で成長する。
【0110】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマで助長される。プラズマは、成長処理中に電界を与えることにより生成される。この条件下で成長したCNTsは電界の方向に従う。従って、反応器の配置を調節することにより、垂直配向のカーボン・ナノチューブが、円筒状の繊維の周囲に放射状に成長する。ある実施形態では、繊維の周囲に放射状に成長させるために、プラズマは必要とされない。明確な面を有する炭素繊維材料(例えば、テープ、マット、織物、パイル(pile)等)に対して、触媒は片面又は両面に配置され、それに対応して、CNTsも片面又は両面で成長する。
【0111】
前述のように、CNT合成は、巻き取り可能な炭素繊維材料を官能基化する連続処理を行うのに十分な速度で行われる。以下に例示されるように、このような連続的な合成は、多くの装置構成により容易になる。
【0112】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、「オール・プラズマ(all plasma)」処理で構成される。オール・プラズマ処理には、前述のように、プラズマによる炭素繊維材料の粗面化が含まれ、これにより繊維表面の湿潤特性を向上させ、より等角的なバリア・コーティングをもたらすと共に、アルゴン又はヘリウムをベースとしたプラズマ中の酸素、窒素、水素等の特定の反応ガス種を用いて官能基化された炭素繊維材料の使用により、機械的連結あるいは化学的接着を介したコーティングの接着性を向上させる。
【0113】
バリア・コーティングの施された炭素繊維材料は、更なる多数のプラズマ介在工程を経て、最終的なCNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、オール・プラズマ処理には、バリア・コーティングが硬化した後の第2の表面改質が含まれる。これは、炭素繊維材料のバリア・コーティング表面を「粗面化」して、触媒の配置を容易にするプラズマ処理である。前述のように、表面改質は、限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素、及び窒素等の種々の異なる1以上のガスからなるプラズマを用いて実現できる。
【0114】
表面改質後、バリア・コーティングが施された炭素繊維材料は触媒の塗布へと進む。これは、繊維上にCNT形成触媒を配置するためのプラズマ処理である。CNT形成触媒は、前述のように、通常、遷移金属である。遷移金属触媒は、磁性流体、有機金属、金属塩、又は気相輸送を促進する他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに添加される。触媒は、真空及び不活性雰囲気のいずれも必要とせず、周囲環境の室温で塗布可能である。ある実施形態では、炭素繊維材料が触媒の塗布前に冷却される。
【0115】
オール・プラズマ処理を継続すると、カーボン・ナノチューブの合成がCNT成長反応器で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることで実現されるが、ここでは、炭素プラズマが、触媒を含む繊維にスプレーされる。カーボン・ナノチューブの成長は高温(触媒にもよるが、通常は約500℃〜1000℃の範囲)で発生するので、触媒を含む繊維は炭素プラズマにさらされる前に加熱される。浸出処理のために、炭素繊維材料は、それが軟化するまで任意に加熱されてもよい。加熱後、炭素繊維材料は炭素プラズマを受ける状態になっている。炭素プラズマは、例えば、炭素を含むガス(例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等)を、ガスのイオン化が可能な電界中に通すことにより発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルにより炭素繊維材料に導入される。繊維材料は、プラズマを受けるために、例えば、スプレーノズルから約1センチメートル以内等、スプレーノズルにごく近接している。ある実施形態においては、加熱器は、炭素繊維材料の上側のプラズマ・スプレーに配設され、炭素繊維材料を高温に維持する。
【0116】
連続的なカーボン・ナノチューブ合成の別の構成には、カーボン・ナノチューブを炭素繊維材料で直接合成・成長させるための専用の矩形反応器が含まれる。その反応器は、カーボン・ナノチューブを備えた繊維を生成するための連続的なインライン処理用に設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)処理により、大気圧かつ約550℃から約800℃の範囲の高温で、マルチゾーン反応器(multi-zone reactor)内で成長する。合成が大気圧で生じるということは、繊維上にCNTを合成するための連続処理ラインに反応器を組み込むことを容易にする一因である。このようなゾーン反応器を用いた連続的なインライン処理と整合する別の利点は、CNTの成長が秒単位で発生するというものであり、当該技術分野で標準的な他の手段及び装置構成における分単位(又はもっと長い)とは対照的である。
【0117】
様々な実施形態によるCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0118】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器は横断面が円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では円筒状の反応器がよく用いられる)及び利便性(流体力学は円筒状の反応器にモデル化すると容易であり、また、加熱器システムは円管チューブ(石英等)に容易に対応する)、並びに製造の容易性等の多くの理由がある。本発明は、従来の円筒形状から脱却して、矩形横断面を有するCNT合成反応器を提供する。脱却の理由は以下の通りである。1.反応器により処理される多数の炭素繊維材料は、例えば、形状が薄いテープやシート状等相対的に平面的であるので、円形横断面では反応器の容積を効率的に使用していない。この非効率性は、円筒状のCNT合成反応器にとって、例えば、以下のa)乃至c)等、いくつかの欠点となる。a)十分なシステムパージの維持;反応器の容積が増大すれば、同レベルのガスパージを維持するためにガス流量の増大が必要になる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産には非効率なシステムとなる。b)炭素原料ガス流の増大;前記a)のように、不活性ガス流を相対的に増大させると、炭素原料ガス流を増大させる必要がある。12Kの炭素繊維トウは、矩形横断面を有する合成反応器の全容積に対して2000分の1の容積であることを考慮されたい。同等の円筒状の成長反応器(即ち、矩形横断面の反応器と同様に平坦化された炭素繊維材料を収容するための幅を有する円筒状の反応器)では、炭素繊維材料は、チャンバー容積の17,500分の1の容積である。CVD等のガス蒸着処理(gas deposition processes)は、通常、圧力及び温度だけで制御されるが、容積は蒸着の効率に顕著な影響を与える。矩形反応器の場合、それでもなお過剰な容積が存在する。この過剰容積は無用の反応を促進してしまうが、円筒状反応器は、その容積が約8倍もある。このように競合する反応が発生する機会が増加することにより、所望の反応が有効に生じるには、円筒状反応器チャンバーでは遅くなってしまう。このようなCNT成長の減速は連続処理の開発には問題となる。矩形反応器の構成には、矩形チャンバーの高さが低いことを利用することで、反応器の容積が低減され、これにより容積比を改善して反応をより効率的にできるという1つの利点がある。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約3000倍にしか過ぎない。また、ある実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約4000倍にしか過ぎない。また、更なる実施形態では、矩形合成反応器の全容積は、合成反応器を通過中の炭素繊維材料の全容積に対して約10,000倍未満である。加えて、円筒状反応器を使用した場合、矩形横断面を有する反応器と比較すると、同じ流量比をもたらすためには、より大量の炭素原料が必要である点に注目されたい。当然のことながら、実施形態の中には、合成反応器が、矩形ではないが比較的矩形に類似する多角形状で表される横断面を有し、円形横断面を有する反応器に対して反応器の容積を同様に低減するものがある。c)問題のある温度分布;相対的に小径の反応器が用いられた場合、チャンバー中心からその壁面までの温度勾配はごく僅かである。しかし、例えば、工業規模の生産に用いられる等、サイズが増大した場合、温度勾配は増加する。このような温度勾配により、炭素繊維材料基材の全域で製品品質がばらつくことになる(即ち、製品品質が半径位置の関数として変化する)。この問題は、矩形横断面を有する反応器を用いた場合に殆ど回避される。特に、平面状基材が用いられた場合、反応器の高さを、基材の上方向のスケールサイズとして一定に維持できる。反応器の頂部及び底部間の温度勾配は基本的にごく僅かであるため、生じる熱的な問題や製品品質のばらつきは回避される。2.ガス導入:当該技術分野では、通常、管状炉が使用されるが、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端で導入し、それを反応器に通して他端から引き出す。本明細書に開示された実施形態の中には、ガスが、反応器の中心、又は対象とする成長ゾーン内において、反応器の両側面、又は、反応器の天板及び底板の、いずれかを介して、対称的に導入されるものがある。これにより、流入する原料ガスがシステムの最も高温の部分(CNT成長が最も活発な場所)に連続的に補充されるので、全体のCNT成長速度が向上する。このような一定のガス補充は、矩形のCNT反応器により示される成長速度の向上にとって重要な側面である。
【0119】
(ゾーン分け)
比較的低温のパージゾーンを備えるチャンバーが矩形合成反応器の両端に従属する。出願人は、高温ガスが外部環境(即ち、反応器の外部)と接触すると、炭素繊維材料の分解が増加すると断定した。低温パージゾーンは、内部システム及び外部環境間の緩衝となるものを提供する。当該技術分野で知られている標準的なCNT合成反応器の構成では、通常、基材を慎重に(かつ緩やかに)冷却することが必要とされる。本矩形CNT成長反応器の出口における低温パージゾーンは、連続的なインライン処理で必要とされるような短時間の冷却を実現する。
【0120】
(非接触、ホットウォール型、金属製反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼製のホットウォール型反応器が使用される。このことは、金属、特にステンレス鋼は炭素が析出(即ち、煤及び副生成物の形成)し易いため、常識に反するように考えられる。従って、大部分のCNT反応器の構造には、炭素の析出が少なく、また、石英が洗浄しやすく、試料の観察が容易であることから、石英反応器が使用されている。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上における煤及び炭素析出物の増加は、より着実で高速に、より効率的に、かつ、より安定的にCNTを成長させるということに気付いた。理論に拘束されるものではないが、大気の影響と連動して、反応器内で生じるCVD処理では拡散が制限されることを示している。即ち、触媒に「過度に供給される(overfed)」、つまり、過量の炭素が(反応器が不完全真空下で作動していると仮定した場合よりも)その相対的に高い分圧により反応器システム内で得られる。結果として、開放型システム(特に清浄なもの)では、過量の炭素が触媒粒子に付着してCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、反応器が、金属製の反応器ウォールに煤が析出して「汚れて(dirty)」いる場合に、矩形反応器を意図的に作動する。炭素が反応器のウォール上の単分子層に一度析出すると、炭素は、それ自体を覆って容易に析出する。利用可能な炭素には、この機構により「回収される(withdrawn)」ものがあるので、残りの炭素原料(ラジカル型)が、触媒を被毒させない速度で触媒と反応する。既存のシステムが「清浄に」作動しても、連続処理のために開放状態であれば、成長速度が低下してCNTsの生産量はかなり小さくなる。
【0121】
CNT合成を、前述のように「汚れて」いる状態で実施するのは概して有益であるが、それでも、装置のある部位(例えば、ガスマニフォールド及びガス入口)は、煤が閉塞状態を引き起こした場合、CNTの成長処理に悪影響を与える。この問題に対処するために、CNT成長反応チャンバーの当該部位を、例えば、シリカ、アルミナ又はMgO等の煤抑制コーティングで保護してもよい。実際には、装置のこれらの部位は、煤抑制コーティングで浸漬コーティングが施される。INVAR(商標名)は、高温におけるコーティングの適切な接着性を確実にすると同様のCTE(熱膨張係数)を有し、重要なゾーンにおける煤の著しい堆積を抑制するので、例えば、INVAR等の金属がこれらのコーティングに用いられる。
【0122】
(触媒低減及びCNT合成の組み合わせ)
本明細書に開示されたCNT合成反応器において、触媒低減及びCNT成長のいずれもが反応器内で生じる。低減工程は、個別の工程として実施されると、連続処理に用いるものとして十分タイムリーに行われなくなるため、これは重要である。当該技術分野において知られている標準的なプロセスにおいて、低減工程の実施には、通常1〜12時間かかる。本発明によれば、両工程は1つの反応器内で生じるが、これは、少なくとも1つには、円筒状反応器を用いる当該技術分野では標準的となっている反応器の端部ではなく、中心部に炭素原料ガスが導入されることによるものである。低減処理は、繊維が加熱ゾーンに入ったときに行われる;この時点までに、ガスには、触媒と反応して(水素ラジカルの相互作用により)酸化還元を引き起こす前にウォールと反応して冷える時間がある。低減が生じるのは、この移行領域である。システム内で最も高温の等温ゾーンでCNTの成長は起こり、反応器の中心近傍におけるガス入口の近位で最速の成長速度が生じる。
【0123】
ある実施形態において、緩くまとめられた(loosely affiliated)炭素繊維材料(例えば、炭素トウ)が使用される場合、連続処理には、トウのストランド(strand)及び/又はフィラメントを広げる工程が含まれる。トウは、巻き取られていないときに、例えば、真空ベースの開繊システム(vacuum-based fiber spreading system)を用いて開繊される(spread)。サイジングされた比較的堅い炭素繊維を使用する場合、トウを「軟化」して開繊し易くするために、更に加熱することができる。個々のフィラメントを含んで構成される開繊繊維(spread fiber)は、バラバラに広げられてフィラメントの全表面積を十分にさらすようにしてもよく、これにより、トウが、次の処理工程でより効率的に反応することを可能にする。このような開繊により、3kトウの直径を約4インチ〜約6インチに近づけることができる。開繊されたトウは、前述のようにプラズマシステムで構成される表面処理工程を経る。バリア・コーティングが塗布され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒に浸漬槽を通過する。その結果、繊維表面で放射状に分布した触媒粒子を有する炭素トウ繊維となる。触媒を含んだトウ繊維は、その後、前述のように、例えば、矩形チャンバー等の適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは、大気圧CVD又はPE−CVD処理を介した流れが、毎秒数ミクロンの速度でCNTsを合成するために用いられる。トウ繊維は、こうして放射状に配列されたCNTsを備えて、CNT成長反応器を出る。
【0124】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、更に別の処理工程を経ることもできるが、それは、ある実施形態において、CNTsを官能基化するために用いられるプラズマ処理である。CNTsの更なる官能基化は、特定の樹脂への接着力を促進するために用いられる。このように、実施形態の中には、本発明が、官能基化されたCNTsを有するCNT浸出炭素繊維材料を提供するものがある。
【0125】
巻き取り可能な炭素繊維材料の連続処理の一部として、最終製品にとって利点となる追加的なサイジング剤を塗布するために、CNT浸出炭素繊維材料がサイジング剤の浸漬槽を更に通過してもよい。最終的にウェットワインディング(wet winding)が必要であれば、CNT浸出炭素繊維材料は、樹脂槽を経てマンドレル又はスプールに巻かれる。その結果得られた炭素繊維材料/樹脂の組み合わせは、CNTsを炭素繊維材料上に固着し、これにより、取り扱い及び複合材料の製造をより容易くする。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメント・ワインディング(filament winding)を向上させるために用いられる。このように、例えば、炭素トウ等の炭素繊維上に形成されるCNTsは、樹脂槽を経て、樹脂含浸処理されたCNT浸出炭素トウを生成する。樹脂含浸後、炭素トウは、デリバリー・ヘッド(delivery head)により、回転するマンドレルの表面上に位置付けられる。その後、トウは、既知の方法による正確な幾何学的パターンでマンドレルに巻かれる。
【0126】
前述のワインディング処理により、雄型を介して特徴的に製造されるように、パイプ、チューブ、又は他の構造体がもたらされる。しかし、本明細書に開示されるワインディング処理から作られる構造体は、従来のフィラメント・ワインディング処理から作られるものとは異なる。具体的には、本明細書に開示されるプロセスにおいて、その構造体は、CNT浸出トウを含む複合材料から作られる。このため、このような構造体にとって、CNT浸出トウによりもたらされる強度の向上等は有益となるであろう。
【0127】
ある実施形態において、巻き取り可能な炭素繊維材料上においてCNTsを浸出させる連続処理により、毎分約0.5フィート〜毎分約36フィートのラインスピードが可能となる。CNT成長チャンバーが、長さ3フィートで、750℃の成長温度で稼動するこの実施形態において、例えば、長さが約1ミクロン〜約10ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約6フィート〜毎分約36フィートのラインスピードで処理が行われる。また、例えば、長さが約10ミクロン〜約100ミクロンのCNTsを製造するために、毎分約1フィート〜毎分約6フィートのラインスピードで処理が行われる。長さが約100ミクロン〜約200ミクロンのCNTsを製造するためには、毎分約0.5フィート〜毎分約1フィートのラインスピードで処理が行われる。CNTの長さは、ラインスピード及び成長温度のみに関係しているだけでなく、炭素原料ガス及び不活性ガスのいずれの流量もまたCNTの長さに影響を与える。例えば、高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が1%未満からなる流量により、長さが1ミクロン〜約5ミクロンのCNTsが得られる。高速のラインスピード(毎分6フィート〜毎分約36フィート)で、不活性ガス中の炭素原料が約1%を上回る流量の場合には、5ミクロン〜約10ミクロンの長さを有するCNTsが得られる。
【0128】
ある実施形態においては、複数の炭素材料は同時に処理過程を通過する。例えば、複数のテープ、トウ、フィラメント、ストランド等が並行して処理過程を通過する。こうして、炭素繊維材料の既製の繊維スプールは幾らでも並行に処理過程を通過して、処理が終わると再度巻き取られる。並行して通過して巻き取られる炭素繊維材料の数には、1、2、3、4、5、6、最大でCNT成長反応チャンバーの幅に収まるいかなる数も含まれる。更に、複数の炭素繊維材料が処理過程を通過する場合、回収スプール数は、処理開始時のスプール数よりも少なくなり得る。このような実施形態において、ストランド、トウ等は、当該炭素繊維材料をより高い規則構造の炭素繊維材料(例えば、織物等)に結合する更なる処理を経て送り出される。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にするチョッパー後処理(post processing chopper)を組み込みこむことができる。
【0129】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上に第1の量の第1種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第1種カーボン・ナノチューブは、炭素繊維材料の少なくとも1つの性質(第1性質)を変化させるために選択される。次に、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上において、第2の量の第2種カーボン・ナノチューブを合成することが可能となるが、この場合、第2種カーボン・ナノチューブは、炭素繊維材料の少なくとも1つの性質(第2性質)を変化させるために選択される。
【0130】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。この場合、CNTの種類の変化を伴うこともあり、伴わないこともある。このように、CNTの種類がたとえ変化しないままであっても、CNTsの密度を変化させて用いることにより、元の炭素繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えば、CNTの長さ及び層数が含まれる。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は同一である。この場合に、巻き取り可能な材料の2つの異なる長さに沿って異なる性質が求められれば、例えば、CNTの長さ等、CNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気的/熱的な用途に有用であるのに対し、より短いCNTsは機械的強化の用途に有効である。
【0131】
炭素繊維材料の性質の変化に関する前述の考察を踏まえると、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブが、ある実施形態においては同一であるのに対し、第1種カーボン・ナノチューブ及び第2種カーボン・ナノチューブは、他の実施形態においては異なるということもあり得る。同様に、第1性質及び第2性質が、ある実施形態では同一となり得る。例えば、EMI遮蔽特性は、第1の量の第1種CNTs、及び第2の量の第2種CNTsにより対処される有益な性質であるが、この性質の変化の割合は、異なる量、及び/又は異なる種類のCNTsが使用された場合、それを反映して異なることもあり得る。最後に、ある実施形態において、第1性質及び第2性質が異なることもある。これもCNTの種類の変化を反映する。例えば、第1性質が、短いCNTsによりもたらされる機械的強度である一方、第2性質が、長いCNTsによりもたらされる電気的/熱的性質である。当業者であれば、異なるCNT密度、異なるCNT長さ、及び異なるCNTsの層数(例えば、単層、2層及び多層等)を用いることで、炭素繊維材料の性質を調整できることを認識するであろう。
【0132】
ある実施形態において、本発明のプロセスにより、炭素繊維材料上に第1の量のカーボン・ナノチューブが合成され、この第1の量により、カーボンチューブ浸出炭素繊維材料が炭素繊維材料自体の有する第1群の性質とは異なる第2群の性質を示すことが可能となる。即ち、炭素繊維材料の1以上の性質(例えば、引張強度等)を変化させることができる量の選択である。第1群の性質及び第2群の性質には、炭素繊維材料の向上した性質及び既存の性質を表す同一の性質のうち少なくとも1つが含まれる。ある実施形態においては、CNTの浸出により、炭素繊維材料自体の有する第1群の性質の中には含まれない第2群の性質がカーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料に与えられる。
【0133】
ある実施形態では、第1の量のカーボン・ナノチューブは、カーボン・ナノチューブ浸出炭素繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、せん断弾性係数、硬度(toughness)、圧縮強度、圧縮弾性率、密度、EM吸収率・反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなる群より選択される少なくとも1つの値が、炭素繊維材料自体が有する同一の性質の値と異なるように選択される。
【0134】
CNT浸出炭素繊維材料にとって、CNTsの存在は前述の性質の点で有益であるだけでなく、本処理でより軽量な材料も提供できる。このように低密度かつ高強度の材料は、換言すれば、強度重量比がより高いということができる。
【0135】
当然のことながら本発明の様々な実施形態の働きに実質的に影響を与えない変更も、本明細書で提供された本発明の定義内に含まれる。従って、以下の実施例は、本発明を例示するものであって限定するものではない。
実施例1
【0136】
本実施例は、熱伝導度及び電気伝導度の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。
【0137】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量を最大にすることが目的である。炭素繊維基材として、テックス値800である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0138】
図7は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維材料を生成するためのシステム800を表している。システム800には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナー(tensioner)ステーション805、サイジング剤除去及び繊維開繊器(fiber spreader)ステーション810、プラズマ処理ステーション815、バリア・コーティング塗布ステーション820、空気乾燥ステーション825、触媒塗布ステーション830、溶媒フラッシュオフ(flash-off)ステーション835、CNT浸出ステーション840、繊維束化ステーション845、及び炭素繊維巻き取りボビン850が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0139】
繰り出し及びテンショナーステーション805には、繰り出しボビン806及びテンショナー807が含まれる。繰り出しボビンにより、炭素繊維材料860は処理にまわされるが、繊維には、テンショナー807により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0140】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び繊維開繊器870を含むサイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810に送られる。このステーションで、繊維860上のあらゆるサイジング剤が除去される。通常、繊維からサイジング剤を燃焼させて除去される。この目的のために、例えば、赤外線ヒーター、マッフル炉、及び他の非接触加熱処理等、様々な加熱手段のいかなるものも用いられる。また、サイジング剤の除去は、化学的に達成することもできる。繊維開繊器は繊維を個々のフィラメントに開繊する。開繊繊維には、例えば、水平な均一直径のバー(flat, uniform-bar)の上下で、或いは、可変の直径のバーの上下で、或いは、放射状に広がる溝及び混練(kneading)ローラーを備えたバーの上、振動を生じるバーの上等で、繊維を引き出すといった、様々な技術及び装置が用いられる。開繊は、より多くの繊維表面積を晒すことにより、例えば、プラズマの適用、バリア・コーティングの塗布、触媒の塗布といった下流の工程の効果を高める。
【0141】
多数のサイジング剤除去加熱器865が、段階的、同時的なサイジング除去及び開繊を可能にする繊維開繊器870全体に配置される。繰り出し及びテンショナーステーション805、並びに、サイジング剤除去及び繊維開繊器ステーション810は、繊維産業で一般的に使用されており、当業者であれば、それらの設計及び使用に熟知しているであろう。
【0142】
サイジング剤を燃焼させるために必要な温度及び時間は、(1)サイジング剤、及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性に応じて変化する。炭素繊維材料における従来のサイジング剤は、約650℃で除去される。この温度で、サイジング剤の完全燃焼を確実にするため15分間を要する。温度をこの燃焼温度以上にするとで、燃焼時間を短縮することができる。特定の市販製品のサイジング剤を燃焼させるための最低温度は、熱重量分析を用いて決定される。
【0143】
サイジング剤除去に必要なタイミングによっては、サイジング剤除去加熱器を、必ずしも、CNT浸出に固有の処理に含めなくてもよく、むしろ、除去は独立して(例えば、並行して)行われてよい。この方法において、サイジング剤のない炭素繊維材料の在庫が、サイジング剤除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために集積されて巻き取られている。サイジング剤のない繊維は、その後、繰り出し及びテンショナーステーション805で巻き取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含むものよりも高速に運転される。
【0144】
サイジングされていない繊維880は、プラズマ処理ステーション815へ送られる。本実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より1mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料はヘリウム100%で構成される。
【0145】
プラズマ強化繊維885は、バリア・コーティング塗布ステーション820へ送られる。例示的な本実施例に関して、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上のバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で塗布される。
【0146】
バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、ナノスケールのバリア・コーティングの部分的硬化のために、空気乾燥ステーション825に送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0147】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維890は、触媒塗布ステーション830に送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15体積%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0148】
触媒含有炭素繊維材料895は、溶媒フラッシュオフステーション835へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0149】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維895は、最後にCNT浸出ステーション840に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、相対的に高い成長温度であり、考え得る最速の成長速度がもたらされる。
【0150】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維897は、繊維束化ステーション(fiber bundler station)845で再び束化される。この工程は、ステーション810で行われた開繊工程を実質的に逆転にすることで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0151】
束化されたCNT浸出繊維897は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン850の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維897は、長さ約50μmのCNTsを担持しており、その後、熱伝導度及び電気伝導度を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0152】
前述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気或いは真空中で行われるものがあることに注目されたい。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤を燃焼している場合、繊維は環境隔離されて、ガス放出を阻止すると共に、水分からダメージを受けることを抑制する。便宜上、システム800において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例2
【0153】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(例えば、せん断強度等)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにしてCNTsを浸出させるかを示す。この場合、繊維上により短いCNTsを担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0154】
図8は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム900を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同一のものを多く含んでいる。システム900には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902、繊維開繊器ステーション908、プラズマ処理ステーション910、触媒塗布ステーション912、溶媒フラッシュオフステーション914、第2の触媒塗布ステーション916、第2の溶媒フラッシュオフステーション918、バリア・コーティング塗布ステーション920、空気乾燥ステーション922、第2のバリア・コーティング塗布ステーション924、第2の空気乾燥ステーション926、CNT浸出ステーション928、繊維束化ステーション930、及び、炭素繊維材料巻き取りボビン932が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0155】
炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション902には、繰り出しボビン904とテンショナー906が含まれる。繰り出しボビンにより、炭素繊維材料901は処理にまわされるが、繊維には、テンショナー906により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分2フィートのラインスピードで処理される。
【0156】
繊維材料901は、繊維開繊器ステーション908に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション908の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0157】
繊維材料901は、プラズマ処理ステーション910に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、ひいては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0158】
プラズマ強化繊維911は、触媒塗布ステーション912へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で200倍の希釈率により「EEH−1」(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)をヘキサンで希釈したものである。炭素繊維材料上には、触媒コーティングの単分子層が得られる。希釈する前の「EEH−1」は、3〜15容量%の範囲のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子は、Fe2O3とFe3O4の組成物からなり、直径が約8nmである。
【0159】
触媒含有炭素繊維材料913は、溶媒フラッシュオフステーション914へ送られる。溶媒フラッシュオフステーションは、開繊した炭素繊維全体に空気の流れを送る。本実施例では、触媒含有炭素繊維材料に残った全てのヘキサンをフラッシュオフするために、室温の空気が用いられる。
【0160】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有繊維913は、触媒塗布ステーション912と同一の触媒塗布ステーション916に送られる。溶液は、体積で800倍の希釈率により「EEH−1」をヘキサンで希釈したものである。本実施例に関して、多数の触媒塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマ強化繊維911における触媒の被覆を最適化する。
【0161】
触媒含有炭素繊維材料917は、溶媒フラッシュオフステーション914と同一の溶媒フラッシュオフステーション918へ送られる。
【0162】
溶媒フラッシュオフの後、触媒含有炭素繊維材料917はバリア・コーティング塗布ステーション920に送られる。本実施例において、シロキサンベースのバリア・コーティング溶液が、浸漬コーティングの構成に用いられる。その溶液は、体積で40倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)をイソプロピルアルコールで希釈したものである。炭素繊維材料上において得られるバリア・コーティングの厚さは約40nmである。バリア・コーティングは、周囲環境の室温で塗布される。
【0163】
バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0164】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維921は、バリア・コーティング塗布ステーション920と同一のバリア・コーティング塗布ステーション924に送られる。溶液は、体積で120倍の希釈率により「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」をイソプロピルアルコールで希釈したものである。本実施例に関して、多数のバリア・コーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、触媒含有繊維917におけるバリア・コーティングの被覆率を最適化する。
【0165】
(0177)
バリア・コーティングを施した炭素繊維925は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション922と同一の空気乾燥ステーション926へ送られる。
【0166】
空気乾燥後、バリア・コーティングが施された炭素繊維925は、最後にCNT浸出ステーション928に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の97.75%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.25%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、650℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、650℃は、短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0167】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維929は、繊維束化ステーション930で再び束化される。この工程は、ステーション908で行われた開繊工程を実質的に逆転にすることで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0168】
束化されたCNT浸出繊維931は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン932の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維929は、長さ約5μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0169】
本実施例において、炭素繊維材料は、バリア・コーティング塗布ステーション920及び924の前に、触媒塗布ステーション912及び916を通過する。このコーティングの順序は、実施例1に図示される順序とは逆になっており、炭素繊維基材に対するCNTsの固定を向上させることができる。CNT成長処理中、バリア・コーティング層はCNTsにより基材から持ち上げられ、これにより、(触媒NPの接合を介して)炭素繊維材料とのより直接的な接触を可能にする。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の向上を目的としているので、順序が逆になるコーティング構成は好ましい。
【0170】
上述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム900において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例3
【0171】
本実施例は、機械的性質、特に界面特性(層間せん断等)の向上を目的とする連続処理において、炭素繊維材料に、どのようにCNTsを浸出させるかを示す。
【0172】
本実施例では、繊維上により短いCNTsの担持させることが目的である。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値793である34〜700の12k炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が導入される。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約7μmである。
【0173】
図9は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム1000を表しており、システム800で説明されたステーション及び処理と同一のものを多く含んでいる。システム1000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション1002、繊維開繊器ステーション1008、プラズマ処理ステーション1010、コーティング塗布ステーション1012、空気乾燥ステーション1014、第2のコーティング塗布ステーション1016、第2の空気乾燥ステーション1018、CNT浸出ステーション1020、繊維束化ステーション1022、及び炭素繊維材料巻き取りボビン1024が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0174】
繰り出し及びテンショナーステーション1002には、繰り出しボビン1004とテンショナー1006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料1001を処理に送るが、繊維には、テンショナー1006により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0175】
繊維材料1001は、繊維開繊器ステーション1008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション1008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、繊維を個々の要素に開繊する。
【0176】
繊維材料1001は、プラズマ処理ステーション1010に送られる。この実施例に関して、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。ガス状の原料は、不活性ガス流全体(ヘリウム)の1.1%の量の酸素を含んでいる。炭素繊維材料の表面における酸素含有量の制御は、後のコーティングの接着性を高める効果的な方法であり、延いては、炭素繊維複合材料の機械的性質の向上にとって好ましいものである。
【0177】
プラズマ強化繊維1011は、コーティング塗布ステーション1012へ送られる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響をなくす点で有益である。理論に拘束されるものではないが、炭素繊維の分解は、(CNTsの成長には不可欠な温度に等しい)高温における触媒NPsの焼結により増大する。このような影響は、各触媒NP自体をバリア・コーティングで覆うことにより制御することができる。熱的/電気的性質ではなく、機械的性質の増大が目的とされているので、炭素繊維ベースの材料を完全な状態で維持することは好ましく、このため、「ハイブリッド」コーティングを採用する。
【0178】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料1013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、100℃〜約500℃の範囲である。
【0179】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1013は、コーティング塗布ステーション1012と同一のコーティング塗布ステーション1016へ送られる。同一の「ハイブリッド」溶液が用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維1011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0180】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション1014と同一の空気乾燥ステーション1018に送られる。
【0181】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維1017は、最後にCNT浸出ステーション1020に送られる。本実施例では、12インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.7%は不活性ガス(窒素)であり、残りの1.3%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、675℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、675℃は、より短いCNTの成長制御を可能にする、相対的に低い成長温度である。
【0182】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維1021は、繊維束化ステーション1022で再び束化される。この工程は、ステーション1008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0183】
束化されたCNT浸出繊維1021は、貯蔵のために、巻き取り繊維ボビン1024の周囲に巻き取られる。CNT浸出繊維1021は、長さ約2μmのCNTsを担持しており、その後、機械的性質を向上させる複合材料に使用可能な状態となる。
【0184】
上述の工程の中には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
実施例4
【0185】
本実施例は、電極用途のための特定の表面領域改善を実証するために、連続処理において、炭素繊維材料にどのようにCNTsを浸出させ、その後、C‐Cペーパーに組み込むかを示した。
【0186】
本実施例では、繊維へのCNTsの担持量をより高くすることを目的とした。本実施例において、炭素繊維基材として、サイジングされていない、テックス値446であるHexTow(登録商標)IM7 12k炭素繊維トウ(Hexcel Corporation, Stamford, Ct)が導入された。この炭素繊維トウにおける個々のフィラメントは、直径が約5.2μmである。
【0187】
図13は、本発明の例示的な実施形態によるCNT浸出繊維を生成するためのシステム3000を表している。システム3000には、炭素繊維材料の繰り出し及びテンショナーステーション3002、繊維開繊器ステーション3008、プラズマ処理ステーション3010、コーティング塗布ステーション3012、空気乾燥ステーション3014、第2のコーティング塗布ステーション3016、第2の空気乾燥ステーション3018、CNT浸出ステーション3020、繊維束化ステーション3022、炭素繊維材料巻き取りボビン3024、及び繊維チョッパー3035が、図示のように相互に関連して含まれる。
【0188】
繰り出し及びテンショナーステーション3002には、繰り出しボビン3004とテンショナー3006が含まれる。繰り出しボビンは、炭素繊維材料3001を処理に送るが、繊維には、テンショナー3006により張力がかけられる。本実施例に関して、炭素繊維は、320グラムの張力で毎分5フィートのラインスピードで処理される。
【0189】
繊維材料3001は、繊維開繊器ステーション3008に送られる。この繊維は、サイジング剤を備えずに製造されているので、サイジング剤除去処理は、繊維開繊器ステーション3008の一部として組み込まれていない。繊維開繊器は、繊維開繊器870で説明した方法と同様に、4インチの距離へ繊維を個々の要素に開繊する。
【0190】
繊維材料3001は、プラズマ処理ステーション3010に送られる。この連続処理運転では、大気中プラズマ処理が、開繊した炭素繊維材料より12mm離れた距離から「流れに沿った」形で利用される。このプラズマガス流は、20slpmの割合で流れるヘリウム100%のガス流である。
【0191】
プラズマ強化繊維3011は、コーティング塗布ステーション3012へ送られる。この連続処理運転では、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液、及びバリア・コーティング材が、単一の「ハイブリッド」溶液中で混合され、浸漬コーティングの構成に用いられる。「ハイブリッド」溶液には、体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフランが含まれる。このような「ハイブリッド」コーティングを採用すると、高温における繊維分解の影響をなくす点で有益である。
【0192】
触媒を含有し、バリア・コーティングを施された炭素繊維材料3013は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション3014へ送られる。空気乾燥ステーションは、開繊した炭素繊維全体に加熱した空気の流れを送る。用いられる温度は、300℃である。
【0193】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3013は、コーティング塗布ステーション3012と同一のコーティング塗布ステーション3016へ送られる。「ハイブリッド」溶液には同一のものが用いられる(体積比で、1の「EEH−1」、5の「Accuglass(登録商標)T-11スピンオンガラス」、24のヘキサン、24のイソプロピルアルコール、及び146のテトラヒドロフラン)。本実施例に関して、多数のコーティング塗布ステーションを含む構成を用いて、プラズマで改良された繊維3011上における「ハイブリッド」コーティングの被覆率を最適化する。
【0194】
触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3017は、バリア・コーティングを部分的に硬化させるために、空気乾燥ステーション3014と同一の空気乾燥ステーション3018に送られる。
【0195】
空気乾燥後、触媒及びバリア・コーティングを含有する炭素繊維3017は、その後CNT浸出ステーション3020に送られる。この連続処理運転では、24インチの成長ゾーンを備えた矩形反応器を用いて、大気圧でのCVD成長を利用する。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.0%は、炭素原料(アセチレン)である。成長ゾーンは、750℃に保持される。前述の矩形反応器に関して、750℃は、長いCNTの成長制御を可能にするのに使用する相対的に高い成長温度である。
【0196】
CNTの浸出後、CNT浸出繊維3021は、繊維束化ステーション3022で再び束化される。この工程は、ステーション3008で行われた開繊工程を実質的に逆転することで、繊維の個々のストランドを再結合する。
【0197】
束化されたCNT浸出繊維3021は、その後、繊維チョッパー3035への移送を容易にするために、巻き取り繊維ボビン3024の周囲に巻き取られる。
【0198】
その後、巻き取られたCNT浸出繊維3030は、繊維チョッパー3035を通過する。短CNT浸出繊維3040を、2つの異なる長さ(3mmと6mm)で製造した。
【0199】
2つの繊維長さの短CNT浸出繊維3040を、65重量%の樹脂と35重量%の繊維の比率でフェノール樹脂と混合した。得られた材料を、圧力200psi、温度180℃で、5時間硬化して四角いパネルの形にした。得られた硬化され形作られたフェノールパネルを、長さ6mmの短CNT浸出繊維3040について図11に示す。
【0200】
その後、硬化され形作られたフェノールパネル3045を、不活性(窒素)雰囲気下でオーブン内に載置し、炭化処理或いは熱分解処理を開始するために950℃の温度で3時間晒した。単一の熱分解工程だけが、全比表面積を向上する空隙を作るためにこの処理で達成される。
【0201】
C‐Cペーパー3050を、3mmと6mmの短CNT浸出繊維3040を用いて作った。3mmの短繊維を含んだCNTsを備えるC‐Cマトリックスの一例を、図12に示す。3mmと6mmのC‐Cペーパーと関連する比表面積は、それぞれ257m2/gと284m2/gであった。
【0202】
前述の工程には、環境隔離のために、不活性雰囲気あるいは真空中で行われるものがあることに注目されたい。便宜上、システム1000において、環境隔離は、製造ラインの最初の炭素繊維材料の繰り出し及び張力調整、及び、製造ラインの最後の繊維巻き取りを除いて、全ての工程に提供される。
【0203】
本発明は、開示された実施形態を参照して説明されたが、当業者であれば、これらが、本発明の例示にすぎないことを容易に認識するであろう。当然ではあるが、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含んで構成された炭素/炭素(C/C)複合材料。
【請求項2】
前記不織,CNT浸出炭素繊維材料は、連続CNT浸出炭素繊維材料である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項3】
前記不織,CNT浸出炭素繊維材料は、短CNT浸出炭素繊維材料である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項4】
前記炭素マトリックスは、有機樹脂から抽出される請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項5】
前記炭素マトリックスは、タール又はピッチから抽出される請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項6】
リン又はホウ素を含むマトリックス改質剤を、更に含んで構成された請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項7】
遊離(loose)CNTs,フラーレン,ナノ・オニオン(nano-onions),ナノフレーク(nanoflakes),ナノスクロール(nanoscrolls),ナノペーパー(nanopaper),ナノ繊維(nanofibers),ナノホーン(nanohorns),ナノシェル(nanoshells),ナノワイヤー(nanowires),ナノスプリング(nanosprings),ナノ結晶(nanocrystals),ナノダイヤモンド(nanodiamonds),バッキーダイヤモンド(bucky diamond),ナノコンテナ(nanocontainers),ナノメッシュ(nanomesh),ナノスポンジ(nanosponges),ナノスケールのグラフェンプレート(NGPs)及びナノビーズ(nanobeads)からなる群から選択されたドーパント炭素ナノ構造を、更に含んで構成された請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項8】
前記不織CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約10000CNTsの範囲である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項9】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約5000CNTsの範囲である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項10】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約0.1ミクロンから約500ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項11】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約250ミクロンから約500ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項12】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約50ミクロンから約250ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項13】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約0.5重量パーセントから約40重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項14】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約35重量パーセントから約40重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項15】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約15重量パーセントから約30重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項16】
約0.5体積パーセントから約60体積パーセントの範囲で前記CNT浸出炭素繊維材料の体積を有する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項17】
約30体積パーセントから約40体積パーセントの範囲で前記CNT浸出炭素繊維材料の体積を有する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項18】
炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料を含んで構成され、前記CNT浸出炭素繊維材料が織物である場合、CNTsを、不織状態の元の炭素繊維材料上に浸出する炭素/炭素複合材料。
【請求項19】
CNT浸出炭素繊維トウを形成するために開繊炭素繊維トウ上にCNTsを成長させること、前記CNT浸出炭素繊維トウを成形すること及び前記成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周りに炭素マトリックスを形成すること、からなるプロセスによって製造された炭素/炭素複合材料。
【請求項20】
炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含んで構成され、前記CNT浸出炭素繊維材料がバリア・コーティングを含む炭素/炭素複合材料。
【請求項21】
炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む炭素/炭素複合材料を含んで構成された製品。
【請求項22】
前記CNT浸出炭素繊維材料が、連続である請求項21に記載の製品。
【請求項23】
前記CNT浸出炭素繊維材料が、刻まれている請求項21に記載の製品。
【請求項24】
保護コーティング、マトリックス改質剤、又はこれらの組み合わせを、更に含んで構成された請求項21に記載の製品。
【請求項25】
前記保護コーティングが、金属又は酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、及びこれらの組み合わせから選択された形態の半金属である請求項24に記載の製品
【請求項26】
前記マトリックス改質剤が、ホウ素又はリンを含む請求項24に記載の製品。
【請求項27】
ブレーキローターである請求項21に記載の製品。
【請求項28】
極超音速機の一部である請求項21に記載の製品。
【請求項29】
炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含んで構成される炭素/炭素複合材料の製造方法であって、
連続CNT浸出炭素繊維を型板構造体の周囲に巻き取る工程と、
初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形する工程と、
を含む炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項30】
前記炭素マトリックス成形工程が、炭素マトリックス前駆体の熱分解をその後に伴って、前記巻き取られた連続CNT浸出炭素繊維材料を浸出する請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項31】
前記炭素マトリックス前駆体が、有機樹脂である請求項30に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項32】
前記有機樹脂が、フェノール樹脂である請求項31に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項33】
前記炭素マトリックス前駆体が、タール又はピッチである請求項30に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項34】
前記巻き取り工程が、炭素マトリックス前駆体を用いたウエットワインディングを含み、前記成形工程が、熱分解を含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項35】
前記炭素マトリックスを成形することが、化学蒸着(CVD)及び/又は化学蒸着浸透(CVI)を含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項36】
前記初期の炭素/炭素複合材料の高密度化を、更に含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項37】
高密度化が、前記初期の炭素/炭素複合材料に対して、炭素マトリックス前駆体への浸出と熱分解を繰返し行うことを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項38】
高密度化が、前記炭素/炭素複合材料に対して、CVD及び/又はCVIを繰返し行うことを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項39】
高密度化が、前記初期の炭素/炭素複合材料にCNT成長触媒を付着することと、前記触媒含有初期炭素/炭素複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含んだCVD条件に晒すこととを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項40】
炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含んで構成される炭素/炭素複合材料の製造方法であって、
混合物を形成するために、炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維材料を分散する工程と、
型内に前記混合物を載置する工程と、
初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形する工程と、
を含む炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項41】
前記炭素マトリックス成形工程は、前記炭素マトリックス前駆体を熱分解することを含む請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項42】
前記炭素マトリックス前駆体が、有機樹脂である請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項43】
前記有機樹脂が、フェノール樹脂である請求項42に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項44】
前記炭素マトリックス前駆体が、タール又はピッチである請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項45】
前記初期の炭素/炭素複合材料の高密度化を、更に含む請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項46】
高密度化は、前記初期の炭素/炭素複合材料に対して、炭素マトリックス前駆体の浸出と熱分解を繰返し行うことを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項47】
高密度化は、前記炭素/炭素複合材料に対してCVDを繰返し行うことを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項48】
高密度化は、前記初期の炭素/炭素複合材料にCNT成長触媒を付着することと、前記触媒含有初期炭素/炭素複合材料をCNT成長を促進するための温度から炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含んだCVD条件に晒すこととを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項1】
炭素マトリックスと不織,カーボン・ナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料とを含んで構成された炭素/炭素(C/C)複合材料。
【請求項2】
前記不織,CNT浸出炭素繊維材料は、連続CNT浸出炭素繊維材料である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項3】
前記不織,CNT浸出炭素繊維材料は、短CNT浸出炭素繊維材料である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項4】
前記炭素マトリックスは、有機樹脂から抽出される請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項5】
前記炭素マトリックスは、タール又はピッチから抽出される請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項6】
リン又はホウ素を含むマトリックス改質剤を、更に含んで構成された請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項7】
遊離(loose)CNTs,フラーレン,ナノ・オニオン(nano-onions),ナノフレーク(nanoflakes),ナノスクロール(nanoscrolls),ナノペーパー(nanopaper),ナノ繊維(nanofibers),ナノホーン(nanohorns),ナノシェル(nanoshells),ナノワイヤー(nanowires),ナノスプリング(nanosprings),ナノ結晶(nanocrystals),ナノダイヤモンド(nanodiamonds),バッキーダイヤモンド(bucky diamond),ナノコンテナ(nanocontainers),ナノメッシュ(nanomesh),ナノスポンジ(nanosponges),ナノスケールのグラフェンプレート(NGPs)及びナノビーズ(nanobeads)からなる群から選択されたドーパント炭素ナノ構造を、更に含んで構成された請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項8】
前記不織CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約10000CNTsの範囲である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項9】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNT密度は、1平方ミクロン当たり約100CNTsから約5000CNTsの範囲である請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項10】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約0.1ミクロンから約500ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項11】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約250ミクロンから約500ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項12】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、約50ミクロンから約250ミクロンの範囲の長さである請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項13】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約0.5重量パーセントから約40重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項14】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約35重量パーセントから約40重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項15】
前記CNT浸出炭素繊維材料のCNTsは、前記CNT浸出炭素繊維の約15重量パーセントから約30重量パーセントの範囲で存在する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項16】
約0.5体積パーセントから約60体積パーセントの範囲で前記CNT浸出炭素繊維材料の体積を有する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項17】
約30体積パーセントから約40体積パーセントの範囲で前記CNT浸出炭素繊維材料の体積を有する請求項1に記載の炭素/炭素複合材料。
【請求項18】
炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料を含んで構成され、前記CNT浸出炭素繊維材料が織物である場合、CNTsを、不織状態の元の炭素繊維材料上に浸出する炭素/炭素複合材料。
【請求項19】
CNT浸出炭素繊維トウを形成するために開繊炭素繊維トウ上にCNTsを成長させること、前記CNT浸出炭素繊維トウを成形すること及び前記成形されたCNT浸出炭素繊維トウの周りに炭素マトリックスを形成すること、からなるプロセスによって製造された炭素/炭素複合材料。
【請求項20】
炭素マトリックスとCNT浸出炭素繊維材料とを含んで構成され、前記CNT浸出炭素繊維材料がバリア・コーティングを含む炭素/炭素複合材料。
【請求項21】
炭素マトリックスと不織CNT浸出炭素繊維材料とを含む炭素/炭素複合材料を含んで構成された製品。
【請求項22】
前記CNT浸出炭素繊維材料が、連続である請求項21に記載の製品。
【請求項23】
前記CNT浸出炭素繊維材料が、刻まれている請求項21に記載の製品。
【請求項24】
保護コーティング、マトリックス改質剤、又はこれらの組み合わせを、更に含んで構成された請求項21に記載の製品。
【請求項25】
前記保護コーティングが、金属又は酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、及びこれらの組み合わせから選択された形態の半金属である請求項24に記載の製品
【請求項26】
前記マトリックス改質剤が、ホウ素又はリンを含む請求項24に記載の製品。
【請求項27】
ブレーキローターである請求項21に記載の製品。
【請求項28】
極超音速機の一部である請求項21に記載の製品。
【請求項29】
炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含んで構成される炭素/炭素複合材料の製造方法であって、
連続CNT浸出炭素繊維を型板構造体の周囲に巻き取る工程と、
初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形する工程と、
を含む炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項30】
前記炭素マトリックス成形工程が、炭素マトリックス前駆体の熱分解をその後に伴って、前記巻き取られた連続CNT浸出炭素繊維材料を浸出する請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項31】
前記炭素マトリックス前駆体が、有機樹脂である請求項30に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項32】
前記有機樹脂が、フェノール樹脂である請求項31に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項33】
前記炭素マトリックス前駆体が、タール又はピッチである請求項30に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項34】
前記巻き取り工程が、炭素マトリックス前駆体を用いたウエットワインディングを含み、前記成形工程が、熱分解を含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項35】
前記炭素マトリックスを成形することが、化学蒸着(CVD)及び/又は化学蒸着浸透(CVI)を含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項36】
前記初期の炭素/炭素複合材料の高密度化を、更に含む請求項29に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項37】
高密度化が、前記初期の炭素/炭素複合材料に対して、炭素マトリックス前駆体への浸出と熱分解を繰返し行うことを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項38】
高密度化が、前記炭素/炭素複合材料に対して、CVD及び/又はCVIを繰返し行うことを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項39】
高密度化が、前記初期の炭素/炭素複合材料にCNT成長触媒を付着することと、前記触媒含有初期炭素/炭素複合材料をCNT成長を促進するための温度を炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含んだCVD条件に晒すこととを含む請求項36に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項40】
炭素マトリックス内にCNT浸出炭素繊維を含んで構成される炭素/炭素複合材料の製造方法であって、
混合物を形成するために、炭素マトリックス前駆体に短CNT浸出炭素繊維材料を分散する工程と、
型内に前記混合物を載置する工程と、
初期の炭素/炭素複合材料を形成するために炭素マトリックスを成形する工程と、
を含む炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項41】
前記炭素マトリックス成形工程は、前記炭素マトリックス前駆体を熱分解することを含む請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項42】
前記炭素マトリックス前駆体が、有機樹脂である請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項43】
前記有機樹脂が、フェノール樹脂である請求項42に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項44】
前記炭素マトリックス前駆体が、タール又はピッチである請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項45】
前記初期の炭素/炭素複合材料の高密度化を、更に含む請求項40に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項46】
高密度化は、前記初期の炭素/炭素複合材料に対して、炭素マトリックス前駆体の浸出と熱分解を繰返し行うことを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項47】
高密度化は、前記炭素/炭素複合材料に対してCVDを繰返し行うことを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【請求項48】
高密度化は、前記初期の炭素/炭素複合材料にCNT成長触媒を付着することと、前記触媒含有初期炭素/炭素複合材料をCNT成長を促進するための温度から炭化温度まで上昇させる温度傾斜を含んだCVD条件に晒すこととを含む請求項45に記載の炭素/炭素複合材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2013−511465(P2013−511465A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540115(P2012−540115)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057520
【国際公開番号】WO2011/063298
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057520
【国際公開番号】WO2011/063298
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】
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