説明

炭素−炭素結合形成反応用固体触媒

【課題】 不飽和結合を有する化合物と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物との、炭素−炭素結合形成反応に用いることができる、分離回収が容易で再利用効率の高い新規の固体触媒を提供すること。
【解決手段】 不飽和結合を有する化合物(x1)と、活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)と、を用いて炭素−炭素結合を形成する付加反応又は縮合反応に用いる固体触媒であって、該固体触媒が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)をシリカ(B)が被覆してなる複合体であることを特徴とする炭素−炭素結合形成反応用固体触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素−炭素結合形成反応に用いる有機・無機複合体である固体触媒に関し、詳しくは、不飽和結合を有する化合物と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物とを付加反応または縮合反応させて、炭素−炭素結合を形成する際に用いる固体触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和結合を有する化合物と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物とが付加反応または縮合反応することにより、炭素−炭素結合を形成させる反応は、化学産業、特にファインケミストリー分野、医薬品用中間体の製造等には欠かせない反応であり、その反応には常に触媒が要求される。炭素−炭素結合形成反応の中でも、クネーフェナーゲル(Knoevenagel)反応やマイケル(Michael)反応は、塩基性を示す物質を触媒として用いることから、該触媒に関する技術開発も絶えず展開されている。一般的に、上記触媒として古くから塩基性を示す有機アミン化合物を用いることが多いが、反応系から該有機アミン化合物を完全に除くことが困難であるため、精製工程にかかるコストが高くなりやすく、更には精製工程で生じる廃棄物量も多くなり環境負荷を高めてしまうことになる。従って、触媒と生成物との分離や触媒の再利用などの視点から固体触媒の開発が多く行われてきた。例えば、ルイス塩基性を有する無機酸化物触媒(例えば、非特許文献1参照。)、有機アミンまたは有機塩基性残基がシリカ表面に化学結合で固定された触媒(例えば、非特許文献2および3参照。)、メソポーラスシリカ中にアミン残基が固定されてなる固体触媒(例えば、非特許文献4参照。)など、数多くの固体触媒が提案されている。
【0003】
前記非特許文献1〜4で提案された固体触媒は、何れの場合も触媒機能を有する化合物の一部が固体表面に化学的に結合されていることを特徴とする。このため、反応させる原料化合物を該固体表面にいかにして濃縮させるか、また、反応後の生成物を該固体表面からいかにして効率よく拡散させるか等の課題が多く、分子レベルで反応を促進させうる分子触媒の様な十分な活性を発現させることが困難である。また、該固体触媒を再利用しようとする場合には、固体表面に結合されている触媒機能を有する化合物の構造変化が起こりやすいために触媒活性の低下が避けられなく、使用する固体触媒量を増やすことが必要となる。これらの問題点を有することから、前記非特許文献1〜4等で提案されている塩基性固体触媒での工業化は通常、困難である。
【0004】
触媒を固体表面に固定することとは反対に、触媒として機能する化合物の分子をポリマーカプセル中に閉じ込める方法も開示されている(例えば、非特許文献5参照。)。この方法は触媒活性を低下させることはないが、繰り返し使用を考えた場合、固体触媒に比べると回収などの作業は簡便ではない。
【0005】
不飽和結合を有する化合物と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物とが関わる炭素−炭素結合形成反応において、塩基性を示す有機アミン化合物を触媒とする場合、その触媒が分子触媒的に機能し、しかも、それが固体中に閉じ込まれていることになれば、触媒の活性向上、分離回収の簡便化、再利用効率の向上など多くの利点をもたらすことが予想され、それが更に環境負荷の低減、コスト削減を達成させることにも繋がると考えられる。従って、このような触媒の開発は産業上ますます重要な課題となり、多くの技術開発が求められている。
【0006】
【非特許文献1】A.Corma et al.,J.Catal.,1990年、126巻、192頁
【非特許文献2】J.L.Defreese et al.,Chem.Mater.,2005年、17巻、6503頁
【非特許文献3】C.Paun et al.,J.Mol.Cat.A:Chem.,2007年、269巻、6頁
【非特許文献4】E.DeOliveira et al.,J.Mol.Cat.A:Chem.,2007年、271巻、63頁
【非特許文献5】Sarah L.Poe et al.,J.AM.CHEM.SOC.,2006年,128巻,15586頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、不飽和結合を有する化合物と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物との、炭素−炭素結合形成反応に用いることができる、分離回収が容易で再利用効率の高い新規の固体触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーがシリカで被覆され、ナノメートルオーダーで両者が複合されてなるナノ構造複合体が、炭素−炭素結合形成反応時に使用する塩基性の固体触媒として好適に用いることができ、更に、該複合体は反応液から簡便に分離回収可能で、再利用時にも触媒活性の機能低下がないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、不飽和結合を有する化合物(x1)と、活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)と、を用いて炭素−炭素結合を形成する付加反応又は縮合反応に用いる固体触媒であって、該固体触媒が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)をシリカ(B)が被覆してなる複合体であることを特徴とする炭素−炭素結合形成反応用固体触媒を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが分子会合体の状態でシリカが形成するシェル中に閉じ込まれているナノ構造複合体を炭素−炭素結合形成反応における固体触媒として用いることで、化学産業上の有用な化合物、医薬用中間体製造プロセスを一新させることができる。特に、触媒効率を飛躍的に向上させることが可能であることから、環境負荷低減に大きく貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では、不飽和結合を有する化合物(x1)と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)との炭素−炭素結合形成反応に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)をシリカ(B)が被覆してなる複合体、詳しくは、該直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)が分子会合体状態でシリカ(B)が形成するシェル中に閉じ込まれ、両者がナノメートルオーダーで複合化されてなるナノ構造複合体を、塩基性の固体触媒として使用することを特徴とする。
【0012】
不飽和結合を有する化合物(x1)と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)とが関わる炭素−炭素結合形成反応の触媒としては、低分子アミンと高分子アミンを用いることができる。しかし、低分子アミンでは、そのアミンの構造が変性してしまうと、触媒は完全に失活してしまうし、また、低分子アミンを分子レベルで固体中に閉じ込むことはほとんど不可能である。従って、分子触媒の効率的な閉じ込みのためには、高分子アミン、特には高分子ポリアミンを用いることが前提となる。高分子ポリアミンには、ポリマー鎖に数多いアミンが含まれているので、アミン構造に部分変性が起こっても、触媒失活は基本的に起こらないと考えられる。高分子ポリアミンとしては、ポリエチレンイミンが重要な塩基性分子触媒として知られている。ポリエチレンイミンはゾル−ゲル反応によってシリカを析出させる触媒としても有効であるが、それと同時に析出したシリカとハイブリッドされ、容易にポリエチレンイミン・シリカ複合体を形成しうる。特に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーをシリカの析出時に使用する際には、該ポリマーの結晶性ポリマーフィラメントを芯とし、そのフィラメントがシリカで被覆されてなるファイバー状の複合体を得ることができる。これはまさに、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーがシリカの篭中に閉じ込まれたようなナノ構造複合体である。
【0013】
本発明者らは既に、主鎖に2級アミンしか持たない直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー、又は該ポリマーに金属イオンや遷移金属が配位してなるポリマー金属錯体が水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中、その会合体表面にてアルコキシシラン等の金属アルコキシド類を加水分解的に縮合させ、シリカなどの酸化金属を析出させることで、該ポリマーの結晶性フィラメントをシリカで被覆した有機無機複合ナノファイバと、該ナノファイバを基礎構造とする形状変化に富んだナノ構造複合体およびそれらの製法を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報を参照。)。この技術の基本原理は、溶液中で直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマー又は該ポリマーの金属錯体からなる結晶性会合体を自発的に成長させることにあり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出(いわゆる、ゾルゲル反応)を自発的に進行させることで、ナノメートルオーダーで直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとが複合されてなる構造体を得たものである。
【0014】
このようにして得られるシリカ含有ナノ構造複合体は、ナノファイバー、ナノシート状構造の空間配置によりマイクロ次元での様々な形状を有することができ、しかもこれらの複合体の比表面積が高いことを大きな特徴とする。仮にこの様な比表面積の高い複合体を触媒として用いることができるのであれば、そのメリットは大きいと考えられる。本発明者は該複合体を炭素−炭素結合形成反応時に使用する塩基性の固体触媒として用いたところ、触媒効率が高く、且つ反応液からの分離回収・再利用が容易であることを見出した。この効果は、該複合体中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが、該反応時に使用される媒体中で溶媒和され、それが分子触媒の如く振る舞い、しかも、該ポリマーはシリカが形成しているシェルから漏れることができないことによるものと推測される。
【0015】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明で用いる固体触媒は塩基性を有するものであり、この塩基性は直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)に基づくものである。該ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、媒体中で安定な会合体を形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0016】
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、結晶性会合体形成能が高いほど好ましい。従って、単独重合体であっても共重合体であっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献を参照。)により得ることができる。
【0017】
後述するように、前記ポリマー(A)は様々な溶液に溶解して用いることができるが、この時、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)以外に、該ポリマー(A)と相溶するその他のポリマーと混合して用いることができる。その他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリプロピレンイミンなどを挙げることができる。
【0018】
また、前記ポリマー(A)と金属イオン(C)とを同一媒体中に存在させると、それらがポリマー金属錯体を形成し、得られる複合体中に金属イオン(C)を含有させることができる。この時、前記ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)部分のエチレンイミン単位が、金属イオン(C)の10倍〜200倍(モル比)である様に用いることが望ましい。
【0019】
前記金属イオン(C)の金属種としては、前記ポリマー(A)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等のいずれでも良く、単独種であっても複数種が混合されていても良い。
【0020】
上記アルカリ金属としては、Li,Na,K,Cs等が挙げられ、該アルカリ金属のイオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO,SO,PO,ClO,PF,BF,FCSOなどが挙げられる。
【0021】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ba,Ca等が挙げられる。
【0022】
遷移金属系の金属イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLn−)であっても、好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0023】
遷移金属カチオンとしては、各種の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO,SO、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、エチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制してイオン錯体を調製することが好ましい。
【0024】
また遷移金属アニオンとしては、各種の遷移金属アニオン(MOn−)、例えば、MnO,MoO,ReO,WO,RuO,CoO,CrO,VO,NiO,UOのアニオン等が挙げられる。
【0025】
更に、金属イオン(C)としては、前記遷移金属アニオンが、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ(B)中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類等を挙げることができる。
【0026】
さらに、各種の金属が含まれたアニオン(MLn−)、例えば、AuCl,PtCl,RhCl,ReF,NiF,CuF,RuCl,InCl等、金属がハロゲンに配位されたアニオンもイオン錯体形成に好適に用いることができる。
【0027】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlのイオンが好ましい。
【0028】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0029】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)がシリカ(B)で被覆されてなる複合体(C)]
直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)がシリカ(B)で被覆されてなる複合体(C)は、基本的にはポリマー(A)とシリカ(B)との複合ナノファイバーまたは複合ナノシートの集合体であり、その集合体が様々なモルフォロジーを形成する。例えば、ナノファバーのバンドル、ナノファイバーのスポンジ、ナノファイバーのウニ、ナノファイバーのデンドライドなど、多様多種の階層構造を構成することができる。
【0030】
上記各種形状における基本ユニットの複合ナノファイバーの太さは10〜100nmの範囲であり、そのファイバーの内部に直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の会合体が含まれている。
【0031】
また、上記各種形状における集合体の大きさは1〜100μmであり、形状によりその大きさは変化する。
【0032】
複合体(C)中、前記ポリマー(A)の含有率は5〜40質量%で調整可能である。ポリマー(A)成分の含有率を変えることで、集合体構造(高次構造)を変えることもできる。
【0033】
また、該複合体(C)中に金属イオン(C)を含有させる場合には、その金属イオン(C)の種類によって高次構造を制御することも可能である。この場合においても、基本ユニットは前記したようなナノファイバーであり、これらが、組み合わさって複雑形状を形成する。
【0034】
金属イオン(C)を含有させる場合、該金属イオン(C)の含有量としては、前記ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/4〜1/200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変えることによって、高次構造を変化させることができる。また、この時の複合体は金属種に応じた発色をすることもある。
【0035】
本発明で固体触媒として用いる複合体の比表面積は高く、基本的に100〜400m/g範囲で調整可能である。その比表面積は、ナノファイバーの太さを小さくすることで増大させることができる。
【0036】
複合体(C)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は基本的に該ポリマー(A)の結晶性会合体(ポリマーと水が関わった結晶体)として含まれている。従って、X線回折では、その結晶性会合体由来の散乱パターンが現われることがある。
【0037】
[炭素−炭素結合形成反応]
本発明でいう炭素−炭素結合形成反応とは、不飽和結合を有する化合物(x1)と活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)とが関わる反応を言う。例えば、アルデヒド、ケトン等の不飽和の炭素原子を含む化合物、またはアルデヒド、ケトン、エステル、アミド基にC=C結合が共役された構造を含む化合物へ、強い電子吸引基にメチレンまたはメチンが結合している活性メチレン又は活性メチンを有する化合物が反応することで炭素−炭素結合が形成される反応であり、クネーフェナーゲル(Knoevenagel)反応やマイケル(Michael)反応として知られている。
【0038】
前記アルデヒド類としては、脂肪族、芳香族に限らず、化合物中にアルデヒド基が含まれていれば用いることができる。前記ケトン類としても、脂肪族、芳香族に限らず、化合物中にケトン基が含まれていれば用いることができる。
【0039】
活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)としては、そのメチレン又はメチンに強い電子吸引基が結合されることが要求されるが、例えば、−CN,−NO,−COOH,−CO(O)CH,−CO(O)C,−C(O)NH,−C(O)NHCH,−C(O)N(CH、−S(0)OPh等の官能基が単独または二つが組み合わせられてメチレン炭素に結合された化合物であると好ましく用いることができる。
【0040】
以下、上記アルデヒド類、ケトン類化合物等の不飽和結合を有する化合物(x1)を電子のアクセプターとして定義し、一方、活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)を電子のドナーとして定義する。
【0041】
アクセプターとしての化合物は、例えば、アルデヒドまたはケトンに、置換または未置換の脂肪族、環状脂肪族、ヘテロ脂肪族、ヘトロ環状脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族基が結合されたものである。詳しくは、脂肪族基としては、例えば、メチル、エチル、i−プロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等のアルキル基を挙げることができる。また、プロペニル、イソプロペニル、イソブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、n−2−ペンテニル、n−2−オクテニル等のアルケニル基であっても良い。置換基を有する脂肪族基としては、例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシ−n−プロピル、1−ヒドロキシ−i−プロピル、1−ヒドロキシ−n−プロピル、1−ヒドロキシ−n−ブチル、1−ヒドロキシ−i−ブチル、2−ヒドロキシ−n−ブチル等の各種異性体のヒドロキシアルキル基を挙げることができる。更に、置換された脂肪族基として、ハロゲン基を有する脂肪族基、例えば、フッ化メチル、2−フッ化エチル、クロロメチル、2−フルオロエチル、2−クロロエチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ジクロロメチル、トリクロロメチル、2,2,2−トリクロロエチル、及びクロロ、フルオロ、ブロモに置換されたi−プロピル、n−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等のアルキル基を挙げることができる。環状の脂肪族基としては、例えば、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等を挙げることができる。ヘテロ脂肪族基としては、脂肪族基に一つまたは一個以上のヘテロ原子、例えば、O,S,N,Pなどが含まれたものを挙げることができる。ヘテロシクロ脂肪族基としては、ヘテロ環状基に炭素原子数が4または5であり、その環状構造に一つまたは二つのヘテロ原子、例えば、O,S,Nなどが含まれた、例えば、オキシラン、アジリン、1,2−オキサチオラン、ピラゾリン、ピロリドン、ピパリジン、モルフォリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン等を挙げることができる。
【0042】
芳香族基の場合、炭素原子が6ないし10である、例えば、フェニル、ペンタリン、インデン、ナフタレン、アンスラセンなどを挙げることができる。ヘテロ芳香族の場合は、炭素原子が4または5であり、その環状構造に、O,S,N等のヘテロ原子の一つが含まれた、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピリジン、ピラジン、インドール、プリン、キノリン等を挙げることができる。
【0043】
また、ドナーとしての化合物としては、下記構造式(1)、
YCHY (1)
〔式中、Yは、CN,COOR,COOH,NO,CONH,CONHR,COR,又は−SOR(但し、RはC〜C12のアルキル基、フェニル基、またはナフチル基である。)〕
下記構造式(2)、
XCHY (2)
〔式中、Yは前記と同様であり、XはC〜Cのアルキル基、または置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基であり、前記置換基は、Cl,Br,F,OH,CN,COOR’,COOH,CONH,NO,OCH,OC,SOR’,POR’(R’はC〜Cのアルキル基)である。〕
下記構造式(3)、
YCHZY (3)
〔式中、Yは前記と同様であり、ZはC〜Cのアルキル基、フェニル、又はナフチル基である。〕
又は、下記構造式(4)
XCHZY
〔式中、X、Y、Zは前記と同様である。〕
で表される化合物を挙げることができる。
【0044】
これらのアクセプターとドナーとの反応は、本発明での複合体を触媒とする反応であるが、その際、反応温度、反応溶剤、触媒使用量などが反応効率に影響を与える。
【0045】
ドナーが活性メチレン化合物の場合、そのメチレンに二つの電子吸引基(例えば、二つのCN基)が結合するとそれの反応活性は高くなる。従って、この様なドナーにアクセプターが反応する際は、反応温度は常温または30℃の範囲で反応を進行させることができる。ドナーの反応活性が比較的に弱い場合は、温度を少々高めることが望ましく、例えば、50〜150℃に設定することができる。
【0046】
本発明の触媒は、無溶剤または溶剤存在下で用いることができる。特に原料として用いる化合物が液体の場合には、溶剤を用いなくても触媒活性を十分発揮させることができる。
【0047】
特に、原料化合物が結晶性を有する場合、又は生成物が結晶性を有する場合には、本発明の固体触媒を用いて反応を行う場合に極性溶剤中で行うことが好ましい。前記極性溶剤としては、固体触媒中に含まれた直鎖状ポリエチレンイミ骨格(a)を有するポリマー(A)との溶媒和が起こりやすい溶剤類であることが好ましく、特にメタノール、エタノール、プロパノール、エチレンジアルコールなどアルコール系溶剤を好ましく使用することができる。また、これらのアルコール系溶剤に、その他の溶剤を混合して用いることもできる。その他の溶剤類としては、例えば、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシドなどの極性溶剤を挙げることができる。
【0048】
本発明の固体触媒は、内部に分子触媒として機能する直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)が含まれるので、その触媒活性が高く、使用量はかなり少なくても反応を進行させることができる。従来、炭素−炭素結合形成反応に用いるアクセプターとドナーとのモル比は、ドナーを大過剰で用いながら、触媒量もアクセプターの5/100〜10/100当量で用いられているが、本発明の固体触媒を用いる場合には、アクセプターとドナーをそれぞれ1当量にし、触媒量(複合体中に含まれるポリエチレンイミン骨格(a)中のエチレンイミン単位として換算する)は1/1000〜1/100当量の範囲で用いることが好ましい。
【0049】
反応温度を高めたり、触媒量を増量したりすることにより、反応時間を短縮することができるが、環境負荷を低減できる観点から、温度を高くすることよりも、触媒量を増やすことが望ましい。即ち、本発明の固体触媒は、反応終了後、簡便に回収可能であり、また触媒活性の損失がほとんど見られないという特徴を有するものである。
【0050】
固体触媒の回収法としては、特に制限されるものではなく、例えば、反応液からデカンデーション法、濾過法、または遠心分離法で取り出し、得られた固体粉末を少量の反応用溶剤などにより洗浄した後、乾燥し、回収できる。
【0051】
固体触媒を繰り返し使用する場合にも、反応終了後に反応液と固体触媒を上記方法等で分離し、それを溶剤で洗浄後、乾燥工程を経て、または乾燥工程を経ずに、次の反応に用いればよく、特段の処理を必要としない。
【0052】
本発明では前述の複合体を炭素−炭素結合形成反応用の固体触媒として用いるが、この固体触媒は、硬いシリカの固体篭の中に、触媒として働くポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが閉じ込まれた様な構造を有するものである。従って、この固体触媒は、反応媒体中で溶媒和を起こし、実は分子触媒として機能しているものと推測できるので、従来のアミン残基を固体表面に単に結合したのみで固体触媒とした担持型触媒とは大きく異なりものであると考えられる。従って、炭素−炭素結合形成反応以外にも、塩基性化合物を触媒とする他の有機反応の触媒としても用いることが可能と推測される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0054】
[X線回折法による複合体の分析]
単離乾燥した複合体を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜40°の条件で測定を行った。
【0055】
[TG−DTA(差動形示差熱天秤)による複合体の熱重量分析]
単離乾燥した複合体を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノテクノロジー株式会社製「TG−DTA 6300」にセットし、昇温速度を10℃/分として、50℃から600℃の温度範囲にて測定を行った。
【0056】
[示差熱走査熱量法による複合体の分析]
単離乾燥した複合体を測定パッチにより秤量し、それをPerkin Elmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から90℃の温度範囲にて測定を行った。
【0057】
[走査電子顕微鏡による複合体の形状分析]
単離乾燥した複合体をガラススライドに乗せ、それをキーエンス製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0058】
[透過電子顕微鏡による複合体の観察]
単離乾燥した複合体を炭素蒸着された銅グリッドに乗せ、それを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡「JEM−2200FS」にて観察した。
【0059】
[X線蛍光分析による複合体の元素分析]
元素組成分析は株式会社リガク製X線蛍光分析にて行った。
【0060】
[比表面積の測定方法]
粉末サンプルをMicrometrics社製の Flow Sorb II 2300 Apparatus にて、N/He(3:7体積比)混合ガスの吸着脱着測定から比表面積を計算した。
【0061】
合成例1
<直鎖状ポリエチレンイミン(L5000)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000,平均重合度5,000,Aldrich社製)5gを、5mol/Lの塩酸20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0062】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー結晶粉末を濾過し、その結晶粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は4.2g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0063】
合成例2
<直鎖状ポリエチレンイミンを用いる複合体[NN−1]の合成>
合成例1で得られたL5000粉末を一定量秤量し、それを一定量蒸留水中に加え、オイルバスにて90℃に加熱し、3%の完全透明な水溶液を得た。その水溶液を室温に放置し、自然に室温までに冷やし、不透明な会合体分散液を得た。
【0064】
この会合体分散液10mL中に、テトラメトキシシラン(TMOS)とエタノールの1/1(体積比)の混合液を14mL加え、軽く一分間かき混ぜた後、そのまま40分放置し、シリカを析出させた。その後、過剰なアセトンで析出物を洗浄し、それを円心分離器にて3回洗浄し、白色粉末を得た。粉末を室温で乾燥し、複合体NN−1(1.2g)を得た。得られた複合体を走査型顕微鏡により観察したところ、図1に示したようなナノファイバーのバンドルが確認された。このシリカナノフィバーバンドルのX線回折測定から、20.5°、27.2°、28.2°に回折パターンが観測された。これは、シリカ中にL5000の結晶体が含まれたことを示唆する。また、DSC測定から、68℃のところで、L5000結晶の融点を示す吸熱ピーク現れた。TG−DTA分析から、200℃を超える温度域からの重量損失が28%であった。即ち、シリカ中に含まれたL5000の含有量が28%である。比表面積測定から、比表面積は118m/gであった。
【0065】
合成例3
<直鎖状ポリエチレンイミンを用いる複合体[NN−2]の合成>
上記合成例1で得られたL5000粉末を一定量秤量し、それを蒸留水中に分散させ、濃度が2%となる分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、完全透明な水溶液を得た。該水溶液に、エチレンイミン単位のモル数の1/20モル数に相当する硝酸アルミニウムを加えた後、その溶液を室温に24時間放置し、金属錯体の会合体液を得た。
【0066】
得られた金属錯体溶液(10mL)に、テトラメトキシシラン(TMOS)とエタノールとの混合液(体積比1/1)10mLを加え、室温で1時間反応させた。生成した固形物を遠心分離器にてアセトンで3回洗浄、室温乾燥12時間を経て、L5000/Al錯体とシリカとの複合体粉末NN−2(5.3g)を得た。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、表面は微細針状構造を有する針状表面微粒子、即ち、ウニの様な形状の粒子であった(図2)。TEM観察では、ウニ状粒子表面の針の太さが大凡20nmであった(図3)。該ウニ状粒子のXRD測定から、20.3°、27.4°、28.1°の角度での回折パターンが観測された。ポリマー結晶が含まれたことを示唆する。さらに、TG−DTA分析の重量損失から、該ポリマー成分の含有量は25%であった。比表面積測定から、ウニ状粒子の比表面積は152m/gであった。更に蛍光X線分析結果、該ウニ状粒子に含まれるAlの含有量は0.8%であった。
【0067】
合成例4
<直鎖状ポリエチレンイミンを用いる複合体[NN−3]の合成>
合成例1で得られた一定量のL5000粉末を用い、蒸留水中に分散させた後、オイルバスにて90℃に加熱し、完全透明な水溶液を得た。その水溶液を室温に放置し、自然に室温までに冷やすことで、1%の不透明な結晶性会合体の分散液を得た。該分散液10gに、pH10に調製した水ガラス3号(キシダ化学株式会社製)の水溶液(0.2モル/L)20mLを加え、5分間撹拌した後、静置状態で50℃下2時間析出反応させ、白色の沈殿物を得た。反応液中の上澄みを除去し、沈殿物を蒸留水で洗浄した後、遠心分離にて3回繰り返し洗浄した。得られた固形物を室温で乾燥後、真空乾燥機にて60℃下12時間乾燥し、0.53gの複合体NN−3を得た。
【0068】
得られた複合体の走査型顕微鏡写真(SEM)観察したところ、シリカファイバーのネットワーク構造であった(図4)。さらに、該複合体の元素分析の結果、Si:30%、C:15%、H:4.1%、N:8.2%、Na:0.8%であった。複合体NN−3に含まれた窒素は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格中の窒素原子に由来するので、それから計算されたポリマー含有率が約27%となる。即ち、得られた複合体はシリカとポリマーとが複合された構造体である。また、TG−DTA測定から、ポリマー由来の質量損失は25%であった。XRD測定では、20.1°、27.3°、28.3°の角度での、ポリマー結晶由来の回折パターンが確認された。比表面積測定から、NN−3の表面積は149m/gであった。
【0069】
実施例1
<NN−1を用いるベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応 実施例1A>
窒素置換された20mLの試験管中に、ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、マロノニトリル0.66g(10mmol)、エタノール10mLを混合した。その混合液中に、合成例2で得た複合体NN−1粉末5mg(窒素原子含有量は0.03mmol)を加え、60℃で反応を行った。一定時間で、反応液を少々取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定した。10ppmあたりでのベンズアルデヒド由来のアルデヒドピークの減少から各時間帯での転化率を見積もった。
【0070】
<NN−1を用いるベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応 実施例1B>
上記と同様な反応を、エタノール代わりにメタノールを用いた以外、全く同じ条件で行った。
【0071】
図5に実施例1Aと実施例1Bで行なった反応の経時変化を示した。反応は、初期40分ところで80モル%に進み、80分では90モル%以上,120分でほぼ100モル%進むことが示唆された。わずかの触媒量で、反応が定量的に進行することから、この触媒の活性の高さが示された。
【0072】
実施例2
<ベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応におけるNN−1触媒の繰り返し使用>
窒素置換された20mLの試験管中に、ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、マロノニトリル0.66g(10mmol)、エタノール10mLを混合した。その混合液中に、合成例2で得た複合体NN−1粉末10mg(窒素原子含有量は0.06mmol)を加え、30℃で2時間反応を行った。その後、反応液を全部取り出し、残りの粉末に10mLのエタノールを加え、40℃で30分洗浄した後、粉末を60℃で4時間乾燥した。その粉末に、全く同じ組成の反応用混合液〔ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、マロノニトリル0.66g(10mmol)、エタノール10mL〕を加え、再度30℃で2時間反応させた。この作業を5回も繰り返し、取り出し反応液のH−NMRによる転化率測定から触媒活性の変化を調べた。表1には、毎回反応後の反応物の転化率を示した。
【0073】
【表1】

【0074】
30℃/2時間反応で、6回の繰り返し使用でも、反応物の転化率の低下はなく、毎回80モル%以上に達した。この結果は、直鎖状ポリエチレンイミンをシリカ中に閉じ込めた複合体の触媒には失活がほとんどなく、毎回反応でほとんど同様な活性を示していることを強く示唆する。
【0075】
実施例3
<NN−1を用いる4−クロロベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応>
ベンズアルデヒドを4−クロロベンズアルデヒドに変えた以外、実施例1Aと全く同様な条件下で2時間反応を行なった。4−クロロベンズアルデヒドの転化率は94モル%であった。
【0076】
実施例4
<NN−1を用いるベンズアルデヒドとシアノアセチルエチルエステルとの反応>
窒素置換された20mLの試験管中に、ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、シアノアセチルエチルエステル1.13g(10mmol)、エタノール10mLを混合した。その混合液中に、合成例2で得た複合体NN−1粉末10mg(窒素原子含有量は0.06mmol)を加え、60℃下反応を行った。一定時間で、反応液を少々取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定した。10ppmあたりでのベンズアルデヒド由来のアルデヒドピークの減少から各時間帯での転化率を見積もった。図6に経時変化を示した。34時間反応後の転化率が93モル%に達した。
【0077】
実施例5
<NN−1を用いるシクロヘキセノンとニトロエタンとの反応>
20mLの試験管中に、シクロヘキセノン0.98g(10mmol)、ニトロエタン1.5g(20mmol)、エタノール5mLを混合した。その混合液中に、合成例2で得た複合体NN−1粉末5mg(窒素原子含有量は0.03mmol)を加え、30℃下、2時間反応を行った。反応液を取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定したところ、シクロヘキセノンのCH=CH由来のピークは完全に消失し、目的のニトロエタンの付加物が生成したことが確認された。反応は100モル%進行した。
【0078】
実施例6
<NN−1を用いるシクロヘキセノンとニトロエタンとの反応>
実施例5と同様な反応を溶剤なしに30℃下2時間行なった。反応液を取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定したところ、シクロヘキセノンのCH=CH由来のピークは完全に消失し、目的のニトロエタンの付加物が生成したことが確認された。この反応は溶剤なしでも100モル%進行することを示唆する。
【0079】
実施例7
<NN−1を用いるシクロヘキセノンとフェニルアセトニトリルとの反応>
20mLの試験管中に、シクロヘキセノン0.98g(10mmol)、フェニルアセトニトリル(10mmol)、エタノール2mLを混合した。その混合液中に、合成例2で得た複合体NN−1粉末5mg(窒素原子含有量は0.03mmol)を加え、30℃下、2時間反応を行った。反応液を取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定したところ、シクロヘキセノンのCH=CH由来のピークは完全に消失し、目的のフェニルアセトニトリルの付加物が生成したことが確認された。反応は100モル%進行した。
【0080】
実施例8
<NN−2を用いるベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応>
窒素置換された20mLの試験管中に、ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、マロノニトリル0.66g(10mmol)、エタノール10mLを混合した。その混合液中に、合成例3で得た複合体NN−2粉末10mgを加え、30℃下2時間反応した後、反応液を取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定した。10ppmあたりでのベンズアルデヒド由来のアルデヒドピークの減少から転化率が96モル%であることが確認された。
【0081】
実施例9
<NN−3を用いるベンズアルデヒドとマロノニトリルとの反応>
窒素置換された20mLの試験管中に、ベンズアルデヒド1.06g(10mmol)、マロノニトリル0.66g(10mmol)、エタノール10mLを混合した。その混合液中に、合成例4で得た複合体NN−3粉末10mgを加え、30℃下2時間反応した後、反応液を取り出し、H−NMRにて反応物の転化率を測定した。10ppmあたりでのベンズアルデヒド由来のアルデヒドピークの減少から転化率が95モル%であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】合成例2で得られた複合体NN−1の走査型顕微鏡写真である。
【図2】合成例3で得られた複合体NN−2の走査型顕微鏡写真である。右図は左図の○部分の拡大図である。
【図3】合成例3で得られた複合体NN−2の透過型顕微鏡写真である。
【図4】合成例4で得られた複合体NN−3の走査型顕微鏡写真である。
【図5】実施例1Aと実施例1Bにおける反応の経時変化である。
【図6】実施例4における反応の経時変化である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する化合物(x1)と、活性メチレン又は活性メチンを有する化合物(x2)と、を用いて炭素−炭素結合を形成する付加反応又は縮合反応に用いる固体触媒であって、該固体触媒が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)をシリカ(B)が被覆してなる複合体であることを特徴とする炭素−炭素結合形成反応用固体触媒。
【請求項2】
前記固体触媒中に更に金属イオン(C)を含有する請求項1記載の炭素−炭素結合形成反応用固体触媒。
【請求項3】
前記炭素−炭素結合を形成する付加反応又は縮合反応が、クネーフェナーゲル反応又はマイケル反応である請求項1又は2記載の炭素−炭素結合形成反応用固体触媒。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−101291(P2009−101291A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275033(P2007−275033)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】