説明

炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体、その製造方法及びその用途

【課題】チタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッドを担持した炭素ナノシートを得る。
【解決手段】有機チタン化合物の有機溶媒溶液と、層状グラファイト酸化物の有機溶媒懸濁液とを混合・攪拌することにより反応させ、得られた反応物をアルカリ水溶液中で水熱処理して炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を製造し、この複合体を焼成することにより炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法、これにより得られた新規炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体、及び新規炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の有機汚染性物質除去用処理剤並びに有機汚染性物質除去処理方法などの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、従来白色顔料として、塗料、絵の具、釉薬、繊維、プラスチック製品などの用途において広く用いられており、また人体に影響がないと考えられていることから、食品や化粧品の着色料としても利用されているが、近年は光触媒などの機能材料として注目されている。酸化チタンには、ルチル型、アナターゼ型、及びブルッカイト型の結晶構造が知られている。光触媒は、光の照射により活性化される触媒であり、そのバンドギャップは、ルチル型の結晶で3.0eV、アナターゼ型の結晶で3.2eVで、どちらも基本的には紫外領域での吸収帯を有しているが、光触媒活性はアナターゼ型の結晶の方が通常優れている。
【0003】
酸化チタンの光触媒活性は、非選択的で強力な触媒活性を有していることが特徴であり、水の分解反応だけでなく、酸化チタンの表面に存在する有機物の分解反応に対しても強い触媒活性を有しており、抗菌、殺菌、殺藻、脱臭、汚れ除去などの多機能な触媒として知られている。このように、酸化チタンは、酸化チタンの表面に存在するほとんどの有機物を分解する触媒活性を有していることから、各種の器具や装置の表面を酸化チタンでコーティングすることにより、抗菌、脱臭、及び汚れ除去などを同時に行うことができる物質として空気清浄機や浄水器の触媒として実用化されてきている。例えば、トンネル内の照明器具や街路灯などのメンテナンスの難しい照明器具の表面における廃棄物の分解用の触媒として使用されており、空気中の有機物や自動車の排気ガスなどによる照明器具の表面の汚れを分解してメンテナンスフリーの照明器具として実用化されてきている。また、浴室やトイレや台所などの水回りにおけるメンテナンスフリーの床や壁材料としても注目されてきている。
【0004】
さらに、酸化チタンの脱臭効果や汚れ除去効果に着目して、酸化チタンを含有する繊維も開発されつつあるが、酸化チタンの触媒能が強いために、酸化チタンが直接繊維に接触した場合には、繊維自体が分解され劣化してしまうという欠点がある。現在では、酸化チタンをシリカで覆ってこれを繊維に含有させるという技術が開発されてきている。また、酸化チタンをグラファイトの層中に担持させて、酸化チタンと有機物が直接接触しないようにさせる方法も提案されている(特許文献1参照)。その他、酸化チタンは、ナノエレクトロンデバイス、センサー、太陽電池等の分野における応用も期待されている。
【0005】
酸化チタンの光分解能力はその表面積によっても影響される。大きな表面積を有する酸化チタンを得るため、光活性触媒の前駆体である金属化合物或いはその有機溶媒溶液と、界面活性剤と、水とを接触させて混合して固化することにより、ナノチューブ或いはナノワイヤー形状を有する酸化チタンを製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。また、水熱処理の方法でチタニアナノチューブを製造する方法も報告されている(非特許文献1参照)。しかし、これらの方法は、ピュアーな酸化チタンのナノチューブ或いはナノワイヤーを製造する方法である。
【0006】
一方、モンモリロナイトのような層状粘土について、その層間にアルミナ、ジルコニア、酸化クロム、酸化チタン、SiO−TiO、SiO−Fe、Al−SiOなどをインターカレーションして層間架橋多孔体を形成させることが報告されている(非特許文献2参照)。また、炭素性の層状物質としては、グラファイトがよく知られているが、グラファイトは、原子状炭素のベンゼン環で平面層を成しており、層面間距離0.335nmの異方性の強い層状構造を有する物質である。このような強い異方性は、その反応性に大きな影響を与え、面内の結合を攻撃するような反応は進行しにくいが、層間を拡張しながら反応物質を挿入する反応、いわゆるインターカレーションを起しやすく、これによりグラファイト層間化合物を形成する。
【0007】
本発明者らは、グラファイトを酸化して得たグラファイト酸化物をアルカリ中に懸濁し、或いは予め長鎖有機イオンで層間を拡張し、続いて金属或いは半金属酸化物のような硬い架橋剤を導入することにより、高表面積の含炭素多孔質複合体を合成できることを報告してきた(特許文献3、4参照)。また、本発明者らは、グラファイト酸化物層状体を、より少量の有機金属種又は有機半金属種を用いて、メカニカル的に両者を均一的に混合させることで、効率的に、かつ短時間で有機金属種をグラファイト酸化物の層間に挿入できることも見出してきた。そして、この方法において、有機金属種として有機チタン化合物を含有させた場合には、酸化チタンにより層間が拡張されたグラファイト酸化物の層状物を製造することができ、さらに酸化チタンがグラファイト酸化物層に挿入されているにもかかわらず、光触媒活性を有することを見出した(特許文献5参照)。そして、このような炭素酸化チタン複合材料が吸着濃縮作用を有する光触媒として機能し、従来酸化チタンの光触媒用途において、抗菌、脱臭、汚れ除去剤などとして利用可能であり、さらに有機物が関与する、ナノエレクトロンデバイス、センサー、太陽電池などとしての利用も考えられている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−354768号公報
【特許文献2】特開2003−34531号公報
【特許文献3】特開2003−192316号公報
【特許文献4】特開2004−217450号公報
【特許文献5】特開2006−272266号公報
【非特許文献1】Langmuir、Vol.14、3160−3163(1998)
【非特許文献2】「表面」、第27巻、第4号(1989年)、第290〜300頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したとおり、従来ピュアーな酸化チタンのナノチューブ或いはナノワイヤーを製造する方法は知られており、またグラファイト酸化物の層間に酸化チタンを挿入することも知られているが、酸化チタンのナノチューブ、ナノワイヤーなどを炭素のナノシートに担持させることについては、従来知られていない。グラファイトのような炭素は有機物と親和性が高く、酸化チタンを炭素ナノシートに担持できれば、炭素ナノシートにより有機物質を吸着・濃縮でき、これに密に接する酸化チタンのナノチューブ、ナノロッドなどにより従来にも増して高効率で光分解を行うことができると考えられる。
【0010】
本発明者らは、前記酸化チタンにより層間が拡張されたグラファイト酸化物層状物に関する研究をさらに進めたところ、グラファイト酸化物を有機チタン化合物と反応させて層間にチタン化合物を挿入し、その後水熱処理することによりナノサイズのシート状炭素の層上にチューブ状のチタネートが担持された炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体が形成されること、さらにこの炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を焼成することにより、チューブ状のチタネートがロッド状の酸化チタンに変性されるとともにアナターゼ型の酸化チタン含有率が高められた、シート状炭素にナノロッド状の酸化チタンが担持された炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体が得られること、さらにこれら炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体が有機汚染性物質を高効率で除去し得ること、また従来の光触媒の利用分野において従来の光触媒に代えて利用可能なこと、さらには、ナノエレクトロンデバイス、センサー等の種々の分野における応用も期待できることを見出し、本発明を成したものである。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、新規炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、シート状炭素にチューブ状のチタネート或いはナノロッド状の酸化チタンが担持された新規炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体からなる有機汚染性物質除去用処理剤、炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を用いる有機汚染性物質処理方法を初めとする種々の用途で使用あるいは利用される、剤及び剤の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
(1)有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物とを有機溶媒中で反応させ、得られた反応物をアルカリ水溶液中で水熱処理することを特徴とする炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の製造方法。
【0014】
(2)有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物の反応が、有機チタン化合物有機溶媒溶液と層状グラファイト酸化物の有機溶媒懸濁液を混合した後、10〜85℃で0.5〜6時間加熱することにより行われることを特徴とする上記(1)に記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の製造方法。
(3)上記(1)又は(2)に記載の製造方法で製造された炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を焼成することを特徴とする炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法。
【0015】
(4)前記焼成が、真空或いはヘリウム、チッ素、アルゴンなどの不活性雰囲気下、450〜950℃で0.5〜6時間加熱されることにより行われることを特徴とする上記(3)記載の炭素ナノシート・チタネートナノロッド複合体の製造方法。
(5)前記酸化チタンがアナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法。
【0016】
(6)上記(1)又は(2)に記載の製造方法によって得られた炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体。
(7)上記(3)〜(5)の製造方法によって得られた炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体。
【0017】
(8)上記(6)に記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体又は上記(7)に記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体からなる有機汚染物質除去用処理剤。
(9)上記(6)に記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体又は上記(7)記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を用い、有機汚染物質をその表面に濃縮させ分解することを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、光触媒或いはその他種々の用途で有用に用いることができる新規な炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を提供することができる。また本発明は、特殊な表面構造及び表面親和性を有し、優れた吸着能と触媒活性を有する新規な光触媒を提供するものである。本発明の光触媒は、有機性環境汚染物質、特に極微量な有機性環境汚染物質の除去処理剤として有用であるとともに、従来光触媒が用いられている種々の用途において従来の光触媒に代えて利用することができる。また、ナノエレクトロンデバイス、センサー、太陽電池等の分野における応用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法においては、有機チタン化合物とグラファイト酸化物(GO)層状体とを有機溶媒溶液中で攪拌することにより反応させる工程、得られた反応物をアルカリ水溶液中で水熱処理することにより炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を製造する工程、さらに炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を焼成することにより炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を製造する工程を有する。以下、本発明の各工程を、図1の本発明の処理工程の概念図及び図2、3、4の電子顕微鏡写真を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
【0020】
まず、第一の工程では、有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物とは、有機溶媒溶液中で反応させられる。有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物は、予め各々溶液或いは懸濁液とされた後混合され、反応させることが好ましい。すなわち、有機チタン化合物については有機溶媒中に溶解して溶液とし、一方層状グラファイト酸化物は有機溶媒中に投入され懸濁液とされた後、これら有機チタン化合物溶液と層状グラファイト酸化物懸濁液を混合して反応させることが好ましい。層状グラファイト酸化物については、十分に懸濁された懸濁液が得られるよう、予め有機溶媒中で十分に攪拌することが好ましい。攪拌手段としては、攪拌翼、磁気スターラーなど任意のものを用いればよい。
【0021】
本発明において、グラファイト酸化物は、チタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッドを担持する基材として用いられるものである。層状グラファイト酸化物は、例えばグラファイトを濃硫酸と硝酸との混合液中に浸し、塩素酸カリウムを加え、反応させるか、或いは濃硫酸と硝酸ナトリウムの混合液中に浸し、過マンガン酸カリウムを加え、反応させることにより調製される。これらの処理によりグラファイトの炭素原子の少なくとも一部は、sp2状態からsp3状態に変化し、いわゆるベンゼン環を形成している炭素原子のような状態から飽和の脂肪族の炭素原子の状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素原子や水素原子などが結合して、層間に酸素原子を導入することができる。このようにして製造されたグラファイト酸化物層状体の層間距離は、通常0.6〜1.1nm程度である。このようにして製造されたグラファイト酸化物の層状体と有機チタン化合物を有機溶媒中で反応させることにより、図1の反応工程概念図の(A)に示されるように、炭素の層間に有機チタン化合物が挿入された炭素・有機チタン化合物複合体(GO−Ti)が形成されると考えられる。図2は図1の反応工程概念図(A)のGO−Tiを炭素層に対し垂直方向から見た透過型電子顕微鏡写真である。
【0022】
有機チタン化合物とグラファイト酸化物の反応において、有機チタン化合物の量は、通常、グラファイト酸化物の質量の2〜150倍量、好ましくは30〜85倍量であり、反応温度は10〜85℃、好ましくは40〜70℃であり、反応時間は、0.5〜6時間、好ましくは1〜3時間である。
【0023】
本発明の製造方法において用いられる有機チタン化合物としては、チタンアルコキシドが好ましい。アルコキシル基としては、炭素数1〜25酸のアルコキシル基、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシル基が挙げられる。好ましいチタンアルコキシド化合物としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラーn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタンなどが挙げられ、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどがより好ましいものである。
【0024】
グラファイト酸化物を懸濁させる或いは有機チタン化合物を溶解するために用いられる有機溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、メトキシプロパノール、ブタノール等のアルコールや多座配位子化合物、例えばビアセチル、ベンジル、アセチルアセトンなどのジケン化合物等が挙げられ、アルコール、例えばエチルアルコールが好ましい。また、グラファイト酸化物は、溶媒100mlに対し、例えば100〜600mg懸濁され、一方、有機チタン化合物は、溶媒100mlに対し、例えば1.5〜10g溶解され、混合のために用いられることが好ましい。
【0025】
こうして得られた反応物であるグラファイト酸化物・有機チタン化合物複合体(GO−Ti)は分別され、分別物を溶剤で洗浄した後、乾燥される。分別手段としては、遠心分離など任意の手段を用いることができる。洗浄溶剤は例えば反応溶媒と同じものが用いられてもよいし、蒸発しやすい他の溶媒であってもよい。また、乾燥は自然乾燥あるいは減圧乾燥など任意の方法で行えばよい。
【0026】
得られたグラファイト酸化物・有機チタン化合物複合体(GO−Ti)は,アルカリ水溶液中で水熱処理されて、チタン化合物がナノチューブ形状に変えられる。このとき層状グラファイト酸化物はシート状に剥離されると考えられ、このシート状のグラファイト酸化物上にチタネートナノチューブが担持された状態の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)が得られる。炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を概念的に示せば、図1の(B)のとおりである。図3に炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の透過型電子顕微鏡写真を示す。図3の電子顕微鏡写真から、チタネートナノチューブが一面に存在していることが分かる。
【0027】
水熱処理において用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましいものである。水熱処理の際の処理液のアルカリの濃度は、例えば5〜15規定、好ましくは10〜12規定であり、処理温度は、例えば100〜200℃、好ましくは110〜150℃であり、処理時間は、例えば10〜72時間、好ましくは20〜48時間である。
【0028】
水熱処理後、処理物は、遠心分離などにより分別され、分別物はHClなどの酸水溶液で、洗浄後の洗浄液のpHが7未満となるまで洗浄される。室温で乾燥することにより炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)が得られる。得られたチタネートナノチューブの大きさは、通常、外径が5〜8nm、長さが数百nm〜数μmである。
【0029】
次いで炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)は、真空或いはヘリウム、チッ素、アルゴンなどの不活性雰囲気下、450〜950℃、0.5〜6時間焼成されて、チタネートナノチューブがアナターゼ型の結晶形態に富んだチタニアナノロッドに転換され、シート状のグラファイト酸化物上にチタニアナノロッドが担持された炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO―nanorod)とされる。この炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を概念的に示せば、図1の(C)のとおりである。図4に炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の透過型電子顕微鏡写真を示す。図4の電子顕微鏡写真から、チタニアナノロッドが一面に存在していることが分かる。
【0030】
こうして製造された炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO―nanorod)は、シート状炭素上にチタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッドが担持された一次構造体が多数寄り集まってできた集合体であり、その構造の中には一次構造体の間や炭素ナノシートとチタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッドの間等に微小空間が形成されており、また炭素が有機物に対し親和性が大きいことから、有機物などに対する吸着能が高いと考えられる。従って炭素ナノシート層により有機物の吸着・濃縮がなされ、隣接するチタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッドにより効率よく有機物の光分解が行われると考えられる。また、濃縮された有機物は、チタネートナノチューブ或いはチタニアナノロッド層にも拡散し、ここでも光分解されると考えられる。そして形成されたチタネート或いはチタニアの形状はナノチューブ或いはナノロッドとされていることから活性表面積が大きく、従来の粒状のチタネート或いはチタニアに比べ、さらに効率のよい分解が行われる。このことは実施例、比較例の結果からも明らかである。したがって、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、光触媒により処理される有機物などの被処理物の吸着能に優れ、優れた分解能を有している。
【0031】
以上のように、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、優れた光触媒機能を有し、従来光触媒が用いられている用途において、優れた光触媒として利用することができる。また、上記するように、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、有機汚染性物質除去用処理剤として有用であり、特に炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、アナターゼ型の結晶の含有率が高いことから、有機汚染性物質除去用処理剤として好ましいものである。また、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、有機化合物と親和性の極めて良い炭素ナノシートをベースにしているので、このような微量の有機汚染物質を除去するに適したものでもある。このような特性を利用して、生鮮野菜の表面処理用水や飲用水等の微量有機汚染物質フリーの超清浄水の製造に利用することもできる。さらに、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、光触媒以外の分野、例えば、ナノエレクトロンデバイス、センサー、太陽電池等の種々の分野での利用も期待できる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
参考例1:層状グラファイト酸化物
以下の実施例、比較例での層状グラファイト酸化物(GO)としては、Hummers及びOffemanの方法(W.Hummers and R.E.Offeman,J.Am.Chem.Soc.,80,1339(1958))により製造されたものを用いた。
【0034】
(実施例1:炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の製造)
エタノール200mlにテトライソプロポキシチタン(Ti(OC)5.68gを溶解して0.1Nのテトライソプロポキシチタンエチルアルコール溶液を製造した。これとは別に、40mlのエチルアルコールに、参考例1の層状グラファイト酸化物0.2gを入れ、室温で30分間撹拌して、グラファイト酸化物懸濁液を製造した。このグラファイト酸化物懸濁液を、前記0.1Nのテトライソプロポキシチタンエタノール溶液に加え、オイルバス中、65℃で3時間、加熱反応させた。反応終了後、遠心分離してテトライソプロポキシチタンが反応した層状グラファイト酸化物(GO−Ti)を捕集し、エタノールで洗浄した後、一晩乾燥した。得られた反応層状グラファイト酸化物を10N水酸化ナトリウム水溶液中、150℃で、24時間水熱処理した。水熱処理された反応シート状グラファイト酸化物を遠心分離により捕集し、洗浄液のpHが7未満となるまで塩酸水溶液で洗浄した後、脱イオン水で洗浄し、一晩室温で放置乾燥した。得られた炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体は、5〜8nmの外径、数百nm〜数μmの長さを有し、このチタネートナノチューブが、シート状とされたグラファイト酸化物由来の炭素層上に担持されてなる炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)であった。テトライソプロポキシチタンが反応した層状グラファイト酸化物(GO−Ti)、得られた炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)のベット比表面積SBET(m・g−1)、メソボア容積Vmeso(mL・g−1)及びメソボアサイズDmeso(nm)を表1に示す。
【0035】
なお、ベット比表面積、メソボア容積、メソボアサイズは以下の方法で測定された。
(ベット比表面積SBETの算出法)
日本ベル(株)製容量法式全自動チッ素吸着装置を用い、77Kで測定したN吸着等温線をBET法により算出した。
【0036】
(メソボア容量Vmeso及びメソボアサイズDmesoの算出法)
上述のN吸着等温線をBJH法で解析することにより算出した。
【0037】
実施例2:炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造
実施例1で得られた炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)を、真空雰囲気下、550℃で1時間焼成して、炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO−nanorod)を製造した。形成されたチタニアナノロッドは、3.5〜6.5nmの径と数十nmの長さを有するものであり、チタニアナノロッドは炭素ナノシート上に担持された炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO−nanorod)であった。この炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体のベット比表面積SBET(m・g−1)、メソボア容積Vmeso(mL・g−1)及びメソボアサイズDmeso(nm)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
市販のST−01(石原産業(株)製)のアナターゼ型酸化チタンについて、ベット比表面積SBET(m・g−1)、メソボア容積Vmeso(mL・g−1)及びメソボアサイズDmeso(nm)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0039】
比較例2
市販のチタニアを150℃、24時間、10NのNaOHで水熱処理して、チタネート粒子(TNT)を製造した。チタネート粒子のベット比表面積SBET(m・g−1)、メソボア容積Vmeso(mL・g−1)及びメソボアサイズDmeso(nm)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0040】
比較例3
比較例2で得られたチタネート粒子を空気中で550℃で焼成してチタニア粒子(TNT−550)を製造した。得られたチタニア粒子のベット比表面積SBET(m・g−1)、メソボア容積Vmeso(mL・g−1)及びメソボアサイズDmeso(nm)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例4
実施例1で得られたテトライソプロポキシチタンが反応した層状状グラファイト酸化物(GO−Ti)及び炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)、実施例2で得られた炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO―nanorod)のメチルオレンジ(MO)光分解速度定数を下記条件で求めた。
すなわち、初濃度(C)50ppmのメチルオレンジ溶液5mlにサンプル5mgを入れた試験溶液を、各サンプル毎に複数作成し、25℃の恒温水槽においてこれらを暗状態で3〜24時間振動した。所定時間ごとに各サンプルの試験溶液を一つずつ取り出し、該試験溶液のメチルオレンジ濃度(C)を測定した。また同様なサンプルを複数作成し、25℃の恒温水槽においてこれらを暗状態で24時間振動した後、90Wの殺菌灯を照射し続けた。所定の光照射経過時間ごとに各サンプルの溶液を一つずつ取り出し、該試験溶液のメチルオレンジ濃度を測定した。得られた暗状態及び光照射状態でのC/Cの経時変化を図3に示す。暗状態における溶液中のメチルオレンジの濃度の低下は各サンプルによる吸着による濃度低下と考えられる。光照射後溶液濃度が減少しているが、これは各サンプルの光触媒機能でメチルオレンジが分解消失したものであると考えられる。各サンプルについて測定されたメチルオレンジの濃度低下の傾きから、光分解速度定数k(h−1)を算出した。また、24時間吸着後のメチルオレンジの濃度を吸着平衡濃度(Ce)とし、光分解速度定数を吸着後の平衡濃度Ceで除したk/Ce(L・g−1・h−1)を算出した。kは光触媒活性のみを比較するパラメータであり、k/Ceは吸着濃縮効果を加味した除去速度を比較するパラメータとして用い得る。これらの値を表2に示す。
【0043】
比較例4
実施例4と同様にして、市販のアナターゼ型酸化チタン(ST−01)、チタネート粒子(TNT)、及び550℃焼成チタニア粒子(TNT−550)について、実施例4と同様にしてメチルオレンジの濃度を測定した。結果を図3に示す。また実施例4と同様にして、光分解速度定数k(h−1)及びk/Ce(L・g−1・h−1)を算出した。これらの値を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
この結果から、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体が、担持系複合体や単独のチタニア粉末より優れた特性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、光触媒能を利用して、有機性環境汚染物質を吸着・濃縮してから省エネの条件下で触媒分解することができ、有機汚染物質除去用処理剤として有用に利用することができる。また、本発明の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体及び炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体は、極低濃度の有機性汚染物質を選択的に取り除くことができることから、生鮮野菜等の表面処理用水や飲用水等に好適な有機汚染物質が高度に除去された超清浄水の製造に利用することが期待できる。さらに、センサー、太陽能電池として利用することにより、有機物を濃縮しながら機能の効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の処理工程概念図である。
【図2】有機チタン化合物が層間に挿入されたグラファイト酸化物(GOTi)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体(C−TNT)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体(C−TiO−nanorod)の透過型顕微鏡写真である。
【図5】実施例、比較例の光触媒による、暗状態及び光照射状態でのメチルオレンジ濃度の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物とを有機溶媒中で反応させ、得られた反応物をアルカリ水溶液中で水熱処理することを特徴とする炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項2】
有機チタン化合物と層状グラファイト酸化物の反応が、有機チタン化合物有機溶媒溶液と層状グラファイト酸化物の有機溶媒懸濁液を混合した後、10〜85℃で0.5〜6時間加熱することにより行われることを特徴とする請求項1記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体を焼成することを特徴とする炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成が、真空或いはヘリウム、チッ素、アルゴンなどの不活性雰囲気下、450〜950℃で0.5〜6時間加熱されることにより行われることを特徴とする請求項3記載の炭素ナノシート・チタネートナノロッド複合体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタンがアナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする請求項3又は4に記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の製造方法によって得られた炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られた炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体。
【請求項8】
請求項6に記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体又は請求項7に記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体からなる有機汚染物質除去用処理剤。
【請求項9】
請求項6に記載の炭素ナノシート・チタネートナノチューブ複合体又は請求項7記載の炭素ナノシート・チタニアナノロッド複合体を用い、有機汚染物質をその表面に濃縮させ分解することを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−35463(P2009−35463A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203515(P2007−203515)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省委託研究「吸着濃縮機能を持つ光分解法による極微量な残留性有機汚染物質(POPs)の高効率無害化処理技術に関する研究」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】