説明

炭素材料における表面性状の分析方法

【課題】炭素材料表面のカルボキシ基と塩基性化合物とが反応し形成される表面修飾基において、カルボキシ基とアミノ基との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別して定量するための分析方法が求められていた。
【解決手段】その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる、表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の分析方法であり、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対して、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理を施し、当該処理後の原料である炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値と当該処理後の表面が改良・改善された炭素材料に基づき得られた表面に存在する基に係る分析値との差異に基づき、前記の結合状態を判定、識別、又は評価する工程を含むことを特徴とする分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる炭素材料における表面性状の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料(カーボンブラックやカーボンナノチューブ等)に対して一級アミンや二級アミン等の塩基性化合物を作用させ、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基に対して当該塩基性化合物を反応させることにより、その表面の性状を改良・改善させた炭素材料を各種分野において利用することが知られている。
原料である炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と一級又は二級アミンとを反応させた場合に形成される表面修飾基は、カルボキシ基とアミノ基とがアンモニウムカルボキシレート塩を形成している状態(イオン結合)と、カルボキシ基とアミノ基とが縮合しアミド結合を形成している状態(共有結合)とが考えられる。原料である炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と一級又は二級アミンとを反応させた場合に形成される表面修飾基は、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光分析)、TG−GC−MS(熱重量−ガスクロマトグラフ―マススペクトル分析)、TOF−MS(飛行時間型質量分析)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン分析)等により、その存在有無に関しては分析可能であった(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science(2007),104(5),3427−3433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような分析方法では、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる、表面が改良・改善された炭素材料における表面性状に係るそれ以上の情報を得ることは容易ではなく、そのため、より詳細な情報を知ることは困難であった。炭素材料表面のカルボキシ基と塩基性化合物(一級又は二級アミン)とが反応し形成される表面修飾基において、カルボキシ基とアミノ基がアンモニウムカルボキシレート塩を形成している状態(イオン結合)と、カルボキシ基とアミノ基とが縮合しアミド結合を形成している状態(共有結合)とを区別して定量するための分析方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる、表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の分析方法であり、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対して、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理を施し、当該処理後の原料である炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値と当該処理後の表面が改良・改善された炭素材料に基づき得られた表面に存在する基に係る分析値との差異に基づき、前記の結合状態を判定、識別、又は評価する工程を含むことを特徴とする分析方法等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる炭素材料における表面性状に係る、より詳細な情報(具体的には例えば、その表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態に係る情報)を得ることが可能となり、炭素材料の表面での修飾状態を厳密に設定した炭素材料製品の設計及び高度な炭素材料製品品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施例の炭素材料(カーボンブラック)の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明が適用できる炭素材料について説明する。
【0009】
原料である炭素材料は、その表面にカルボキシ基が存在する。また、図1(a)に示すように、その表面には、カルボキシ基の他に、ヒドロキシ基やカルボニル基が存在してもよい。かかる炭素材料としては、例えば、アモルファス炭素;カーボンブラック、活性炭等や、結晶質炭素;フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、黒鉛等を挙げることができる。
特に、カーボンブラックは、古くから様々な官能基で修飾を行うことで、表面性状を変え、タイヤ等のゴム製品のフィラー、塗料、墨液、印刷用インキ、樹脂着色料、黒色顔料、トナー、導電性付与剤、磁気記録媒体等に幅広く利用されており、本発明を有効に活用することができる。
【0010】
原料である炭素材料に対して反応させる塩基性化合物としては、一級又は二級アミンが好ましい。
【0011】
原料である炭素材料に対して一級又は二級アミン(R−NH)を反応させると、図1(b)に示すように、炭素材料表面のカルボキシ基は、通常、一部はアミド結合を形成している状態(共有結合)となり、一部はアンモニウムカルボキシレート塩を形成している状態(イオン結合)となる。本発明において、上記アミド結合を形成した状態の基(図1(b)における*−CONR(*は炭素材料との結合手を表す))を「アミド基」と、アンモニウムカルボキシレート塩を形成している状態の基(図1(b)における*−COONH(*は炭素材料との結合手を表す))を「アンモニウムカルボキシレート基」と、それぞれ称することがある。
また、原料である炭素材料の表面に任意に存在するヒドロキシ基は反応前後で変化しないが、原料である炭素材料の表面に任意に存在するカルボニル基は、一級アミンと反応すればイミンとなり、二級アミンと反応すればエナミンとなる。もちろん、上記カルボキシ基やカルボニル基が未反応の状態で存在することもある。
、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、又は含イオウアルキル基を表すか、RとRとが結合してアルカンジイル基(該アルカンジイル基を構成するメチレン基は酸素原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる水素原子はカルボキシ基で置換されていてもよい。)を表す。一級又は二級アミンの炭素数は2〜10である。
一級又は二級アミンの具体例としては、モノエタノールアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、tert−ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、2,2’−イミノジエタノール、ビス(2−メトキシエチル)アミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミン、N−(2−メトキシエチル)イソプロピルアミン、N−(2−メトキシエチル)エチルアミン、N−(2−メトキシエチル)−n−プロピルアミン、N−(2−メトキシエチル)メチルアミン、1−アミノ−2−プロパノール、N−ベンジルエタノールアミン、3−n−プロポキシプロピルアミン、モルホリン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、p−アニシジン、3−メルカプトプロピルアミン、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸及びその金属塩等が挙げられる。
原料である炭素材料と一級又は二級アミンとの反応による当該炭素材料の表面修飾の方法は、例えば、非特許文献1記載の方法等がある。
【0012】
本発明は、かかる表面修飾により得られる表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の分析方法に係るものである。本発明の分析方法は、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対して、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理を施し、当該処理後の原料である炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値と当該処理後の表面が改良・改善された炭素材料に基づき得られた表面に存在する基に係る分析値との差異に基づき、前記の結合状態を判定、識別、又は評価する工程を含むことを特徴とする。
ここで、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理としては、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対する、(1)弱塩基の水溶液による処理、および(2)強塩基の水溶液による処理であり、且つ、前記処理後の前記炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値が、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とに係る定量的な分析値であることが好ましい。
【0013】
以下、本発明の好ましい態様の一つである上記塩基性化合物が一級又は二級アミンであり、且つ、工程(A)及至(G)を含むことを特徴とする分析方法について具体的に説明する。
(A)原料である炭素材料を弱塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる弱塩基物質の量を測定する工程
(B)原料である炭素材料を強塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる強塩基物質の量を測定する工程
(C)前記工程(A)及び前記工程(B)それぞれの測定結果から、原料である炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量とヒドロキシ基の量とをそれぞれ定量する工程
(D)表面が改良・改善された炭素材料を弱塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる弱塩基物質の量を測定する工程
(E)表面が改良・改善された炭素材料を強塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる強塩基物質の量を測定する工程
(F)前記工程(D)及び前記工程(E)それぞれの測定結果から、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量とヒドロキシ基の量とアンモニウムカルボキシレート基とをそれぞれ算出する工程
(G)工程(C)の定量結果と工程(F)の定量結果とから表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するアミド基の量を算出する工程
【0014】
<工程(A)>
原料である炭素材料を弱塩基の水溶液で処理すると、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基が中和される。処理に使用する弱塩基は、ヒドロキシ基やカルボニル基が反応せず、カルボキシ基のみを中和するものであればよく、例えば、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムが挙げられる。水溶液中の前記弱塩基の濃度及び使用量等の条件は、測定する試料の量や材質により適宜決定すればよい。例えば、原料である炭素材料がカーボンブラックである場合、カーボンブラック1gを、0.01規定の炭酸水素ナトリウム溶液10〜30mL(好ましくは20mL)で処理するといった条件が挙げられる。また、カーボンブラックの弱塩基水溶液への分散性が悪い場合は、さらに有機溶媒を用いてもよい。かかる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、アセトンなどの水溶性の有機溶媒が挙げられる。
得られた処理物中の液相(以下、工程(A)、(B)、(D)及び(E)のそれぞれにおける処理物中の液相を「本処理液」と記載することがある。)について、残留弱塩基試薬を酸で滴定することで、カルボキシ基を定量する。滴定に使用する酸は、例えば、0.01規定の塩酸標準液が挙げられる。滴定はフェノールフタレイン(終点pH8.5程度)等の指示薬を使用して滴定終了点を目視判定してもよいし、電位差滴定装置を利用して自動測定してもよい。
また、試料炭素材料を用いないブランク測定も同様に行い、試料炭素材料を用いた場合との差分を算出し、カルボキシ基量とする。
【0015】
<工程(B)>
原料である炭素材料を強塩基の水溶液で処理すると、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基の両方が中和される。処理に使用する強塩基は、カルボキシ基とヒドロキシ基の両方を中和するものであればよく、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。水溶液中の前記強塩基の濃度及び使用量等の条件は、測定する試料の量や材質により適宜決定すればよい。例えば、原料である炭素材料がカーボンブラックである場合、カーボンブラック1gを、0.01規定の水酸化ナトリウム溶液10〜30mL(好ましくは20mL)で処理する条件が挙げられる。また、カーボンブラックの強塩基水溶液への分散性が悪い場合は、さらに有機溶媒を用いてもよい。かかる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、アセトンなどの水溶性の有機溶媒が挙げられる。
本処理液について、残留強塩基試薬を酸で滴定することで、カルボキシ基とヒドロキシ基の総和を定量する。滴定に使用する酸、滴定終了点の判定、及びブランク測定については前記工程(A)と同様に行うことができる。
【0016】
<工程(C)>
前記工程(A)及び前記工程(B)のそれぞれの測定結果の単位量の換算を行い、更に、前記工程(B)で測定したカルボキシ基とヒドロキシ基の総量から前記工程(A)で測定したカルボキシ基の量を減ずることにより、原料である炭素材料の表面に存在するヒドロキシ基の量を算出する。
【0017】
<工程(D)>
表面が改良・改善された炭素材料を弱塩基の水溶液で処理すると、一級又は二級アミンと反応せずに残った当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基のみが中和される。本処理液について、残留弱塩基試薬を酸で滴定することにより、一級又は二級アミンで修飾されずに残ったカルボキシ基を定量する。
弱塩基の種類、濃度、使用量、滴定方法、ブランク測定については、前記工程(A)と同様に行うことができる。
【0018】
<工程(E)>
表面が改良・改善された炭素材料を強塩基の水溶液で処理すると、一級又は二級アミンと反応せずに残った当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基、ヒドロキシ基、および、カルボキシ基と一級又は二級アミンとが塩を形成している状態のアンモニウムカルボキシレート基が、それぞれ中和される。本処理液について、残留強塩基試薬を酸で滴定することにより、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基、ヒドロキシ基、および、アンモニウムカルボキシレート基の総和を定量する。
強塩基の種類、濃度、使用量、滴定方法、ブランク測定については、前記工程(B)と同様に行うことができる。
【0019】
<工程(F)>
一級又は二級アミンによる炭素材料の改良・改善の前後でヒドロキシ基は変化しないから、前記工程(C)で算出した原料である炭素材料の表面に存在するヒドロキシ基量と、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するヒドロキシ基量とは等しい。前記工程(D)及び前記工程(E)のそれぞれの測定結果の単位量の換算を行い、前記工程(E)で測定したカルボキシ基、ヒドロキシ基、および、アンモニウムカルボキシレート基の総量から、前記工程(D)で測定したカルボキシ基の量と、前記工程(C)で算出したヒドロキシ基の量を減ずることにより、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量を算出する。
【0020】
<工程(G)>
前記工程(C)で換算した原料である炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量から前記工程(F)で算出した表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量とアンモニウムカルボキシレート基の量とを減ずることで、アミド基量を算出する。
【0021】
前記工程(A)及至(G)を含む分析方法により、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光分析)、TG−GC−MS(熱重量−ガスクロマトグラフ―マススペクトル分析)、TOF−MS(飛行時間型執拗分析)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン分析)等の定性的な分析方法では不可能であった、炭素材料表面における、アンモニウムカルボキシレート基とアミド基とを区別して定量することができるようになった。
【0022】
前記工程(F)で算出したアンモニウムカルボキシレート塩の量(すなわち、イオン結合状態の量)と前記工程(G)で算出したアミド基の量(すなわち、共有結合状態の量)との比を算出し、結合状態を判定、識別、又は評価することができる。そして、かかる比を表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の評価指標とすることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して、本発明一つの形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
<表面が改良・改善された炭素材料の製造(一級又は二級アミンによる修飾)>
(製造例1)
還流装置を設置した100mL丸底フラスコ型反応機(ガラス製)に、カーボンブラック10gとノルマルヘキシルアミン10g、及びマグネチックスターラーバー(反応系内攪拌用)を投入し、反応系内を窒素置換した。前記反応系内を攪拌しながら前記反応機のジャケット温度を150℃まで昇温し、30分間保温した。保温後、30℃以下まで冷却し、メタノール50mlを加えて、前記反応系内物をろ過した。ろ過残渣(黒色粉末)をメタノール50mlで2回洗浄した。丸底フラスコに前記メタノール洗浄後のろ過残渣とイオン交換水50mlを加えて攪拌した後に、ろ過する方法にてイオン交換水洗浄を行った。前記イオン交換水洗浄は7回繰返した。前記イオン交換水洗浄の6回目と7回目のろ液のpHを測定し、pHが8.0〜8.5に収まっていることにより洗浄終了を確認した。前記イオン交換水洗浄後のろ過残渣(黒色粉末)をナスフラスコに移した。前記ナスフラスコに移したろ過残渣(黒色粉末)を約50℃の湯浴器で加熱し、エバポレーターを使用して、0.1MPaにて5時間、減圧乾燥した。引き続き、約50℃の湯浴器で加熱し、ハイバキュームポンプに接続して更に5時間、減圧乾燥した。前記一連の作業により、約9gのノルマルヘキシルアミンにより修飾され、表面が改良・改善されたカーボンブラックの乾燥黒色粉末を得た。
【0025】
(製造例2)
500mL丸底フラスコに、カーボンブラック10gとS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウム10g、キシレン100mL、及びトルエン50mLを投入し、これを約50℃の湯浴器で加熱し、エバポレーターを使用して、0.1MPaにて、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウム及びカーボンブラック中の水分とトルエンを共沸除去した。除去後、前記500mL丸底フラスコ内物を500mL三口フラスコに移し、反応系内を窒素置換し、前記反応系内を撹拌しながら前記反応機のジャケット温度を160℃まで昇温し、60分間保温した。保温後、30℃以下まで冷却し、前記反応系内物をろ過した。ろ過残渣(黒色粉末)をメタノール50mlで5回洗浄した。丸底フラスコに前記メタノール洗浄後のろ過残渣とイオン交換水50mlを加えて攪拌した後に、ろ過する方法にてイオン交換水洗浄を行った。前記イオン交換水洗浄は5回繰返した。前記イオン交換水洗浄の4回目と5回目のろ液のpHを測定し、pHが変化しないことにより洗浄終了を確認した。前記イオン交換水洗浄後のろ過残渣(黒色粉末)をメタノールで3回洗浄の後、ナスフラスコに移した。前記ナスフラスコに移したろ過残渣(黒色粉末)を約50℃の湯浴器で加熱し、エバポレーターを使用して、0.1MPaにて5時間、減圧乾燥した。引き続き、約50℃の湯浴器で加熱し、ハイバキュームポンプに接続して更に5時間、減圧乾燥した。前記一連の作業により、約9gのS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウムにより修飾され、表面が改良・改善されたカーボンブラックの乾燥黒色粉末を得た。
【0026】
<表面官能基測定方法>
(実施例1)
工程(A):原料であるカーボンブラック表面に存在するカルボキシ基(COOH基)の定量
製造例1の原料として使用したカーボンブラック約1gを1mg単位で秤量し、1.102gを得た。当該カーボンブラックに0.01規定炭酸水素ナトリウムのメタノールと水の1:1溶液を50mL加え、室温で4時間撹拌後、ろ過した。ろ液の上澄み液を20mL採取し、自動滴定装置を用いて0.01規定の塩酸水溶液で滴定し、得られた滴定曲線の変曲点から試料滴定量を測定した。得られた試料滴定量は、18.505mLであった。0.01規定炭酸水素ナトリウムのメタノールと水の1:1溶液50mLも同様の操作を行いブランク滴定量を測定した。得られたブランク滴定量は、20.252mLであった。
【0027】
工程(B):原料であるカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基(OH基)との総和の定量
製造例1の原料として使用したカーボンブラック約1gを1mg単位で秤量し、1.0747gを得た。当該カーボンブラックに0.01規定水酸化ナトリウムのメタノールと水の1:1溶液を50mL加え、室温で4時間撹拌後、ろ過した。ろ液の上澄み液を20mL採取し、自動滴定装置を用いて0.01規定の塩酸水溶液で滴定し、得られた滴定曲線の変曲点から試料滴定量を測定した。得られた試料滴定量は、16.118mLであった。0.01規定水酸化ナトリウムのメタノールと水の1:1溶液50mLも同様の操作を行いブランク滴定量を測定した。得られたブランク滴定量は、19.687mLであった。
【0028】
工程(C):原料であるカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基の定量
工程(A)で測定した試料滴定量とブランク滴定量とから製造例1の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基(COOH基)の量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数1によって算出した。
【0029】
【数1】

また、工程(B)で測定した滴定量とブランク滴定量とから製造例1の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基との総量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数2によって算出した。
【0030】
【数2】

更に、前記カルボキシ基とヒドロキシ基との総量から前記カルボキシ基の量を減ずることにより、ヒドロキシ基の量を算出した。
以上の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
工程(D):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の定量
製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックについても工程(A)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の定量を行った。カーボンブラック試料1.100g、試料滴定量20.047mL、ブランク滴定量20.252mLであった。
【0033】
工程(E):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量
製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックについても工程(B)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量を行った。カーボンブラック試料1.016g、試料滴定量17.826mL、ブランク滴定量19.687mLであった。
【0034】
工程(F):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量
工程(D)で測定した試料滴定量とブランク滴定量とから、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラック表面に存在するカルボキシ基の量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数1によって算出した。
また、工程(E)で測定した滴定量とブランク滴定量とから、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラック表面に存在するカルボキシ基、ヒドロキシ基及びアンモニウムカルボキシレート基の総量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数3によって算出した。
【0035】
【数3】

前記カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアンモニウムカルボキシレート基の総量から前記カルボキシ基の量を減ずることにより、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総量を算出した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
工程(G−1):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基とアミド基との総量の算出
工程(C)で算出した、製造例1の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の量から工程(F)で算出した製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の量を減ずることにより、アミノ基と反応して消費したカルボキシ基の量、即ち、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とノルマルヘキシルアミンのアミノ基とが反応して形成した、アンモニウムカルボキシレート基とアミド基との総量を算出した。
【0038】
工程(G−2):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量の算出
工程(F)で算出した、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総量から、工程(C)で算出した、製造例1の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基を減ずることにより、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量を算出した。
【0039】
工程(G−3):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアミド基の量の算出
工程(G−1)で算出した、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基とアミド基との総量から、工程(G−2)で算出した、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量を減ずることにより、製造例1で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアミド基の量を算出した。
以上の結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
(実施例2)
工程(A):原料であるカーボンブラック表面に存在するカルボキシ基(COOH基)の定量
製造例2の原料として使用したカーボンブラックについて、実施例1の工程(A)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の定量を行った。カーボンブラック試料1.002g、試料滴定量19.032mL、ブランク滴定量20.468mLであった。
【0042】
工程(B):原料であるカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基(OH基)との総和の定量
製造例2の原料として使用したカーボンブラックについて、実施例1の工程(B)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基との総和の定量を行った。カーボンブラック試料1.046g、試料滴定量14.505mL、ブランク滴定量17.947mLであった。
【0043】
工程(C):原料であるカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基の定量
工程(A)で測定した試料滴定量とブランク滴定量とから、製造例2の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基(COOH基)の量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数1によって算出した。
【0044】
また、工程(B)で測定した滴定量とブランク滴定量とから、製造例2の原料として使用したカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基との総量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数2によって算出した。
【0045】
更に、前記カルボキシ基とヒドロキシ基との総量から前記カルボキシ基の量を減ずることにより、ヒドロキシ基の量を算出した。
以上の結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
工程(D):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の定量
製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックについても工程(A)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の定量を行った。カーボンブラック試料1.046g、試料滴定量20.011mL、ブランク滴定量20.468mLであった。
【0048】
工程(E):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量
製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックについても工程(B)と同様の操作を行い、当該カーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量を行った。カーボンブラック試料0.962g、試料滴定量16.006mL、ブランク滴定量17.947mLであった。
【0049】
工程(F):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総和の定量
工程(D)で測定した試料滴定量とブランク滴定量とから、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基の量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数1によって算出した。
また、工程(E)で測定した滴定量とブランク滴定量とから、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基、ヒドロキシ基及びアンモニウムカルボキシレート基の総量は、カーボンブラック1g中のミリモルとして数3によって算出した。
【0050】
前記カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアンモニウムカルボキシレート基の総量から前記カルボキシ基を減ずることにより、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するヒドロキシ基とアンモニウムカルボキシレート基との総量を算出した。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
工程(G−1):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート塩とアミド基との総量の算出
実施例1の工程(G−1)と同様にして、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するカルボキシ基とS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウムのアミノ基とが反応して形成した、アンモニウムカルボキシレート基とアミド基との総量を算出した。
【0053】
工程(G−2):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量の算出
実施例1の工程(G−2)と同様にして、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアンモニウムカルボキシレート基の量を算出した。
【0054】
工程(G−3):表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアミド基の量の算出
実施例1の工程(G−3)と同様にして、製造例2で得た表面が改良・改善されたカーボンブラックの表面に存在するアミド基の量を算出した。
以上の結果を表6に示す。
【0055】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる炭素材料における表面性状に係る、より詳細な情報(具体的には例えば、その表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態に係る情報)を得ることが可能となり、炭素材料表面の修飾状態を厳密に設定した炭素材料製品の設計及び高度な炭素材料製品品質を実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる、表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の分析方法であり、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対して、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理を施し、当該処理後の原料である炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値と当該処理後の表面が改良・改善された炭素材料に基づき得られた表面に存在する基に係る分析値との差異に基づき、前記の結合状態を判定、識別、又は評価する工程を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基と塩基性化合物との結合状態がイオン結合か共有結合かを区別可能となる処理が、原料である炭素材料、および、表面が改良・改善された炭素材料に対する、(1)弱塩基の水溶液による処理、および(2)強塩基の水溶液による処理であり、且つ、前記処理後の前記炭素材料に基づき得られた試料を用いて測定された表面に存在する基に係る分析値が、当該炭素材料の表面に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とに係る定量的な分析値であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
その表面にカルボキシ基が存在する原料である炭素材料に対して塩基性化合物を反応させた後に得られる、表面が改良・改善された炭素材料における表面性状の分析方法であり、当該塩基性化合物が一級又は二級アミンであり、且つ、下記の工程(A)及至(G)を含むことを特徴とする分析方法。
(A)原料である炭素材料を弱塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる弱塩基物質の量を測定する工程
(B)原料である炭素材料を強塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる強塩基物質の量を測定する工程
(C)前記工程(A)及び前記工程(B)それぞれの測定結果から、原料である炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量とヒドロキシ基の量とをそれぞれ定量する工程
(D)表面が改良・改善された炭素材料を弱塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる弱塩基物質の量を測定する工程
(E)表面が改良・改善された炭素材料を強塩基の水溶液で処理し、得られた処理物中の液相に含まれる強塩基物質の量を測定する工程
(F)前記工程(D)及び前記工程(E)それぞれの測定結果から、表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するカルボキシ基の量とヒドロキシ基の量とアンモニウムカルボキシレート基とをそれぞれ算出する工程
(G)工程(C)の定量結果と工程(F)の定量結果とから表面が改良・改善された炭素材料の表面に存在するアミド基の量を算出する工程

【図1】
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【公開番号】特開2012−181190(P2012−181190A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−19579(P2012−19579)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】