説明

炭素材料及びその製造方法

【課題】高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料を提供する。
【解決手段】上記炭素材料は、下記一般式(1)


(上記一般式(1)において、Arは炭素数4〜45の4価の芳香族基であり、Arは炭素数4〜30の2価の芳香族基である。)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミド100質量部と、特定の金属フタロシアニン1〜150質量部とからなる全芳香族ポリイミド組成物を、不活性ガス雰囲気下、500℃〜1,500℃において焼成して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料及びその製造方法に関する。更に詳しくは、全芳香族ポリイミドと金属フタロシアニンとからなる組成物を焼成して得られる炭素材料及びその製造方法に関する。該炭素材料は良好な酸素還元作用を有し、燃料電池用電極触媒として好適である。
【背景技術】
【0002】
高効率、無公害の燃料電池、特に電気自動車(FCEV)や定置用電熱併供システム(CG−FC)に用いられる固体高分子型燃料電池の実用化は、地球温暖化及び環境汚染問題に対する重要な解決策の一つとして注目されている。しかし、燃料電池においては、そのカソードで起こる酸素還元反応を促進するために、資源量が少なく極めて高価な白金を触媒として多量に使用する必要があり、このことが燃料電池の実用化の大きな障壁になっている。そこで白金等の高価な貴金属を必要としない、燃料電池用電極触媒の開発が大きな注目を集め、わが国はもとより米国をはじめとする世界中で精力的にその研究開発が行われている。それらの研究の主流は鉄やコバルト等の卑金属を活性中心とする電極触媒の開発であるが、得られる電極触媒の発電性能は十分ではなく、また耐久性の面でも問題があり実用化に至ってはいない。
例えば特許文献1は、炭素材料の原料となる有機物として熱硬化性樹脂類を用いて、貴金属以外の遷移金属及び窒素が添加された炭素材料を調製し、この炭素材料を用いた燃料電池用電極触媒及びその製造方法が開示されている。この電極触媒は、従来のものに比べて優れた性能を示してはいるが、白金を使用した電極触媒にはまだ及ばず、より優れた活性を有する電極触媒、及びその材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−26746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされてものであり、その目的は、高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、全芳香族ポリイミドと金属フタロシアニンとの組成物を焼成して得られる炭素材料が、優れた酸化還元活性を有し燃料電池用電極触媒として好適であることを見出した。即ち、本発明によると、本発明の上記目的及び利点は、第一に、
下記一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(上記一般式(1)において、Arは炭素数4〜45の4価の芳香族基であり、Arは炭素数4〜30の2価の芳香族基である。)
で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミド100質量部と、
下記一般式(2)
【0008】
【化2】

【0009】
(上記一般式(2)において、MはFe2+、Co2+、Cu2+及びNi2+よりなる群から選ばれる金属イオンであり、X、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、h、i、j及びkは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリイミド組成物を、不活性ガス雰囲気下、500℃〜1,500℃において焼成して得られる炭素材料によって達成される。
本発明の上記目的及び利点は、第二に、
上記の炭素材料を製造するための方法であって、
溶媒の存在下において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミドの前駆体である全芳香族ポリアミド酸と上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとを混合し、得られた混合物を前記全芳香族ポリアミド酸及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて得られる析出物を80℃以上500℃未満で加熱処理して全芳香族ポリイミド組成物とし、そして該全芳香族ポリイミド組成物を不活性ガス雰囲気下、500℃〜1,500℃において焼成する炭素材料の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭素材料は、高い酸素還元特性を有し、燃料電池用電極触媒として用いられるほか、各種化学反応の触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1並びに比較例1及び2における炭素材料の電位(Potential)と電流密度(Current density)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の例について述べるが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
<全芳香族ポリイミド>
本発明において使用される全芳香族ポリイミドは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミドである。
上記一般式(1)におけるArは、炭素数4〜45の4価の芳香族基である。全芳香族ポリアミド中に存在する複数個のArはそれぞれ同一であっても互いに異なっていてもよい。上記一般式(1)におけるArとしては、例えば
【0013】
【化3】

【0014】
よりなる群から選択される4価の芳香族基を挙げることができる。ここで、上記におけるRとしては、
【0015】
【化4】

【0016】
よりなる群から選択される2価の基を挙げることができる。全芳香族ポリアミド中に複数個のRが存在する場合、それらはそれぞれ同一であっても互いに異なっていてもよい。
上記一般式(1)におけるArとしては、炭素数5〜20の4価の芳香族基であることが好ましく、特に
【0017】
【化5】

【0018】
よりなる群から選択される一種以上の4価の芳香族基であることが好ましい。
上記Arは、その芳香環上の水素原子のうちの1つ又は複数が、それぞれ独立に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。
上記一般式(1)におけるArは、炭素数4〜30の2価の芳香族基である。全芳香族ポリアミド中に存在する複数個のArはそれぞれ同一であっても互いに異なっていてもよい。上記一般式(1)におけるArとしては、
【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
よりなる群から選択される2価の芳香族基を挙げることができる。
上記一般式(1)におけるArとしては、炭素数6〜20の2価の芳香族基であることが好ましく、更に好ましくは
【0023】
【化9】

【0024】
よりなる群から選択される一種以上の2価の芳香族基であり、特に
【0025】
【化10】

【0026】
よりなる群から選択される一種以上の2価の芳香族基であることが好ましい。
上記Arは、その芳香環上の水素原子のうちの1つ又は複数が、それぞれ独立に、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。
【0027】
<金属フタロシアニン>
本発明において用いられる金属フタロシアニンは、上記一般式(2)で表されるものである。
上記一般式(2)におけるMは、Fe2+であることが好ましい。
本発明において用いられる金属フタロシアニンとしては、上記一般式(2)におけるh、i、j及びkがいずれも0であるか、あるいはこれらのうちの少なくとも1つが0ではなく且つX、X、X及びXが塩素原子及び炭素数1〜8のアルキル基よりなる群から選ばれる一種以上の同一又は異なる基であることがより好ましく、下記一般式(3)
【0028】
【化11】

【0029】
(上記一般式(3)において、Mは上記一般式(2)におけるのと同義である。)
で表されるものが更に好ましく、中でも下記一般式(3)においてMがFe2+であるものが特に好ましい。
【0030】
<全芳香族ポリイミド組成物及びその製造方法>
本発明における全芳香族ポリイミド組成物は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミド100質量部と、上記一般式(2)で表される金属フタロシアニン1〜150質量部とからなる。金属フタロシアニンの割合としては、全芳香族ポリイミド100質量部に対して、5〜100質量部であることがより好ましく、8〜50質量部であることが更に好ましい。
本発明における全芳香族ポリイミド組成物を製造するには、溶媒の存在下において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミドの前駆体である全芳香族ポリアミド酸と上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとを混合した後、前駆体である全芳香族ポリアミド酸をイミド化する方法によることが好ましい。
以下、全芳香族ポリアミド酸の製造、全芳香族ポリアミド酸と金属フタロシアニンとの混合及び全芳香族ポリアミド酸のイミド化について説明する。
【0031】
[全芳香族ポリアミド酸の製造]
全芳香族ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(「ポリアミック酸」ともいう。)は、下記一般式(4)
【0032】
【化12】

【0033】
(上記一般式(4)において、Arは上記一般式(1)におけるのと同義である。)
で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(5)
N−Ar−NH (5)
(上記一般式(5)において、Arは上記一般式(1)におけるのと同義である。)
で表される芳香族ジアミンとを、好ましくは溶液中で重合反応させることにより得られる全芳香族ポリアミド酸である。
上記一般式(4)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記一般式(5)で表される芳香族ジアミンの使用割合としては、芳香族ジアミンを、芳香族テトラカルボン酸二無水物の1モルに対して、0.90〜1.10モル使用することが好ましく、0.95〜1.05モル使用することがより好ましい。
【0034】
全芳香族ポリアミド酸を合成する際に使用することのできる溶媒としては、上記一般式(4)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記一般式(5)で表される芳香族ジアミンと反応せず、全芳香族ポリアミド酸を溶解することのできる溶媒であればよい。その具体例としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と略称することがある。)、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア、1,3−ジピロピルイミダゾリジノン、Nーメチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチルスルホン等の非プロトン性極性溶媒;ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン,4−ピコリン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,6−ルチジン等の複素芳香族化合物;クレゾール及びその誘導体等を挙げることができる。これらの溶媒を、有機ハロゲン化物(例えば四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等)、ベンゼン、トルエン、ベンゾニトリル、キシレン、ソルベントナフサ、ジオキサンの如き他の溶媒と混合して使用してもよい。しかし、使用できる溶媒は上記に限定されない。
【0035】
上記の如き溶媒の使用割合は、種々の条件に応じて適宜に設定されるべきであるが、原料溶液中のモノマー濃度(原料溶液中における、上記一般式(4)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物及び上記一般式(5)で表される芳香族ジアミンの合計の濃度)が5〜30重量%となる割合とすることが好ましい。
反応温度は、60℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは−20〜60℃である。反応時間は、好ましくは0.1〜24時間であり、より好ましくは1〜10時間である。
全芳香族ポリアミド酸の合成に際して、上記一般式(4)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と上記一般式(5)で表される芳香族ジアミンとの反応を末端封止剤の存在下に行うことにより、末端が封止された全芳香族ポリアミド酸とする方法も好ましく採用することができる。ここで使用される末端封止剤としては、例えば無水フタル酸及びその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びその置換体、無水コハク酸及びその置換体等の酸一無水物;アニリン及びその置換体等のモノアミン等を挙げることができるがこれらに限られるものではない。
以上のようにして得られる全芳香族ポリアミド酸は、その特有粘度が0.1〜30であることが好ましく、0.2〜15であることがより好ましい。
この特有粘度は、DMAcに、全芳香族ポリアミドを濃度0.5g/100mLにて溶解した試料について30℃において測定した相対粘度(ηrel)の値から、下記数式(i)
ηinh=(lnηrel)/C (i)
(数式(i)中、ηrelは相対粘度であり、Cは上記の試料濃度0.5g/100mLである。)
により求めた値である。
【0036】
[全芳香族ポリアミド酸と金属フタロシアニンとの混合]
上記の如き全芳香族ポリアミド酸と金属フタロシアニンとを混合する際に使用される溶媒としては、全芳香族ポリアミド酸の合成の際に使用できる溶媒として前記に例示したものと同じものを挙げることができる。それらのうち、全芳香族ポリアミド酸及び金属フタロシアニンの溶解性が良好であり、比較的入手し易いという点から、N,N−ジメチルホルムアミド、DMAc、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア及びジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれる一種以上の非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。
全芳香族ポリアミド酸と金属フタロシアニンとを混合する方法としては、全芳香族ポリアミド酸が溶解した溶液中に金属フタロシアニンを加える方法、全芳香族ポリアミド酸が溶解した溶液中に金属フタロシアニンを分散させた分散液を加える方法、全芳香族ポリアミド酸と金属フタロシアニンを同時に溶媒に加える方法等が好ましく用いられるが、この限りではない。
溶媒の使用割合としては、溶媒、全芳香族ポリアミド酸及び金属フタロシアニンの合計質量に対する全芳香族ポリアミド酸及び金属フタロシアニンの合計質量が0.01〜50質量%となる割合をすることが好ましく、この値が0.1〜10質量%となる割合とすることよりが好ましい。
両者を混合するに際しては、例えばメカニカルスターラー、遊星攪拌機、1軸ルーダー及び2軸ルーダーなど公知の混錬装置を用いることができるほか、超音波分散によってもよい。
【0037】
[全芳香族ポリアミド酸のイミド化]
次いで、上記のようにして得られた全芳香族ポリアミド酸及び金属フタロシアニンを含有する混合物中の全芳香族ポリアミド酸をイミド化することにより、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミドと上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとからなる全芳香族ポリイミド組成物を得ることができる。
全芳香族ポリアミド酸をイミド化するには、例えば全芳香族ポリアミド酸、金属フタロシアニン及び溶媒からなる混合物をそのまま用いて繊維状、フィルム状等の成型体に成型して溶液を除去してイミド化する方法、上記混合物から全芳香族ポリアミド酸及び金属フタロシアニンを取り出してイミド化する方法、上記混合物を全芳香族ポリアミド酸及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて得られる析出物をイミド化する方法等によることができる。イミド化方法としては、加熱処理による熱イミド化、脱水剤を用いる化学イミド化等の従来から公知のいずれの方法をも利用することができるが、操作が簡便な点で熱イミド化が好ましい。
本発明における全芳香族ポリイミド組成物を得るためには、全芳香族ポリアミド酸、金属フタロシアニン及び溶媒からなる混合物を全芳香族ポリアミド酸及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて析出物を得、該析出物を80℃以上500℃未満で加熱処理して熱イミド化する方法によることがより好ましい。ここで、加熱処理を行う際には、徐々に昇温していくことが望ましいが、一定の昇温速度で加熱することが難しい場合があるため、例えば80〜150℃で3分〜3時間加熱し、更に200℃以上500℃未満で1分〜3時間加熱する等のように段階的に加熱する方法も好ましく採用することができる。加熱処理における温度の段階の数の上限は特にはないが、操作が煩雑にならないように2〜5段階程度とすることが好ましい。80℃以上500℃未満で加熱する時間の合計は、1〜10時間とすることが好ましい。この加熱は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下または減圧条件下で行うことが好ましい。
【0038】
<全芳香族ポリイミド組成物の焼成>
上記のようにして調製した全芳香族ポリイミド組成物を焼成して炭素化することにより、本発明の炭素材料(炭素化物)を得ることができる。この焼成の際の加熱温度としては500〜1,500℃の温度が採用され、好ましくは600〜1,200℃であり、より好ましくは650〜1,000℃である。焼成時間は、1〜300分であることが好ましく、10〜180分であることがより好ましく、更に30〜100分であることが好ましい。
焼成は、不活性ガス雰囲気下において行われる。ここで、好ましい不活性ガスとして窒素、アルゴン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記不活性ガスは、その酸素濃度が体積基準で100ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であるとより好ましく、10ppm以下であると更に好ましい。
<炭素材料>
本発明の炭素材料は、その酸素還元開始電位が0.7V以上、更には0.8〜1.0Vと高いものである。そのため、本発明の炭素材料は、燃料電池用電極触媒として好適に使用することができるほか、各種化学反応、例えば酸化物の還元反応等の触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
以下において、全芳香族ポリアミド酸の特有粘度、酸素還元活性及び炭素化収率は、それぞれ、下記のようにして求めた。
(1)全芳香族ポリアミド酸の特有粘度(ηinh
DMAcに、全芳香族ポリアミドを濃度0.5g/100mLにて溶解した試料について30℃において測定した相対粘度(ηrel)の値から、上記数式(i)により求めた。
(2)酸素還元活性
酸素還元活性は、回転電極法によりリニアスイープボルタンメトリーを行って測定した酸素還元開始電位として求めた。ここで、電圧値及び酸素還元開始電位は、それぞれ、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を用いて測定した値を標準水素電極(NHE)基準値に換算して示した。
なお、リニアスイープボルタンメトリーの手順は以下A〜Dに示した。
A.プラスチックバイアルに、焼成により得られた炭素材料5mgをとり、ガラスビーズをスパチュラ一杯、ナフィオン50μL並びに蒸留水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ加え、20分間超音波をあててスラリーとした。
B.上記スラリーを4μLとり、回転電極のガラス状炭素上に塗付し、飽和水蒸気雰囲気下で乾燥した。
C.乾燥後の回転電極を作用極とし、Ag/AgCl電極を参照極とし、白金線を対極とした。電解液である0.5M硫酸に酸素を30分バブリングした後、自然電位を測定した。
D.次いで、600s初期電位を印加した後に、掃引速度1mV/s、回転速度1,500rpmで、0.8V vs.Ag/AgClから−0.2V vs.Ag/AgClまで測定を行った。
E.上記測定で、−10μA・cm−2(−0.01mA・cm−2)における電圧値を酸素還元開始電位として算出した。
(3)炭素化収率
炭素化収率は、焼成後の炭化物の重量及び焼成前の全芳香族ポリイミド酸組成物の重量から、下記数式(i)により求めた。
炭素化収率(%)=(焼成後の炭化物の重量)/(焼成前の全芳香族ポリイミド組成物の重量)×100 (i)
【0040】
調製例1<全芳香族ポリアミド酸溶液の調製>
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、モレキュラーシーブスで脱水したDMAc800質量部を入れ、更にパラフェニレンジアミン9.71質量部を加えて完全に溶解した後、氷浴下0℃まで冷却した。この冷却した芳香族ジアミン溶液に無水ピロメリット酸19.6質量部を添加して、0℃において1時間反応を行った。次いで反応温度を25℃まで上昇して冷却しながら1時間反応を行った後、更に室温下で2時間反応を行い、続いて50℃で2時間反応を行った。反応終了後、反応混合物を窒素雰囲気下で濾過した後脱泡することにより、全芳香族ポリアミド酸の溶液を得た。得られた全芳香族ポリアミド酸溶液を、大量のイオン交換水中に投入して全芳香族ポリアミド酸を析出させた。得られた全芳香族ポリアミド酸を濾取して水で2回及びメタノールで1回順次に洗浄後、真空乾燥することにより、全芳香族ポリアミド酸を得た。
この全芳香族ポリアミド酸の特有粘度(ηinh)を測定したところ、0.27であった。
【0041】
実施例1<全芳香族ポリイミド組成物の調製、該全芳香族ポリイミド組成物を用いた炭素材料の調製及び該炭素材料の酸素還元活性の測定>
上記調製例1で得た全芳香族ポリアミド酸8.54質量部をDMAcに溶解し、ここに鉄フタロシアニン2.4質量部を加えて攪拌し、全芳香族ポリアミド酸及び鉄フタロシアニンを含有する溶液を得た。得られた溶液を大量のイオン交換水中に投入して得られた析出物につき、水で2回及びメタノールで1回、順次に洗浄した後、真空乾燥して、全芳香族ポリアミド酸及び鉄フタロシアニンからなる組成物を得た。この組成物を100℃で1時間、200℃で1時間及び300℃で1時間、順次に加熱処理することにより、鉄フタロシアニンを24重量%含む全芳香族ポリイミド組成物を得た。
上記で得た全芳香族ポリイミド組成物につき、窒素雰囲気下、900℃において60分焼成して炭素化処理した後、ボールミルを用いて粉砕することにより、炭素材料を得た。
上記炭素化処理における炭素化収率及び上記炭素材料の酸素還元活性の測定結果を表1及び図1に示した。
【0042】
比較例1<全芳香族ポリイミドを用いた炭素材料の調製及び該炭素材料の酸素還元活性の測定>
上記調製例1で得た全芳香族ポリアミド酸を100℃で1時間、200℃で1時間加熱し、続いて300℃で1時間加熱処理することにより、全芳香族ポリイミドを得た。
上記で得た全芳香族ポリイミドにつき、窒素雰囲気下、900℃において60分焼成して炭素化処理した後、ボールミルを用いて粉砕することにより、炭素材料を得た。
上記炭素化処理の炭素化収率及び上記炭素材料の酸素還元活性の測定結果を表1及び図1に示した。
【0043】
比較例2<フェノール樹脂及び鉄フタロシアニンからなるフェノール樹脂組成物の調製、該組成物を用いた炭素材料の調製及び該炭素材料の酸素還元活性の測定>
フェノール樹脂3.3質量部をアセトン237質量部に溶解し、ここに1.0質量部の鉄フタロシアニンを加えた後にアセトンを減圧留去することにより、フェノール樹脂及び23.3質量%の鉄フタロシアニンからなるフェノール樹脂組成物を得た。
上記で得たフェノール樹脂組成物につき、窒素雰囲気下、800℃において60分焼成して炭素化処理した後、ボールミルを用いて粉砕することにより、炭素材料を得た。
上記炭素化処理の炭素化収率及び上記炭素材料の酸素還元活性の測定結果を表1及び図1に示した。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の炭素材料は、燃料電池用の電極触媒、各種化学反応の触媒等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
EX.1:実施例1にて得られた炭素材料の電位(Potential)と電流密度(Current density)との関係を示すプロットである。
CE−1:比較例1にて得られた炭素材料の電位(Potential)と電流密度(Current density)との関係を示すプロットである。
CE−2:比較例2にて得られた炭素材料の電位(Potential)と電流密度(Current density)との関係を示すプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、Arは炭素数4〜45の4価の芳香族基であり、Arは炭素数4〜30の2価の芳香族基である。)
で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミド100質量部と、
下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)において、MはFe2+、Co2+、Cu2+及びNi2+よりなる群から選ばれる金属イオンであり、X、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、h、i、j及びkは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリイミド組成物を、不活性ガス雰囲気下、500℃〜1,500℃において焼成して得られることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
上記一般式(1)におけるAr
【化3】

よりなる群から選ばれる芳香族基であり、Ar
【化4】

よりなる群から選ばれる芳香族基である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
上記一般式(2)におけるMがFe2+である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素材料を製造するための方法であって、
溶媒の存在下において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリイミドの前駆体である全芳香族ポリアミド酸と上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとを混合し、得られた混合物を前記全芳香族ポリアミド酸及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて得られる析出物を80℃以上500℃未満で加熱処理して全芳香族ポリイミド組成物とし、そして該全芳香族ポリイミド組成物を不活性ガス雰囲気下、500℃〜1,500℃において焼成することを特徴とする、炭素材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275116(P2010−275116A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125926(P2009−125926)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】