説明

炭素材料及びその製造方法

【課題】高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料を提供すること。
【解決手段】上記炭素材料は、50モル%以上のアクリロニトリル成分と1モル%以上のビニル系ホウ酸類モノマー成分とを有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成することによって得られる。上記共重合体は、好ましくはアクリロニトリル成分のアイソタクティックトライアド含量が全アクリロニトリル成分基準で15モル%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料及びその製造方法に関する。更に詳しくは、窒素源としてのアクリロニトリル成分及びホウ素源としてのビニル系ホウ酸類モノマー成分を有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を焼成して得られる炭素材料及びその製造方法に関する。該炭素材料は良好な酸素還元作用を有し、燃料電池用電極触媒として好適である。
【背景技術】
【0002】
高効率、無公害の燃料電池、特に電気自動車(FCEV)や定置用電熱併供システム(CG−FC)に用いられる固体高分子型燃料電池の実用化は、地球温暖化及び環境汚染問題に対する重要な解決策の一つとして注目されている。しかし、燃料電池においては、そのカソードで起こる酸素還元反応を促進するために、資源量が少なく極めて高価な白金を触媒として多量に使用する必要があり、このことが燃料電池の実用化の大きな障壁になっている。そこで白金等の高価な貴金属を必要としない、燃料電池用電極触媒の開発が大きな注目を集め、わが国はもとより米国をはじめとする世界中で精力的にその研究開発が行われている。それらの研究の主流は鉄やコバルト等の卑金属を活性中心とする電極触媒の開発であるが、得られる電極触媒の発電性能は十分ではなく、また耐久性の面でも問題があり実用化に至ってはいない。
例えば特許文献1は、炭素材料の原料となる有機物として熱硬化性樹脂類を用いて、貴金属以外の遷移金属及び窒素が添加された炭素材料を調製し、この炭素材料を用いた燃料電池用電極触媒及びその製造方法が開示されている。この電極触媒は、従来のものに比べて優れた性能を示してはいるが、白金を使用した電極触媒にはまだ及ばず、より優れた活性を有する電極触媒、及びその材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−26746号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D. M. Whiteら、J. Am. Chem. Soc., 1960, 82, 5671
【非特許文献2】Y. Nakanoら、Polym. Int., 1994, 35(3), 249−55
【非特許文献3】H. Kuwaharaら、Polymer Preprints, 2002, 43(2), 978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、窒素源としてのアクリロニトリル成分及びホウ素源としてのビニル系ホウ酸類モノマー成分を有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を焼成して得られる炭素材料が優れた酸化還元活性を示し、燃料電池用電極触媒等として好適であることを見出すことにより、本願発明を完成するに至った。
即ち、本発明によると、本発明の上記目的及び利点は、第一に、
50モル%以上のアクリロニトリル成分と1モル%以上のビニル系ホウ酸類モノマー成分とを有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成して得られる炭素材料によって達成される。
本発明の上記目的及び利点は、第二に、
上記のアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成する炭素材料の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭素材料は、高い酸化還元活性を有し、燃料電池用電極触媒として用いられるほか、各種化学反応の触媒として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態の例について述べるが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
<アクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体>
本発明で用いられるアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体(以下、「AN/VB共重合体」ということがある。)は、50モル%以上のアクリロニトリル成分と1モル%以上のビニル系ホウ酸類モノマー成分とを有する共重合体である。ここでアクリロニトリル成分とは、AN/VB共重合体の分子鎖中におけるアクリロニトリルモノマーに由来する繰り返し単位のことをいい、
ビニル系ホウ酸類モノマー成分とは、AN/VB共重合体の分子鎖中におけるビニル系ホウ酸類モノマーに由来する繰り返し単位のことをいう。
AN/VB共重合体のアクリロニトリル成分の割合が50モル%未満であると、焼成処理における炭素材料の収率を減ずるほか、得られる炭素材料の酸素還元特性が十分に発現されない等、触媒特性が不十分となる場合がある。また、AN/VB共重合体のビニル系ホウ酸類モノマー成分の割合が1モル%未満であると、焼成処理によっても触媒構造が十分には形成されず、得られる炭素材料の触媒特性が不十分となる場合がある。
【0009】
ここで、アクリロニトリル成分の割合が50モル%未満及び/又はビニル系ホウ酸類モノマー成分の割合が1モル%未満の共重合体であっても、これをアクリロニトリル成分の割合が50モル%以上及び/又はビニル系ホウ酸類モノマー成分の割合が1モル%以上である別の水準の共重合体と混合し、混合後の共重合体混合物の全体としてアクリロニトリル成分の割合が50モル%以上であり、且つビニル系ホウ酸類モノマー成分の割合が1モル%であるものとすれば、本発明に用いることができる。
AN/VB共重合体のアクリロニトリル成分の割合は、70〜99モル%であることが好ましく、70〜97モル%であることがより好ましい。
AN/VB共重合体のビニル系ホウ酸類モノマー成分の割合は、1〜30モル%であることが好ましく、2〜10モル%であることがより好ましい。
【0010】
AN/VB共重合体におけるビニル系ホウ酸類モノマー成分を導くビニル系ホウ酸類モノマーは、炭素=炭素二重結合及びBO構造を有するモノマーであり、例えばビニルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルホウ酸誘導体、ビニルフェニルホウ酸誘導体及びアリルホウ酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。ここで上記各ホウ酸誘導体としては、各ホウ酸エステル、各ホウ酸アミド等を挙げることができる。
このようなビニル系ホウ酸類モノマーの具体例としては、例えば4−ビニルフェニルホウ酸、2−ビニルフェニルホウ酸、ビニルホウ酸、アリルホウ酸、4−ビニルフェニルホウ酸ジブチルエステル、2−ビニルフェニルホウ酸ジブチルエステル、ビニルホウ酸ジエチルエステル、ビニルホウ酸ジブチルルエステル、ビニルホウ酸ピナコールエステル、アリルホウ酸ピナコールエステル等を挙げることができ、これらのうちの1種以上を使用することができる。本発明におけるビニル系ホウ酸類モノマーとしては、4−ビニルフェニルホウ酸、2−ビニルフェニルホウ酸、ビニルホウ酸ジブチルエステル及びアリルホウ酸ピナコールエステルよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが特に好ましい。
【0011】
AN/VB共重合体におけるアクリロニトリル成分及びビニル系ホウ酸類モノマー成分以外の共重合成分(以下、「他の共重合成分」ということがある。)を導く共重合モノマーとしては、一般に公知の共重合可能な重合性不飽和化合物を用いることができる。そのような成分として、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、芳香族ビニル化合物、複素環式ビニル化合物等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であれば、制限なく好適に使用することができる。
しかしながら、後述するように本発明で使用されるAN/VB共重合体は分子構造の制御されたものであることが好ましいとの観点から、分子構造の制御されたAN/VB共重合体を製造するのに適した重合性不飽和化合物を使用することが好ましい。このような重合性不飽和化合物としては、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、イタコン酸、イタコン酸エステル、アミノスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール、ビニルピロリドン、シアノ酢酸エステル、ビニルフタルイミド、ビニルピラジン、ビニルトリアジン、ビニルエーテル、スチレン、酢酸ビニル、アリルアミン等を挙げることができ、これらのうちの1種以上を用いることができる。この中で、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びイタコン酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、特にこれらの炭素数1〜6のアルキル基のエステルが好ましい。上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、三級ブチル基等を挙げることができる。
AN/VB共重合体における他の共重合成分の割合は、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明におけるAN/VB共重合体の立体構造としては、アクリロニトリル成分のアイソタクティックトライアド含量が、全アクリロニトリル成分基準で15モル%以上であることが好ましい。ここで、アイソタクティックトライアドとは、重合体中の連続した3個のアクリロニトリルモノマー単位を考えたときに、隣り合うモノマー単位がいずれも互いにメソ(以下、「m」と略記する。)配置の関係にあることを指す。即ちアイソタクティックトライアド含量とは、全アクリロニトリル連鎖に占めるmm連鎖の割合(以下、「mm含量」と略記することがある。)であり、この値が15モル%未満の場合、焼成処理における炭素材料の収率を著しく減ずる等焼成プロセス適合性に問題を生ずるほか、得られる炭素材料の酸素還元特性が十分に発現されない等、触媒特性が不十分となる場合がある。このmm含量は、全アクリロニトリル成分基準で20モル%以上であることが好ましい。mm含量は、得られる炭素材料の触媒効率の観点からは高いほどよいが、AN/VB共重合体の生産性及び生産コストとのバランスの観点から、90モル%以下であってもよく、40モル%以下であっても、工業的には十分に高効率の触媒性能を有する炭素材料とすることができる。
本発明におけるAN/VB共重合体につき、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の数平均分子量は、15,000〜45,000であることが好ましく、20,000〜30,000であることがより好ましい。
【0013】
本発明における該共共重合体の製造方法としては、通常のフリーラジカル重合法又は立体制御ラジカル重合法を好適に適用することができる。
ここで好ましく使用されるラジカル開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリルに代表されるアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイルに代表されるパーオキサイド系開始剤等を挙げることができる。これらの開始剤を用いて、ニート(無溶媒)、スラリー又は溶液中でラジカル重合を行うことにより、mm含量が25モル%程度までのAN/VB共重合体を得ることができる。
アクリロニトリル成分のmm含量をこれよりも高くし、より触媒効率に優れる炭素材料を得たい場合には、アクリロニトリル成分のmm含量を制御可能な方法であれば特に限定されずに適用することができる。しかしながら有効な方法として、例えば非特許文献1(D. M. Whiteら、J. Am. Chem. Soc., 1960, 82, 5671)に報告された尿素/モノマー包摂錯体を用いた低温(−78℃)における固相光重合法、非特許文献2(Y. Nakanoら、Polym. Int., 1994, 35(3), 249−55)に記載された有機マグネシウム等を開始剤に用いたアニオン重合法、非特許文献3(H. Kuwaharaら、Polymer Preprints, 2002, 43(2), 978)に記載された塩化マグネシウム等を分子鋳型兼担体に用いたラジカル重合法等を挙げることができる。
このようにして得られたAN/VB共重合体におけるポリマーの組成はH−NMRによって、アクリロニトリル主鎖連鎖のmm含量は13C−NMRによって、それぞれ測定することができる。
【0014】
<焼成工程>
次いで、上記のようにして得られたAN/VB共重合体を不活性ガス雰囲気下において焼成して炭素化することにより、本発明の炭素材料(炭素化物)を得ることができる。
AN/VB共重合体は、固形物又は粉体としてそのまま焼成工程に供することができるほか、成形体としたうえで焼成工程に供してもよい。成形体の成形方法としては、例えば熱プレス等の熱加工;
共重合体を一旦適当な有機溶媒に溶解した後に繊維状、フィルム状、シート状等に加工する方法等を挙げることができるほか、
該成型体を更に織物等に加工する場合もこれに含まれる。有機溶媒を用いて成形する場合、AN/VB共重合体の良溶媒であれば特に制限なく使用することができるが、溶解性及び入手の容易性の観点から非プロトン性溶媒を好ましく使用することができ、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
焼成の際に使用される不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記不活性ガス雰囲気は、その酸素濃度が体積基準で100ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。
焼成は、AN/VB共重合体(又はその成形体)を、上記の如き不活性ガス中で、500〜1,500℃、好ましくは600〜1,200℃、より好ましくは650〜1,000℃の温度において、好ましくは1〜300分、より好ましくは10〜180分、更に好ましくは30〜100分間、加熱することによって行われる。
【0015】
<炭素材料>
このようにして本発明の炭素材料を得ることができる。
本発明の炭素材料は、酸素還元開始電位が高く、燃料電池用電極触媒として好適に使用することができるほか、各種化学反応、例えば酸化物の還元反応の触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
以下において、重合体の組成、立体構造(トライアドタクティシティー)及び数平均分子量;焼成の際の炭素化収率並びに得られた炭素材料の酸素還元活性は、それぞれ、下記のようにして求めた。
(1)重合体の組成
重合体試料の100mgを重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d)溶媒1mLに溶解し、日本電子データム(株)製の核磁気共鳴分析装置、型式「JNR−EX−270」(270MHz)によるH−NMR分析により定量した。
(2)重合体の立体構造(トライアドタクティシティー)
重合体試料の100mgをDMSO−d溶媒1mLに溶解し、日本電子データム(株)製の核磁気共鳴分析装置、型式「JNR−EX−270」(270MHz)を用いて50℃において13C−NMRを測定し、得られた結果からアイソタクティックトライアド(mm)、ヘテロタクティックトライアド(mr)及びシンジオタクティッティクトライアド(rr)の含有割合を定量した。
【0017】
(3)重合体の数平均分子量(Mn)
以下の条件におけるゲル浸透クロマトグラムにより測定し、単分散ポリエチレングリコールによる校正を行って求めた。
測定装置:昭和電工(株)製、型式「RI-101」
カラム:TSKgel SuperAW3000及び同SuperAW2500(いずれも東ソー(株)製)を直列に接続して使用
溶媒:ジメチルホルムアミド
(4)炭素化収率
炭素化収率は、焼成後の炭素化物の重量及び焼成前の重合体の重量から、下記数式(1)により求めた。
炭素化収率(%)=(焼成後の炭素化物の重量)/(焼成前の重合体の重量)×100 (1)
【0018】
(5)酸素還元活性
酸素還元活性は、回転電極法によりリニアスイープボルタンメトリーを行って測定した酸素還元開始電位として求めた。
なお、リニアスイープボルタンメトリーの手順は以下A〜Eに示した。
A.プラスチックバイアルに、焼成により得られた炭素材料5mgをとり、ガラスビーズをスパチュラ一杯、ナフィオン50μL並びに蒸留水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ加え、20分間超音波をあててスラリーとした。
B.上記スラリーを4μLとり、回転電極のガラス状炭素上に塗付し、飽和水蒸気雰囲気下で乾燥した。
C.乾燥後の回転電極を作用極とし、Ag/AgCl電極を参照極とし、白金線を対極とした。電解液である0.5mol/L硫酸に酸素を30分バブリングした後、自然電位を測定した。
D.次いで、600s初期電位を印加した後に、掃引速度1mV/s、回転速度1,500rpmで、0.8V vs.Ag/AgClから−0.2V vs.Ag/AgClまで測定を行った。
E.上記測定で、−10μA・cm−2における電圧値を酸素還元開始電位として算出した。なお、酸素還元開始電位は、上記のようにしてAg/AgCl電極を用いて得た測定値を標準水素電極(NHE)に換算して示した。
【0019】
調製例1
乾燥窒素を満たした300mLの二口ナシ型フラスコに、モノマーとしてアクリロニトリル20.14質量部、p−ビニルフェニルホウ酸1.76重量部及びアクリルアミド0.28重量部を仕込んだ(モノマー組成はアクリロニトリル:p−ビニルフェニルホウ酸:アクリルアミド=96:3:1(モル比)であり、モノマー全量は0.4モル部である。)。ここに、脱水トルエン80質量部に開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.263質量部(モノマー全量に対して0.4モル%に相当する。)を溶解した溶液を5〜10℃に保ちつつシリンジにて添加した。添加後のフラスコを、窒素雰囲気下、攪拌下に60℃に保ったオイルバス中に6時間保持することにより、重合反応を行った。反応終了後、反応混合物を大量のメタノール中に投入し、生成した白色沈殿を濾取し、1モル/L塩酸、1モル/L炭酸水素ナトリウム水溶液、脱イオン水、アセトンの順でそれぞれ十分に洗浄した後、検体乾燥器中で50℃にて一夜減圧乾燥することにより、重合体(P−1)を得た。
【0020】
調製例2
乾燥窒素を満たした100mLナシ型フラスコに、アクリロニトリル20.14質量部、p−ビニルフェニルホウ酸1.76重量部及びアクリルアミド0.28重量部を仕込み(モノマー組成はアクリロニトリル:p−ビニルフェニルホウ酸:アクリルアミド=96:3:1(モル比)であり、モノマー全量は0.4モル部である。)、更に開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.263質量部(モノマー全量に対して0.42モル%に相当する。)を加えて、全体が均一溶液となるまで攪拌することにより、アゾビスイソブチロニトリルをモノマー混合物に溶解したものを準備した。これを5〜10℃に保ちながら、100mL二口ナシ型フラスコ中、乾燥窒素気流下に無水塩化マグネシウム38質量部(モノマーの合計と等モル量に相当する。)と混合し、攪拌した。更にこれを5℃にて1時間、次いで室温で2時間静置してモノマー及び塩化マグネシウムからなる粉状錯体を調製した。
次いでこれを60℃に保った恒温槽中に24時間保持することにより重合反応を行った。反応終了後、反応混合物をメタノール300mL中にあけ、生成した白色沈殿を濾取し、1モル/L塩酸、脱イオン水、アセトンの順でそれぞれ十分に洗浄して一夜真空乾燥することにより、重合体(P−2)を得た。
【0021】
調製例3
モノマーとして、表1に示した組成のモノマーを使用したほかは上記調製例1と同様の手順により、重合体(P−3)を得た。
調製例4
モノマーとして、表1に示した組成のモノマーを使用したほかは上記調製例2と同様の手順により、重合体(P−4)を得た。
比較調製例1
乾燥窒素を満たした300mL二口ナシ型フラスコに、アクリロニトリル21.2質量部を仕込んだ。ここに、脱水トルエン80質量部に開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.263質量部(モノマーに対して0.4モル%に相当する。)を溶解した溶液を5〜10℃に保ちつつ、シリンジにて添加した。添加後のフラスコを、窒素雰囲気下、攪拌下に60℃に保ったオイルバス中に4時間保持することにより、重合反応を行った。反応終了後、反応混合物を大量のメタノール中に投入し、生成した白色沈殿を濾取し、1モル/L塩酸、脱イオン水、アセトンの順でそれぞれ十分に洗浄した後、検体乾燥器中で50℃にて一夜減圧乾燥することにより、重合体(rp−1)を得た。
比較調製例2
モノマーとして、表1に示した組成のモノマーを使用したほかは上記比較調製例1と同様の手順により、重合体(rp−2)を得た。
【0022】
比較調製例3
乾燥窒素を満たした100mLナシ型フラスコにアクリロニトリル21.2質量部をとり、ここに開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)0.263質量部(モノマーに対して0.42モル%に相当する。)を加え、全体が均一溶液となるまで攪拌することにより、アゾビスイソブチロニトリルをモノマー混合物に溶解したものを準備した。これを、5〜10℃に保ちながら100mL二口ナシ型フラスコ中、乾燥窒素気流下で無水塩化マグネシウム38質量部(モノマーと等モル量に相当する。)と混合し、攪拌した。更にこれを5℃にて1時間、次いで室温で2時間静置することにより、モノマー及び塩化マグネシウムからなる粉状錯体を調製した。
次いでこれを60℃に保った恒温槽中に24時間保持することにより重合反応を行った。反応終了後、反応混合物をメタノール300mL中にあけ、生成した白色沈殿を濾取し、1モル/L塩酸、脱イオン水、アセトンの順でそれぞれ十分に洗浄して一夜真空乾燥することにより、重合体(rp−3)を得た。
上記調製例1〜4および比較調製例1〜3で得られた各重合体につき、上記のようにしてそれぞれ測定した組成、立体構造(トライアドタクティシティー)及び数平均分子量(Mn)を表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
なお表1における重合体の組成の略称は、それぞれ以下の意味である。
AN:アクリロニトリル
VPBA:p−ビニルフェニルホウ酸
AAm:アクリルアミド
MA:メチルアクリレート
DBI:イタコン酸ジブチル
【0025】
実施例1
上記調製例1で得られた重合体(P−1)を、窒素雰囲気下、800℃で60分焼成して炭素化処理した後、更にボールミルにより粉砕することにより炭素材料を得た。
焼成時の炭素化収率及び得られた炭素材料の酸素還元活性測定結果を表2に示した。
実施例2〜4及び比較例1〜3
上記実施例1において、使用した重合体の種類を表2に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして炭素材料を調製し、評価した。結果は表2に示した。
【0026】
【表2】

【0027】
なお、表2における重合体の組成の略称はそれぞれ表1における略称と同義である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の炭素材料は、燃料電池用の電極触媒、各種化学反応の触媒等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50モル%以上のアクリロニトリル成分と1モル%以上のビニル系ホウ酸類モノマー成分とを有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成して得られることを特徴とする、炭素材料。
【請求項2】
上記アクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体におけるアクリロニトリル成分のアイソタクティックトライアド含量が全アクリロニトリル成分基準で15モル%以上である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
上記ビニル系ホウ酸類モノマー成分が、ビニルホウ酸、ビニルフェニルホウ酸、アリルホウ酸、ビニルホウ酸誘導体、ビニルフェニルホウ酸誘導体及びアリルホウ酸誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する成分である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
上記アクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体が、アクリロニトリル成分及びビニル系ホウ酸類モノマー成分以外の共重合成分として、
メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、イタコン酸、イタコン酸エステル、アミノスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール、ビニルピロリドン、シアノ酢酸エステル、ビニルフタルイミド、ビニルピラジン、ビニルトリアジン及びビニルエーテルよりなる群から選択される少なくとも1種に由来する成分を更に有するものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素材料。
【請求項5】
50モル%以上のアクリロニトリル成分と1モル%以上のビニル系ホウ酸類モノマー成分とを有するアクリロニトリル−ビニル系ホウ酸類モノマー共重合体を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成することを特徴とする、炭素材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−195361(P2011−195361A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62461(P2010−62461)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】