説明

炭素材料及びその製造方法

【課題】高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料を提供すること。
【解決手段】上記炭素材料は、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と金属フタロシアニン1〜150質量部とからなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を、不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成することにより、得ることができる。
上記炭素材料は、その酸素還元開始電位が高いため、燃料電池用電極触媒、各種化学反応の触媒等として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと金属フタロシアニンとからなる組成物を焼成して得られる炭素材料及びその製造方法に関する。
本発明の炭素材料は良好な酸素還元作用を有し、燃料電池用電極触媒として好適である。
【背景技術】
【0002】
高効率、無公害の燃料電池、特に電気自動車(FCEV)や定置用電熱併供システム(CG−FC)に用いられる固体高分子型燃料電池の実用化は、地球温暖化及び環境汚染問題に対する重要な解決策の一つとして注目されている。しかし、燃料電池においては、そのカソードで起こる酸素還元反応を促進するために、資源量が少なく極めて高価な白金を触媒として多量に使用する必要があり、このことが燃料電池の実用化の大きな障壁になっている。そこで白金等の高価な貴金属を必要としない、燃料電池用電極触媒の開発が大きな注目を集め、わが国はもとより米国をはじめとする世界中で精力的にその研究開発が行われている。それらの研究の主流は鉄やコバルト等の卑金属を活性中心とする電極触媒の開発であるが、得られる電極触媒の発電性能は十分ではなく、また耐久性の面でも問題があり実用化に至ってはいない。
例えば特許文献1は、炭素材料の原料となる有機物として熱硬化性樹脂類を用いて、貴金属以外の遷移金属及び窒素が添加された炭素材料を調製し、この炭素材料を用いた燃料電池用電極触媒及びその製造方法が開示されている。この電極触媒は、従来のものに比べて優れた性能を示してはいるが、白金を使用した電極触媒にはまだ及ばず、より優れた活性を有する電極触媒、及びその材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−26746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、高価な白金や白金合金等の貴金属及びその合金を含まない、燃料電池用電極触媒等に好適な炭素材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと金属フタロシアニンとの組成物を焼成して得られる炭素材料が、優れた酸化還元活性を有し燃料電池用電極触媒として好適であることを見出した。即ち、本発明によると、本発明の上記目的及び利点は、第一に、
下記一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(上記一般式(1)において、「=」は2本のシグマ結合を表し、Ar及びArは、それぞれ、炭素数4〜45の4価の芳香族基であり、Q
【0008】
【化2】

【0009】
(上記式中、「*」を付した結合手がArと結合する。)
よりなる群から選択される1種以上の4価の基であり、Q
【0010】
【化3】

【0011】
(上記式中、「*」を付した結合手がArと結合する。)
よりなる群から選択される1種以上の4価の基である。)
で表される繰返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と
下記式一般式(2)
【0012】
【化4】

【0013】
(上記一般式(2)において、MはFe2+、Co2+、Cu2+及びNi2+よりなる群から選ばれる金属イオンであり、X、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、h、i、j及びkは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を、
不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成して得られる炭素材料によって達成される。
本発明の上記目的及び利点は、第二に、
上記一般式(1)で表される繰返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と
上記式一般式(2)で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を、
不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成する炭素材料の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素材料は、高い酸化還元活性を有し、燃料電池用電極触媒として用いられるほか、各種化学反応の触媒として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態の例について述べるが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン>
本発明で使用される全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなるものである。全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの1分子中に存在する複数のAr及びAr並びにQ及びQは、それぞれ同一であっても互いに異なっていてもよい。
上記Ar及びArの炭素数4〜45の4価の芳香族基としては、例えば
【0016】
【化5】

【0017】
よりなる群から選択される4価の芳香族基を挙げることができる。ここで、上記におけるRとしては、
【0018】
【化6】

【0019】
よりなる群から選択される2価の基を挙げることができる。全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの1分子中に複数個のRが存在する場合、それらはそれぞれ同一であっても互いに異なっていてもよい。
上記一般式(1)におけるAr及びArとしてより好ましくは炭素数5〜20の4価の芳香族基であり、更に好ましくは炭素数6〜18の4価の芳香族基であり、特に好ましくは
【0020】
【化7】

【0021】
よりなる群から選択される1種以上の4価の芳香族基である。
上記Ar及びArは、それぞれ、その芳香環上の水素原子のうちの1つ又は複数が、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。
【0022】
<金属フタロシアニン>
本発明において用いられる金属フタロシアニンは、上記一般式(2)で表されるものである。
上記一般式(2)におけるMは、Fe2+又はCo2+であることが好ましい。
本発明において用いられる金属フタロシアニンとしては、上記一般式(2)におけるh、i、j及びkがいずれも0であるか、あるいはこれらのうちの少なくとも1つが0ではなく且つX、X、X及びXが塩素原子及び炭素数1〜8のアルキル基よりなる群から選ばれる一種以上の同一又は異なる基であることがより好ましく、下記一般式(5)で表されるものが更に好ましく、中でも下記一般式(5)においてMがFe2+又はCo2+であるものが特に好ましい。
【0023】
【化8】

【0024】
(上記一般式(5)において、Mは上記一般式(2)におけるのと同義である。)
【0025】
<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物及びその製造方法>
本発明における全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と、上記一般式(2)で表される金属フタロシアニン1〜150質量部とからなる。金属フタロシアニンの割合としては、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部に対して、5〜100質量部であることがより好ましく、8〜50質量部であることが更に好ましい。
本発明における全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を製造するには、溶媒の存在下において、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーと上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとを混合した後、前駆体ポリマーをイミド化する方法によることが好ましい。
以下、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーの製造、該前駆体ポリマーと金属フタロシアニンとの混合及び該前駆体ポリマーのイミド化について説明する。
【0026】
[全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーの製造]
全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーは、下記一般式(3)
【0027】
【化9】

【0028】
(上記一般式(3)において、Arは上記一般式(1)におけるのと同義である。)
で表される芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と、下記一般式(4)
【0029】
【化10】

【0030】
(上記一般式(4)において、Arは上記一般式(1)におけるのと同義である。)
で表わされる芳香族テトラミンおよびその強酸塩(以下、これらを総称して「芳香族テトラミン化合物」という。)よりなる群より選ばれる少なくとも1種とを、溶媒中において、任意的に縮合剤の存在下に、重合反応させることにより得られる。芳香族テトラミン化合物として、芳香族テトラミンの強酸塩を使用する場合の強酸としては、例えば塩化水素酸、硫酸、リン酸などを挙げることができる。
芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と芳香族テトラミン化合物との使用割合は、芳香族テトラカルボン酸二酸無水物1モルに対する芳香族テトラミン化合物の使用モル数として、0.90〜1.10モルとすることが好ましく、0.95〜1.05モルとすることがより好ましい。
芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と芳香族テトラミン化合物との反応に使用される溶媒は、前駆体ポリマーを溶解し、前駆体ポリマーと反応せず、縮合剤を使用する場合には更に縮合剤を溶解し、縮合剤と反応しない溶媒であればよい。
【0031】
かかる溶媒としては例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と略称することがある。)、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア、1,3−ジピロピルイミダゾリジノン、Nーメチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチルスルホンの如き非プロトン性極性溶媒;
ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン,4−ピコリン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,6−ルチジンの如き複素芳香族化合物;
クレゾール及びその誘導体等から選択される少なくとも1種を使用することができるほか、
これらの溶媒から選択される少なくとも1種と、
四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの如きの有機ハロゲン化物;
ベンゼン、トルエン、ベンゾニトリル、キシレン、ソルベントナフサ、ジオキサンの如き他の溶媒から選択される少なくとも1種との混合物を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
溶媒の使用割合は種々の条件に応じて適宜設定されるが、原料溶液中のモノマー濃度(芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と芳香族テトラミン化合物との合計濃度)が5〜30質量%となる割合とすることが好ましい。
反応温度は、60℃以下に設定することが好ましく、特に好ましくは−20〜60℃である。反応時間は、好ましくは0.1〜10時間であり、より好ましくは0.5〜5時間である。
前駆体ポリマーを得るに際して、ポリマーの末端を封止することも好ましく適用することができる。前駆体ポリマーの末端を封止するするには芳香族テトラカルボン酸二酸無水物と芳香族テトラミン化合物との反応を末端封止剤の共存下に行う方法等によることができる。かかる末端封止剤としては、例えば無水フタル酸及びその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びその置換体、無水コハク酸及びその置換体、アニリン及びその置換体等を挙げることができるがこれらに限られるものではない。
かくして得られる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーは、その特有粘度が0.1〜30dL/gであることが好ましく、0.2〜15dL/gであることがより好ましい。この特有粘度は、ジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒に、前駆体ポリマーを濃度0.5g/100mLにて溶解した試料を用い、30℃において測定した相対粘度(ηrel)から、下記数式(i)
ηinh=(lnηrel)/C (i)
(上記数式(i)中、ηrelは相対粘度であり、Cは溶液中の前駆体ポリマー濃度0.5g/100mLである。)
により求めた値である。
【0033】
[全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーと金属フタロシアニンとの混合]
上記の如き全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーと金属フタロシアニンとを混合する際に使用される溶媒としては、前駆体ポリマーの合成の際に使用できる溶媒として前記に例示したものと同じものを挙げることができる。それらのうち、前駆体ポリマー及び金属フタロシアニンの溶解性が良好であり、比較的入手し易いという点から、N,N−ジメチルホルムアミド、DMAc、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア及びジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれる1種以上の非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。
前駆体ポリマーと金属フタロシアニンとを混合する方法としては、前駆体ポリマーが溶解した溶液中に金属フタロシアニンを加える方法、前駆体ポリマーが溶解した溶液中に金属フタロシアニンを分散させた分散液を加える方法、前駆体ポリマーと金属フタロシアニンを同時に溶媒に加える方法等が好ましく用いられるが、この限りではない。
溶媒の使用割合は、溶媒、前駆体ポリマー及び金属フタロシアニンの合計質量に対する前駆体ポリマー及び金属フタロシアニンの合計質量が1〜30質量%となる割合とすることが好ましく、この値が5〜10質量%となる割合とすることよりが好ましい。
両者を混合するに際しては、例えばメカニカルスターラー、遊星攪拌機、1軸ルーダー及び2軸ルーダーなど公知の混錬装置を用いることができるほか、超音波分散によってもよい。
【0034】
[全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーのイミド化]
次いで、上記のようにして得られた全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマー及び金属フタロシアニンを含有する混合物中の前駆体ポリマーをイミド化することにより、上記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンと上記一般式(2)で表される金属フタロシアニンとからなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を得ることができる。
前駆体ポリマーをイミド化するには、例えば前駆体ポリマー、金属フタロシアニン及び溶媒からなる混合物をそのまま用いて繊維状、フィルム状等の成型体に成型して溶媒を除去してイミド化する方法、上記混合物から前駆体ポリマー及び金属フタロシアニンを取り出してイミド化する方法、上記混合物を前駆体ポリマー及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて得られる析出物をイミド化する方法等によることができる。イミド化方法としては、加熱処理による熱イミド化、脱水剤を用いる化学イミド化等の従来から公知のいずれの方法をも利用することができるが、操作が簡便な点で熱イミド化が好ましい。
【0035】
本発明における全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を得るためには、前駆体ポリマー、金属フタロシアニン及び溶媒からなる混合物を前駆体ポリマー及び前記金属フタロシアニンの貧溶媒と接触させて析出物を得、該析出物を80℃以上500℃未満で加熱処理して熱イミド化する方法によることがより好ましい。上記貧溶媒としては、例えば水、メタノール等を挙げることができる。
ここで、加熱処理を行う際には、徐々に昇温していくことが望ましいが、一定の昇温速度で加熱することが難しい場合があるため、例えば80〜150℃で3分〜3時間加熱し、更に200℃以上500℃未満で1分〜3時間加熱する等のように段階的に加熱する方法も好ましく採用することができる。加熱処理における温度の段階の数の上限は特にはないが、操作が煩雑にならないように2〜5段階程度とすることが好ましい。80℃以上500℃未満で加熱する時間の合計は、1〜10時間とすることが好ましい。
【0036】
<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物の焼成>
上記のようにして調製した全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を焼成して炭素化することにより、本発明の炭素材料(炭素化物)を得ることができる。この焼成の際の加熱温度としては500〜1,500℃の温度が採用され、好ましくは600〜1,200℃であり、より好ましくは650〜1,000℃である。焼成時間は、1〜300分であることが好ましく、10〜180分であることがより好ましく、更に30〜100分であることが好ましい。
焼成は、不活性ガス雰囲気下において行われる。ここで、好ましい不活性ガスとして窒素、アルゴン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上記不活性ガスは、その酸素濃度が体積基準で100ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であるとより好ましく、10ppm以下であると更に好ましい。
<炭素材料>
本発明の炭素材料は、その酸素還元開始電位が0.8〜1.0Vと高いものである。そのため、本発明の炭素材料は、燃料電池用電極触媒として好適に使用することができるほか、各種化学反応、例えば酸化物の還元反応等の触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
以下において、全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーの特有粘度、焼成の際の炭素化収率及び得られた炭素材料の酸素還元活性は、それぞれ、下記のようにして求めた。
(1)全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマーの特有粘度(ηinh
DMAcに、前駆体ポリマーを濃度0.5g/100mLにて溶解した試料について30℃において測定した相対粘度(ηrel)の値から、上記数式(i)により求めた。
(2)炭素化収率
炭素化収率は、焼成後の炭化物の重量及び焼成前の全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物の重量から、下記数式(ii)により求めた。
炭素化収率(%)=(焼成後の炭素化物の重量)/(焼成前の全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物の重量)×100 (ii)
【0038】
(3)酸素還元活性
酸素還元活性は、回転電極法によりリニアスイープボルタンメトリーを行って測定した酸素還元開始電位として求めた。
なお、リニアスイープボルタンメトリーの手順は以下A〜Eに示した。
A.プラスチックバイアルに、焼成により得られた炭素材料5mgをとり、ガラスビーズをスパチュラ一杯、ナフィオン50μL並びに蒸留水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ加え、20分間超音波をあててスラリーとした。
B.上記スラリーを4μLとり、回転電極のガラス状炭素上に塗付し、飽和水蒸気雰囲気下で乾燥した。
C.乾燥後の回転電極を作用極とし、Ag/AgCl電極を参照極とし、白金線を対極とした。電解液である0.5M硫酸に酸素を30分バブリングした後、自然電位を測定した。
D.次いで、600s初期電位を印加した後に、掃引速度1mV/s、回転速度1,500rpmで、0.8V vs.Ag/AgClから−0.2V vs.Ag/AgClまで測定を行った。
E.上記測定で、−10μA・cm−2における電圧値を酸素還元開始電位として算出した。なお、酸素還元開始電位は、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を用いて測定した値を標準水素電極(NHE)基準値に換算して示した。
【0039】
調製例1<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンの前駆体ポリマー溶液の調製>
温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、ジアミノベンジディン10.7質量部を入れ、DMAc235質量部を加え完全に溶解した後、氷浴下0℃まで冷却した。この冷却したジアミノベンジディン溶液に無水ピロメリット酸10.9質量部を添加して反応を行った。反応温度は25℃まで上昇したが、氷冷した状態でさらに一時間反応を行ることにより、前駆体ポリマー溶液を得た。ここで得られた前駆体ポリマーの特有粘度は0.3dL/gであった。
【0040】
実施例1<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を用いた炭素材料の製造及び該炭素材料の酸素還元開始電位の測定>
上記調製例1で得た前駆体ポリマー溶液20.3質量部に鉄フタロシアニン0.47質量部を加えて攪拌し、前駆体ポリマー及び鉄フタロシアニンを含有する溶液を得た。得られた溶液を大量のイオン交換水中に投入して得られた析出物につき、水で2回及びメタノールで1回、順次に洗浄した後、真空乾燥して、前駆体ポリマー及び鉄フタロシアニンからなる組成物を得た。この組成物を100℃にて1時間、200℃にて1時間及び300℃にて1時間、順次に加熱処理することにより、鉄フタロシアニンを含む全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を得た。
得られた全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を窒素雰囲気、900℃で60分焼成して炭素化処理した後、ボールミルを用いて粉砕することにより、炭素材料を得た。
このときの炭素化収率及び得られた炭素材料の酸素還元開始電位測定結果を表1に示した。
【0041】
比較例1<全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンを用いた炭素材料の作成及び該炭素材料の酸素還元開始電位の測定>
上記調製例1で得た前駆体ポリマー溶液の一部を大量のイオン交換水中に投入して得られた析出物につき、水で2回及びメタノールで1回、順次に洗浄した後、真空乾燥して、前駆体ポリマーを単離した。この前駆体ポリマーを100℃で1時間、200℃で1時間及び300℃で1時間順次に熱処理して全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロンとし、これを窒素雰囲気下、900℃で60分焼成して炭素化処理した後、ボールミルを用いて粉砕することにより、炭素材料を得た。
このときの炭素化収率及び得られた炭素材料の酸素還元開始電位測定結果を表1に示した。
【0042】
比較例2<フェノール樹脂組成物を用いた炭素材料の作成、及び該炭素材料の酸素還元開始電位の測定>
フェノール樹脂3.3質量部をアセトン237質量部に溶解し、ここに1.0質量部の鉄フタロシアニンを加えた後アセトンを減圧留去して、23.3重量%の鉄フタロシアニンを含むフェノール樹脂組成物を得た。
得られたフェノール樹脂組成物を800℃で60分焼成した後、ボールミルにより粉砕することにより、炭素材料を得た。
このときの炭素化収率及び得られた炭素材料の酸素還元開始電位測定結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の炭素材料は、燃料電池用の電極触媒、各種化学反応の触媒等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)において、「=」は2本のシグマ結合を表し、Ar及びArは、それぞれ、炭素数4〜45の4価の芳香族基であり、Q
【化2】

(上記式中、「*」を付した結合手がArと結合する。)
よりなる群から選択される1種以上の4価の基であり、Q
【化3】

(上記式中、「*」を付した結合手がArと結合する。)
よりなる群から選択される1種以上の4価の基である。)
で表される繰返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と
下記式一般式(2)
【化4】

(上記一般式(2)において、MはFe2+、Co2+、Cu2+及びNi2+よりなる群から選ばれる金属イオンであり、X、X、X及びXは、それぞれ、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、h、i、j及びkは、それぞれ、0〜4の整数である。)
で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を、
不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成して得られることを特徴とする、炭素材料。
【請求項2】
上記一般式(1)におけるAr及びArが、それぞれ、
【化5】

よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
上記一般式(2)におけるMがFe2+又はCo2+である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素材料を製造するための方法であって、
上記一般式(1)で表される繰返し単位からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン100質量部と
上記式一般式(2)で表される金属フタロシアニン1〜150質量部と
からなる全芳香族ポリベンゾイミダゾピロロン組成物を、
不活性ガス雰囲気下、500〜1,500℃において焼成することを特徴とする、炭素材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−6282(P2011−6282A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150979(P2009−150979)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】