説明

炭素繊維の処理方法及び炭素繊維の製造方法

【課題】大掛かりな設備を必要とせず、簡便に炭素繊維に付着したサイジング剤を除去することのできる、炭素繊維の処理方法を提供すること。
【解決手段】サイジング剤が付着した炭素繊維を加熱水蒸気で処理して、サイジング剤を除去することを特徴とする炭素繊維の処理方法とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の処理方法及び炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高い比強度と比弾性率を有し、耐熱性にも優れた材料であり、複合材料の補強用繊維等として幅広く用いられている。一方、炭素繊維は摩擦等によって糸の損傷、表面の毛羽立ちを生じやすい。そこで、通常は炭素繊維表面にサイジング剤を付与し、繊維表面を保護することにより劣化を抑制すると同時に、収束性やマトリクス樹脂に対する親和性を向上させることにより加工性、取扱性を改善させる処理がなされている。
【0003】
一方、炭素繊維を開繊させる際、サイジング剤が付着した炭素繊維では開繊が十分に行なえないという問題があった。また、炭素繊維を複合化させる樹脂との接着性の問題から、一旦付着したサイジング剤を除去し、改めて用途に適した別のサイジング剤を付与したいとの要望があった。
そこで、上記問題点を解決する方法として、サイジング剤を除去する各種方法が提案されている。
特許文献1には、サイジング剤を超臨界若しくは亜臨界の流体を用いて炭素繊維のサイジング剤を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−180369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される方法でサイジング剤の除去を行なう場合、超臨界若しくは亜臨界の流体を発生させるのに大掛かりな設備が必要となり、簡便に処理を行なうことが出来なかった。
そこで本発明は、大掛かりな設備を必要とせず、簡便に炭素繊維に付着したサイジング剤を除去することのできる、炭素繊維の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、サイジング剤が付着した炭素繊維を過熱水蒸気で処理して、サイジング剤を除去することを特徴とする炭素繊維の処理方法を提供する。
また、本発明は、サイジング剤が付着した炭素繊維を過熱水蒸気で処理する工程を含む、サイジング剤が除去された炭素繊維を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便に炭素繊維に付着したサイジング剤を除去できる炭素繊維の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[炭素繊維]
本発明で処理される炭素繊維は、プリカーサーと呼ばれる前駆体を酸化雰囲気中で耐炎化処理した後、得られた耐炎化繊維を不活性ガス雰囲気中、800〜2000℃程度で焼成し、さらに必要に応じてこれをより高温の不活性ガス中で焼成して得られる一般的な炭素繊維であって、その表面にサイジング剤が付与されたものである。炭素繊維の種類は特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができる。サイジング剤は、通常、焼成後の炭素繊維にさらに、電解酸化処理、気相酸化処理などの表面処理をした後に付着される。
【0009】
サイジング剤は、通常、エポキシ系化合物や水溶性ポリマーなどの有機物からなる。本発明の処理方法においては、これら有機物からなるサイジング剤であればいかなる種類のサイジング剤でも効果的に除去できるが、例えば、炭素繊維のサイジング剤として一般的に用いられているエポキシ系サイジング剤に対して優れた除去効果を発揮する。
本発明に係る炭素繊維の処理方法によって処理される炭素繊維の形態は特に限定されず、複数の繊維フィラメントを収束した炭素繊維束や、該炭素繊維束を経糸と緯糸として織成してなる繊維体、該炭素繊維束を一方向に引き揃えてなる繊維体などを処理対象とすることができる。
【0010】
[過熱水蒸気]
過熱水蒸気とは、100℃以上の過熱状態にまで過熱された水蒸気をいう。過熱水蒸気は、通常の水蒸気と比較して水クラスターが微細化された状態となると考えられている。この微細化された水クラスターが、炭素繊維とサイジング剤との界面に浸透し、炭素繊維から効果的にサイジング剤を除去するものと推定される。
過熱水蒸気を発生させる方法は特に限定されないが、例えば、誘導加熱炉、電熱ヒーター、熱交換器、電気式・燃焼式ボイラー、ドライヤー、IR加熱器、噴霧ノズル加熱装置を用いて水蒸気もしくは水を加熱することにより、過熱水蒸気を発生させることができる。
【0011】
[炭素繊維の処理方法]
本発明に係る炭素繊維の処理方法は、サイジング剤が付着した炭素繊維を過熱水蒸気で処理して、サイジング剤を除去することを特徴とする。過熱水蒸気による処理の条件や方法は、サイジング剤の種類及び付着量、炭素繊維の形態、太さ、本数などに応じて任意に設定できるが、例えば以下のようにして行なうことができる。
【0012】
まず、誘導加熱炉内にサイジング剤が付着した炭素繊維を投入し、炉内温度を好ましくは150℃〜600℃、炉内圧力を好ましくは0.1MPa〜0.3MPaとし、過熱水蒸気を発生させる。この状態で1分〜数十分保持し、炉内の炭素繊維を処理する。本発明においては、サイジング剤が付着した炭素繊維をコンベア等で炉内を通過させることによって連続的に処理することもできる。これにより、炭素繊維を処理し、連続的に用途に応じた後工程に供することもできるため、生産性に優れた炭素繊維の処理方法を提供できる。
上記のような処理により、炭素繊維表面のサイジング剤が除去される。除去されるサイジング剤の量は特に限定されず、処理により得られるサイジング剤の除去された炭素繊維の用途に応じて、適宜設定できる。
【0013】
本発明の処理方法は、150℃〜350℃という比較的低温の領域においても、サイジング剤の除去を行なうことができる。また、圧力についても、超臨界または亜臨界流体等と比較して低圧で処理することができる。低温低圧でサイジング剤の除去を行なうことにより、炭素繊維の糸の損傷や、表面の毛羽立ちなどの品質低下を抑制することができる。
また、上記のような処理を行なうことにより、サイジング剤の除去された炭素繊維を製造することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[サイジング剤付着炭素繊維の製造]
6.00kgの炭素繊維を開繊して、サイズ浴内に浸水させ、エポキシ系サイジング剤を付着させた。これを原糸として用いた。サイジング剤付着後の炭素繊維の重量を測定したところ、6.11kgであった。これより、サイジング剤の付着量は、原糸の重量比で1.8%である。
【0015】
[サイジング剤除去量の評価]
サイジング剤除去処理後の試験片の重量を測定し、サイジング除去処理前の試験片の重量との差を求めることにより、除去されたサイジング剤の重量を求めた。
【0016】
[実施例1]
上述の方法でエポキシ系サイジング剤を付着させた炭素繊維を原糸として用いた。原糸を約1.8g程度の重量になるように切断して試験片とした。誘導加熱炉(ガラスコーティングカーボンヒーター)を用い、炉内圧力を0.3MPa、炉内温度を600℃とした。チェーンコンベアを用いて炉内に試験片を投入し、投入した時点を0分として処理を開始した。1分、2分、3分、5分、10分の待機時間で試験片を炉内に保持させた。保持時間経過後、チェーンコンベアで試験片を取り出し、自然空冷で室温まで冷却した。その後、試験片の重量を測定し、除去されたサイジング剤の重量を求めた。
【0017】
[実施例2]
炉内温度を550℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0018】
[実施例3]
炉内温度を500℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0019】
[実施例4]
炉内温度を450℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0020】
[実施例5]
炉内温度を400℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0021】
[実施例6]
炉内温度を350℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0022】
[実施例7]
炉内温度を300℃とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0023】
[実施例8]
炉内温度を200℃とし、待機時間を3分、5分、10分、20分、30分とした以外は、実施例1と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0024】
[実施例9]
炉内温度を150℃とした以外は、実施例8と同様に炭素繊維の処理を行なった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1及び表2に示すとおり、本発明の炭素繊維の処理方法によって処理された炭素繊維は、何れもサイジング剤が除去されたことが確認された。特に、150℃〜350℃の比較的低い温度領域においても、サイジング剤が除去されたことを確認された。
本発明に係る炭素繊維の処理方法を行なうことにより、サイジング剤の除去された炭素繊維を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤が付着した炭素繊維を過熱水蒸気で処理して、サイジング剤を除去することを特徴とする炭素繊維の処理方法。
【請求項2】
サイジング剤が付着した炭素繊維を過熱水蒸気で処理する工程を含む、サイジング剤が除去された炭素繊維を製造する方法。

【公開番号】特開2013−7136(P2013−7136A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140744(P2011−140744)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)