説明

炭素繊維の表面処理方法

【課題】本発明の目的は、力学的特性に優れ、かつ、樹脂との界面特性の向上した、複合材料に適した炭素繊維を得るための、炭素繊維の表面処理方法を提供することにある。
【解決手段】陽極を擁する電解溶液槽と陰極を擁する電解溶液槽が配置された表面処理装置を使用する非接触方式の炭素繊維の電解表面処理方法であって、複数の陰極が1つの陽極を共有し、1つの陰極毎に独立して1サイクルの電流回路を形成していることを特徴とする炭素繊維の表面処理方法である。複数の陰極が1つの陽極を共有し、独立して電流回路を形成した1ユニットの表面処理装置を、2ユニット以上使用してもよい。
1サイクルの電流回路に係る電圧は5V〜30Vであることが好ましく、電解液として無機酸、無機塩基または無機塩類を電解質とする、0.1規定以上の電解水溶液を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の表面処理方法およびそれによって得られる炭素繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れ、軽量であるため、熱硬化性及び熱可塑性樹脂の強化繊維として、従来のスポーツ・一般産業用途だけでなく、航空・宇宙用途、自動車用途など、幅広い用途に利用されるようになってきている。利用用途が拡大されるにつれ、炭素繊維強化樹脂複合材料(以下コンポジットと称する)には、さらに高い性能が求められている。
【0003】
コンポジットの性能は、使用する炭素繊維とマトリクス樹脂の力学的特性の違いだけでなく、炭素繊維と樹脂の接着性など界面特性の違いによっても異なる。そのため、界面特性の向上を目的とし、炭素繊維の表面状態を改質する表面処理が行われている。この表面処理は、通常、水溶液中の電解酸化によって行われる。
【0004】
一般的に、グラファイト構造を持つ炭素繊維の表面は、樹脂に対する濡れ性が低いため、樹脂との接着性が低い。そのため、表面処理により、繊維表面に水酸基やカルボキシル基などの官能基を導入し、樹脂との接着性を改善している。この表面官能基は、繊維表面に均一に形成されていることが望ましい。しかし、これらの官能基は、グラファイト構造の乱れたエッジ部に形成されやすいため、繊維表面に均一に形成することは困難である。
【0005】
表面官能基の局所への集中を回避する手法として、特許文献1に記載のような、低い電圧で複数回処理を行う多段方式の表面処理方法が知られている。しかし、この方法では、高い電圧で処理を行うと表面官能基が過剰に形成され、また表面官能基が均一に形成しにくくなってしまうため、高い電圧での表面処理を採用できないという問題がある。
【0006】
一方、炭素繊維の表面にはグラファイト構造が不規則な脆弱層が存在する。この脆弱層は脆く剥がれ易いため、炭素繊維は擦過に弱くなる。また、脆弱層は繊維表面の平滑性を低下させるため、応力集中が起こり炭素繊維の引張強度低下の要因となる。この脆弱層は、表面処理により除くことができるが、効果的かつ効率良く、脆弱層を取り除くためには、高い電圧を印加する必要がある。
【0007】
つまり、表面処理において高い電圧を印加し、脆弱層を除去し炭素繊維の力学的特性を改善させると共に、表面官能基を均一に形成させ、炭素繊維と樹脂の界面特性を向上させることができる表面処理方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−248424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、力学的特性に優れ、かつ、樹脂との界面特性の向上した、複合材料に適した炭素繊維を得るための、炭素繊維の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、陽極を擁する電解溶液槽と陰極を擁する電解溶液槽が配置された表面処理装置を使用する非接触方式の炭素繊維の電解表面処理方法であって、複数の陰極が1つの陽極を共有し、1つの陰極毎に独立して1サイクルの電流回路を形成していることを特徴とする炭素繊維の表面処理方法である。さらに、本発明では、複数の陰極が1つの陽極を共有し、独立して電流回路を形成した1ユニットの表面処理装置を、2ユニット以上使用してもよい。
【0011】
また、本発明の表面処理方法では、1サイクルの電流回路に係る電圧が、5V〜30Vであることが好ましい。
本発明で用いる電解溶液槽に使用される電解溶液は、無機酸、無機塩基または無機塩類を電解質とする、0.1規定以上の電解水溶液であることが好ましい。
さらに本発明は、上記の炭素繊維の表面処理方法で表面処理された炭素繊維を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維の表面処理方法により、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との界面特性の向上した、複合材料に適した炭素繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で使用する表面処理装置の一例を示す図である。
【図2】従来の非接触式表面処理装置の一例を示す図である。
【図3】本発明とは電極の電位を逆転させた表面処理装置を示す図である。(比較例1)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、炭素繊維の製造工程のうち表面処理を、炭素繊維が直接電極に触れない非接触方式の電解酸化処理法で行う際の特定の方法に関するものである。
本発明の表面処理方法は、陽極を擁する電解溶液槽と陰極を擁する電解溶液槽が配置された非接触方式の表面処理装置であって、複数の陰極が1つの陽極を共有し、1つの陰極毎に独立して1サイクルの電流回路を形成している表面処理装置を使用し表面処理を行う表面処理方法である。
【0015】
非接触方式の炭素繊維の表面処理装置においては、陽極と陰極の間で、電解溶液槽の電解液および炭素繊維を介し電流が流れ、電流回路を形成している。以降本発明では、1つの陽極と1つの陰極で形成する1つの電流回路の単位をサイクルと言い、1つの陽極と電流回路を形成する陰極で構成された1つの装置の単位をユニットと言うこととする。
【0016】
非接触方式の表面処理装置において、陽極を擁する電解溶液槽に進入した炭素繊維は、表面処理装置の陽極に対して陰極として働くため、炭素繊維の表面では還元反応が起き、還元処理がなされる。一方、陰極を擁する電解溶液槽に進入した炭素繊維は、表面処理装置の陰極に対して陽極として働くため、炭素繊維の表面では酸化反応が起きるため、炭素繊維は酸化処理される。
【0017】
本発明者は、陽極を擁する電解溶液槽での還元処理を減じ、陰極を擁する電解溶液槽での酸化処理のみを複数回数行うことで、高い電圧を印加しても、炭素繊維表面に均一に官能基を形成させることができることを見出した。
【0018】
従来の多段表面処理方法である、図2の非接触方式の表面処理装置では、1つの陽極と1つの陰極が1対となり1サイクルの電流回路と1ユニットの表面処理装置を形成している。そのため、炭素繊維に対して、酸化処理と同じ回数で還元処理もなされてしまい、酸化処理による官能基形成と還元処理による官能基除去が繰り返される。そのため、特に反応の起こりやすいグラファイト構造の乱れたエッジ部において反応が繰り返されることになり、処理の効率が悪く、表面官能基が均一に形成されにくくなっていたものと考えられる。
【0019】
一方、本発明(図1)では、1つの陽極に対して、複数の陰極が存在するため、1回の還元処理に対して複数回の酸化処理を行うことができ、酸化処理による官能基形成反応のみを複数回に分けて行うことができる。繊維表面の酸化反応は、表面官能基が形成されている箇所よりも、形成されていない箇所の方が起こりやすい傾向にあるため、処理の効率が上がるのみではなく、高い電圧で処理を行っても、表面官能基を均一に形成させることができるようになった。さらに、高い電圧で表面処理を行うことができるため、炭素繊維の脆弱層を除く効果が高く、繊維の力学的特性を改善することができる。そのため、本発明の炭素繊維の表面処理方法によって、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との界面特性の向上した炭素繊維を得ることができる。
【0020】
また、本発明では、複数の陰極が1つの陽極を共有し、独立して電流回路を形成した1ユニットの表面処理装置を、2ユニット以上使用してもよい。
本発明において、陽極を擁する電解溶液槽と陰極を擁する電解溶液槽の配置は制限されず、1つの陽極に対する陰極の数は2つ以上であればいくつであっても構わないが、図1の如く、繊維進行方向に対して、1つの陽極の前後に陰極を配置すると、1サイクルごとの電流が安定しやすい。また、陽極を擁する電解溶液漕では炭素繊維が還元処理を受け、表面官能基が除去され、一方、陰極を擁する電解溶液漕では炭素繊維が酸化処理を受け、表面官能基が付与されるという機能を有する。そのため、陽極を擁する電解溶液漕の繊維進行方向に対する後方に、陰極を擁する電解溶液漕を1漕以上配置することで、炭素繊維の表面官能基量を効率的に増加させることができ、樹脂との接着性を高めることができる。
【0021】
本発明において酸化処理回数は何回であっても構わないが、好ましくは2〜5回である。酸化処理が1回であると、表面官能基形成が均一に行われにくくなる傾向にあり、一方、酸化処理が6回以上であると、設備コストの増加に見合うだけの表面官能基形成の均一化の効果が得られにくくなる傾向にある。
【0022】
本発明において、1サイクルあたりの印加電圧は5〜30Vが好ましく、さらに好ましくは、10〜20Vである。電圧をこの範囲で印加すると、効率よく脆弱層の除去を行うことができ、強度の高い炭素繊維が得られやすい。印加電圧が30Vを越えると、脆弱層を除去するのみならず、表層のグラファイト結晶を削り取ってしまう傾向があり、繊維表面に欠陥を形成したり、繊維内部のボイドを露出させたりするため、繊維強度が低下する傾向にある。一方、印加電圧が5V未満であると、繊維表面の脆弱層の除去が十分でなく、強度の高い繊維が得られにくくなる。
【0023】
また、本発明においては、電圧を各サイクルに±2Vの範囲で均等に印加することが、好ましい。電圧を変化させず均等に印加することで、各サイクルでの酸化処理が均一になり、表面官能基が均一に付与されやすくなる。一方、処理の初期に高い電圧を印加し、後期に進むにつれて徐々に印加電圧を下げるという方法をとった場合は、処理の初期に電気抵抗が高い表面構造となり、処理の後期に低い電圧を印加しても、酸化処理が行われにくく、表面処理のばらつきが発生しやすくなる傾向にある。また、処理の初期に低い電圧を印加し、後期で高い電圧を印加する方法は、脆弱層の除去の進んだ処理の後期で高い電圧が加わるため、繊維表面に欠陥を形成したり、繊維内部のボイドを露出させたりするため、繊維の強度が低下しやすい傾向にある。
【0024】
本発明において、表面処理で炭素繊維にかかる電気量は、目的の表面官能基量になるよう適時調節すればよいが、炭素繊維1gに対して50〜500クーロンになる範囲とすることが好ましい。炭素繊維1gにかかる電気量をこの範囲で調節すると、繊維としての力学的特性に優れ、かつ、樹脂との接着性の向上した炭素繊維を得やすい。一方、炭素繊維1gにかかる電気量が50クーロン未満では、樹脂との接着性が低下しやすい傾向にあり、500クーロンを越えると、過剰な処理により、繊維強度が低下しやすい傾向にある。
【0025】
本発明で用いる電解溶液槽の電解液には、無機酸または無機塩基及び無機塩類の水溶液を用いることが好ましい。電解質として、例えば、硫酸、硝酸などの強酸を用いると表面処理の効率がよく好ましい。また、電解質として、例えば、硫酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類を用いると、無機酸や無機塩基を用いる場合と比較して、電解液の危険性が低いため好ましい。
【0026】
電解液の電解質濃度は0.1規定以上が好ましく、0.1〜1規定がより好ましい。電解質濃度が0.1未満であると、電気伝導度が低いために、電解に適さない傾向があり、一方で、電解質濃度が高すぎる場合は、電解質が析出し、濃度の安定性が低くなる傾向がある。
【0027】
電解液の温度は、高いほど電気伝導性を向上させるため、処理を促進させることができる。一方で、電解液の温度が40℃を超えると、水分の蒸発による濃度の変動等により、時間変動なく均一な条件を提供するのが難しくなるため、15〜40℃の間が好ましい。好ましい範囲の条件を提供することで、発明の効果は特に良く発揮されるが、それ以外でも、上記方法を用いることで発明の効果は得られる。
【0028】
本発明において表面官能基の形成量は、X線光電子分光器により測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度(O/C)で評価される。O/C値は10〜25%の範囲にあることが好ましく、15〜20%のものがより好ましい。O/C値が10%未満の場合は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が劣り、コンポジット物性低下の原因になる。一方、O/C値が25%を超える場合は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が強すぎるため、かえって応力集中が生じ、耐衝撃性などのコンポジット物性が低下するため好ましくない。また、繊維表面の、官能基の均一性は、ストランドの長手方向にばらつきにより評価できる。
【0029】
炭素繊維の力学的特性は、ストランド引張強度により評価した。炭素繊維を複合材料に用いるためには、炭素繊維の構造と物性は、均一であることが好ましい。均一な構造を持つ炭素繊維は、ストランドの長手方向に測定箇所を変えて測定しても、測定箇所ごとの繊維物性のばらつきは小さいものと考えられる。そのため、炭素繊維の構造の均一性を評価するために、ストランド引張強度の長手方向のばらつきを確認した。
【0030】
本発明の最大の効果は、繊維表面全体に渡って、脆弱層が過不足なく除去されることで、ストランドが長手方向に渡って同等に高い繊維強度を持ち、かつ、官能基が繊維表面に均一に形成された炭素繊維を得られることにある。そのため、本発明により製造された炭素繊維を用いて製造されたコンポジットは、高い強度を持つ炭素繊維で強化され、かつ、繊維と樹脂の界面の接着性が一様であるため、構造的に均一性の高いものとなる。
【0031】
本発明の表面処理方法は、PAN系、ピッチ系など、公知の炭素繊維を制限なく処理することができるが、本発明で用いる炭素繊維としては、得られるコンポジット物性の面から、PAN系の炭素繊維を用いることが好ましい。PAN系の炭素繊維は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0032】
アクリロニトリルを95質量%以上含有する単量体を重合して得られる紡糸溶液を、紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られるPAN繊維が前駆体繊維として用いられる。前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1000フィラメント以上が好ましく、12000フィラメント以上がより好ましい。
【0033】
かかる前駆体繊維を、加熱空気中200〜300℃で10〜100分間耐炎化処理することで耐炎化繊維が得られる。耐炎化処理では、前駆体繊維を延伸倍率0.90〜1.20の範囲で延伸することが好ましい。
【0034】
さらに得られた耐炎化繊維を、300℃〜1000℃で低温炭素化した後、1000〜2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化工程を経て、緻密な内部構造をもつ炭素繊維が得られる。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000〜3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
【0035】
上記の炭素繊維には、表面処理を行った後、必要に応じてサイジング処理が施される。サイジング方法は、従来公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、炭素繊維に付着させた後に、乾燥させることが好ましい。サイジング剤の付着量は0.1〜3.0%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。サイジング剤の付着量が3.0%を超えると、炭素繊維の開繊性が低下し、マトリクス樹脂の繊維束内部への含浸不良を引き起こす傾向がある。
【0036】
一般に、付着量が少ないと、サイジング剤が付着していない部分ができ、均一性を保つことが難しいという問題がある。しかし、本発明によって製造される炭素繊維は、表面官能基が均一に形成されており、繊維表面の濡れ性は一様に改善されているため、少量の付着量でも、ムラなく均一にサイジング剤を付着することができるため、さらに好ましい範囲の付着量にすることで、発明の効果をより良く反映することができる。
【0037】
本発明の炭素繊維の表面処理方法により得られた炭素繊維を用い、マトリックス樹脂と組み合わせ、例えば、オートクレーブ成形、プレス成形、樹脂トランスファー成形、フィラメントワインディング成形など、公知の手段・方法により複合材料が得られる。
【0038】
炭素繊維は、通常、シート状の強化繊維材料として用いられる。シート状の材料とは、繊維材料を一方向にシート状に引き揃えたもの、繊維材料を織編物や不織布等の布帛に成形したもの、多軸織物等が挙げられる。
【0039】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性マトリックス樹脂の具体例として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
複合材料中に占める樹脂組成物の含有率は、10〜90重量%、好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは25〜45重量%である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における繊維の物性についての評価方法は以下の方法により実施した。
【0042】
(1) 炭素繊維物性
<ストランド引張強度、弾性率>
JIS R−7601に準じてエポキシ樹脂含浸ストランドの引張強度および引張弾性率を測定した。長手方向のストランド強度のばらつきは、長手方向に10サンプルとったものをそれぞれ測定したCV値を尺度とした。ストランド引張強度としては、5700MPa以上が好ましく、6000MPa以上がより好ましい。CV値としては、5%以下が好ましい。
【0043】
(2) 表面状態の評価
<表面官能基量O/C>
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めることができる。測定には、JEOL社製ESCA JPS−9000MXを使用した。炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求められる。
表面官能基量のばらつきは、長手方向に10点測定したCV値を尺度とした。CV値としては、5%以下が好ましい。
【0044】
(3)コンポジット物性
炭素繊維束を一方向に引き揃えて並べ、炭素繊維シートを得た。得られた炭素繊維シート(目付け190g/m)に、エポキシ樹脂(東邦テナックス社製、#135、硬化温度180℃)を90℃で含浸させ、一方向プリプレグを作製した。
【0045】
<0°引張強度(0TS)>
作製した一方向プリプレグを、成型後の厚みが1mmになるように積層した後、180℃で硬化させ、炭素繊維の体積含有率が60%であるコンポジットを得た。これをASTM D 303に準拠し、室温で引張試験を行った。このときの強度を0°引張強度(0TS)とした。0TSは3000MPa以上が好ましい。
【0046】
<面内せん断応力(IPSS)>
作製した一方向プリプレグ8枚を、繊維の方向が、[+45°/−45°/−45°/+45°/+45°/−45°/−45°/+45°]となるように積層した後、180℃で硬化させ、炭素繊維の体積含有率が60%であるコンポジットを得た。これを、JIS K 7079に記載の±45°方向引張法に従って、面内せん断応力(IPSS)を測定した。
IPSSは120MPa以上が好ましい。
【0047】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
前駆体繊維であるPAN繊維ストランド(単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1500℃で高温炭素化させて製造した炭素化焼成糸を、表1に記載の電解酸化条件で表面処理した。その後、サイジング工程を経て得られた炭素繊維の物性を表2に示す。
【0048】
実施例1〜4は、図1に示した本発明の電極共有方式表面処理装置を用いた表面処理方法で表面処理を行った。
比較例1は、本発明とは電極の電位を逆転させた、図3に示す2つの陽極で1つの陰極を共有する表面処理装置を用いて表面処理を行った。比較例2〜4は図2に示した従来の非接触方式の表面処理装置を用いた表面処理方法で表面処理を行った。
【0049】
本発明の表面処理方法を用いて表面処理を行った実施例1は、従来の表面処理方法を用いた以外は実施例1と同様の条件で表面処理を行った比較例2と比べて、ストランド強度及びO/Cのバラツキが小さく、0TSが優れていた。同様に本発明の表面処理方法により表面処理を行った実施例2は、従来の表面処理方法を用いた以外は実施例2と同様の条件で表面処理を行った比較例3と比べ、ストランド強度及びO/Cのバラツキが小さく、0TS、IPSSも優れていた。
【0050】
実施例3、4は処理回数と電圧条件を変更した以外は、実施例1と同様の条件で行った。実施例3は実施例1と比較して、O/Cのバラツキが小さくなり、同等のコンポジット性能を得られた。一方、処理回数の少ない実施例4ではストランド強度のバラツキがやや大きくなったが、コンポジット性能は十分使用に足りるものであった。
【0051】
一方、2つの陽極で1つの陰極を共有する表面処理装置を用いた比較例1では、本発明とは異なり、陰極を擁する電解溶液槽での酸化反応よりも、陽極を擁する電解溶液槽での還元反応が多く起こるため、表面官能基が除去されやすく、繊維表面に十分な量の官能基を形成することができず、繊維と樹脂との接着性が劣っていた。そのため、十分なコンポジット性能を得ることができなかった。
【0052】
比較例4では、従来の表面処理方法を用いて、徐々に処理電圧を上げる条件で表面処理を行った。得られた炭素繊維は、他の比較例と比べても、ストランド強度が低く、そのばらつきも大きなものであった。また、O/Cのばらつきも大きくなり、コンポジット性能も優れなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を擁する電解溶液槽と陰極を擁する電解溶液槽が配置された表面処理装置を使用する非接触方式の炭素繊維の電解表面処理方法であって、複数の陰極が1つの陽極を共有し、1つの陰極毎に独立して1サイクルの電流回路を形成していることを特徴とする炭素繊維の表面処理方法。
【請求項2】
複数の陰極が1つの陽極を共有し、独立して電流回路を形成した1ユニットの表面処理装置を、2ユニット以上使用する、請求項1に記載の炭素繊維の表面処理方法。
【請求項3】
1サイクルの電流回路に係る電圧が、5V〜30Vである、請求項1または2に記載の炭素繊維の表面処理方法。
【請求項4】
電解溶液槽の電解溶液が、無機酸、無機塩基または無機塩類を電解質とする、0.1規定以上の電解水溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維の表面処理方法で表面処理された炭素繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102439(P2012−102439A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253755(P2010−253755)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】