説明

炭素繊維の製造方法

【課題】
末端部同士の接続部を有する繊維束を、焼切れなどで断糸することなく、連続的に焼成することができる、作業性および生産性に優れた炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
先行する炭素化可能な繊維束と、後続する炭素化可能な繊維束とを、それぞれの末端部同士を絡合接続して接続部を形成し、次いで当該接続部に、耐炎化遅延元素の単体または化合物が界面活性剤で溶媒に分散された分散液を付与して後、焼成することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造方法に関し、さらに詳しくは、耐炎化工程の糸切れ時における糸つなぎ作業において糸つなぎ部での再糸切れがなく、高張力がかかった時にも安定して生産を復旧することができ、生産性を向上させることができる炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】

一般的な炭素繊維の製造方法は、数千〜数万本の単繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中にて加熱処理して耐炎化繊維束とする耐炎化工程と、300〜2500℃の不活性雰囲気にて前記耐炎化繊維を加熱処理して炭素繊維束にする炭素化工程からなる。
【0003】
高品質かつ、高品位な炭素繊維を得るためには、特に耐炎化工程において、続く炭素化工程に耐え得る熱的に安定な焼け斑のない耐炎化構造を形成させることが重要である。このように耐炎化工程は炭素繊維束を製造する上で非常に重要な工程であるが、耐炎化温度、処理時間、糸速が適切なバランスで条件設定されていないと工程が不安定となり、繊維束の糸切れ、糸切れした繊維束のローラーへの巻き付きが頻繁に発生する。
【0004】
繊維束の糸切れが発生した場合には、何らかの手段にて糸切れ部の末端部同士を接続する必要がある。この繊維束同士の接続部は、一般に接続していない部分に比し、糸束が太くなり、かつ、きつく締め付けられた状態となり易い。このため接続部を有する繊維束が耐炎化工程を通過すると、接続部で発生する反応熱が十分放熱されず、蓄熱により更に激しい酸化反応が起こり、遂には焼成中の再糸切れ、焼損などの原因となるのである。
【0005】
そこでこのようなトラブルを回避し、操業性を向上させるために、特許文献1では、アクリル系繊維糸条の末端部同士を予め熱処理した後に特殊な結び方で結んで接続部を形成する技術が開示されている。しかし、この技術では、繊維束同士を結び合わせるという手作業を必要とし、作業性が著しく低下するばかりか、接続された繊維束の結び目の大きさや形状などが不揃いになり、多数本の繊維束を同時に焼成する際に一部の結び目が焼損もしくは切断する危険性がある。また、特許文献2では、アクリル系繊維糸条の末端部同士を絡合させて接続部を形成する方法が開示されている。しかし、この技術では、接続部にコブ状の結び目が形成されることがなく、接続部の太さ(厚さ),繊維の集束密度が小さくなり焼成時の通過性が改善されるものの、前駆体繊維束を構成する単繊維数が多くなるにつれ、耐炎化時の発熱量も増加するため、耐炎化・炭化工程を連続的に通糸するには、単繊維数の多い前駆体繊維束には適用に限界がある。また、特許文献3では、繊維束の接続部をジエステル油、シリコン油、ハロゲン化炭化水素油あるいは鉱油などのような耐熱性化合物で被覆して酸素を遮断し、酸化反応を抑制する技術が開示されている。しかし、この技術では、耐熱性化合物で被覆した部分は酸素が供給されないために耐炎化が進まないので、耐炎化工程は問題なく通過するが、炭化工程を通過する際に焼け切れてしまい、接続部が耐炎化工程を通過した後、運転を一次中断して炭化以降の工程を再度通糸し直さなければならないという欠点がある。
【0006】
また、特許文献4では、炭素化可能な繊維糸条の末端同士を重ね合わせ、高圧流体処理により絡合接続し、酸化反応抑制剤の水溶液に浸積させる技術が開示されている。しかし、この技術では、酸化反応抑制剤が水溶液中で分散せずに凝集状態にあるので、繊維糸条内に均一に浸透しないために、酸化反応抑制剤が存在しない箇所においては蓄熱により糸切れを発生してしまう。
【0007】
このように、従来の技術は、優れた物性を備えた炭素繊維を高効率、省力化して生産するための製造技術として、そのままでは採用できない。すなわち、従来の技術では、加熱温度及び工程張力の高い耐炎化工程で耐炎化繊維にする工程と、工程張力の高い炭素化工程で炭素繊維にする工程とをスムーズに通過し得ない。
【特許文献1】特開昭56−37315号公報
【特許文献2】特公平1−12850号公報
【特許文献3】特開昭54−50624号公報
【特許文献4】特許第2590620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術における問題点を解決すること、すなわち、末端部同士の接続部を有する繊維束を、焼切れなどで断糸することなく、連続的に焼成することができる、作業性および生産性に優れた炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は次の構成を採用する。すなわち、先行する炭素化可能な繊維束と、後続する炭素化可能な繊維束とを、それぞれの末端部同士を絡合接続して接続部を形成し、次いで当該接続部に、耐炎化遅延元素の単体または化合物が界面活性剤で溶媒に分散された分散液を付与して後、焼成することを特徴とする炭素繊維束の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐炎化工程の糸切れ時における糸つなぎ作業において糸つなぎ部での再糸切れがなく、高張力がかかった時にも安定して生産を復旧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、先行する炭素化可能な繊維束と、後続する炭素化可能な繊維束とを、それぞれの末端部同士を絡合接続して接続部を形成する。炭素化可能な繊維束は、炭素繊維用前駆体繊維束であり、ポリアクリロニトリル(以下、PANと略記する)系であるものが好ましいが、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、セルロース系などであってもよい。前駆体繊維束としては、耐炎化前の繊維束であっても良いし、耐炎化途中の繊維束であっても良い。
【0012】
PAN系の炭素繊維用前駆体繊維束は、PANを繊維化してなるが、PANとしては、アクリロニトリル100モル%の重合体であっても良いし、アクリロニトリルを少なくとも90モル%以上と、アクリロニトリル以外の共重合可能な単量体を10モル%以下とを共重合してなる重合体であっても良い。共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム金属塩、アクリルアミド、アクリル酸メチル等が好ましい。中でもイタコン酸が好ましく用いられる。
【0013】
この前駆体繊維束の末端部同士を接続する方法としては、それぞれの末端部同士を重ね合せて,重ね合せ部分を形成させ、その重ね合せ部分に高速流体による絡合処理を施し、 前駆体繊維束の末端同士を互いに一体的に接続させる。高速流体による絡合処理により、それぞれの繊維束を構成する単繊維が相互に絡まり合い、すなわち交絡され、2つの繊維束を一体的に接続させることができる。この場合の絡合処理には、繊維束の末端部同士を好ましくは10〜60cm、より好ましくは30〜40cm程度互いに重ね合せ、その重ね合せ部分に2〜6Kg/cm程度の加圧流体(たとえば,加圧エアー)、あるいは水または水溶液の高圧液流を0.5〜5mmφの細孔から噴射することによって絡合接続を行なう。この細孔は糸条の長手方向の同一部分に対して2〜4本の高圧流体があたるように複数孔を配すると、交絡効果を一層向上させることができる。このような絡合接続手段によれば、接続部にコブ状の結び目が形成しないことから耐炎化以降の通過性を一段と向上させることができる。
【0014】
本発明では、上記のようにして形成された前駆体繊維束同士の接続部に耐炎化遅延元素の単体または化合物が界面活性剤で溶媒に分散された分散液を付与する。耐炎化遅延元素の単体または化合物が耐炎化遅延剤として、繊維束を構成する単繊維の表層部に導入されることで、表層部の耐炎化反応の進行を抑制、反応熱による蓄熱、暴走反応を抑制することで糸切れを防止する。ここで、単繊維の表層部とは、単繊維の表面からの距離が単繊維の半径の1/3以下である領域をいう。具体的には、耐炎化遅延元素が、繊維束を構成する単繊維の表層部における濃度分布がリング形状を呈しており、単繊維の中心部に向かって、その濃度が漸次低下するような分布となるよう導入されているのが、単繊維の焼けムラを抑制する上で良い。
【0015】
耐炎化遅延元素とは、耐炎化工程において、前駆体繊維の酸化反応、すなわち、耐炎化反応を遅延させる作用のある元素を言う。具体的には、B、Ca、Zr、Mg、Ti、Y、Cr、Fe、Al、Sr及びランタノイド元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が挙げられる。中でも、B、Ca、Zr、Ti及びAl元素からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく、B、Ca及びZr元素からなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。この場合、耐炎化遅延剤は、これら元素の単体であっても良いし、これらの元素の化合物であっても良い。特に、耐炎化遅延の効果が大きく、かつ、安全性、価格、取り扱い易さなどから、ホウ素化合物を耐炎化遅延剤として用いるのが好ましい。ホウ素化合物の具体例としては、オルトホウ酸(以下、単にホウ酸という場合もある)、メタホウ酸、トリメチルボレート、トリプロピルボレート等のエステル化物、酸化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、含ホウ素金属化合物、四ホウ酸、及びそれらの金属塩とアンモニウム塩、三酸化二ホウ素、及びホウ酸エステル類が挙げられる。また、金属を含むと、焼成時に繊維に欠陥を生じて、かえって強度を低下させる場合があるため、ホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、及びそれらのアンモニウム塩など、金属を含まないものがより好ましい。また、その他にスルファミン酸アンモン、亜硫酸水素ナトリウムおよび尿素系化合物などが有効であり、これらは単独で用いても、あるいは数種類を組み合わせて用いても良い。
【0016】
耐炎化遅延剤は溶媒に溶ければ任意の濃度に調整して使用してもよいが、溶媒には溶解しないことが多いため、界面活性剤を用いて溶媒に分散させて分散液として用いる。溶媒としては、耐炎化遅延元素剤との相溶性を考慮し、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いてもよいが、作業環境の悪化を引き起こす恐れがあるので、水を用いるのが一般的である。そして、単に水などの溶媒に添加、分散させるだけでは、耐炎化遅延元素剤は、溶媒に均一に分散せず、粒子サイズが大きい状態で存在したり、分散せずに粒子同士が凝集して溶媒中で沈殿してしまうことがあり、繊維束に付与した際に、繊維束内に均一に浸透しないために耐炎化遅延効果が発揮できない。よって、界面活性剤を耐炎化遅延剤と溶媒からなる液体に添加して分散液として使用すると、耐炎化遅延剤が乳化され微細なエマルジョンを形成、前駆体繊維束内に浸透し、耐炎化遅延効果が繊維束内で均一に発揮され耐炎化が局所的に進行することがなくなり、蓄熱による糸切れがなくなるのである。
【0017】
ここで言う界面活性剤としては、特に種類は問わず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両イオン性のいずれもが用いられる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルメチルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩を挙げることができ、カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムを挙げることができ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル(またはアルキルフェニル)エーテル、ポリグリセリン脂肪酸部分エステルを挙げることができ、両イオン性界面活性剤として、N-アシルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニオベタイン、N-アシルアミドプロピル-N',N-ジメチル-N'β-ヒドロキシプロピルアンモニオスルホベタインなどを挙げることができる。
【0018】
耐炎化遅延剤の繊維束に対する付着量としては、接続部附近の繊維重量に対して、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.5〜2重量%の範囲とする。この付着量が0.1重量%に達しないときは耐炎化遅延効果が減少し、一方,15重量%を超えるときは、耐炎化遅延効果が大きすぎて、前駆体繊維束が耐炎化炉内の高温環境下で形態を維持できるほどの耐熱性が付与されないので、かえって耐炎化炉内にて糸切れを起こしてしまうばかりか、単繊維同士が融着し、炭化工程を連続して通糸することが困難になる場合がある。
【0019】
上記付着量を達成するために、分散液における耐炎化遅延元素化合物の濃度としては、好ましくは、0.5〜30重量%、より好ましくは1〜5重量%であるのが良い。
【0020】
分散液における界面活性剤の添加量としては、耐炎化遅延剤を小粒子の状態で分散させることができればよく、耐炎化遅延剤100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜3重量部の範囲であるのが良い。かかる添加量が0.01重量部未満の時は、耐炎化遅延剤をエマルジョン化するのに界面活性剤が十分でないために耐炎化遅延剤が凝集してしまい沈殿してしまう。一方、かかる添加量が10重量%を超えると、耐炎化遅延剤をエマルジョン化するのに適正な量よりも過剰に存在するため、界面活性剤が単独で存在し、単繊維間に侵入することで、界面活性剤を介して単繊維間で疑似接着が発生、その結果、焼けムラの原因となることがある。
【0021】
上記した分散液の接続部への付与方法としては、浸漬、スプレー、塗布等があり、一般的には簡便なスプレー法がとられる。
【0022】
分散液を付与する時期としては、耐炎化前の繊維束に限定されるものではなく、耐炎化の途中の繊維束でもかまわない。
【0023】
分散液の付与時間としては、絡合処理された繊維束内に界面活性剤が十分に浸透されればよいので特に限定されるものではないが、糸切れ時においては、糸切れが発生した糸条だけではなく、隣接糸条や近隣の糸条に干渉したり、ローラへの巻き付きが発生するなどの2次的なトラブルが発生することが多いため、早急な作業が求められる。よって、付与時間としては短ければ短いほど好ましいため、好ましくは1分以下、より好ましくは30秒以下が好ましい。なお、分散液の付与時間とは、例えば、分散液を浸積により付与するのであれば、繊維束を分散液に浸積していた時間のことであり、分散液をスプレーで付与するのであれば、分散液をスプレーしていた時間を意味する。
【0024】
本発明において、接続される繊維束としては、そのフィラメント数が多い時に本発明の効果がより発揮されるため、好ましくは6000本以上、より好ましくは12000本以上のフィラメント数であるのがよい。しかし、フィラメント数が多すぎると繊維束内に浸透するのに時間がかかりすぎるため、48000本以下であるのが好ましい。
【0025】
上記のような分散液を付与された接続部を有する繊維束は、その後焼成される。ここで、焼成とは、耐炎化し炭素化することをいう。
【0026】
通常、耐炎化は、200〜300℃の酸化性雰囲気中にて加熱処理して行うが、本発明は、耐炎化工程での蓄熱による発熱量が大きくなる高い耐炎化温度の時に効果がより発揮されるため、耐炎化温度としては、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上であるのが良い。耐炎化温度が低くなりすぎると、耐炎化反応が進行しにくく、さらに耐炎化遅延元素の効果により耐炎化反応がほとんど進行しなくなることがある。
【0027】
耐炎化工程における繊維束の進行速度としては、速いほど急激な耐炎化反応による発熱が発生することから本発明の効果がより発揮されるため、好ましくは、5m/分以上、より好ましくは、7m/分以上とするのが良い。但し、繊維束の進行速度が10m/分を超えると耐炎化反応が進行しにくくなる。
【0028】
耐炎化工程に引き続いて、300〜2500℃の不活性雰囲気にて加熱処理する炭素化工程を経て、連続して炭素繊維束を製造することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、本実施例において、接続部における耐炎化遅延剤の付着量は、次のようにして測定した。
【0030】
<接続部における耐炎化遅延剤の付着量>
耐炎化炉内を走行させる実験と同じ条件となるよう、繊維束の末端同士を所定長さ重ね合わせて接続部を形成し、耐炎化遅延剤を付与する。耐炎化遅延剤が付与された接続部分のみをカットして、その接続部を遠心脱水機により約3分間脱水処理し、約110℃で約2時間乾燥させ、重量W1(g)を測定する。一方、耐炎化炉内を走行させる実験と同じ条件となるよう、繊維束の末端同士を所定長さ重ね合わせて接続部を形成する。耐炎化遅延剤が付与されていない接続部分のみをカットして、その接続部を約110℃で約2時間乾燥させ、重量W0(g)を測定する。W1とW0を用いて次式より接続部における耐炎化遅延剤の付着量M(重量%)を算出する。
【0031】
M=(W1−W0)×100/(1+A/100)×W0
ここで、Aは、耐炎化遅延剤100重量部に対する界面活性剤の添加量(重量部)である。
【0032】
なお、本実施例では、遠心脱水機として、(株)コクサン製 形式:H-110Aの遠心脱水機を用いた。
(実施例1)
単繊維繊度1d、フィラメント数12000のアクリル系前駆体繊維束を用い、先行する繊維束と、後続する繊維束とを、それぞれの末端部同士を約40cm程度重ね合わせ、加圧流体絡合装置を用い、その重ね合せ部分に3.0Kg/cmの加圧エアーを、糸条の長手方向の同一部分に対して3本の加圧エアーがあたるように、2.0mmφの細孔3個から噴射することによって絡合接続し、接続部を形成した。この接続部に、水溶液中の濃度が3重量%の耐炎化遅延剤であるオルトホウ酸を、オルトホウ酸100重量部に対して1重量部の界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、DBSNaと略記する)で水に分散した分散液を0.5分間スプレーし、繊維束に対してオルトホウ酸を1重量%付着させた。次に熱風空気が循環している耐炎化温度250℃の耐炎化炉に走行速度7.0m/分で走行させ、その後、1500℃の窒素雰囲気で炭素化処理して炭素繊維束を得た。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例2)
用いるアクリル系前駆体繊維束を、フィラメント数が24000のものに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例3)
末端部同士の重ね合わせの長さを、約40cmから約20cmに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例4)
分散液を、水溶液中の濃度が5重量%のオルトホウ酸を、オルトホウ酸100重量部に対して1.5重量部のDBSNaで水に分散した分散液に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は2重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例5)
耐炎化温度を、250℃から260℃に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例6)
耐炎化炉における繊維束の走行速度を、7.0m/分から10.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例7)
耐炎化遅延剤を、オルトホウ酸から亜硫酸水素ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対する亜硫酸水素ナトリウムの付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例8)
耐炎化遅延剤を、オルトホウ酸から三酸化二ホウ素に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対する三酸化二ホウ素の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例9)
界面活性剤を、DBSNaからラウリルアルコール(EO)20に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例10)
界面活性剤を、DBSNaから塩化ジアルキルジメチルアンモニウムに変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程では、まったく糸切れは発生しなかった。実験条件などを表1にまとめた。
(実施例11)
分散液におけるオルトホウ酸の濃度を3重量%から0.1重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は0.03重量%であった。かかる実験を3回行ったところ、耐炎化工程で糸切れが2回発生した。
(実施例12)
分散液におけるオルトホウ酸の濃度を3重量%から50重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は30重量%であった。かかる実験を3回行ったところ、耐炎化工程で糸切れが2回発生した。
(実施例13)
分散液において、オルトホウ酸100重量部に対するDBSNaの量を、1重量部から0.005重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったところ、耐炎化工程で糸切れが1回発生した。
(実施例14)
分散液において、オルトホウ酸100重量部に対するDBSNaの量を、1重量部から20重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったところ、耐炎化工程で糸切れが1回発生した。
(実施例15)
耐炎化温度を、250℃から190℃に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。かかる実験を3回行ったが、耐炎化工程で糸切れが1回発生した。
(実施例16)
耐炎化炉における繊維束の走行速度を、7.0m/分から12.0m/分に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。かかる実験を3回行った所、耐炎化工程で糸切れが1回発生した。
(比較例1)
分散液に、DBSNaを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。繊維束に対するオルトホウ酸の付着量は1重量%であった。かかる実験を3回行ったが、3回とも耐炎化工程で糸切れが発生した。
(比較例2)
分散液を付与しなかった以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。かかる実験を3回行ったが、3回とも耐炎化工程で糸切れが発生した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行する炭素化可能な繊維束と、後続する炭素化可能な繊維束とを、それぞれの末端部同士を絡合接続して接続部を形成し、次いで当該接続部に、耐炎化遅延元素の単体または化合物が界面活性剤で溶媒に分散された分散液を付与して後、焼成することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
耐炎化遅延元素の元素または化合物がホウ素化合物である、請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項3】
溶媒が水であり、界面活性剤がアルキルベンゼンスルホン酸塩である、請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項4】
分散液における耐炎化遅延元素の元素または化合物の濃度が、0.5〜30重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維束の製造方法。

【公開番号】特開2008−214810(P2008−214810A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55238(P2007−55238)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】