説明

炭素繊維の製造方法

【課題】有撚の炭素繊維を解撚処理する炭素繊維の製造方法において、ボビンに巻かれてなる炭素繊維パッケージからボビン軸方向にたて取り解舒して織物のよこ糸に供する際に、織物の目開き量のばらつきを低減し、得られるCFRPの品質および品位を安定化させる炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】有撚炭素繊維を解撚処理する炭素繊維の製造方法において、ボビンに巻かれてなるパッケージからボビン軸方向にたて取り解舒する際に発生する解舒撚りに相当する撚り数を、解撚処理時に解舒撚りと反対方向に糸条に付与することを特徴とする炭素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造方法に関する。より詳しくは、炭素繊維をたて取り解舒して織物に供する際に、織物の目開き量のばらつきを低減し、得られる炭素繊維強化プラスチック(以下CFRP)の品質および品位を安定化させる炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は比強度、比弾性率が高いことから、CFRPとして軽量化効果の大きいスポーツ・レジャー用品をはじめ、航空機用途や一般産業用に多く使われている。
【0003】
かかるCFRPの成形方法としては、ハンドレイアップ成形をはじめとしてオートクレーブ成形、RTM成形など種々の方法がある。これらの成形法においては、炭素繊維を中間基材の形態にして用いることが一般的であり、その中間基材としては織物の形態にしたものが多用されているが、かかる織物においては、取り扱う際に織糸がずれる目ズレや、目開き量のばらつきが発生しやすい。目開き量がばらつく原因としては製織条件のほかに織糸の糸幅不安定が挙げられる。特に織糸に撚りが混入すると、織糸が部分的に集束して糸幅が狭くなり得られるCFRPの外観品位が劣るばかりか、織物のクリンプが大きくなるため、炭素繊維本来の優れた力学的特性の発現を阻害するという問題があった。
【0004】
二方向織物においては、よこ糸を炭素繊維パッケージからたて取り解舒して製織に供することが多いため、織糸に解舒撚りが混入するのは避けられない。さらには、解舒撚りはパッケージの巻径によってその量が変化するため、織物の長手方向で目開き量が変化する一因となる。
【0005】
かかる問題に対し、よこ糸貯留装置を用いてパッケージからよこ取り解舒してよこ糸に供する方法が提案されているが(例えば、特許文献1参照)、よこ糸はたて糸の10倍以上の解舒速度で、かつ間欠的に供給されるため、たて糸と比べると撚りや折り畳まれなどが発生しやすい。また、かかる方法は扁平状の繊維束には有効であるものの、24,000フィラメント以下の細幅糸においては扁平状態の維持が難しく改善効果が小さいという問題がある。
【0006】
また、同じく扁平状の無撚糸に関しては特許文献2に記載されているように、無撚りの状態で巻き上げられたパッケージの内層部から一旦糸条を引き出し、その際に発生する解舒撚りを残したまま再びパッケージ形態に巻き直すことで、たて取り解舒しても引き出した際に実質的に撚りのない状態で使用することが出来る。
【0007】
一方、24,000フィラメント以下の細幅糸においては、有撚・解撚法で炭素繊維を製造することが代表的である。これは特許文献3に代表される加撚数制御装置を用いて、前駆体繊維糸条を解舒撚り数の変動にかかわらず所定の撚り数を一定に付与しながら耐炎化および炭化処理を施し、得られた有撚糸パッケージを解撚処理して実質的に無撚りの炭素繊維を得る方法である。無撚焼成に対して有撚焼成の優位な点は、特許文献4に代表されるように、加撚した前駆体糸条を合糸した状態で焼成できるため、コンパクトな設備で生産性を高められることである。また、糸条に付与した撚りを解くための解撚工程を有するため、特許文献5のように炭素繊維糸条に所望の撚り数を付与することも可能であるが、高次加工時に均一な拡幅性が求められるので、一般的には解撚糸の撚り数は0ターン/mとするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平4−44023号公報
【特許文献2】米国特許公開第2009/0127365号明細書
【特許文献3】特公昭58−17298号公報
【特許文献4】特開昭58−87321号公報
【特許文献5】特公昭53−37955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、有撚の炭素繊維を解撚処理する炭素繊維の製造方法において、ボビンに巻かれてなる炭素繊維パッケージからボビン軸方向にたて取り解舒して織物のよこ糸に供する際に、織物の目開き量のばらつきを低減し、得られるCFRPの品質および品位を安定化させる炭素繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有撚炭素繊維を解撚処理する炭素繊維の製造方法において、ボビンに巻かれてなるパッケージからボビン軸方向にたて取り解舒する際に発生する解舒撚りに相当する撚り数を、解撚処理時に解舒撚りと反対方向に糸条に付与することを特徴とする炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素繊維をたて取り解舒して織物に供する際に、解舒撚りの影響を低減させることにより目開き量のばらつきを抑制し、外観品位に優れた織物が得られるとともに、得られるCFRPの力学的特性を安定化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明における炭素繊維の繊維形態は、撚り数をボビン長手方向に制御するため、糸条に撚りを付与した有撚糸を解撚処理で撚りを解いた解撚糸である。かかる有撚糸の撚り数は特に制限するものではないが、熱処理の均一性や走行安定性を考慮すると、2〜30ターン/mの範囲とすることが好ましい。
【0014】
フィラメント数の好ましい範囲は500本〜24,000本であり、より好ましくは1,000本〜12,000本であり、さらに好ましくは3,000本〜6,000本である。フィラメント数が500本未満の場合は取り扱い性が悪い上に、生産能力の低下を招きコストアップをもたらす。また、フィラメント数が大きくなりすぎると有撚焼成時に糸条内が均等に熱処理できなくなることから、24,000本以下が好ましい。
【0015】
前駆体繊維としては、ポリアクリロニトリル系繊維、レーヨン系繊維、ピッチ系繊維、あるいはポリビニルアルコール系繊維等を使用することができるが、なかでも、アクリルニトリル重合体あるいはその共重合体から得られるポリアクリロニトリル系繊維は、高い引張強度を発現する炭素繊維を得ることができるため、炭素繊維前駆体として好ましく用いることができる。
【0016】
この前駆体繊維をボビンに巻上げ、ボビン軸を中心にかかるパッケージを回転させながら前駆体繊維をたて取り解舒することで、繊維長手方向に一定の撚り数を付与することができる。この有撚前駆体繊維を空気などの酸化性雰囲気中にて200〜300℃の温度範囲で耐炎化することで耐炎化繊維を製造し、窒素などの不活性雰囲気中で300〜1000℃の温度範囲で予備炭化した後に、窒素などの不活性雰囲気中で最高温度1000〜2000℃の温度範囲で炭化することで炭素繊維を得ることができる。その後、必要に応じて、窒素などの不活性雰囲気中で2000℃以上で黒鉛化処理することもある。
【0017】
熱処理後に施す表面処理は既知の薬液を用いる液相酸化、電解液溶液中で炭素繊維を陽極とする電解酸化を用いればよいが、比較的取り扱い性が良く、コスト的に優れた電解酸化処理方法が好ましく用いられる。電解液は酸性水溶液またはアルカリ水溶液いずれでもよいが、酸性水溶液は強酸を示す硫酸、硝酸が好ましく、アルカリ水溶液は炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどが好ましく用いられる。その後、炭素繊維にサイジング剤を付与する。ここでいうサイジング剤の種類は特に限定するものではないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を主成分とするものがよい。
【0018】
以上の方法により製造された炭素繊維を公知の巻き取り方法でボビンに巻き取ることにより、長手方向に一定の撚り数が付与された有撚炭素繊維パッケージを得ることができる。
【0019】
次いで、この有撚炭素繊維パッケージを、所定の回転数に制御可能なスピンドルからなるたて取り解舒用クリールと、走行糸に駆動を与えるドライブステーション(例えば、特許第3562115号公報、第1図、第2図参照)と、ワインダーとによって構成される解撚工程に投入し、撚りを解きながら公知の巻き取り方法でボビンに巻き取る。この際、解撚糸の撚り数は、次工程でたて取り解舒した際に発生する解舒撚りが相殺され、撚りのない状態となるよう制御する。すなわち、次工程でたて取り解舒した際にS撚りの解舒撚りが生じるならば、解撚糸に解舒撚りと同数のZ撚りを予め付与して巻き上げ、炭素繊維パッケージとする。解舒撚り数は原料となる有撚炭素繊維パッケージの巻径に依存するので、解舒に伴う巻径の減少に応じて、回転数制御プログラムによって回転数を漸次減少させながら解撚処理すればよい。
【0020】
このように、予め解舒撚り相当の撚り数を解舒撚りの反対方向に付与することで、次工程でたて取り解舒しても解舒撚りが相殺され、撚りのない状態で使用できる。撚りのない状態とは、0ターン/mであることがもっとも好ましいが、±0.5ターン/mの範囲内のものであることが好ましい。
【0021】
かかる炭素繊維パッケージを少なくともよこ糸に用いて、公知の製織方法で炭素繊維織物とする。炭素繊維糸条を並行に引き揃え、たて糸が1〜8本/cmの密度で一方向に配列してシート状の炭素繊維糸条群を形成し、それに直交する方向に、織機を用いて1〜8本/cmの密度で炭素繊維糸条同士を交錯させ、織物の布帛とする。本発明の製造方法によって得られた炭素繊維を用いると、織物を構成する炭素繊維糸条には解舒撚りが混入しないため、織物上の糸幅が安定し、その結果、目開き量のばらつきも抑制できるため、外観品位に優れた織物を得られるとともに、得られるCFRPの力学的特性を安定化させることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明する。
【0023】
実施例中の残撚り数は、織物中のよこ糸の両端をクリップで固定した状態で織物から取り出し、その撚り数を実測して1m長当りに換算した値で示す(織物長手方向10mおきに3点測定し、各n=5の平均値を求め、その最大値を表中に示す)。
【0024】
実施例中の開口率は、炭素繊維織物を平面で見た際の炭素繊維糸条が存在しない空隙部の面積と検査面積との除の百分率で示す。実際の測定では、15cm×15cmの正方形(検査面積225cm2)を幅方向に均等間隔に5枚切り取り、切り取ったものの空隙部の面積を光学顕微鏡でそれぞれ読みとり算出する(n=5の平均値)。
【0025】
実施例中のコンポジット引張強度は、次の方法で測定した。炭素繊維織物に樹脂を含浸させ、炭素繊維目付け196g/m2、樹脂重量分率40%のプリプレグ基材を作製し、250×250mmの大きさに切り出し、14枚を積層して平板状積層体を得た。得られたCFRP平板より、よこ糸方向に長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。次いでJIS K7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分でよこ糸方向の引張強度を測定した。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。
【0026】
(実施例1)
アクリロニトリル99.5モル%とメタクリル酸0.5モル%からなる共重合体を用いて、湿式紡糸方法により単糸繊度1.11dtex、フィラメント数3000本、無撚りのPAN系前駆体繊維パッケージを得た。
得られた前駆体繊維パッケージを回転式クリールに仕掛け15ターン/mの撚りをかけながらたて取り解舒し、230〜260℃の空気中で加熱し有撚耐炎化繊維とした。次いで耐炎化繊維を300〜800℃の不活性雰囲気中で予備炭化して後、1000〜1500℃の不活性雰囲気中で炭化した。次いで水溶液中で電解表面処理を行い、サイジング剤を付与し乾燥してからワインダーで巻き取り、繊度200tex、撚り数が15ターン/mの一定の有撚炭素繊維パッケージを得た。
次いで、得られた有撚炭素繊維パッケージをたて取り解舒用回転式クリールに仕掛け、撚りを解きながらワインダーで巻き取り、巻密度1.0g/cm3、巻量2.0kgの解撚炭素繊維パッケージを得た。この時のクリール回転数は、製織時の仕掛けに応じて次のように調整した。
【0027】
たて糸用炭素繊維:製織時には解撚糸パッケージをよこ取り解舒する(解舒撚りが入らない)ため、有撚糸の元撚り数を解くのに必要な回転数から、巻径の減少に伴い漸次増加する解舒撚り分を引いた回転数R1で解撚処理した。
【0028】
回転数R1(rpm)=(T0−T1)×V
T0; 有撚炭素繊維の元撚り数(T/m)
T1; 有撚炭素繊維をたて取り解舒した際に発生する解舒撚り数(T/m)
V ; 解撚処理の引き取り速度(m/分)
よこ糸用炭素繊維:製織時には解撚糸パッケージをたて取り解舒する(解舒撚りが入る)ため、有撚糸の元撚り数を解くのに必要な回転数に加えて、巻き上げて得られる解撚炭素繊維パッケージをたて取り解舒する際に発生する解舒撚りと同数の撚りを反対方向に付与するよう回転数を調整した。すなわち、解撚糸の最内層部はZ撚り方向に3.7ターン/m、最外層部はZ撚り方向に2.1ターン/mとし、その間は撚り数が漸次減少するよう、長手方向に回転数R2を漸次減少させながら解撚処理した。
【0029】
回転数R2(rpm)=(T0−T1+T2)×V
T0; 有撚炭素繊維の元撚り数(T/m)
T1; 有撚炭素繊維をたて取り解舒した際に発生する解舒撚り数(T/m)
T2; 解撚炭素繊維をたて取り解舒した際に発生する解舒撚り数(T/m)
V ; 解撚処理の引き取り速度(m/分)
得られた解撚炭素繊維パッケージをたて糸にはよこ取り解舒用クリール、よこ糸にはたて取り解舒用クリールに仕掛け、よこ糸をたて糸と交錯させてレピア織機で織成し、炭素繊維目付け196g/m2の平組織の二方向織物を得た。この織物のよこ糸はたて取り解舒した際の解舒撚りが相殺されるため、残撚り数は最大−0.2ターン/m、開口率は5.6%であり、織物の外観品位も良好であった。次いで、プリプレグ基材を作製・積層し、コンポジット強度を測定した結果、590MPaであった。
【0030】
(実施例2)
前駆体繊維の単糸繊度を0.83dtex、フィラメント数を6000本、炭素繊維の繊度を225texにした以外は実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を得た。よこ糸の残撚り数は最大+0.1ターン/m、開口率は6.0%であり、織物の外観品位も良好であった。コンポジット強度は853MPaであった。
【0031】
(実施例3)
前駆体繊維の単糸繊度を0.83dtex、フィラメント数を12000本、炭素繊維の繊度を450texにした以外は実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を得た。よこ糸の残撚り数は最大−0.1ターン/m、開口率は5.8%であり、織物の外観品位も良好であった。コンポジット強度は850MPaと実施例2と同等であった。
【0032】
(比較例1)
解撚炭素繊維パッケージ中の撚り数を0.0ターン/mと一定にした以外は、実施例1と同じ方法で炭素繊維織物を得た。よこ糸の残撚り数はたて取り解舒した際に解舒撚りが発生するため最大+3.4ターン/mとなった。その影響で局所的に織糸が集束するため、本発明によって得られた織物に対して外観品位は劣るものであり、織物の開口率は7.8%と増加した。コンポジット引張強度はCFRPの繊維含有率にバラツキが生じるため575MPaと若干低下した。
【0033】
(比較例2)
解撚炭素繊維パッケージ中の撚り数を0.0ターン/mと一定にした以外は、実施例2と同じ方法で炭素繊維織物を得た。よこ糸の残撚り数はたて取り解舒した際に解舒撚りが発生するため最大+3.5ターン/mとなった。その影響で局所的に織糸が集束するため、本発明によって得られた織物に対して外観品位は劣るものであり、織物の開口率は8.2%と増加した。コンポジット引張強度はCFRPの繊維含有率にバラツキが生じるため827MPaと若干低下した。
【0034】
(比較例3)
解撚炭素繊維パッケージ中の撚り数を0.0ターン/mと一定にした以外は、実施例3と同じ方法で炭素繊維織物を得た。よこ糸の残撚り数はたて取り解舒した際に解舒撚りが発生するため最大+3.7ターン/mとなった。その影響で局所的に織糸が集束するため、本発明によって得られた織物に対して外観品位は劣り、織物の開口率は8.1%と増加した。また、コンポジット引張強度は821MPaと若干低下した。
【0035】
実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例3の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる炭素繊維の製造方法を用いることにより、炭素繊維をたて取り解舒して織物のよこ糸に供する際に、目開き量のばらつきを低減し、得られるCFRPの品質・品位を安定化させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有撚炭素繊維を解撚処理する炭素繊維の製造方法において、ボビンに巻かれてなるパッケージからボビン軸方向にたて取り解舒する際に発生する解舒撚りに相当する撚り数を、解撚処理時に解舒撚りと反対方向に糸条に付与することを特徴とする炭素繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−208315(P2011−208315A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77075(P2010−77075)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】