説明

炭素繊維を電極に用いた電気分解

【課題】NaOHの工業生産装置の陰極として、可撓性が優れた炭素繊維電極を用いて電解する方法を提供する。
【解決手段】直径が5〜7ミクロンの長繊維が多数集合して構成する炭素の長繊維束(炭素繊維:CF)を陽イオン交換膜19に近接したプラスチックの網20の周りにらせん状に巻いて陰極21(CF電極)とする。炭素繊維は可撓性があるので容易に多数回まきつけることができ、表面積が大きい電極となり、電気分解の効率を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素(黒鉛)電極に比して、可撓性が優れている炭素繊維電極(CF電極)を用いて電気分解を行なう技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の炭素電極をNaCl水溶液(電解液)に浸漬し電気分解をすると、陰極でHOが還元されてHを発生し、陽極でClが酸化されてClを発生する。
即ち、陰極で:2HO+2e→H+2OH (1)
陽極で:2Cl→Cl+2e (2)
全体で:2NaCl+2HO→2NaOH+H+Cl (3)
この化学反応では、電子eの授受は電極と電解液の界面で行なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気分解の化学反応は、電極と電解液の界面で電子eの授受によって進行するので、電極の表面積が大きいほど電子eの授受が多くなる。
容積が限られている電解槽で表面積が大きい炭素電極をつくるためには、電極を太くするか本数を多くするかの方法があるが、取扱いが難しい。
直径が5〜7ミクロンの極めて微細な長繊維が多数集合して構成される炭素の長繊維束(炭素繊維:CF)で電極をつくり、CF電極とする。
CFは可撓性があるので、限られた容積の電解槽でも、らせん状に巻いて長い電極ができ、それだけ表面積が大きい電極をつくることが可能である。
また、CFをシート状に並べて円筒形に巻くと表面積が大きいCF電極ができる。
従って、CF電極によって、電気分解ができるかを究めることが、発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
電気分解を次の検体を電極に用いて行なう。
◎炭素電極:黒鉛棒5mmφ×100mm長(約3,100mg)
◎CF電極(A):PAN系CF15束×100mm長(約1,150mg)
◎CF電極(B):ピッチ系CF15束×100mm長(約1,350mg)
但し、CF電極はばらけないように、金属以外の例えば木綿糸で数カ所結ぶか、耐水性耐薬品性の接着剤(炭素同素体が混同しているもの、及び柔軟性があるものを含む)で固める。
また、電極を電解液に浸漬すると、毛細管現象で電解液が電極の電源接続端子まで上昇して電源接続子の金属に影響を及ぼすので、これを防ぐために、図1のようにCFの一部を接着剤で固めたものを電極に接続して電源接続端子とする。
上記電極をそれぞれ陽極と陰極として電解槽に浸漬し(図2)、9Vの電源に接続すると、陽極に生ずるClと陰極に生ずるHが観察されて、いずれの電極でも電気分解が進んでいることが示された。
ピッチ系CFは折れ易いので、以下のCF電極はPAN系CFを用いたものとする。
【0005】
長繊維のCFでつくるCF電極は可撓性があるので、限られた容積の電解槽の形状に合わせて、長い電極を形成することができる。
例えば、CF15束×500mm長のCF電極をらせん状に巻いて、図3のように電解槽に容易に浸漬できる。
この状態で、9Vの電源に接続すると、陽極にCl、陰極にHの発生が観察され、陽極に炭素電極を用いた場合も同様の現象が生じた。
【0006】
〔0004〕と〔0005〕の現象を考察すると、CF電極は炭素電極と同じ化学反応を行ない、更にCF電極は炭素電極では不可能な曲げの形状で長い電極をつくることができる。
従って、CF電極を用いて電気分解をするのが、課題を解決するための手段であることを示している。
【発明の効果】
【0007】
CF電極には次の点で炭素電極より優れた性質があることが分かった。
1.電解液と接する表面積を大きく加工することが可能で、多くの電子eを授受で きる。
2.CFは長繊維で可撓性があるので、電解槽に合わせて自在な形状の電極をつくる ことができる。
従って、CF電極の性質を生かした電気分解の方法が発明の効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
NaOHの工業生産では、陰極に鉄鋼(鉄網)を用いているので腐蝕は避けられない。
これを防ぐために、原理的に耐水性耐薬品性プラスチックなどの適当な厚みの網にCFをらせん状に巻きつけて鉄鋼の代替(陰極)とし、炭素(黒鉛)またはCFを陽極とするNaOH生産装置(図4)をつくる。
あるいは、CFを平面に並べて導電性接着剤や導電性プラスチックで固めたシートに、通水用の小穴を多数適宜にあけて鉄鋼の代替とする。但し、導電性接着剤と導電性プラスチックは柔軟性がある耐水性耐薬品性のもので金属を含まないものとする。
以上の装置を基本にして、海水または水を電気分解してHを生産する装置ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】 電極の電源接続端子を示す図
【図2】 電解槽に電極を浸漬した状態を示す側面図
【図3】 電解槽にらせん状に巻いたCF電極を浸漬した状態を示す側面図
【図4】 NaOH生産装置の陰極としてCFをらせん状に巻いた基本的状態を示す側断面図
【符号の説明】
【0010】
1 電極(CFまたは黒鉛)
2 電源接続端子(CF)
3 接着剤(例えばエポキシ系)
4 電極と電源接続端子を結合(金属以外の糸状又は帯状の物質で強く)
5 陽イオン交換膜
6 陽極室(海水)
7 陽極
8 陰極室(海水)
9 陰極
10 陽極室(NaCl水溶液)
11 陽極(らせん巻CFまたはシート状CFまたは黒鉛)
12 陰極室(水道水)
13 陰極(らせん巻CFまたはシート状CF)
14 電源接続端子(電源+側)
15 電源接続端子(電源−側)
16 陽極室(NaCl水溶液)
17 陽極(黒鉛またはCF)
18 陰極室(水)
19 陽イオン交換膜
20 耐水性耐薬品性プラスチックなどの適当な厚みの網
21 陰極(らせん巻CFまたはシート状CF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極めて微細で長繊維の炭素繊維(CFと略記。CFのPAN系、ピッチ系などの別は問わない)の集合体で電極(CF電極)をつくる。
CFは可撓性があるので、CF電極は柔軟性を要する形状に加工することができる。
このCF電極を陽極または陰極として電解液に浸漬し、両極に直流の電圧を加えて電気分解を行なう方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって、NaCl水溶液と水を用いてNaOH、H、Clを製造する装置。
【請求項3】
請求項1の方法によって、海水からHを製造し、海水中のNaClを減らす方法。
【請求項4】
請求項1の方法によって、水からHを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−59530(P2010−59530A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251613(P2008−251613)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(594183967)有限会社新日本社 (12)
【Fターム(参考)】