説明

炭素繊維ウェブの製造方法および炭素繊維ウェブ

【課題】炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂を付与し、炭素繊維同士を結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを効率良く製造する方法、および成形品とした場合に力学特性に優れる熱可塑性樹脂結着繊維強化ウェブの提供。
【解決手段】炭素繊維ウェブ20に熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を引き取り熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ40を得るにあたり、引張強力が1N/cm以上の状態として引き取る熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維ウェブの製造方法および炭素繊維ウェブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維などを均一に分散させたウェブは、結着成分を付与することにより結着固定され得る。こうして得られる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブは、比強度、比剛性に優れている繊維強化成形基材に複合化することで、電気・電子用途、土木・建築用途、自動車用途、航空機用途等に用いることができる可能性を有しているが、広くは用いられていなかった。そこで、このような繊維強化成形基材を広く活用するために、その製造条件については様々な検討がなされてきた。特に炭素繊維は、ガラス繊維、有機繊維などに比較して親和性が低いため結着させにくく、このことは特に高速の製造プロセスにおいて課題とされてきた。
【0003】
特許文献1(国際公開第2007/97436号パンフレット)には、繊維強化熱可塑性樹脂成形体の強化繊維として、単繊維状の炭素繊維であって質量平均繊維長が0.5〜10mmであり、かつ、配向パラメーターが−0.25〜0.25である炭素繊維を用いると、力学特性に優れ、等方的な力学特性を有する成形体が得られることが記載されている。この繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、(I)成形材料に含まれる熱可塑性樹脂を加熱溶融する工程、(II)金型に成形材料を配置する工程、(III)金型で成形材料を加圧する工程、(IV)金型内で成形材料を固化する工程、(V)金型を開き、繊維強化熱可塑性樹脂成形体を脱型する工程により製造されうるとされている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2007/37260号パンフレット)には、強化繊維に所定の重合体を付与して得られる強化繊維と、溶融した熱可塑性樹脂とを、強化繊維、重合体及び熱可塑性樹脂が所定の配合割合となるように複合化すると、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性に優れ、成形品とした場合に機械的特性を充分向上させることのできる繊維強化熱可塑性樹脂を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3(特開昭58−69047号公報)には、不燃性繊維状物質と熱可塑性樹脂を主成分とするバインダーを主成分とし他の所定の成分を含むスラリー原液を、走行もしくは回転する網状または多孔質状の基材に、基材の面と5〜60度の角度で供給した後脱水、乾燥させることにより、繊維状物質が配向しているシート状物の製造方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/97436号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/37260号パンフレット
【特許文献3】特開昭58−69047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献3の製法においてはいずれも、炭素繊維の配向を制御する必要があり、そのために工程ごとに詳細な条件を設定する必要があった。さらには強化繊維ウェブの引き取りに関しては特別な措置はなく、そのため、製造に時間および手間を要し、繊維強化成形基材の効率的な製造への適用にはさらなる改善が望まれていた。また、これらの製法では製造当初から熱可塑性樹脂を繊維に配合するため、使うことのできる熱可塑性樹脂が限定されており、かつ熱可塑性樹脂と強化繊維とを共に効率よく分散させるために、詳細な条件設定などが必要であった。
【0008】
特許文献2の強化繊維ウェブの製法は、(メタ)アクリル系重合体成分を強化繊維ウェブに付与するのみであり、その後の引き取り性など生産性を考慮したものではなく、広く繊維強化複合材料として活用するためにはさらなる製造方法の改良が求められていた。
【0009】
本発明は、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂を付与し、炭素繊維同士を結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを効率良く製造する方法、および成形品とした場合に力学特性に優れる熱可塑性樹脂結着繊維強化ウェブの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の〔1〕〜〔17〕を提供するものである。
〔1〕炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を引き取り熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得るにあたり、引張強力が1N/cm以上の状態として引き取る熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔2〕前記熱可塑性樹脂がアクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド及びポリエステルより選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔3〕前記熱可塑性樹脂がアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、水酸基及び酸無水物基より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む、〔1〕または〔2〕に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔4〕前記炭素繊維ウェブの質量のうち、炭素繊維の割合が80〜100質量%である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔5〕前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引張強力S2との比S1/S2が0.5以下である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔6〕前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与は、炭素繊維ウェブの含水率を10質量%以下に調整したのちに行う、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔7〕前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与を、熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンへの前記炭素繊維ウェブの浸漬法にて行う、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔8〕前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与を熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンへの前記炭素繊維ウェブの浸漬法にて行った後に、過剰分の熱可塑性樹脂を除去する、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔9〕前記炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維の数平均繊維長が1〜50mmである、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔10〕前記炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維のX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔11〕前記炭素繊維ウェブの目付が10〜500g/m2である、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔12〕前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の厚みT1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2との比T1/T2が0.3〜0.8である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔13〕前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2が、3mm以下である、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔14〕前記炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却する工程を、ニップローラ、ダブルベルトプレスまたは間欠プレスに炭素繊維ウェブを通過させることで行う、〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔15〕前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引取速度が、5m/分以上である、〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔16〕前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引き取りは、オンラインで前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を直径300mm以上のロール形状物に連続的に巻き取ることにより行う、〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
〔17〕炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
〔18〕熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)における前記熱可塑性樹脂の結着量の標準偏差が10%以下である、〔17〕に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
〔19〕熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)のせん断強度が0.01MPa以上である、〔17〕または〔18〕に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
〔20〕実質的に炭素繊維が2次元ランダム配向である、〔17〕〜〔19〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
〔21〕〔1〕〜〔20〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを用いる、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用の構造部品又は航空機用部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形品とした場合に力学特性に優れる熱可塑性樹脂結着繊維強化ウェブを効率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法は、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を引き取り熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得るにあたり、引張強力が1N/cm以上の状態として引き取るものである。
【0013】
まず、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与する。
【0014】
炭素繊維ウェブとは、炭素繊維により構成されるウェブである。炭素繊維ウェブの質量のうち、炭素繊維の割合が80〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは90〜100質量%である。上記範囲であることにより、得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを用いてマトリックス樹脂と複合させた場合に、効率的に補強効果を発現することが容易となり好ましい。
【0015】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。このうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0016】
炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0017】
炭素繊維の数平均繊維長は、1〜50mmであることが好ましい。1mm未満であると強化繊維による補強効果を効率良く発揮することが困難となるおそれがあり、50mmを超えると分散を良好に保つのが困難となるおそれがある。炭素繊維の数平均繊維長は、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの一部を切り出し、結着している熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒により、熱可塑性樹脂を充分溶解させる。その後濾過などの公知の操作により熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離する。或いは、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの一部を切り出し、500℃の温度で2時間加熱し、熱可塑性樹脂を焼き飛ばして熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離する。分離された炭素繊維を無作為に400本抽出し、光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にてその長さを10μm単位まで測定し繊維長とする。繊維長より次の式により数平均繊維長を得る。
(式)数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/400
Li:測定した繊維長(i=1,2,3、・・・400)
【0018】
炭素繊維は、そのX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50であるものが好ましく、0.06〜0.3であるものがより好ましく、0.07〜0.2であるものがさらにより好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の極性官能基量を確保し、熱可塑性樹脂組成物との親和性が高くなるので、より強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比が0.5以下であることにより、表面酸化による炭素繊維自身の強度の低下を少なくすることができる。
【0019】
表面酸素濃度比とは、繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比を意味する。表面酸素濃度比をX線光電子分光法により求める場合の手順を、以下に一例を挙げて説明する。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202cVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0020】
表面酸素濃度は、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74として算出し得る。
【0021】
炭素繊維の表面酸素濃度O/Cを0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、電界酸化処理、薬液酸化処理、気相酸化処理などの手法が例示される。中でも電界酸化処理が取り扱いやすく好ましい。
【0022】
電界酸化処理に用いられる電解液としては、以下に挙げる化合物の水溶液が好ましく用いられる。硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化バリウム等の無機水酸化物、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機金属塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の有機塩類、さらにこれらナトリウム塩の代わりにカリウム塩、バリウム塩その他の金属塩、アンモニウム塩、その他にはヒドラジンなどの有機化合物である。これらの中でも電解液としては無機酸が好ましく、硫酸及び硝酸が特に好ましく使用される。電界処理の程度は、電界処理で流れる電気量を設定することにより炭素繊維表面のO/Cを制御することができる。
【0023】
炭素繊維ウェブは、炭素繊維束を分散加工して製造され得る。炭素繊維束は上述の炭素繊維であれば、連続した炭素繊維から構成されるもの、あるいは不連続な炭素繊維から構成されるもののどちらでも良いが、より良好な分散状態を達成するためには、不連続な炭素繊維が好ましく、チョップド炭素繊維がより好ましい。
また、炭素繊維束を構成する単繊維の本数には、特に制限はないが、生産性の観点からは24,000本以上が好ましく、48,000本以上がさらに好ましい。単繊維の本数の上限については特に制限はないが、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、300,000本程度もあれば生産性と分散性、取り扱い性を良好に保つことができる。
【0024】
炭素繊維の分散は、湿式法、或いは乾式法のいずれかによることができる。湿式法とは炭素繊維束を水中で分散させ抄造する方法であり、乾式法とは炭素繊維束を空気中で分散させる方法である。
【0025】
湿式法の場合、炭素繊維束の分散を水中で行い得られるスラリーを抄造して炭素繊維ウェブを得ることができる。
【0026】
炭素繊維束を分散させる水(分散液)は、通常の水道水のほか、蒸留水、精製水等の水を使用することができる。水には必要に応じて界面活性剤を混合し得る。界面活性剤は、陽イオン型、陰イオン型、非イオン型、両性の各種に分類されるが、このうち非イオン性界面活性剤が好ましく用いられ、中でもポリオキシエチレンラウリルエーテルがより好ましく用いられる。界面活性剤を水に混合する場合の界面活性剤の濃度は、通常は0.0001質量%以上0.1質量%以下、好ましくは0.0005質量%以上0.05質量%以下である。
【0027】
水(分散液)に対する炭素繊維束の添加量は、水(分散液)1lに対する量として、通常0.1g以上10g以下、好ましくは0.3g以上5g以下の範囲で調整し得る。前記範囲とすることにより、炭素繊維束が水(分散液)に効率よく分散し、均一に分散したスラリーを短時間で得ることができる。水(分散液)に対し炭素繊維束を分散させる際には、必要に応じて撹拌を行う。
【0028】
スラリーとは固体粒子が分散している懸濁液をいい、本発明においては水系スラリーであることが好ましい。
【0029】
スラリーにおける固形分濃度(スラリー中の炭素繊維の質量含有量)は、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。上記範囲であることにより抄造を効率よく行うことができる。
【0030】
スラリーの抄造は、上記スラリーから水を吸引して行うことができる。スラリーの抄造は、いわゆる抄紙法に倣って行うことができる。一例を挙げて説明すると、底部に抄紙面を有し水を底部から吸引できる槽に、スラリーを流し込み水を吸引して行うことができる。前記槽としては、熊谷理機工業株式会社製、No.2553−I(商品名)、底部に幅200mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備える槽が例示される。このようにして炭素繊維ウェブが得られる。
【0031】
乾式法の場合、炭素繊維束を気相中で分散させて炭素繊維ウェブを得ることができる。すなわち、炭素繊維束を気相中で分散させて、分散後の炭素繊維束を堆積させて、炭素繊維ウェブを得ることができる。
【0032】
炭素繊維束の気相中での分散は、炭素繊維束を非接触式で開繊し開繊した炭素繊維束を堆積させて行う方法(非接触式法)、炭素繊維束に空気流を当てて開繊し、開繊した炭素繊維束を堆積させて行う方法(空気流を用いる方法)、炭素繊維束の気相中での分散を、炭素繊維束を接触式で開繊し、開繊した炭素繊維束を堆積させて行う方法(接触式法)の3種類がある。
【0033】
非接触式法は、炭素繊維束に固体や開繊装置を接触させることなく開繊させる方法である。例えば、空気や不活性ガスなどの気体を強化繊維束に吹き付ける方法、なかでもコスト面で有利な空気を加圧して吹き付ける方法が好ましく挙げられる。
【0034】
空気流を用いる方法において、炭素繊維束に対し空気流を当てる条件は特に限定されない。一例を挙げると、加圧空気(通常0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは0.5MPa以上5MPa以下の圧力がかかるような空気流)を炭素繊維束が開繊するまで当てる。空気流を用いる方法において、使用し得る装置は特に限定されないが、空気管を備え、空気吸引が可能であり、炭素繊維束を収容し得る容器を例示し得る。かかる容器を用いることにより、炭素繊維束の開繊と堆積を一つの容器内で行うことができる。
【0035】
接触式法とは、炭素繊維束に固体や開繊装置を物理的に接触させて開繊させる方法である。接触式法としては、カーディング、ニードルパンチ、ローラー開繊が例示されるが、このうちカーディング、ニードルパンチによることが好ましく、カーディングによることがより好ましい。接触式法の実施条件は特に限定されず、炭素繊維束が開繊する条件を適宜定めることができる。
【0036】
炭素繊維ウェブの目付は、10〜500g/m2であることが好ましく、50〜300g/m2であることがより好ましい。10g/m2未満であると基材の破れなどの取り扱い性に不具合を生じるおそれがあり、500g/m2を超えると、湿式法では基材の乾燥に長時間かかることや、乾式法ではウェブが厚くなる場合があり、その後のプロセスで取り扱い性が難しくなるおそれがある。
【0037】
本発明においては、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与する(熱可塑性樹脂付与工程(バインダー付与工程)、以下、熱可塑性樹脂を「バインダー」と記載することもある)。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、アクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド及びポリエステルが例示される。本発明においてはこれらの例より選ばれる1種、または2種以上が好ましく用いられる。これらの熱可塑性樹脂を用いることにより、強度に優れた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得ることができる。また、熱可塑性樹脂は、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、カルボン酸塩基及び酸無水物基から選ばれる1種又は2種以上の反応性官能基を有することが好ましく、2種以上を有していてもよい。中でも、アミノ基および/またはオキサゾリン基を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0039】
水溶液とは水にほぼ完全に溶解した状態の溶液を意味し、エマルジョンとは完全に溶解しない2つの液体が液中で微細粒子を形成している状態の溶液(乳濁液)を意味し、サスペンジョンとは水に懸濁した状態の溶液(懸濁液)を意味する。液中の成分粒径の大きさは、水溶液<エマルジョン<サスペンジョンの順である。
【0040】
炭素繊維ウェブの含水率は、熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与する前に、予め10質量%以下、好ましくは5質量%以下に調整されることが好ましい。これにより、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂を充分に結着させることができ、強度に優れる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得ることができる。
熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与した後は、後述するように、100℃以上まで加熱して、炭素繊維ウェブの含水率を5質量%以下とすることが重要である。
【0041】
炭素繊維ウェブへの熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与は、これらの水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの形態で行うことが好ましい。付与方式は特に問わないが、例えば熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンに炭素繊維ウェブを浸漬する方式、シャワー式等によることができる。接触後は乾燥工程の前に過剰分の熱可塑性樹脂を例えば吸引または吸収紙などの吸収材へ吸収させるなどして除去しておくことが好ましい。
【0042】
本発明では、炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与した後、100℃以上まで加熱し、炭素繊維ウェブの含水率を5質量%以下として熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得る(乾燥工程)。炭素繊維ウェブの含水率が5質量%以上の場合は、熱可塑性樹脂と複合化させた場合に、水蒸気となってボイド形成などの要因となる。また追加で乾燥させる工程を設ける必要があるなど、生産性の面でも効率が悪くなる。加熱温度は熱可塑性樹脂が付与された炭素繊維ウェブが乾燥する温度を適宜定めることができ、120〜300℃であることが好ましく、150〜250℃であることがより好ましい。
【0043】
本発明において、熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の炭素繊維同士を結着させる(結着工程)。炭素繊維同士を結着させる方法については制限はないが、例えば炭素繊維ウェブを圧縮することが挙げられる。
【0044】
圧縮の条件は特に限定されないが、圧縮をダブルベルトプレスや間欠プレスなどの面による接触でおこなう場合には、面圧0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.05MPa以上5MPa以下であることが特に好ましい。圧縮をロールプレスなどの線による接触でおこなう場合には線圧1kg/cm以上、10000kg/cm以下が好ましく、50kg/cm以上、5000kg/cm以下であることがより好ましく、500kg/cm以上3000kg/cm以下が特に好ましい。
【0045】
圧縮は、熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の熱可塑性樹脂が溶融している状態で行う。溶融している状態とするために、熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)は加熱されることが好ましい。加熱温度は熱可塑性樹脂の種類によるが、50℃以上400℃以下とすることが好ましく、100℃以上300℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
本発明において、前記のように炭素繊維同士が結着された熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブは、続いて冷却される(冷却工程)。冷却温度は100℃以下であるが、0℃以上90℃以下とすることが好ましく、20℃以上80℃以下とすることがより好ましい。
【0047】
炭素繊維同士を結着させ、次いで冷却させる装置は特に問わないが、ニップローラ、ダブルベルトプレスや間欠プレスが用いられ得る。ニップローラを用いる場合、ローラの個数は制限されないが、最初は熱可塑性樹脂の融点または軟化温度以下に温度調整したニップローラを通し、段階的に冷却し、最終的に100℃以下とすることが好ましい。ダブルベルトプレスを用いる場合も同様に、最終的に100℃以下とすることが好ましい。間欠プレスを用いる場合も同様に、最初は熱可塑性樹脂の融点または軟化温度以下に温度調整したプレス機を通し、段階的に冷却し、最終的に100℃以下のプレス機を通すことが好ましい。このようにニップローラ、ダブルベルトプレス、間欠プレスを通過させることで、圧縮・冷却を同時に行うことができる。
【0048】
結着後に得られる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)は引き取られる(引き取り工程)。引き取りはロールに巻き取って行うことができる。引き取りの際の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの引張強力は1N/cm以上である。好ましくは3N/cm以上、さらに好ましくは5N/cm以上である。1N/cm未満であると熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの強度の面で不十分である。引張強力の上限は特に限定されないが、100N/cmもあれば、本発明を十分に満足できる状態である。引張強力は炭素繊維ウェブを幅12.5mm、長さ200mmで切り出して、引張試験することにより測定可能である。炭素繊維ウェブが小さいために上記サイズでの切り出しが困難な場合には、幅と長さの縦横比率を一定にして縮小したサイズの試験片を用いてもよい。
【0049】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)における熱可塑性樹脂の結着量は、炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の量で0.5〜15質量%であることが重要であり、1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。0.5質量%未満であると得られる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の強度が不十分となる。一方15質量%を超えると熱可塑性樹脂が多いために成形品とした際の強度が不十分となったり、熱可塑性樹脂量が多いために熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)が固くなり巻き取りが困難となる。
【0050】
前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の厚みT1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2との比T1/T2は0.3〜0.8であることが好ましく、0.5〜0.7であることがより好ましい。
また最終成形品を薄肉で設計可能なことから、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの引取時の厚みが、3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。この範囲であっても、本発明の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブは優れた強度を呈するものとなる。
【0051】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの引き取りは、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブをオンラインで直径300mm以上のロール形状物に連続的に巻き取ることにより行うことが好ましい。熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを引き取る工程と巻き取る工程とをオンラインで行うことが好ましい。ここで「オンラインで」とは、各工程の間が連続的に実施される方式であり、オフラインの反対語である。すなわちオンラインとは、各工程が一連の流れとして行われるプロセスを意味し、それぞれが独立した状態のプロセスとは異なる。ロール形状の直径を300mm以上に設定することにより熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを座屈させたり、屈曲させることなく巻き取ることができるといった利点がある。
【0052】
引き取り速度は5m/分以上であることが好ましく、10m/分以上であることがより好ましい。引き取り速度の上限は通常は、100m/分以下である。
【0053】
このようにして得られる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)は、優れた強度を有する。強度は引張強度で特定することができ、1N/cm以上である。
また、前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引張強力S2との比S1/S2が0.5以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。S1/S2が0.5よりも大きくなる、つまり熱可塑性樹脂の結着による引張強力向上があまり大きくない場合は好ましくない。また、熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1がもともと大きい場合などは、熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与する前に、予め炭素繊維ウェブに結着成分を付与している場合などが該当するが、その場合、予備的な結着工程が必要となり、工程が煩雑となることが多い。
【0054】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)における前記熱可塑性樹脂の結着量の標準偏差が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の結着量の標準偏差が10%を超えると結着量のバラツキが大きくなり、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの強度に強い部分と弱い部分とが発生し、引取時に弱い部分で熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブが破れてしまうおそれがある。結着量の測定をn=10で実施し、標準偏差を算出することで評価が可能である。結着量の測定は例えば熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの一部を切り出し、質量を測定する(W1)。そのウェブを500℃の温度で2時間加熱し、熱可塑性樹脂を焼き飛ばして熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離する。焼き飛ばし後のウェブの質量を測定しW2)、(W1−W2)/W2×100(%)を計算して行う。
【0055】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブのせん断強度が0.01MPa以上であることが好ましい。より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上である。熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブのせん断強度が上記範囲内であることにより、熱可塑性樹脂が炭素繊維ウェブに均一に結着しており、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの引張強力をより安定にして引き取りやすい。熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブのせん断強度は、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブより15mm×15mmの大きさのウェブを切り出し、図4のようにせん断評価用のサンプルを作成し、引張試験をすることで測定可能である。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブは、実質的に炭素繊維が2次元ランダム配向である。「2次元ランダム配向である」とは、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維単繊維と最も近接する他の炭素繊維単繊維とで形成される二次元配向角の平均値が10〜80°であることを意味する。熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で観察することで、二次元配向角を測定することができる。熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブにおいて、400本の炭素繊維の二次元配向角を測定して平均値をとる。「実質的に」炭素繊維が2次元ランダム配向であるとは、上記400本の炭素繊維のうち通常本数で70%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは全ての炭素繊維が2次元ランダム配向であることを意味する。
【0057】
本発明において得られる熱可塑性樹脂結着炭素ウェブは、さらに熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を複合化するなどして、繊維強化成形基材として用いることができる。繊維強化成形基材は、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用部品、航空機用部品等の各種用途に用いることができ、電子機器部品、自動車用の構造部品により好ましく用いられる。
【実施例】
【0058】
実施例に用いた原料
炭素繊維A1(PAN系炭素繊維)
炭素繊維A1は、下記のようにして製造した。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。この炭素繊維束に硫酸を電解質とした水溶液で、炭素繊維1gあたり3クーロンの電解表面処理を行い、さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 12,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度(注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
サイジング種類 ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量(注3) 1.5質量%
O/C(注4) 0.10
【0059】
炭素繊維A2(PAN系炭素繊維)
炭素繊維A2は、下記のようにして製造した。
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240〜280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 12,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度(注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
サイジング種類 ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量(注3) 0.6質量%
O/C(注4) 0.05
【0060】
バインダーC1(バインダー成分)
バインダーC1は、日本触媒(株)製“ポリメント”(登録商標)SK−1000を用いた。その物性は下記の通りである。
・アミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体
・アミン水素当量650g/eq
・軟化温度160℃
【0061】
C2:バインダー成分
バインダーC2は、日本触媒(株)製“エポクロス”(登録商標)WS−700を用いた。その物性は下記の通りである。
・オキサゾリン基含有単量体とスチレンとの共重合体
・オキサゾリン当量220g/eq
・軟化温度160℃
【0062】
C3:バインダー成分
バインダーC3は、ポリオキシエチレンの両末端OHエステル封鎖物(分子量2000)を用いた。このバインダー成分は25℃で液状である。
【0063】
・酸変性ポリプロピレン樹脂フィルム
三井化学(株)製の酸変性ポリプロピレン樹脂“アドマー”(登録商標)QE510を温度200℃、圧力20MPaで1分間プレス成形し、厚み50μmの酸変性ポリプロピレン樹脂フィルムFを作製した。
【0064】
(注1)引張強度、(注2)引張弾性率の測定条件
日本工業規格(JIS)−R−7601「樹脂含浸ストランド試験法」に記載された手法により、求めた。ただし、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、“BAKELITE”(登録商標)ERL4221(100質量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3質量部)/アセトン(4質量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて形成した。また、ストランドの測定本数は、6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
【0065】
(注3)サイジング剤の付着量の測定条件
試料として、サイジング剤が付着している炭素繊維約5gを採取し、耐熱性の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥した。吸湿しないようにデシケーター中で注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW1(g)とした。続いて、容器ごと、窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、同様にデシケーター中で吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次の式により求めた。
(式)付着量(質量%)=100×{(W1−W2)/W2
なお、測定は3回行い、その平均値を付着量として採用した。
【0066】
(注4)O/Cの測定条件
X線光電子分光法により次の手順に従って求めた。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着物などを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた。X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202cVに合わせた。C1sピーク面積を、K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。O1sピーク面積を、K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。
【0067】
表面酸素濃度を、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0068】
各実施例で得られる炭素繊維ウェブの評価基準は次の通りである。
・引張強力
炭素繊維ウェブを幅12.5mm、長さ200mm、厚み0.1〜0.3mmの範囲内の部位で切り出して、速度1.6mm/分の引張速度で引張試験し、炭素繊維ウェブの破断時の荷重を幅12.5mmで除して、引張強力(N/cm)を測定した。測定はn=10でおこない、その平均値を引張強力とした。
【0069】
・熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1と、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引張強力S2との比S1/S2
炭素繊維ウェブ(A)および(B)を幅12.5mm、長さ200mm、厚み0.1〜0.3mmの範囲内の部位で切り出して、速度1.6mm/分の引張速度で引張試験し、炭素繊維ウェブの破断時の荷重を幅12.5mmで除して、引張強力S1およびS2(N/cm)を測定した。測定はn=10でおこない、その平均値を引張強力とした。得られたS1およびS2より、比S1/S2を算出した。
【0070】
・熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2
炭素繊維ウェブ(B)の断面を光学顕微鏡で観察し、その観察画像より厚みを求めた。測定はn=10でおこない、その平均値を厚みとした。
【0071】
・熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の厚みT1と、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2との比T1/T2
炭素繊維ウェブ(A)および(B)の断面を光学顕微鏡で観察し、その観察画像より厚みT1およびT2を求めた。測定はn=10でおこない、その平均値を厚みとした。得られたT1およびT2より、比T1/T2を算出した。
【0072】
・バインダーの結着量の標準偏差
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブから50mm×50mmの正方形状にウェブを切り取り、質量を測定した(W1)。そのウェブを500℃の温度で2時間加熱し、熱可塑性樹脂を焼き飛ばして熱可塑性樹脂から炭素繊維を分離した。焼き飛ばし後のウェブの質量を測定し(W2)、(W1−W2)/W2×100(%)を計算してバインダーの結着量を評価した。測定はn=10でおこない、その値を用いて標準偏差を算出した。
【0073】
・熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブのせん断強度の評価
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの幅方向の左右端部20mmまでを除く部位において、15mm×15mmの正方形状にウェブを切り取り、図4に示すように長さ100mm×幅15mm×厚み2mmのアルミニウム板の端に両面テープ(ニチバン(株)製NW−K15)を用いて、炭素繊維ウェブを貼り付けた。作製した試験片を速度1.6mm/分の引張速度で引張試験し、炭素繊維ウェブの破断時の荷重を炭素繊維ウェブの面積(225mm2)で除して、せん断強度(MPa)を測定した。せん断強度が0.1MPa以上を○、0.01MPa以上0.1MPa未満を△、0.01MPa未満を×とした。測定はn=10でおこない、その平均値をせん断強度とした。
【0074】
・炭素繊維の配向
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを光学顕微鏡で観察し、炭素繊維単繊維とそれに近接する炭素繊維単繊維のなす配向角を観察画像より求めた。これを炭素繊維単繊維400本となるまで繰り返した。配向角が10〜80°となる炭素繊維の本数が70%未満を△、70%以上95%未満を○、95%以上を二重丸とした。
【0075】
・成形品力学特性の評価
得られた炭素繊維ウェブを200mm×200mmに切り出して、120℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素繊維ウェブと、酸変性ポリプロピレン樹脂フィルムFを、樹脂フィルムF/炭素繊維ウェブ/樹脂フィルムFとなるように3層積層した。この積層物を温度200℃、圧力30MPaで5分間プレス成形し、圧力を保持したまま50℃まで冷却して厚み0.12mmの炭素繊維強化樹脂シートを作製した。この樹脂シートを8枚積層し、温度200℃、圧力30MPaで5分間プレス成形し、圧力を保持したまま50℃まで冷却して厚み1.0mmの炭素繊維強化樹脂成形品を得た。得られた成形品を用いて、ISO178法(1993)に従い、曲げ強度をn=10で評価した。なお、曲げ強度の評価結果は実施例1を100として相対値で記載した。
【0076】
・総合評価
炭素繊維ウェブを5m/分で引き取るプロセスで作製し、作製可能であったものを○、作製可能であったがプロセスの確認と調整が多少必要であったものを△、作製できなかったものを×で評価した。
【0077】
(実施例1)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
図1の抄紙基材の製造装置01を用いて、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを製造した。製造装置01は、底部に幅200mmの抄紙面19を有するメッシュコンベア21を備える抄紙槽12、容器下部に開口コック28を備え、抄紙槽12の上に開口するバインダー輸送部27を備えるバインダー槽26、メッシュコンベア21上の炭素繊維ウェブ20を乾燥するための乾燥機38、メッシュコンベア21で運搬された炭素繊維ウェブ20を水平導入しかつ加圧・冷却可能な一対のニップロール39、及び得られる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ40を連続的に巻き取り可能な巻き取りロール33(直径300mm)を備える。
【0078】
A1(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A1−1)を得た。
【0079】
水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作成した。分散槽内へ、前記分散液とチョップド炭素繊維(A1−1)との投入を開始した。製造中、分散槽中のスラリー中の炭素繊維濃度が一定濃度になるように、かつ、分散槽内のスラリーの液面の高さH1が一定となるように投入量を調整しながら連続的に上記分散液とチョップド炭素繊維の投入を継続した。容器への原料の投入開始とともに撹拌を開始し、スラリーを調製した。スラリーが40リットル溜まった時点で容器下部の開口コックを開放調整し、スラリー液面の高さH1を一定に保ちながら、輸送部を介して抄紙槽に流し込んだ。このとき、分散槽内のスラリー液面の高さH1は抄紙槽内のスラリー液面H2よりも50cmだけ高い位置にあった。該スラリーから水を吸引して、5m/分の速度で引き取り、幅200mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを連続的に得た。炭素繊維ウェブの目付は60g/m2であった。
【0080】
バインダー槽の開口コックを開放して、コンベア上を流れてくる炭素繊維ウェブの上面部にバインダー液としてC1の1質量%の水分散液(エマルジョン)を200g散布した。余剰分のバインダー液を吸引してバインダー成分C1を付与した炭素繊維ウェブを得た。該炭素繊維ウェブを200℃の長さ5mの乾燥炉に通して乾燥したのち、50℃で10MPaのニップロール1対を通過させ、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0081】
(実施例2)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、バインダー成分の種類をC1からC2に変えたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0082】
(実施例3)乾式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
図3の装置03を用いて炭素繊維ウェブを製造した。製造装置03は、分散−抄紙槽34としての、底面に抄紙面19を有し、空気吸引が可能な加圧空気管29を備える縦400mm×横400mm×高さ400mmの容器を備える。また、開口コック28を備え、抄紙槽12の上に開口するバインダー輸送部27を備えるバインダー槽26を備える。バインダー輸送部27は可動であり、分散−抄紙槽34内の炭素繊維ウェブ20上に均一にバインダー散布可能である。分散−抄紙槽34の底部は長さ400mm×幅400mmの抄紙面(メッシュシート製)19を有し、抄紙面19上に炭素繊維ウェブ20が得られる。
【0083】
A2(炭素繊維)をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A2−1)を得た。
【0084】
分散−抄紙室にチョップド炭素繊維(A2−1)9.6gを投入し、チョップド炭素繊維に加圧空気(1MPa)を吹き付けて開繊させたのちに、底面より空気を吸引して開繊した炭素繊維を底面に堆積させ、長さ400mm、幅400mmの炭素繊維ウェブを得た。次いで該炭素繊維ウェブの上面部より、バインダー槽の開口コックを開放して、バインダー液としてC1の1質量%の水分散液を200g散布した。余剰分のバインダー液を吸引してバインダー成分を付与した炭素繊維ウェブを得た。該炭素繊維ウェブを取り出し、150℃で20分間乾燥して炭素繊維ウェブを得た。炭素繊維ウェブの目付は60g/m2であった。
この炭素繊維ウェブを200℃の長さ5mの乾燥炉に通して乾燥したのち、50℃で10MPaのニップロール1対を通過させ、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0085】
(実施例4)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、バインダーの付着量を1.5質量%に低下させ、引取速度を3m/分としたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0086】
(実施例5)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、バインダーの付着量を3質量%に低下させたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0087】
(実施例6)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、熱可塑性樹脂結着装置01の代わりに熱可塑性樹脂結着装置02を用いたこと、加熱温度を150℃/50℃としたことのほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.15mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
熱可塑性樹脂結着装置02は、図2に示すとおりであり、1対のニップロールの代わりにダブルベルトプレス31を備えるほかは、熱可塑性樹脂結着装置01と同様である。
【0088】
(実施例7)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、炭素繊維A1の代わりに炭素繊維A2を用いたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0089】
(実施例8)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、結着工程の加圧を線圧300kg/cmとしたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.25mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0090】
(実施例9)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、バインダーの付与方法として炭素繊維ウェブをバインダー液に浸漬しておこなったほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0091】
(実施例10)湿式プロセスにより得られる炭素繊維ウェブからの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造
実施例1において、巻き取りロール33の直径が50mmのものを用いたほかは、実施例1と同様に処理を行い、厚み0.2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0092】
(比較例1)
実施例1においてバインダーを付与しなかった他は実施例1と同様に処理を行い、厚み2mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0093】
(比較例2)
実施例1においてニップロールによる圧縮を行わなかった他は実施例1と同様に処理を行い、厚み5mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0094】
(比較例3)
実施例1においてバインダー成分としてC3を用いた他は、実施例1と同様に処理を行い、厚み5mmの熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得た。製造条件および得られた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から明らかなように、実施例1〜10ではいずれもバインダーの結着状態に優れ、高い引張強力を有し、成形品とした場合に成形品の力学特性に優れる熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得ることができた。炭素繊維が乾式プロセス及び湿式プロセスのいずれによって得られるかによっては、ほとんど差がなく優れたウェブが得られた(実施例1及び3参照)。また、ダブルベルトプレスを用いる場合にも、1対のニップロールを用いる場合にも、優れたウェブが得られた(実施例1及び実施例6参照)。バインダーの付与方法がシャワー式か浸漬式かにかかわらず同様の優れた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得ることができた(実施例1,8参照)。また、巻き取りロールの径の大きさにも関係なく、同様の優れた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得ることができた(実施例1、10参照)。
炭素繊維ウェブへのバインダーの結着量が高いほど、引き取りを高速で行うことができ、引張強度も向上することが明らかとなった(実施例1および4参照)。
【0097】
熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の圧縮の際の圧力が低いと、前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の厚みT1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2との比T1/T2や前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引張強力S2との比S1/S2が高くなる傾向にあり、ウェブのせん断強度が低下する傾向にあったが、炭素繊維の配向や成形品の力学特性には問題がなかった。
【0098】
O/Cが高い繊維を用いることにより、熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの成形品の力学特性をより高めることができることが明らかとなった(実施例1,7参照)。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造装置の一例を示す水平断面図である。
【図2】熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造装置の一例を示す水平断面図である。
【図3】熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造装置の一例を示す水平断面図である。
【図4】熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブのせん断強度の評価における測定時の状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0100】
01,02,03 抄紙基材の製造装置
11 分散槽
12 抄紙槽
13 輸送部
14 輸送部と分散槽との接続部
16 撹拌機
17 チョップド炭素繊維(炭素繊維束)
18 分散液(分散媒体)
19 抄紙面
20 炭素繊維ウェブ(抄紙基材)
21 メッシュコンベア
22 コンベア
26 バインダー槽
27 バインダー輸送部
28 開口コック
31 ダブルベルトプレス
32 繊維強化成形基材
33 巻き取りロール
34 分散−抄紙槽
35 マトリックス樹脂
36,37 ロール
38 乾燥機
39 ニップロール
40 熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を引き取り熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを得るにあたり、引張強力が1N/cm以上の状態として引き取る熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系重合体、ビニル系重合体、ポリウレタン、ポリアミド及びポリエステルより選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基、水酸基及び酸無水物基より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項4】
前記炭素繊維ウェブの質量のうち、炭素繊維の割合が80〜100質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の引張強力S1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引張強力S2との比S1/S2が0.5以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項6】
前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与は、炭素繊維ウェブの含水率を10質量%以下に調整したのちに行う、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項7】
前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与を、熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンへの前記炭素繊維ウェブの浸漬法にて行う、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項8】
前記炭素繊維ウェブに対する熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンの付与を熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンへの前記炭素繊維ウェブの浸漬法にて行った後に、過剰分の熱可塑性樹脂を除去する、請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項9】
前記炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維の数平均繊維長が1〜50mmである、請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項10】
前記炭素繊維ウェブを構成する炭素繊維のX線光電子分光法により測定される表面酸素濃度比O/Cが0.05〜0.50である、請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項11】
前記炭素繊維ウェブの目付が10〜500g/m2である、請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)の厚みT1と、前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2との比T1/T2が0.3〜0.8である、請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の厚みT2が、3mm以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項14】
前記炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却する工程を、ニップローラ、ダブルベルトプレスまたは間欠プレスに炭素繊維ウェブを通過させることで行う、請求項1〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引取速度が、5m/分以上である、請求項1〜14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)の引き取りは、オンラインで前記熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)を直径300mm以上のロール形状物に連続的に巻き取ることにより行う、請求項1〜15のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブの製造方法。
【請求項17】
炭素繊維ウェブに熱可塑性樹脂の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを付与し、100℃以上まで加熱して、含水率を5質量%以下とした熱可塑性樹脂付着炭素繊維ウェブ(A)を得て、次いで前記熱可塑性樹脂を溶融させ、炭素繊維同士を結着させ、そののちに100℃以下まで冷却して、熱可塑性樹脂を0.5〜15質量%結着させた熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
【請求項18】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)における前記熱可塑性樹脂の結着量の標準偏差が10%以下である、請求項17に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
【請求項19】
熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ(B)のせん断強度が0.01MPa以上である、請求項17または18に記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
【請求項20】
実質的に炭素繊維が2次元ランダム配向である、請求項17〜19のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブ。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の熱可塑性樹脂結着炭素繊維ウェブを用いる、電気・電子機器部品、土木・建築用部品、自動車・二輪車用の構造部品又は航空機用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37667(P2010−37667A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198459(P2008−198459)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】