説明

炭素繊維チョップドストランド及びその製造法

【課題】大量生産に対応するための大型梱包を実現し、ホッパーから押出機への安定供給性と分散性を同時に満足することのできる炭素繊維チョップドストランド、及び、その製造法を提供すること。
【解決手段】チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本の炭素繊維チョップドストランドであって、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランド。チョップドストランドの繊維長(L)とチョップドストランドの短径(Dmin)の比(L/Dmin)が4以下であるものが好ましく、サイズ剤としてポリアミド樹脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を含有する樹脂ペレット等を作成する際に、押出機のホッパーへ大量に投入し、計量器に安定して供給するのに適した炭素繊維チョップドストランド及びその製造法に関するものである。さらに詳しくは、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした短炭素繊維強化プラスチックの製造に適した、取り扱い性に優れ、且つ、マトリックス樹脂中における分散性に優れた炭素繊維チョップドストランド及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする短炭素繊維強化熱可塑性樹脂(以下「CFRTP」と記す)は、射出成形が可能であって生産性が高く、且つ、従来の未強化熱可塑性樹脂や短ガラス繊維強化熱可塑性樹脂と比較して機械特性・摺動特性・電気特性・寸法安定性などが優れているため、高性能なエンジニアリング材料として注目され、その需要が急激に増加している。
【0003】
通常、このCFRTPを得るには、3〜10mmに切断され、サイズ剤で集束された炭素繊維フィラメント束、所謂炭素繊維チョップドストランド、或いは1mm以下に粉砕された、所謂炭素繊維ミルドファイバーを、熱可塑性樹脂のペレット又はパウダーとともに押出機に供給し溶融混練してペレット化した後、射出成形機或いは押出成形機で形成する方法が採用されている。
【0004】
そして、押出機に炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂を供給する方法として、主に次の2通りの方法が採用されている。
(1)炭素繊維チョップドストランドと熱可塑性樹脂をドライブレンドして、その混合物を押出機に供給する方法(ドライブレンド法)。
(2)熱可塑性樹脂を先ず押出機に供給し、次いで、熱可塑性樹脂の溶融した部分に炭素繊維チョップドストランドを供給する方法(サイドフィード法)。
【0005】
広く知られているように、CFRTPの各種特性は、炭素繊維の繊維長に関係する。繊維長がきわめて短いミルドファイバーを用いると、成形されたCFRTP中の繊維長が短くなるため、その各種特性は炭素繊維チョップドストランドに比して劣る。また、CFRTP中の繊維長を長く保たせるため、カット長と同じ繊維長を有する長繊維ペレットを用いる場合があるが、成型物の繊維配向制御が難しく量産の安価なCFRTPには不向きである。そのため、一般的には、炭素繊維チョップドストランドが用いられる。
【0006】
この際、炭素繊維チョップドストランドの流動性が低いと、押出機への安定供給性に問題がある。即ち、ドライブレンド法では、使用する炭素繊維チョップドストランドの流動性が低すぎると、炭素繊維チョップドストランドは、押出機や射出成形機のホッパー内で切り出しが不安定となり、定量的に供給されなくなる。その結果、均一な樹脂組成物を定常的に得るのが困難になり、また、作業効率も低下する。一方、サイドフィード法でも、同様に、炭素繊維チョップドストランドの流動性が低いと、炭素繊維チョップドストランドの定量供給が不可能となり、また、場合によっては、炭素繊維チョップドストランドの供給自体が不可能となる。
【0007】
これらのことから、工業的に大量に使用される炭素繊維チョップドストランドに対しては流動性が高いことが要求される。この要求にこたえるため、炭素繊維に集束性の高いサイズ剤を付与したり、サイズ剤を多く付与したりする方法や、カット後に別のサイズ剤を与え米粒状に成形したりすることが行われているが、これらのサイズ剤成分が多いと、チョップドストランドを加工温度の高い耐熱性熱可塑性樹脂に用いた場合、加工時に炭素繊維に付与したサイズ剤成分が熱分解してガスが発生し、成形物の外観不良やウェルド強さの低下などの問題も生じる(例えば、特許文献1、2参照)。さらには、サイズ剤成分の熱分解が、成形物の物性低下の要因になりやすいという問題点もある。また、炭素繊維に付与したサイズ剤成分により、熱可塑性樹脂との溶融混練時の炭素繊維の分散性が低下し、分散されなかった繊維の束が応力集中源になりCFRTPの機械特性(特に引っ張り強度)が低下する。
【0008】
一方、成形物中において炭素繊維が一本一本に分散せず、束状にて存在するようになることを避けるため、炭素繊維チョップドストランドの形態を扁平にする提案もある。しかし扁平形態のチョップドストランドを用いると、炭素繊維チョップドストランドを大量に使用する場合、チョップドストランド同士の接点が多くなり流動性が低下して計量器への供給不良や押出機への供給不良を招く。さらに、押出機内の滞留時間が長くなり、スクリューでの剪断を多く受けるようになるため、炭素繊維一本一本が折れて結果として繊維長が短くなるため、成形物の機械特性が低下する。
【0009】
以上の通り、炭素繊維チョップドストランドにおいて、炭素繊維の分散性や成形物の物性を低下させずに、チョップドストランドの流動性を高め、大量のチョップドストランドをホッパーから押出機へ安定供給することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−165849号公報
【特許文献2】特開2004−149725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、大量生産に対応するための大型梱包を実現し、ホッパーから押出機への安定供給性と分散性を同時に満足することのできる炭素繊維チョップドストランド、及び、その製造法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の本発明の各態様によって達成される。
【0013】
〔1〕チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本の炭素繊維チョップドストランドであって、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランド。
〔2〕チョップドストランドの繊維長(L)とチョップドストランドの短径(Dmin)の比(L/Dmin)が4以下である〔1〕に記載の炭素繊維チョップドストランド。
〔3〕サイズ剤としてポリアミド樹脂が付着した〔1〕又は〔2〕に記載の炭素繊維チョップドストランド。
〔4〕ストランドを構成するフィラメントの本数が30,000〜120,000本の撚りのない炭素繊維ストランドに0.5〜50個/mの撚りをかけた後、サイズ剤浴に導入した後乾燥し1〜10重量%のサイズ剤を付与して集束し、次いで、切断することを特徴とする集束された炭素繊維チョップドストランドの製造法。
〔5〕サイズ剤としてポリアミド樹脂を用い、サイズ剤浴のサイズ剤濃度0.5〜30重量%とすることを特徴とする〔4〕に記載の炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
〔6〕チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1〜2であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドの集合体であって、集合体に含まれる炭素繊維チョップドストランドの束残存率が70%以上である炭素繊維チョップドストランドの集合体。
〔7〕チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1〜2であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドをフレキシブルコンテナバックに梱包した梱包体であって、梱包体に含まれる炭素繊維チョップドストランドの束残存率が70%以上である炭素繊維チョップドストランドの梱包体。
〔8〕炭素繊維と熱可塑性樹脂からなるペレットの製造方法であって、炭素繊維チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1〜2であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドを、フレキシブルコンテナバックから直接ホッパーに投入することを特徴とするペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の集束された炭素繊維チョップドストランドは、集束性に優れ、分散性が良好な上、ホッパーでの流動性に優れるため、押出機ホッパーからの安定供給性がよく、計量器でのトラブルも少ないため、このものを強化材として用いると、品質の安定した成形材料が得られる。また、該チョップドストランドは、押出機内に滞留する時間を短縮でき、押出機内での分散性が良好なため、押出しストランドの切れが少ないので生産性が大幅に向上し、且つ、分散性が良好で混練されやすいので、繊維が過度に破損することが少なく繊維長の長い成形材料を得ることができる。その結果、この成形材料を使用すると、機械特性の優れた成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による炭素繊維チョップドストランドは、比較的少ないサイズ剤量で、高い流動性、即ち安定供給性と、分散性とを兼ね備えた炭素繊維チョップドストランドである。本発明の炭素繊維チョップドストランドは以下の方法によって得られる。
【0016】
本発明において用いられる炭素繊維は、撚り掛けが可能なフィラメント状のポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系又はピッチ系等の各炭素繊維(黒鉛繊維を含む)や、これらの繊維に金属コーテイングした金属被膜を有する炭素繊維等である。これらの炭素繊維は既知の方法で製造され、ストランドの構成本数としては30,000〜120,000本の単繊維の束が適当である。単位長さ当たりの重量は、0.8〜8.0g/mが適当である。構成本数が30,000本に満たないものは、使用可能ではあるが、現状の炭素繊維製造法では、そのコストが、ストランドの構成本数とストランドを構成する単繊維の直径に依存することからコスト高になり、さらに廉価を要求される短炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成材料の強化材としては経済上好ましくない。また、構成本数が120,000本を超えるものは、サイズ剤の付与の際に、サイズ剤が中まで浸透せず集束性が悪化し、また、チョップドストランドの裁断時に、ストランドが割れやすくなるため好ましくない。更に、溶融混練時の均一性が低下する傾向を示すため、好ましくない。
【0017】
本発明において用いられるサイズ剤は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の何れでもよく、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フエノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスチルピリジン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、エポキシ変性ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂又はこれらの変性樹脂の単体若しくは混合物等が使用できるが、中でもポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。
【0018】
本発明において、サイズ剤量は1〜10重量%であることが必要である。特に、好ましくは3〜8重量%である。サイズ剤量が1重量%より低いと、炭素繊維チョップドストランドの集束性が低く、安定供給性に欠ける。逆に、10重量%より高いと、分散性に欠け、機械特性も低下し、また、熱分解により発生する分解ガスの量が多くなる。更に、チョップドストランドの裁断時に裁断しにくくなるため、ストランドの断面が円形になりにくくなるので好ましくない。
【0019】
サイズ剤溶液の溶剤は、サイズ剤の種類に応じて、水、エチルアルコール、メチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などや、キシレン、ジクロロメタン、N‐メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエンなど、及び、これらの混合系から適宜選択して用いられる。この時用いるサイズ剤溶液のサイズ剤濃度は0.5〜30重量%であることが好ましい。
【0020】
本発明の炭素繊維チョップドストランドの製造法において使用される炭素繊維束には、0.5〜50個/mの撚りをかけることが好ましい。撚り数が0.5個/m未満の場合は、得られるチョップドストランドの形状が、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が大きな扁平な形状の炭素繊維チョップドストランドとなるため、流動性が低下する。逆に、撚り数が50個/m超の場合は、繊維束内部にサイズ剤が含浸しにくくなるため、カットしたとき内部の未含浸の炭素繊維が飛び出して、綿状の塊を形成し流動性が低下する。0.5〜50個/mの撚りを有する炭素繊維束は、予めプリカーサー(炭素繊維前駆体)に撚りを与えた後、通常の方法によって焼成炭素化するか、無撚りのプリカーサーを焼成炭素化した後、加撚することで得られるが、炭素化後に加撚することが好ましい。炭素化後に加撚する場合には、無撚りの炭素繊維にサイズ剤を付与した後に加撚してもよく、また、サイズ剤を付与せずに加撚してもよいが、加撚後にサイズ剤を付与することが好ましい。かかる炭素繊維束を3〜10mmに切断することで、炭素繊維チョップドストランドを得ることができる。
【0021】
本発明の炭素繊維チョプドストランドは、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8である。この比が1.8を超えると、ストランド同士の接点が多くなり、流動性が低下するため好ましくない。また、本発明のチョップドストランドの繊維長(L)とチョップドストランドの短径(Dmin)の比(L/Dmin)は、4以下であることが好ましい。この比が4を超えるとストランド同士の接点が多くなり、流動性が低下するため好ましくない。
【0022】
炭素繊維チョップドストランドの流動性は、その安息角によって評価される。安息角は後述の方法により測定されるが、その値が低いほど流動性が高いと評価される。流動性のよいチョップドストランドとしての安息角は、30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。安息角が30°を超えると、押出機への供給安定性が低下するため好ましくない。安息角が10°以下であると、流動性が高すぎ、かえって取り扱いが困難になるため好ましくない。
【0023】
炭素繊維チョップドストランドの嵩密度は、一定体積(1L)あたりの炭素繊維の重さを表し、200g/L以上が望ましい。一般的に、150g/L以下であると、チョップ1粒にかかる重力よりチョップ表面で接する別のチョップとの摩擦抵抗が大きくなり、ホッパーから動かない部分が発生する。
【0024】
フリーファイバー発生率は、3%以下が望ましい。5%以上になると輸送中やホッパーから供給中にチョップドストランドの形態が維持できず開繊する繊維が多くなり、綿状の塊を発生させ流動性の低下を引き起こす。
【0025】
本発明のチョップドストランドは、集合体として梱包され、ペレットの製造工程に供される。この際、集合体もしくは梱包体を構成するチョップドストランドの束残存率は50%以上が好ましく、70%以上であることが特に好ましい。束残存率が50%より低いとストランド同士の接点が増えるため好ましくない。
【0026】
チョップドストランドの梱包方法は、公知の方法を用いることができるが、中でもフレキシブルコンテナバックを用いることが好ましい。フレキシブルコンテナバックとは、粉末状物や粒状物を保管・運搬するための袋状の包材のことである。用いるフレキシブルコンテナバッグは市販のものを適時使用できるが、下部が開閉可能なタイプのものが、ホッパーへの投入操作がしやすいため好ましい。
【0027】
以上の方法を用いることで、本発明の集束された炭素繊維チョップドストランドを得ることができる。この炭素繊維チョップドストランドは、集束性に優れ、分散性が良好な上、ホッパーでの流動性に優れるため、押出機ホッパーからの安定供給性がよく、計量器でのトラブルも少ないため、このものを強化材として用いると、品質の安定した樹脂組成物が得られる。また、該チョップドストランドは、押出機内に滞留する時間を短縮でき、押出機内での分散性が良好なため、押出しストランドの切れが少ないので生産性が大幅に向上し、且つ、分散性がよく混練しやすいため、繊維が過度に破損することが少なく繊維長の長い成形材料を得ることができる。その結果、この成形材料を使用すると、機械特性の優れた成形物が得られる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。本発明におけるサイズ剤の定量は、以下の方法に記載する所謂硫酸分解法によって行なわれる。
【0029】
(硫酸分解法)
200mlのコニカルビーカー中に、炭素繊維チョップドストランドを2g(W1)精秤し、濃硫酸100mlを加え、時計皿で蓋をし、約200℃で1時間加熱してサイズ剤を熱分解する。冷却後、過酸化水素水溶液を、溶液が透明になるまで少量づつ加える。しかる後、前もつて精秤したガラスフィールター(W2)を用いて炭素繊維を濾別し、約1000mlの水で洗浄した後、炭素繊維の入ったガラスフィールターを110±3℃で2時間乾燥し、乾燥後の重量(W3)を精秤する。
【0030】
次式によって、サイズ剤付着量を求める。
サイズ剤付着量(重量%)=(W1−(W3-W2))×100/W1
本発明における緻密度の測定は、下記の方法によって行なわれる。
【0031】
(束の残存率)
任意のチョップドストランドを1グラム測り取り、測り取ったチョップドストランドの粒の個数と、カットする前の構成本数を保っているチョップドストランドの粒の個数を計測し、構成本数を保っている粒の比率を算出した。
【0032】
(嵩密度)
2Lのメスシリンダーに、300gのチョップドストランドを充填し、軽く衝撃を与えてチョップドストランドの体積に変化が無くなったときの体積を求め、この体積とチョップドストランドの質量とから嵩密度を算出した。
【0033】
(安息角の測定方法)
40gの炭素繊維チョップドストランドを、下部の口径が18mmの漏斗につめ、100mmの高さから床面に自由落下させた。床面に降り積もったチョップドストランドの高さ(h)と落下範囲の半径(r)を計測した。床面とチョップドストランドの山の斜面のなす角度を安息角θとし、下記式を用いて算出した。
tanθ=h/r
【0034】
[実施例1〜6及び比較例1〜4]
撚りがないフィラメント数48,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-48K〕を加撚し、それぞれ表1に記載の撚り数の炭素繊維束とした。これらの炭素繊維を4m/分の処理速度で、連続的にナイロン樹脂〔DIC(株)製
ラッカマイド5003〕のメタノール溶液からなるサイズ剤浴に導入して集束処理を施し、幅3mm深さ2mmの溝付きローラーを通し繊維の形態を規制した状態で乾燥(140℃)後、6mmの長さにカットして、炭素繊維チョップドストランドを得た。この際、サイズ剤浴液の濃度を調整して、炭素繊維チョップドストランドのサイズ剤量を表1の値とした。先に述べた方法によって、これらの炭素繊維チョップドストランドの安息角をそれぞれ測定した。その結果を表1に示した。
【0035】
[実施例7]
炭素繊維として撚りがないフィラメント数12,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-12K〕を3本合わせて、フィラメント数36,000本の炭素繊維として加撚した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維チョップドストランドを得た。その結果を表1に示す。
【0036】
[実施例8]
炭素繊維として撚りがないフィラメント数48,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-48K〕を2本合わせて、フィラメント数96,000本の炭素繊維として加撚した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維チョップドストランドを得た。その結果を表1に示す。
【0037】
[実施例9]
炭素繊維として撚りがないフィラメント数24,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-24K〕を5本合わせて、フィラメント数120,000本の炭素繊維として加撚した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維チョップドストランドを得た。その結果を表1に示す。
【0038】
[比較例5]
炭素繊維として撚りがないフィラメント数12,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-12K〕を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維チョップドストランドを得た。その結果を表1に示す。
【0039】
[比較例6]
炭素繊維として撚りがないフィラメント数48,000本のPAN系炭素繊維束〔東邦テナックス(株)テナックスSTS40-48K〕を5本合わせて、フィラメント数240,000本の炭素繊維として実施例1と同様の条件で加撚し炭素繊維チョップドストランドの製造を行った。しかし、フィラメント数が多すぎ、サイズ付与工程、ストランドの切断工程が不安定となり、目的のチョップドストランドを得ることはできなかった。
【0040】
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた炭素繊維チョップドストランドを、下部が開閉可能なフレキシブルコンテナバッグに梱包し、ペレット製造工程に供した。即ち、梱包体をクレーンで吊り上げ、フレキシブルコンテナバッグの下部を開閉操作して、押し出し機のホッパーに、一度に大量の炭素繊維チョップドストランドを供給した。
【0041】
実施例1〜9で得られた炭素繊維チョップドストランドを用いた場合では、いずれも安息角が30°以下と低いため、流動性に優れ、大量にホッパーに投入しても毛羽詰まりを起こすことなく、安定に計量器に供給された。一方、比較例1で得られた炭素繊維チョップドストランドは、炭素繊維を加撚していないため、Dmax/Dminの値が大きく、ストランドの断面が比較的扁平であり、ストランド同士の接触面積が増え、安息角が34°と流動性の低いものであった。そのため、ホッパーで毛羽詰まりが起こり、安定に計量器に供給することができなかった。比較例2で得られた炭素繊維チョップドストランドは、撚り数が100個/mと多すぎ、ストランド内部までサイズ剤が浸透しなかったため、かえってストランドがまとまらず、Dmax/Dmin の値が大きくなり、束残存率も低いものであった。そのため、安息角が45°と流動性の低いものであり、ホッパーで毛羽詰まりが起こり、安定に計量器に供給することができなかった。比較例3で得られた炭素繊維チョップドストランドは、サイズ剤の付着量が0.5%と低かったため、繊維が集束しておらず、Dmax/Dmin の値が大きくなり、束残存率も低いものであった。そのため、安息角が53°と流動性の低いものであったため、ホッパーで毛羽詰まりが起こり、安定に計量器に供給することができなかった。比較例4で得られた炭素繊維チョップドストランドは、サイズ付着量が14.2%と高かったため、ストランド表面が滑らかにならず、安息角が36°と流動性の低いものであった。そのため、ホッパーで毛羽詰まりが起こり、安定に計量器に供給することができなかった。また、混練中の分散性も悪く、良質なペレットは得られなかった。比較例5で得られた炭素繊維チョップドストランドは、用いた炭素繊維のフィラメント数が12,000本と少なかったため、得られた断面の径が小さくなった。そのため、繊維長と短径(Dmin)の比が6.32と大きくなり、得られる安息角は30°を越え流動性が低下した。そのため、ホッパーで毛羽詰まりが起こり、安定に計量器に供給することができなかった。
【0042】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本の炭素繊維チョップドストランドであって、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランド。
【請求項2】
チョップドストランドの繊維長(L)とチョップドストランドの短径(Dmin)の比(L/Dmin)が4以下である請求項1に記載の炭素繊維チョップドストランド。
【請求項3】
サイズ剤としてポリアミド樹脂が付着した請求項1又は2に記載の炭素繊維チョップドストランド。
【請求項4】
ストランドを構成するフィラメントの本数が30,000〜120,000本の撚りのない炭素繊維ストランドに0.5〜50個/mの撚りをかけた後、サイズ剤浴に導入した後乾燥し1〜10重量%のサイズ剤を付与して集束し、次いで、切断することを特徴とする集束された炭素繊維チョップドストランドの製造法。
【請求項5】
サイズ剤としてポリアミド樹脂を用い、サイズ剤浴のサイズ剤濃度0.5〜30重量%とすることを特徴とする請求項4に記載の炭素繊維チョップドストランドの製造方法。
【請求項6】
チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドの集合体であって、集合体に含まれる炭素繊維チョップドストランドの束残存率が70%以上である炭素繊維チョップドストランドの集合体。
【請求項7】
チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドをフレキシブルコンテナバックに梱包した梱包体であって、梱包体に含まれる炭素繊維チョップドストランドの束残存率が70%以上である炭素繊維チョップドストランドの梱包体。
【請求項8】
炭素繊維と熱可塑性樹脂からなるペレットの製造方法であって、炭素繊維チョップドストランドを構成する炭素繊維フィラメントの本数が30,000〜120,000本であり、断面の長径(Dmax)と短径(Dmin)の比(Dmax/Dmin)が1.0〜1.8であり、1〜10重量%のサイズ剤で集束された炭素繊維チョップドストランドを、フレキシブルコンテナバックから直接ホッパーに投入することを特徴とするペレットの製造方法。



【公開番号】特開2011−208285(P2011−208285A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71863(P2010−71863)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】