説明

炭素繊維プリプレグ

【課題】 本発明は、炭素繊維プリプレグに関する。本発明は、特に、柔軟性および成形後の機械的強度に優れた、適度なタックを有する炭素繊維プリプレグに関する。
【解決手段】 炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子が1〜20g/mの範囲で表面に付着している炭素繊維プリプレグ。好ましくは、炭化ケイ素粒子の粒度分布のD50の値が0.9μm以上20μm以下であって、FAWが500g/m以上である炭素繊維プリプレグによって、柔軟性および成形後の機械的強度において優れ、適度なタックを有する炭素繊維プリプレグを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維プリプレグに関する。本発明は、特に、炭素繊維プリプレグの柔軟性および硬化後のコンポジットの機械物性において優れ、炭素繊維プリプレグ表面が適度な粘着性(タック)を有する炭素繊維プリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プリプレグの表面に粒径5〜100ミクロン、粒子比重0.1〜3の粉体を付着させることにより、プリプレグの表面を改良する方法が開示されている。例えば、特許文献1では無機粉体であるゼオライトをプリプレグの表面に付着させることでタックを改良することが例示されているが、粉体を付着させることで繊維強化コンポジットの機械物性が低下する傾向にあるという課題があった。また、ゼオライトは水分の保持機能を有し、水分の吸着・脱離量が多いため、ゼオライト近傍のマトリックス樹脂に水分の影響を与えるので、さらに繊維強化コンポジットの機械物性が低下するおそれがある。
【0003】
また、特許文献1にはステアリン酸マグネシウムが例示されているが、ステアリン酸マグネシウムは一般的には滑剤として用いられるものであって、繊維強化コンポジットの強化繊維層間に局在すると機械物性が低下する。同文献中にも一方向繊維強化コンポジットの強化繊維とマトリクス樹脂の接着性の一指標である90°方向の曲げ強度が極端に低下していることが示されている。
【0004】
炭素繊維プリプレグを硬化した炭素繊維強化コンポジットは一般的に引張強度より圧縮強度の方が低く、部材強度としては圧縮強度が判断材料になる場合が多い。したがって、機械物性を考える上では圧縮強度が重要であるが、一般にプリプレグ表面に粉体を付着させた場合、粉体の量が多い場合は、成形後の強化繊維コンポジットの機械物性(特に0°圧縮強度)に悪影響を与えるという問題点がある。一方、付着させた粉体の量が少ない場合は、タックの低減効果が継続しない。プリプレグのタックの低減効果が継続し、成形後の強化繊維コンポジットの機械物性(特に0°圧縮強度)に悪影響の無い技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−100360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プリプレグの柔軟性および硬化後のコンポジットの機械物性(特に0°圧縮強度)において優れ、適度なタックを有する炭素繊維プリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記した課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子が1〜20g/mの範囲で表面に付着している炭素繊維プリプレグである。炭化ケイ素粒子の粒度分布のD50の値は0.9μm以上20μm以下であることが好ましい。炭素繊維プリプレグ1mあたりに含まれる炭素繊維の質量(以下、「FAW」という。)が500g/m以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プリプレグの柔軟性および硬化後のコンポジットの機械物性(特に0°圧縮強度)において優れ、適度なタックを有する炭素繊維プリプレグが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コンポジットパネルの真空バッグ成形での硬化条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の炭素繊維プリプレグは、炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子が片面または両面の表面に付着している炭素繊維プリプレグである。
【0011】
本発明の炭素繊維プリプレグに含まれる炭素繊維は、特には限定されないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。望ましくはPAN系炭素繊維である。炭素繊維は、単一のプリプレグにおいて1種類のものを使用しても良いし、複数種類のものを規則的に、または不規則に並べて使用してもかまわない。通常、特定方向に比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には炭素繊維が単一方向に配向した単一方向プリプレグが最も適しているが、あらかじめ炭素繊維を長繊維マットや織物などのシート形態に加工したものを炭素繊維プリプレグに使用することも可能である。
【0012】
本発明の炭素繊維プリプレグに含まれるマトリックス樹脂は、特には限定されないが、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、フェニルエチニル基等の反応性の炭素−炭素三重結合末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂等が挙げられる。望ましくはエポキシ樹脂である。
【0013】
本発明に用いる無機粒子は、炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される。
炭化ケイ素粒子は、特には限定されないが、黒色炭化ケイ素、緑色炭化ケイ素の粒子が挙げられる。望ましくは、緑色炭化ケイ素の粒子である。
アルミナ粒子は、特には限定されないが、白色溶融アルミナ、褐色溶融アルミナの粒子が挙げられる。望ましくは白色溶融アルミナの粒子である。
カオリン粒子は、湿式カオリン、乾式カオリン、焼成カオリン等がある。この中でも焼成カオリンが望ましい。また、アミノシランやビニルシランによって表面処理を施したカオリン(修飾カオリン)も望ましく用いることができる。
【0014】
本発明における炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子の粒度分布のD50の値は0.9μm〜20μmであることが望ましい。より望ましくは、2μm〜18μmであり、更に望ましくは、5μm〜15μmである。炭化ケイ素の粒度分布のD50の値が、0.9μm〜20μmの範囲であれば、タック低減効果が継続的に働き、さらに、硬化後の炭素繊維コンポジットの機械物性にも悪影響を与えないので好ましい。粒度分布のD50の値は、粉体をある粒子径で2つに分けたとき、その粒子径より大きい側の粒子の総体積と、小さい側の粒子の総体積が等しくなる粒子径と定義され、例えば、日機装社製の製品名:AEOTRAC SPR Model:7340等の粒度計で粒度分布を測定することで得られる。
【0015】
本発明の炭素繊維プリプレグは、その少なくとも片側表面に炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子が付着していることが必要である。ここで「炭素繊維プリプレグの表面に無機粒子が付着する」とは、炭素繊維プリプレグの表面付近、具体的には、炭素繊維プリプレグに含まれる炭素繊維のフィラメントの集合体よりも外に無機粒子が局在し、かつ、各々の無機粒子の大部分がプリプレグのマトリックス樹脂に埋没していない状態であることを言う。無機粒子の量は、炭素繊維プリプレグの表面1m当たり1〜20gであることが好ましい。この範囲であれば、プリプレグの柔軟性および硬化後の炭素繊維コンポジットの機械物性(特に0°圧縮強度)において優れ、適度な粘着性(タック)を有する炭素繊維プリプレグが得られる点で優れた効果がある。特に好ましい無機粒子の量は、炭素繊維プリプレグの表面1m当たり3〜11gである。
【0016】
本発明の炭素繊維プリプレグのFAWには特に制限は無いが、本発明の炭素繊維プリプレグのFAWは、500g/m以上であることで一枚あたりの積層できる厚みが増すことで、炭素繊維強化コンポジットを製造するために要する労力の低減が可能となる点で望ましい。なお、FAWとは、炭素繊維プリプレグ1mあたりに含まれる炭素繊維の質量のことである。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0018】
実施例および比較例の炭素繊維プリプレグに使用した各材料は、以下に示す通りである。
【0019】
(炭素繊維プリプレグ)
炭素繊維プリプレグ (三菱レイヨン社製、一方向炭素繊維プリプレグ、製品名:TR391G500S、FAW:500g/m
【0020】
(炭化ケイ素粒子)
GP#1200 (信濃電気精錬社製、緑色炭化ケイ素、粒度1200)
GP#2000 (信濃電気精錬社製、緑色炭化ケイ素、粒度2000)
GP#3000 (信濃電気精錬社製、緑色炭化ケイ素、粒度3000)
SER−A06 (信濃電気精錬社製、緑色炭化ケイ素)
(カオリン粒子)
Satinton 5 (イメリスジャパン社製、焼成カオリン)
Polarite102A(イメリスジャパン社製、アミノシラン表面処理カオリン)
Polarite103A(イメリスジャパン社製、ビニルシラン表面処理カオリン)
(アルミナ粒子)
WA#1200 (理研コランダム社製、白色溶融アルミナ、粒度1200)
【0021】
(その他の粉体)
エスレックKS−1 (積水化学製、ポリビニルアセタール)
#350M (ミナルコ製、アルミニウム)
#350F (ミナルコ製、アルミニウム)
BR―82 (三菱レイヨン製、アクリル樹脂)
ニッカリコEP−600 (ニッカ製、シリコーン樹脂コーティング炭酸カルシウム)
#960 (三菱化学製、カーボンブラック)
【0022】
(炭素繊維プリプレグ表面への粉体塗布と表面の粉体量の測定)
炭素繊維プリプレグTR391G500Sを300mm(0°方向、繊維に平行方向)×300mm(90°方向、繊維直交方向)にパターンカットして質量(W0)を測定した。
その300mm×300mmの炭素繊維プリプレグの片面に、粉体を散布し、刷毛で均一にならした後、炭素繊維プリプレグに固着していない過剰な粉体を刷毛で払い除き、表面に粉体が付着した炭素繊維プリプレグを得て質量(W1)を測定した。
最終的に炭素繊維プリプレグの表面に残った粉体の質量(W1−W0)を算出し、この値を、炭素繊維プリプレグ1mあたりに換算して、炭素繊維プリプレグ表面の粉体量(g/m)とした。
【0023】
(粘着性(タック)の評価)
300mm×300mmのプリプレグの取り扱い性の評価を触感にて実施した。タックが適度で最も取扱いやすかったものは「○○」、次に取扱いやすかったものは「○」、やや取扱いにくかったものは「△」、取り扱いにくかったものは「×」とした。又、上述の手順で粉体を塗布したプリプレグを23℃、湿度50%RHの条件下で、4週間放置し、その後の取り扱い性についても同様にして評価した。
【0024】
(炭素繊維コンポジットの製造)
上記の手順で得た、長さ(0°方向、繊維に平行方向)300mm×幅(90°方向、繊維直交方向)300mmの炭素繊維プリプレグを、0°方向に揃えて4枚(比較例3は2枚)積層し、バギングした後、オーブンを用いて図1に示す硬化条件で真空バッグ成形を行い、炭素繊維コンポジットパネルを得た。
【0025】
(炭素繊維コンポジットの0°圧縮物性の測定)
上記で得られたコンポジットパネルに共材のタブを接着した後、湿式ダイヤモンドカッターにより長さ(0°方向)80mm×幅12.7mmの寸法に切断して試験片を作製した。得られた試験片について、万能試験機(Instron社製、製品名:Instron5882)と解析ソフト(Instron社製、製品名:Bluehill)を用いて、SACMA 1R−94準拠の方法で0°圧縮試験を行い、0°圧縮強度、弾性率を算出した。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例1〜4)
粉体として表1に示した各種の炭化ケイ素粒子を用いた。表1に示したとおり、材料表面に炭化ケイ素粒子を塗布することにより、炭素繊維プリプレグの粘着性(タック)が低減され、プリプレグは取り扱い易いものとなった。また、この炭素繊維プリプレグを用いて成形した炭素繊維コンポジットは、炭化ケイ素粒子を塗布しない場合(比較例1)と比較して、0°圧縮特性の低下は見られなかった。また、炭化ケイ素粒子を塗布した炭素繊維プリプレグを室温で4週間放置してもタック低減効果は維持され、プリプレグの取り扱い性は良好であった。
【0027】
(比較例1)
粉体を塗布していない炭素繊維プリプレグについて、同様の評価を行い、表2に示した。
【0028】
(実施例6〜8)
粉体として炭化ケイ素粒子のかわりに焼成カオリンあるいは、アミノシランまたはビニルシラン表面処理されたカオリン(修飾カオリン)を用いて、同様の評価を行なった。表1に示したとおり、これらカオリンの場合、粉体塗布直後はタックが低減されたが、タック低減効果は継続しなかったが、0°圧縮強度が95%以上であり、タック低減処理を施した後に短期間で使用する用途であれば使用可能であることがわかった。
【0029】
(実施例5)
粉体として炭化ケイ素粒子のかわりにアルミナ粒子を用いて、同様の評価を行なった。表1に示したとおり、タック低減効果は良好であったが、比較例1と比較して0°圧縮強度が94%であった。
【0030】
(比較例2〜4)
粉体として炭化ケイ素粒子のかわりにポリビニルアセタールあるいはアルミニウム末を用いて、同様の評価を行なった。表2に示したとおり、タック低減効果は良好であったが、試験時のタブ剥がれにより0°圧縮強度が正しく取得できなかった。ポリビニルアセタールあるいはアルミニウム末が表面に付着したプリプレグから得た複合材料に課題があることが明らかになった。
【0031】
(比較例5〜7)
粉体として炭化ケイ素粒子のかわりにアクリル樹脂、シリコーン樹脂コーティング炭酸カルシウムまたはカーボンブラックを用いて、同様の評価を行なった。これらの粉体は、取り扱い性が悪く、粉体を炭素繊維プリプレグ表面に均一に塗布することが極めて困難であった。そのため、タックの強い箇所が残り、プリプレグは粉体を塗布した直後から取り扱いにくかった(表2)。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とマトリックス樹脂を含む炭素繊維プリプレグであって、その少なくとも片側表面に炭化ケイ素粒子、アルミナ粒子およびカオリン粒子から選択される1種以上の無機粒子が1〜20g/mの範囲で付着している炭素繊維プリプレグ。
【請求項2】
前記炭化ケイ素粒子の粒度分布のD50の値が0.9μm以上20μm以下である請求項1に記載の炭素繊維プリプレグ。
【請求項3】
前記炭素繊維プリプレグ1mあたりに含まれる炭素繊維の質量が500g以上である請求項1または2のいずれかに記載の炭素繊維プリプレグ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82899(P2013−82899A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206536(P2012−206536)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】