説明

炭素繊維不織布、その製造方法および用途

繊維径が0.001〜2μmの極細炭素繊維の集合体からなる炭素繊維不織布およびその製造法。この不織布は燃料電池電極用基材および前駆体、電極材料として有用である。また、樹脂と混合して複合材料として用いることができ、さらに金属を担持してフィルターに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、炭素繊維不織布、その製造法およびその用途に関する。さらに詳しくは、炭素繊維不織布、その製造法およびその不織布やその破砕物の燃料電池電極用前駆体等への利用に関する。
【背景技術】
燃料電池は、電解質および電極を主たる構成材料としている。燃料電池で使われる電極の構成材料は、ガス電極に電池反応を起こす場所を提供すると同時に集電体とならなければならない場合が多いので、適当な多孔度を持ち、機械的強度が強く、ガスおよび電解質に侵されない良好な電子導電体であり、さらに生成した水を除去するために撥水性を有する必要がある。このような電極構成材としては現時点では炭素材料が主に用いられており、例えば黒鉛化した炭素繊維の織物などが使用されている。しかし黒鉛化したポリアクリロニトリルを前駆体とした炭素繊維の織物は、一般に繊維径が10〜20μm程度と大きいため、織物自体の比表面積が小さくなって触媒活性点が非常に少なく、また撥水性が非常に低いため、撥水材としてポリテトラフルオロエチレンを用いる必要性があった。
また、炭素繊維からなる織物や不織布は、不純物除去フィルター、燃料電池用電極基材などの用途にも展開が図られている。炭素繊維からなる織物や不織布などの布状物の気孔率は、ガスや液体の透過性を支配する大きな要因であり、透過性の向上は不純物除去フィルターや燃料電池の発電効率に大きな影響を及ぼす。従って、ガスや液体の透過性の優れた高気孔率を有する炭素材料の開発が望まれていた。しかしながら、従来のポリアクリロニトリルを前駆体とした炭素繊維の織物は、上記の如く、一般に繊維径が10〜20μm程度と大きいため、布帛の気孔率が50〜80%程度に留まり、炭素繊維からなる高気孔率の布帛を製造することが困難であった。
さらに、二次電池特にリチウム金属を負極に使用する二次電池では、放電時に負極の表面に樹枝状のリチウムが再結晶(デンドライト)し、充放電サイクルによってこれが成長する。このデンドライトの成長は、二次電池のサイクル特性を劣化させるばかりではなく、最悪の場合には正極と負極が接触しないように配置された隔膜(セパレータ)を突き破って、正極と電気的に短絡、発火して電池を破壊してしまうことがある。
そこで、特開昭62−90863号公報には、コークス等の炭素質材料を負極とし、アルカリ金属イオンをドーピング、脱ドーピングすることにより使用する二次電池が提案された。
これによって、上述したような充放電の繰り返しにおける負極の劣化問題を回避できることが分かった。
しかしながら、このような二次電池でも、負極は粉体状の炭素質材料と結着材を混合し、溶媒を添加してペースト状にし、集電体に塗布または圧着しそして乾燥したものであり、負極活物質の炭素質材料以外に結着材と集電体を使用することで電池としての重量エネルギー密度が十分に大きいとはいえなかった。そこで、それ自体が高導電性を有するので、集電体や、結着剤を使用しなくてもよい炭素繊維を負極として用いることが提案されたが、電池として組み立てるときに繊維がばらけてしまい、取り扱いが極めて困難であることが指摘されていた。
また、電気二重層キャパシタの、静電容量には細孔直径2nm以上の比表面積部分が関与しているといわれている。また、硫酸水溶液を溶媒とする水溶液系キャパシターでも、高電流密度、低温での性能は2nm以上の比表面積部分が静電容量に寄与していると考えられている。このため、細孔直径2nm以上の繊維状活性炭の製造が望まれていた。
上記を解決する方法として、特開平8−119614号公報には、炭素質原料を水蒸気賦活したものをさらにアルカリ賦活するか、あるいは炭素質原料を炭化した後、酸化処理し、さらにアルカリ賦活することで、細孔径2nm以上のメソ孔の比表面積が1000m/g以上である活性炭を製造する方法が開示されている。
また、第29回炭素材料学会年会要旨集2002,92頁には、ピッチ、フェノール樹脂等の炭素前駆体に希土類金属錯体を添加し、水蒸気賦活することによりメソ孔の発達した活性炭を製造する方法などが開示されている。
しかし、これらの方法で得た活性炭は粒状であるため、成型性・加工性が悪いといった問題があった。また、従来の繊維状活性炭は先に述べたように、その繊維径が10〜20μmであって、見かけの表面積は小さく、さらなる繊維径の極細化が望まれていた。
ところで、金属担持繊維は、触媒、電池用電極材料、環境浄化用フィルター等の各種の機能性材料として有用であり、種々の手法により作製され、製品も広く出回っている。中でも、近年生活排水や産業廃水による水質汚染、および居住空間や作業空間での悪臭や自動車の排気ガスなどの有害物質による大気汚染が深刻な問題となっており、高機能性環境浄化用フィルターの開発が望まれている。このような環境浄化用フィルターに用いられる金属担持繊維として、特開2002−363858号公報、2頁には、殺菌、脱臭などの機能を有する光触媒固定化炭素繊維部材が開示されている。これは平均繊維径数ミクロンの炭素繊維をチタニアゾルに浸漬させて、酸化チタンが表面に分散して固定化された炭素繊維を得るものである。また、特開2003−033666号公報、2頁には、ガラス、セラミック、金属等の無機繊維体を金属石鹸液に入れて引き上げ、金、白金、酸化銅等の触媒物質を担持してなる触媒フィルターおよび空気浄化装置も開示されている。しかし、これらはいずれもミクロン繊維を用いているため担体の比表面積が小さく、従って繊維上に担持された触媒金属の比表面積も低くなり活性点も少ないため、その機能性は十分とは言えなかった。
そこで、近年、極細サイズの平均繊維径をもつ極細繊維が開発されつつあり、これを前記機能性材料として用いる試みがなされている。このような金属担持極細繊維は、比表面積が高く、圧力損失が低く、気体原子のSlipflow効果をもつことなどから、水処理および大気浄化用フィルター基材として用いた場合、従来の金属担持ミクロン繊維に比べて高性能を発現することが期待されている。しかし、実際に繊維を極細サイズヘ極細化することの効果が確認された例はなく、また極細繊維のもつ高比表面積を有効活用するための金属担持手法も確立されていなかった。
また、繊維強化型複合材料は、特に強度、剛さ及び靭性のような機械的特性がその個々の成分又は他の非複合材料の特性に比較して優れているので、次第に重要視されつつある。従来から、樹脂にカーボンブラック、炭素繊維等のカーボンを配合することによって、所望の導電性を有する樹脂組成物の提案が行われている。中でも炭素繊維は高強度、高弾性率、高導電性、軽量等の優れた特性を有している事から、高性能複合材料のフィラーとして使用されている。その用途としては従来からの機械的強度向上を目的とした補強用フィラーに留まらず、炭素材料に備わった高導電性を生かし電磁波シールド材、静電防止材用の導電性樹脂フィラーとして、あるいは樹脂への静電塗料のためのフィラーとしての用途が期待されてきている。また炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出材料としての用途が期待されている。とりわけ炭素繊維から形成された複合体材料は単位重量当たりの強度及び剛さが優れているので、航空宇宙学及び運動用品の分野で急速に使用されつつある。
そうした中、近年では、複合材料に優れた導電性、力学特性、外観品位を付与するために、従来のカーボンブラックや炭素繊維に替わり、カーボンナノチューブを配合する試みが行われている。特許第2641712号公報には、カーボンナノチューブを樹脂に配合する技術が、また特許第3034027号公報には樹脂組成物中におけるカーボンナノチューブの形態が開示されている。しかしながら、カーボンナノチューブは、樹脂中で凝集体を形成、または絡み合った状態で存在しており、導電性の不均一性、力学的特性の低下、成形性の低下などの問題が生じていた。その上、カーボンナノチューブは、コストが高いためにその使用の拡大が阻まれている。
さて、炭素繊維径を小さくするために、メルトブロー法によりピッチ系炭素繊維を製造する方法が知られている。特許第2640183号公報には、パイプ状の紡糸ピッチノズルの周囲に同心円状に配置したガス流路管から気体を噴出させることにより、吐出された繊維状ピッチの細径化を図る方法が開示されている。また、特開2000−8227号公報の1、2頁にはピッチ吐出ノズル列の両側にスリット状の気体噴出孔を設け、噴出孔から噴出したピッチに接触させることで繊維状ピッチの細径化を図る方法が開示されている。これらの方法では、従来よりも繊維径の細い炭素繊維を製造することができるが、これらの方法で得られる炭素繊維の繊維径は平均で1〜5μm程度であり、これよりも細い極細炭素繊維からなる不織布を得ることは実質上困難であったため、炭素繊維からなる高気孔率の布帛は今まで得ることが出来なかった。
【発明の開示】
それ故、本発明の目的は、従来技術では達成し得なかった極細炭素繊維からなる不織布を提供することにある。
本発明の他の目的は、本発明の上記不織布を製造する方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、本発明の上記不織布を用いた燃料電池電極を製造するための基材、前駆体および材料を提供することにある。
本発明のさらに、他の目的は、本発明の上記不織布を用いた複合材料を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、本発明の上記不織布を用いた金属担持不織布およびそれを用いた大気浄化用フィルターを提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
繊維径が0.001〜2μmの範囲にある炭素繊維の集合体からなる不織布によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
(1)熱可塑性樹脂100重量部並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾールおよびアラミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150重量部からなる混合物からメルトブロー法により前駆体繊維の集合体を形成する工程、
(2)前駆体繊維の集合体を安定化処理に付して前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体繊維の集合体を形成する工程、
(3)安定化前駆体繊維の集合体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体の集合体を形成する工程および
(4)繊維状炭素前駆体の集合体を炭素化もしくは黒鉛化する工程、
からなることを特徴とする、炭素繊維の集合体からなる不織布の製造方法によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、
本発明の上記不織布またはその破砕物からなる燃料電池電極用基材によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第4に、
白金または白金合金を担持した炭素粉からなる触媒をポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定した本発明の上記不織布からなる燃料電池電極用前駆体によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第5に、
本発明の上記不織布の破砕物からなる電極材料によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第6に、
マトリックス材料およびマトリックス材料中に含有される本発明の上記不織布またはその破砕物からなる複合材料によって達成される。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第7に、
本発明の上記不織布のうち、繊維径が0.05〜0.5μmの範囲にある不織布またはその粉砕物100重量部およびこれらの不織布またはその粉砕物を構成する炭素繊維上に担持された金属化合物0.1〜100重量部からなる、金属担持不織布または金属担持破砕物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
図1は実施例1の操作で得られた炭素繊維からなる不織布の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「S−2400」)により撮影した写真図(撮影倍率5000倍)である。
図2は水接触角を液滴法で測定する際の液滴断面を模式的に示した図である。
図3は触媒機能評価における、実施例5と比較例3の酸化チタン担持フィルターのトリクロロエチレン分解量を表す線図である。
発明の好ましい実施形態
本発明の不織布は、繊維径が0.001〜2μmの範囲、好ましくは0.01〜1μm、より好ましくは0.05〜0.5μmの範囲にある炭素繊維の集合体からなる。炭素繊維の繊維径が0.001μm未満であると、不織布の機械的強度が弱く、取り扱いが困難で好ましくない。一方、2μmより大きいと、水の接触角が140°より小さくなり、例えば燃料電池用の電極として用いた場合、発生する生成水を除去するのが困難となり好ましくない。
本発明の不織布を形成する炭素繊維の繊維長(L)と繊維径(D)との間には、下記関係式(1)が成り立つことが好ましい。
30 < L/D (1)
L/Dが30以下であると、不織布の機械的強度が弱い、または炭素繊維の絡みを形成することができず、不織布状にならず好ましくない。L/Dは50以上、より好ましくは100以上である。
また、本発明の不織布は、目付が、好ましくは1〜1,000g/mであり、より好ましくは2〜500g/mである。不織布の目付けが1g/m未満であると、不織布の機械的強度が弱くハンドリングが困難であり好ましくない。一方、1,000g/mより大きいと、空孔率が著しく低減し、その結果例えば燃料電池用の電極基材として用いた場合、不織布の多孔が緻密化し、ガス拡散などが低下し好ましくない。
また、本発明の不織布の気候率は、好ましくは60〜98%、より好ましくは80%〜98%、さらに好ましくは90〜98%である。
不織布の気孔率が60%未満であると、ガスや液体の透過性が著しく低下し好ましくない。一方、気孔率が98%を超えると、不織布の機械的強度が著しく低下し好ましくない。
なお、本発明で言う気孔率とは、水銀ポロシメータで見積もった値であり、水銀排除体積をもとに計算した値である。
本発明の不織布は、20℃、湿度65〜70%RHの環境下で測定した水の接触角が、好ましくは140〜155°である。水の接触角が140°未満であると、従来の炭素繊維からなる織物、不織布、ペーパーと同等、あるいはそれ以下であり、例えば燃料電池用の電極として用いた場合、発生する生成水を除去するのが困難となり好ましくない。
一方155°より大きいと、発生する生成水を除去することは容易であるが、不織布の多孔が緻密化し、ガス拡散などが低下し好ましくない。20℃、湿度65〜70%(RH)の環境下で測定した水の接触角のより好ましい範囲は145〜155°である。
また、本発明の不織布は、厚みが、好ましくは5μmから2cmであり、より好ましくは5μm〜1mmであり、さらに好ましくは10〜500μmである。厚みが5μm未満であると、例えば燃料電池の電極材料として用いた場合、ガスの拡散性は容易であるが、機械的強度が非常に弱いといった問題を有する。一方、2cmより厚いと機械的強度は十分であるが、ガス拡散性が低下するといった問題を有する。
本発明の不織布を構成する炭素繊維は分岐構造を有さないことが好ましく、また一方では多孔質であるのが好ましい。
本発明の不織布は、上記の如く(1)前駆体繊維の集合体を形成する工程、(2)安定化前駆体繊維の集合体を形成する工程、(3)繊維状炭素前駆体の集合を形成する工程および(4)炭素化または黒鉛化工程からなる。以下、これらの工程について順次説明する。
(1)熱可塑性樹脂
工程(1)で使用される熱可塑性樹脂は、工程(2)で安定化前駆体繊維を製造後、工程(3)で容易に除去される必要がある。このため、酸素または不活性ガス雰囲気下、350℃以上600℃未満の温度で5時間保持することで、初期重量の15wt%以下、より好ましくは10wt%以下、さらには5wt%以下にまで分解する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が好ましく使用される。これらの中でもガス透過性が高く、容易に熱分解しうる熱可塑性樹脂として、例えば下記式(I)で表されるポリオレフィン系の熱可塑性樹脂やポリエチレンなどが好ましく使用される。

ここで、R,R,RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数6〜12のアラルキル基でありそしてnは20以上の整数を示す。
上記式(I)で表される化合物の具体的な例としては、ポリ−4−メチルペンテン−1やポリ−4−メチルペンテン−1の共重合体、例えばポリ−4−メチルペンテン−1にビニル系モノマーが共重合したポリマーなどや、ポリエチレンを例示することができ、ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体またはエチレンとα−オレフィンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレンと他のビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。
エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。他のビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル等の(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステルなどが挙げられる。
また、熱可塑性樹脂は熱可塑性炭素前駆体と容易に溶融混練できるという点から、非晶性の場合、ガラス転移温度が250℃以下、結晶性の場合、結晶融点が300℃以下であることが好ましい。
(2)熱可塑性炭素前駆体
また、工程(1)で用いられる熱可塑性炭素前駆体としては、酸素または酸素/沃素の混合ガス雰囲気下、200℃以上350℃未満で2〜30時間保持した後、次いで350℃以上500℃未満の温度で5時間保持することで、初期重量の80wt%以上が残存する熱可塑性炭素前駆体が好ましい。上記条件で、残存量が初期重量の80%未満であると、熱可塑性炭素前駆体から充分な炭化率で炭素繊維を得ることができず、好ましくない。
より好ましくは、上記条件において初期重量の85%以上が残存することである。上記条件を満たす熱可塑性炭素前駆体としては、具体的にはピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、およびアラミドが挙げられる。これらの中でピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミドが好ましく、ピッチがさらに好ましい。
またピッチの中でも一般的に高強度、高弾性率の期待されるメソフェーズピッチが好ましい。なお、メソフェーズピッチとは溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうる化合物を指す。メソフェーズピッチの原料としては石炭や石油の蒸留残渣を使用してもよく、有機化合物を使用しても良いが、安定化や炭素化もしくは黒鉛化のしやすさから、ナフタレン等の芳香族炭化水素を原料としたメソフェーズピッチを用いるのが好ましい。上記熱可塑性炭素前駆体は熱可塑性樹脂100重量部に対し1〜150重量部、好ましくは5〜100重量部を使用しうる。
(3)熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とからなる混合物の製造
工程(1)で使用する混合物は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から製造される。本発明で使用される混合物から、繊維径が2μm以下である炭素繊維を製造するためには、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径を0.01〜50μmとするのが好ましい。熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂(I)中への分散径が0.01〜50μmの範囲を逸脱すると、高性能複合材料用としての炭素繊維を製造することが困難となることがある。熱可塑性炭素前駆体の分散径のより好ましい範囲は0.01〜30μmである。また、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体からなる混合物を、300℃で3分保持した後、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmであることが好ましい。
一般に、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との溶融混練で得た混合物を、溶融状態で保持しておくと時間と共に熱可塑性炭素前駆体が凝集するが、熱可塑性炭素前駆体の凝集により、分散径が50μmを超えると、高性能複合材料用としての炭素繊維を製造することが困難となることがある。熱可塑性炭素前駆体の凝集速度の程度は、使用する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との種類により変動するが、より好ましくは300℃で5分以上、さらに好ましくは300℃で10分以上、0.01〜50μmの分散径を維持していることが好ましい。なお、混合物中で熱可塑性炭素前駆体は島相を形成し、球状あるいは楕円状となるが、本発明で言う分散径とは混合物中で熱可塑性炭素前駆体の球形の直径または楕円体の長軸径を意味する。
熱可塑性炭素前駆体の使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜150重量部、好ましくは5〜100重量部である。熱可塑性炭素前駆体の使用量が150重量部を超えると所望の分散径を有する熱可塑性炭素前駆体が得られず、1重量部未満であると目的とする炭素繊維を安価に製造する事ができない等の問題が生じるため好ましくない。
熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とから混合物を製造する方法は、溶融状態における混練が好ましい。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練は公知の方法を必要に応じて用いる事ができ、例えば一軸式溶融混練押出機、二軸式溶融混練押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。これらの中で上記熱可塑性炭素前駆体を熱可塑性樹脂に良好にミクロ分散させるという目的から、同方向回転型二軸式溶融混練押出機が好ましく使用される。溶融混練温度としては100℃〜400℃で行なうのが好ましい。溶融混練温度が100℃未満であると、熱可塑性炭素前駆体が溶融状態にならず、熱可塑性樹脂とのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、400℃を超える場合、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の分解が進行するためいずれも好ましくない。溶融混練温度のより好ましい範囲は150℃〜350℃である。また、溶融混練の時間としては0.5〜20分間、好ましくは1〜15分間である。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、熱可塑性炭素前駆体のミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を超える場合、炭素繊維の生産性が著しく低下し好ましくない。
本発明では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から溶融混練により混合物を製造する際に、酸素ガス含有量10%未満のガス雰囲気下で溶融混練することが好ましい。本発明で使用する熱可塑性炭素前駆体は酸素と反応することで溶融混練時に変性不融化してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性ガスを流通させながら溶融混練を行い、できるだけ酸素ガス含有量を低下させることが好ましい。より好ましい溶融混練時の酸素ガス含有量は5%未満、さらには1%未満である。上記の方法を実施することで、炭素繊維からなる不織布を製造するための、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との混合物を製造することができる。
(4)工程(1)
本発明では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練で得た混合物から前駆体繊維の集合体(不織布)を形成する。前駆体繊維からなる集合体は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練で得た混合物のメルトブローにより製造することができる。
メルトブローの条件としては、吐出ダイ温度が150〜400℃、ガス温度が150〜400℃の範囲が好適に用いられる。メルトブローの気体噴出速度は、前駆体繊維の繊維径に影響するが、気体噴出速度は、通常2,000〜100m/sであり、より好ましくは1,000〜200m/sである。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との混合物を溶融混練し、その後ダイより吐出する際、溶融混練した後溶融状態のままで配管内を送液し吐出ダイまで連続的に送液するのが好ましく、溶融混練から紡糸口金吐出までの移送時間は10分以内であることが好ましい。
工程(1)では、繊維径が、好ましくは0.01〜20μm、より好ましくは0.05〜10μmの前駆体繊維を形成するのが好ましい。
(5)工程(2)
本発明の製造方法における工程(2)では、上記工程(1)で作成した前駆体繊維からなる不織布を安定化処理に付して前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体繊維からなる不織布を形成する。熱可塑性炭素前駆体の安定化は炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維からなる不織布を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、熱可塑性炭素前駆体が熱分解したり融着したりするなどの問題が生じる。
該安定化の方法としては酸素などのガス気流処理、酸性水溶液などの溶液処理など公知の方法で行なうことができるが、生産性の面からガス気流下での不融化が好ましい。使用するガス成分としては上記熱可塑性樹脂への浸透性および熱可塑性炭素前駆体への吸着性の点から、また熱可塑性炭素前駆体を低温で速やかに不融化させ得るという点から酸素および/またはハロゲンガスを含む混合ガスであることが好ましい。ハロゲンガスとしては、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス、沃素ガスを挙げることができるが、これらの中でも臭素ガス、沃素ガス、特に沃素ガスが好ましい。ガス気流下での不融化の具体的な方法としては、温度50〜350℃、好ましくは80〜300℃で、5時間以下、好ましくは2時間以下で所望のガス雰囲気中で処理することが好ましい。
また、上記不融化により前駆体繊維中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の軟化点は著しく上昇するが、所望の極細炭素繊維を得るという目的から軟化点が400℃以上となることが好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。上記の方法を実施することで、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体繊維からなる集合体(不織布)を得ることができる。
(6)工程(3)
本発明の製造方法における工程は安定化前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解で除去するものであり、具体的には安定化前駆体繊維中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、安定化された繊維状炭素前駆体のみを分離し、繊推状炭素前駆体からなる不織布を形成する。この工程では、繊維状炭素前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみからなる不織布を分離する必要がある。
熱可塑性樹脂の除去は、酸素存在雰囲気および不活性ガス雰囲気のどちらでもよい。酸素存在雰囲気で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去する必要がある。なお、ここで言う酸素存在雰囲気下とは、酸素濃度が1〜100%のガス雰囲気を指しており、酸素以外に二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガスや、沃素、臭素等の不活性ガスを含有していてもよい。これら条件の中でも、特にコストの関係から空気を用いることが特に好ましい。
安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のときには、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行なうことができず好ましくない。また、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行なうことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果として熱可塑性炭素前駆体から得られる炭素繊維からなる不織布の炭化収率を低下させてしまい好ましくない。
安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、酸素雰囲気下380〜500℃であることが好ましく、特に400〜450℃の温度範囲で、0.5〜10時間処理するのが好ましい。上記処理を施すことで、熱可塑性樹脂は使用した初期重量の15wt%以下にまで分解される。また、熱可塑性炭素前駆体は使用した初期重量の80wt%以上が繊維状炭素前駆体からなる不織布として残存する。
また、不活性ガス雰囲気下で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去する必要がある。なお、ここで言う不活性ガス雰囲気下とは、酸素濃度30ppm以下、より好ましくは20ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスをさす。なお、沃素、臭素等のハロゲンガスを含有していてもよい。
なお、本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素と窒素を好ましく用いることができ、窒素が特に好ましい。安定化前駆体繊維からなる不織布に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のとき、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行なうことができず好ましくない。また、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行なうことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果として熱可塑性炭素前駆体から得られる炭素繊維からなる不織布の炭化収率を低下させてしまい好ましくない。安定化前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、不活性ガス雰囲気下380〜550℃とすることが好ましく、特に400〜530℃の温度範囲で、0.5〜10時間処理するのが好ましい。上記処理を施すことで、使用した熱可塑性樹脂の初期重量の15wt%以下にまで分解される。また、使用した熱可塑性炭素前駆体の初期重量の80wt%以上が繊維状炭素前駆体からなる不織布として残存する。
また、安定化前駆体繊維からなる不織布から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体からなる不織布を形成する別の方法として、熱可塑性樹脂を溶剤で除去する方法を採択しても良い。この方法では、繊維状炭素前駆体の溶剤への溶解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。この条件を満たすために、本発明では、繊維状炭素前駆体に含まれる熱可塑性樹脂を、30〜300℃の温度を有する溶剤で除去するのが好ましい。溶剤の温度が30℃未満であると、前駆体繊維に含まれる熱可塑性樹脂を除去するのに多大の時間を有し好ましくない。一方、300℃を超えると、短時間により熱可塑性樹脂を除去することは可能だが、繊維状炭素前駆体(I)も溶解させ、その繊維構造、不織布構造を破壊するだけでなく、最終的に得られる炭素繊維の原料に対する炭化収率を低下させ好ましくない。安定化前駆体繊維から熱可塑性樹脂を溶剤で除去する温度としては、50〜250℃、さらには80〜200℃が特に好ましい。
(7)工程(4)
本発明の製造方法における工程(4)は、熱可塑性樹脂を初期重量の15wt%以下にまで除いた繊維状炭素前駆体からなる不織布を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化し炭素繊維を製造するものである。本発明において繊維状炭素前駆体からなる不織布は不活性ガス雰囲気下での高温処理により炭素化もしくは黒鉛化し、所望の炭素繊維からなる不織布となる。得られる炭素繊維の繊維径は0.001μm〜2μmであることが好ましい。
繊維状炭素前駆体からなる不織布の炭素化もしくは黒鉛化は公知の方法で行なうことができる。使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等があげられ、温度は500℃〜3,500℃、好ましくは800℃〜3,000℃である。なお、炭素化もしくは黒鉛化する際の、酸素濃度は20ppm以下、さらには10ppm以下であることが好ましい。上記の方法を実施することで、炭素繊維からなる不織布を製造することができる。
次に、本発明の不織布の用途について説明する。
本発明の燃料電池電極用基材としては、本発明の不織布またはその破砕物が用いられる。
本発明の燃料電池電極用基材は、従来の炭素繊維からなる不織布、織物、ペーパーなどに比べ20℃、湿度65〜70%RHの環境下で測定した水の接触角が著しく大きい。また、従来の炭素繊維からなる不織布、織物、ペーパーなどに比べ、炭素繊維の径が著しく小さい。このため、燃料電池電極用材料として用いた場合、生成水を除去する能力が高く、比表面積も大きくなるため、触媒活性点が増加し、発電効率を向上させることが可能であるなどの特徴を発揮する。本発明の燃料電池電極用基材は、好ましくは20℃、湿度65〜70%RHの環境下で測定した水の接触角が140〜155°のものである。不織布として用いるときには、厚みが5〜5,000μmであるのが好ましく、破砕物としては好ましくは繊維長が0.1〜50μmの大きさで用いられる。
本発明の燃料電池電極用前駆体は、本発明の不織布に、白金または白金合金を担持した炭素粉からなる触媒を、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定したものである。この場合、白金または白金合金を担持するための炭素粉としては、種々のものが使用できる。例えば、それ自体公知のカーボンブラックあるいは本発明の不織布の破砕物であってもよい。
本発明の燃料電池電極用前駆体は、別の態様では、本発明の不織布に、白金または白金合金からなる触媒をポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定したものであることができ、また炭素繊維の布帛に、白金または白金合金を担持した本発明の不織布の破砕物からなる触媒をポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定したものであることができる。
後者の態様において、炭素繊維の布帛は編織物であっても不織布であってもよく、不織布は本発明の不織布に限られない。
本発明の不織布およびその破砕物は、さらに電極材料特にキャパンターおよび二次電池用の電極材料として好適に用いられる。炭素繊維が多孔質である不織布およびその破砕物は電極材料として好ましく、キャパンター用電極材料として特に好ましい。
また、本発明の電極材料は、20℃、相対湿度65〜70%の環境下で測定した水の接触角が140〜155°であり、炭素繊維からなる不織布の厚みが5〜5,000μmであるのが好ましく、炭素繊維が表面に細孔を有する多孔質であり、その細孔直径が0.1〜200nmの範囲にあるのがさらに好ましい。
また、細孔直径2nm以上の比表面積と全比表面積との比は、好ましくは0.3以上である。全比表面積は、好ましくは100〜50,000m/gの範囲にある。
電極材料としての本発明の不織布は、好ましくは前記本発明方法における工程(1)、(2)および(3)を実施したのち、得られた繊維状炭素前駆体を、通常の賦活処理あるいは賦活炭素処理、例えば水蒸気賦活処理、アルカリ賦活処理あるいはこれらの組み合わせに付すことにより製造される。
水蒸気賦活の方法としては、通常の粒状活性炭の賦活方法であり、水蒸気の存在下で700℃〜1,500℃の温度で行なわれる。より好ましい温度範囲は、800℃〜1,300℃である。賦活処理の時間としては、3〜180分間実施するのが好ましい。
該賦活処理の時間が3分未満であると、比表面積が著しく低下し好ましくない。一方、180分より長時間であると、生産性の低下を引起こすだけでなく、炭化収率を著しく低下させるため好ましくない。
アルカリ賦活では、原料に水酸化アルカリや炭酸アルカリを含浸させ、所定の温度域まで等速昇温させることにより活性炭に置換する。アルカリ賦活で用いられる賦活剤としては、例えばKOH、NaOHの如きアルカリ金属水酸化物、Ba(OH)の如きアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。これらの中でもKOH、NaOHが好ましい。アルカリ賦活の条件は、用いる賦活剤により異なるため一概に言えないが、例えばKOHを用いた場合には温度400〜1,000℃、好ましくは550〜800℃まで昇温するのが好ましい。
アルカリ賦活の処理時間も昇温速度、処理温度に応じて適宜選定すればよいが、好ましくは550〜800℃で1秒間〜数時間、より好ましくは1秒間〜1時間である。賦活剤は通常水溶液の状態として用いられ、濃度としては0.1〜90wt%程度が採用される。
賦活剤の水溶液濃度が0.1wt%未満であると、高比表面積の不織布を製造することができず好ましくない。また、90wt%を超えると、高比表面積の不織布を製造することができないだけでなく、炭化収率を低減させるため好ましくない。より好ましくは1〜50wt%である。
炭素繊維前駆体をアルカリ水溶液に含浸させ,所定の温度域まで等速昇温させることで目的とする不織布を得ることができる。上記の方法で得た不織布には、アルカリやアルカリ塩などが存在することがある。それゆえ、その後水洗、乾燥などの処理を行ってもよい。
炭素繊維前駆体に、上記で述べた水蒸気賦活またはアルカリ賦活またはこれら二つの組み合わせを実施することで、2nm以上の細孔直径を有し、かつその繊維径が500nm以下である不織布を有利に製造することができる。
本発明の不織布またはその破砕物を用いる複合材料は、マトリックス材料中に該不織布またはその破砕物を含有してなる。マトリックス材料としては、例えば有機ポリマー、無機化合物あるいは金属化合物が用いられる。
有機ポリマーは天然樹脂であっても合成樹脂であってもよい。好ましくは、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の合成樹脂である。とくに、熱可塑性樹脂である場合は、得られた成形体が衝撃強度に優れ、かつ成形効率の高いプレス成形や射出成形が可能であるため好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えばアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン/プロピレン−スチレン樹脂(AES樹脂)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸メチル−スチレン樹脂(ABMS樹脂)、アクリロニトリル−n−ブチルアクリレート−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ゴム変性ポリスチレン(ハイインパクトポリスチレン)、ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂の如きポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリアミドエラストマーなどの熱可塑性エラストマー、これらの共重合体、変性体、およびこれらの樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂などを挙げることができる。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマー、合成ゴムもしくは天然ゴム等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよい。
また、熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、アニリン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、これらの共重合体、変性体、およびこれらの樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂などが挙げられる。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂にその他のエラストマー、合成ゴムもしくは天然ゴム等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよい。
マトリックス材料としての無機化合物としては、例えばセラミック材料又はポリマー無機酸化物、例えばガラスからなる。好ましい具体例としてはガラス繊維、板ガラス及び他の成形ガラス、ケイ酸塩セラミクス並びに他の耐火性セラミクス、例えば酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素及び窒化ホウ素が挙げられる。なお、無機化合物と不織布および/またはその破砕物の混ぜ込みは、例えば溶融した無機化合物に溶融混練して混ぜ込む方法や、例えばポリカルボメチルシランのような熱可塑性樹脂をマトリックス材料に用い、不織布および/またはその破砕物を混ぜ込み、次いで不融化、焼成をすることで炭化ケイ素のような無機化合物の複合材料を作成する方法などを例示することができる。
マトリックスとしての金属としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、鉛、銅、タングステン、チタン、ニオブ、ハフニウム、バナジウム、並びにこれらの合金及び混合物が挙げられる。
本発明の複合材料における不織布および/またはその破砕物の混合量はマトリックス材料100重量部に対して0.01〜100重量部であり、好ましくは0.1〜60重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。炭素繊維が0.01重量部未満だと機械特性の向上の効果が観察されにくく、100重量部よりも上のものは紡糸など成形加工が困難となる。
本発明の複合材料を製造するには、公知の方法、例えば樹脂のペレット状物またはパウダー状物と所定量の炭素繊維の不織布および/またはその破砕物とをドライブレンドあるいはウェットブレンドした後、ロール式のニーダーに供給し加熱下に混練したり、またはこれらを押出機に投入し、ロープ上に押し出したものをペレット状にカットする方法、あるいは樹脂などの溶液や分散体と炭素繊維を液状媒体中でブレンドする方法などを用いることができる。また、ウェットマスターバッチ法での混合も可能である。熱硬化性樹脂の場合には、その前駆体に炭素繊維の不織布等を混入してもよく、各種樹脂に適した公知の方法を用いることができる。
または前記の樹脂を製造する段階で原料中に分散・混入させ、溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の重合方法にて製造することができる。
さらに所望の形に成形する方法としては、例えば射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形、インサート成形等)、ブロー成形、真空成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形(RTM成形、RIM成形、SCRIMP成形、RFI成形等)、オートクレーブ成形等の各種成形方法を採用することができる。特に望ましい成形法は、生産性の高い射出成形である。
本発明の複合材料の形態としては、例えばペレット、スタンパブルシート、プリプレグ、SMC、BMC等を挙げることができる。とくに望ましい形態はペレットである。ペレットは、通常、炭素繊維とマトリクスを押出機中で溶融混練または含浸し、押出、ペレタイズすることによって得ることができる。例えば、コンポジットファイバーの製造方法としては樹脂組成物と炭素繊維の混合溶液を調製し、その混合溶液から紡糸する方法がある。
また本発明の複合材料は発泡剤を用いることにより発泡させ発泡体とすることができる。例えば、導電性及び/又は漆黒性を有する樹脂発泡体とすることができる。かかる発泡体には前記種々の樹脂やエラストマーが使用できるが、中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを好ましい重合体としてあげることができる。発泡剤としては、各種の樹脂用発泡剤のほか、有機溶剤、ブタンなどのガス類、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体が使用できる。
また本発明の複合材料においては力学的特性(例えば曲げ弾性率、衝撃強度等)、熱的特性(例えば熱膨張率、熱伝導率など)、成形加工性(例えばスクリューへの噛込、粘度、充填度、成形収縮、バリ、ヒケ、表面平滑性など)、比重、異方性などの制御や、コストの低減など、本発明の複合材料に用途に応じた効果を付与するために公知の充填剤を添加することもできる。
充填剤としては、例えば、マイカ、タルク、カオリン、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、シリカ、炭酸カルシウム、炭素繊維、金属被覆炭素繊維、カーボン粉末、グラファイト粉末、ガラス繊維、金属被覆ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等を使用できる。これらの充填剤は単独でも、2種類以上ブレンドしたものでもよい。
さらに前記充填剤は、より優れた力学的特性等を付与するために、表面処理剤を予め付与することができる。ここで、表面処理剤は、その作業環境の面から水溶性であるのが好ましい。かかる表面処理剤としては、例えば、シラン系、アルミネート系、チタネート系等のカップリング剤、エポキシ系、ウレタン系、エーテル系、エステル系、アミド系、アクリル系、オレフィン系、ビニル系、スチレン系、シリコン系、フッ素系、シリコン系、フェノール系の樹脂、液晶性樹脂等が挙げられる。用いるマトリクスに応じて適宜選択される。
本発明の複合材料は、その目的に応じて、その他の成分として、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤等の任意の添加剤を、単独あるいは2種類以上含有することができる。
また、本発明の金属担持不織布またはその金属担持破砕物は、炭素繊維の繊維径が0.001〜2μmである本発明の不織布またはその破砕物の炭素繊維上に金属化合物を担持してなる。
担持させる金属は、例えばPt、Rh、Pd、Ir、Au、Agなどに代表される、触媒機能をもつ金属、あるいは環境浄化フィルターとしての用途においては光触媒成分であることが好ましい。例えばTiO、ZnO、WO、SnO、Fe、SiO、NiO、CuO、SrTiO、NbO等の金属酸化物、若しくはCdS、ZnS等の金属硫化物であることが好ましい。
これらは光触媒活性の高い成分であり、かつ基材との密着性が極めて高いという利点がある。また、場合によっては、上記金属酸化物、金属硫化物に更に助触媒としてPt、Au等の貴金属、およびNi、Fe、Nb等の卑金属を添加することも好ましい。すなわち、この場合、光励起により生ずる電子とホールの電荷分離の効率が良くなったり、或いは複合汚染成分に対する光触媒面上での吸着サイトを複数提供したりする等のため、光触媒活性が向上するという利点がある。
前記金属の担持量は、炭素繊維の重量に対して0.1〜100重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜50重量%である。担持量が0.1重量%未満であると触媒活性が発現しにくくなるため好ましくなく、また100重量%を超えると、コスト高になる上、繊維表面積に対して触媒量が過剰となり一部金属が活性点として機能しなくなるため、好ましくない。
また、担持された金属は、膜厚が1〜100nmの薄膜状態、または粒径が1〜100nmの微粒子状態であることが好ましく、より好ましくは10〜50nmである。膜厚または粒径が1nm未満であると金属サイズが原子サイズに近接するためその触媒機能が得られにくくなる上、繊維上への担持が技術的に困難になるため好ましくない。一方膜厚または粒径が100nmを超えると、極細繊維の高比表面積を有効活用できず、繊維の極細化効果が得られる製品の機能性に反映されにくくなるため、好ましくない。
触媒を担持させる方法としては、金属アルコキシド、金属塩化物、金属硝酸塩などの金属化合物溶液に不織布を浸漬させる湿式法、水および有機溶媒溶液に金属が分散している分散液に浸漬させるディップコーティング法、サイズ剤のような糊上物質に金属を混ぜ込んでサイジングする方法、CVDのような化学蒸着による方法など、公知の金属担持方法の何れも使用可能である。不織布の高比表面積を最大限に有効活用するためには上記のように金属を薄膜または微粒子状態で均一担持することが必要不可欠であり、このためには超臨界流体を用いて担持することが好ましい。
超臨界流体を用いた担持は、超臨界流体に金属化合物を溶解させ、該前駆体流体中に不織布を含浸、次いで超臨界状態を解除して金属を不織布上に析出させることにより達成される。ここで上記超臨界流体とは、臨界温度、臨界圧力を超えた状態の物質を示す。この状態の流体は、液体と同等の溶解能力と、気体に近い拡散性、粘性を有するため、金属を容易かつ迅速に、繊維表面に運ぶことができる。また、超臨界流体は有機溶剤に近い性質をもつため、強い疎水性を有し有機溶剤との親和力が強い炭素極細繊維を用いる場合には、この性質を活かして金属を効率良く繊維表面に担持することができる。
金属溶解能力をもつ超臨界流体としては、例えば二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン、メタノール、エタノール等が挙げられる。二酸化炭素は、臨界圧力が7.48MPa、臨界温度が31.1℃とともに低いため超臨界状態を得やすく、また、水に次いで安価であり、無毒、難燃性、無腐食性であるため取り扱い易く、かつ環境に対する負荷が少ないため、好ましい。
上記超臨界流体の溶解能力は温度、圧力、エントレーナー添加等により調整でき、該溶解能力および金属前駆体量、さらには超臨界流体の運動性、拡散性を調整することにより、繊維上に担持される金属量、膜厚、粒径、分散度等を制御することが可能である。
圧力は臨界圧力である7.48MPa以上が好ましく、8.0〜30.0MPaが特に好ましい。圧力がこの値以上であると工業的に多量なエネルギーコストを要し、安全面、経済面において多大な負荷がかかるため、好ましくない。また、温度は臨界温度である31.3℃以上が好ましく、35℃〜150℃が特に好ましい。該温度以上の温度では、超臨界流体密度が低下し、金属化合物の溶解度が著しく低下するため、好ましくない。
また、亜臨界条件すなわち臨界点付近の条件下の二酸化炭素流体である亜臨界二酸化炭素流体を用いることも可能である。本発明において亜臨界二酸化炭素流体とは圧力7.0MPa以上、かつ温度25℃以上であって、超臨界状態ではない二酸化炭素流体を示す。
金属化合物の超臨界流体への溶解を促進するための上記エントレーナーとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノールの如きアルコール、アセトン、エチルメチルケトンの如きケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素を用いることができる。これらの添加量は超臨界流体に対して1〜10重量%が好ましく、それ以上になるとエントレーナーとしての溶解促進効果が低下するため、好ましくない。
金属担持方法として超臨界法を用いる場合、金属化合物としては上記の超臨界流体に溶解させることができる任意のものが使用可能であるが、有機金属化合物が好ましく、特に金属のアセチルアセトナートまたはアルコキシドはその超臨界流体への溶解性が高いため、好ましい。具体的には、白金アセチルアセトナート、パラジウムアセチルアセトナート、ロジウムアセチルアセトナート、イリジウムアセチルアセトナートのようなアセチルアセトナート、ビスアセテートトリフェニルフォスフェートパラジウム、パラジウムアセテート等を挙げることができる。また、環境浄化フィルターとしての用途において金属は光触媒成分であることが好ましく、この場合、チタンイソプロポキシド、チタンn−ブトキシド、テトラ−n−プロピルオルトチタネート、テトラエチルオルトチタネート、トリエトキシ鉄、ペンタイソプロポキシニオブ、テトラエトキシシラン、ジエトキシ亜鉛、タングステンエトキシド、ジイソプロポキシ銅のようなアルコキシド、タングステンヘキサカルボニル、テトラフェニルスズ、n−オクタン酸銅等を用いることができる。
また、前記光触媒成分に更に助触媒としてPt、Au等の貴金属、およびNi、Fe、Nb等の卑金属を添加することも好ましい。これは光触媒成分原料と助触媒成分原料を超臨界流体に溶解させ、上記のように繊維に接触させて光触媒成分と助触媒成分とを繊維に一緒に固定するか、あるいは光触媒成分原料と助触媒成分原料のいずれか一方を繊維に固定し、下記のように焼成して担持した後、他方の原料を固定することにより行うこともできる。
焼成は、超臨界法により担持された前記触媒成分を繊維上に固定するために実施される。繊維に接触することによって担持された金属は、原料のアセチルアセトナートの形態、またはアルコキシドが加水分解した水酸化物の形態を有することがあり、これらはこの焼成工程によって最終的な触媒成分や助触媒成分になると同時に、繊維上に強固に担持される。この焼成時の温度や雰囲気等の条件は、触媒成分や触媒の用途に応じて任意に選択することができるが、一般に、300〜800℃の酸化性または不活性雰囲気下で行われる。
こうして得られた本発明の金属担持不織布またはその破砕物を基材として用いたフィルターは非常に高比表面積であり、太陽光や蛍光灯、白熱灯、ブラックライト、UVランプ、水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプなどの人口光の照射に対する受光面積が大きいためエネルギーロスが少なく、また悪臭やNOxなどの大気中有害物質あるいは水中に溶解している有機溶剤や農薬などの環境汚染物質と効率的に接触し、これらを迅速に、かつ連続的に分解除去することができる。また、安全性、耐水性、耐熱性、耐光性、安定性などの面においても優れているため、低コスト、省エネルギー的でかつメンテナンスフリーで使用できる。このようなフィルターは上記の如く水処理フィルターあるいは大気浄化フィルターとして好適に使用される。
【実施例】
以下に本発明の実施例を述べる。尚、以下に記載される内容により本発明が限定されるものではない。
(1)熱可塑性樹脂中の熱可塑性炭素前駆体の分散粒子径および不織布を構成する炭素繊維の繊維径は、走査電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)にて測定した。
(2)不織布の水の接触角は、協和界面科学株式会社製CA−Sミクロン2型を用い、液適法(液滴の体積:3mm)、気温20℃、湿度65〜70%RHの条件下、写真撮影を行い、θ/2=tan−1(h/r)の関係から接触角[θ]を6回測定の平均から得た。なお、θ/2、h、およびrは図1に記載する値を意味する。図1中、Lは液滴(液体)であり、Sは水接触角測定試料(固体)であり、hは液滴の最大高さであり、rは液滴と試料との円形の接触面における、円の半径であり、θ/2はrを底辺とし、hを高さとする直角二等辺三角形の、測定試料接触側の角度θは水接触角(θ/2を二倍したもの。)である。
(3)炭素繊維の広角X線測定:
理学電気株式会社製のRU−300を用いた。なお、網平面間の距離(d002)は2θの値から、網平面群の厚さ(Lc)はピークの半値幅からそれぞれ求めた。
(4)繊維の機械特性:
オリエンテック株式会社製テンシロン万能試験機1225Aを用いて、得られた繊維の単糸での引張り試験を行い、弾性率および強度を求めた。
(5)不織布の気孔率、細孔直径はマイクロメリテックス社製ポアサイザー9320を用い、測定圧力範囲100kPa〜207MPa、27℃の条件で測定した。不織布の気孔率、細孔直径は下記式を用いて評価した。
細孔直径(rAV)=4Vp/Sp
気孔率(P)=Vp×W×100/V
なお、Vpは細孔容積(cc/g)であり、測定細孔の累積細孔容積、Spは細孔比表面積(m/g)であり、細孔容積と細孔半径とから円筒状を仮定して求めた累積比表面積、Wは不織布の質量、Vは試料体積を意味する。なお、水銀の接触角として130°表面張力として484mN/mを用いた。
[実施例1]
熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1(TPX:グレードRT−18三井化学株式会社製)100重量部と熱可塑性炭素前駆体としてメソフェーズピッチAR−HP(三菱ガス化学株式会社製)11.1部を同方向二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30、バレル温度290℃、窒素気流下)で溶融混練して混合物を作成した。この条件で得られた混合物の、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。また、この混合物を300℃で10分間保持したが、熱可塑性炭素前駆体の凝集は認められず、分散径は0.05〜2μmであった。
次いで、上記混合物をメルトブロー法により不織布としたが、その際には、330℃で吐出孔より吐出し、吐出孔直下で350℃、500m/分の空気を溶融状態にある繊維に吹き付けることで、繊維径0.5〜5μmの前駆体繊維の集合体からなる不織布を作成した。
この前駆体繊維からなる不織布10重量部に対して0.5重量部の沃素とが含有されるように、空気とともに1リットル容積の耐圧ガラス内に仕込み、180℃で10時間保持して安定化処理を施すことで、安定化前駆体繊維の集合体からなる不織布を作成した。
次に、安定化前駆体繊維からなる不織布を窒素ガス雰囲気下、昇温速度5℃/分で550℃まで昇温することで熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体の集合体からなる不織布を作成した。この繊維状炭素前駆体からなる不織布を窒素ガス雰囲気下、室温から昇温速度10℃/分で1,000℃まで昇温することで炭素繊維の集合体からなる不織布を作成した。得られた不織布の炭素繊維径は、100〜300nm前後であった。また、不織布の厚みは約30μmであった。
[実施例2]
実施例1と全く同様にして、安定化前駆体繊維の集合体からなる不織布を作成した。
次に、安定化前駆体繊維からなるこの不織布を窒素ガス雰囲気下、昇温速度5℃/分で550℃まで昇温することで熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体からなる不織布を作成した。この繊維状炭素前駆体からなる不織布をアルゴンガス雰囲気下、室温から3時間で2,800℃まで昇温することで炭素繊維の集合体からなる不織布を作成した。この不織布の目付は8g/mであった。20℃、湿度67%(RH)の環境下で水の接触角を測定したところ148.9°であった。なお、得られた炭素繊維径(D)は、100〜600nm前後であり、炭素繊維長(L)は100μm以上であり、L/Dは30より大きいことが確認できた。また、水銀ポロシメーターで評価した気孔率は94%、細孔直径は4.2μmであった。
比較例1
東邦テナックス株式会社製の繊維径10μmの炭素繊維を用い編物を作成後、2,800℃で黒鉛化した。この黒鉛化した編物を、20℃、湿度67%(RH)の環境下で水の接触角を測定したところ134.7°であった。
比較例2
メソフェーズピッチAR−HP(三菱ガス化学株式会社製)を330℃で吐出孔より吐出し、吐出孔直下で350℃、500m/分の空気を溶融状態にある繊維に吹き付けることで、繊維径2〜10μmの不織布を作成した。この不織布10重量部に対して0.5重量部の沃素とが含有されるように、空気とともに1リットル容積の耐圧ガラス内に仕込み、180℃で20時間保持して安定化処理を施し、次いで室温から3時間で2,800℃まで昇温することで炭素繊維からなる不織布を作成した。炭素繊維の径は2〜8μm程度であった。水銀ポロシメーターで評価した気孔率は79%、細孔直径は46.4μmであった。
[実施例3]
熱可塑性樹脂としてポリ−4−メチルペンテン−1(TPX:グレードRT−18三井化学株式会社製)100重量部と熱可塑性炭素前駆体としてメソフェーズピッチAR−HP(三菱ガス化学株式会社製)11.1部を同方向二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30、バレル温度290℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を作成した。この条件で得られた熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。また、樹脂組成物を300℃で10分間保持したが、熱可塑性炭素前駆体の凝集は認められず、分散径は0.05〜2μmであった。
上記樹脂組成物を300℃で紡糸口金より紡糸し、前駆体複合繊維(炭素繊維前駆体を島成分として含有した海島型複合繊維)の集合体を作成した。この複合繊維の繊維径は20μmであり、断面におけるメソフェーズピッチの分散径はすべて2μm以下であった。次に、前駆体複合繊維の集合体を空気中、200℃で20時間保持して安定化前駆体複合繊維の集合体を得た。
次に、安定化前駆体複合繊維の集合体を窒素ガス雰囲気下、5℃/分の昇温速度で450℃まで昇温し、450℃で5時間保持することで、熱可塑性樹脂を除去した繊維状炭素前駆体の集合体を形成した。この繊維状炭素前駆体の集合体を窒素雰囲気下中で30℃から1,000℃まで2℃/分の昇温速度で昇温して炭素繊維の集合体を得た。
この炭素繊維の集合体をアルゴンガス雰囲気下、20℃/分の昇温速度で2,700℃まで昇温して黒鉛化を実施した。黒鉛化した炭素繊維の広角X線測定から、グラファイト層の網平面間距離(d002)は0.338nm、網平面群の厚さ(Lc)は12.0nmであった。
参考例1 アラミド樹脂溶液の作成:
十分に乾燥した攪拌装置付きの三口フラスコに、脱水精製したNMP2,152g、p−フェニレンジアミン27.04g及び3,4’−ジアミノジフェニルエーテル50.06gを常温下で添加し窒素中で溶解した後、氷冷し攪拌しながらテレフタル酸ジクロリド101.51gを添加した。その後徐々に昇温して最終的に80℃、60分反応させたところで水酸化カルシウム37.04gを添加して中和反応を行い、NMPのアラミド樹脂溶液を得た。得られたドープを水にて再沈殿することにより得たアラミド樹脂の濃度0.5g/100mLの濃硫酸溶液を30℃で測定した固有粘度は3.5dL/gであった。
[実施例4]
NMP50gに実施例3で合成した炭素繊維0.15gを加え、発振周波数38kHzの超音波により16時間超音波処理を行った。このNMP分散液に、参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液247.5gを加えて温度80℃で4時間攪拌することにより、アラミド樹脂/炭素繊維=99/1(重量比)の混合ドープを得た。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、実際はその0.8倍の倍率(15.2倍、速度60.9m/分)で延伸を行いコンポジットファイバーを得た。引張り試験の結果、弾性率は83.0GPa、強度は28.4cN/dtexであった。
[実施例5]
実施例2と全く同様にして炭素繊維の集合体からなる不織布(炭素繊維の径は100〜500nmの範囲内)を作成した。
次に、この不織布(該炭素極細繊維フィルター)とチタンイソプロポキシドの10重量%イソプロパノール溶液を容積100mLの耐圧容器に入れ、100℃、25MPaの超臨界二酸化炭素中に2時間保持することにより、炭素極細繊維フィルターをチタンイソプロポキシドが溶存した超臨界二酸化炭素流体に含浸させた。その後減圧し、雰囲気中水分で加水分解することにより、繊維上に非晶酸化チタンを担持させた。次いで窒素雰囲気下500℃で1時間焼成し、アナターゼ型酸化チタン担持フィルターを得た。得られた酸化チタン担持極細フィルター上に担持された酸化チタン量は7重量%であり、その膜厚は20〜50nm、粒径は50〜100nmの範囲内であった。
比較例3
繊維径が10μmであるポリアクリロニトリル耐炎化不織布を、実施例5と同様にアルゴンガス雰囲気下、室温から3時間で2,800℃まで昇温することで、黒鉛化炭素繊維フィルターを得た。該炭素繊維フィルターに、実施例5と同様の手法により酸化チタンを担持させた。得られた酸化チタン担持フィルター上に担持された酸化チタンは13重量%であり、その膜厚は50〜200nm、粒径は200nm〜1μmの範囲内であった。
触媒機能評価:
上記のごとく作成した、実施例5および比較例3の炭素繊維フィルターについて、触媒機能を比較した。すなわち、上記の各炭素繊維フィルターを入れたテドラーバッグに20ppmのトリクロロエチレン(TCE)を注入し、強度20mW/cmの紫外線を30分間照射して、ガス検知管を用いてトリクロロエチレン濃度の変化を調べた。その結果を、図3に時間とトリクロロエチレン分解量との関係として示す。
上記トリクロロエチレン分解量とは、単位重量あたりの酸化チタンが分解したトリクロロエチレン量をいう。
図3より、実施例5の酸化チタン担持極細フィルターを用いた際のトリクロロエチレン分解量は、比較例3の酸化チタン担持フィルターを用いた際の分解量と比較して、著しく大きいことが分かる。よって上記結果は、本発明によれば、受光面積が大きく触媒反応効率の高い、高機能性環境浄化フィルターを得ることができることを示している。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が0.001〜2μmの範囲にある炭素繊維の集合体からなる不織布。
【請求項2】
繊維径が0.01〜1μmの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
繊維径が0.05〜0.5μmの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項4】
目付が1〜1,000g/mの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項5】
目付が2〜500g/mの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項6】
気孔率が60〜98%の範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項7】
気孔率が80〜98%の範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項8】
気孔率が90〜98%の範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項9】
20℃、65〜70%の相対湿度の雰囲気下で水の接触角が140〜155°の範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項10】
厚みが5μm〜2cmの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項11】
厚みが5μm〜1mmの範囲にある請求項1に記載の不織布。
【請求項12】
炭素繊維が分岐構造を有さない請求項1に記載の不織布。
【請求項13】
炭素繊維が多孔質である請求項1に記載の不織布。
【請求項14】
炭素繊維が下記式(1)
30<L/D ・・・(1)
ここでLは炭素繊維の繊維長(μm)でありそしてDは炭素繊維の繊維径(μm)である、
を満足する請求項1に記載の不織布。
【請求項15】
請求項1に記載の不織布またはその破砕物からなる燃料電池電極用基材。
【請求項16】
白金または白金合金を担持した炭素粉からなる触媒を、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定した請求項1に記載の不織布からなる燃料電池電極用前駆体。
【請求項17】
炭素粉が請求項1に記載の不織布の破砕物である請求項16に記載の前駆体。
【請求項18】
白金または白金合金からなる触媒をポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定した請求項1に記載の不織布からなる燃料電池電極用前駆体。
【請求項19】
白金または白金合金を担持した請求項1に記載の不織布の破砕物からなる触媒を、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとして固定した炭素繊維の布帛からなる燃料電池電極用前駆体。
【請求項20】
請求項1に記載の不織布の破砕物からなる電極材料。
【請求項21】
二次電池用である請求項20に記載の電極材料。
【請求項22】
キャパンタ用である請求項20に記載の電極材料。
【請求項23】
請求項13に記載の不織布またはその破砕物からなる電極材料。
【請求項24】
キャパンタ用である請求項23に記載の電極材料。
【請求項25】
請求項13に記載の不織布を構成する多孔質炭素繊維がその表面に細孔直径が0.1〜200nmの範囲にある細孔を有する請求項23に記載の電極材料。
【請求項26】
細孔直径が2nm以上の細孔の比表面積対全比表面積の比が0.3以上である請求項24に記載の電極材料。
【請求項27】
全比表面積が100〜50,000m/gの範囲にある請求項26に記載の電極材料。
【請求項28】
マトリクス材料およびマトリクス材料中に含有される請求項1に記載の不織布またはその破砕物からなる複合材料。
【請求項29】
マトリクス材料が有機ポリマーまたは無機化合物である請求項28に記載の複合材料。
【請求項30】
有機ポリマーがポリオレフィンポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリスルホン、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂よりなる群から選ばれる請求項29に記載の複合材料。
【請求項31】
無機化合物が酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒素ケイ素、窒素ホウ素及び無機ガラスよりなる群から選ばれる請求項29に記載の複合材料。
【請求項32】
請求項3に記載の不織布またはその粉砕物100重量部およびこれらの不織布またはその粉砕物を構成する炭素繊維上に担持された金属化合物0.1〜100重量部からなる、金属担持不織布または金属担持破砕物。
【請求項33】
金属化合物が光触媒である請求項32に記載の金属担持不織布または金属担持破砕物。
【請求項34】
金属化合物の担持形態が膜厚1〜100nmの薄膜であるかあるいは粒径1〜100nmの粒子である請求項32に記載の金属担持不織布または金属担持破砕物。
【請求項35】
請求項32の金属担持不織布または金属担持破砕物からなるフィルター基材。
【請求項36】
請求項35のフィルター基材を有する、水処理もしくは大気浄化用フィルター。
【請求項37】
(1)熱可塑性樹脂100重量部並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾールおよびアラミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150重量部からなる混合物からメルトブロー法により前駆体繊維の集合体を形成する工程、
(2)前駆体繊維の集合体を安定化処理に付して前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化前駆体繊維の集合体を形成する工程、
(3)安定化前駆体繊維の集合体から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体の集合体を形成する工程および
(4)繊維状炭素前駆体の集合体を炭素化もしくは黒鉛化する工程、
からなることを特徴とする、炭素繊維の集合体からなる不織布の製造方法。
【請求項38】
(1)の工程において形成された前駆体繊維径が0.01〜20μmの範囲にある請求項37に記載の方法。
【請求項39】
(1)の工程において形成された前駆体繊維径が0.05〜10μmの範囲にある請求項37に記載の方法。
【請求項40】
(2)の工程において、安定化処理をハロゲンと酸素の混合ガス下で実施する請求項37に記載の方法。
【請求項41】
ハロゲンガスとして沃素を用いる請求項40に記載の方法。
【請求項42】
ピッチがメソフェーズピッチである請求項37に記載の方法。
【請求項43】
熱可塑性樹脂が下記式(I)

ここで、R,R,RおよびRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基および炭素数6〜12のアラルキル基よりなる群から選ばれ、nは20以上の整数を示す、
で表わされる熱可塑性樹脂である請求項37に記載の方法。
【請求項44】
熱可塑性樹脂がポリ−4−メチルペンテン−1またはその共重合体である請求項43に記載の方法。
【請求項45】
熱可塑性樹脂がポリエチレンである請求項43に記載の方法。
【請求項46】
工程(4)の後に、(5)繊維状炭素前駆体を1,500℃以下で焼成し次いで賊活処理をする工程をさらに実施して多孔質炭素繊維を製造する請求項37に記載の方法。
【請求項47】
賊活処理が水蒸気及び/又は金属水酸化物による処理である請求項46に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/045115
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515383(P2005−515383)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016915
【国際出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】