説明

炭素繊維前駆体繊維及びそれを用いた炭素繊維の製造方法

【課題】炭素繊維の生産性の向上を目的として、とりわけ耐炎化処理工程を効率的に行う方法・手段を提供すること。
【解決手段】ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含むことを特徴とする炭素繊維前駆体繊維。添加剤としては、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛、炭化珪素、ピッチコークス、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる1又は2以上の物質が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の前駆体繊維と、それを用いた耐炎化繊維及び炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を用いて炭素繊維を製造する方法としては、原料繊維にポリアクリロニトリル(PAN)等の前駆体繊維(プリカーサー)を使用し、200〜280℃の酸化性雰囲気下で延伸又は収縮を行いながら酸化処理(耐炎化処理)を行った後、300℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化して製造する方法が一般的である。このようにして得られた炭素繊維は、軽量な上、高い強度や弾性率など良好な特性を有しているので、炭素繊維を利用した複合材料の工業的な用途は、スポーツ・レジャー分野、航空宇宙分野、自動車分野等に広がっている。
【0003】
炭素繊維の用途が拡大するにつれ、その生産性の向上・改善が問題となっている。炭素繊維の前記製造工程の中でも、とりわけ耐炎化処理工程は、炭素繊維の強度発現に大きく影響を及ぼし、古くから多くの検討が行われてきたが、生産性の向上に一番影響するのもこの工程である。従って、耐炎化処理を効率的に行う方法・手段の開発も強く望まれており、本発明は、この耐炎化処理工程の効率化に着目して、前駆体繊維の酸化処理にマイクロ波の照射を利用する技術を提供しようとするものである。
【0004】
下記の特許文献1には、電極用導電助剤等に用いる炭素材料を、温和な温度条件で液相から直接製造する方法において、液状の炭素前駆体と該炭素前駆体よりマイクロ波吸収効率が高い物質の共存下、マイクロ波を照射することからなる炭素材料の製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に提案されているものは、あくまでも粒子状の炭素材料であり、本発明の炭素繊維を目的とするものとは異なる。
【0005】
特許文献2には、焼成工程後の炭化収率に優れた炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体、及び炭素繊維前駆体繊維並びに炭素繊維を製造するために、ポリアクリロニトリル系重合体と、平均粒径が200nm以下の炭素系微粒子とを含む炭素繊維前駆体繊維用重合体組成物が提案されている。しかし、この発明は、あくまでも、炭素繊維の耐炎化工程及び炭素化工程(合わせて焼成工程)における炭素繊維の炭化収率を向上させるために、炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリルニトリル系重合体に、炭素を主成分とする粒子をあらかじめ含有させておくというものである。なお、炭化収率とは、焼成工程において、加わる熱エネルギーによって繊維が酸化や環化によって重量減少した後の炭素繊維重量と、焼成工程前のポリアクリロニトリル系繊維の重量との比(%)を指し、炭素繊維の生産性を示す指標として用いられる。この発明は、マイクロ波に関するものでも、耐炎化処理工程の効率化に着目したものでもない。
【0006】
本出願人は、炭素繊維のプリカーサーをマイクロ波を用いて処理し、炭素繊維を連続的に製造する方法について提案した(特許文献3)。しかし、この提案は、マイクロ波の処理ゾーンとして同軸の内外二つのコンダクターを用いるという装置上の発明に係るものであって、今回の本出願人の提案とは観点が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−247627号公報
【特許文献2】特開2007−182657号公報
【特許文献3】国際公開第2007/118596号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、炭素繊維の生産性の向上を目的として、とりわけ耐炎化処理工程を効率的に行う方法・手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含むことを特徴とする炭素繊維前駆体繊維である。前記添加剤としては、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛、炭化珪素、ピッチコークス、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる1又は2以上の炭素材料が好ましい。また、添加剤は、動的光散乱式粒度分布測定法による平均粒径が200nm以下のものであるのが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様は、ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含む炭素繊維前駆体繊維用重合体組成物を、湿式紡糸法又は乾・湿式紡糸法により紡糸し、乾燥し、次いで延伸することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。そして、本発明の更なる態様は、前記のごとくして得られた炭素繊維前駆体繊維に、マイクロ波を照射することによって耐炎化処理を行うこと、そして、得られた耐炎化繊維に、300〜800℃の不活性雰囲気中において予備炭素化処理を行い、次いで、1000〜2000℃の不活性雰囲気中において炭素化処理を行うことを特徴とする炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素繊維前駆体繊維用重合体組成物は、少量の添加剤を、好ましくは、平均粒径が200nm以下の粒子状のものを含んでいるので、紡糸性を損なうことなく、通常の湿式紡糸法又は乾・湿式紡糸法で、炭素繊維前駆体繊維(プリカーサー)を得ることができる。
そして、得られたプリカーサーは、従来の耐炎化工程よりも短時間のマイクロ波照射工程を経て、所望の耐炎化繊維とすることができ、その後の炭素化処理を通じて、従来の工程よりも効率的(短時間)に炭素繊維を得ることができる。
【0012】
従来の耐炎化工程において採用される熱風循環方式による耐炎化反応は、プリカーサーを200℃〜300℃の空気中で、発熱反応をコントロールしながら行ない、耐炎化繊維を得ている。本発明においては、プリカーサーにマイクロ波を照射する技術を用いて、耐炎化を行うものである。しかし、一般的にポリアクリロニトリル系のプリカーサーは誘電率が低く、マイクロ波を吸収するこができない。そのため、マイクロ波照射によって耐炎化を行なうために、150℃以上の雰囲気中で、ポリアクリル系のプリカーサーの環化反応や酸化反応を進行させて、誘電率を高めながら、マイクロ波を照射しなければ、耐炎化反応が進行しないという問題点があった。従来の熱風循環方式よりも温度が低くできるとはいえ、150℃以上に加熱するのでは熱エネルギー効率が良くない。本発明によると、誘電率の高い材料を含有するプリカーサーを作製し、かかるプリカーサーにマイクロ波を照射し、内部加熱も利用し、プリカーサーの耐炎化を効率よく実施して、耐炎化繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の炭素繊維前駆体繊維に、マイクロ波を照射し耐炎化処理を行い、耐炎化繊維とする工程の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含むことを特徴とする炭素繊維前駆体繊維である。マイクロ波は電磁波の一種であって、誘電体、即ち、電気絶縁体の誘電損失による誘電加熱に好適である。マイクロ波は、ガラス、紙などを透過し、金属によって反射されるが、食品、水などには吸収されやすい性質を持っている。そして、吸収された電磁波エネルギーは熱に変わり、その物質を発熱させる。本発明の重合体組成物中には、マイクロ波吸収効率が高い物質が含まれているので、この重合体組成物から得られたプリカーサーを耐炎化処理するに際し、マイクロ波を照射することにより、重合体組成物全体が効率良く加熱され酸化されるのである。
【0015】
前記添加剤としては、ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高い物質で、かつ、誘電率の高い材料、即ち、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料が適当である。具体的には、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛、炭化珪素、ピッチコークス、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる1又は2以上の物質が好ましい。また、添加剤は、プリカーサーの紡糸性やマイクロ波の吸収性を考慮すると、できるだけ微粒子状のものが好ましく、後述の動的光散乱式粒度分布測定法による平均粒径が200nm以下のものが適当である。
【0016】
本発明で用いられる添加剤の粒径は、製糸可紡性を損なわないように粒径が200nm以下に制御されたものが好ましい。平均粒径200nm以下となる添加剤の粒径とは、有機溶媒、水に分散させた時の平均粒径が200nm以下となるものをいう。本発明において平均粒径とは、分散液を動的光散乱式粒度分布測定法により測定して得られる値のことをいう。平均粒径が200nmよりも大きくなると、重合体組成物中の分散性が悪くなり、炭素繊維前駆体繊維を製造する際の可紡性を損なわれるばかりではなく、炭素繊維を製造する際の延伸性不良、炭素繊維の品位、物性の低下につながるので好ましくない。
【0017】
本発明においては、前記のようなポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含むプリカーサー用重合体組成物を、湿式紡糸法又は乾・湿式紡糸法により紡糸し、乾燥し、次いで延伸して炭素繊維のプリカーサーを得る。
【0018】
ポリアクリロニトリル系プリカーサーとしては、従来公知のポリアクリロニトリル系繊維が何ら制限なく使用できる。通常、アクリロニトリルを90重量%以上、好ましくは95重量%以上含有する単量体を単独又は共重合した紡糸溶液を紡糸して、炭素繊維原料(プリカーサー又は前駆体繊維)とする。紡糸方法としては、湿式又は乾湿式紡糸方法いずれの方法も用いることができるが、複合材料として用いる際のマトリックス樹脂とのアンカー効果による接着性を考慮すると、表面にひだを有する湿式紡糸方法がより好ましい。また、凝固した後は、水洗・乾燥・延伸して炭素繊維原料とすることが好ましい。共重合する単量体としては、アクリル酸メチル、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸等が好ましい。
【0019】
次いで、本発明においては、前記のごとくして得られた炭素繊維のプリカーサーに、マイクロ波を照射することによって耐炎化処理を行い耐炎化繊維を得る。マイクロ波を照射する方法・手段は特に限定されるものではなく、例えば、マグネトロンで発生させたマイクロ波が、プリカーサーに出来るだけ均一に当たり、加熱むらが生じないようにする工夫が必要である。好ましい方法・手段は、本出願人が既に提案した特許文献3に記載のものである。通常は、ポリアクリロニトリル系プリカーサーの耐炎化処理は、雰囲気ガス循環式の加熱炉で、プリカーサーを、供給ローラーと引き取りローラー間に複数回、所定の荷重をかけて延伸又は収縮させながら通過させることによって行われる。本発明においても同様なやり方を採用できる。
【0020】
加熱に利用されるマイクロ波の周波数としては、非通信用のIMSバンドが利用されており、日本では高い周波数の2.45GHzが一般的である。米国などでは915MHz帯も使用されており、本発明の性質上は特に限定されるものではない。かかるマイクロ波による加熱によると、従来の熱伝導および対流による熱炉に比べて、より短い時間とより少ない総エネルギー量でプリカーサーを加熱・酸化することができる。前記耐炎化処理工程では、炭素繊維のプリカーサーにマイクロ波を照射して耐炎化を行い、比重が1.3〜1.5の範囲にある耐炎化繊維が得られる。その時の、照射条件は周波数2.45GHz、915MHzのどちらでも可能であり、マグネトロンの出力は200〜1500Wが適当である。
【0021】
上記、マイクロ波の周波数域における誘電率の測定方法は、JIS−C−2565に定められている、高周波における磁性材料の誘電率と透磁率を測定する標準的な方法を用いて、試料を含む測定系の入出力特性の測定を行い、得られた結果から比誘電率を導出することができる。
【0022】
通常の耐炎化処理は、例えば、加熱空気等の酸化性雰囲気中200〜280℃の温度範囲内で行われる。この際、プリカーサーは、一般的に延伸倍率0.85〜1.3倍の範囲で延伸又は収縮処理される。この耐炎化処理は、繊維密度1.3〜1.5g/cm3の耐炎化繊維とするものであり、耐炎化時の糸にかかる張力は特に限定されるものではない。耐炎化処理過程では、延伸処理しなければポリアクリロニトリル系プリカーサーは、処理温度の上昇と共に収縮する。そこで、延伸応力を調節して延伸処理することにより延伸倍率を調節することができる。延伸倍率1.0とは、繊維に延伸応力を与えているが、収縮と延伸とのバランスがとれ延伸前と延伸後との長さが同一であることを示す。本発明においても、延伸倍率や繊維密度は従来の方法と同様な条件に設定すれば良いが、雰囲気温度は10〜150℃の範囲で行うことができる。
【0023】
前記のごとくして得られた耐炎化繊維に、300〜800℃の不活性雰囲気中において予備炭素化処理を行い、次いで、1000〜2000℃の不活性雰囲気中において炭素化処理(必要に応じて、いわゆる黒鉛化処理することも含む)を行うことによって炭素繊維が得られる。かかる予備炭素化処理と炭素化処理は、耐炎化繊維を炭素化して炭素繊維を得る場合に、通常採用される条件・方法である。
【0024】
予備炭素化処理(第一炭素化処理)においては、耐炎化繊維を、不活性雰囲気中で、300〜800℃、好ましくは、300〜550℃の温度範囲内で、1.03〜1.07の延伸倍率で一次延伸処理し、次いで0.9〜1.01の延伸倍率で二次延伸処理して、繊維密度1.4〜1.7g/cm3の第一炭素化処理繊維を得る。第一炭素化工程において、一次延伸処理では、耐炎化繊維の弾性率が極小値まで低下した時点から9.8GPaに増加するまでの範囲、同繊維の密度が1.5g/cm3に達するまでの範囲で、1.03〜1.06の延伸倍率で延伸処理を行うのが好ましい。二次延伸処理においては、一次延伸処理後の繊維の密度が二次延伸処理中に上昇し続ける範囲で、0.9〜1.01倍の延伸倍率で延伸処理を行うのが好ましい。かかる条件を採用すると、結晶が成長することなく、緻密化され、ボイドの生成も抑制でき、最終的に高い緻密性を有した高強度炭素繊維を得ることができる。上記第一炭素化工程は、一つの炉若しくは二つ以上の炉で、連続的若しくは別々に処理することができる。
【0025】
炭素化処理(第二炭素化処理)においては、上記第一炭素化処理繊維を、不活性雰囲気中で、第二炭素化工程において800〜2100℃、好ましくは、1000〜1450℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて延伸処理して、第二炭素化処理繊維を得る。一次処理では、第一炭素化処理繊維の密度が一次処理中上昇し続ける範囲、同繊維の窒素含有量が10質量%以上の範囲で、同繊維を延伸処理するのが好ましい。二次処理においては、一次処理繊維の密度が変化しない又は低下する範囲で、同繊維を延伸処理するのが好ましい。第二炭素化処理繊維の伸度は2.0%以上、より好ましくは2.2%以上である。また、第二炭素化処理繊維の直径は、5〜10μmであるのが好ましい。また、これら焼成工程は、単一設備で連続して処理することも、数個の設備で連続して処理することも可能であり、特に限定されるものではない。
【0026】
上記で得られた炭素繊維は、必要に応じて黒鉛化処理(第三炭素化処理)に付してもよい。第三炭素化処理においては、上記第二炭素化処理繊維を1500〜2100℃、好ましくは、1550〜1900℃で更に炭素化又は黒鉛化処理する。
【0027】
上記で得られた炭素繊維は、通常、引き続いて表面処理を施こされる。表面処理には気相、液相処理も用いることができるが、工程管理の簡便さと生産性を高める点から、電解処理による表面処理が好ましい。また電解処理に使用される電解液は従来の公知のものを使用することができ、硝酸、硝酸アンモニウム、硫酸、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウム等を用いることができ、無機酸、有機酸及びアルカリ問わず、特に限定されるものではない。また、通常、上記表面処理繊維は、引き続いてサイジング処理を施こされる。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0028】
本発明は、製糸可紡性を損なうことなく、マイクロ波による耐炎化を実施し、炭素繊維を製造するものであるが、以下、実施例と比較例により本発明を詳述する。
【0029】
実施例において、炭素繊維の樹脂含浸ストランド強度と弾性率は、JIS−R−7608に規定された方法により測定した、エポキシ樹脂含浸ストランド物性である。炭素繊維のサイジング剤の除去は、アセトンを用い3時間のソックスレー処理によって行い、その後繊維を風乾した。添加剤の平均粒径は、添加剤の分散液を、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3000(日機装株式会社)を用いる、動的光散乱式粒度分布測定法により測定して得た。
【0030】
[実施例1〜5]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の100重量部に、表1に示したような所定量の各種添加剤を添加して炭素繊維前駆体用重合組成物を作製した。これを常法により湿式紡糸し、水洗、乾燥、延伸、オイリングして、繊度1.15dtex、フィラメント数12,000のプリカーサーを得た。かくして得られたプリカーサーを後述する製造工程で処理し、耐炎化繊維を得た。
【0031】
プリカーサーにマイクロ波を照射し、耐炎化処理するための装置(耐炎化炉)の概要を図1に示した。図1において、プリカーサー1は耐炎化炉2を経て耐炎化繊維3に変性される。4はマイクロ波の発生装置であり、発生されたマイクロ波5は耐炎化炉2内に導かれる。6はマイクロ波のコントロール及びモニタリングシステムである。
【0032】
図1の装置を用いて、常温雰囲気中、マイクロ波を用いて耐炎化を行なった。マイクロ波の周波数は、一般的に使用することが出来る915MHz又は2.45GHzの両方を用いた。マイクロ波の出力は、照射する対象の容量や吸収効率により、適宜選択することが出来る。マイクロ波の照射時間は、用いる炭素繊維のプリカーサーの種類その他の条件により変わりうるが、本発明においては、耐炎化時の繊維損傷を最小限にするため、ON−OFFを繰り返すパルス照射方式で耐炎化を行った。耐炎化条件は表1に示したとおりである。本方法により、25〜35分間マイクロ波を照射し耐炎化を実施したところ、従来の約半分の時間で密度1.36〜1.38g/cm3の耐炎化繊維を得ることが出来た。
【0033】
次に得られた耐炎化繊維を純粋な窒素気流中300〜600℃の温度勾配を有する第一炭素化炉を通過せしめるに際して2〜8%の伸長を加え、更に同雰囲気中1100〜1200℃の最高温度を有する第二炭素化炉中において炭素化処理して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の物性(ストランド強度と弾性率)は表1に示したとおりであった。
【0034】
[比較例1]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の100重量部に、添加剤として黒鉛を8重量部(本発明の範囲外)添加して炭素繊維前駆体用重合組成物を作製した。かかる炭素繊維前駆体用重合組成物は、湿式紡糸する際、可紡性の点で問題があり、十分な延伸が出来ず、その後、実施例1と同様の方法で、耐炎化処理、焼成を実施したが、ストランド強度と弾性率が低い炭素繊維しか得られなかった。結果は表1に示した。
【0035】
[比較例2]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の炭素繊維前駆体用重合組成物(添加物を含まないもの)を、常法により湿式紡糸し、水洗、乾燥、延伸、オイリングして繊度1.15dtex、フィラメント数
12000の前駆体繊維を得た。上記前駆体繊維を、常温雰囲気中において、マイクロ波を用いて耐炎化を実施したが、常温雰囲気中では、ポリアクリロニトリル繊維の誘電率が低く、結果を表1に示したとおり、耐炎化反応が生じなかった。
【0036】
[比較例3]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の炭素繊維前駆体用重合組成物(添加物を含まないもの)を、常法により湿式紡糸し、水洗、乾燥、延伸、オイリングして繊度1.15dtex、フィラメント数
12000の前駆体繊維を得た。この前駆体繊維(プレカーサー)を220〜260℃の熱風循環型の耐炎化炉を60分間かけて通過せしめて、密度が1.37g/ccの耐炎化繊維を得た。耐炎化処理するに際して0〜6%の伸長操作を施した。次に得られた耐炎化繊維を純粋な窒素気流中300〜600℃の温度勾配を有する第一炭素化炉を通過せしめるに際して2〜8%の伸長を加え、更に同雰囲気中1100〜1200℃の最高温度を有する第二炭素化炉中において炭素化処理して炭素繊維を得た。このように従来の熱風循環方式による耐炎化処理を経て製造された炭素繊維は、表1に示したとおり、本発明の場合と同様の高いストランド強度と弾性率を有する。しかしながら、耐炎化に要する時間が、本発明の場合の約2倍かかっており、耐炎化効率が劣っている。
【0037】
[比較例4]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の100重量部に、添加剤としてSi3N4を0.5重量部添加して炭素繊維前駆体用重合組成物を作製した。以後は比較例2と同様に処理した。表1に示したようにSi3N4は、その比誘電率は9.0と大きいが、本発明の炭素材料ではないため、発熱挙動が弱く、常温雰囲気下では、耐炎化が進行し難い。
【0038】
[比較例5]
アクリロニトリル95重量部/アクリル酸メチル4重量部/イタコン酸1重量部よりなる共重合体の100重量部に、添加剤としてAlを0.5重量部添加して炭素繊維前駆体用重合組成物を作製した。上記炭素繊維前駆体用重合組成物を湿式紡糸し、水洗、乾燥、延伸、オイリングして繊度1.15dtex、フィラメント数
12000の前駆体繊維を得た。得られた炭素繊維前駆体繊維に、実施例1と同様の方法で、耐炎化処理、焼成を実施したが、金属(Al)材料が異物となり、十分な物性をもった炭素繊維を得ることが出来なかった。結果は表1に示した。
【0039】
【表1】

【符号の説明】
【0040】
1 プリカーサー
2 耐炎化炉
3 耐炎化繊維
4 マイクロ波の発生装置
5 発生されたマイクロ波
6 マイクロ波のコントロール及びモニタリングシステム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含むことを特徴とする炭素繊維前駆体繊維。
【請求項2】
添加剤が、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛、炭化珪素、ピッチコークス、ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボンからなる群から選ばれる1又は2以上の炭素材料であることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項3】
添加剤が、動的光散乱式粒度分布測定法による平均粒径が200nm以下のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の炭素繊維前駆体繊維。
【請求項4】
ポリアクリロニトリル系重合体100重量部に対して、該ポリアクリロニトリル系重合体よりもマイクロ波吸収効率が高く、かつ、比誘電率[εr]が5以上の炭素材料を0.01〜5重量部、添加剤として含む炭素繊維前駆体繊維用組成物を、湿式紡糸法又は乾・湿式紡糸法により紡糸し、乾燥し、次いで延伸することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法によって得られた炭素繊維前駆体繊維に、マイクロ波を照射することによって耐炎化処理を行うことを特徴とする耐炎化繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法によって得られた耐炎化繊維に、300〜800℃の不活性雰囲気中において予備炭素化処理を行い、次いで、1000〜2000℃の不活性雰囲気中において炭素化処理を行うことを特徴とする炭素繊維の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2011−162898(P2011−162898A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24905(P2010−24905)
【出願日】平成22年2月6日(2010.2.6)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】