説明

炭素繊維束、その製造方法、及び、繊維強化複合材料

【課題】 擦過による毛羽立ちや糸切れが抑制され、かつ繊維強化複合材料としたときに優れたコンポジット物性を与える炭素繊維を提供すること。
【解決手段】 下記の式(a)又は(b)で表される部分構造を有し、分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤が付着しており、熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)と、ソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量(B)(重量%)について、サイズ剤付着量(A)が0.5〜5.0重量%であり、(A−B)の値が、0.10〜0.50重量%である炭素繊維束。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器等に使用される炭素繊維束、その製造方法、及び、繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維はその機械特性を活かし、スポーツ、レジャー、航空・宇宙分野などに広く使用されてきた。近年では炭素繊維の引張強度を活かして、高圧ガスタンクの強化繊維としての使用も多く見られている。
高圧ガスタンク分野では、炭素繊維は主にフィラメントワインド(以下、「FW」と略称する。)成形法にて、金属やプラスチックのシリンダーに複数本の炭素繊維束を巻きつけて使用される。一般的に、FW成形される際、炭素繊維束の厚みを一定にして加工後の寸法を安定させ、さらにフィラメントを引き揃えて高圧ガスタンクの強度を向上させるため、炭素繊維束には高い張力がかけられる。
【0003】
しかし一方で、炭素繊維は擦過や屈曲に弱い脆性材料であるため、FW成形の様に高張力下でガイドローラー、ガイドバーに接触した場合、毛羽立ちや糸切れが発生する。さらに、擦過により繊維表面が損傷するため、機械的物性も悪化し、強度低下を招く。そのため、炭素繊維束は通常サイズ剤を表面に付着させることで、炭素繊維と金属の直接接触から保護し、擦過性を改善して使用される。
【0004】
このように、サイズ剤による毛羽立ち改善の試みは以前から行われており、例えば、特許文献1では、サイズ剤に高級脂肪酸エステルを加えることにより金属との耐擦過性の改善が試みられている。
【0005】
また、特許文献2では、2段階でサイジング処理する方法が試みられている。この場合、1段階目に多官能脂肪族化合物を用いて接着性を改良し、さらに2段階目にエポキシ樹脂等で被覆することで、毛羽立ちを抑制し、繊維とマトリクス樹脂の接着性の改善が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−317383号公報
【特許文献2】特開2002−309487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明では、高級脂肪酸エステルが、繊維とマトリクス樹脂との接着性を阻害するため、成形後のコンポジット物性が悪化してしまう。
また、特許文献2に記載の発明では、2段階でサイジングするために工程が煩雑となる上、毛羽立ちの抑制効果が不十分である。さらに、低分子量の液状成分が多いことから炭素繊維束の形態が安定せず、FW成形で使用するには問題があった。
このように、FW成形用の炭素繊維束には、コンポジット物性を維持しながら、毛羽立ちや糸切れを抑制する、更なる改善が必要とされていた。
【0008】
本発明は、擦過による毛羽立ちや糸切れが抑制され、かつ繊維強化複合材料としたときに優れたコンポジット物性を与える炭素繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、炭素繊維束、及びそのサイズ剤を種々検討した結果、特定のエポキシ樹脂で構成されるサイズ剤を用い、且つサイズ剤を付与した炭素繊維束を極めて限定された温度範囲で熱処理することにより、擦過による毛羽立ちや糸切れが抑制され、かつ樹脂との接着性に優れた炭素繊維束が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記の課題は、以下の炭素繊維束、その製造方法、及び繊維強化複合材料により解決された。
本発明の炭素繊維束は、下記の式(a)又は(b)で表される部分構造を有し、分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤が付着しており、熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)と、ソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量(B)(重量%)について、サイズ剤付着量(A)が0.5〜5.0重量%であり、(A−B)の値が、0.10〜0.50重量%であることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明の炭素繊維束の製造方法は、下記式(a)又は(b)で表される部分構造を有し分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤を炭素繊維束に付与する工程、及び、引き続いて170〜210℃で熱処理する工程、を含むことを特徴とする。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明の繊維強化複合材料は、上記の炭素繊維束と樹脂硬化物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維表面とエポキシ樹脂の接着性に優れるため、コンポジットとした場合の機械物性に優れている。さらに、本発明の炭素繊維束は、金属との擦過性に優れているため、高張力下での擦過による毛羽立ちや糸切れが抑制され、FW成形に用いるのに好適であり、機械強度に優れた圧力容器等の複合材料を得ることができる。
本発明の炭素繊維束の製造方法によれば、上記の炭素繊維束を効率よく製造することができる。
本発明の繊維強化複合材料によれば、機械強度に優れた繊維強化複合材料の成形物(コンポジット)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の炭素繊維束は、下記の式(a)又は(b)で表される部分構造を有し、分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤が付着しており、熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)と、ソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量(B)(重量%)について、サイズ剤付着量(A)が0.5〜5.0重量%であり、(A−B)の値が、0.10〜0.50重量%であることを特徴とする。
【0017】
【化3】

【0018】
繊維強化複合材料にするためのマトリクス樹脂として、式(a)又は(b)で表される部分構造を有するエポキシ樹脂を用いる場合、サイズ剤とマトリクス樹脂との相溶性が高くなり、炭素繊維束とマトリクス樹脂の接着性がより強固になって機械強度に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0019】
本発明の炭素繊維束の製造方法は、式(a)又は(b)で表される部分構造を有し分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤を炭素繊維束に0.5〜5.0重量%付与する工程、及び、引き続いて170〜210℃で熱処理する工程、を含むことを特徴とする。
【0020】
【化4】

【0021】
本発明において使用するエポキシ樹脂について説明する。
式(a)で示される部分構造を有するエポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂として公知である。式(b)で示される部分構造を有するエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂として公知である。
【0022】
これらのエポキシ樹脂の分子量は、200〜1,000である。分子量が単分散でない場合には、重量平均分子量を示すものとする。
上記エポキシ樹脂成分の分子量が1,000よりも高くなると、その粘性が高くなり、サイジング処理、及び乾燥処理の際に炭素繊維上でサイズ剤が流動せずに局在化してしまい、繊維束内外にサイズ剤の付着斑が起こる。なお、分子量が200未満の当該エポキシ樹脂は存在しない。そのため、本発明で使用する上記エポキシ樹脂の分子量は200〜1,000であり、好ましくは300〜900である。また、式(a)の部分構造を有するエポキシ樹脂は、粘度が低いサイズ剤を与えるため、サイズ剤を付着させた炭素繊維の風合い度が比較的低くなり、柔らかく取り扱い性のよい炭素繊維が得られる点でより好ましい。式(b)の部分構造を有するエポキシ樹脂は、粘度の比較的高いサイズ剤を与えるため、サイズ剤を付着させた炭素繊維の風合い度が比較的高くなり、形状安定性の良い炭素繊維が得られる点でより好ましい。
【0023】
本発明で用いる式(a)の部分構造を有する分子量200〜1,000のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂から選択でき、市販品として例えば三菱化学(株)製jER807などが挙げられる。
【0024】
また、式(b)の構造を有し分子量200〜1,000のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択でき、市販品として三菱化学(株)製jER827,828,1001などが挙げられる。
【0025】
サイズ剤に含まれる、すべての非揮発成分に対する、上記エポキシ樹脂の含有量は20〜90重量%であり、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%である。上記エポキシ樹脂の含有量が20重量%より少ない場合は、繊維と樹脂の接着強度が弱くなる。90重量%を超える場合は、乳化安定性が悪くなる。
【0026】
また、上記エポキシ樹脂の他に、必要目的に応じ、コンポジット物性に影響がない範囲で、上記の部分構造以外の部分構造を有するか、又は、上記の分子量範囲外の、エポキシ樹脂、及び、ポリウレタン、ポリエステルなどの樹脂、若しくはブタジエンニトリルゴムなどを添加させて用いてもよい。また、必要に応じ、平滑剤や安定剤などの各種添加剤を併用してもよい。
【0027】
サイズ剤には、水系エマルション又はエポキシ樹脂を分散させた溶剤系溶液の二つの形態が代表的である。溶剤にはアセトンが例示できる。
水系エマルションには、上記のエポキシ樹脂の他に、乳化剤を使用する。乳化剤は以下に詳しく説明する。
【0028】
サイズ剤に含まれる、すべての非揮発成分に対する、上記乳化剤の含有量は好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜25重量%である。
【0029】
水系エマルションに使用される乳化剤は公知のものが使用できるが、ノニオン系乳化剤を用いることが好ましい。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、単一鎖長ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、アルキルフェノールとホルマリンとの縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのエーテル型;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油及び硬化ひまし油などのエーテルエステル型;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどのエステル型等の乳化剤を挙げることができる。これらの乳化剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の炭素繊維束は、サイズ剤の付着量と熱処理温度を適宜組み合わせることにより得られ、好ましい一実施態様によれば、熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)が0.5〜5.0重量%となるように炭素繊維にサイズ剤を付与した後、170〜210℃で熱処理することにより得られる。サイズ剤の付着量が0.5重量%未満の場合は、本発明の効果が得られないばかりでなく、炭素繊維の集束性も劣るものとなる。一方、サイズ剤の付着量が5.0重量%を超える場合はサイズ剤による集束性が強く、炭素繊維束の開繊性が劣り、炭素繊維束に対するマトリクス樹脂の含浸性が低下するので、マトリクス樹脂との良好な接着性が得られない。
【0031】
さらに、本発明の炭素繊維束は、熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)とソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量(B)(重量%)との差(A−B)の値が、0.10〜0.50重量%である。この付着量は、熱分解法により得られる炭素繊維束を基準にした重量%である。
【0032】
本発明に使用するサイズ剤は、熱処理により含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基が反応する。エポキシ樹脂が反応するとソックスレーでは十分にサイズ剤を抽出することができないため、ソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量が見かけ上減少する。そのため、熱分解法により測定されるサイズ剤付着量とソックスレー抽出により測定されるサイズ剤付着量の間に差が生じる。サイズ剤付着量の差(A−B)を0.10〜0.50重量%とすることにより、炭素繊維とエポキシ樹脂との接着が強固になり、コンポジット物性が飛躍的に向上する。また、炭素繊維表面の液状エポキシ樹脂が架橋することにより、炭素繊維表面は金属との擦過から保護される。0.10重量%より少ない場合ではマトリクス樹脂との接着性に劣る傾向がある。また、(A−B)の値が、0.50重量%を超える場合は、擦過性には優れているものの、マトリクス樹脂の含浸が炭素繊維表面で高分子量化したサイズ剤成分に阻害されてしまう。
【0033】
本発明の炭素繊維束の製造方法は、上記サイズ剤を未処理炭素繊維束に対して付与する工程(サイジング処理工程)、及び、引き続いて、170〜210℃の範囲内で熱処理する工程(熱処理工程)、を含む。
上記のサイズ剤の付着量は、得られた炭素繊維束の熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)である。
【0034】
サイジング処理工程で使用するサイズ剤としては水系エマルション、及びエポキシ樹脂を分散させた溶剤系溶液、いずれも使用できる。作業環境を鑑みると、エマルション処理が人体への影響が少なく好ましい。
【0035】
サイジング処理の方法は限定されず、浸漬法、ローラー転写法、スプレー法等の公知の方法を、使用状況に合わせて使用できる。斑なく均一にサイジング処理をするという観点からは、浸漬法を用いることが好ましい。炭素繊維の熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)は、用いるサイズ剤溶液の濃度やサイズ剤溶液への浸漬時間及び浸漬回数などを用いるサイジング処理の方法に合わせて適宜調整することにより容易に調節できる。
【0036】
熱処理工程においては、サイジング処理を施した炭素繊維束を、加熱処理する。この場合に、サイズ剤の溶剤を乾燥する工程に引き続いて、又は一体の処理として、加熱処理する。加熱温度は、170〜210℃であり、好ましくは、180〜200℃である。
加熱時間は特に限定されないが、10〜300秒が好ましく、20〜100秒がより好ましい。
なお、加熱方法については、熱風による乾燥、ヒートローラーなどの接触乾燥など公知の方法を用いることができる。
【0037】
上記の温度範囲内で熱処理することにより、おそらく炭素繊維表面の官能基とサイズ剤に含まれるエポキシ樹脂が反応するため、付着しているサイズ剤のエポキシ当量が熱処理を行う前に比べて増加する。これは、炭素繊維束の風合いが変化し、炭素繊維束が硬くなることからも推測される。
【0038】
本発明の炭素繊維束は、上記のサイジング処理に先立つ前処理をすることなく、上記のサイジング処理をすることが好ましい。前記の前処理には、特許文献2に記載されたような、分子内に2個以上のエポキシ基を有する多官能脂肪族化合物を炭素繊維束に付与する処理が例示できる。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、サイズ剤の付与工程に先立って、上記の多官能脂肪族化合物を炭素繊維束に付与する工程を有しないことが好ましい。
本発明の炭素繊維束の製造方法において、サイズ剤の付与工程に先立って許容される前処理には、炭素繊維束の表面酸化処理、鍍金処理、洗浄、乾燥等が例示できる。
【0039】
本発明の炭素繊維束を構成する炭素繊維は特に制限が無く、ピッチ系、レーヨン系、アクリロニトリル系等いずれの炭素繊維も使用できるが、操作性、工程通過性、及び機械強度等を鑑みるとアクリロニトリル系が好ましい。炭素繊維の繊度、強度等の特性も特に制限が無く、公知のいずれの炭素繊維も制限無く使用できる。
【0040】
本発明の繊維強化複合材料は、上記の炭素繊維束又は上記の製造方法により製造された炭素繊維束と樹脂硬化物からなる。
前記樹脂硬化物として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む樹脂組成物を使用した繊維強化複合材料が、得られる機械的物性の観点から好ましい。
繊維強化複合材料の製造には、フィラメントワインド(FW)成形法が好ましく使用される。FW成形法においては、金属又はプラスチックのライナーに、マトリクス樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維束を巻きつけて成形する。FW成形に際しては、炭素繊維束の厚みを一定にして加工後の寸法を安定させ、さらにフィラメントを引き揃えた後に、加熱成形して高圧ガスタンクなどの容器が製造される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。まず、本発明に用いた個々の特性値の測定法を説明する。
【0042】
<サイズ剤付着量(溶剤抽出法)>
炭素繊維束10gを取り出し、溶剤としてアセトンを用い、JIS R7604 A法(溶剤抽出法)に基づいてサイズ剤の付着量を求めた。
【0043】
<サイズ剤付着量(熱分解法)>
炭素繊維束10gを取り出し、JIS R7604 C法(熱分解法)に基づいて450℃で熱分解を行い、サイズ剤の付着量を求めた。
【0044】
<擦過毛羽量>
本発明において、炭素繊維束の加工性の指標として、擦過毛羽を次の手順によって測定した。サイズ処理された炭素繊維束がステンレス棒と120°の接触角で接触しながら通過するように、5本の直径2mmのクロムメッキしたステンレス棒を15mm間隔でジグザグに配置した。この5本のステンレス棒間にサイジング処理された炭素繊維束をジグザグに掛け、ボビンからの炭素繊維束解舒テンションを200g/繊維束に設定して、炭素繊維束を擦過させた。擦過後の炭素繊維束をウレタンスポンジ(寸法32mm×64mm×10mm、質量0.25g)2枚の間に挟み込み、125gの錘をウレタンスポンジ全面に均等にかけた。炭素繊維束を15m/分の速度で2分間通過させてスポンジに付着した毛羽の質量を擦過毛羽量とした。
【0045】
<エポキシ当量>
炭素繊維束100gに対し、ソックスレー抽出法を用いてアセトンで120分還流してサイズ剤を抽出し、その抽出物のエポキシ当量を JIS K7236 に基づいて測定した。
【0046】
<フープ引張強度>
FW法にて直径350mmのマンドレルに幅20mm、厚み1mmとなるように炭素繊維を巻きつけ、120℃、180分で硬化してリング状の試験片を作製した。なお、マトリクス樹脂には、主剤にビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER828)を100重量部、硬化剤にアミン系硬化剤(ハンツマン社製、ジェーファーミンT−403)40重量部を混合させた樹脂を用いた。作製した試験片はASTM D2290−92 に基づいてフープ引張強度(単に「フープ強度」ともいう。)を測定した。
【0047】
<風合い>
(株)大栄科学精器製作所製ハイドロメーターHOM−2を用いて以下の条件で測定した。
測定サンプル:20cm長の炭素繊維束
スリット幅:10mm
測定方法:サンプルをサンプル中央部がスリット上になるように試料台に載せた。このとき、スリットの幅方向がサンプルの長さ方向になるようにした。次に厚さ2mm、長さ200mmの金属プレートでこのサンプルをスリット間に深さ10mmまで10mm/secの速さで垂直に押し込み、このときの金属プレートに負荷する最大荷重を測定した。測定は異なるサンプルについて5回行い、その平均値を測定値(F)とした。
【0048】
ここで風合い度は下記の数式(A)で定義される。
風合い度[MPa]=F/(S/10) (A)
式中、Fは、ハイドロメーターの測定値(N)であり、Sは、炭素繊維束断面積(mm2)を示す。また、Sは以下の関係にある。
S=炭素繊維フィラメントの断面積(s)×フィラメント数
ここで、sは、断面顕微鏡写真により、50本のフィラメントの平均半径を(r)とし、πr2より求めた。
【0049】
[実施例1]
サイジング処理されていない、東邦テナックス(株)製 テナックス UTS50(フィラメント数24,000本、引張強度5,100MPa、引張弾性率245GPa、繊度1,630Tex)を連続的にサイジング浴(濃度2.0重量%)に浸漬させた後、熱風循環式乾燥機にて180℃、60秒で乾燥を行い、炭素繊維束を得た。
【0050】
サイズ剤には、式(b)の構造を有するエポキシ樹脂として、三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂 JER828 40重量%、JER1001 40重量%及び乳化剤を20重量%含有する水系エマルションのサイズ剤を用いた。なお、乳化剤には、POE硬化ひまし油エーテル、及びPO/EOポリエーテル(Mw=15,000)を用いた。
得られた炭素繊維束の諸物性を表1に示す。
【0051】
[実施例2〜5、及び、比較例1〜3]
熱風乾燥処理の温度を変えた以外は実施例1と同様に処理を行い、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の諸物性を表1に示す。
【0052】
[実施例6〜8、及び、比較例4]
サイジング剤を表1の通りに変更し、熱処理温度を変更した以外は実施例1と同様に処理を行い、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の諸物性を表1に示す。
【0053】
[比較例5、6]
サイズ剤の付着量を変えた以外は実施例1と同様に処理を行い、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の諸物性を表1に示す。
【0054】
表1に示すとおり、実施例のFW成形用炭素繊維束は適切な熱処理がされてサイズ剤のエポキシ樹脂が硬化し、金属摩擦が低減されてFW成形時に発生する毛羽量が低減される。また、フィラメント表面とサイズ剤の接着性がより強固なものとなっており、コンポジット物性が改善される。
【0055】
熱処理温度の低い比較例1、2では、サイズ剤の低分子量のエポキシ樹脂成分が十分に硬化せず、液状の粘性を持ったままの状態であり、擦過に弱く、得られたコンポジット物性は不十分なものであった。一方、熱処理温度が高すぎる比較例3では、硬化が進み過ぎ、炭素繊維束が屈曲に弱くなって毛羽立ちが多くなってしまい、得られたコンポジット物性も不十分なものであった。
【0056】
比較例4では、分子量350のビスフェノールA型エポキシ樹脂を15重量%しか含有せず、分子量1,400のビスフェノールA型エポキシ樹脂を65重量%含有するサイズ剤を用いたため、サイズ剤の粘性が高く、サイジング処理、及び乾燥処理の際に炭素繊維上でサイズ剤が流動せずに局在化してしまい、繊維束内外にサイズ剤の付着斑が起こったため、得られたコンポジット物性が不十分なものとなった。
【0057】
比較例5では、サイズ剤の付着量が低すぎであったため、擦過に弱く、得られたコンポジット物性は不十分なものであった。
【0058】
比較例6では、サイズ剤の付着量が多すぎであったため、マトリクス樹脂の含浸性が悪く、得られたコンポジット物性は不十分なものであった。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の炭素繊維は、高圧ガスタンクなどのフィラメントワインデイング成形される炭素繊維強化複合材料に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(a)又は(b)で表される部分構造を有し、分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤が付着しており、
熱分解法で測定されるサイズ剤付着量(A)(重量%)と、ソックスレー抽出で測定されるサイズ剤付着量(B)(重量%)について、サイズ剤付着量(A)が0.5〜5.0重量%であり、(A−B)の値が、0.10〜0.50重量%であることを特徴とする
炭素繊維束。
【化1】

【請求項2】
下記式(a)又は(b)で表される部分構造を有し分子量200〜1,000のエポキシ樹脂を20〜90重量%含有するサイズ剤を炭素繊維束に付与する工程、及び、
引き続いて170〜210℃で熱処理する工程、を含むことを特徴とする
請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【化2】

【請求項3】
請求項1に記載の炭素繊維束と樹脂硬化物からなる繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記樹脂硬化物がビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である、請求項3に記載の繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2012−214925(P2012−214925A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80474(P2011−80474)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】