説明

炭素繊維用サイジング剤および炭素繊維束

【課題】粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れ、炭素繊維束を含浸させた際に炭素繊維束へできるだけ均一に付着させることができる炭素繊維用サイジング剤、および当該サイジング剤を用いて得られる炭素繊維束を提供すること。
【解決手段】水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む炭素繊維用サイジング剤、並びに該サイジング剤で処理された炭素繊維束。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維用サイジング剤および当該サイジング剤を用いて得られる炭素繊維束等に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量で高強度、高弾性な力学的性質を持つため、マトリックス樹脂と複合させて繊維強化複合材料として用いられている。
【0003】
炭素繊維は、通常、直径が数ミクロンのモノフィラメントから構成されているが、伸度が小さく脆い繊維であるため機械的摩擦等などによって毛羽が発生しやすく、取り扱いが問題となることが多い。そこで、毛羽の発生抑制等のため、一般にサイジング剤によりサイジング処理を施して使用される。(特許文献1および2参照)
【0004】
炭素繊維用サイジング剤によりサイジング処理を行うことで、炭素繊維の収束性を高めるだけではなく、炭素繊維または炭素繊維束の物理的特性を向上させることができる場合がある。また、炭素繊維表面に存在するサイジング剤を通じて、マトリックス樹脂との相溶性を高め、マトリックス樹脂と炭素繊維の接着性を高めることもできる場合がある。
【0005】
炭素繊維と複合化させるマトリックス樹脂としては、大きくは熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂に大別される。熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする場合、熱硬化性樹脂と比較してリサイクル性能等の成形性に優れる他、高靭性の複合化材料を得やすいため利用価値が大きい。したがって、熱可塑性樹脂を用いた複合化材料は、自動車や航空機向け構造材料として今後の大幅な需要の拡大が期待されている。
【0006】
このような熱可塑性樹脂との相溶性を高める炭素繊維用サイジング剤として、ポリアミドとPEO(ポリエチレンオキシド)の共重合体である水溶性ポリアミドの検討を行った例がある(特許文献3参照)。このようなポリアミドをベースとしたポリアミド系の炭素繊維用サイジング剤は、ポリアミドやポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート等の各種の熱可塑性樹脂との相溶性を高め、炭素繊維の収束性を高める効果は認められるが、特許文献3でみられる水溶性ポリアミドによる炭素繊維用サイジング剤では、炭素繊維束の物理的特性を向上させる効果は期待できない。
【0007】
一方、炭素繊維用サイジング剤には、水溶性ポリアミドのような溶液タイプのものの他、ポリウレタン型の重合体樹脂を水に分散させた水性分散液タイプのものがある(特許文献4参照)。水性分散液タイプのものを使用した場合、溶液タイプのものを使用する場合と比較して、サイジング処理時に、炭素繊維の表面または炭素繊維束の空隙等に、耐熱性や強度に優れる皮膜を形成させることが容易であるため、炭素繊維または炭素繊維束の耐熱性や物理的特性を大幅に向上させることが可能となる。なかでも、ポリアミド系樹脂の水性分散液は、各種の熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、幅広い分野での活用が期待できる。ただし、ポリアミド系樹脂の水性分散液は、水性分散液自体の安定性が悪いという課題があり、各種の界面活性剤を添加し、安定性の改良の検討がされている(特許文献5、特許文献6参照)。しかしながら、このような水性分散液を炭素繊維用サイジング剤に用いても、炭素繊維に対して、均一、安定的に付着させにくいという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−214334号公報
【特許文献2】特開2004−360164号公報
【特許文献3】特開平9−3777号公報
【特許文献4】特開平2−6660号公報
【特許文献5】特表平6−506974号公報
【特許文献6】特開2001−270987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れ、炭素繊維束を含浸させた際に炭素繊維束へできるだけ均一に付着させることができる炭素繊維用サイジング剤、および当該サイジング剤を用いて得られる炭素繊維束を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む炭素繊維用サイジング剤が、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れ、炭素繊維束に含浸させた際に炭素繊維束へ均一に付着させることができることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、例えば以下の項に記載のサイジング剤、及び炭素繊維又は炭素繊維束等を包含する。
項1.
水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む炭素繊維用サイジング剤。
項2.
前記ポリアミド系エラストマーが、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造を有するブロック共重合体である項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項3.
前記ポリアミド系エラストマーが、ポリエーテルブロックアミド共重合体である項2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項4.
水性媒体と、界面活性剤の存在下で前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む、項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項5.
水性媒体と、界面活性剤の存在下で前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマー及び共重合ポリアミドを含む、項4に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項6.
ポリアミド系エラストマーと共重合ポリアミドの質量比が100:0〜1:99である項5に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項7.
前記共重合ポリアミドが6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−
ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/
11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/6
6/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロンおよび6/66/610/11/12共重合ナイロンからなる群より選択される少なくとも1種である、項5又は6に記載の炭素繊維用サイジング剤。
項8.
前記界面活性剤がポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも1種である項4〜7のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項9.
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体をさらに含む項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
項10−1.
項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤により処理された炭素繊維又は炭素繊維束。
項10−2.
項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤のうち水性媒体を除く成分が表面に付着した炭素繊維又は炭素繊維束。
項11.
項10−1記載の炭素繊維又は炭素繊維束、あるいは10−2に記載の炭素繊維又は炭素繊維束、
及びマトリックス樹脂
を含有する、炭素繊維強化樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性(静置時の経時安定性)に優れる。そして、炭素繊維束に含浸させる等して、炭素繊維束へ均一に付着させることが容易に行い得る。
【0013】
本発明の炭素繊維用サイジング剤でサイジング処理された炭素繊維束は、マトリックス樹脂を配合させて繊維強化樹脂組成物を成形したりする際等、機械的特性が良好な複合化材料を製造するのに特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0015】
炭素繊維用サイジング剤
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む。本発明の炭素繊維用サイジング剤は、炭素繊維サイジング用組成物又は炭素繊維サイジング用水性分散液ともいえる。
【0016】
本発明に用いられる水性媒体としては、水が好ましく、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水および純水が好ましい。また、この水には、本発明の目的が阻害されない範囲において、必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等が適宜添加されていてもよい。
【0017】
本発明に用いられるポリアミド系エラストマーは、特に限定されるものではないが、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを含んでなるブロック共重合体が好ましい。特に、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造を有するブロック共重合体が好ましく、なかでもポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造からなるブロック共重合体が好ましい。
【0018】
例えば、次の式(1)で表されるポリマーが、好ましい一態様として例示される。
−[(ポリアミドブロック)−<結合部>−(ポリエーテルブロック)]n− (1)
当該式(1)では、nは整数を表す。
【0019】
ポリアミドブロックの構成成分としては、例えば、ラクタム化合物、アミノカルボン酸化合物、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩、等を挙げることができる。
【0020】
より具体的には、ラクタム化合物としては、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタム等が例示される。環状ラクタムも好ましく用いることができ、例えばε−カプロラクタム、ω−エナントラクタムおよびω−ラウリルラクタム等が挙げられる。
【0021】
また、アミノカルボン酸化合物としては、ω―アミノカプロン酸、ω―アミノエナント酸、ω―アミノカプリル酸、ω―アミノペルコン酸、ω―アミノカプリン酸、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が例示される。
【0022】
また、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩における、ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン等が例示され、また、ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸(リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪酸より合成される炭素数36の不飽和ジカルボン酸)等が例示される。ジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩は、好ましくは前記例示のジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩であり、より好ましくは、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラエチレンジアミン、及びヘキサメチレンジアミンからなる群より選択される1種と、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸からなる群より選択される1種の、塩である。
【0023】
なお、ポリアミドブロックの構成成分が1個単独で又は複数個重合してポリアミドブロックを構成する。複数個重合する場合においては、1種の構成成分が重合していてもよく、2種以上の構成成分が重合していてもよい。
【0024】
ポリエーテルブロックの構成成分としては、例えば、グリコール化合物、ジアミン化合物等が例示される。より具体的には、グリコール化合物としては、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等が例示される。また、ジアミン化合物としては、ポリエーテルジアミン等が例示される。
【0025】
なお、ポリエーテルブロックの構成成分が1個単独で又は複数個重合してポリアミドブロックを構成する。複数個重合する場合においては、1種の構成成分が重合していてもよく、2種以上の構成成分が重合していてもよい。
【0026】
ポリエーテルブロックの構成成分の質量平均分子量は、特に限定されないが、100〜5000程度が好ましい。質量平均分子量が100以上の場合、得られる炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより良好となり、さらに、炭素繊維束を含浸させた場合により均一に付着しやすい。質量平均分子量が5000以下の場合、炭素繊維束への含浸性がより向上する。
【0027】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとの結合部の分子構造としては、例えば、−CO−NH−、又は−CO−O−が例示される。好ましくは−CO−NH−である。結合部の分子構造が−CO−NH−の共重合体をポリエーテルブロックアミド共重合体、結合部の分子構造が−CO−O−の共重合体をポリエーテルエステルブロックアミド共重合体、と呼ぶ。つまり、上記式(1)を用いて表現すれば、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造からなるブロック共重合体として、
−[(ポリアミドブロック)−CO−NH−(ポリエーテルブロック)]n
の結合形態を有するポリエーテルブロックアミド共重合体、
−[(ポリアミドブロック)−CO−O−(ポリエーテルブロック)]n
の結合形態を有するポリエーテルエステルブロックアミド共重合体、等を例示できる。
【0028】
限定的な解釈を望むものではないが、本発明に用いられるポリアミド系エラストマーが、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを含んでなるブロック共重合体である場合、ポリアミドブロックを有する硬質高分子部位(ハードセグメントともいう)と、ポリエーテルブロックを有する軟質高分子部位(ソフトセグメントともいう)とが組み合わされた構造を有すると考えられる。当該硬質高分子部位は、結晶性で融点が高く、また、当該軟質高分子部位は、非晶性でガラス転移温度が低いと考えられる。
【0029】
本発明においては、静置安定性に優れ、炭素繊維束を含浸した際に炭素繊維束への均一な付着を可能とすることができる観点から、ポリアミド系エラストマーとして、特にポリエーテルブロックアミド共重合体を好適に用いることができる。
【0030】
ポリアミド系エラストマーとしては、公知の物質を用い得、また、公知の方法により製造されたものを用い得る。また、市販されているものを用いることもできる。
【0031】
ポリアミド系エラストマーを製造する方法としては、例えば、ラクタム化合物、アミノカルボン酸化合物、並びにジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩、からなる群より選択される少なくとも1種と、ジカルボン酸とを反応させて、実質的に両末端がカルボキシル基であるポリアミドブロックを調製した後、このポリアミドブロックにグリコール化合物及びジアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種を添加して、加熱することで反応させる方法等を挙げることができる。
【0032】
なお、ここで用いるジカルボン酸としては、例えば上記“ジアミン化合物とジカルボン酸化合物の塩”の説明において例示したジカルボン酸化合物と同様のものを用い得る。
【0033】
また、例えば、本発明に用いるポリアミド系エラストマーとして市販品を用いる場合、例えば、宇部興産株式会社製ポリエーテルブロックアミド共重合体(商品名“UBESTAXPA9044X2”)、アルケマ社製ポリエーテルエステルブロックアミド共重合体(商品名“ペバックス2533SA01”)等を用いることができる。
【0034】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、さらに共重合ポリアミドを含んでいてもよい。
【0035】
本発明に用いられる共重合ポリアミドとしては、公知のもの、又は公知の方法で製造されたものを用いることができる。市販されているものを用いてもよい。
【0036】
より具体的には、本発明に用いられる共重合ポリアミドとしては、例えば、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω−アミノ−ω′カルボン酸の重縮合、又は環状ラクタムの開環重合、等の方法で製造された共重合ポリアミドが挙げられる。ここでの重縮合または開環重合の際に、重合調節剤として、ジカルボン酸またはモノカルボン酸を用いることができる。
【0037】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸(リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪酸より合成される炭素数36の不飽和ジカルボン酸)等が挙げられる。ω−アミノ−ω′カルボン酸としては、例えば、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。環状ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタムおよびω−ラウリルラクタム等が挙げられる。
【0038】
前記重合調節剤として用いられるジカルボン酸としては、前記の共重合ポリアミドの製造に用いられるジカルボン酸と同様に、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。また、モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、共重合ポリアミドの中でも、特に、−[NH(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CHNHCO(CHCO]−、−[NH(CH10CO]−、−[NH(CH11CO]−、および−[NH(CHNHCO−D−CO]−(式中Dは炭素数34の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選択される少なくとも1種を構造単位とする共重合ポリアミドが、好ましく用いられる。
【0040】
かかる共重合ポリアミドの具体例としては、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロンおよび6/66/610/11/12共重合ナイロン等が挙げられる。これら重合体または共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。なお、ここでの「/」は各ナイロンの共重合体であることを示すため用いた記号である。例えば、6/66共重合ナイロンは、6−ナイロンと66−ナイロンの共重合ナイロンを表す。
【0041】
本発明の炭素繊維用サイジング剤において、含有される共重合ポリアミドは、含有されるポリアミド系エラストマーと共重合ポリアミドの質量比が、通常100:0〜1:99であり、好ましくは100:0〜20:80、より好ましくは100:0〜50:50、さらに好ましくは80:20〜50:50である。
【0042】
なお、ポリアミド系エラストマーと共重合ポリアミドの質量比において、ポリアミド系エラストマーの割合が多くなるに従い、炭素繊維用サイジング剤を含浸させて得られる炭素繊維束の柔軟性が高くなる傾向があり、炭素繊維束の用途、必要特性に応じポリアミド系エラストマーの使用割合を調節することができる。
【0043】
本発明の炭素繊維用サイジング剤において、ポリアミド系エラストマーは、水性媒体中に分散している。特に限定はされないが、ポリアミド系エラストマーを水性媒体中に分散させるため、界面活性剤を用いるのが好ましい。つまり、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、界面活性剤を含んでもよい。
【0044】
界面活性剤の種類については特に限定されるものではないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩、脂肪酸塩等を用いることができる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリグリセリンエステル等を用いることができる。
【0045】
これらの界面活性剤の中でも、乳化分散性および耐熱性が優れているという観点から、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル等が好ましい。
【0046】
中でも、乳化分散性および耐熱性に優れる他、炭素繊維用サイジング剤を製造した際に、静置安定性に優れ、炭素繊維束を含浸させた際、炭素繊維束への均一な付着性に優れるという観点から、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が特に好適に用いられる。
【0047】
界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせて用いる場合、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤とが併用されてもよい。
【0048】
界面活性剤の使用量は、ポリアミド系エラストマー100質量部に対して1〜20質量部程度が好ましく、1〜12質量部程度がより好ましい。
【0049】
界面活性剤の使用量が多いと、乳化が容易になり、安定な水性分散液が得られるが、得られた水性分散液を炭素繊維用収束剤として用いる際に得られる炭素繊維束の各種物性が損なわれる可能性がある。特に、炭素繊維束の機械的強度やマトリックス樹脂との接着性が損なわれる可能性がある。よって、界面活性剤の使用量には注意する必要があり、上記使用量を目安として目的等に応じて適宜設定することが好ましい。
【0050】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、本願発明の効果を損なわない限り、通常炭素繊維用サイジング剤に含まれ得る、その他の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、例えば、酸化防止剤を挙げることができる。
【0051】
さらにまた、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体を含んでいてもよい。エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体を含むことにより、炭素繊維用サイジング剤は、一層粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れるようになるため、好ましい。
【0052】
本発明の炭素繊維用サイジング剤に、酸化防止剤を含ませることで、ポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドの熱劣化を抑制し、炭素繊維用サイジング剤を含浸させて得られる炭素繊維束の耐熱性等の機械的特性を向上させることができる。
【0053】
酸化防止剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を用いることができる。
【0054】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤が使用できる。例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールービスー[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチ−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]メタン等を挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)又は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチ−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが特に好ましい。
【0055】
硫黄系酸化防止剤としては、例えばジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。これらのなかでも、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)が特に好ましい。
【0056】
燐系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜燐酸、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4−ジイルビスフォスフォナイト、ビス(2,4−ジ−t −ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t −ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどを使用することができる。
アミン系酸化防止剤としては、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、フェニル−1−ナフチルアミン、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどを使用することができる。
【0057】
これらの酸化防止剤は、1種で又は2種以上のものを組み合わせて用いることができる。これらの酸化防止剤を併用することで、本発明の炭素繊維用サイジング剤の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0058】
これらの酸化防止剤の使用量は、ポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.05〜8質量部であり、特に好ましくは0.1〜5質量部である。ポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドの合計量100質量部に対して、酸化防止剤が10質量部以下であれば、得られる炭素繊維用サイジング剤の炭素繊維に対する収束性がより向上する。また、酸化防止剤が0.01質量部以上であれば、ポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドが熱劣化しにくくなり、炭素繊維用サイジング剤を含浸させて得られる炭素繊維束の耐熱性等の機械的特性がより向上する。
【0059】
本発明の炭素繊維用サイジング剤において、少なくともエチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸を共重合してなる共重合体(以下「エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体」ともいう)を含ませることにより、炭素繊維用サイジング剤としての静置安定性と、炭素繊維束への均一な付着性を、さらに高めることができる。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、例えば、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸を共重合した共重合体(より具体的には、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸のランダム共重合体、ポリエチレンに不飽和カルボン酸がグラフトした共重合体、等)が挙げられる。またさらに、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸以外の成分を加えて共重合した共重合体等が挙げられる。
【0060】
上記エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、含まれる炭素原子数が6以下の不飽和カルボン酸、ジカルボン酸等を挙げることができる。含まれる炭素原子数が6以下の不飽和カルボン酸としては、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が、また、ジカルボン酸としては、具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が、それぞれ例示される。これらの中でもアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体において、単量体として用いるエチレンとエチレン性不飽和カルボン酸の比率(共重合比率)は特に限定されないが、両者の合計量を100質量%として、エチレン性不飽和カルボン酸が1質量%程度以上、40質量%未満のものが好適に用いられる。特にエチレン性不飽和カルボン酸が、5質量%程度以上、25質量%未満のものがさらに好ましい。不飽和カルボン酸の比率が当該範囲の下限以上であれば、得られる炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより向上し得、また、不飽和カルボン酸の比率が当該範囲の上限未満であれば、炭素繊維用サイジング剤として炭素繊維束に含浸した際に、炭素繊維束の柔軟性がより向上し得る。
【0062】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドの合計量100質量部に対して1〜10質量部程度とすることが好ましく、3〜8質量部程度とすることがより好ましい。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の含有量が当該範囲の下限以上である場合には、炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより向上し得る。また、含有量が当該範囲以下である場合には、炭素繊維用サイジング剤で処理して得られる炭素繊維束の柔軟性がより向上し得る。
【0063】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体は、水性媒体に分散させて水性分散液に調製して用いることが好ましい。エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体の水性分散液を調製する方法としては、界面活性剤を使用する方法、自己乳化させる方法、機械的な分散方法等の各種の公知の方法を用いることができる。
【0064】
ここで用いる界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等を挙げることができ、これらの併用や、これらと共重合体を中和するための塩基性物質との併用も可能である。
【0065】
エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸の共重合比率が10質量%以上であれば(すなわち、当該共重合体の全原料を100質量%としたとき、エチレン性不飽和カルボン酸が10質量%以上であれば)自己乳化の方法をとることができる。この場合、共重合体を塩基性物質で中和することにより分散が可能となる。中和に使用される塩基性物質としては、例えばアルカリ金属(具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アミン化合物(具体的にはアンモニア、モルホリン、トリエチルアミン、アミノアルコール等)が挙げられる。
【0066】
機械的な分散方法では、特に不飽和カルボン酸の共重合比率が10質量%程度以下の場合、補助的に界面活性剤を併用するのが好ましい。
【0067】
本発明では、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体に代えて、または共に、該共重合体の塩を用いることもできる。例えば、アンモニアや水酸化ナトリウム等を用いて、該共重合体を自己乳化させて得られる、該共重合体アンモニウム塩又はナトリウム塩等を用いることができる。より具体的には、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体(エチレンとアクリル酸の共重合体)を自己乳化させて得られる、エチレン−アクリル酸共重合体アンモニウム塩又はナトリウム塩等を好ましく用いることができる。
【0068】
本発明の炭素繊維用サイジング剤において、水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミド粒子の平均粒子径は、通常0.1〜20μm、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは1〜3μmである。平均粒子径が0.1μm以上であれば、それほどサイジング剤の粘度が高くはならず、炭素繊維や炭素繊維束へ含浸させる際の作業性がより向上し得る。また、20μm以下であれば、炭素繊維用サイジング剤の安定性がより向上し得、また、炭素繊維や炭素繊維束へ均一に含浸させやすくなり得る。
【0069】
なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法によるものである。すなわち、本発明の炭素繊維用サイジング剤をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した際に得られる値である。
【0070】
本発明の炭素繊維用サイジング剤中のポリアミド系エラストマーおよび共重合ポリアミドの合計濃度(w/w%)は、好ましくは0.5〜80質量%、さらに好ましくは1〜60質量%である。合計の濃度が80質量%以下であれば、炭素繊維用サイジング剤の静置安定性がより向上し得る。また、当該合計濃度が0.5質量%以上であれば、炭素繊維用サイジング剤が炭素繊維又は炭素繊維束へ付着しやすくなり得る。
【0071】
本発明に係る炭素繊維用サイジング剤は、例えば、ポリアミド系エラストマーを水性媒体中で分散させる方法により製造することができる。
【0072】
例えば、ポリアミド系エラストマーを、機械粉砕法、冷凍粉砕法、又は湿式粉砕法等により粉砕して得られるポリアミド系エラストマーの粉体を、水性媒体中に分散させる方法、あるいは、界面活性剤を用いてポリアミド系エラストマーを水性媒体に分散させて水性分散液を製造する方法等が挙げられる。分散は、例えば撹拌羽根を備えた攪拌機により撹拌することで行うことができる。
【0073】
より具体的には、例えば、ポリアミド系エラストマー、界面活性剤、および水性媒体を混合する工程を含む、炭素繊維用サイジング剤の製造方法が例示できる。あるいは、(i)ポリアミド系エラストマーを有機溶剤に溶解した溶解液(有機相)と、界面活性剤を水性媒体に溶解した溶解液(水相)とを、混合して混合液(乳化液)を得る工程、及び(ii)当該混合液から前記有機溶剤を除去する工程、を含む、炭素繊維用サイジング剤の製造方法が例示できる。
【0074】
以下に代表的な製造方法の例を、さらに詳細に示す。
〔製造方法例1〕
この製造方法例は、ポリアミド系エラストマー、界面活性剤、および水性媒体を混合する工程を含む、炭素繊維用サイジング剤の製造方法である。例えば、これらの原材料を同一容器内に投入して、撹拌し、混合する方法が挙げられる。
【0075】
ポリアミド系エラストマーの使用量は、特に限定されるものではないが、得られるポリアミド系エラストマーの水性分散液100質量部に対して5〜80質量部に設定するのが好ましく、25〜50質量部に設定するのがより好ましい。ポリアミド系エラストマーの使用量が5質量部以上であれば、生産性がより高まり得、また、使用量が80質量部以下であれば、静置安定性等の安定性がより良好となり得る。
【0076】
界面活性剤の種類については特に限定されるものではないが、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩、脂肪酸塩等を用いることができる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリグリセリンエステル等を用いることができる。
【0077】
これらの界面活性剤の中でも、乳化分散性および耐熱性が優れているという観点から、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステルが好ましい。中でも、乳化分散性および耐熱性に優れる他、炭素繊維用サイジング剤を製造した際に、静置安定性に優れ、炭素繊維束を含浸させた際、炭素繊維束への均一な付着性に優れるという観点から、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が好適に用いられる。
【0078】
界面活性剤は、2種以上のものが併用されてもよい。この場合、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤とが併用されてもよい。
【0079】
界面活性剤の使用量は、共重合ポリアミド100質量部に対して1〜30質量部程度が好ましく、1〜15質量部程度がより好ましい。界面活性剤の使用量が1質量部以上であれば、より安定な水性分散液が得られうる。また、界面活性剤の使用量が30質量部以下であれば、得られた水性分散液(炭素繊維用サイジング剤)によりサイジング処理した炭素繊維束の各種物性(特に炭素繊維束の機械的強度やマトリックス樹脂との接着性)が損なわれる虞がより低下する。
【0080】
〔製造方法例2〕
この製造方法例は、(i)ポリアミド系エラストマーを有機溶剤に溶解した溶解液(有機相)と、界面活性剤を水性媒体に溶解した溶解液(水相)とを、混合して混合液(乳化液)を得る工程、及び(ii)当該混合液から前記有機溶剤を除去する工程、を含む、炭素繊維用サイジング剤の製造方法である。
【0081】
有機相の調製に用いる有機溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶剤;シクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール系溶剤、等を用いることができる。これらの有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
有機溶剤としては、ポリアミド系エラストマーの溶解性が特に良好であることから、芳香族炭化水素系溶剤および脂環族炭化水素系溶剤からなる群より選択される少なくとも一種の溶媒(炭化水素系溶剤)とアルコール系溶剤との混合溶剤を用いることが好ましい。この混合溶剤において、炭化水素系溶剤とアルコール系溶剤との混合割合は、特に限定されないが、炭化水素系溶剤100質量部に対してアルコール系溶剤を25〜100質量部程度に設定することが好ましく、40〜60質量部に設定することがより好ましい。
【0083】
有機相を調製する際に用いる有機溶剤の量は、特に限定されるものではないが、有機相中におけるポリアミド系エラストマーの濃度(w/w%)が3〜30質量%程度になるように設定することが好ましい。有機相中におけるポリアミド系エラストマーの濃度が当該範囲であれば、特にポリアミド系エラストマーが有機相中に均一に溶解されやすくなり、ポリアミド系エラストマーの水性分散液中におけるポリアミド系エラストマーの粒子径が大きくなりすぎる虞が低下し得る。
【0084】
有機相は、有機溶剤中にポリアミド系エラストマーを溶解することで調製できる。この際の温度は、特に限定されるものではないが、通常、100℃以下が好ましい。
【0085】
一方、水相は、水性媒体中に界面活性剤を溶解することで調製できる。水性媒体に対する界面活性剤の添加量は、特に限定されるものではないが、水性媒体中における濃度(w/w%)が0.1〜50質量%程度であることが好ましい。
【0086】
界面活性剤の種類は、製造方法例1と同様に特に限定されないが、製造方法例2では、特に、乳化分散性および安定性に優れ、しかも安価で入手が容易であるという点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩が好ましい。
【0087】
有機相と水相との混合割合は、ポリアミド系エラストマーに対する界面活性剤の割合が、製造方法例1の場合と同様の範囲となるよう設定することが好ましい。また、有機相100質量部に対し、水相の割合を20〜500質量部程度に設定するのが好ましく、25〜200質量部程度に設定するのがより好ましい。水相の割合が当該範囲下限以上であると、より乳化が効率的に行い得、また、得られる乳化液の粘度もより適度(高すぎない)となり得る。一方、水相の割合が当該範囲上限以下であれば、生産性がより向上することが期待できる。
【0088】
有機相と水相とを混合して乳化液を調製する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ホモミキサーやコロイドミル等の乳化機を用いて有機相と水相とを撹拌混合する方法や、超音波分散機等を用いて有機相と水相とを分散及び混合する方法などを採用することができる。通常は前者の方法が好ましい。また、乳化液の調製時の温度は、特に限定されるものではないが、通常、5〜70℃の範囲が好ましい。
【0089】
次に、上記した方法で調製された乳化液から有機溶剤を留去する。これにより、ポリアミド系エラストマーの水性分散液が得られる。乳化液からの有機溶剤の留去は、例えば、減圧下で乳化液を加熱して有機溶剤を除去する等の通常の方法により実施することができる。当該方法には、例えば真空ポンプを設置した密閉式フラスコ、エバポレーター、減圧乾燥機等の装置を用いることができる。
【0090】
得られたポリアミド系エラストマーの水性分散液は、必要に応じて加熱濃縮、遠心分離、湿式分離等の操作により適宜濃縮することによって、ポリアミド系エラストマーの濃度を使用目的に応じて調節することができる。
【0091】
本発明の炭素繊維用サイジング剤が、水性媒体と、界面活性剤の存在下で前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーに、さらに共重合ポリアミドを含んでいる場合、ポリアミド系エラストマーと共重合ポリアミドを混合した後、前記の製造方法1又は製造方法2の方法で水性媒体中に分散させることにより炭素繊維用サイジング剤を製造することができる。また、個別に製造したポリアミド系エラストマーの水性分散液と共重合ポリアミドの水性分散液とを混合して製造することもできる。
【0092】
共重合ポリアミドの水性分散液を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、界面活性剤を用いず、共重合ポリアミドを水性媒体に添加し、当該共重合ポリアミド中の末端カルボキシル基を、塩基性物質を用いて中和し、自己乳化することにより、共重合ポリアミドの水性分散液を得る方法等が挙げられる。
【0093】
ここで用いる塩基性物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、アンモニア、アミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、分散液の静置安定性が優れる観点から特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0094】
塩基性物質の使用量は、得られる水性分散液の粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れるという観点から、共重合ポリアミドの末端カルボキシル基1モルあたり0.1〜2モルであることが好ましく、0.4〜1モルであることがより好ましい。
【0095】
共重合ポリアミドの水性分散液の調製に用いる容器としては、共重合ポリアミドが水性媒体中で軟化する温度以上の温度に加熱するための加熱手段と、内容物にせん断力を与えることのできる攪拌手段とを備えた耐圧容器が好ましい。例えば、攪拌機付きの耐圧オートクレーブ等が好ましい。
【0096】
具体的には、例えば、共重合ポリアミドの軟化温度以上に加熱し、攪拌して、当該混合液を乳化させる。これにより得られた乳化液を室温まで冷却すると、共重合ポリアミドの水性分散液が得られる。
【0097】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤が、さらに上記その他の成分を含む場合、その添加時期は特に限定されない。
【0098】
また、本発明の炭素繊維用サイジング剤が、さらにエチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体を含む場合、エチレン及びエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体は、例えば、炭素繊維用サイジング剤の製造過程において、ポリアミド系エラストマーを水性媒体中に分散させ、水性分散液の形態とした後に添加することもできるし、また、ポリアミド系エラストマー、界面活性剤および水性媒体からなる混合液を調整する際に添加することもできる。
【0099】
サイジング処理された炭素繊維又は炭素繊維束
本発明は、上記炭素繊維用サイジング剤により処理(サイジング処理)された炭素繊維又は炭素繊維束をも包含する。サイジング処理としては、水性分散液である炭素繊維用サイジング剤を用いて行われる公知のサイジング処理であれば、特に制限はされないが、中でもサイジング剤に炭素繊維又は炭素繊維束を含浸させる処理が好ましい。
【0100】
なお、炭素繊維束は炭素繊維を束ねてなるものであり、以下、本“サイジング処理された炭素繊維又は炭素繊維束”の説明においては、「炭素繊維」は「炭素繊維又は炭素繊維束」を含む意味で用いる。
【0101】
用いる炭素繊維としては、特に限定されず、公知の炭素繊維を用いることができる。例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、レイヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ等、繊維状であれば種類は特に限らない。安価なコストを実現できる点と炭素繊維束から得られる成形体が良好な機械的特性を持つという点で、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が中でも好適に用いられる。
【0102】
形態についても、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸等、いずれでも良い。これらは、織物、編み物、不織布等のシート状等に、用途や必要特性に応じて様々に選ぶことができる。
【0103】
本発明の炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維に含浸させる方法としては、特に限定されない。例えば、炭素繊維用サイジング剤を炭素繊維に滴下、散布する方法の他、ローラー浸漬法やローラー接触法等を適用して行うこともできる。サイジング剤の炭素繊維への付着量は、特に限定されないが、サイジング剤中のポリアミド系エラストマー(および共重合ポリアミド)の濃度を調整し粘度を調整することや絞りコントローラー等の通過工程の調整等によって調節することもできる。
【0104】
サイジング剤を炭素繊維の表面に付着させた後、続いて乾燥処理によって水分を除去することにより、本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維が得られる。このときの乾燥処理の方法としては、特に限定されないが、例えば熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーター等の熱媒を用いる方法を選択することができる。
【0105】
なお、前記の通り、本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維は、乾燥処理によって水分を除去して得られるので、本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維は、上記炭素繊維サイジング剤のうち水性媒体を除く成分が表面に付着した炭素繊維、とも換言できる。
【0106】
本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維は、サイジング剤中の成分が表面に付着する分、処理前の炭素繊維よりも質量が増加する。処理前の炭素繊維100重量部に対する処理後の炭素繊維の質量増加分は、特に制限はされないが、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは1〜15質量部である。質量増加量が20質量部以下とする方が、炭素繊維束に対してより均一に処理しやすい。また質量増加量が0.1質量部以上とする方が、収束性がより良好で、炭素繊維束へ強度等の機械的特性も効果的に付与され得る。
【0107】
本発明の炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維(炭素繊維束を含む)は、マトリックス樹脂を配合させ繊維強化樹脂組成物として用いることもできる。よって、本発明は、(α)当該炭素繊維用サイジング剤で処理した炭素繊維、及び(β)マトリックス樹脂、を含有する炭素繊維強化樹脂組成物をも包含する。ここで、マトリックス樹脂は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のどちらにも、特に限定されず、一緒に用いてもよいが、得られた成形品の機械的特性かつ成形効率の高いプレス成形または射出成形が可能である熱可塑性樹脂が好ましい。
【0108】
上記(α)成分及び(β)成分を例えば混合して当該炭素繊維強化樹脂組成物を製造することができる。混合割合は特に制限されないが、例えば(β)成分100質量部に対して(α)成分が好ましくは10〜1000質量部程度、より好ましくは30〜300質量部程度である。(α)成分と(β)成分の混合には、これらを均一に混合できる公知の方法を用いることができ、例えば一軸押出し機、二軸押出し機、プレス機、高速ミキサー、射出成形機、引抜成形機等の公知の装置を用いて、常法に従って行うことができる。当該炭素繊維強化樹脂組成物は、その組成、配合方法等により、マトリックス樹脂と炭素繊維との粉末状混合物、この混合物からなる造粒物等の各種の形態で得られる。また、当該炭素繊維強化樹脂組成物による成形品は、公知の方法、例えば当該組成物を金型内で射出成形することにより得ることができる。なお、当該炭素繊維強化樹脂組成物には必要に応じて他の公知の添加剤を併用することも可能である。添加剤の具体例としては、酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、離型剤及び滑剤、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、強化材などが挙げられる。
【0109】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等)の他、スチレン系樹脂、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノールフェノキシ樹脂、フッ素樹脂等が例示される。さらには、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジェン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー等も例示される。またさらに、これらの共重合体、変性体、およびこれらを2種類以上ブレンドしたものでもよい。なお、ここでの変性体とは、分子構造内のカルボキシル基等の反応性のある官能基を置換して得られた誘導体や、分子構造内にオキシエチレン基等のジオールを付加させた誘導体をいう。
【0110】
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れており、炭素繊維束に含浸させた際、炭素繊維束へ均一に付着することができるので、引張強度、柔軟性等、所望の機械的特性を有する炭素繊維束を得るのに、非常に実用的な炭素繊維用サイジング剤であるといえる。
【0111】
このようにして得られた炭素繊維又は炭素繊維束は、マトリックス樹脂を配合させて繊維強化樹脂組成物を成形した際、高靭性であるとともに機械的特性が良好な複合化材料を製造することができるので、自動車や航空機向け等の構造材料用として極めて有用である。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0113】
実施例1
<ポリアミド系エラストマー水性分散液Iの製造>
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリエーテルブロックアミド共重合体(宇部興産株式会社製、商品名“UBESTAXPA9044X2”:融点150℃)160g、脱イオン水224g、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの共重合体(旭電化株式会社製、商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)16gおよび1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン株式会社製、商品名“イルガノックス259”)6.4gを仕込み、密閉した。次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに15分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、ポリアミド系エラストマー(ポリエーテルブロックアミド共重合体)を分散して含む水性分散液を得た。さらに、当該水性分散液中のポリアミド系エラストマー濃度が20質量%になるように脱イオン水を加え、ポリアミド系エラストマー水性分散液Iを得、これを炭素繊維用サイジング剤(実施例1)とした。この水性分散液Iのポリアミド系エラストマーの平均粒子径を測定したところ、1.9μmであった。なお、平均粒子径の測定には回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD−2000J”)を用いた。なお、直径1μmの球と同じ回折・散乱光のパターンを示す被測定粒子は、その形状に関わらず粒子径1μmとして算出した。
【0114】
実施例2
<共重合ポリアミド水性分散液IIの製造>
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、6/66/12共重合ナイロン(融点158℃、末端カルボキシル基と末端アミノ基の割合が95/5、末端カルボキシル基183ミリモル/kg)240g、脱イオン水146gおよび10%水酸化ナトリウム水溶液14gを仕込み密閉した。次に、撹拌機を始動し、1000rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、共重合ポリアミドを分散して含む水性分散液を得た。さらに、当該水性分散液中の共重合ポリアミド濃度が20質量%になるように脱イオン水を加え、共重合ポリアミド水性分散液IIを得た。この水性分散液II中の共重合ポリアミドの平均粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、1.5μmであった。
【0115】
そして、実施例1で得られたポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比85:15になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例2)を得た。
【0116】
実施例3
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比75:25になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例3)を得た。
【0117】
実施例4
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比60:40になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例4)を得た。
【0118】
実施例5
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比45:55になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例5)を得た。
【0119】
実施例6
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比30:70になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例6)を得た。
【0120】
実施例7
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比25:75になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例7)を得た。
【0121】
実施例8
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比15:85になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例8)を得た。
【0122】
実施例9
ポリアミド系エラストマー水性分散液Iと共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比5:95になるように混合し、炭素繊維用サイジング剤(実施例9)を得た。
【0123】
実施例10
<ポリアミド系エラストマー水性分散液IIIの製造>
内容積が500mlのセパラブルフラスコに、ポリエーテルエステルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、商品名ペバックス2533SA01;融点134℃)16gと1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン株式会社製、商品名“イルガノックス259”)0.64gとトルエン123gとイソプロパノール61gを加え、80℃で4時間攪拌して溶解した。
【0124】
得られた有機溶液に、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム1.6gを100gの脱イオン水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、商品名“TKホモミキサー M型”)を用いて2分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ12000rpmおよび40℃に設定した。
【0125】
得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、トルエンおよびイソプロパノールを留去し、ポリアミド系エラストマー(ポリエーテルエステルブロックアミド共重合体)が分散した水性分散液を得た。当該水性分散液中のポリエーテルエステルブロックアミド共重合体濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えて調製し、ポリアミド系エラストマー水性分散液IIIを得た。この水性分散液IIIを試料として、実施例1と同様にして平均粒子径を測定したところ、1.2μmであった。
【0126】
そして、実施例1で得られたポリアミド系エラストマー水性分散液Iとポリアミド系エラストマー水性分散液IIIを質量比45:55になるように混合し、本発明の炭素繊維用サイジング剤(実施例10)を得た。
【0127】
実施例11
実施例1のポリアミド系エラストマー水性分散液Iの製造において、オートクレーブ内の内容物を冷却後、エチレン−アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液(住友精化株式会社製、商品名“ザイクセンAC”;固形分濃度29質量%、アクリル酸の共重合比率21.1%)34.3gを添加、混合した後で、水性分散液中のポリアミド系エラストマー濃度が20質量%になるように脱イオン水を加えて、ポリアミド系エラストマー水性分散液を得た。得られたポリアミド系エラストマー水性分散液と共重合ポリアミド水性分散液IIを質量比45:55になるように混合し、本発明の炭素繊維用サイジング剤(実施例11)を得た。
【0128】
比較例
共重合ポリアミド水性分散液IIを炭素繊維用サイジング剤(比較例)とした。
【0129】
評価
(炭素繊維用サイジング剤の静置安定性評価)
実施例1〜11および比較例で得られた炭素繊維用サイジング剤を、25℃に設定した恒温機に1時間保持して、25℃で安定させた後、B型回転式粘度計(回転数60rpm、ローターはNo.2、測定温度25℃)を用い、粘度を測定した。また、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD−2000J”)を用いて、実施例1と同様にして平均粒子径を測定した。
【0130】
次に、25℃に設定した恒温機に1ヶ月保存した後、同様に粘度と平均粒子径を測定することにより、それぞれの炭素繊維用サイジング剤の静置安定性を評価した。
ここで、静置安定性評価の評価基準は以下のとおりである。
◎:粘度値、粒径値ともにほとんど変化していない。(増加率20%未満程度)
○:粘度値は少し大きくなっているが(増加率50%未満程度)、粒径値はほとんど変化していない。
△:粘度値、粒径値ともに少し大きくなっている。(粘度値増加率50%超、粒径値増加率20%超)
×:粘度値、粒径値ともに大幅に大きくなっている。(増加率50%超)
【0131】
(炭素繊維束への均一含浸性の評価)
ボビンに巻かれた炭素繊維束(三菱レイヨン株式会社製の商品名“パイロフィルTR50SI5L”:フィラメント数15000本、フィラメント径7μm、目付け1000mg/m)に一定の張力(3kgf)をかけてボビンより送り出した後、実施例1〜11および比較例で得られた炭素繊維用サイジング剤を入れた含浸槽で連続的にローラー浸漬を行った後、熱風乾燥(180℃10分)を行った。ここでは、浸漬後の絞りを調整し、熱風乾燥後の各炭素繊維用サイジング剤の固形分の付着量が、付着前の炭素繊維束の質量を100質量部とした場合に対して10質量部になるように調整した。
【0132】
こうして得られた炭素繊維束の表面部と断面部を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製の商品名“JSM−6390LA”)と目視により状態観察を行うことにより、炭素繊維用サイジング剤が炭素繊維束に対して均一に付着しているか評価した。
ここで、均一含浸性の評価基準は以下のとおりである。
○:炭素繊維束に粗密なばらつきが全くなく、均一にサイジング剤が付着している。
表面に凹凸や、含浸不良によるボイド等が観察されない。
△:炭素繊維束に粗密なばらつきがほとんどなく、ほぼ均一にサイジング剤が付着している。表面に凹凸や、含浸不良によるボイド等がほとんど観察されない。
×:含浸性不良により、炭素繊維束にサイジング剤が均一に付着していない。
【0133】
【表1】

【0134】
表1から、本発明の炭素繊維用サイジング剤は、粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れ、炭素繊維束へ含浸した際に炭素繊維束への均一に付着し得る炭素繊維用サイジング剤であることが分かった。一方、比較例による炭素繊維サイジング剤は、炭素繊維束への均一付着という点では全く使用できないレベルではないが、静置安定性が不安定であり、製造後、経時的に粘度や粒子径が大きくなる等の問題があり、実用的でないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む炭素繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記ポリアミド系エラストマーが、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造を有するブロック共重合体である請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記ポリアミド系エラストマーが、ポリエーテルブロックアミド共重合体である請求項2に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
水性媒体と、界面活性剤の存在下で前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマーを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項5】
水性媒体と、界面活性剤の存在下で前記水性媒体中に分散されたポリアミド系エラストマー及び共重合ポリアミドを含む、請求項4に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
ポリアミド系エラストマーと共重合ポリアミドの質量比が100:0〜1:99である請求項5に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項7】
前記共重合ポリアミドが6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−
ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/
11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/6
6/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロンおよび6/66/610/11/12共重合ナイロンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5又は6に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項8】
前記界面活性剤がポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4〜7のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項9】
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸との共重合体をさらに含む請求項1〜8のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の炭素繊維用サイジング剤により処理された炭素繊維又は炭素繊維束。
【請求項11】
請求項10に記載の炭素繊維又は炭素繊維束、及びマトリックス樹脂を含有する、炭素繊維強化樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−87396(P2013−87396A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231064(P2011−231064)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】