炭素繊維用分散剤、分散によって得られた炭素繊維分散液、炭素繊維分散液から誘導される導電性複合材料、導電性塗料、塗装方法並びに当該方法で塗装された物品
【課題】
樹脂材料と炭素繊維とを混合する混合技術において、樹脂溶液中での炭素繊維の分散性を向上させることを特徴とした炭素繊維用分散剤及び前記分散剤を用いた複合材料、塗膜を作成できる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】
樹脂溶液に炭素繊維及び一般式(1)で表される炭素繊維用分散剤を入れ、分散処理を施すことにより、炭素繊維が均一に分散および解繊した導電性複合材料・塗料を作製する。
樹脂材料と炭素繊維とを混合する混合技術において、樹脂溶液中での炭素繊維の分散性を向上させることを特徴とした炭素繊維用分散剤及び前記分散剤を用いた複合材料、塗膜を作成できる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】
樹脂溶液に炭素繊維及び一般式(1)で表される炭素繊維用分散剤を入れ、分散処理を施すことにより、炭素繊維が均一に分散および解繊した導電性複合材料・塗料を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を良好に分散および解繊する炭素繊維用分散剤、炭素繊維分散液、導電性複合材料、導電性塗料、導電性塗料を用いた塗装方法、当該方法により得られる炭素繊維含有樹脂膜並びに、当該樹脂膜が塗装された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発見された炭素繊維は直径1μm以下の太さのチューブ状材料であり、理想的なものとしては炭素6角網目の面がチューブの軸に平行な管を形成し、さらにこの管が二層、三層、四層又は多層になることもある。この炭素繊維は炭素でできた6角網目の数や、チューブの太さによって異なる性質を有する。そのためそれらの化学的特性、電気的特性、機械的特性、熱伝導性、構造特性等の物性を利用して、電子デバイス、電気配線、熱電変換素子材料、建材用放熱材料、電磁波吸収材料、フラットパネルディスプレイ用電界放出陰極材料、電極接合材料、樹脂複合材料、透明導電膜、触媒担持材料、電極・水素貯蔵材、補強材料及び黒色顔料等への応用が期待されている。
【0003】
電子デバイス製造においてはインクジェット方式による集積回路(LSI、超LSI等)の微細配線の作製、スクリーン印刷や吹き付け方式による均質な電界放出陰極源の製造及びフラットパネルディスプレイへの応用、導電性セラミックス製造等の研究が行われている。
【0004】
導電性材料製造においては圧縮、注型、射出、押出又は延伸方式による帯電防止板の作製、導電性塗料を用いてミクロンオーダーの帯電防止膜、制電膜または静電塗装用導電性プライマー膜の作製、吹き付け方式、スピンコーターまたはバーコーター方式によるサブミクロンオーダーの半透明または透明導電性薄膜作製検討等の研究が盛んに行われている。
【0005】
炭素繊維を用いて、以上のような機械的、機能的及び複合的材料を製造する際には、炭素繊維が溶液、樹脂溶液または樹脂に均一に分散されていることが必須である。
【0006】
しかし炭素繊維は、特性として非常に強い繊維間相互の凝集力(ファンデルワールス力)を有しているため、溶液、樹脂溶液又は樹脂において、炭素繊維同士が凝集してしまい、炭素繊維が十分に分散した溶液、樹脂溶液又は樹脂を製造しにくいのが現状である。これは炭素繊維の原子レベルでの滑らかな表面が樹脂溶液に対する親和性を大きく低下させてしまうからである。
【0007】
したがって、炭素繊維は特異で有用な性質があるにもかかわらず、これを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、各種用途への応用を事実上困難にしている。以下に報告されている、いくつかの試みについて記述する。
【0008】
炭素繊維の分散溶媒としては、水溶性溶媒や有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が利用できることが開示されている。例えば、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、アルコール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン等である(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
またアミド系極性有機溶媒であるN−メチルピロリドンとポリマー溶媒であるポリビニルピロリドンの混合溶媒中で炭素繊維を分散する方法(例えば、特許文献2参照)も開示されている。さらに炭化水素系溶媒中に塩基性高分子としてポリエステル酸アマイドアミン塩を分散剤として用いた炭素繊維の分散方法(例えば、特許文献3参照)等も開示されている。
【0010】
しかし上記の方法で得られた、炭素繊維分散溶液は炭素繊維の凝集物は良好に分散しているが、炭素繊維が解繊している状態ではないものが多い。また得られた炭素繊維分散液に樹脂を溶解させると、樹脂を添加した事による極性の変化等が要因となり、炭素繊維が再凝集を起こし、炭素繊維が十分に分散した樹脂溶液が得られないのが現状である。
【0011】
また界面活性剤のような添加剤を用いた炭素繊維の分散方法も開示されている。界面活性剤として非イオン系界面活性剤であるTergitol(商標)NP7を用いた提案であるが、炭素繊維の配合量が増加すると、炭素繊維が凝集してしまい、均一な分散が得られない事が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、単層の炭素繊維を陰イオン性界面活性剤SDS水溶液中で超音波処理することにより、炭素繊維の疎水性表面と界面活性剤の疎水部を吸着させ、外側に親水部を形成して水溶液中に分散することも報告されている(例えば、非特許文献2参照)
【0012】
しかし、水溶性溶媒であるため、例えば、ポリマー系ナノコンポジットに応用する際、適用できる高分子は水溶性高分子に限られてしまい、応用範囲に限界がある。
【0013】
さらに界面活性剤の替わりに水溶性高分子PVPの疎水部分を炭素繊維の表面につける方法も提案されているが、やはり水溶性高分子であって応用範囲は限られている(例えば、特許文献3参照)。
【0014】
このように、炭素繊維の樹脂溶液に対する分散性を改善するために様々な試みがなされているが、必ずしも十分な効果を得ていないのが現状である。
【0015】
【特許文献1】特開2000−72422号公報
【特許文献2】特開2005−162877号公報
【特許文献3】特開2006−63436号公報
【非特許文献1】S.Cui et al. Carbon 41,2003,797−809
【非特許文献2】Michael J. O'Connel et al. SCIENCE VOL297 26 July 2002,593−596
【非特許文献3】Michael J. O'Connel et al. CHEMICAL PHYSICS LETTERS,13 July 2001, 264−271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、他に類を見ない程、高い凝集力を有する炭素繊維を樹脂の有機溶剤溶液中において均一に分散および解繊させる事を可能にする炭素繊維用分散剤、分散によって得られた炭素繊維分散液、炭素繊維分散液から誘導される導電性複合材料、導電性塗料、塗装方法、炭素繊維が均一に分散された炭素繊維含有樹脂膜及びそれらが塗装された物品を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、樹脂の有機溶剤溶液中において炭素繊維を均一に分散させるために、下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物が優れた炭素繊維用分散剤となる事を見出し、本発明の完成に至った。即ち、本発明は、以下の内容で構成されている。
[1] 有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0018】
【化1】
〔式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR5とR6が結合して環を形成してもよい。R7は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0019】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(2)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0020】
【化2】
〔式中R5、R6およびR7は一般式(1)で定義したものと同一の基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0021】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(3)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0022】
【化3】
〔式中R8は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR9は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、アルキルカルボニル基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換の複素環基、無置換もしくは置換のピラノシル基または無置換もしくは置換のフラノシル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0023】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(4)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0024】
【化4】
〔式中R10は水素原子または無置換または置換の炭素原子が1〜30のアルキル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y=65〜85:15〜35である。〕
[2]有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を含有する炭素繊維分散液である。
【0025】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である炭素繊維用分散剤である。
【0026】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に、一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を用いて炭素繊維を分散させた炭素繊維分散液である。
【0027】
前記炭素繊維分散液にさらに着色剤を添加する炭素繊維分散液である。
【0028】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である炭素繊維分散液である。
【0029】
前記有機溶剤可溶性樹脂を溶解する有機溶剤がケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤から選択される一種以上の溶剤である炭素繊維分散液である。
【0030】
前記着色剤が無機顔料である炭素繊維分散液である。
【0031】
前記炭素繊維が外形0.5〜800nmの炭素繊維から構成される炭素繊維分散液である。
【0032】
炭素繊維が単層炭素繊維、二層炭素繊維、または多層炭素繊維である炭素繊維分散液である。
【0033】
炭素繊維が外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであって前記炭素繊維外形の1.3倍以上の大きさを有するものである炭素繊維分散液である。
[3]前記炭素繊維分散液を用いて得られる導電性複合材料である。
[4]前記導電性複合材料が導電性塗料である。
[5]前記導電性塗料を用いて被塗装面に対して塗装する導電性塗料の塗装方法である。
[6]前記導電性塗料の塗装方法で製膜する炭素繊維含有樹脂膜である。
[7]前記炭素繊維含有樹脂膜が前記導電性塗料を塗装することによって表面に製膜された物品である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の炭素繊維用分散剤は炭素繊維との間に適度な親和性を有するため、炭素繊維を樹脂溶剤溶液中に均一に分散及び解繊させる事ができる。本発明の炭素繊維分散液を使用して得られた炭素繊維樹脂膜の導電性も良好である。また、例えば無機材料、顔料又は他のフィラー等の材料と混合する場合においても、本発明の分散剤を利用する事によって容易に炭素繊維分散液を調整する事ができ、炭素繊維本来の機能を樹脂中に分散した状態で十分に発揮させる事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の有機溶剤可溶性樹脂としては、例えば、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化エチレン−プロピレン共重合体、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体等の塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−アセトニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ASA樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、PC−ABSアロイ、PC−AESアロイ等のスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、環状ポリオレフィン共重合体、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロースおよびこれらを変性した樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用する有機溶剤を以下に挙げるが、特にこれらに限定されるものではない。例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロヘキサノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カービトール、ブチルカービトール、メトキシブタノール)及びエステルエーテル類(酢酸セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸カービトール、酢酸メトキシブチル)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン)、脂肪族炭化水素類(ミネラルスピリット)、脂環族炭化水素(テレビン油)、混合炭化水素(HAWS、ソルベット100、ソルベット150)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホン)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル)、シリコーンオイル類(ポリジメチルシロキサン、部分オクチル置換ポリジメチルシロキサン、部分フェニル置換ポリジメチルシロキサン)、ハロゲン化炭化水素(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、ブロモベンゼン)、フッ素化物類等が挙げられる。またこれらを2種以上混合してもよい。さらに溶剤の量は、塗料として使用するときの粘度が塗装できる適当な範囲になるように選定すればよい。
【0037】
本発明の炭素繊維においては、単層、二層及び多層の炭素繊維を示し、それぞれ目的に応じて用いる事が出来る。本発明においては、より好ましくは、多層の炭素繊維が用いられる。炭素繊維の製造方法に関しては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法及びHiPco法(High−pressure carbon monoxide process)等、従来公知のいずれの製造方法でもよい。
【0038】
例えば、レーザー蒸着法により単層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。原料としてグラファイトパウダーと、ニッケル及びコバルト微粉末混合ロットを用意した。この混合ロットを665hPa(500Torr)のアルゴン雰囲気下、電気炉により1250℃に加熱し、そこに350mJ/PulseのNd:YAGレーザーの第二高調波パルスを照射し、炭素と金属微粒子を蒸発させることにより、単層の炭素繊維を作製することができる。
【0039】
以上の作製方法は、あくまで典型例であり、金属の種類、ガスの種類、電気炉の温度、レーザーの波長等を変更してもよい。また、レーザー蒸着法以外の作製法、例えばHiPco法、気相成長法、アーク放電法、一酸化炭素の熱分解法、微細な空孔中に有機分子を挿入して熱分解するテンプレート法、フラーレン・金属共蒸着法等、他の手法によって作製された単層の炭素繊維を使用してもよい。
【0040】
例えば、定温アーク放電法により二層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。基板は表面処理されたSi基板を用い、処理方法としては触媒金属及び触媒助剤金属を溶解した溶液中に、アルミナ粉末を30分間浸し、さらに3時間超音波処理により分散させて得られた溶液をSi基板に塗布し、空気中において120℃で維持間乾燥させた。炭素繊維製造装置の反応室に基板を設置し、反応ガスとして水素とメタンの混合ガスを用い、ガスの供給量は水素を500sccm、メタンを10sccmとし、反応室の圧力を70Torrとした。陰極部はTaよりなる棒状の放電部を用いた。次に陽極部と陰極部及び陽極部と基板との間に直流電圧を印加し、放電電流が2.5Aで一定になるように放電電圧を制御した。放電により陰極部の温度が2300℃になると正規グロー放電状態から異常グロー放電状態になり、放電電流が2.5A、放電電圧が700V、反応ガス温度が3000℃の状態を10分間行うことで、基板全体に単層及び2層の炭素繊維を作製することができる。
【0041】
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、アーク放電法以外の作製法によって作製された単層の炭素繊維を使用してもよい。
【0042】
例えば、気相成長法により三次元構造を有した多層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体)を得、これをさらに高温熱処理することで多層の炭素繊維を作製することができる。
【0043】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノール等のアルコール類が使用されるが、炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、少なくとも2つ以上の炭素化合物とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成過程においては、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様を含むものである。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用い、触媒としては鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0044】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素などのCVD法を用い、原料となる炭化水素及び触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数センチから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0045】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしこの熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長を一定方向とすることなく、制御下に他方向として、三次元構造を形成することが出来るものである。なお、生成する中間体においては、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成させる上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度及びガス温度等を最適化することが好ましい。
【0046】
触媒及び炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭素物、タール分及び触媒金属を含んでいる。
【0047】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るためには、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理を行う。
【0048】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガス又は微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0049】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0050】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数センチに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維を作製する。
【0051】
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、気相成長法以外の作製法によって作製された多層の炭素繊維を使用してもよい。
【0052】
本発明の炭素繊維の添加量については、有機溶剤可溶性樹脂100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲であり、好ましくは0.2〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜12質量%である。このように炭素繊維が0.01質量%より少ない場合は、所望の導電性が得られない。また炭素繊維が20質量%以上である場合は、炭素繊維が嵩高いため、良好な樹脂膜が作製できなくなる。
【0053】
本発明の炭素繊維用分散剤においては、下記表に具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の炭素繊維用分散剤の平均重合度は、200〜8000の範囲であり、好ましくは300〜5000であり、特に好ましくは400〜3000である。このように炭素繊維用分散剤の平均重合度が200より少ない場合は、所望の性能が得られず、また炭素繊維用分散剤の平均重合度が8000以上の場合は、使用されている樹脂との相溶性が低下するため、特性を低下させる場合がある。
【0056】
本発明の炭素繊維用分散剤の組成比(X:Y:Z)については、65〜90:5〜30:0〜10の範囲が採用でき、好ましくは70〜85:10〜25:0〜8であり、特に好ましくは75〜85:15〜20:1〜5である。このように炭素繊維用分散剤においてXの組成比が65より少ない場合は、炭素繊維用分散剤の分散解繊性能が得られず、また炭素繊維用分散剤においてXの組成比が90以上の場合は、使用されている樹脂との相溶性が低下するため、特性を低下させる場合がある。
【0057】
本発明の炭素繊維用分散剤の添加量については、炭素繊維100質量%に対して0.0005〜500質量%の範囲であり、好ましくは0.015〜250質量%であり、特に好ましくは0.025〜100質量%である。このように炭素繊維用分散剤が0.0005質量%より少ない場合は、所望の性能が得られない。また炭素繊維用分散剤が500質量%以上である場合は、使用されている樹脂の特性を低下させる場合がある。
【0058】
本発明の導電性塗料には、その他の用途に応じて添加剤を加えてもよい。例えば、無機顔料、有機顔料、フィラー、ウィスカ、増粘剤、沈降防止剤、紫外線防止剤、湿潤剤、乳化剤、皮張り防止剤、重合防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分れ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤、可塑剤、耐火・防止剤、防カビ・防藻剤、抗菌剤、殺虫剤、海中防汚剤、金属表面処理剤、脱さび剤、脱脂剤、皮膜化成剤、漂白剤、着色剤、ウッドシーラー、目止め剤、サンディングシーラー、シーラー、セメントフィラー又は樹脂入りセメントペースト等が挙げられる。
【0059】
本発明で用いられる分散機においては、一般的な分散機が用いられる。例えば、ビーズミル(ダイノーミル、(株)シンマルエンタープライズ)TKラボディスパー、TKフィルミックス、TKパイプラインミクサー、TKホモミックラインミル、TKホモジェッター、TKユニミキサー、TKホモミックラインフロー、TKアジホモディスパー(以上、特殊機化工業(株))、ホモジナイザー・ポリトロン((株)セントラル科学貿易)、ホモジナイザー・ヒストロン((株)日音医理科機器製作所)、バイオミキサー((株)日本精機製作所)、ターボ型攪拌機((株)小平製作所)、ウルトラディスパー(浅田鉄鋼(株))、エバラマイルザー(荏原製作所(株))、超音波装置又は超音波洗浄機(アズワン(株))等が挙げられる。
【0060】
本発明の導電性塗料を基材に塗装する方法は、一般的な塗装方法を以下に挙げるが、特にこれらに限定するものではない。例えば、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、低圧霧化スプレー塗装、バーコーダー法による塗装、スピンコーターを用いた塗装等が挙げられる。塗膜の厚さにも特に制限はないが、硬化塗膜が0.01〜10000μmであることが好ましく、より好ましくは1〜100μmであり、特に好ましくは5〜30μmである。
【0061】
本発明の導電性塗料を上記の方法で基材に塗装して得られた炭素繊維含有樹脂膜は、常温で塗膜を乾燥させることもできる。しかし、塗膜を十分に乾燥させるためには、乾燥温度が10〜150℃に加熱することが好ましく、より好ましくは60〜120℃であり、特に好ましくは70〜120℃である。乾燥温度が10℃未満であると乾燥が十分に進まないおそれがあり、150℃を超えると、素材の変形、塗膜の黄変、膜物性低下等をまねくおそれがある。乾燥時間は、有機溶剤可溶性樹脂、溶剤および基材の種類等で考慮される。
【0062】
本発明の導電性塗料を塗布する基材については、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられ、形状についても、フィルム、シート、板、立体など様々な形状が挙げられる。
【0063】
また基材には用途に応じた特性を満足するように、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、ガラス繊維等の繊維補強剤、無機充填剤等を1種又は2種以上含有することができる。
【実施例1】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
〔実施番号1〜34〕
表2〜6に示した熱可塑性樹脂を 225gを量りとり、有機溶媒1275gに溶解させて15質量%樹脂溶液を1500g調製した。熱可塑性樹脂が室温で溶解しない場合においては、この溶液を60〜70℃に加温して溶解させた。各種樹脂を溶解させるために使用した有機溶媒は表2〜6に示したとおりである。
【0066】
ガラス瓶(柏洋硝子株式会社製)に樹脂溶液(加熱残分15%)を150g、炭素繊維(ナノカーボンテクノロジーズ株式会社製、外径40〜80nm、長さ数μm〜数十μm)をAg及び炭素繊維用分散剤として表1に示した化合物をBg入れ、超音波洗浄機(アズワン(株)製US−4A、発振周波数40kHz)を用いて、処理時間4時間の条件で分散処理を行うことにより、炭素繊維が均一に分散および解繊した導電性塗料を作製した。炭素繊維の添加量、炭素繊維用分散剤の種類及び添加量は表2〜6に示したとおりである。
【0067】
この導電性塗料を使用して、ガラス板(マツナミ(株)50x150x1.65mm)上にバーコーター法にて塗膜を作製し、120℃のホットプレートにて10分放置し、塗膜を作製した。
【0068】
<塗布性>
得られた導電性塗料をバーコーター法にて塗装する際の塗布性を下記評価方法で評価を行った。評価の基準は以下のとおり。
○:バーコーダーで容易に塗布できる
×:バーコーダーでの塗布は困難または塗布はできるが、平滑性のある膜が作製できない
【実施例2】
【0069】
得られた塗膜を用いて、塗膜中における炭素繊維の分散解繊状態の観察ならびに表面抵抗率の評価を行った。
【0070】
<塗膜中における炭素繊維の観察>
ガラス基板に作製した塗膜を光学顕微鏡(CarlZeiss社製、Axio imager. M1m)を用いて、塗膜中の炭素繊維の分散および解繊状態を観察し、以下の基準により炭素繊維の分散・解繊状態を評価した。また評価を行った際に撮影した写真については図1〜12に示し、図中に20μmの物差しを示した。
○:20μm以上の炭素繊維凝集物が観察されなかった
△:40μm以上の炭素繊維凝集物が観察されなかった
×:40μm以上の炭素繊維凝集物が観察された
【実施例3】
【0071】
<表面抵抗率>
ガラス基板に作製した塗膜を用い、四端針式抵抗率計(三菱化学(株)製Hiresta−UP、MCP−HT450)を用いて塗膜表面5箇所の抵抗(Ω)を測定した。同抵抗計により表面抵抗率(Ω/sq)に換算し、平均値を算出した。その結果は表2〜6に示したとおりである。
【0072】
(比較例1〜10)
炭素繊維用分散剤を入れない以外は、実施例と同様にして、表2〜6に示した組合せの導電性塗料を作製した。塗膜中における炭素繊維の観察は図13〜22に示した。また得られた塗膜の表面抵抗率については、平滑性の高い塗膜が得られなかったため測定は行わなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の炭素繊維用分散剤を用いることで、分散解繊性の高い炭素繊維分散液および導電性複合材料を得ることができる。そのため静電気等を好まない電子機器分野、クリーンルーム内等での帯電防止膜および放熱性樹脂膜、電波シールド膜等へ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施番号7における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施番号8における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図3】実施番号9における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図4】実施番号14における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図5】実施番号18における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図6】実施番号19における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図7】実施番号22における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図8】実施番号23における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図9】実施番号28における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例29における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図11】実施例32における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図12】実施例33における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図13】比較例1における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図14】比較例2における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図15】比較例3における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図16】比較例4における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図17】比較例5における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図18】比較例6における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図19】比較例7における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図20】比較例8における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図21】比較例9における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図22】比較例10における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を良好に分散および解繊する炭素繊維用分散剤、炭素繊維分散液、導電性複合材料、導電性塗料、導電性塗料を用いた塗装方法、当該方法により得られる炭素繊維含有樹脂膜並びに、当該樹脂膜が塗装された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発見された炭素繊維は直径1μm以下の太さのチューブ状材料であり、理想的なものとしては炭素6角網目の面がチューブの軸に平行な管を形成し、さらにこの管が二層、三層、四層又は多層になることもある。この炭素繊維は炭素でできた6角網目の数や、チューブの太さによって異なる性質を有する。そのためそれらの化学的特性、電気的特性、機械的特性、熱伝導性、構造特性等の物性を利用して、電子デバイス、電気配線、熱電変換素子材料、建材用放熱材料、電磁波吸収材料、フラットパネルディスプレイ用電界放出陰極材料、電極接合材料、樹脂複合材料、透明導電膜、触媒担持材料、電極・水素貯蔵材、補強材料及び黒色顔料等への応用が期待されている。
【0003】
電子デバイス製造においてはインクジェット方式による集積回路(LSI、超LSI等)の微細配線の作製、スクリーン印刷や吹き付け方式による均質な電界放出陰極源の製造及びフラットパネルディスプレイへの応用、導電性セラミックス製造等の研究が行われている。
【0004】
導電性材料製造においては圧縮、注型、射出、押出又は延伸方式による帯電防止板の作製、導電性塗料を用いてミクロンオーダーの帯電防止膜、制電膜または静電塗装用導電性プライマー膜の作製、吹き付け方式、スピンコーターまたはバーコーター方式によるサブミクロンオーダーの半透明または透明導電性薄膜作製検討等の研究が盛んに行われている。
【0005】
炭素繊維を用いて、以上のような機械的、機能的及び複合的材料を製造する際には、炭素繊維が溶液、樹脂溶液または樹脂に均一に分散されていることが必須である。
【0006】
しかし炭素繊維は、特性として非常に強い繊維間相互の凝集力(ファンデルワールス力)を有しているため、溶液、樹脂溶液又は樹脂において、炭素繊維同士が凝集してしまい、炭素繊維が十分に分散した溶液、樹脂溶液又は樹脂を製造しにくいのが現状である。これは炭素繊維の原子レベルでの滑らかな表面が樹脂溶液に対する親和性を大きく低下させてしまうからである。
【0007】
したがって、炭素繊維は特異で有用な性質があるにもかかわらず、これを均一に分散したポリマー系ナノコンポジットなどを製造することは極めて困難であり、各種用途への応用を事実上困難にしている。以下に報告されている、いくつかの試みについて記述する。
【0008】
炭素繊維の分散溶媒としては、水溶性溶媒や有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が利用できることが開示されている。例えば、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、アルコール、エーテル、石油エーテル、ベンゼン、酢酸エチル、クロロホルム、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン等である(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
またアミド系極性有機溶媒であるN−メチルピロリドンとポリマー溶媒であるポリビニルピロリドンの混合溶媒中で炭素繊維を分散する方法(例えば、特許文献2参照)も開示されている。さらに炭化水素系溶媒中に塩基性高分子としてポリエステル酸アマイドアミン塩を分散剤として用いた炭素繊維の分散方法(例えば、特許文献3参照)等も開示されている。
【0010】
しかし上記の方法で得られた、炭素繊維分散溶液は炭素繊維の凝集物は良好に分散しているが、炭素繊維が解繊している状態ではないものが多い。また得られた炭素繊維分散液に樹脂を溶解させると、樹脂を添加した事による極性の変化等が要因となり、炭素繊維が再凝集を起こし、炭素繊維が十分に分散した樹脂溶液が得られないのが現状である。
【0011】
また界面活性剤のような添加剤を用いた炭素繊維の分散方法も開示されている。界面活性剤として非イオン系界面活性剤であるTergitol(商標)NP7を用いた提案であるが、炭素繊維の配合量が増加すると、炭素繊維が凝集してしまい、均一な分散が得られない事が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、単層の炭素繊維を陰イオン性界面活性剤SDS水溶液中で超音波処理することにより、炭素繊維の疎水性表面と界面活性剤の疎水部を吸着させ、外側に親水部を形成して水溶液中に分散することも報告されている(例えば、非特許文献2参照)
【0012】
しかし、水溶性溶媒であるため、例えば、ポリマー系ナノコンポジットに応用する際、適用できる高分子は水溶性高分子に限られてしまい、応用範囲に限界がある。
【0013】
さらに界面活性剤の替わりに水溶性高分子PVPの疎水部分を炭素繊維の表面につける方法も提案されているが、やはり水溶性高分子であって応用範囲は限られている(例えば、特許文献3参照)。
【0014】
このように、炭素繊維の樹脂溶液に対する分散性を改善するために様々な試みがなされているが、必ずしも十分な効果を得ていないのが現状である。
【0015】
【特許文献1】特開2000−72422号公報
【特許文献2】特開2005−162877号公報
【特許文献3】特開2006−63436号公報
【非特許文献1】S.Cui et al. Carbon 41,2003,797−809
【非特許文献2】Michael J. O'Connel et al. SCIENCE VOL297 26 July 2002,593−596
【非特許文献3】Michael J. O'Connel et al. CHEMICAL PHYSICS LETTERS,13 July 2001, 264−271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、他に類を見ない程、高い凝集力を有する炭素繊維を樹脂の有機溶剤溶液中において均一に分散および解繊させる事を可能にする炭素繊維用分散剤、分散によって得られた炭素繊維分散液、炭素繊維分散液から誘導される導電性複合材料、導電性塗料、塗装方法、炭素繊維が均一に分散された炭素繊維含有樹脂膜及びそれらが塗装された物品を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、樹脂の有機溶剤溶液中において炭素繊維を均一に分散させるために、下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物が優れた炭素繊維用分散剤となる事を見出し、本発明の完成に至った。即ち、本発明は、以下の内容で構成されている。
[1] 有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0018】
【化1】
〔式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR5とR6が結合して環を形成してもよい。R7は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0019】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(2)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0020】
【化2】
〔式中R5、R6およびR7は一般式(1)で定義したものと同一の基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0021】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(3)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0022】
【化3】
〔式中R8は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR9は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、アルキルカルボニル基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換の複素環基、無置換もしくは置換のピラノシル基または無置換もしくは置換のフラノシル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【0023】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(4)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤である。
【0024】
【化4】
〔式中R10は水素原子または無置換または置換の炭素原子が1〜30のアルキル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y=65〜85:15〜35である。〕
[2]有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を含有する炭素繊維分散液である。
【0025】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である炭素繊維用分散剤である。
【0026】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に、一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を用いて炭素繊維を分散させた炭素繊維分散液である。
【0027】
前記炭素繊維分散液にさらに着色剤を添加する炭素繊維分散液である。
【0028】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である炭素繊維分散液である。
【0029】
前記有機溶剤可溶性樹脂を溶解する有機溶剤がケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤から選択される一種以上の溶剤である炭素繊維分散液である。
【0030】
前記着色剤が無機顔料である炭素繊維分散液である。
【0031】
前記炭素繊維が外形0.5〜800nmの炭素繊維から構成される炭素繊維分散液である。
【0032】
炭素繊維が単層炭素繊維、二層炭素繊維、または多層炭素繊維である炭素繊維分散液である。
【0033】
炭素繊維が外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであって前記炭素繊維外形の1.3倍以上の大きさを有するものである炭素繊維分散液である。
[3]前記炭素繊維分散液を用いて得られる導電性複合材料である。
[4]前記導電性複合材料が導電性塗料である。
[5]前記導電性塗料を用いて被塗装面に対して塗装する導電性塗料の塗装方法である。
[6]前記導電性塗料の塗装方法で製膜する炭素繊維含有樹脂膜である。
[7]前記炭素繊維含有樹脂膜が前記導電性塗料を塗装することによって表面に製膜された物品である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の炭素繊維用分散剤は炭素繊維との間に適度な親和性を有するため、炭素繊維を樹脂溶剤溶液中に均一に分散及び解繊させる事ができる。本発明の炭素繊維分散液を使用して得られた炭素繊維樹脂膜の導電性も良好である。また、例えば無機材料、顔料又は他のフィラー等の材料と混合する場合においても、本発明の分散剤を利用する事によって容易に炭素繊維分散液を調整する事ができ、炭素繊維本来の機能を樹脂中に分散した状態で十分に発揮させる事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の有機溶剤可溶性樹脂としては、例えば、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化エチレン−プロピレン共重合体、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体等の塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−アセトニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−マレイミド共重合体、ASA樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、PC−ABSアロイ、PC−AESアロイ等のスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、環状ポリオレフィン共重合体、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロースおよびこれらを変性した樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用する有機溶剤を以下に挙げるが、特にこれらに限定されるものではない。例えば、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロヘキサノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カービトール、ブチルカービトール、メトキシブタノール)及びエステルエーテル類(酢酸セロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸カービトール、酢酸メトキシブチル)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン)、脂肪族炭化水素類(ミネラルスピリット)、脂環族炭化水素(テレビン油)、混合炭化水素(HAWS、ソルベット100、ソルベット150)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホン)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル)、シリコーンオイル類(ポリジメチルシロキサン、部分オクチル置換ポリジメチルシロキサン、部分フェニル置換ポリジメチルシロキサン)、ハロゲン化炭化水素(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、ブロモベンゼン)、フッ素化物類等が挙げられる。またこれらを2種以上混合してもよい。さらに溶剤の量は、塗料として使用するときの粘度が塗装できる適当な範囲になるように選定すればよい。
【0037】
本発明の炭素繊維においては、単層、二層及び多層の炭素繊維を示し、それぞれ目的に応じて用いる事が出来る。本発明においては、より好ましくは、多層の炭素繊維が用いられる。炭素繊維の製造方法に関しては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法及びHiPco法(High−pressure carbon monoxide process)等、従来公知のいずれの製造方法でもよい。
【0038】
例えば、レーザー蒸着法により単層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。原料としてグラファイトパウダーと、ニッケル及びコバルト微粉末混合ロットを用意した。この混合ロットを665hPa(500Torr)のアルゴン雰囲気下、電気炉により1250℃に加熱し、そこに350mJ/PulseのNd:YAGレーザーの第二高調波パルスを照射し、炭素と金属微粒子を蒸発させることにより、単層の炭素繊維を作製することができる。
【0039】
以上の作製方法は、あくまで典型例であり、金属の種類、ガスの種類、電気炉の温度、レーザーの波長等を変更してもよい。また、レーザー蒸着法以外の作製法、例えばHiPco法、気相成長法、アーク放電法、一酸化炭素の熱分解法、微細な空孔中に有機分子を挿入して熱分解するテンプレート法、フラーレン・金属共蒸着法等、他の手法によって作製された単層の炭素繊維を使用してもよい。
【0040】
例えば、定温アーク放電法により二層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。基板は表面処理されたSi基板を用い、処理方法としては触媒金属及び触媒助剤金属を溶解した溶液中に、アルミナ粉末を30分間浸し、さらに3時間超音波処理により分散させて得られた溶液をSi基板に塗布し、空気中において120℃で維持間乾燥させた。炭素繊維製造装置の反応室に基板を設置し、反応ガスとして水素とメタンの混合ガスを用い、ガスの供給量は水素を500sccm、メタンを10sccmとし、反応室の圧力を70Torrとした。陰極部はTaよりなる棒状の放電部を用いた。次に陽極部と陰極部及び陽極部と基板との間に直流電圧を印加し、放電電流が2.5Aで一定になるように放電電圧を制御した。放電により陰極部の温度が2300℃になると正規グロー放電状態から異常グロー放電状態になり、放電電流が2.5A、放電電圧が700V、反応ガス温度が3000℃の状態を10分間行うことで、基板全体に単層及び2層の炭素繊維を作製することができる。
【0041】
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、アーク放電法以外の作製法によって作製された単層の炭素繊維を使用してもよい。
【0042】
例えば、気相成長法により三次元構造を有した多層の炭素繊維を作製する方法を以下に示す。基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体)を得、これをさらに高温熱処理することで多層の炭素繊維を作製することができる。
【0043】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノール等のアルコール類が使用されるが、炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、少なくとも2つ以上の炭素化合物とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成過程においては、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様を含むものである。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用い、触媒としては鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0044】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素などのCVD法を用い、原料となる炭化水素及び触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数センチから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0045】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしこの熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長を一定方向とすることなく、制御下に他方向として、三次元構造を形成することが出来るものである。なお、生成する中間体においては、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成させる上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度及びガス温度等を最適化することが好ましい。
【0046】
触媒及び炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭素物、タール分及び触媒金属を含んでいる。
【0047】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るためには、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理を行う。
【0048】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガス又は微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0049】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0050】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数センチに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維を作製する。
【0051】
以上の作製方法は、あくまで一例であり、金属の種類、ガスの種類等、諸条件を変更してもよい。また、気相成長法以外の作製法によって作製された多層の炭素繊維を使用してもよい。
【0052】
本発明の炭素繊維の添加量については、有機溶剤可溶性樹脂100質量%に対して0.01〜20質量%の範囲であり、好ましくは0.2〜15質量%であり、より好ましくは0.5〜12質量%である。このように炭素繊維が0.01質量%より少ない場合は、所望の導電性が得られない。また炭素繊維が20質量%以上である場合は、炭素繊維が嵩高いため、良好な樹脂膜が作製できなくなる。
【0053】
本発明の炭素繊維用分散剤においては、下記表に具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の炭素繊維用分散剤の平均重合度は、200〜8000の範囲であり、好ましくは300〜5000であり、特に好ましくは400〜3000である。このように炭素繊維用分散剤の平均重合度が200より少ない場合は、所望の性能が得られず、また炭素繊維用分散剤の平均重合度が8000以上の場合は、使用されている樹脂との相溶性が低下するため、特性を低下させる場合がある。
【0056】
本発明の炭素繊維用分散剤の組成比(X:Y:Z)については、65〜90:5〜30:0〜10の範囲が採用でき、好ましくは70〜85:10〜25:0〜8であり、特に好ましくは75〜85:15〜20:1〜5である。このように炭素繊維用分散剤においてXの組成比が65より少ない場合は、炭素繊維用分散剤の分散解繊性能が得られず、また炭素繊維用分散剤においてXの組成比が90以上の場合は、使用されている樹脂との相溶性が低下するため、特性を低下させる場合がある。
【0057】
本発明の炭素繊維用分散剤の添加量については、炭素繊維100質量%に対して0.0005〜500質量%の範囲であり、好ましくは0.015〜250質量%であり、特に好ましくは0.025〜100質量%である。このように炭素繊維用分散剤が0.0005質量%より少ない場合は、所望の性能が得られない。また炭素繊維用分散剤が500質量%以上である場合は、使用されている樹脂の特性を低下させる場合がある。
【0058】
本発明の導電性塗料には、その他の用途に応じて添加剤を加えてもよい。例えば、無機顔料、有機顔料、フィラー、ウィスカ、増粘剤、沈降防止剤、紫外線防止剤、湿潤剤、乳化剤、皮張り防止剤、重合防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分れ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤、可塑剤、耐火・防止剤、防カビ・防藻剤、抗菌剤、殺虫剤、海中防汚剤、金属表面処理剤、脱さび剤、脱脂剤、皮膜化成剤、漂白剤、着色剤、ウッドシーラー、目止め剤、サンディングシーラー、シーラー、セメントフィラー又は樹脂入りセメントペースト等が挙げられる。
【0059】
本発明で用いられる分散機においては、一般的な分散機が用いられる。例えば、ビーズミル(ダイノーミル、(株)シンマルエンタープライズ)TKラボディスパー、TKフィルミックス、TKパイプラインミクサー、TKホモミックラインミル、TKホモジェッター、TKユニミキサー、TKホモミックラインフロー、TKアジホモディスパー(以上、特殊機化工業(株))、ホモジナイザー・ポリトロン((株)セントラル科学貿易)、ホモジナイザー・ヒストロン((株)日音医理科機器製作所)、バイオミキサー((株)日本精機製作所)、ターボ型攪拌機((株)小平製作所)、ウルトラディスパー(浅田鉄鋼(株))、エバラマイルザー(荏原製作所(株))、超音波装置又は超音波洗浄機(アズワン(株))等が挙げられる。
【0060】
本発明の導電性塗料を基材に塗装する方法は、一般的な塗装方法を以下に挙げるが、特にこれらに限定するものではない。例えば、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、低圧霧化スプレー塗装、バーコーダー法による塗装、スピンコーターを用いた塗装等が挙げられる。塗膜の厚さにも特に制限はないが、硬化塗膜が0.01〜10000μmであることが好ましく、より好ましくは1〜100μmであり、特に好ましくは5〜30μmである。
【0061】
本発明の導電性塗料を上記の方法で基材に塗装して得られた炭素繊維含有樹脂膜は、常温で塗膜を乾燥させることもできる。しかし、塗膜を十分に乾燥させるためには、乾燥温度が10〜150℃に加熱することが好ましく、より好ましくは60〜120℃であり、特に好ましくは70〜120℃である。乾燥温度が10℃未満であると乾燥が十分に進まないおそれがあり、150℃を超えると、素材の変形、塗膜の黄変、膜物性低下等をまねくおそれがある。乾燥時間は、有機溶剤可溶性樹脂、溶剤および基材の種類等で考慮される。
【0062】
本発明の導電性塗料を塗布する基材については、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられ、形状についても、フィルム、シート、板、立体など様々な形状が挙げられる。
【0063】
また基材には用途に応じた特性を満足するように、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、ガラス繊維等の繊維補強剤、無機充填剤等を1種又は2種以上含有することができる。
【実施例1】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
〔実施番号1〜34〕
表2〜6に示した熱可塑性樹脂を 225gを量りとり、有機溶媒1275gに溶解させて15質量%樹脂溶液を1500g調製した。熱可塑性樹脂が室温で溶解しない場合においては、この溶液を60〜70℃に加温して溶解させた。各種樹脂を溶解させるために使用した有機溶媒は表2〜6に示したとおりである。
【0066】
ガラス瓶(柏洋硝子株式会社製)に樹脂溶液(加熱残分15%)を150g、炭素繊維(ナノカーボンテクノロジーズ株式会社製、外径40〜80nm、長さ数μm〜数十μm)をAg及び炭素繊維用分散剤として表1に示した化合物をBg入れ、超音波洗浄機(アズワン(株)製US−4A、発振周波数40kHz)を用いて、処理時間4時間の条件で分散処理を行うことにより、炭素繊維が均一に分散および解繊した導電性塗料を作製した。炭素繊維の添加量、炭素繊維用分散剤の種類及び添加量は表2〜6に示したとおりである。
【0067】
この導電性塗料を使用して、ガラス板(マツナミ(株)50x150x1.65mm)上にバーコーター法にて塗膜を作製し、120℃のホットプレートにて10分放置し、塗膜を作製した。
【0068】
<塗布性>
得られた導電性塗料をバーコーター法にて塗装する際の塗布性を下記評価方法で評価を行った。評価の基準は以下のとおり。
○:バーコーダーで容易に塗布できる
×:バーコーダーでの塗布は困難または塗布はできるが、平滑性のある膜が作製できない
【実施例2】
【0069】
得られた塗膜を用いて、塗膜中における炭素繊維の分散解繊状態の観察ならびに表面抵抗率の評価を行った。
【0070】
<塗膜中における炭素繊維の観察>
ガラス基板に作製した塗膜を光学顕微鏡(CarlZeiss社製、Axio imager. M1m)を用いて、塗膜中の炭素繊維の分散および解繊状態を観察し、以下の基準により炭素繊維の分散・解繊状態を評価した。また評価を行った際に撮影した写真については図1〜12に示し、図中に20μmの物差しを示した。
○:20μm以上の炭素繊維凝集物が観察されなかった
△:40μm以上の炭素繊維凝集物が観察されなかった
×:40μm以上の炭素繊維凝集物が観察された
【実施例3】
【0071】
<表面抵抗率>
ガラス基板に作製した塗膜を用い、四端針式抵抗率計(三菱化学(株)製Hiresta−UP、MCP−HT450)を用いて塗膜表面5箇所の抵抗(Ω)を測定した。同抵抗計により表面抵抗率(Ω/sq)に換算し、平均値を算出した。その結果は表2〜6に示したとおりである。
【0072】
(比較例1〜10)
炭素繊維用分散剤を入れない以外は、実施例と同様にして、表2〜6に示した組合せの導電性塗料を作製した。塗膜中における炭素繊維の観察は図13〜22に示した。また得られた塗膜の表面抵抗率については、平滑性の高い塗膜が得られなかったため測定は行わなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の炭素繊維用分散剤を用いることで、分散解繊性の高い炭素繊維分散液および導電性複合材料を得ることができる。そのため静電気等を好まない電子機器分野、クリーンルーム内等での帯電防止膜および放熱性樹脂膜、電波シールド膜等へ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施番号7における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施番号8における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図3】実施番号9における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図4】実施番号14における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図5】実施番号18における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図6】実施番号19における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図7】実施番号22における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図8】実施番号23における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図9】実施番号28における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例29における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図11】実施例32における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図12】実施例33における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図13】比較例1における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図14】比較例2における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図15】比較例3における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図16】比較例4における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図17】比較例5における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図18】比較例6における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図19】比較例7における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図20】比較例8における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図21】比較例9における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【図22】比較例10における炭素繊維含有樹脂膜の光学顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化1】
〔式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR5とR6が結合して環を形成してもよい。R7は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項2】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(2)で表される構造単位を有する化合物である請求項1記載の炭素繊維用分散剤。
【化2】
〔式中R5、R6およびR7は請求項1で定義したものと同一の基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項3】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(3)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化3】
〔式中R8は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR9は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、アルキルカルボニル基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換の複素環基、無置換もしくは置換のピラノシル基または無置換もしくは置換のフラノシル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項4】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(4)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化4】
〔式中R10は水素原子または無置換または置換の炭素原子が1〜30のアルキル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y=65〜85:15〜35である。〕
【請求項5】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を含有する事を特徴とする炭素繊維分散液。
【請求項6】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維用分散剤。
【請求項7】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に、一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を用いて炭素繊維を分散させた炭素繊維分散液。
【請求項8】
前記炭素繊維分散液にさらに着色剤を添加する事を特徴とする、請求項7記載の炭素繊維分散液。
【請求項9】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である事を特徴とする請求項7または8記載の炭素繊維分散液。
【請求項10】
前記有機溶剤可溶性樹脂を溶解する有機溶剤がケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤から選択される一種以上の溶剤である事を特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項11】
前記着色剤が無機顔料である事を特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項12】
前記炭素繊維が外形0.5〜800nmの炭素繊維から構成される事を特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項13】
炭素繊維が単層炭素繊維、二層炭素繊維、または多層炭素繊維であることを特徴とする請求項12記載の炭素繊維分散液。
【請求項14】
炭素繊維が外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであって前記炭素繊維外形の1.3倍以上の大きさを有するものである事を特徴とする請求項12または13記載の炭素繊維分散液。
【請求項15】
請求項7〜14に記載の炭素繊維分散液を用いて得られた事を特徴とする導電性複合材料。
【請求項16】
前記導電性複合材料が導電性塗料である請求項15記載の導電性複合材料。
【請求項17】
請求項16に記載の導電性塗料を用いて被塗装面に対して塗装することを特徴とする導電性塗料の塗装方法。
【請求項18】
請求項17に記載の導電性塗料の塗装方法で製膜することを特徴とする炭素繊維含有樹脂膜。
【請求項19】
請求項18に記載の炭素繊維含有樹脂膜が前記導電性塗料を塗装することによって表面に製膜された物品。
【請求項1】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(1)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化1】
〔式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子、水酸基、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボキシル基、アシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR5とR6が結合して環を形成してもよい。R7は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、第1〜3級アミノ基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のアリールオキシ基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項2】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(2)で表される構造単位を有する化合物である請求項1記載の炭素繊維用分散剤。
【化2】
〔式中R5、R6およびR7は請求項1で定義したものと同一の基を表す。また平均重合度は200〜8000であり、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項3】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(3)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化3】
〔式中R8は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、無置換もしくは置換のアリール基または無置換もしくは置換の複素環基を表す。またR9は水素原子、無置換もしくは置換の炭素原子が1〜30のアルキル基、アルキルカルボニル基、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換の複素環基、無置換もしくは置換のピラノシル基または無置換もしくは置換のフラノシル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y:Z=65〜90:5〜30:0〜10である。〕
【請求項4】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する下記一般式(4)で表される構造単位を有する化合物である炭素繊維用分散剤。
【化4】
〔式中R10は水素原子または無置換または置換の炭素原子が1〜30のアルキル基を表す。また平均重合度は200〜8000を表し、前記構造単位内の組成比は、X:Y=65〜85:15〜35である。〕
【請求項5】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に炭素繊維を分散させる際に、分散性を向上させるために添加する一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を含有する事を特徴とする炭素繊維分散液。
【請求項6】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維用分散剤。
【請求項7】
有機溶剤可溶性樹脂の有機溶剤溶液中に、一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種以上からなる炭素繊維用分散剤を用いて炭素繊維を分散させた炭素繊維分散液。
【請求項8】
前記炭素繊維分散液にさらに着色剤を添加する事を特徴とする、請求項7記載の炭素繊維分散液。
【請求項9】
前記有機溶剤可溶性樹脂がポリスチレンまたはスチレン共重合体である事を特徴とする請求項7または8記載の炭素繊維分散液。
【請求項10】
前記有機溶剤可溶性樹脂を溶解する有機溶剤がケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤から選択される一種以上の溶剤である事を特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項11】
前記着色剤が無機顔料である事を特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項12】
前記炭素繊維が外形0.5〜800nmの炭素繊維から構成される事を特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の炭素繊維分散液。
【請求項13】
炭素繊維が単層炭素繊維、二層炭素繊維、または多層炭素繊維であることを特徴とする請求項12記載の炭素繊維分散液。
【請求項14】
炭素繊維が外径15〜100nmの炭素繊維から構成されるネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであって前記炭素繊維外形の1.3倍以上の大きさを有するものである事を特徴とする請求項12または13記載の炭素繊維分散液。
【請求項15】
請求項7〜14に記載の炭素繊維分散液を用いて得られた事を特徴とする導電性複合材料。
【請求項16】
前記導電性複合材料が導電性塗料である請求項15記載の導電性複合材料。
【請求項17】
請求項16に記載の導電性塗料を用いて被塗装面に対して塗装することを特徴とする導電性塗料の塗装方法。
【請求項18】
請求項17に記載の導電性塗料の塗装方法で製膜することを特徴とする炭素繊維含有樹脂膜。
【請求項19】
請求項18に記載の炭素繊維含有樹脂膜が前記導電性塗料を塗装することによって表面に製膜された物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−248412(P2008−248412A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89253(P2007−89253)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
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