説明

炭素繊維紡績糸織物、炭素繊維前駆体紡績糸織物及び炭素繊維紡績糸織物の製造方法

【課題】厚みの小さい、炭素繊維紡績糸織物とその製造方法、および該炭素繊維紡績糸織物の原料となる炭素繊維前駆体紡績糸織物を提供する。
【解決手段】少なくとも緯糸となる炭素繊維前駆体紡績糸は、炭素繊維前駆体繊維と、該炭素繊維前駆体繊維と混紡され又は合撚される消失性繊維とを原料とする。該炭素繊維前駆体紡績糸織物を原料とする炭素繊維紡績糸織物は、厚み50〜300μm、目隙度2〜20%であって、剛軟度及び電気抵抗値が特定の範囲にあり、炭素繊維紡績糸のメートル番手は、1/50〜200Nmの単糸と2/100〜2/400Nmの双糸とからなる群から選ばれる。この炭素繊維紡績糸織物は、燃料電池のガス拡散電極用に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維紡績糸織物、炭素繊維前駆体紡績糸織物及び炭素繊維紡績糸織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、特に固体高分子型燃料電池は、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを反応させることにより発電を行う装置である。このような燃料電池は、一般的に交換膜の両面に、それぞれ触媒層と、ガス拡散電極と、セパレータとが順次配置された構造を有している。
【0003】
燃料電池のガス拡散電極は、燃料ガス又は酸化ガスを拡散し触媒層に供給する機能を担う。燃料電池のガス拡散電極の基材としては、一般的に、導電性を有するシート状の炭素繊維である炭素繊維紡績糸織物や、多孔質のペーパーやフェルトなどが使用されている。
【0004】
ガス拡散電極基材として炭素繊維紡績糸織物を使用する場合、触媒層は、触媒とその触媒が担持される炭素粉体とが、炭素繊維紡績糸織物の一面に塗布されることにより形成される。従って、炭素繊維紡績糸織物には触媒層を坦持するための強度が必要である。
【0005】
ガス拡散電極基材は、燃料ガスと酸化ガスの反応によって触媒層で生じた水を、セパレータ側へ排出する機能も担う。そのため、ガス拡散電極基材として使用される炭素繊維紡績糸織物には、電気抵抗値が低いことに加え、十分な通気性、排水性が求められる。従って、炭素繊維紡績糸織物は、所定の強度を確保した上で、通気性や排水性を備える観点からその厚みを小さくすることが望まれる。
【0006】
また近年、燃料電池は自動車用途の需要が高まっている。そのため、自動車のように設置スペースに制約がある用途で利用できる小型の燃料電池の製造を実現する観点からも、燃料電池の小型化に寄与する厚みの小さい炭素繊維紡績糸織物の製造が望まれている。
【0007】
厚みの小さい炭素繊維紡績糸織物を製造する方法として、細い炭素繊維紡績糸を用いて製織することが提案されている。しかし、この場合、糸切れが起こって製織加工が難しい場合がある。
【0008】
他の方法として特許文献1では、酸化繊維と熱可塑性繊維とを混紡紡績されてなる紡績糸を用いる熱可塑性繊維混合酸化繊維を原料とする炭素繊維紡績糸織物が提案されている。この提案では、カレンダー処理を併用することにより炭素繊維紡績糸織物の厚みを0.14〜0.6mmにすることができる。しかし、カレンダー処理による繊維損傷により、炭素化後の炭素繊維紡績糸織物の強力が低下する。また、焼成後の剛性が大きくなり、剛軟度が大きくなる。つまり柔軟性が高く、厚みの小さい炭素繊維紡績糸織物を製造できない。
【0009】
特許文献2では、長径が短径の2倍以上の長さがある炭素質繊維の糸で構成された炭素質繊維織布が提案されている。この炭素質繊維糸を利用する炭素質繊維織布の製造では、プレス処理が必須と考えられる。しかし、このプレス処理により繊維が損傷し、炭素化後の強力が低下する。また、この炭素繊維織布はバインダーの炭化物で繊維間を結着させている為、伸度が低くなり脆くなる。その結果として、ガス拡散電極の製造時の撥水処理や触媒コーティング処理時に繊維が破断しやすいこと等が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007―第39843号公報
【特許文献2】特開2004−第100102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的とするところは、厚みの小さい炭素繊維紡績糸織物とその製造方法、および該炭素繊維紡績糸織物の原料となる炭素繊維前駆体紡績糸織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題について鋭意検討しているうち、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製造する段階では、炭素繊維前駆体紡績糸に、所定の太さを持たせることで紡績や製織工程に必要な強力を保持し、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織後は、該炭素繊維前駆体紡績糸に含有される成分を減少させ、または消失させる工程を経ることで、厚みの小さい炭素繊維紡績糸織物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、厚み50〜300μm、目付10〜80g/m、剛軟度10mNcm以下、電気抵抗値200mΩ/cm以下、目隙度2〜20%の炭素繊維紡績糸織物であって、該炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸のメートル番手は1/50〜1/200Nmの単糸と、2/100〜2/400Nmの双糸と、からなる群から選ばれる炭素繊維紡績糸織物である。
【0014】
本発明の炭素繊維紡績糸織物は、炭素繊維前駆体紡績糸織物を所定の条件下で炭素化したものである。該炭素繊維前駆体紡績糸織物の、少なくとも緯糸となる炭素繊維前駆体紡績糸は、炭素繊維前駆体繊維と、該炭素繊維前駆体繊維と混紡され又は合撚される消失性繊維とを原料とする消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸である。
【0015】
消失性繊維は、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織した後、該炭素繊維前駆体紡績糸から消失しうる成分からなる。消失性繊維としては、100℃以下の水に溶出する水溶性繊維や、低残炭繊維が好ましい。低残炭繊維は、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃の焼成条件で、非溶融であり、かつ焼成後の残渣が10質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体ステープルであり、該炭素繊維前駆体ステープルと混紡される水溶性繊維は、水溶性繊維ステープルであり、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸における、該水溶性繊維ステープルの混紡比率は、10〜50質量%であることが好ましい。
【0017】
また、本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドであり、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドと合撚される水溶性繊維は、水溶性繊維紡績糸または水溶性繊維ストランドであることが好ましい。
【0018】
本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体ステープルであり、該炭素繊維前駆体ステープルと混紡される低残炭繊維は、低残炭繊維ステープルであり、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸における、該低残炭繊維ステープルの混紡比率は、10〜50質量%であることが好ましい。
【0019】
また、本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドであり、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドと合撚される低残炭繊維は、低残炭繊維紡績糸または低残炭繊維ストランドであることが好ましい。
【0020】
本発明は、上記の水溶性繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸を少なくとも緯糸として用いて炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織し、該炭素繊維前駆体紡績糸織物を100℃以下の水に浸漬して、該炭素繊維前駆体紡績糸織物から該水溶性繊維のみを溶解して消失させる精錬を行い、該水溶性繊維を消失させた該炭素繊維前駆体紡績糸織物を、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃で0.5〜10分間焼成して炭素化して炭素繊維紡績糸織物を製造する、炭素繊維紡績糸織物の製造方法を包含する。該炭素繊維紡績糸織物の製造方法により製造される炭素繊維紡績糸織物は、厚み50〜300μm、目付10〜80g/m、剛軟度10mNcm以下、電気抵抗値200mΩ/cm以下、目隙度2〜20%である。また、該炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸のメートル番手は、1/50〜1/200Nmの単糸と、2/100〜2/400Nmの双糸と、からなる群から選ばれる。
【0021】
本発明は、上記の低残炭繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸を少なくとも緯糸として用いて、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織し、該炭素繊維前駆体紡績糸織物を、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃で0.5〜10分間焼成して、該炭素繊維前駆体紡績糸織物から該低残炭繊維を減少させると共に、該炭素繊維前駆体紡績糸織物を炭素化して炭素繊維紡績糸織物を製造する、炭素繊維紡績糸織物の製造方法を包含する。該炭素繊維紡績糸織物の製造方法により製造される炭素繊維紡績糸織物は、厚み50〜300μm、目付10〜80g/m、剛軟度10mNcm以下、電気抵抗値200mΩ/cm以下、目隙度2〜20%である。また、該炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸のメートル番手は、1/50〜1/200Nmの単糸と、2/100〜2/400Nmの双糸と、からなる群から選ばれる。
【0022】
本発明は、燃料電池のガス拡散電極や、苛性ソーダ製造用ガス拡散電極などの電極材として用いられる炭素繊維紡績糸織物と、該炭素繊維紡績糸織物の製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の炭素繊維紡績糸織物は、厚みが小さく、目隙度が大きい。従って、本発明の炭素繊維紡績糸織物を燃料電池のガス拡散電極として用いることにより、燃料電池の小型化を実現し、設計自由度の高いスタックを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の厚さは、50〜300μmであり、100〜200μmがより好ましい。50μm未満の場合は、ガス拡散電極の加工に必要な強度が不足する。300μmを超える場合、燃料電池の小型化が困難になる為、好ましくない。
【0026】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の目付は、10〜80g/mである。10g/m未満の場合、炭素繊維紡績糸織物の強度が低くなるため、ガス拡散電極として使用できない。80g/mを超える場合、所望の厚みの炭素繊維紡績糸織物を得ることができない。
【0027】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の剛軟度は、10mNcm以下である。10mNcmを超える場合、外径2.54cm(1インチ)以下の紙管に巻けない、もしくは巻いたときに折れ皺が生じる等、好ましくない。
【0028】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の電気抵抗値は、200mΩ/cm以下である。200mΩ/cmを超えると、燃料電池のガス拡散電極として用いる場合には電気抵抗値が大き過ぎ、良好な燃料電池出力を得ることができない。電気抵抗値の下限は、特に制限されないが、一般的には40mΩ/cm以上である。
【0029】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の目隙度は、2〜20%であり、2.5〜15%がより好ましい。2%未満の場合は、目隙度が小さすぎるため、燃料電池の電池反応により生成される生成水を、十分に排水することができない。20%を超えると、触媒電極層を塗布する際に、目隙部分から触媒成分が染み出し、面方向のガス拡散性などが低下する。
【0030】
本発明の炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸は、単糸であっても双糸であってもよい。
【0031】
単糸の場合、そのメートル番手は1/50〜1/200Nmであり、1/60〜1/100Nmであることが好ましい。双糸の場合、そのメートル番手は2/100〜2/400Nmであり、2/120〜2/200Nmであることが好ましい。
【0032】
単糸の場合も、双糸の場合も、所定の範囲より太いメートル番手の場合は、所定の厚みの炭素繊維紡績糸織物を得ることができない。所定の範囲より細いメートル番手の場合は、強度が低いため、紡績加工時や製織時に切断が多発する。すなわち、生産性が悪く好ましくない。
【0033】
本発明において炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維の単繊維直径は4〜20μmが好ましく、5〜15μmがより好ましい。4μm未満の場合は、単繊維直径が細すぎて加工する際に繊維の切断が多発する。さらに炭素繊維紡績糸織物から炭素繊維が脱落するおそれがある。20μmを超える場合は、繊維間の接触面積が低下して、炭素繊維紡績糸織物の電気抵抗値が上昇する。その結果、これを用いて製造する燃料電池の出力が低下し、炭素化時に繊維強度が低下して炭素繊維微粉末が多量に発生する問題がある。
【0034】
炭素繊維紡績糸織物の炭素含有率は、95質量%以上が好ましい。95質量%未満の場合は電気抵抗値が大きく、燃料電池性能が低下する、また、反応時の強酸性雰囲気下で酸化劣化する問題がある。
【0035】
本発明の炭素繊維前駆体紡績糸織物は、少なくとも緯糸として、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて製織される。消失性繊維とは、該炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織した後、炭素繊維前駆体紡績糸から消失しうる成分をいい、水溶性繊維や低残炭繊維が含まれる。水溶性繊維とは、水洗処理により炭素繊維前駆体紡績糸から溶出する繊維をいう。低残炭繊維とは、炭素化処理により炭素繊維前駆体紡績糸における含有量が減少する繊維をいう。以下、水溶性繊維と低残炭繊維をあわせて、「消失性繊維」と称することがある。
【0036】
消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸は、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織加工する際に必要な強度を備える太さで紡績される。
【0037】
消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて製織された炭素繊維前駆体紡績糸織物には、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸の太さに由来する厚みがある。しかし、炭素繊維前駆体紡績糸に含有される消失性繊維は、水洗処理したり、加熱処理したりすることにより消失させ、あるいは減少させることができる成分である。従って、本発明の炭素繊維前駆体紡績糸織物を水洗処理したり、炭素化処理したりすると、これらの処理により得られる炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸は、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸より細くなる。従って、炭素繊維前駆体紡績糸織物の段階では厚みがあっても、炭素繊維前駆体紡績糸織物から得られる炭素繊維紡績糸織物の厚みは小さくなる。
【0038】
すなわち本発明は、炭素繊維前駆体紡績糸織物の少なくとも緯糸に、消失性繊維含有炭素繊維紡績糸を用いることにより、最終的に得られる炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸の太さを調節することができる。すなわち、炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織する段階では、炭素繊維前駆体紡績糸を太くして、炭素繊維前駆体紡績糸に、製織するために必要な強度を確保できる。これにより、破断することなく炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織することができる。製織後は、製織された炭素繊維前駆体紡績糸織物を水洗処理や炭素化処理して、消失性繊維を減少あるいは消失させることにより、所定のメートル番手の炭素繊維紡績糸で構成される炭素繊維紡績糸織物を得ることができる。得られた炭素繊維紡績糸織物は、厚みが小さく、目隙度が大きい。
【0039】
本発明で用いる炭素繊維前駆体繊維としては、例えば、酸化繊維やレーヨン繊維、セルロース等を挙げることができる。酸化繊維とは、原料繊維を空気中で200〜400℃で酸化処理することによって得られる繊維である。ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系繊維等を原料繊維とする、PAN系酸化繊維、ピッチ系酸化繊維などの従来公知の何れの酸化繊維も用いることができる。紡績加工および製織加工の観点から、炭素繊維前駆体繊維がステープルファイバーである場合、繊維長は、30〜75mmが好ましい。繊度は、0.5〜3.4dtexが好ましい。クリンプ数は、100〜800ヶ/mが好ましい。クリンプ率は、4〜20%が好ましい。
【0040】
炭素繊維前駆体繊維を原料とする紡績糸としては、上記のステープルファイバーを用いて、下撚り数150〜1200回/m、上撚り数100〜800回/mで作製される定長紡績糸や、トウ紡績などにより製造される製織用紡績糸を挙げることができる。
【0041】
消失性繊維としては、水溶性繊維や低残炭繊維の他、炭素繊維前駆体紡績糸に含有される成分であって、炭素繊維前駆体紡績糸織物の製織後、該炭素繊維前駆体紡績糸織物から炭素繊維紡績糸織物を得る工程で消失させることができる成分であれば、特に限定されることなく用いることができる。
【0042】
良好な混紡状態または合撚状態を得る観点から、消失性繊維がステープルファイバーの場合、その繊維長は、30〜75mmが好ましい。繊度は、0.5〜3.4dtexが好ましい。クリンプ数は、100〜800ヶ/mが好ましい。クリンプ率は、4〜20%が好ましい。撚り数は、上撚り数が100〜800回/m、下撚り数が150〜1200回/mが好ましい。
【0043】
水溶性繊維としては、100℃以下の水に溶出する、例えばポリビニルアルコール(PVA)などが加工性の観点から好ましい。
【0044】
低残炭繊維としては、残炭率が、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃で熱処理後の残渣が10質量%以下であり、且つ熱処理時に膠着を誘発しない非溶融性の、セルロース、レーヨン、フェノールなどが好ましい。低残炭繊維の残炭率は、窒素下、1300℃で熱処理後の残渣が10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の炭素繊維前駆体紡績糸織物において、少なくとも緯糸となる消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸は、上記の炭素繊維前駆体繊維と消失性繊維とを混紡し又は合撚してなる。消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸としては、前記炭素繊維前駆体ステープルと水溶性繊維ステープルとを混紡した、水溶性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸や、炭素繊維前駆体ステープルと低残炭繊維ステープルとを混紡した、低残炭繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を挙げることができる。
【0046】
消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸における、水溶性繊維ステープルや低残炭繊維ステープルの混紡比率は、10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。混紡比率が10質量%未満の場合、最終的に得られる炭素繊維紡績糸織物の厚みを十分に小さくすることができない場合がある。混紡比率が50質量%を越える場合、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を水洗処理や炭素化処理する際、強度が低すぎる為、工程通過に必要な強度を保持できない。その結果、炭素繊維前駆体紡績糸織物が破断し、炭素繊維紡績糸織物を製造することができない場合がある。
【0047】
上記の混紡比率により、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸のメートル番手は、所定の群から選ばれる。メートル番手の所定の群は、1/20〜1/100Nmの単糸と、2/40〜2/200Nmの双糸とからなる。
【0048】
消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸の他の例としては、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドと、水溶性繊維紡績糸または水溶性繊維ストランドとを合撚した水溶性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸がある。また、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維ストランドと、低残炭繊維紡績糸または低残炭繊維ストランドとを合撚した低残炭繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を挙げることができる。
【0049】
上記の消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を、少なくとも緯糸として用いて製織することにより、本発明の炭素繊維前駆体紡績糸織物を得ることができる。製織形態は、平織や綾織など公知の製織形態であれば特に限定されるものではない。打込み本数は、経緯10/10本/cm〜50/50本/cmが好ましい。
【0050】
本発明の、消失性繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸織物を原料として製造する炭素繊維紡績糸織物は、上記の消失性繊維が熱処理により気散して消失する低残炭繊維である場合は、消失性繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸織物を炭素化処理することで得ることができる。消失性繊維が水溶性繊維である場合は、炭素化処理する前に水洗処理を行う必要がある。炭素化処理や水洗処理を行うことにより、消失性繊維含有炭素繊維紡績糸から消失性繊維を消失させ、または低残炭繊維を減少させることができる。これにより所定のメートル番手の炭素繊維紡績糸で構成され、厚みが小さく、目隙度が大きい炭素繊維紡績糸織物を得ることができる。
【0051】
本発明の炭素繊維紡績糸織物の製造方法を以下に説明する。
【0052】
炭素繊維前駆体紡績糸と、消失性繊維とを上記の混紡比率の範囲内で混紡し、又は合撚して消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造する。紡績方法は公知の紡績方法でよく、特に限定されるものではない。
【0053】
製造された消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を緯糸および経糸として用い、あるいは消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を緯糸のみに用いて、公知の製織形態で炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織する。打込み本数は、経緯10/10本/cm〜50/50本/cmが好ましい。製織時、消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸は、所定の太さがあるため、製織加工に必要な強度を備えている。従って、製織加工段階で炭素繊維前駆体紡績糸織物が破断することがない。
【0054】
製織加工後、消失性繊維が水溶性繊維である場合は、炭素繊維前駆体紡績糸織物を100℃以下の水で1〜20分間精錬し、炭素繊維前駆体紡績糸織物から水溶性繊維のみを溶出させる。
【0055】
続いて、低残炭繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物、または水溶性繊維を溶出させた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃の温度で0.5〜10分間焼成して炭素化処理を行う。この焼成条件下で炭素化を行うことにより、得られる炭素繊維紡績糸織物の電気抵抗値を小さくすることができる。
【0056】
炭素化温度が1300℃未満の場合は、得られる炭素繊維紡績糸織物の炭素含有量が低くなり、炭素繊維紡績糸織物の炭素含有率が95質量%以上の炭素繊維紡績糸織物を得ることができない。その場合、炭素繊維紡績糸織物の電気伝導性が低下するため、良好な燃料電池性能を得ることができず好ましくない。
【0057】
2300℃を超える場合は、炭素繊維紡績糸織物が剛直となり、強度が低下する、更には、炭素微粉末が発生する等の不具合が生ずる為、好ましくない。
【0058】
上記の精錬処理や炭素化処理を経ることにより、炭素繊維前駆体紡績糸織物に含有される消失性繊維を消失させ、又は大きく減少させることができる。従って、本発明の消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物から最終的に得られる炭素繊維紡績糸織物は、ほぼ炭素繊維のみからなる。該炭素繊維紡績糸のメートル番手は、1/50〜1/200Nmの単糸と、2/100〜2/400Nmの双糸と、からなる群から選ばれる。炭素繊維紡績糸織物に用いられる炭素繊維紡績糸の直径は、炭素繊維前駆体紡績糸の直径より細くなるため、厚みが小さく、目隙度が大きい炭素繊維紡績糸織物を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、操作条件の評価、各物性の測定は次の方法によった。
【0060】
[厚み]
シックネスゲージにて、炭素繊維紡績糸織物の厚さ方向に6.9kPaの荷重をかけて炭素繊維紡績糸織物の厚みを測定した。
【0061】
[目付]
一辺が10cmの正方形の炭素繊維紡績糸織物を120℃で、1時間乾燥した後の質量値より算出した。
【0062】
[電気抵抗値]
一辺が50mmの正方形の炭素繊維紡績糸織物のサンプルを作成し、この炭素繊維紡績糸織物のサンプルを、一辺が50mmの正方形(厚さ10mm)の金メッキした電極2枚で、全面接触するように挟み、炭素繊維紡績糸織物の厚さ方向に10kPaの荷重をかけたときの、炭素繊維紡績糸織物の厚さ方向の電気抵抗値を測定し、電極面積で除して単位面積あたりの電気抵抗値を求めた。
【0063】
[剛軟度]
炭素繊維紡績糸織物を、試験片として、経糸方向に沿って長さ15cm、幅2cmで5枚切出した。各試験片を、JIS L 1096記載の方法(B法)に準拠して剛軟度を測定し、平均値を算出した。
【0064】
[目隙度]
1.5×104〜2.5×104ルクスの光源の上に、炭素繊維紡績糸織物の試験片をのせ、上部より倍率100倍で顕微鏡撮影し、得られた画像を画像解析した。測定対象織物の全面積(A1)と透過光部(紡績糸の非存在部)の面積(A2)を求める。これらの値より、目隙度を下式により算出した。
【0065】
目隙度(%)=(A/A)×100
【0066】
[炭素繊維紡績糸のメートル番手]
炭素繊維紡績糸織物から経糸と緯糸を引き抜き、経糸の炭素繊維紡績糸と、緯糸の炭素繊維紡績糸のメートル番手を、それぞれJIS L 1096に基づいて測定した。
【0067】
[実施例1〜4]
PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]に、PVA繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]を表1に示す混紡比率で混紡し、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/mで、メートル番手2/80NmのPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。
【0068】
このPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20 本/cmで製織し、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例1−4)。実施例1−3は、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を経糸と緯糸に使用した。実施例4は、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を緯糸のみに使用し、経糸はPVA繊維を含有しない炭素繊維前駆体紡績糸を使用した。
【0069】
得られたPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を、95℃の水で20分間精錬し、PVA繊維のみを溶出させ、炭素繊維前駆体紡績糸織物を得た。
【0070】
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0071】
実施例1−4のPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物から得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表1に示す。実施例1−4で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は、何れも良好なものであった。
【0072】
[実施例5〜8]
PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]に、セルロース繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]を、表1に示す混紡比率で混紡し、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/mで、メートル番手2/80Nmのセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。
【0073】
このセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20本/cmのセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例5−8)。実施例5−7は、セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を経糸と緯糸に使用した。実施例8は、セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を緯糸のみに使用し、経糸は、セルロース繊維を含有しない炭素繊維前駆体紡績糸を使用した。
【0074】
得られたセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより、セルロース繊維を熱分解して減少させ、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0075】
実施例5―8のセルロース繊維含有炭素繊維前駆体織物から得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表1に示す。実施例5〜8で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は、何れも良好なものであった。
【0076】
【表1】

【0077】
[実施例9]
PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]と、PVA繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]とを、上撚り数480回/mで合撚したPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。
PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸のPAN系酸化繊維は、経糸用、緯糸用ともにメートル番手1/80Nmのものを用いた。PVA繊維は、下撚り数1000回/m、メートル番手1/120Nmのものを用いた。
得られたPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20本/cmのPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例9)。
【0078】
得られたPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を、95℃の水で、20分間精錬し、PVA繊維のみを溶出させ、炭素繊維前駆体紡績糸織物を得た。
【0079】
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0080】
実施例9で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表2に示す。実施例9で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は良好なものであった。
【0081】
[実施例10]
経糸には、メートル番手が2/80Nmの炭素繊維前駆体紡績糸を用いた。緯糸には、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いた。緯糸のPAN系酸化繊維のメートル番手は1/80Nmであり、PVA含有繊維のメートル番手は1/120Nmである。上記の経糸と緯糸からなるPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例10)。
【0082】
得られたPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を、95℃の水で、20分間精錬し、PVA繊維のみを溶出させ、炭素繊維前駆体紡績糸織物を得た。
【0083】
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0084】
実施例10で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表2に示す。実施例10で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は良好なものであった。
【0085】
[実施例11]
PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]と、セルロース繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]とを、上撚り数480回/mで合撚したセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。
セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸のPAN系酸化繊維は、経糸用、緯糸用ともにメートル番手1/80Nmのものを用いた。セルロース繊維は、下撚り数1000回/m、メートル番手1/120Nmのものを用いた。
得られたセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20本/cmのセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例11)。
【0086】
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0087】
実施例11で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表2に示す。実施例11で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は良好なものであった。
【0088】
[実施例12]
経糸には、メートル番手が2/80Nmの炭素繊維前駆体紡績糸を用いた。緯糸には、セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いた。緯糸のPAN系酸化繊維のメートル番手は1/80Nmであり、セルロース繊維のメートル番手は1/120Nmである。上記の経糸と緯糸からなるセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(実施例12)。
【0089】
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0090】
実施例12で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表2に示す。実施例12で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性は良好なものであった。
【0091】
【表2】

【0092】
[比較例1―3]
比較例1−3は、消失性繊維を含有しない炭素繊維前駆体紡績糸を用いて製造した炭素繊維前駆体紡績糸織物である。比較例1−3で用いた炭素繊維前駆体紡績糸は、いずれもPAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]で、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/mのものを原料とした。これらの炭素繊維前駆体紡績糸のメートル番手は、比較例1は2/50Nmであり、比較例2は、2/120Nmであり、比較例3は、2/40Nmであった。
【0093】
比較例1では、得られた炭素繊維前駆体紡績糸を経糸および緯糸に用いて、経緯=20/20本/cmの炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(比較例1)。
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
比較例1で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表3に示す。比較例1で得られた炭素繊維紡績糸織物は、厚みが320μmであり、小型の燃料電池のガス拡散電極に適さないものであった。
【0094】
比較例2では、炭素繊維前駆体紡績糸が製織時に破断し、炭素繊維前駆体織物を得られなかった。
【0095】
比較例3では、得られた炭素繊維前駆体紡績糸を経糸および緯糸に用いて、経緯=20/20本/cmの炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(比較例3)。
得られた炭素繊維前駆体紡績糸織物を、300℃下、荷重200kg/cmで熱プレスした後、1600℃で、5分間炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
比較例3で得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表3に示す。比較例3で得られた炭素繊維紡績糸織物は、剛軟度が15mNcmであり、外径2.54cm(1インチ)の紙管への巻き取り時に皺が発生した。炭素繊維紡績糸のメートル番手は本発明の所定の範囲を外れており、炭素繊維紡績糸織物の目隙度は小さすぎる。
【0096】
[比較例4]
PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]に、ポリエステル繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]を、混紡比率30質量%で混紡し、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/mのポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。
ポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸のメートル番手は、経糸用、緯糸用ともに2/80Nmであった。
得られたポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20本/cmのポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(比較例4)。
【0097】
得られたポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を、160℃下、荷重200kg/cmで熱プレスした後、1600℃で、5分間加熱処理を行うことにより炭素化して、炭素繊維紡績糸織物を得た。
【0098】
比較例4のポリエステル繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物から得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表3に示す。比較例4で得られた炭素繊維紡績糸織物は剛軟度が30mNcmであった。そのため、外径2.54cm(1インチ)の紙管への巻き取り時に皺が発生した。
【0099】
[比較例5、6]
比較例5、6では、PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]と、PVA繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]とを、表3に示す混紡比率で混紡し、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/mで、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。比較例5、6は表3に示されるように、PVA繊維の混紡比率が、いずれも10〜50質量%の範囲を外れている。
PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸のメートル番手は、比較例5は、経糸用、緯糸用いずれも2/40Nmであった。比較例6は、緯糸用、経糸用いずれも2/45Nmであった。
これらのPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を用いて、経緯=20/20本/cmで製織し、炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(比較例5、6)。
【0100】
得られたPVA繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を、95℃の水で、20分間精錬し、PVA繊維を溶出させた。比較例5では、PVA繊維の混紡比率が80質量%と高いため、PVA繊維を溶出させると、炭素繊維前駆体紡績糸織物の強度が低くなり、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物の精錬工程で破断が生じた。
【0101】
比較例6では、PVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物を精錬して、PVA繊維を溶出させた後、1600℃で、5分間加熱処理することで炭素化し、炭素繊維紡績糸織物を得た。
比較例6のPVA繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物から得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表3に示す。比較例6で得られた炭素繊維紡績糸織物は、PVA繊維の混紡比率が5質量%と低いため、精錬後も、炭素繊維紡績糸の太さはPVA繊維を溶出させる前と比べて、それほど細くならなかった。そのため、得られた炭素繊維紡績糸織物の厚みが300μmを超えた。
【0102】
[比較例7、8]
比較例7、8では、PAN系酸化繊維(OPF)[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]と、セルロース繊維[繊維長51mm、繊度1.4dtex、クリンプ数400ヶ/m、クリンプ率10%]と、を表3に示す混紡比率で混紡し、下撚り数1000回/m、上撚り数480回/m、メートル番手2/80Nmで、セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を製造した。比較例7,8は表3に示されるように、セルロース繊維の混紡比率が、いずれも10〜50質量%の範囲を外れている。
セルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸のメートル番手は、比較例7は、経糸用、緯糸用いずれも2/40Nmであった。比較例8は、緯糸用、経糸用いずれも2/45Nmであった。
このセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸を経糸および緯糸に用いて、経緯=20/20本/cmで製織し、セルロース繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を作製した(比較例7、8)。
得られたセルロース繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を、1600℃で、5分間加熱処理することにより炭素化した。
【0103】
比較例7では、セルロース繊維の混紡比率が80質量%と高い。そのため、加熱処理による炭素化工程でセルロース繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸からセルロース繊維が減少すると、炭素繊維前駆体紡績糸の強度が低下して、炭素繊維前駆体紡績糸が破断し、炭素繊維紡績糸織物を製造できなかった。
【0104】
比較例8では、混紡したセルロース繊維混紡炭素繊維前駆体紡績糸織物を1600℃、5分炭素化することで炭素繊維紡績糸織物を得た。
比較例8のセルロース繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸織物から得られた炭素繊維紡績糸織物の特性を表3に示す。比較例8で得られた炭素繊維紡績糸織物は、セルロース繊維の混紡比率が5%と低いため、得られた炭素繊維紡績糸織物の厚みが300μmを超えた。
表3における比較例1〜8については、×で示す箇所が本発明の構成から逸脱している。
【0105】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み50〜300μm、目付10〜80g/m、剛軟度10mNcm以下、電気抵抗値200mΩ/cm以下、目隙度2〜20%の炭素繊維紡績糸織物であって、該炭素繊維紡績糸織物を構成する炭素繊維紡績糸のメートル番手は、1/50〜1/200Nmの単糸と、2/100〜2/400Nmの双糸と、からなる群から選ばれる、炭素繊維紡績糸織物。
【請求項2】
炭素繊維前駆体紡績糸を製織してなる炭素繊維前駆体紡績糸織物であって、少なくとも緯糸となる炭素繊維前駆体紡績糸は、炭素繊維前駆体繊維と、前記炭素繊維前駆体繊維と混紡され又は合撚される消失性繊維とを原料とする消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸であり、
前記消失性繊維は、前記炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織した後、前記炭素繊維前駆体紡績糸から消失しうる成分からなる、炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項3】
前記消失性繊維は、100℃以下の水に溶出する水溶性繊維である、請求項2に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項4】
前記炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体ステープルであり、前記炭素繊維前駆体ステープルと混紡される前記水溶性繊維は、水溶性繊維ステープルであり、
前記消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸における、前記水溶性繊維ステープルの混紡比率は10〜50質量%である、請求項2または請求項3に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項5】
前記炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドであり、
前記炭素繊維前駆体紡績糸または前記炭素繊維前駆体ストランドと合撚される前記水溶性繊維は、水溶性繊維紡績糸または水溶性繊維ストランドである、請求項2または請求項3に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項6】
前記消失性繊維は、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃の焼成条件で、非溶融であり、かつ焼成後の残渣が10質量%以下である、低残炭繊維である、請求項2に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項7】
前記炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体ステープルであり、
前記炭素繊維前駆体ステープルと混紡される前記低残炭繊維は、低残炭繊維ステープルであり、
前記消失性繊維含有炭素繊維前駆体紡績糸における、前記低残炭繊維ステープルの混紡比率は10〜50質量%である、請求項2または請求項6に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項8】
前記炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維前駆体紡績糸または炭素繊維前駆体ストランドであり、
前記炭素繊維前駆体紡績糸または前記炭素繊維前駆体ストランドと合撚される前記低残炭繊維は、低残炭繊維紡績糸または低残炭繊維ストランドである、請求項2または請求項6に記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物。
【請求項9】
前記水溶性繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸を少なくとも緯糸として用いて、請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織し、
前記炭素繊維前駆体紡績糸織物を100℃以下の水で精錬して、前記炭素繊維前駆体紡績糸織物から前記水溶性繊維のみを消失させ、
前記水溶性繊維を消失させた前記炭素繊維前駆体紡績糸織物を、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃で0.5〜10分間焼成して炭素化し、
請求項1に記載の炭素繊維紡績糸織物を製造する、炭素繊維紡績糸織物の製造方法。
【請求項10】
前記低残炭繊維を含有する炭素繊維前駆体紡績糸を少なくとも緯糸として用いて、請求項2または請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の炭素繊維前駆体紡績糸織物を製織し、
前記炭素繊維前駆体紡績糸織物を、不活性ガス雰囲気下、1300〜2300℃で0.5〜10分間焼成して、前記炭素繊維前駆体紡績糸織物から前記低残炭繊維を減少させると共に、前記炭素繊維前駆体紡績糸織物を炭素化し、
請求項1に記載の炭素繊維紡績糸織物を製造する、炭素繊維紡績糸織物の製造方法。
【請求項11】
前記炭素繊維紡績糸織物が、燃料電池のガス拡散電極として用いられる炭素繊維紡績糸織物である、請求項1に記載の炭素繊維紡績糸織物。

【公開番号】特開2012−202003(P2012−202003A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68230(P2011−68230)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】