説明

炭素繊維補強織物

【課題】斜文織り組織などの目ずれし易い織物に対して、特別な付帯設備を連動した織機を使用することがなく、織物を製織する段階で目ずれ防止ができ、製織からCFRP製作の各工程で目ずれが生じることがない炭素繊維補強織物を提供する。
【解決手段】炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸及び緯糸を斜文織り組織などに製織し、この緯糸の間に、モノフィラメントからなる他の緯糸を織り込む。このモノフィラメントからなる他の緯糸は、両側に隣接する炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸と引き揃えることなく、これらの緯糸とは独立した浮き沈みにより当該炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸に交差している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の補強材として優れた特性を有する炭素繊維補強織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料のなかでも炭素繊維を補強材とした炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」という)は、比強度、比弾性率に優れ各種構造材として利用され、また、その軽量化を活かして自動車、船舶、航空機など輸送機の外装材、内装材等として広く利用されている。このCFRPは、炭素繊維織物或いは炭素繊維不織布からなる補強材の回りにエポキシ樹脂などを含浸成型することにより構成される。以下、CFRPの補強材として用いられる炭素繊維織物を炭素繊維補強織物という。
【0003】
炭素繊維補強織物としては、炭素繊維糸条、例えば、炭素繊維マルチフィラメントを経糸及び緯糸として製織される。これらの炭素繊維マルチフィラメントは、主として無撚りの状態で製織されるので、経糸と緯糸との交差点での結束が弱いことから経糸と緯糸との配列が乱れ、織物の目ずれが生じやすい。このような目ずれは、炭素繊維補強織物の織機での捲き取り工程或いは振り落ち工程、又は、CFRPとしての樹脂含浸工程など、製織からCFRP作製までの各工程で生じることとなる。このように、炭素繊維補強織物に目ずれが生じると、補強材としての強度が低下して、CFRP本来の性能が発揮できないという問題がある。
【0004】
このような炭素繊維補強織物の目ずれ防止の方法としては、製織された炭素繊維補強織物に対して、製織後に熱融着性の低融点樹脂を予め含浸する方法などが取られてきた。
【0005】
一方、炭素繊維補強織物は、これまで平織り組織を主体とするものであったが、これに代わり、斜文織り組織、朱子織り組織、又は、変化織り組織など(以下「斜文織り組織など」という)の織物表面に外観的変化のある炭素繊維補強織物を採用することが注目されている。この場合には、含浸する樹脂として透明な樹脂を使用することで、CFRPの表面に補強材の織組織を模様として表現し、CFRPでありながら表面素材としても利用しようというものである。例えば、自動車の内装材として炭素繊維補強織物の斜文などを模様として強調したCFRPが提案されている。
【0006】
このような斜文織り組織などにおいては、経糸或いは緯糸がその交差する糸を複数本飛び越えることにより畝などの模様が構成されている。このような畝の部分においては、複数本の糸を飛び越えるために、経糸と緯糸との交絡部分が少なく、従来の平織り組織に比べて目ずれし易いという問題があった。このような目ずれし易い斜文織り組織などの炭素繊維補強織物は、織機での製織後の捲き取り工程でも目ずれし易く、また、捲き取った織物を捲き出して上述の樹脂含浸する工程においても、更に目ずれを生じるという問題があった。
【0007】
そこで、下記特許文献1においては、織機で製織された織物を捲き取る前の織機に仕掛った状態のまま目ずれ防止する目止め方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−158207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献1の目止織物の製造方法においては、ホットメルト樹脂をロールコートなどで織物に付与するものであるが、平織り組織には効果的であっても斜文織り組織などの目ずれし易い織物に対しては不十分であり、織物がコーターに接した所で目ずれを生じて折角の畝模様などが歪んでしまうという問題があった。また、織機にロールコーターなどの付帯設備を連動させるのは現実的でなく、操作上の不具合を生じやすいという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、斜文織り組織などの目ずれし易い織物に対して、特別な付帯設備を連動した織機を使用することがなく、織物を製織する段階で目ずれ防止ができ、製織からCFRP製作までの各工程で目ずれが生じることがない炭素繊維補強織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者は、鋭意研究の結果、炭素繊維マルチフィラメントを経糸及び緯糸として斜文織り組織などを製織するにあたり、緯糸として炭素繊維マルチフィラメント以外にモノフィラメントの緯糸を織り込むことにより、炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸及び緯糸のずれが抑えられ、目ずれしない炭素繊維補強織物を製織できることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る炭素繊維補強織物は、請求項1の記載によると、炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸(1)及び緯糸(2)を斜文織り組織、朱子織り組織、又は、変化織り組織に製織してなる炭素繊維補強織物(10)であって、
上記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸の間に、モノフィラメントからなる他の緯糸(3)を織り込んでおり、
上記モノフィラメントからなる他の緯糸は、両側に隣接する上記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸と引き揃えることなく、これらの緯糸とは独立した浮き沈みにより上記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸に交差していることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、炭素繊維マルチフィラメントの経糸に対して、緯糸として炭素繊維マルチフィラメントの他にモノフィラメントを織り込んでいる。このモノフィラメントの緯糸は、隣接する炭素繊維マルチフィラメントの緯糸と引き揃えることなく、これらの緯糸とは独立した浮き沈みにより織り込まれている。仮に、モノフィラメントの緯糸が隣接する炭素繊維マルチフィラメントの緯糸と引き揃えて織り込まれている場合には、これらのモノフィラメントと炭素繊維マルチフィラメントの緯糸とは、1本の緯糸のように一緒に経糸の上を目ずれし易くなる。
【0014】
これに対して、上記構成においては、モノフィラメントの緯糸が隣接する炭素繊維マルチフィラメントの緯糸と独立して経糸と交絡している。このことにより、炭素繊維マルチフィラメントの緯糸が経糸上を移動しようとしても、隣接するモノフィラメントの緯糸によって押さえられ経糸上を目ずれすることが抑えられる。
【0015】
よって、請求項1に記載の発明においては、斜文織り組織などの目ずれし易い織物に対して、特別な付帯設備を連動した織機を使用することがなく、織物を製織する段階で目ずれ防止ができ、製織からCFRP製作の各工程で目ずれが生じることがない炭素繊維補強織物を提供することができる。
【0016】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の炭素繊維補強織物であって、上記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸が、上記炭素繊維マルチフィラメントからなる少なくとも2本の隣接する緯糸の上に浮いて織物表面の畝を形成しており、
当該隣接する緯糸の間にある上記モノフィラメントからなる他の緯糸が、上記畝の織物表面側に浮くように上記経糸とは表側で交差して、当該経糸の両側に隣接する2本の経糸とはそれぞれ裏側で交差していることを特徴とする。
【0017】
上記構成において、炭素繊維マルチフィラメントの経糸が、炭素繊維マルチフィラメントからなる少なくとも2本の隣接する緯糸の上に浮いた部分とは、斜文織り組織などの畝を形成する部分を示している。この部分においては、浮いた経糸は緯糸との交絡部分が少なく、他の部分より目ずれし易いこととなる。そこで、この畝の部分に沈み込んだ2本の隣接する緯糸の間にあるモノフィラメントの緯糸が、当該経糸が形成する畝の上からこの部分と交絡し、この浮いた経糸が目ずれを起こすことを防いでいる。
【0018】
また、このモノフィラメントの緯糸は、経糸の両側に隣接する2本の経糸とは織物の裏側で交差して、モノフィラメントの緯糸が目ずれし難くなっており、このことにより、更に畝を形成する経糸が目ずれし難くなる。よって、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の発明と同様の作用効果をより一層具体的に達成することができる。
【0019】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の炭素繊維補強織物であって、上記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸及び緯糸は、それぞれ独立してその繊度が100tex〜1000texの範囲にあり、
上記モノフィラメントからなる他の緯糸は、線径が0.2mm〜1.0mmの範囲にあることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、炭素繊維マルチフィラメントの経糸及び緯糸の繊度が上記範囲にあり、且つ、モノフィラメントの緯糸の線径が上記範囲にあることにより、炭素繊維補強織物の織組織の美観が良好で、モノフィラメントが目立ち難く、且つ、目ずれ防止が良好となる。よって、請求項3に記載の発明においては、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果をより一層具体的に達成することができる。
【0021】
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維補強織物であって、上記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸の織密度は、10〜20本/インチの範囲にあり、上記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸及び上記モノフィラメントからなる他の緯糸の織密度は、それぞれ7〜16本/インチの範囲にあることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、炭素繊維マルチフィラメントの経糸と緯糸、及び、モノフィラメントの緯糸の織密度が、それぞれ上記範囲にあることにより、織物の目開きが少なく、目ずれ防止が更に良好となる。よって、請求項4に記載の発明においては、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果をより一層具体的に達成することができる。
【0023】
また、本発明は、請求項5の記載によると、請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素繊維補強織物であって、上記モノフィラメントは、金属モノフィラメントであることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、緯糸を構成するモノフィラメントは、金属モノフィラメントであってもよい。このことにより、請求項5に記載の発明においては、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果をより一層具体的に達成することができる。
【0025】
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項5に記載の炭素繊維補強織物であって、上記金属モノフィラメントは、線径が0.2mm〜0.5mmの範囲にあるアルミニウムからなる金属線であることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、緯糸を構成する金属モノフィラメントは、上記範囲の線径を有するアルミニウムの金属線であってもよい。このことにより、請求項6に記載の発明においては、請求項5に記載の発明と同様の作用効果をより一層具体的に達成することができる。
【0027】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る炭素繊維補強織物の一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の炭素繊維補強織物からモノフィラメント緯糸を抜いた状態で、基本となる織組織を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。ここで、炭素繊維補強織物の経糸及び緯糸を構成する炭素繊維には、PAN系炭素繊維とPITCH系炭素繊維とがあるが、本発明においては、CFRPの補強材としての用途及び糸表面の光沢からくる美観からPAN系炭素繊維を使用することが好ましい。また、本発明においては、PAN系炭素繊維の単繊維を集束した無撚りの炭素繊維マルチフィラメントを使用することが好ましい。
【0030】
本発明に係る炭素繊維補強織物は、その基本となる織組織を従来の平織り組織ではなく、斜文織り組織、朱子織り組織、または、変化織り組織から構成する。斜文織りは、綾織りともいわれ、経糸及び/又は緯糸が交差する緯糸又は経糸を複数本飛び越えて畝を形成し、その畝の並びが織物表面に斜線となって現れ美観を表現する。この畝の部分で浮いた糸は、組織点(経糸と緯糸が交絡する部分)を構成しないので組織強度に寄与が少なく、目ずれを生じやすい。
【0031】
また、朱子織りは、サテンともいわれ、経糸と緯糸との組織点をなるべく少なくして、しかもその組織点を連続しないように分散させて織物表面に経糸だけか、又は、緯糸だけを浮かせたものである。この浮いた糸が光沢をもって美観を表現するが、この組織も目ずれを生じやすい。
【0032】
また、変化織りは、従来の平織り組織と上記斜文織り組織、朱子織り組織とに変化をもたせるか、或いは、これらを組み合わせて複雑な織組織としたものであり、浮き糸も多く目ずれを生じやすい。
【0033】
本実施形態においては、斜文織り組織を用いて炭素繊維補強織物を説明する。まず、本実施形態に係る炭素繊維補強織物の基礎となる炭素繊維マルチフィラメントのみからなる炭素繊維織物を説明する。図2において、炭素繊維織物11は、炭素繊維マルチフィラメント経糸1(以下「経糸1」ともいう)と、炭素繊維マルチフィラメント緯糸2(以下「緯糸2」ともいう)とから製織された斜文織り組織の織物である。
【0034】
炭素繊維織物11の織組織は、左上がりの「2、2斜文」であり、経糸1(図2において符号を付した糸で説明する)は、図示上方から、2本の緯糸2の上(織物の表面側)に浮き経畝を形成し、続く2本の緯糸2の下(織物の裏面側)に沈み、この動作を繰り返す。上記経糸1に隣接する経糸1は、緯糸2と交差する位置が1本ずつ順次ずれるだけで上記経糸1と同じ浮き沈みを繰り返す。このことにより、経糸1が形成する経畝が左上がり(図示右下から左上の方向)の斜線となって織物表面に現れている。
【0035】
一方、緯糸2(図2において符号を付した糸で説明する)は、図示右方から、2本の経糸1の上(織物の表面側)に浮き緯畝を形成し、続く2本の経糸1の下(織物の裏面側)に沈み、この動作を繰り返す。上記緯糸2に続く緯糸2は、経糸1と交差する位置が1本ずつ順次ずれるだけで上記緯糸2と同じ浮き沈みを繰り返す。このことにより、緯糸2が形成する緯畝が左上がり(図示右下から左上の方向)の斜線となって織物表面に現れている。
【0036】
このように、経畝及び緯畝が多く存在する斜文織り組織の織物においては、これらの畝が織物表面に形成する斜線が炭素繊維マルチフィラメントの光沢と相まって美観を表している。しかし、この畝の部分を含め、炭素繊維マルチフィラメント同士の交絡が少なく、経糸及び緯糸は、その交差する糸の上を滑りやすく、織組織の目ずれが生じやすい。
【0037】
ここで、本発明の経糸1及び緯糸2に用いる炭素繊維マルチフィラメントは、それぞれ独立して繊度100tex〜1000texの範囲にあることが好ましい。繊度が100tex〜1000texの範囲にある場合には、斜文織り組織の畝など表面形状が美しく表現できる。また、繊度が100texより細い糸の場合には、織密度が大きくなり経糸1を整経するために多くのクリルを必要とし、また、緯糸2の打込み本数が多くなり、共に経済的でない。一方、繊度1000texより太い糸の場合には、織組織の美観を表現し辛くなる。
【0038】
また、経糸1及び緯糸2に用いる炭素繊維マルチフィラメントは、同じ繊度で製織してもよく、或いは、異なる繊度で製織してもよい。経糸1と緯糸2とを異なる繊度で製織する場合には、経糸1は繊度100tex〜400texの範囲にあることが好ましく、繊度150tex〜300texの範囲にあることがより好ましい。一方、緯糸2は200tex〜800texの範囲にあることが好ましく、繊度300tex〜600texの範囲にあることがより好ましい。このように、経糸1と緯糸2とを異なる繊度で製織することにより、例えば、本実施形態の斜文織り組織においては、織物表面の畝の美観がより強調される。
【0039】
一方、経糸1の織密度は、10〜20本/インチ(3.9〜7.9本/cm)の範囲にあり、緯糸2の織密度は、7〜16本/インチ(2.7〜6.3本/cm)の範囲にあることが好ましい。経糸1及び緯糸2の織密度がこの範囲にあることにより、糸目間隔が密になり経糸1及び緯糸2の目ずれが生じにくく、また、織物表面の美観がより強調される。
【0040】
次に、図2に示す左上がりの「2、2斜文」の炭素繊維織物11を基本となる織組織として、本実施形態に係る図1に示す炭素繊維補強織物を説明する。図1において、炭素繊維補強織物10は、経糸1と、緯糸2とから製織された斜文織り組織の織物(図2参照)であって、更に、緯糸2の各間にモノフィラメント緯糸3(以下「モノフィラメント3」ともいう)が織り込まれている。
【0041】
ここで、緯糸2の間に織り込むモノフィラメント3としては、有機繊維或いは無機繊維からなるモノフィラメントを使用する。有機繊維からなるモノフィラメントとしては、例えば、ナイロン、ポリエステルなどの熱溶融性繊維、或いは、アラミド、エポキシなどの熱可塑性繊維などどのようなものを使用してもよい。一方、無機繊維からなるモノフィラメントとしては、例えば、ガラス繊維、或いは、金属繊維などを使用してもよい。金属繊維としては、例えば、アルミニウム単線、ステンレス単線、ニクロム単線、銅単線などがある。
【0042】
また、モノフィラメント3の線径は、炭素繊維補強織物を構成する経糸と緯糸の繊度及び織密度によって適宜選定すればよいが、一般に、0.2mm〜1.0mmの範囲にあることが好ましく、また、0.2mm〜0.5mmの範囲にあることがより好ましい。モノフィラメント3の線径が0.2mm〜1.0mmの範囲にあることにより、炭素繊維補強織物の織組織の美観が良好で、モノフィラメント3が目立ち難く、且つ、目ずれ防止が良好となる。
【0043】
特に、モノフィラメント3が金属繊維である場合には、有機繊維などに比べ目ずれ防止効果が大きく、より細い0.2mm〜0.5mmの範囲であることで十分であり、この範囲にあることにより、金属繊維が織物表面でより目立ち難く、且つ、横入れ工程中のカットも容易となる。
【0044】
また、モノフィラメント3の織密度は、上記緯糸2と同じ、7〜16本/インチ(2.7〜6.3本/cm)の範囲にあることが好ましい。
【0045】
図1において、モノフィラメント3(図1において符号を付した糸で説明する)は、図示右方から、3本の経糸1の下(織物の裏面側)に沈み、続く1本の経糸1(この糸は上述の経畝を形成する)の上(織物の表面側)に浮き、この動作を繰り返す。
【0046】
このように、モノフィラメント3は、その両側に隣接する緯糸2とは、いずれとも引き揃えることなく、これらの緯糸2と独立した浮き沈みにより織り込まれている。このことにより、モノフィラメント3に隣接する緯糸2が経糸1上を移動しようとしても、このモノフィラメント3によって押さえられ経糸1上を目ずれすることができない。
【0047】
ここで、モノフィラメント3は、緯糸2の間の全ての部位に織り込むようにしてもよく、或いは、数本おきに織り込むようにしてもよい。本実施形態においては、モノフィラメント3は、緯糸2の間の全ての部位に織り込まれており、このことにより、緯糸2の目ずれを更に抑えることができる。
【0048】
一方、モノフィラメント3は、上述のように、経畝を形成する経糸1と織物の表面側から交絡してこの目ずれし易い経糸1を押さえている。また、このモノフィラメント3は、経畝を形成する経糸1の両側に隣接する2本の経糸1とは織物の裏側で交差して、モノフィラメント3自体が目ずれし難くなっており、このことにより、更に畝を形成する経糸1が目ずれし難くなる。
【0049】
このように、本実施形態においては、緯糸側にのみモノフィラメント3を織り込むことにより、滑りやすい炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸1及び緯糸2の両方の目ずれを十分に防止することができる。
【実施例1】
【0050】
以下、本実施形態において、次のような実施例の炭素繊維補強織物10を作成した。炭素繊維補強織物10の製織には、どのような織機を使用してもよいが、本実施例においては、レピア織機を使用した。また、経糸1の整経にはクリルを使用しテンションコントロールを行って製織した。一方、横入れは、2種類の緯糸を使用して交互に打込むため2系統を使用した。開口はドビー装置により行い、筬打ちは2種類の緯糸に合わせて異なる強さで筬打ちした。
【0051】
本実施例においては、経糸1として、繊維径7.0μmの単糸3000フィラメント(3K)からなる繊度200texのPAN系炭素繊維糸条を使用した。一方、緯糸2として、繊維径7.0μmの単糸6000フィラメント(6K)からなる繊度400texのPAN系炭素繊維糸条を使用した。また、モノフィラメント3として、線径0.3mmのアルミニウム単線を使用した。
【0052】
織組織は、図1に示す左上がりの「2、2斜文」とし、織密度は、経糸1が15本/インチ(5.9本/cm)、緯糸2が11本/インチ(4.3本/cm)、モノフィラメント3が緯糸2と同じ11本/インチ(4.3本/cm)とした。
【0053】
製織された炭素繊維補強織物10は、表面に斜文織りの美しい畝の斜線が現れ、一方、経糸及び緯糸は目ずれし難い織物であった。また、炭素繊維補強織物10を補強材として透明エポキシ樹脂で含浸してCFRPを試作したが、作成中に目ずれを生じることがなく、完成したCFRPには、その表面に斜文織りの美しい畝の斜線が表現されていた。
【0054】
以上のことから、本実施形態においては、斜文織り組織などの目ずれし易い織物に対して、特別な付帯設備を連動した織機を使用することがなく、織物を製織する段階で目ずれ防止ができ、製織からCFRP製作の各工程で目ずれが生じることがない炭素繊維補強織物を提供することができる。
【0055】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、炭素繊維補強織物の基本となる織組織として、左上がりの「2、2斜文」を採用したが、これに限るものではなく、その他の斜文織り、朱子織り、変化織りなどであってもよい。また、経糸及び緯糸の織密度もどのようなものであってもよい。
(2)上記実施形態においては、炭素繊維補強織物の炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸間にアルミニウム単線からなる緯糸を織り込んだが、これに限るものではなく、他の金属線、ガラス繊維或いは有機繊維からなるモノフィラメントを織り込むようにしてもよい。
(3)上記実施形態においては、炭素繊維補強織物の炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸間の全ての部位にアルミニウム単線からなる緯糸を織り込んだが、これに限るものではなく、炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸の数本に1本の割合でモノフィラメントからなる緯糸を織り込むようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る炭素繊維補強織物は、本来の用途であるCFRPの補強材としての用途に加え、織組織の表面形状の美観を利用した表面材としても利用できるという特徴を有する。このことにより、自動車、船舶、航空機などの内装材など表面素材として広い分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸、
2…炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸、
3…アルミニウム単線からなる緯糸、
10…炭素繊維補強織物、11…炭素繊維補強織物の基本織組織である炭素繊維織物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸及び緯糸を斜文織り組織、朱子織り組織、又は、変化織り組織に製織してなる炭素繊維補強織物であって、
前記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸の間に、モノフィラメントからなる他の緯糸を織り込んでおり、
前記モノフィラメントからなる他の緯糸は、両側に隣接する前記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸と引き揃えることなく、これらの緯糸とは独立した浮き沈みにより前記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸に交差していることを特徴とする炭素繊維補強織物。
【請求項2】
前記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸が、前記炭素繊維マルチフィラメントからなる少なくとも2本の隣接する緯糸の上に浮いて織物表面の畝を形成しており、
当該隣接する緯糸の間にある前記モノフィラメントからなる他の緯糸が、前記畝の織物表面側に浮くように前記経糸とは表側で交差して、当該経糸の両側に隣接する2本の経糸とはそれぞれ裏側で交差していることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維補強織物。
【請求項3】
前記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸及び緯糸は、それぞれ独立してその繊度が100tex〜1000texの範囲にあり、
前記モノフィラメントからなる他の緯糸は、線径が0.2mm〜1.0mmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維補強織物。
【請求項4】
前記炭素繊維マルチフィラメントからなる経糸の織密度は、10〜20本/インチの範囲にあり、前記炭素繊維マルチフィラメントからなる緯糸及び前記モノフィラメントからなる他の緯糸の織密度は、それぞれ7〜16本/インチの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維補強織物。
【請求項5】
前記モノフィラメントは、金属モノフィラメントであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素繊維補強織物。
【請求項6】
前記金属モノフィラメントは、線径が0.2mm〜0.5mmの範囲にあるアルミニウムからなる金属線であることを特徴とする請求項5に記載の炭素繊維補強織物。

【図1】
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【図2】
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