説明

炭素繊維複合シート及びその製造方法

【課題】表面光沢度の高く意匠性に富んだ、放熱性・電磁波シールド性の高い炭素繊維複合シートを提供する。
【解決手段】3次元ランダムマットと熱可塑性樹脂を複合化する際に、成形体表面の当該樹脂濃度が高くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素繊維マットを原料に用いた複合シートに関わるものである。さらに詳しくは、メルトブロー法によって作製した三次元ランダムマット状ピッチ系炭素繊維マットの表面光沢度を制御し、意匠性の高い放熱板や熱交換器、電磁波シールド材に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が問題になっている。これらを解決するためには、熱を効率的に処理するという、所謂ヒートマネジメントを達成する必要がある。
【0004】
炭素繊維は、通常の合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さくヒートマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言い難い。これに対して、ピッチ系炭素繊維は一般にPAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。
【0005】
一般に、熱伝導性充填剤として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などを充填したものが知られている。しかし、金属材料系の充填材は比重が高く複合材としたときに重量が大きくなってしまう。この点、炭素繊維は比重が小さく金属材料系の充填材と同じ体積で添加した場合の複合材の重量を軽くできるというメリットがある。
【0006】
ところで、一般に高分子材料を用いた複合材は表面の光沢度の制御が困難であり、意匠性と機能性を同時に発現させるのは困難であると考えられていた。このため、意匠性が求められる、各種デバイスの表面にこれを用いることは積極的にはなされてこなかった。しかし、軽量性を兼ねる炭素繊維複合材をデバイスの表面に、金属に匹敵するような表面性にて用いることが望まれてきた。
【0007】
一方、複合材は金型を用いて成形されることが多いため、その表面性は金型の表面状態を強く反映することになる。従って、より表面平坦性の高い金型を使えば、表面性の高い成形体が作成できると考えられがちである。しかし、実際には、金型との離型性を確保するために、表面に種々の材料が塗布されており、特に光沢度の高い成形体を得ることは困難であった。
【0008】
このような背景のため、成形体の表面性を向上させるために、種々の試みがなされており、例えば、特許文献1では、炭素繊維を含むフィルム作成工程に関することが開示されている。また、特許文献2では、表面光沢性を向上させるのに、炭素繊維に直接金属等を被覆するということが開示されている。しかし、いずれの場合も工程が煩雑化する方向にある。
【0009】
【特許文献1】特開平09−216972号公報
【特許文献2】特開平06−002269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、フィルムでの光沢度の向上及び繊維そのものの光沢度の向上に関しては改良がなされているが、単純な工程要因の改良による、光沢度の向上に関する試みはなされておらず、成形体の意匠性については、あまり注目されていなかったと言える。しかし、表面光沢度を予め向上させれば、成形体の使用分野が広がることが推察され、光沢度の高い成形体の出現が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、複合材の成形の際に、成形体表面の熱可塑性高分子材料の存在比率を高めることで、光沢度が高い成形品が作成できると考え、成形金型の表面エネルギーを制御することで、成形体表層にのみ熱可塑性高分子材料の比率を高めることを見出し本願発明に到達した。
【0012】
即ち、本願発明の目的は、
3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を熱可塑性樹脂によって含浸した炭素繊維複合シートであって、表面光沢度が50%以上であることを特徴とする炭素繊維複合シートによって達成される。
【0013】
また、本願には、当該3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であり、当該炭素繊維複合シートの熱伝導率が3W/(m・K)以上であること、当該3次元ランダムマット状炭素繊維がピッチを原料とし、その炭素繊維の平均直径が5〜20μmであり、炭素繊維の平均長さが0.01〜1000mmであること、熱可塑性樹脂が、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類及びポリ乳酸類からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂或いは、熱可塑性樹脂が、エラストマー類である。当該エラストマー類は、主としてシリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくも1種よりなる。
【0014】
また、この炭素繊維複合シートを用いた熱伝導性成形体及びこの炭素繊維複合シートを用いた電磁波シールド性成形体である。また、プレス成形の際に、ポリイミドフィルムを形成されてなる成形体の離型材として用い、成形を実施することを特徴とする製造方法を取ることができ、当該ポリイミドフィルムの厚みは1〜100μmの範囲のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素繊維複合シートは、基本的な熱伝導や電波吸収特性が付与されるのみならず、デバイスの最外層に使用することができるほどに表面の光沢度が高く意匠性に富んでおり、筐体等に直接用いることを可能にならしめる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について順次説明していく。
本願発明で用いられる3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが炭素繊維の熱伝導性を向上させる上で特に望ましい。
【0017】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化、焼成することによって3次元ランダムマット状炭素繊維集合体となる。以下各工程について説明する。
【0018】
本願発明においては、3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、ノズル孔の長さと孔径の比3よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくは1.5よりも小さいものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜80Pa・S、好ましくは5〜30Pa・Sになる温度であればよい。
【0019】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が望ましい。
【0020】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマットとなる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。
【0021】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化し、1000〜3500℃で焼成される。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で焼成されるが、常圧であり、且つコストの安い窒素中で実施される。焼成温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2300〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2500〜3500℃にすることが好ましい。焼成の際に黒鉛製のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の原料となる不融化マットを、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、焼成中、または冷却中に炉内の酸化性のガス、または炭素蒸気との反応による3次元ランダムマット状炭素繊維集合体の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好まれる。
【0022】
本願発明で用いる3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維は、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であることが望ましい。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。より望ましくは、20nm以上であり、さらに望ましくは30nm以上である。
【0023】
3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の繊維径は1〜20μmである。1μm以下の場合には、マットの形状が保持できなくなることがあり生産性が悪い。繊維径が20μm以上になると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりする箇所が発生する。より望ましくは3〜15μmであり、さらに望ましくは5〜12μmである。糸径の平均値に対する糸径の分散の百分率として求められるCV値は、20%以下であることが望ましい。より望ましくは17%以下である。CV値が20%を超えると不融化でトラブルを起こす直径が20μm以上の繊維が増え生産性の観点より望ましくない。
【0024】
これに対して3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の繊維長は0.01〜1000mmである。0.01mmを下回ると繊維としてのハンドリングが困難になる。一方1000mmを超えると繊維の交絡が著しく増大し、やはりハンドリングが困難になる。より好ましくは0.1〜500mm、さらに好ましくは3〜300mmである。
【0025】
本願発明の炭素繊維の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、その中でも、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。よって、炭素繊維複合シートとしての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本願発明では3次元ランダムマット状炭素繊維を用いることでこれを解決し、炭素繊維複合シートとして1W/(m・K)以上にした。より望ましくは、2W/(m・K)以上であり、さらに望ましくは5W/(m・K)以上である。
【0026】
本願発明の炭素繊維複合シートに用いる熱可塑性樹脂は、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類およびポリ乳酸類からなる群よりなるいずれか一つ以上の樹脂を用いることができる。より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネイト、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー、ポリ乳酸等が挙げられる。そして、樹脂組成物は、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、二種以上の高分子材料からなるポリマーアロイを使用してもよい。
【0027】
また、熱可塑性高分子樹脂の他に、用途によっては、以下に例示するような熱硬化性樹脂を用いることも可能である。エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性PPE樹脂、熱硬化型PPE樹脂等が挙げられる。
【0028】
本願発明の炭素繊維複合シートには熱可塑性樹脂としてエラストマー類を用いることができる。そして、エラストマー類としては、ポリエステル系エラストマー、シリコーン系エラストマーを用いることができる。ポリエステル系エラストマーの具体例には、ポリエステルブロック共重合体をあげることができる。ポリエステル系ブロック共重合体は、主として形状を維持するハードセグメントと呼ばれる結晶性の高い部分と可とう性を高めるソフトセグメントと呼ばれる部分からなる。融点は、180℃から230℃である。より好ましくは190℃から210℃である。弾性率は1000MPa以下である。このような熱可塑性ポリエステル系エラストマー樹脂は市販品としては帝人化成株式会社製のTR−EKV、B4032AT、B4063AC、P4140DT等が挙げられる。特に吸水性が抑制されたP4140DTやB4032ATが好ましい。
また、熱可塑性ポリエステル系エラストマー樹脂の安定性を向上させるために、安定剤等と添加することもできる。
【0029】
本願発明の炭素繊維複合シートは公知の方法により作製することができる。具体的な成形体作成方法としては、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法などが挙げられる。この中でも特にプレス成形法が望ましい。プレス成形では、3次元ランダムマット状炭素繊維と熱可塑性樹脂を積層し、熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱し、高圧をかけて成形する。成形する前に3次元ランダムマット状炭素繊維は、電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものでもよい。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの方法によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。
【0030】
プレス成形法は、公知の手法であるが、本願発明の炭素繊維複合シートを製造する際には、炭素繊維複合シートの表面の光沢度を制御するために、用いる熱可塑性樹脂よりも融点の高いポリイミドフィルムを離型材として用いることができる。ポリイミドフィルムとしては、市販のものを用いることができ、東レ・デュポン株式会社製「カプトン」、宇部興産株式会社製「ユーピレックス」等を用いることができる。
【0031】
本願発明に用いることができるポリイミドフィルムの厚みは1〜100μmが適切である。1μm以下では、ハンドリングが困難であり、100μm以上では成形プロセスでの熱的な抵抗となり、プロセッシング時間が長くなってしまう。より好ましくは、25〜50μmである。
【0032】
3次元ランダムマット状炭素繊維と熱可塑性高分子樹脂の混合比は特に限定されないが、熱伝導度を高めるためには、成形後に10〜65体積%の3次元ランダムマット状炭素繊維が含まれることが望ましい。より望ましくは20〜65体積%である。また、炭素繊維複合シートの厚みは用途によって自由に設定することができるが、0.2〜10mmが成形歩留まりを向上させる上で望ましい。0.2mm以下は均一な成形が困難であり、10mm以上は厚みムラの制御が困難になる。
【0033】
本願発明の炭素繊維複合シートは、表面光沢があり、50%以上の表面光沢度を有する。より好ましくは60%以上である。表面光沢度が、50%以上であれば、見た目の意匠性に優れていると感じることができる。
【0034】
このようにして得られた炭素繊維複合シートは、所定の形状の金型に入れ、熱可塑性樹脂の軟化点温度以上に加熱し、プレス成形によって賦形し成形体とすることができる。このようにして作製した成形体は、ヒートマネジメントの用途に好適に用いることができる。より具体的に、成形体の用途について説明する。当該成形体は、電子機器等において半導体素子や電源、光源などの電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として用いられる。具体的には、賦形金型を形成できる任意の形状に加工して半導体素子等の発熱部材と放熱器等の放熱部材との間に介在させて用いたり、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、ヒートパイプ、筐体等に成形加工したりして用いることできる。
本願発明の炭素繊維複合シートは、放熱部材、発熱体、電磁波シールド材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)3次元ランダムマット状炭素繊維の直径は、焼成を経た繊維を走査型電子顕微鏡下800倍で10視野撮影し求めた。
(2)3次元ランダムマット状炭素繊維の糸長は、焼成を経た繊維を抜き取り測長器で測定した。
(3)炭素繊維複合シートの熱伝導率は、京都電子工業株式会社製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(4)3次元ランダムマット状炭素繊維の六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(5)表面光沢度はスガ試験機株式会社製デジタル光沢計を用い、開口率を60°として測定した。
【0036】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が285℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径10μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付250g/mのピッチ系短繊維からなる3次元ランダムマットとした。
【0037】
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から295℃まで平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化を行った。不融化した3次元ランダムマットを2300℃で焼成した。焼成後の3次元ランダムマット状炭素繊維の糸径は平均で8.1μm、糸径平均に対する糸直径分散の比は16%であった。糸長は平均で80mmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは28nmであった。
【0038】
熱可塑性樹脂として帝人化成株式会社製のフィルム状ポリカーボネイト(AD5501)を用い、3次元ランダムマット状炭素繊維を成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり650mmの金型で1.0mm厚になるようにプレス成形を実施した。このとき、成形用板の成形体側に米国Dupont社製の25μm厚みのポリイミドフィルム(「カプトン」フィルム)を貼り付けた。
成形された炭素繊維複合シートの熱伝導率を測定したところ、5W/(m・K)であった。表面光沢度は71%であり、意匠性に優れた成形体であった。
【0039】
[実施例2]
プレス成形時に25μmの宇部興産株式会社製「ユーピレックス」フィルムを成形加工面に接するように設定した以外は実施例1と同様に炭素繊維複合シートを作製した。
成形された炭素繊維複合シートの熱伝導率を測定したところ、5.8W/(m・K)であった。表面光沢度は67%であり、意匠性に優れた成形体であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1と同様に作製した3次元ランダムマットと熱可塑性樹脂として帝人化成株式会社製ポリエチレンテレフタレートフィルムであるA−PETシートを用い、3次元ランダムマット状炭素繊維を成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり650mmの金型で1.0mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形用板の成形体側に米国Dupont社製の25μm厚みのポリイミドフィルム(「カプトン」フィルム)を貼り付けた。
成形された炭素繊維複合シートの熱伝導率を測定したところ、4.5W/(m・K)であった。表面光沢度は62%であり、意匠性に優れた成形体であった。
【0041】
[比較例1]
成形用板の成形体側にステンレス板を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で炭素繊維複合シートを作製した。成形された炭素繊維複合シートの熱伝導性は5.1W/(m・K)であったが、表面光沢度は、10%であった。実施例に比較すると、表面がくすんでいることから意匠性は良好ではなかった。
【0042】
[実施例4]
実施例1で作製した炭素繊維複合シートを放熱材として使用したところ、十分な放熱性が得られた。
【0043】
[実施例5]
実施例1で作製した炭素繊維複合シートを電磁波シールド材として使用したところ、十分なシールド性が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を熱可塑性樹脂によって含浸した炭素繊維複合シートであって、表面光沢度が50%以上であることを特徴とする炭素繊維複合シート。
【請求項2】
当該3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であり、当該炭素繊維複合シートの熱伝導率が3W/(m・K)以上である、請求項1に記載の炭素繊維複合シート。
【請求項3】
当該3次元ランダムマット状炭素繊維集合体を構成する炭素繊維がピッチを原料とし、その炭素繊維の平均直径が5〜20μmであり、炭素繊維の平均長さが0.01〜1000mmである請求項1または2記載の炭素繊維複合シート。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、ポリカーボネイト類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類およびポリ乳酸類からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維複合シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、エラストマー類である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維複合シート。
【請求項6】
エラストマー類が、主としてシリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくも1種よりなる請求項5記載の炭素繊維複合シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維複合シートを用いた熱伝導性成形体。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維複合シートを用いた電磁波シールド性成形体。
【請求項9】
3次元ランダムマット状炭素繊維集合体と熱可塑性樹脂とを積層し、熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱し、高圧をかけて成形するに際し、ポリイミドフィルムを離型材として用いることを特徴とする、表面光沢度が50%以上の炭素繊維複合シートの製造方法。
【請求項10】
当該ポリイミドフィルムの厚みが、1〜100μmの範囲である請求項9に記載の炭素繊維複合シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−84649(P2007−84649A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273496(P2005−273496)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】