説明

炭素繊維集束剤、炭素繊維及び成形材料

【課題】本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等といわれる現象を引き起こすことのないレベルの優れた集束性を備え、かつ、曲げ強度等の機械的強度に優れた成形材料の製造に使用可能な炭素繊維集束剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られる、5000〜150000の重量平均分子量を有するビニル重合体(A1)を含有する炭素繊維集束剤であって、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)との質量割合〔(a1)で/(a2)〕が8/2〜4/6あることを特徴とする炭素繊維集束剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の集束剤に関するに関する。
【背景技術】
【0002】
高強度で優れた耐久性の求められる自動車部材や航空機部材等としては、例えばビニルエステル樹脂等のマトリックス樹脂と、炭素繊維等とを含む炭素繊維強化プラスチックが使用されている。
【0003】
前記炭素繊維強化プラスチックに使用する炭素繊維としては、通常、高強度を付与する観点から、炭素繊維集束剤によって概ね数千〜数万程度に集束された炭素繊維材料を使用することが多い。
【0004】
前記炭素繊維集束剤としては、例えばエポキシ樹脂と、所定のビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物及びポリエチレングリコール等をポリイソシアネート化合物で縮合して得られたビスフェノール系ポリエーテル化合物とを所定の割合で含有するエポキシ樹脂水分散物からなる繊維集束剤も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、例えば前記特許文献1に記載されたようなエポキシ樹脂水分散物からなる繊維集束剤では、繊維の集束性という点で十分でなく、繊維の巻き取りや製織工程で繊維の解れや毛羽立ち、糸切れが生じるなど集束性の点で十分でなく、その結果、集束された繊維の生産性が著しく低下する問題があった。
【0006】
また、繊維集束剤は、単に繊維に対する密着性や濡れ性に優れるだけでは不十分であり、最終的に集束された炭素繊維束に応力が加わった場合であっても、糸切れ等を引き起こすことがないよう、その応力を緩和できることが求められる。この点が、繊維集束剤と接着剤との決定的な相違点である。そのため、前記繊維集束剤の代わりに、従来知られる接着剤を用いた場合、一見、繊維の集束性に優れるようにみえる場合もあるが、繊維の巻き取りや製織工程等で、繊維束に応力が加わった場合に、繊維の解れや毛羽立ち、糸切れが生じ、その結果、集束された繊維の生産性の著しい低下を引き起こす場合があった。
【0007】
また、前記集束性に優れた繊維集束剤であっても、マトリックス樹脂との相溶性が十分でない場合には、最終的に得られる炭素繊維強化プラスチックの機械的強度、具体的には曲げ強度の著しい低下を引き起こす場合があるため、高強度の求められる用途に使用することができない場合があった。
【0008】
このように、炭素繊維の集束性の向上と、得られる炭素繊維強化プラスチック等の成形材料の機械的強度の向上とを両立可能な炭素繊維集束剤は、未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−178410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等といわれる現象を引き起こすことのないレベルの優れた集束性を備え、かつ、曲げ強度等の機械的強度に優れた成形材料の製造に使用可能な炭素繊維集束剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は前記課題を解決すべく検討した結果、ビニル重合体含有の炭素繊維集束剤のうち、(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)とが〔(a1)/(a2)〕=8/2〜4/6となる割合で重合して得られ、かつ5000〜150000の重量平均分子量を備えたビニル重合体含有の炭素繊維集束剤を使用した場合に限り、炭素繊維の集束性を格段に向上できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られる、5000〜150000の重量平均分子量を有するビニル重合体(A1)を含有する炭素繊維集束剤であって、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)との質量割合〔(a1)で/(a2)〕が8/2〜4/6あることを特徴とする炭素繊維集束剤に関するものである。
【0013】
また、本発明は、前記炭素繊維集束剤によって表面処理の施された炭素繊維、及び、それを含む成形材料に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素繊維集束剤であれば、炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等の発生を防止できるなど、炭素繊維の集束性に優れることから、曲げ強度等に優れた炭素繊維強化プラスチック等の成形品の製造に使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の炭素繊維集束剤は、(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られる、5000〜150000の重量平均分子量を有するビニル重合体(A1)、及び、必要に応じてその他の添加剤を含有する炭素繊維集束剤であって、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)との質量割合〔(a1)/(a2)〕が8/2〜4/6であることを特徴とするものである。
【0016】
前記ビニル重合体(A1)としては、単に(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られるものを使用できるのではなく、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)とを、〔(a1)/(a2)〕=8/2〜4/6(質量割合)となる範囲でラジカル重合して得られるものを使用することが、炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等といわれる現象を引き起こすことのないレベルの優れた集束性を付与でき、かつ、曲げ強度等の機械物性に優れた炭素繊維強化プラスチック等の成形材料を得るうえで重要である。
【0017】
ここで、前記ビニル重合体(A1)の代わりに、前記質量割合〔(a1)/(a2)〕が8.5/1.5であるビニル重合体を含む炭素繊維集束剤では、炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等といわれる現象を引き起こすことのないレベルの優れた集束性を付与することができない場合や、炭素繊維強化プラスチック等の曲げ強度の著しい低下等を引き起こす場合がある。
【0018】
一方、前記ビニル重合体(A1)の代わりに、前記質量割合〔(a1)/(a2)〕が3.5/6.5であるビニル重合体を含む炭素繊維集束剤は、ある程度良好な集束性を付与することはできるものの、炭素繊維強化プラスチック等の曲げ強度の著しい低下等を引き起こす場合がある。
【0019】
したがって、本発明で使用するビニル重合体(A1)としては、前記質量割合〔(a1)/(a2)〕が、7/3〜5/5の範囲であるものを使用することがより好ましい。
【0020】
また、前記ビニル重合体(A1)としては、230〜690の範囲の酸価を有するものを使用することが、炭素繊維に優れた集束性を付与し、かつ、曲げ強度等の機械物性に優れた炭素繊維強化プラスチック等の成形材料を得るうえで好ましい。なお、本発明でいう酸価は、水酸化カリウム法にしたがって滴定することにより算出した値である。前記ビニル重合体(A1)の酸価は、前記(無水)マレイン酸(a2)由来のカルボキシル基や、その他の酸成分が有する酸基に由来する酸価である。前記カルボキシル基等の酸基は、前記ビニル重合体(A1)を前記水性媒体(B)中に分散等して使用する場合に、前記ビニル重合体(A1)に対して良好な水分散性を付与しうる。
【0021】
前記ビニル重合体(A1)は、(無水)マレイン酸(a2)由来のカルボキシル基等の他に、例えばイタコン酸等が有するカルボキシル基や、ビニルスルフォ酸ソーダ等が有するスルホン酸基を有していてもよいが、炭素繊維強化プラスチックの曲げ強度等の機械的強度の低下を抑制する観点から、できるだけ含有しないほうが好ましい。具体的には、前記ビニル重合体(A1)が有する酸基の全量に対して、前記(無水)マレイン酸(a2)以外に由来する酸基は、5モル%以下であることが好ましく、1モル%以下であることがより好ましく、0.5モル%以下であることが特に好ましい。
【0022】
前記ビニル重合体(A1)の有するカルボキシル基は、その一部または全部が塩基性化合物によって中和され、カルボキシレート基を形成していてもよい。
【0023】
前記塩基性化合物としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等の金属塩基化合物等を使用することができる。
【0024】
また、前記ビニル重合体(A1)としては、単に前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られるものであればいずれも使用できるわけでなく、炭素繊維の集束性を向上する観点から、5000〜150000の範囲の重量平均分子量を有するものを使用することが重要である。
【0025】
ここで、前記ビニル重合体(A1)の代わりに、重量平均分子量20万のビニル重合体を使用した場合、応力等が加わった場合に炭素繊維の毛羽立ちや糸切れ等を引き起こす場合がある。
【0026】
したがって、前記ビニル重合体(A1)としては、30000〜100000のものを使用することがより好ましく、30000〜80000のものを使用することが特に好ましい。なお、前記重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定された値を指す。
【0027】
また、前記ビニル重合体(A1)の製造に使用する(メタ)アクリル酸エステル(a1)としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等を使用することができる。なかでも、炭素繊維の集束性をより一層向上する観点から、炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましく、メタアクリル酸n−ブチルを使用することが好ましい。
【0028】
また、前記ビニル重合体(A1)の製造に使用する際には、前記ビニル重合体(A1)中に酸基を導入するうえで(無水)マレイン酸(a2)を使用することが必須である。
【0029】
ここで、前記(無水)マレイン酸(a2)の代わりに、例えばメタクリル酸等の酸成分を使用しても、炭素繊維の集束性の向上と、炭素繊維強化プラスチック等の曲げ強度等の向上とを両立できない場合がある。
【0030】
また、前記ビニル重合体(A1)を製造する際に使用する組成物(A)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)及び前記(無水)マレイン酸(a2)とともに、必要に応じてその他のビニル単量体を使用することができる。
【0031】
前記その他のビニル単量体としては、例えば2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸−1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸−1,6−ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸等を使用することができる。
【0032】
前記その他のビニル単量体の使用量は、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)との合計質量に対して概ね5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
前記ビニル重合体(A1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)と、必要に応じて前記その他のビニル単量体とを含む組成物(A)を、例えば有機溶剤中で、概ね60℃〜140℃の温度で加熱しラジカル重合することによって製造することができる。
【0034】
前記有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレンのような芳香族系溶剤類、シクロへキサノンのような脂環族溶剤類、ノルマル酢酸ブチル、酢酸エチルのようなエステル系溶剤類、イソブタノール、ノルマルブタノール、イソプロピルアルコール、ソルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートのようなセロソルブ類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類等を使用することができる。
【0035】
また、前記組成物(A)をラジカル重合する際には、必要に応じて有機過酸化物を使用することができる。
【0036】
前記有機過酸化物としては、炭素原子を骨格に有する過酸化物、たとえばケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アルキルパーオキシカーボネートのほか、アゾビス系触媒や、過硫酸化合物等を使用することができる。
【0037】
前記方法で得られたビニル重合体(A1)を含有する炭素繊維集束剤は、無溶剤のものであってもよいが、有機溶剤を溶媒として含有するものや、水性媒体(B)を溶媒として含有するものであってもよい。
【0038】
前記炭素繊維集束剤は、良好な塗工作業性等を付与する観点から、前記有機溶剤や水性媒体(B)を溶媒として含有することが好ましい。前記炭素繊維集束剤中に含まれるビニル重合体(A1)の質量割合は、良好な塗工作業性等を維持する観点から、10質量%〜90質量%であることが好ましく、10質量%〜50質量%であることがより好ましい。また、前記炭素繊維集束剤中に含まれる水性媒体(B)の質量割合は、良好な塗工作業性等を維持する観点から、90質量%〜10質量%であることが好ましく、50質量%〜10質量%であることがより好ましい。
【0039】
前記溶媒に使用可能な有機溶剤としては、例えばアセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル等を使用することができる。
【0040】
また、前記溶媒に使用可能な前記水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0041】
前記ビニル重合体(A1)と、前記溶媒としての水性媒体(B)とを含有する炭素繊維集束剤は、例えば前記ビニル重合体(A1)の有機溶剤溶液と、前記塩基性化合物とを混合することによって、前記ビニル重合体(A1)の有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、次いで、前記水性媒体(B)と混合することによって、前記水性媒体(B)中に前記ビニル重合体(A1)が溶解または分散した炭素繊維集束剤を得ることができる。
【0042】
前記中和には、前記ビニル重合体(A1)の有するカルボキシル基の50モル%〜100モル%を中和できる量の塩基性化合物を使用することが、良好な水分散安定性を付与するうえで好ましい。
【0043】
前記ビニル重合体(A1)は、前記水性媒体(B)中で樹脂粒子を形成し、安定して分散することが好ましい。前記樹脂粒子は、概ね5nm〜500nmの範囲の平均粒子径であることが好ましい。ここで言う平均粒子径とは、動的光散乱法により測定した体積基準での平均粒子径を指す。
【0044】
前記炭素繊維集束剤は、必要に応じて硬化剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、顔料を併用することができる。
【0045】
また、前記炭素繊維集束剤としては、前記硬化反応を促進する観点から、硬化触媒を使用することができる。前記硬化触媒としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ベンジルメチルアミン、N,N−ジメチルフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどのアミン類;メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリフェニルフォスフィン、トリブチルフォスフィン等のフォスフィン類等を使用することができる。
【0046】
また、前記炭素繊維集束剤は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば酢ビ系、エチレン酢ビ系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系等のエマルジョン;スチレン・ブタジエン系、アクリロニトリル・ブタジエン系、アクリル・ブタジエン系等のラテックス、更には、ポバールやセルロース類等の水溶性樹脂等と組み合わせ使用することもできる。
【0047】
本発明の炭素繊維集束剤は、もっぱら炭素繊維の糸切れや毛羽立ち等を防止することを目的として、複数の繊維の集束や表面処理に使用する。
【0048】
前記炭素繊維集束剤を用いて処理可能な炭素繊維としては、一般にポリアクリロニトリル系、ピッチ系等の炭素繊維を使用することができる。なかでも、前記炭素繊維としては、優れた強度を付与する観点から、ポリアクリロニトリル系の炭素繊維を使用することが好ましい。
【0049】
また、前記炭素繊維としては、より一層優れた強度等を付与する観点から、概ね0.5μm〜20μmの単糸径を有するものを使用することが好ましく、2μm〜10μmのものを使用することがより好ましい。
【0050】
前記炭素繊維としては、例えば撚糸、紡糸、紡績加工、不織加工したものを使用することができる。また、前記炭素繊維としてはフィラメント、ヤーン、ロービング、ストランド、チョップドストランド、フェルト、ニードルパンチ、クロス、ロービングクロス、ミルドファイバー等のものを使用することができる。
【0051】
前記炭素繊維を、前記炭素繊維集束剤を用いて集束化し、前記炭素繊維束の表面に、前記炭素繊維集束剤に含まれる前記ビニル重合体(A1)からなる熱可塑性の皮膜を形成する方法としては、例えば、前記炭素繊維集束剤をキスコーター法、ローラー法、浸漬法、スプレー法、刷毛などその他公知の方法で、前記繊維表面に繊維集束剤を均一に塗布し、次いで常温または加熱下で乾燥等することによって形成する方法が挙げられる。前記炭素繊維集束剤が溶媒として水性媒体(B)や有機溶剤を含む場合には、前記塗布後に加熱ローラーや熱風、熱板等を用いて、加熱乾燥することが好ましい。
【0052】
前記炭素繊維材料の表面に形成された皮膜の付着量は、集束化され表面処理の施された炭素繊維束の全質量に対して概ね0.1質量%〜3質量%であることが好ましく、0.1質量%〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0053】
前記方法で得られた集束化され表面処理の施された炭素繊維は、後述するマトリックス樹脂(C)等と組み合わせ使用することによって、高強度な成形品を製造するための成形材料に使用することができる。
【0054】
特に、本発明の炭素繊維集束剤によって表面処理の施された炭素繊維は、マトリックス樹脂(C)と組み合わせ使用し成形品等を形成した際に、前記炭素繊維とマトリックス樹脂(C)との界面の密着性を著しく向上できるため、成形品の強度を向上することが可能である。
【0055】
前記マトリックス樹脂(C)としては、例えば熱硬化性樹脂(C1)または熱可塑性樹脂(C2)を使用することができる。前記熱硬化性樹脂(C1)としてはフェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。前記熱可塑性樹脂(C2)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、6−ナイロン、6,6−ナイロン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアセタール等を使用することができるが、なかでもフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選ばれる1種以上を使用することが好ましい。前記ポリアミドとしては、具体的には、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂に使用することが好ましい。
【0056】
本発明の炭素繊維集束剤を用いて集束化等された炭素繊維は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、ポリフェニレンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン樹脂のマトリックス樹脂と組み合わせ使用することが、高強度な成形品を得る上でより好ましい。
【0057】
前記表面処理の施された炭素繊維と前記マトリックス樹脂(C)と、必要に応じて重合性単量体等とを含む成形材料としては、例えばチョップドストランド溶融混錬法や、プリプレグやシートモールディングコンパウンド(SMC)等が挙げられる。
【0058】
前記プリプレグは、例えば前記マトリックス樹脂(C)を離型紙上に塗布し、その塗布面に表面処理の施された繊維を載置し、必要に応じてローラー等を用いて押圧含浸する方法が挙げられる。
【0059】
前記プリプレグを製造する際には、前記マトリックス樹脂(C)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂や、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0060】
また、前記シートモールディングコンパウンドは、例えば前記マトリックス樹脂(C)と、スチレン等の重合性不飽和単量体との混合物を、前記表面処理の施された繊維に十分含浸し、シート状に加工等することによって製造することができる。前記シートモールディングコンパウンドを製造する際には、前記マトリックス樹脂(C)として、不飽和ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0061】
前記成形材料の硬化は、例えば加圧または常圧下、加熱または光照射によってラジカル重合させることによって進行する。かかる場合には、公知の熱硬化剤や光硬化剤等を組み合わせ使用することができる。
【0062】
また、前記成形材料としては、例えば前記熱可塑性樹脂(C2)と前記表面処理の施された炭素繊維とを加熱下で混練等したものが挙げられる。かかる成形材料は、例えば射出成形法等による二次加工に使用することができる。
【0063】
前記成形材料を用いて得られた成形品は、高強度であることから、炭素繊維強化プラスチック等として、例えば自動車部材や航空機部材、産業用部材等に使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例によって、より具体的に説明する。
【0065】
〔実施例1〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸98質量部、メタクリル酸n−ブチル147質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0066】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水137質量部、イオン交換水600質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0067】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量7万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1−1)〔不揮発分23重量%、pH7.6、粘度580mPa・s〕を得た。
【0068】
〔実施例2〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸50質量部、メタクリル酸n−ブチル195質量部、酢酸n−ブチル50質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0069】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水70質量部、イオン交換水667質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0070】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量6.5万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1−2)〔不揮発分22重量%、pH7.7、粘度650mPa・s〕を得た。
【0071】
〔実施例3〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸135質量部、メタクリル酸n−ブチル110質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0072】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水188質量部、イオン交換水549質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0073】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量6.1万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1−3)〔不揮発分21重量%、pH7.4、粘度850mPa・s〕を得た。
【0074】
〔実施例4〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み130℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸98質量部、メタクリル酸n−ブチル147質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)3.2質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)12.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、130℃〜135℃の範囲で反応を行った。
【0075】
その後、120℃で130分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水137質量部、イオン交換水600質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0076】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量0.7万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1−4)〔不揮発分25重量%、pH7.6、粘度230mPa・s〕を得た。
【0077】
〔実施例5〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み110℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸98質量部、メタクリル酸n−ブチル147質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)0.8質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)1.5質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、110℃〜115℃の範囲で反応を行った。
【0078】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水137質量部、イオン交換水600質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0079】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量12.7万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1−5)〔不揮発分20重量%、pH7.6、粘度1230mPa・s〕を得た。
【0080】
〔比較例1〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸155質量部、メタクリル酸n−ブチル90質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0081】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水209質量部、イオン交換水528質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0082】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量6.7万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1’−1)〔不揮発分20重量%、pH7.6、粘度1230mPa・s〕を得た。
【0083】
〔比較例2〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸170質量部、メタクリル酸n−ブチル75質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0084】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水236質量部、イオン交換水501質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0085】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量5.9万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1’−2)〔不揮発分20重量%、pH7.6、粘度1230mPa・s〕を得た。
【0086】
〔比較例3〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸45質量部、メタクリル酸n−ブチル200質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0087】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水63質量部、イオン交換水674質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0088】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量6.5万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1’−3)〔不揮発分20重量%、pH7.6、粘度1230mPa・s〕を得た。
【0089】
〔比較例4〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み110℃に昇温した。次いで、無水マレイン酸40質量部、メタクリル酸n−ブチル205質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)0.8質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)1.5質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0090】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水56質量部、イオン交換水681質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0091】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量6.1万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1’−4)〔不揮発分20重量%、pH7.6、粘度1230mPa・s〕を得た。
【0092】
〔比較例5〕
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに酢酸n−ブチル95質量部を仕込み120℃に昇温した。次いで、メタクリル酸98質量部、メタクリル酸n−ブチル147質量部、酢酸n−ブチル75質量部、パーブチルD(ジターシャリーブチルハイドロパーオキサイド:日本油脂(株)製)1.6質量部、パーブチルZ(ターシャリーブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製)3.0質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120℃〜125℃の範囲で反応を行った。
【0093】
その後、120℃で120分間ホールドした後、反応容器の温度を90℃に下げ、25質量%のアンモニア水77質量部、イオン交換水660質量部を添加し、中和、水溶解を行った。
【0094】
次いで、90℃で減圧(0.080〜0.095MPa)下で約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%のアンモニア水を用いて不揮発分及びpHを調整することによって、重量平均分子量7万のビニル重合体を含む炭素繊維集束剤(A1’−5)〔不揮発分22重量%、pH7.8、粘度380mPa・s〕を得た。
【0095】
[炭素繊維集束剤の評価方法]
ポリアクリロニトリル系炭素繊維(直径7μm/6000本)のノーサイズ糸を束ね、前記で得た炭素繊維集束剤を浸漬法で含浸し、ローラーで絞ることで有効成分の付着量を1質量%に調整し、ついで、150℃で30分間熱処理することによって、前記炭素繊維集束剤によって表面処理の施された(集束された)炭素繊維束(炭素繊維ストランド)を得た。
【0096】
〔炭素繊維の集束性の評価方法1〕
TM式摩擦抱合力試験機TM−200(大栄科学精機社製)を用い、ジグザグに配置した鏡面クロムメッキステンレス針3本を介して50gの張力で、炭素繊維ストランドを1000回擦過させ(往復運動速度300回/分)、炭素繊維ストランドの毛羽たちの状態を下記の基準で目視判定した。
【0097】
◎:擦過前と同じく毛羽発生が全く見られなかった。
○:数本の毛羽は見られたものの、実用上問題ないレベルであった。
△:毛羽立ちが確認でき、糸切れも若干見られた。
×:毛羽立ち及び単糸の糸切れが非常に多く確認できた。
【0098】
〔炭素繊維の集束性の評価方法2〕
前記炭素繊維ストランドを、約5mmの長さに裁断することによって炭素繊維チョップドストランドを作製した。
【0099】
前記炭素繊維チョップドストランド50個を抽出し、それらを目視で観察した。具体的には、50個全ての炭素繊維チョップドストランドで、炭素繊維のほぐれや毛羽立ち等がみられなかったものを「◎」、1個〜5個の炭素繊維チョップドストランドで、炭素繊維のほぐれや毛羽立ち等がみられたものを「○」、6個〜30個の炭素繊維チョップドストランドで、炭素繊維のほぐれや毛羽立ち等がみられたものを「△」、31個〜50個の炭素繊維チョップドストランドで、炭素繊維のほぐれや毛羽立ち等がみられたものを「×」と評価した。
【0100】
〔炭素繊維強化プラスチックの機械的強度(曲げ強度)の評価方法〕
前記で得た炭素繊維ストランドを、6−ナイロン樹脂ペレット(汎用射出成型グレード)とを、炭素繊維質量含有率が30質量%となるように二軸押し出し混錬機にてコンパウンドし、3mmΦ×3mm長のコンパウンドペレットに加工した。
【0101】
コンパウンドペレットを射出成型し、150mm各×3.1mm厚の平板からなる炭素繊維強化プラスチックを作成した。前記平板から10mm幅×90mm長×3.1mm厚の曲げ試験板を5つ切り出し、JIS K7171に準拠して3点曲げ試験(スパン/厚さ比=20、試験速度5mm/分)を実施し、曲げ強度を測定した。前記曲げ強度は、概ね80MPa以上であることが好ましく、95MPaであることが特に好ましい。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル(a1)と(無水)マレイン酸(a2)とを含む組成物(A)をラジカル重合して得られる、5000〜150000の重量平均分子量を有するビニル重合体(A1)を含有する炭素繊維集束剤であって、前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)と前記(無水)マレイン酸(a2)との質量割合〔(a1)/(a2)〕が8/2〜4/6であることを特徴とする炭素繊維集束剤。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル(a1)が、炭素原子数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1−1)である、請求項1に記載の炭素繊維集束剤。
【請求項3】
更に水性媒体(B)を含有するものであって、前記ビニル重合体(A1)が前記水性媒体(B)中に溶解または分散したものである、請求項1に記載の炭素繊維集束剤。
【請求項4】
炭素繊維の表面に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維集束剤を用いて形成された皮膜を有することを特徴とする表面処理の施された炭素繊維。
【請求項5】
マトリックス樹脂(C)と、請求項4に記載の表面処理の施された炭素繊維とを含有することを特徴とする成形材料。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂(C)が、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、及び、ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる1種以上である、請求項5に記載の成形材料。

【公開番号】特開2013−36127(P2013−36127A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171872(P2011−171872)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】