説明

炭素膜の形成方法、磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置

【課題】本発明は、潤滑剤に対する濡れ性が高く、平滑な表面を有し、高硬度で緻密な水素を含む炭素膜を形成することを可能とした炭素膜の形成方法、並びに、該炭素膜の形成方法により形成された水素を含む炭素膜を有する磁気記録媒体及び磁気記録再生装置を提供することを課題とする。
【解決手段】水素を含む炭素膜の形成後に、成膜室101内に不活性ガスを導入し、不活性ガスをイオン化して水素を含む炭素膜の表面に加速照射し、水素を含む炭素膜の少なくとも表層部を脱水素化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜の形成方法、磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体の分野では、記録密度の向上が著しく、最近では記録密度が1年間で1.5倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。このような記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、キーテクノロジーの一つとして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を挙げることができる。
【0003】
例えば、ウインチェスター様式と呼ばれる、磁気ヘッドの起動から停止までの基本動作を磁気記録媒体に対して接触摺動−浮上−接触摺動としたCSS(接触起動停止)方式がハードディスクドライブの主流となって以来、磁気記録媒体上での磁気ヘッドの接触摺動は避けることのできないものとなっている。
【0004】
このため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間のトライボロジーに関する問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っており、磁気記録媒体の磁性膜上に積層される保護膜を改善する努力が営々と続けられていると共に、この媒体表面における耐摩耗性及び耐摺動性が、磁気記録媒体の信頼性向上の大きな柱となっている。
【0005】
磁気記録媒体の保護膜としては、様々な材質からなるものが提案されているが、成膜性や耐久性等の総合的な見地から、主に炭素膜が採用されている。また、この炭素膜の硬度、密度、動摩擦係数等は、磁気記録媒体のCSS特性、あるいは耐コロージョン特性に如実に反映されるため、非常に重要である。
【0006】
一方、磁気記録媒体の記録密度の向上、及び読み書き速度の向上を図るためには、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)の低減、媒体回転数の増加等を行うことが好ましい。したがって、磁気記録媒体の表面に形成される保護膜には、磁気ヘッドの偶発的な接触等に対応するため、より高い摺動耐久性や平坦性が要求されるようになってきている。加えて、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスを低減して記録密度を高めるためには、保護膜の厚さをできるだけ薄く、例えば30Å以下の膜厚にすることが要求されるようになってきており、平滑性は勿論のこと、薄く、緻密で且つ強靭な保護膜が強く求められている。
【0007】
また最近は、磁気記録媒体へのサーボ信号等の書き込みをサーボライタではなく、予め全てのサーボ信号等の情報が書き込まれたマスター情報担体と呼ばれるディスクと磁気記録媒体とを重ね合わせ、外部から転写用のエネルギーを与えることによりマスター情報担体に書き込まれた信号を磁気記録媒体に一括転写する方式が提案されている(例えば、特許文献4)。
この方法は、磁気記録媒体とマスター情報担体の凸部とを密着させ、外部磁界を加えることによって磁気転写を行うものであるが、マスター情報担体の凸部には耐摩耗性を高めるために高硬度の炭素膜が被覆されている。よって磁気記録媒体の保護膜には、このようなマスター情報担体表面の凸部の圧接に対しても耐えうる硬さが求められている。
【0008】
磁気記録媒体の保護膜に用いられる炭素膜は、スパッタリング法やCVD法、イオンビーム蒸着法等によって形成される。このうち、スパッタリング法で形成した炭素膜は、例えば100Å以下の膜厚とした場合に、その耐久性が不十分となることがある。一方、CVD法で形成した炭素膜は、その表面の平滑性が低く、膜厚を薄くした場合に、磁気記録媒体の表面の被覆率が低下して、磁気記録媒体のコロージョンが発生する場合がある。一方、イオンビーム蒸着法は、上述したスパッタリング法やCVD法に比べて、高硬度で平滑性が高く、緻密な炭素膜を形成することが可能である。
【0009】
イオンビーム蒸着法による炭素膜の形成方法としては、例えば、真空雰囲気下の成膜室内で、加熱されたフィラメント状カソードとアノードとの間の放電により成膜原料ガスをプラズマ状態とし、これをマイナス電位の基板表面に加速衝突させることにより、硬度の高い炭素膜を安定して成膜する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0010】
なお、保護膜を設けただけでは、磁気記録媒体の保護は十分ではない。そのため、保護膜の表面に、厚さが0.5〜3nm程度の潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、保護膜の耐久性や保護力を改善している。このように、潤滑剤層を設けることによって、磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)が保護膜と直接接触するのを防止することができると共に、磁気記録媒体上を摺動する磁気ヘッド(磁気ヘッドスライダ)の摩擦力を著しく低減させることが可能となるので、磁気記録媒体内部への汚染物質の侵入を防ぐことができる。
【0011】
ここで、潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤や脂肪族炭化水素系潤滑剤などが従来から提案されている。例えば、特許文献2には、HOCH−CFO−(CO)p−(CFO)q−CHOH(p、qは整数)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。
また、特許文献3には、HOCHCH(OH)−CHOCHCFO−(CO)p−(CFO)q―CFCHOCH―CH(OH)CHOH(p、qは整数)の構造をもつパーフロロアルキルポリエーテル(テトラオール)の潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−226659公報
【特許文献2】特開平11−49716号公報
【特許文献3】特開平9−282642号公報
【特許文献4】特開平10−40544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のCVD法やイオンビーム蒸着法で形成される硬質の炭素膜として、ダイヤモンド膜やダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が知られている。ダイヤモンド膜は、一般的には略100%のダイヤモンド結合による多結晶の膜である。DLC膜は、ダイヤモンド結合を内在するアモルファス質の膜である。ここで磁気記録媒体の保護膜に用いられる炭素膜には、高い表面平滑性が求められるため一般的には結晶性のダイヤモンド膜は用いられずにDLC膜が用いられ、特にその高い表面平滑性から水素化したDLC膜(水素を含んだ炭素膜)が用いられる。
【0014】
ここで、上記特許文献1に記載された方法でDLC膜を形成する場合、励起源である通電加熱したフィラメントおよびフィラメントとアノードとの間の放電で原料ガスである炭化水素ガスを分解、イオン化し、これをマイナス電位の基板表面に加速衝突させることにより、硬度が高く平滑性の高いDLC膜を形成することができる。
しかしながら、上記DLC膜中には20原子%程度の水素が含有されてしまう。このような水素含有量の高いDLC膜は、水素を全く含まないDLC膜に比べて硬度が低く、DLC膜上に塗布して使用される潤滑剤(例えば、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤)に対する濡れ性が悪く、DLC膜への潤滑剤の被覆率が低下する問題点があった。
【0015】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、潤滑剤に対する濡れ性が高く、平滑な表面を有し、高硬度で緻密な水素を含む炭素膜を形成することを可能とした炭素膜の形成方法を提供することを目的とする
また、本発明は、上記炭素膜の形成方法を用いて形成される水素を含む炭素膜を磁気記録媒体の保護層に用いることによって、耐摩耗性、耐コロージョン性に優れた磁気記録媒体及び該磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、減圧された成膜室内に炭素及び水素を含む原料の気体を導入し、通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極と、カソード電極の周囲に設けられたアノード電極との間の放電により、原料の気体をイオン化し、イオン化した気体を基板の表面に加速照射して、基板の表面に硬度が高く緻密性の高い水素を含む炭素膜を形成し、その後、水素を含む炭素膜の表面にアルゴンイオン等を照射することにより、水素を含む炭素膜の表面(表層部)を脱水素化し、水素を含む炭素膜の表面の潤滑剤に対する濡れ性を高めることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 減圧した成膜室内に炭素および水素を含む原料の気体を導入し、通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極と、該カソード電極の周囲に設けられたアノード電極との間の放電により前記気体をイオン化し、イオン化した気体を加速して基板の表面に照射することによって、前記基板の表面に水素を含む炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、前記水素を含む炭素膜の形成後に、前記成膜室内に不活性ガスを導入し、該不活性ガスをイオン化して前記水素を含む炭素膜の表面に加速照射し、前記水素を含む炭素膜の少なくとも表層部を脱水素化することを特徴とする炭素膜の形成方法。
(2) 前記脱水素化は、前記成膜室から前記気体を排気した後、前記成膜室内に前記不活性ガスを導入することで行うことを特徴とする(1)に記載の炭素膜の形成方法。
(3) 前記不活性ガスがアルゴンガスであることを特徴とする(1)または(2)に記載の炭素膜の形成方法。
(4) 前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を設けて、前記イオン化した気体を加速しながら前記基板の表面に照射することを特徴とする(1)ないし(3)のうち、いずれか1項記載の炭素膜の形成方法。
(5) 非磁性基板と、該非磁性基板の少なくとも一方の面に設けられた磁性層と、前記非磁性基板と接触する面とは反対側に位置する前記磁性層の面に設けられた水素を含む炭素膜と、を有し、前記水素を含む炭素膜は、前記磁性層と接触する面の反対側に位置する表面の水素濃度が膜中の最高水素濃度よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
(6) (5)記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、潤滑剤の濡れ性が高く、表面の平滑性が高く、高硬度で緻密な水素を含む炭素膜を形成することが可能である。したがって、このような水素を含む炭素膜を磁気記録媒体等の保護膜に用いた場合には、水素を含む炭素膜の厚さを薄くすることが可能なため、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能である。その結果、磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
また、炭素膜の特に表層部の硬度が高まるため、磁気転写工程において磁気記録媒体が損傷を受けることがなくなる。よって、磁気記録再生装置の生産工程に磁気転写工程を導入可能となり磁気記録再生装置の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した水素を含む炭素膜の形成装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】マグネットが印加する磁場とその磁力線の方向を示す模式図である。
【図3】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の他例を示す断面図である。
【図5】磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(水素を含む炭素膜の形成方法及び形成装置)
先ず、本発明を適用した水素を含む炭素膜の形成方法及び形成装置について説明する。
図1は、本発明を適用した水素を含む炭素膜を形成する装置を模式的に示す概略構成図である。
図1に示すように、水素を含む炭素膜の形成装置は、イオンビーム蒸着法を用いた成膜装置であり、減圧可能な成膜室101と、成膜室101内で基板Dを保持するホルダ102と、成膜室101内に、炭素および水素を含む原料の気体G(以下、「気体G」という)や不活性ガスを導入する導入管103と、成膜室101内に配置されたフィラメント状のカソード電極104と、成膜室101内のカソード電極104の周囲に配置されたアノード電極105と、カソード電極104を通電により加熱する第1の電源106と、カソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせる第2の電源107と、カソード電極104又はアノード電極105と基板Dとの間に電位差を与える第3の電源108と、カソード電極104とアノード電極105又は基板Dとの間で磁場を印加するマグネット109とを備えて概略構成されている。
【0022】
成膜室101は、チャンバ壁101aによって気密に構成されると共に、真空ポンプ(図示せず)に接続された排気管110を通じて内部を減圧排気することが可能となっている。
【0023】
第1の電源106は、カソード電極104に接続された交流電源であり、水素を含む炭素膜の成膜時にカソード電極104に電力を供給する。また、第1の電源106には、交流電源に限らず、直流電源を用いてもよい。
【0024】
第2の電源107は、−電極側がカソード電極104に、+電極側がアノード電極105に接続された直流電源であり、水素を含む炭素膜の成膜時にカソード電極104とアノード電極105との間で放電を生じさせる。
【0025】
第3の電源108は、+電極側がアノード電極105に、−電極側がホルダ102に接続された直流電源であり、水素を含む炭素膜の成膜時にアノード電極105とホルダ102に保持された基板Dとの間に電位差を付与する。また、第3の電源108は、+電極側がカソード電極104に接続された構成としてもよい。
【0026】
マグネット109は、永久磁石又は電磁石からなり、チャンバ壁101aの周囲に配置されると共に、駆動モータ(図示せず)により周方向に回転駆動することが可能となっている。また、マグネット109として永久磁石を用いる場合には、強い磁場を発生させることができる焼結磁石を用いることが好ましい。
【0027】
ここで、本発明で言うマグネット109の回転とは、マグネット109を360°の角度を超えて一方向に連続回転させることに加え、360°未満の角度で、往復回転(揺動)させる場合も含む。例えば、上記マグネット109として、回転の中心軸に対して等間隔で平行に複数の棒磁石を配置した場合、その棒磁石の最短の間隔が中心軸に対してX°を為す場合、往復回転(揺動)させる角度範囲をX°とすれば、成膜室101内で発生する磁界を均一なものとすることが可能である。また、電磁石を用いる場合は、電力を供給する必要があるため、180°以上360°未満の角度で往復回転させることが好ましい。
【0028】
なお、本発明では、基板Dのサイズにもよるが、外径3.5インチの円盤状の基板に、水素を含む炭素膜を成膜する場合、第1の電源106については、電圧を10〜100Vの範囲、電流を直流又は交流で5〜50Aの範囲に設定することが好ましく、第2の電源107については、電圧を50〜300Vの範囲、電流を10〜5000mAの範囲に設定することが好ましく、第3の電源108については、電圧を30〜500Vの範囲、電流を10〜200mAの範囲に設定することが好ましい。マグネット109の回転数については、例えば20〜200rpmの範囲に設定することが好ましい。
【0029】
以上のような構成とされた形成装置を用いて、基板Dの表面に水素を含む炭素膜を形成する場合、排気管110を介して減圧された成膜室101の内部に、導入管103を介して、炭素および水素を含む原料の気体Gを導入する。この原料の気体Gは、第1の電源106からの電力の供給により加熱されたカソード電極104の熱プラズマと、第2の電源107に接続されたカソード電極104とアノード電極105との間で放電により発生したプラズマとによって励起分解されてイオン化した気体(炭素イオン)となる。そして、このプラズマ中で励起された炭素イオンは、第3の電源108によりマイナス電位とされた基板Dに向かって加速しながら、この基板Dの表面に衝突することになる。
【0030】
ここで、本発明の水素を含む炭素膜の成膜方法では、チャンバ壁101aの周囲に配置されたマグネット109によって、原料の気体Gをイオン化する領域又はイオン化した気体(イオンビームという。)を加速する領域(以下、「励起空間」という)において磁場を印加する。
【0031】
本発明では、炭素イオンを基板Dの表面に加速照射するときに、外部から磁場を印加することによって、この基板Dの表面に向かって加速照射される炭素イオンのイオン密度を高めることができる。これにより、励起空間内のイオン密度が高められると、この励起空間内の励起力が高められ、より高いエネルギー状態となった炭素イオンを基板Dの表面に加速照射することができ、その結果、基板Dの表面に硬度が高く緻密性の高い水素を含む炭素膜を成膜することが可能となる。
【0032】
さらに、本発明では、励起空間の周囲に配置されたマグネット109を周方向に回転させることによって、この励起空間に印加される磁場の分布を均質なものとし、この励起空間中の炭素イオンの分布を均一化して基板Dの表面に照射することができる。したがって、基板Dの表面に形成される水素を含む炭素膜の膜厚分布も安定化させることが可能である。
【0033】
本発明では、上述したカソード電極104及びアノード電極105の周囲に設けたマグネット109によって成膜室101内の励起空間に磁場を印加することができるが、このマグネット109が印加する磁場とその磁力線の方向については、例えば図2(a)〜(c)に示すような構成を採用することができる。
【0034】
すなわち、図2(a)に示す構成(図1に示す場合と同様な構成)では、成膜室101のチャンバ壁101aの周囲に、S極が基板D側、N極がカソード電極104側となるようにマグネット109が配置されている。この構成の場合、マグネット109によって生ずる磁力線Mは、成膜室101の中央付近においては、イオンビームBの加速方向と略平行となる。成膜室101内の磁力線Mの方向をこのような方向に設定することにより、励起空間における炭素イオンを、その磁気モーメントにより成膜室101内の中央付近に集中させ、この励起空間内のイオン密度を効率良く高めることが可能である。
【0035】
さらに、上記マグネット109を電磁石によって構成する場合も、電磁石は磁心へのコイルの巻き方によって発生する磁界に分布が生ずるため、このような電磁石で構成されたマグネット109を周方向に回転させることで、励起空間内での磁場分布を均質なものとすることが可能である。
【0036】
また、本発明を適用した水素を含む炭素膜の形成方法では、炭素および水素を含む原料の気体Gとして、例えば炭化水素を含むものを用いることができる。炭化水素としては、低級飽和炭化水素、低級不飽和炭化水素、低級環式炭化水素のうち何れか1種又は2種以上の低炭素炭化水素を用いることが好ましい。なお、ここでいう低級とは、炭素数が1〜10の場合を指す。
【0037】
このうち、低級飽和炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン等を用いることができる。一方、低級不飽和炭化水素としては、イソプレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン等を用いることができる。一方、低級環式炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、ナフタレン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン等を用いることができる。
【0038】
本発明において、低級炭化水素を用いることが好ましいとしたのは、炭化水素の炭素数が上記範囲を越えると、導入管103から気体として供給することが困難となることに加え、放電時の炭化水素の分解が進行しににくくなり、水素を含む炭素膜が強度に劣る高分子成分を多く含むことになるからである。
【0039】
以上のように、本発明では、このようなイオンビーム蒸着法を用いた成膜装置において、減圧された成膜室101内に炭素および水素を含む原料の気体Gを導入し、通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極104と、カソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105との間で放電により、原料の気体Gをイオン化し、イオン化した気体を基板Dの表面に加速照射するときに、外部から磁場を印加することによって、基板Dの表面に向かって加速照射されるイオン化した気体のイオン密度を高めて、この基板Dの表面に高硬度で緻密な水素を含む炭素膜を形成することが可能である。
特に、炭素膜の表層部の硬度が高まるため、磁気転写工程において磁気記録媒体が損傷を受けることがなくなる。よって、磁気記録再生装置の生産工程に磁気転写工程を導入可能となり磁気記録再生装置の生産性を高めることができる。
【0040】
本発明では、水素を含む炭素膜の形成後に成膜室101内に不活性ガスを導入し、通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極104とカソード電極104の周囲に設けられたアノード電極105との間で、放電により不活性ガスをイオン化し、基板Dの表面に形成した水素を含む炭素膜にイオン化した不活性ガスを加速照射し、照射した不活性ガスイオンにより水素を含む炭素膜の少なくとも表層部の水素をはじき出すことで、潤滑剤が形成される水素を含む炭素膜の表面を脱水素化することを特徴とする。これにより、水素を含む炭素膜の表面の潤滑剤に対する濡れ性を高めることが可能となる。
また、水素を含む炭素膜の表面の脱水素化に際し、成膜装置の外部から磁場を印加することによって、基板Dに向かって加速照射される不活性ガスのイオン密度を高めて、水素を含む炭素膜の表面の脱水素効果を高めるのが好ましい。
【0041】
本願発明の成膜室101内への不活性ガスの導入は、水素を含む炭素膜の成膜後または成膜後期に、成膜室101内に導入されている炭素および水素を含む原料の気体Gに混合させることによって行ってもよいが、好ましくは、成膜室101内の気体Gを一旦排気して、水素を含む炭素膜の成膜を完了した後に行うとよい。
このように、成膜室101内の気体Gを一旦排気して、水素を含む炭素膜の成膜を完了した後に、成膜室101内へ不活性ガスを導入することで、水素を含む炭素膜の表面の脱水素化をより効果的に行うことができる。
なお、不活性ガスの導入を、成膜室101内に導入されている炭素および水素を含む原料の気体Gに混合させることによって行う場合は、不活性ガスの導入と成膜室101内の排気を同時に進行させることにより、成膜室内での不活性ガスへの置換速度を速めることが可能となる。
【0042】
本願発明で用いる不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを用いるのが好ましい。この中で質量の大きいガスを用いると水素を含む炭素膜そのものの構造を壊す場合があり、また質量の小さいガスを用いると水素をはじき出す効果が低下する。そのため、水素を含む炭素膜の構造を壊さず、かつ水素を含む炭素膜の表層部の水素のみを効率的にはじき出すためにはアルゴンを用いるのが特に好ましい。
【0043】
なお、図1に示す水素を含む炭素膜の形成装置では、基板Dの片面にのみ水素を含む炭素膜を成膜する構成となっているが、基板Dの両面に水素を含む炭素膜を成膜する構成とすることも可能である。この場合、基板Dの片面にのみ水素を含む炭素膜を成膜する場合と同様の装置構成を、成膜室101内の基板Dを挟んだ両側に配置すればよい。
【0044】
(磁気記録媒体及びその製造方法)
次に、本発明を適用した磁気記録媒体及びその製造方法について説明する。なお、本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置(図示せず)を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0045】
本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図3に示すように、非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されてなる。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83により磁性層810が構成されている。
【0046】
そして、この磁気記録媒体では、保護層84として、上記本発明の水素を含む炭素膜の形成方法を用いて、潤滑剤の濡れ性、平坦性が高く、高硬度で緻密な水素を含む炭素膜が均一な厚みで形成されている。この場合、磁気記録媒体では、水素を含む炭素膜の膜厚を薄くすることが可能であり、具体的には、水素を含む炭素膜の膜厚を2nm程度以下とすることが可能である。
【0047】
したがって、本発明では、このような磁気記録媒体と磁気ヘッドとの距離を狭く設定することが可能となり、その結果、この磁気記録媒体の記録密度を高めると共に、この磁気記録媒体の耐コロージョン性を高めることが可能である。
【0048】
以下、上記磁気記録媒体の保護層84以外の各層について説明する。非磁性基板80としては、Alを主成分とした基板を用いることができる。非磁性基板80としては、例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0049】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0050】
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。
また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO2合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0051】
記録磁性層83の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、記録磁性層83は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。記録磁性層83の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0052】
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤、脂肪酸等の固体潤滑剤を用いることができる。通常は1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。潤滑剤の塗布方法としては、ディッピング法やスピンコート法など従来公知の方法を使用すればよい。
【0053】
また、本発明を適用して製造される他の磁気記録媒体としては、例えば図4に示すように、上記記録磁性層83に形成された磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体であってもよい。
【0054】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体については、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディア、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含んでいてもよい。
【0055】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって記録磁性層83の一部を磁性体から非磁性体に改質し、非磁性領域83bを形成することにより得られる。
【0056】
(磁気記録再生装置)
また、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図5に示すようなハードディスク装置を挙げることができる。このハードディスク装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、ヘッド駆動部99と、記録再生信号処理系100とを備えている。そして、磁気再生信号処理系100は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0058】
(実施例1)
実施例1では、先ず、非磁性基板としてNiPめっきが施されたアルミニウム基板を用意した。次に、インライン式成膜装置(図示せず)を用いて、A5052アルミ合金製のキャリアに装着された非磁性基板の両面に、膜厚60nmのFeCoBからなる軟磁性層と、膜厚10nmのRuからなる中間層と、膜厚15nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層とを順次積層することによって磁性層を形成した。次に、キャリアに装着された非磁性基板を図1に示す成膜装置と同様の装置構成を備える処理チャンバ(図示せず)に搬送し、この磁性層が形成された非磁性基板の両面に水素を含む炭素膜からなる保護層を形成した。
【0059】
具体的に、処理チャンバは、外径が180mm、長さが250mmの円筒形状を有し、この処理チャンバを構成するチャンバ壁の材質はSUS304である。処理チャンバ内には、長さ約30mmのタンタルからなるコイル状のカソード電極と、カソード電極の周囲を囲む円筒状のアノード電極とが設けられている。アノード電極は、材質がSUS304であり、外径が140mm、長さが40mmである。また、カソード電極と非磁性基板との距離は160mmとした。さらに、チャンバ壁の周囲を囲む円筒状のマグネットを配置し、その中心にアノード電極が位置するようにした。マグネットは、内径が185mm、長さが40mmであり、その内側に、上記図2(a)に示すように、10mm角で長さ40mmのNdFe系の焼結棒磁石を等間隔で平行に20本配置すると共に、S極が基板側、N極がカソード電極側となるように、各焼結棒磁石を配置した。また、このマグネットのトータル磁力は50G(5mT)である。そして、炭素膜の成膜中は、このマグネットを100rpmで回転させた。
【0060】
原料ガスとしてガス化したトルエンを用いて水素を含む炭素膜を形成した。水素を含む炭素膜の成膜条件は、ガス流量を2.9SCCM、反応圧力を0.2Paとし、カソード電力を225W(AC22.5V、10A)、カソード電極とアノード電極間の電圧を75V、電流を1650mA、イオンの加速電圧を200V、180mA、成膜時間を1.5秒とし、水素を含む炭素膜の厚さを3.5nmとした。
その後、原料ガスの供給を停止し、処理チャンバ内を2秒間排気し、その後、アルゴンをガス流量2SCCM、反応圧力を0.1Paとし、カソード電力を128W(AC16V、8A)、カソード電極とアノード電極間の電圧を75V、電流を1000mA、イオンの加速電圧を200V、90mA、処理時間を1秒として水素を含む炭素膜の表面の脱水素化を行った。その後、水素を含む炭素膜の表面にパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を1.4nmの膜厚で塗布した。
【0061】
(比較例1)
比較例1では、水素を含む炭素膜の成膜後、アルゴンイオンによる脱水素処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件で磁気記録媒体を製造した。
始めに、図4及び図5に示すように、複数の配線基板形成領域Dを有し、第1及び第2の絶縁基板25,41の母材となる基板101を準備する。
【0062】
(磁気記録媒体の評価)
そして、これら実施例1及び比較例1の磁気記録媒体に対して、各水素を含む炭素膜中の水素分布測定、ラマン分光測定、スクラッチ試験、及びコロージョン試験を実施した。
【0063】
水素を含む炭素膜中の水素分布測定については、水素を含む炭素膜の深さ方向にEPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いて調べた。
その結果、実施例1の磁気記録媒体の水素を含む炭素膜については、最表面の水素量が約10原子%であり、深さ1.5nmで約20原子%、これよりも深い領域では深さ方向に対して水素量が直線状に減少し、磁性層との界面付近が約15原子%となっていた。
一方、比較例1の磁気記録媒体について同様の測定を行ったところ、最表面の水素量が約23原子%、深さ1.5nmで約20原子%、これよりも深い領域では深さ方向に対して水素量が直線状に減少し、磁性層との界面付近が約15原子%となっていた。
すなわち、第1実施例の水素を含む炭素膜の表層部における水素濃度は、比較例1の水素を含む炭素膜の表層部における水素濃度を基準(この水素濃度を100%)とした場合、43%低下することが分かった。
【0064】
一方、ラマン分光測定については、JEOL社製のラマン分光装置を用いて、B/Aの測定を行った。ここでのB/Aとは、ラマンスペクトルのピーク強度をB値、ベースライン補正を行ったときのピーク強度をA値として算出される値である。このB/Aの値が小さいほど、水素を含む炭素膜中のポリマー成分が少なく、硬質の炭素膜であることを示す。
B/Aを測定した結果、実施例1の磁気記録媒体のB/Aは1.3、比較例1の磁気記録媒体のB/Aは1.6であった。この実施例1の磁気記録媒体の方が比較例1の磁気記録媒体よりもB/Aの低い、水素を含む炭素膜が得られることが分かった。すなわち、本発明を用いて製造される磁気記録媒体を構成する水素を含む炭素膜は、脱水素の効果により、sp3成分の比率が高まることが明らかとなった。
【0065】
一方、スクラッチ試験については、クボタ社製のSAFテスターを用いて行った。試験条件は、磁気記録媒体を12000rpmで回転させ、PP6ヘッドを用いて、ディスク表面を2時間、5インチ/秒の速度でシーク動作を繰り返し、その後、光学顕微鏡でスクラッチの有無を確認した。このようなスクラッチ試験を20枚の各磁気記録媒体に対して行い、その発生枚率(%)を調べた。
その結果、実施例1の磁気記録媒体のスクラッチ発生率は15%、比較例1の磁気記録媒体のスクラッチ発生率は20%であり、実施例1の磁気記録媒体の方が比較例1の磁気記録媒体よりも、スクラッチが発生しにくい硬質の炭素膜(水素を含む炭素膜)が得られることがわかった。すなわち、本発明を用いて製造される磁気記録媒体の水素を含む炭素膜は、その表層部が従来の水素を含む炭素膜の表層部(脱水素化されていない表層部)よりも硬度が高いため、薄膜化しても膜厚の薄い部分からのスクラッチの発生を防ぐことができる。
【0066】
一方、コロージョン試験については、磁気記録媒体を90℃、湿度90%の環境下に96時間放置した後、磁気記録媒体の表面に発生したコロージョンスポットの個数(個/面)を光学式表面検査機でカウントした。
その結果、実施例1の磁気記録媒体のコロージョンスポット個数は100個/面、比較例1の磁気記録媒体のコロージョンスポット個数は120個/面であり、実施例1の磁気記録媒体の方が比較例1の磁気記録媒体よりも、コロージョンの発生が緩和されることがわかった。すなわち、本発明を用いて製造される磁気記録媒体の水素を含む炭素膜は、磁性層の表面における水素を含む炭素膜の被覆率が高くなるため、コロージョンの発生を緩和でき、水素を含む炭素膜の表面に形成される潤滑剤の被覆率を高くすることができる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
80…非磁性基板、81…軟磁性層、82…中間層、83…記録磁性層、84…保護層、85…潤滑膜、810…磁性層、101…成膜室、102…ホルダ、103…導入管、104…カソード電極、105…アノード電極、106…第1の電源、107…第2の電源、108…第3の電源、109…マグネット、110…排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧した成膜室内に炭素および水素を含む原料の気体を導入し、通電により加熱されたフィラメント状のカソード電極と、該カソード電極の周囲に設けられたアノード電極との間の放電により前記気体をイオン化し、イオン化した気体を加速して基板の表面に照射することによって、前記基板の表面に水素を含む炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記水素を含む炭素膜の形成後に、前記成膜室内に不活性ガスを導入し、該不活性ガスをイオン化して前記水素を含む炭素膜の表面に加速照射し、前記水素を含む炭素膜の少なくとも表層部を脱水素化することを特徴とする炭素膜の形成方法。
【請求項2】
前記脱水素化は、前記成膜室から前記気体を排気した後、前記成膜室内に前記不活性ガスを導入することで行うことを特徴とする請求項1に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項3】
前記不活性ガスがアルゴンガスであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素膜の形成方法。
【請求項4】
前記カソード電極又は前記アノード電極と前記基板との間に電位差を設けて、前記イオン化した気体を加速しながら前記基板の表面に照射することを特徴とする請求項1ないし3のうち、いずれか1項記載の炭素膜の形成方法。
【請求項5】
非磁性基板と、
該非磁性基板の少なくとも一方の面に設けられた磁性層と、
前記非磁性基板と接触する面とは反対側に位置する前記磁性層の面に設けられた水素を含む炭素膜と、を有し、
前記水素を含む炭素膜は、前記磁性層と接触する面の反対側に位置する表面の水素濃度が膜中の最高水素濃度よりも低いことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項5記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に情報の記録再生を行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に移動するヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドからの記録再生信号の処理を行う記録再生信号処理部と、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−192325(P2011−192325A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55612(P2010−55612)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】