説明

炭素被覆スピネル型チタン酸リチウム及びその製造方法

【課題】粒子が特に小さくかつ電気化学的特性が改良されたリチウムチタン酸化物、特にチタン酸リチウムLi4Ti5O12の製造方法、及び炭素含有リチウムチタン酸化物を活物質として含む電極、並びに、該電極を含むリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム塩、酸化チタン、及び炭素含有化合物を溶媒中で混合するステップ(a)と、ステップ(a)で得られた混合物を乾燥するステップ(b)と、乾燥した混合物を焼成するステップとを含むことにより、容量特性が改良される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆チタン酸リチウムLiTi512及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸リチウムLiTi512、略してスピネル型チタン酸リチウム(lithium titanium spinel)を、特にリチウムイオン二次電池における負極材料としてグラファイトの代わりに使用することは従前より提案されている。
【0003】
本電池に使用される負極材料の現状は、例えば、非特許文献1で説明されている。
【0004】
グラファイトと比較したLiTi512の利点としては、特に、優れたサイクル安定性、優れた熱負荷容量、高動作信頼性が挙げられる。LiTi512はリチウムより1.55V高い電位を比較的安定して示し、容量ロス20%未満で数1000回の充放電サイクルを達成する。
【0005】
したがって、チタン酸リチウムの正電位は、リチウムイオン二次電池の負極として従前より慣習的に使用されているグラファイトと比較して、明らかに高い。しかしながら、電位が高いと電位差も小さくなってしまう。また、容量がグラファイト(372mAh/g(理論値))と比較して175mAh/gと低いため、グラファイトを負極に用いたリチウムイオン二次電池よりもエネルギ密度が明らかに低くなってしまう。
【0006】
しかし、LiTi512は長寿命であり、また無毒であるため、環境の脅威となるとは考えられていない。
【0007】
近年、LiFePOがリチウムイオン二次電池の正極材料として使用され、LiFePOとLiTi512とを組み合わせることにより2Vの電位差が得られている。
【0008】
LiTi512の様々な製造態様が詳細に説明されている。特許文献1又は2に記載されているように、LiTi512は、通常、チタン化合物(一般的にTiO)とリチウム化合物(一般的にLiCO)とを750℃超の高温で固相反応させることにより得られる。
【0009】
また、LiTi512を製造するためのゾル−ゲル法が特許文献3に記載されている。さらに、火炎噴霧熱分解法(flame spray pyrolysis)や(非特許文献1)、無水媒体中でのいわゆる「熱水法」による製造方法(非特許文献2)が提案されている。
【0010】
電極として使用される前記チタン酸リチウムは、通常、炭素、特にグラファイト又はカーボンブラックと圧縮して電極とする。そのため、特許文献4はリチウム遷移金属複合酸化物をex situで、すなわち完全に合成した後で、炭素含有被膜で被覆して提供することを提案している。しかしながら、本方法は、含有物の粒子サイズ、特に二次粒子サイズが大きくなるという欠点がある。さらに、本方法における炭素被膜は一次粒子ではなく二次粒子を被覆しているため、電気化学的特性、特に容量挙動の悪化につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,545,468号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1057783A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10319464A1号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1796189A2号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Bruce et al., Angew.Chem.Int.Ed.2008, 47, 2930-2946
【非特許文献2】Ernst, F.O. et al., Materials Chemistry and Physics 2007, 101(2-3, pp. 372-378)
【非特許文献3】Kalbac, M. et al., Journal of Solid State Electrochemistry 2003, 8(1) pp. 2-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、粒子が特に小さくかつ電気化学的特性が改良されたリチウムチタン酸化物、特にチタン酸リチウムLiTi512を提供する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、かかる目的は、炭素被覆されたリチウムチタン酸化物一次粒子からなる粒径1〜80μmの球形(二次)粒子凝集体を含む、炭素含有リチウムチタン酸化物により達成される。ドイツ語の用語"Partikel"及び"Teilchen"は、「粒子」の同義語として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の炭素被覆LiTi512のSEM顕微鏡写真
【図2】本発明の(in situ)炭素被覆チタン酸リチウムを含む電極の充電/放電容量を示す図
【図3】比較として、ex situで炭素被覆したチタン酸リチウムの充電/放電容量を示す図
【図4】合成後(ex situで)炭素被覆したLiTi512のSEM顕微鏡写真
【図5】炭素未被覆LiTi512のSEM顕微鏡写真
【図6】充電時と放電時とで電流を同一とした場合の、未炭素被覆LiTi512の充電/放電容量を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、「リチウムチタン酸化物」とは、空間群Fd3mのLi1+xTi2−x(0≦x≦1/3)で表される全てのスピネル型チタン酸リチウム、及び、一般式LiTiO(0<x、y<1)で表される全てのリチウムチタン酸化物の混合物を含む、チタン酸リチウムを意味する。
【0017】
前述のとおり、本発明の炭素被覆リチウムチタン酸化物は、炭素被覆一次粒子で形成された二次粒子からなる。二次粒子の形状は球状である。
【0018】
二次粒子を本発明の粒径サイズとすることにより、本発明の炭素被覆リチウムチタン酸化物材料を含む電極の電流密度は特に高くなり、また、従来技術、特に特許文献4の材料と比較して高いサイクル安定性を示す。
【0019】
また驚くべきことに、本発明の炭素含有リチウムチタン酸化物は、DIN 66134に準じて測定したBET表面積が1〜10m/g、好ましくは10m/g未満、更に好ましくは8m/g未満、特に好ましくは5m/g未満であることがわかった。特に好適な実施形態において、BET表面積は通常3〜5m/gの範囲である。
【0020】
炭素被覆一次粒子のサイズは、通常1μm未満である。本発明では、一次粒子が小さく、かつ、少なくとも部分的に炭素被覆されていることが重要である。その結果、本発明のリチウムチタン酸化物を含有する電極の電流輸送能及びサイクル安定性が、炭素未被覆材料及び均一に炭素被覆されていない材料や、二次粒子のみを炭素被覆した材料と比較して、特に高くなる。
【0021】
本発明の好適な実施形態において、本発明のリチウムチタン酸化物の炭素含有量は0.05〜2wt%であり、特に好適な実施形態では0.05〜0.5wt%である。
【0022】
驚くべきことに、本発明の材料を含む電極において上述の有利な効果を奏するには、比較的低い炭素含有量、すなわち、一次粒子の炭素被膜が比較的薄くても十分であることがわかった。
【0023】
上記リチウムチタン酸化物のうち、LiTi512が好ましい。電極材料として特に好適だからである。
【0024】
本発明の目的はまた、(a)リチウム塩、酸化チタン、及び炭素含有化合物を溶媒中で混合するステップと、(b)ステップ(a)で得られた混合物を乾燥するステップと、(c)乾燥した混合物を焼成するステップとを含む、炭素含有リチウムチタン酸化物の製造方法によって達成される。
【0025】
酸化チタンに対するリチウム塩の比に応じて、空間群がFd3mである上述のスピネル型チタン酸リチウムLi1+xTi2−x、または、一般式LiTiOで表されるリチウムチタン酸化物の混合物が得られる。
【0026】
また、本発明のリチウムチタン酸化物の最終炭素含有量は、上記混合処理中でも設定可能である。
【0027】
本明細書において、「溶媒」とは、出発物質のうち少なくとも一成分が少なくとも部分的に溶解するもの、すなわち、溶解度積Lが少なくとも0.5であるものとして定義される。溶媒は好ましくは水である。特に好適な実施形態において、出発物質の一成分は水に容易に溶解する、すなわち、溶解度積Lが少なくとも10である。
【0028】
特に好ましくは、Tiに対するLiの原子比は4:5である。これにより、特に相純粋(phase-pure)な炭素被覆LiTi512が得られる。本明細書において、「相純粋」とは、通常の測定精度限界において、ルチル相にX線回折によりTiOが検出されないことを意味する。
【0029】
本発明の製造方法を実施するためのリチウム塩は、LiOH、LiNO、LiCO、LiO、LiHCO、及び、酢酸リチウムからなる群から選ばれることが好ましい。これら以外の他の出発物質が添加可能な水溶液が特に容易に得られるからである。
【0030】
アナターゼ型又は非晶質型のTiOを使用することが好ましい。本発明の製造方法に与した際、ルチル型に変化しないため有利である。
【0031】
本発明の製造方法を実施するために好適な炭素含有化合物は、例えば、多環式芳香族及びその化合物;ペリレン及びその化合物;ポリオレフィン、パウダー状ポリプロピレンコポリマー、スチレン−ポリブタジエンブロックコポリマー等のポリマー及びコポリマー;糖類及びその誘導体、等の炭化水素から選ばれる。
【0032】
特に好ましいポリマーは、ポリオレフィン;ポリブタジエン;ポリビニルアルコール;フェノールの縮合物;フルフリル、スチレン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ナフトールペリレン、アクリロニトリル、及び酢酸ビニル由来のポリマー;ゼラチン;セルロース;スターチ;それらのエステル及びエーテル;及びそれらの混合物である。
【0033】
糖類は、本発明の製造方法を実施する上で特に好適であることがわかった。糖類は水に特によく溶解するからである。糖類のうち、ラクトース、スクロース、サッカロースが好ましく、ラクトースが特に好ましい。
【0034】
乾燥ステップ(b)は、通常、得られた混合物をノズルから微細に噴霧してプレ生成物として沈着させる、いわゆる噴霧乾燥にて行う。また、出発物質を均質に混合した後ガス気流中に導入して乾燥させる他の任意の方法を使用してもよい。噴霧乾燥の他に、例えば、流動床乾燥法(fluid-bed drying)、攪拌造粒法(rolling granulation)、及び乾燥又はフリーズドライ法を単独または組み合わせて行う。噴霧乾燥が特に好ましく;90〜300℃の温度勾配で通常行う。
【0035】
ステップ(a)の水性混合物の乾燥生成物を得た後(これはまた、他の従来方法における溶媒の問題を有利に回避する)、当該噴霧乾燥プレ生成物を700〜1000℃で焼成する。かかる焼成は、炭素被膜の酸化等の好ましくない結果をもたらしうる焼成中の二次反応を抑制するために、好ましくは保護雰囲気下で行う。好適な保護ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス又はその混合ガスである。
【0036】
本発明はまた、上述したように、本発明の製造方法によって得られるリチウムチタン酸化物であって、一次粒子及び該一次粒子からなる二次粒子が特に小さいBET表面積及び小さい粒子サイズを有することを特徴とするリチウムチタン酸化物に関する。
【0037】
本発明の課題はまた、本発明の炭素被覆リチウムチタン酸化物を含む電極により解決される。好ましくは、電極は負極である。特に、このような電極をリチウムイオン二次電池に使用すると、1C〜4Cで85%超の容量比を有し、C/10で少なくとも165mAh/gの放電容量を有することがわかった。
【0038】
以下、本発明を実施例及び図面を参照して詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0039】
1.総論
LiOH・HO及びアナターゼ型TiOを出発材料とした。市販のLiOH・HO(メルク社製)の場合、含水量はバッチ毎に異なるため、合成前に測定した。まず、LiOH・HOを水に溶解し、次いでアナターゼ型TiO及びラクトースを攪拌しながら添加して、LiOH/TiO/ラクトースの縣濁液を30〜35℃で調製した。
【0040】
(実施例1)
本発明のチタン酸リチウム(LiTi512)の製造
9.2kgのLiOH・HOを水45Lに溶解し、次いで20.8kgのTiOを添加した。ラクトースを様々な量で添加した。ラクトース量を更に変化させた。すなわち、30gラクトース/kg(LiOH+TiO)のバッチ、60gラクトース/kg(LiOH+TiO)のバッチ、及び90gラクトース/kg(LiOH+TiO)のバッチを使用して、本発明のチタン酸リチウム中の炭素量を変化させた。
【0041】
驚くべきことに、ラクトースは元の縣濁液の粘度を低下させる効果があり、その結果、ラクトース未添加の場合と比較して縣濁液の調製に水の使用を25%減らせることがわかった。混合液を、開始温度約300℃、終了温度100℃の条件でスプレードライヤー(Nubilosa社製)を用いて噴霧乾燥したところ、初めに、数μmサイズの多孔性球状凝集体が形成した。
【0042】
次いで、窒素雰囲気下、800℃で1時間焼成したところ、一次粒子(粒径:1μm未満)の凝集体からなる大型(粒径:1〜80μm)の凝集体が得られた。
【0043】
全炭素含有量が0.2wt%(60gラクトース/kg(LiOH+TiO))である本発明の炭素被覆チタン酸リチウムを図1に示す。また、噴霧乾燥により得られた炭素未被覆チタン酸リチウムを図5に示す。本発明の製造方法の出発材料における炭素含有化合物は、焼結インキュベーターとして作用し、明らかに小さい粒子が生じる。
【0044】
(比較例)
実施例1の製造方法により、ラクトース未添加で炭素未被覆のチタン酸リチウムを製造した。
【0045】
焼成したチタン酸リチウムに対して、ラクトース溶液を3時間含浸させた後750℃で3時間加熱した(欧州特許出願公開第1796198A2を参照)。生成物のSEM顕微鏡写真を図4に示す。図1に示す本発明の生成物と比較して、本発明のような粒径1μm未満の一次粒子ではなく焼結により結合した大型の一次粒子からなる、明らかに粗い粒子が示されている。さらに、比較例の二次粒子はスミア(smeared)な被膜を有している。炭素含有量は、同様に、約0.2wt%であった。
【0046】
本発明の材料、並びに、同じ方法で得た比較例の材料(すなわち、欧州特許出願公開第1796198A2に準じて合成後に炭素被膜を行ったチタン酸リチウム)及び炭素未被覆チタン酸リチウムについて、充電/放電サイクルを行った。
【0047】
各アノードの組成は、活物質85%、SuperPカーボンブラック10%、及びPVDF21256バインダ5%とした。測定は、本発明の材料又は比較例の材料を半セルのアノードとして、金属リチウムと比較して行った。電極の活物質量は2.2mg/cmであった。充放電サイクルにおける電位差範囲は1.0〜2.0Vであった。図2は、本発明の炭素被覆チタン酸リチウムの充放電カーブを示し、1C〜4C間の容量比は87.5%である。充電中と放電中とで電流は同じである。
【0048】
容量挙動が82%である未被覆チタン酸リチウム(図6)と比較して明確な安定性が観察される。
【0049】
同様に、4Cにおいて75%の容量しか測定されない、ex-situで炭素被覆したチタン酸リチウム(図3)と比較して、本発明の材料は優れている。充電中と放電中とで電流は同じである。
【0050】
この結果は、本発明のin-situ炭素被覆リチウムチタン酸化物は、容量比に関して、合成後に炭素被覆したチタン酸リチウム又は炭素未被覆チタン酸リチウムと比較して、利点が大きいことを示している。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リチウム塩、酸化チタン、及び炭素含有化合物を溶媒中で混合するステップと、
(b)前記ステップ(a)で得られた混合物を乾燥するステップと、
(c)乾燥した前記混合物を焼成するステップとを含む、
炭素含有リチウムチタン酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥は噴霧乾燥により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒は水である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)において、前記リチウム塩及び前記酸化チタンは、得られるリチウムチタン酸化物における原子比Li/Tiが4:5となるように混合される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リチウム塩は、LiOH、LiO、LiNO、LiHCO、及び、LiCHCOOからなる群から選ばれる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化チタンはアナターゼ型又は非晶質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素含有化合物は、炭化水素及びその誘導体、炭水化物及びその誘導体、及び、ポリマーからなる群から選ばれる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素含有化合物は、ラクトース、スクロース、及び、サッカロースからなる群の糖類から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記噴霧乾燥は90〜350℃の温度勾配で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記焼成は保護雰囲気下で700〜1000℃で行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により得られるリチウムチタン酸化物。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムチタン酸化物を含む電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を含むリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
C/10における充電/放電容量は165mAh/g超である、請求項13に記載のリチウムイオン二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121803(P2012−121803A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−20818(P2012−20818)
【出願日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【分割の表示】特願2011−530412(P2011−530412)の分割
【原出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(591056237)ジュート−ヒェミー アクチェンゲゼルシャフト (33)
【氏名又は名称原語表記】Sued−Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Lenbachplatz 6, D−80333 Muenchen,Germany
【Fターム(参考)】