説明

炭素被覆LiVP2O7粒子とその製造方法、及びリチウムイオン二次電池

【課題】焼成温度900℃以下でも不純物の生成が抑制され、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に電池容量を向上することが可能な炭素被覆LiVP粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭素被覆LiVP粒子の製造方法は、固相法による炭素被覆LiVPの製造方法であって、リチウム化合物とバナジウム化合物とリン化合物とを混合する工程(A)と、工程(A)で得られた混合物を仮焼成する工程(B)と、工程(B)後の仮焼成物を粒子状に粉砕する工程(C)と、工程(C)後の粉砕物と炭素粉末とを混合し、さらにボールミルを用いて粉砕混合して、前記粉砕物をなす各粒子の表面を炭素で被覆する工程(D)と、工程(D)後の炭素被覆粒子を700〜900℃で本焼成する工程(E)とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素被覆LiVP粒子とその製造方法、及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の1つであるリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な正極及び負極と、液状、ゲル状もしくは固体状の非水電解質とから概略構成され、高出力及び高エネルギー密度などの利点を有している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiMn、あるいはこれらリチウム化合物の金属元素を一部置換した複合酸化物が知られている。
【0004】
上記正極活物質よりも低コストな正極活物質として、特許文献1には、LiVPが開示されている(実施例2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-246025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LiVPは、LiCoO及びLiNiO等の層状岩塩型化合物に対して、電子伝導性及びイオン電導性が低いため、電池容量が劣る。
また、組成中にPを多く含むことに起因して、通常の合成法では安定的に単相のLiVPを合成することが難しく、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物が生成されてしまうことがある。不純物の存在は電池容量の低下の要因となり、好ましくない。
酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物の生成を抑制するには、900℃超の高温焼成が必要とされている。
上記の特許文献1では、炭酸リチウム、三酸化バナジウム、及びリン酸二水素アンモニウムの混合物をAr雰囲気下1100℃で焼成している(段落0028)。
【0007】
しかしながら、900℃超の高温焼成では、粒子成長が起こってイオン伝導性が低下する傾向がある。このことも電池容量の低下の要因となり、好ましくない。また、900℃超の高温焼成では、エネルギー及びコストを多く必要とし、好ましくない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼成温度900℃以下でも不純物の生成が抑制され、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に電池容量を向上することが可能な炭素被覆LiVP粒子とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の炭素被覆LiVP粒子の製造方法は、
固相法による炭素被覆LiVPの製造方法であって、
リチウム化合物とバナジウム化合物とリン化合物とを混合する工程(A)と、
工程(A)で得られた混合物を仮焼成する工程(B)と、
工程(B)後の仮焼成物を粒子状に粉砕する工程(C)と、
工程(C)後の粉砕物と炭素粉末とを混合し、さらにボールミルを用いて粉砕混合して、前記粉砕物をなす各粒子の表面を炭素で被覆する工程(D)と、
工程(D)後の炭素被覆粒子を700〜900℃で本焼成する工程(E)とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼成温度900℃以下でも不純物の生成が抑制され、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に電池容量を向上することが可能な炭素被覆LiVP粒子とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】実施例1で用いた原料の炭素粉末のSEM像である。
【図1B】実施例2・比較例1で用いた原料の炭素粉末のSEM像である。
【図1C】実施例3で用いた原料の炭素粉末のSEM像である。
【図2】実施例1〜3(炭素被覆あり)及び比較例2(炭素被覆なし)で得られた正極活物質のXRDパターンである。
【図3】実施例3において、固相合成後・炭素粉末との混合前の正極活物質と、炭素粉末との混合及びボールミル処理後・本焼成前の正極活物質について得られたXRDパターンである。
【図4】実施例3(炭素被覆あり)と比較例2(炭素被覆なし)で得られた正極活物質のSEM像である。
【図5】実施例1〜3、及び比較例1〜2における充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
【0013】
[炭素被覆LiVP粒子とその製造方法]
本発明の炭素被覆LiVP粒子の製造方法は、
固相法による炭素被覆LiVPの製造方法であって、
リチウム化合物とバナジウム化合物とリン化合物とを混合する工程(A)と、
工程(A)で得られた混合物を仮焼成する工程(B)と、
工程(B)後の仮焼成物を粒子状に粉砕する工程(C)と、
工程(C)後の粉砕物と炭素粉末とを混合し、さらにボールミルを用いて粉砕混合して、前記粉砕物をなす各粒子の表面を炭素で被覆する工程(D)と、
工程(D)後の炭素被覆粒子を700〜900℃で本焼成する工程(E)とを有するものである。
【0014】
<工程(A)>
工程(A)では、粉末状のリチウム化合物とバナジウム化合物とリン化合物とを混合し、ペレット状等の任意の形状に成形する。
工程(A)で用いる金属元素源としてはLi、V、Pを含む化合物であれば特に制限されない。例えば、リチウム化合物として炭酸リチウムを用い、バナジウム化合物として三酸化バナジウムを用い、リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムを用いることが好ましい。
【0015】
<工程(B)>
工程(B)では、工程(A)で得られた成形物を仮焼成して、LiVPを生成する。
仮焼成温度は特に制限されず、後の本焼成工程(工程(E))よりも低い焼成温度で、かつLiVPが生成される温度とする。この工程では、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物が生成されても構わない。
仮焼成雰囲気は特に制限されず、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物の生成を抑制するには、Ar雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。
仮焼成温度は特に制限されず、500〜800℃が好ましく、600〜700℃が特に好ましい。
仮焼成時間は特に制限されず、1〜24時間が好ましく、5〜10時間が特に好ましい。
【0016】
<工程(C)>
工程(C)では、工程(B)後の仮焼成物を粒子状に粉砕する。
粉砕方法は特に制限されず、ボールミルを用いた粉砕が好ましい。ボールミルを用いた粉砕の前に、乳鉢を用いた粉砕混合を行うことが好ましい。
この工程においては、必要に応じて、メッシュ等を用いて粉砕物を分級してもよい。
【0017】
<工程(D)>
工程(D)では、工程(C)後の粉砕物と炭素粉末とを混合し、さらにボールミルを用いて粉砕混合して、粉砕物をなす各粒子の表面を炭素で被覆する。
【0018】
用いる炭素粉末は特に制限されない。本発明者は、平均粒子径1000nm以上の炭素粉末を用いても、特性が良好な正極活物質が得られることを確認している(後記実施例1)。
本発明者は、用いる炭素粉末の平均粒子径が小さい程、特性が良好な正極活物質が得られることを確認している(後記実施例1〜3)。平均粒子径150nm以下の炭素粉末を用いることがより好ましく、平均粒子径30nm以下の炭素粉末を用いることが特に好ましい。
【0019】
本明細書において、「平均粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求めるものとする。
【0020】
工程(D)においては、ボールミルを用いる粉砕混合の前に、乳鉢を用いた粉砕混合を行うことが好ましい。
工程(D)において、ボールミルによる粉砕時間は特に制限なく、1〜10時間が好ましく、1〜3時間が特に好ましい。理由は定かではないが、本発明者は、ボールミルによる粉砕時間が長くなりすぎると、最終的に得られる電池の特性が低下する傾向があることを見出している。ボールミルによる粉砕時間が長くなりすぎると、一部で造粒が進み、粒子径が大きくなるためではないかと推察される。
【0021】
<工程(E)>
工程(E)では、工程(D)後の炭素被覆粒子を700〜900℃で本焼成する。
本焼成温度が700℃未満では焼成温度が充分でなく、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物が生成される恐れがある。本焼成温度が900℃超では粒子成長が起こってイオン伝導性が低下する恐れがある。このことは電池容量の低下の要因となり、好ましくない。また、900℃超の高温焼成では、エネルギー及びコストを多く必要とし、好ましくない。
本焼成温度は、750〜850℃が特に好ましい。
本発明の製造方法では、900℃以下、好ましくは850℃以下の焼成温度でも、不純物の低減されたLiVP粒子を製造できる。
【0022】
本発明の製造方法により製造された炭素被覆LiVP粒子は、リチウムイオン二電池の正極活物質として好ましく利用することができる。
【0023】
本発明によれば、焼成温度900℃以下、好ましくは850℃以下でも不純物の生成が抑制され、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に電池容量を向上することが可能な炭素被覆LiVP粒子とその製造方法を提供することができる。
本発明における作用効果については、[実施例]の項において詳述する。
【0024】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の製造方法により製造された炭素被覆LiVP粒子を正極活物質として用いたものである。
正極と負極とセパレータと非水電解質と外装体を用い、公知方法により、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0025】
<正極>
正極は、公知の方法により、アルミニウム箔などの正極集電体に正極活物質を塗布して、製造することができる。
【0026】
本発明では、上記の本発明の製造方法により製造された炭素被覆LiVP粒子を正極活物質として用いる。
正極活物質として、炭素被覆LiVP粒子以外の公知の正極活物質を併用しても構わない。
公知の正極活物質としては例えば、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−x)、及びLiNiCoMn(1−x−y)等のリチウム含有複合酸化物等が挙げられる。
【0027】
例えば、N−メチル−2−ピロリドン等の分散剤を用い、上記の正極活物質と、炭素粉末等の導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーをアルミニウム箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、正極を得ることができる。
正極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cmが好ましい。正極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
【0028】
<負極>
負極活物質としては特に制限なく、Li/Li+基準で2.0V以下にリチウム吸蔵能力を持つものが好ましく用いられる。負極活物質としては、黒鉛等の炭素、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能な遷移金属酸化物/遷移金属窒化物/遷移金属硫化物、及び、これらの組合わせ等が挙げられる。
【0029】
負極は例えば、公知の方法により、銅箔などの負極集電体に負極活物質を塗布して、製造することができる。
例えば、水等の分散媒を用い、負極活物質と、変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の結着剤と、必要に応じてカルボキシメチルセルロースNa塩(CMC)等の増粘剤とを混合して、スラリーを得、このスラリーを銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥し、プレス加工して、負極を得ることができる。
負極の目付は特に制限なく、1.5〜15mg/cmが好ましい。負極の目付が過小では均一な塗布が難しく、過大では集電体から剥離する恐れがある。
【0030】
負極活物質として金属リチウム等を用いる場合、金属リチウム等をそのまま負極として用いることができる。
【0031】
<非水電解質>
非水電解質としては公知のものが使用でき、液状、ゲル状もしくは固体状の非水電解質が使用できる。
例えば、プロピレンカーボネ−トあるいはエチレンカーボネ−ト等の高誘電率カーボネート溶媒と、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の低粘度カーボネート溶媒との混合溶媒に、リチウム含有電解質を溶解した非水電界液が好ましく用いられる。
【0032】
混合溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒が好ましく用いられる。
リチウム含有電解質としては例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF{C(2k+1)(6−n)(n=1〜5の整数、k=1〜8の整数)等のリチウム塩、及びこれらの組合わせが挙げられる。
【0033】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜であればよく、多孔質高分子フィルムが好ましく使用される。
セパレータとしては例えば、PP(ポリプロピレン)製多孔質フィルム、PE(ポリエチレン)製多孔質フィルム、あるいは、PP(ポリプロピレン)−PE(ポリエチレン)の積層型多孔質フィルム等のポリオレフィン製多孔質フィルムが好ましく用いられる。
【0034】
<外装体>
外装体としては公知のものが使用できる。
二次電池の型としては、円筒型、コイン型、角型、あるいはフィルム型等があり、所望の型に合わせて外装体を選定することができる。
【0035】
本発明によれば、正極活物質にLiVPが用いられ、電池容量が向上されたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本発明では、正極活物質にレアメタルを用いなくてもよく、正極活物質の製造時に900℃超の焼成温度を必要とせず、850℃以下の焼成温度でも正極活物質を製造できるため、低コスト化を図ることができる。
【実施例】
【0036】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0037】
(実施例1)
<正極活物質の合成>
固相法により、炭素被覆LiVP粒子を製造した。
炭酸リチウム粉末、三酸化バナジウム粉末、及びリン酸二水素アンモニウム粉末(いずれもナカライテスク(株)社製)を、元素組成がLi:V:P=1:1:2(モル比)となるようにそれぞれ秤量し、混合した。
【0038】
得られた成形物をペレット成型し、これをAr雰囲気下700℃で10時間焼成した(仮焼成)。X線回折(XRD)分析により、仮焼成後にLiVPが生成されていることを確認した(図3)。
得られた仮焼成物(固相合成物)を、乳鉢を用いて粉砕した。得られた粉砕物を100μmのメッシュで分級し、メッシュを通った粉体に対してさらに、ボールミルを用い、300rpmで3時間粉砕した。
【0039】
上記の粉砕物と、この粉砕物に対して20質量%のグラファイト粉末(平均粒子径1000nm以上、ナカライテスク(株)社製)とを、乳鉢を用いて30分間混合し、さらにボールミルを用いて25時間粉砕混合して、上記粉砕物の各粒子をグラファイトで被覆した。
得られた炭素被覆粒子を、Ar雰囲気下800℃で1時間焼成した(本焼成)。
以上のようにして、炭素被覆LiVP粒子からなる正極活物質を製造した。
【0040】
実施例1における反応式は以下の通りである。LiVPと炭素粉末との混合後、本焼成を実施することで、炭素被覆LiVP粒子が得られる。
LiCO+V+4NHPO→2LiVP+4NH+6HO+CO+O
【0041】
<正極の製造>
分散剤としてN−メチル−2−ピロリドン(ナカライテスク(株)社製)を用い、上記の正極活物質と、導電剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)社製HS−100)と、結着剤であるPVDF((株)クレハ社製KFポリマー♯9350)とを、75:25:10(質量比)で混合して、スラリーを得た。
上記スラリーを集電体であるアルミニウム箔(厚み15μm)上にドクターブレード法で塗布し、80℃で60分間乾燥し、プレス機械を用いてプレス加工して、正極を得た。正極は、目付3mg/cm、厚み15μmとした。
【0042】
<負極>
負極活物質として、金属リチウムを用いた。
これをそのまま負極として用いた。
【0043】
<非水電解質>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)の混合溶液を溶媒とし、電解質としてリチウム塩であるLiPFを1mol/Lの濃度で溶解して、非水電界液を調製した。
【0044】
<セパレータ>
PP(ポリプロピレン)−PE(ポリエチレン)の積層型多孔質フィルムからなるセパレータ(宇部興産(株)社製)を用意した。
【0045】
<外装体>
外装体として、SUS製2032型コインセルを用意した。
【0046】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記の正極と負極とセパレータと非水電解液と外装体を用い、公知方法により、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0047】
(実施例2)
正極活物質の合成において、炭素粉末材料としてアセチレンブラック(平均粒子径150nm、電気化学工業(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0048】
(実施例3)
正極活物質の合成において、炭素粉末材料としてケッチェンブラック(平均粒子径30nm、KB International社製、ECP−600JD)を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0049】
(比較例1)
正極活物質の合成において、炭素粉末材料としてアセチレンブラック(平均粒子径150nm、電気化学工業(株)社製)を用い、仮焼成及び粉砕後に得られた粉砕物と粉砕物に対して20質量%のアセチレンブラックとを乳鉢を用いて30分間混合した後、ボールミルを用いた粉砕混合を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0050】
(比較例2)
正極活物質の合成において、仮焼成及び粉砕後に得られた粉砕物を炭素粉末と混合することなくそのまま正極活物質として使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。
【0051】
(評価)
<結晶構造の分析>
結晶構造の分析は、X線回折(XRD)分析により実施した。測定装置としてリガクUltima4を用い、一次検出器を用いて測定を行った。測定条件は、2θ=10〜80°、10°/min、3回積算とした。
【0052】
<SEM像観察>
粒子の表面観察は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて実施した。装置は、日本電子(株)社製JSM−6300Fを用いた。加速電圧は20kVとした。
【0053】
<充放電試験>
各例において得られたリチウムイオン二次電池に対して、下記の充放電試験を実施した。
実容量115mAh/gに対して0.05Cで4.8V上限の定電流モードで充電を行い、その後2.5Vまで放電を行い、放電容量を測定した。これを電池容量とした。
【0054】
(結果)
図1A〜図1Cに、実施例1と、実施例2・比較例1と、実施例3でそれぞれ用いた原料の炭素粉末のSEM像を示す。これらの図には、平均粒子径の異なる3種の炭素粉末が示されている(平均粒子径:実施例1>実施例2・比較例1>実施例3)。
【0055】
図2に、実施例1〜3(炭素被覆あり)及び比較例2(炭素被覆なし)で得られた正極活物質のXRDパターンをそれぞれ示す。いずれのXRDパターンも、本焼成後のものである。図2に示すように、比較例2(炭素被覆なし)では不純物の酸化バナジウムに由来するピークが見られた。
実施例1、実施例2、実施例3の順に不純物の酸化バナジウムに由来するピークが小さくなり、実施例2、3ではほぼ消失した。
なお、比較例2・実施例1と、実施例2・実施例3との縦軸スケールは異なっており、後者はより拡大されたスケールとなっている。
【0056】
図3に、実施例3において、固相合成後・炭素粉末との混合前の正極活物質と、炭素粉末との混合及びボールミル処理後・本焼成前の正極活物質について、XRDパターンをそれぞれ示しておく。
固相合成後・炭素粉末との混合前では、不純物の酸化バナジウムに由来するピークが見られたが、炭素粉末との混合及びボールミル処理後・本焼成前には不純物の酸化バナジウムに由来するピークは消失した。
炭素粉末との混合後、ボールミル処理を実施することによって、酸化バナジウム等の不純物が除去され、清浄化されることが示された。
【0057】
図4に、実施例3(炭素被覆あり)と比較例2(炭素被覆なし)で得られた正極活物質のSEM像を示しておく。
【0058】
図5に、各例における充放電試験の結果を示す。
正極活物質の炭素被覆を実施しなかった比較例2の電池容量に対して、実施例1〜3では格段に高い電池容量が得られた。
正極活物質と炭素粉末との複合化に際して、乳鉢のみを用いて粉砕混合した比較例1よりも、乳鉢とボールミルを用いて粉砕混合した実施例1〜3では格段に高い電池容量が得られた。
実施例1〜3においては、不純物の酸化バナジウム量と相関して、実施例1、実施例2、実施例3の順に高い電池容量が得られた。
【0059】
正極活物質と炭素粉末との複合化に際して、乳鉢とボールミルを用いて粉砕混合した実施例1〜3では、ボールミル処理によって炭素粉末が微粒子化される。また、メカニカルなボールミル処理によって、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物の少なくとも一部が除去されて、粒子が清浄化される。粒子の清浄化は、メカノケミカル反応によって粒子表面が活性化されると共に、炭素の存在により酸化物が分解されるなどの理由によると考えられる。
上記工程後に本焼成を行うことで、少ない不純物のまま正極活物質の表面が炭素で良好に被覆される。
【0060】
正極活物質の表面が炭素で良好に被覆される結果、正極活物質の表面と炭素との界面における反応が均一となって、850℃の低温焼成でも焼成反応が良好に進み、Vの価数変動が良好に制御され、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物が低減されると考えられる。
【0061】
900℃超の高温焼成では、粒子成長が起こってイオン伝導性が低下する傾向がある。
実施例1〜3では、900℃以下の低温で本焼成しているので、粒子成長によるイオン伝導性の低下が抑制され、電池特性が向上される。また、900℃超の高温焼成に比較して、エネルギー及びコストも少なくて済む。
【0062】
実施例1〜3の中では、用いた炭素粉末の平均粒子径が小さい程、正極活物質の表面がより均一に炭素で被覆され、本焼成時の反応がより均一に進み、酸化バナジウムあるいはリン酸バナジウム等の不純物がより高レベルに低減されたと考えられる。
【0063】
実施例1〜3では、正極活物質の表面が良好に炭素で被覆されるので、被覆炭素の電子伝導性によって、電池特性も向上すると考えられる。この効果に関しても、実施例1〜3の中では、用いた炭素粉末の平均粒子径が小さい程、正極活物質の表面がより均一に炭素で被覆され、より高い効果が得られると考えられる。
【0064】
上記のように、正極活物質合成における不純物の低減効果、本焼成時の粒子成長によるイオン伝導性の低下の抑制効果、及び炭素被覆による正極活物質の導電性の向上効果とが相俟って、実施例1〜3では比較例1、2に対して高い電池容量が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の炭素被覆LiVP粒子の製造方法は、プラグインハイブリッド車(PHV)あるいは電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン二次電池等に好ましく適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相法による炭素被覆LiVPの製造方法であって、
リチウム化合物とバナジウム化合物とリン化合物とを混合する工程(A)と、
工程(A)で得られた混合物を仮焼成する工程(B)と、
工程(B)後の仮焼成物を粒子状に粉砕する工程(C)と、
工程(C)後の粉砕物と炭素粉末とを混合し、さらにボールミルを用いて粉砕混合して、前記粉砕物をなす各粒子の表面を炭素で被覆する工程(D)と、
工程(D)後の炭素被覆粒子を700〜900℃で本焼成する工程(E)とを有する炭素被覆LiVP粒子の製造方法。
【請求項2】
前記炭素粉末として、平均粒子径150nm以下の炭素粉末を用いる請求項1に記載の炭素被覆LiVP粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(E)の本焼成温度を850℃以下とする請求項1又は2に記載の炭素被覆LiVP粒子の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム化合物として炭酸リチウムを用い、
前記バナジウム化合物として三酸化バナジウムを用い、
前記リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の炭素被覆LiVP粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の炭素被覆LiVP粒子の製造方法により製造された炭素被覆LiVP粒子。
【請求項6】
リチウムイオン2次電池に用いられる正極活物質用である請求項5に記載の炭素被覆LiVP粒子。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素被覆LiVP粒子を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95613(P2013−95613A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237126(P2011−237126)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】