説明

炭素質複合廃棄物のガス化ガスの発熱量の制御方法

【課題】原料の水分量の変動、及び、原料の不均一性により大きく変動する炭素質複合廃棄物の熱分解ガス又は改質ガスの発熱量が、所要の範囲内に収まるように制御する。
【解決手段】炭素質複合廃棄物を熱分解し改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、(i-1)改質ガスの成分組成を時間間隔t1で分析して、瞬間発熱量Qt1を算出し、(i-2)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)内の平均発熱量Qt2を算出し、(ii-1)瞬間発熱量Qt1と平均発熱量Qt2が下記式(1)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する。
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3)・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種多様な廃棄物、例えば、都市ゴミ、木質バイオマス(建築廃材、間伐材、林地残材等)、廃プラスチック、タイヤ、及び、下水汚泥等が複合した炭素質廃棄物の熱分解ガスを改質して、原燃料ガスとして利用する場合において、改質ガスの発熱量を、ほぼ一定に、安定的に制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な廃棄物、例えば、都市ゴミ、木質バイオマス(建築廃材、間伐材、林地残材等)、廃プラスチック、タイヤ、及び、下水汚泥等が複合した炭素質廃棄物(以下「炭素質複合廃棄物」ということがある。)を、二酸化炭素の排出量を削減する狙いから、有価資源として活用することが試みられている。
【0003】
しかし、炭素質複合廃棄物は水分を多く含み、その熱分解ガスは、発熱量が低く、かつ、大きく変動するので、利用範囲は、主として燃焼発電に限られているのが現状である。
【0004】
熱分解ガスを改質し、改質ガスを原燃料ガスとして効率よく利用する手法が、これまで、種々提案されているが(特許文献1〜8、参照)、利用は、基本的には、ガスエンジンや、蒸気ボイラ等での燃焼発電に限られている。
【0005】
炭素質複合廃棄物に由来する原燃料ガスを燃焼発電に利用する限り、原燃料ガスの発熱量を精密に制御する必要はない。
【0006】
炭素質複合廃棄物に由来する原燃料ガスの発熱量は、原料の水分量の変動、及び/又は、原料の不均一性に依存して大きく変動するので、炭素質複合廃棄物の熱分解ガスを改質しても、加熱炉等で用いる比較的均質な化石燃料(重油、LNG、LPG等)の代替燃料として、直ちに使用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−336079号公報
【特許文献2】特開2004−238535号公報
【特許文献3】特開2006−316170号公報
【特許文献4】特開2007−039613号公報
【特許文献5】特開2007−045852号公報
【特許文献6】特開2007−045857号公報
【特許文献7】特開2007−145953号公報
【特許文献8】特開2007−277479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、炭素質廃棄物の熱分解ガスの発熱量は、原料の水分量の変動、及び/又は、原料の不均一性に依存して大きく変動する。水分量の変動は、炭素質複合廃棄物の事前乾燥条件や、保存管理態様の影響を受け、また、原料の不均一性は、原料の入荷状況(各種廃棄物が平均的に入荷するか)や、混合態様(各種廃棄物を平均的に混合できるか)の影響を受ける。
【0009】
結局、炭素質複合廃棄物の熱分解ガス又は改質ガスの発熱量は、原料の水分量の変動、及び、原料の不均一性の2つの要因が複雑に絡み合って、大きく変動する。
【0010】
現在、タールを水蒸気で改質する改質炉の操業においては、改質能を所定の水準に安定的に維持するために、改質温度を一定に保持している。具体的には、改質炉へ投入する酸素の量を、改質温度が一定になるように調整するが、改質ガスの発熱量を一定に維持する操業はなされていない。
【0011】
そこで、本発明は、原料の水分量の変動、及び、原料の不均一性により大きく変動する炭素質複合廃棄物の熱分解ガス又は改質ガスの発熱量に関して、従来よりもその変動を少なくするように制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成する手法を見いだすため、発熱量の変動を、変動要因(原料の水分量の変動、及び、原料の不均一性)別に調査した。その結果、以下のことが判明した。
【0013】
(i)原料の水分量の変動による発熱量の変動
(i-1)炭素質複合廃棄物の熱分解は、炭素質複合廃棄物を熱分解炉に投入した後、“昇温+蒸発(潜熱吸収)+昇温”という過程を経て進行するので、原料の水分量の変動による発熱量の変動は、数分〜10数分の間隔で生じる比較的なだらかな変動である。
【0014】
(i-2)しかし、原料の水分量が多いと、「熱分解ガスの発熱量が低く、改質炉での改質温度を上げるために、燃焼ガス等を余計に燃焼させる必要があり、燃焼ガス等を余計に燃焼させると、改質ガスの発熱量が更に下がる」という悪循環が生じて、改質ガスの発熱量は大きく変動(減少)する。
【0015】
(ii)原料の不均一性による発熱量の変動
炭素質複合廃棄物中に、直ちに熱分解し、揮発する成分を多量に含むプラスチックが入っていると、炭素質複合廃棄物を熱分解炉に投入した後、数分間で発熱量が急増する。
【0016】
即ち、炭素質複合廃棄物の熱分解ガス及び改質ガスの発熱量の変動は、(i)原料の水分量による、なだらかな発熱量の低下と、(ii)主としてプラスチックが引き起こす、短時間内における発熱量の増加が重畳したものであることが判明した。
【0017】
本発明は、炭素質複合廃棄物の熱分解ガス及び改質ガスの発熱量の変動を10%以内に制御することができれば、上記ガスを、加熱炉等で用いる比較的均質な化石燃料(重油、LNG、LPG等)の代替燃料として使用できるとの発想のもと、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下のとおりである。
【0018】
(1)炭素質複合廃棄物を熱分解し改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、
(i-1)改質ガスの成分組成を時間間隔t1で分析して、瞬間発熱量Qt1を算出し、
(i-2)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)内の平均発熱量Qt2を算出し、
(ii-1)瞬間発熱量Qt1と平均発熱量Qt2が下記式(1)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する
ことを特徴とする炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3) ・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2
【0019】
(2)前記改質炉の変更する操業条件が、改質炉の設定温度T(℃)、又は、改質炉に投入する酸素の量(vol.%)であることを特徴とする前記(1)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0020】
(3)前記ΔQt12が正のとき、改質炉の設定温度T(℃)をΔT2(℃)下げ、ΔQt12が負のとき、改質炉の設定温度T(℃)をΔT2(℃)上げることを特徴とする前記(2)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0021】
(4)前記改質炉の設定温度T(℃)が800〜1200℃であることを特徴とする前記(3)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0022】
(5)前記t1が30秒〜2分であり、t2が3〜7分であることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0023】
(6)前記ΔT2(℃)が3〜7℃であることを特徴とする前記(3)〜(5)のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0024】
(7)炭素質複合廃棄物を熱分解し改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、
(i-1)改質ガスの成分組成を時間間隔t1で分析して、瞬間発熱量Qt1を算出し、
(i-2)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)内の平均発熱量Qt2を算出し、さらに、
(i-3)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t3(>t2)内の平均発熱量Qt3を算出し、
(ii-1)瞬間発熱量Qt1、平均発熱量Qt2、及び、平均発熱量Qt3が、下記式(1)及び(2)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する
ことを特徴とする炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3) ・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2
│ΔQt13│≧Qt3×(b/100)(3≦b≦7) ・・・(2)
ΔQt13=Qt1−Qt3
【0025】
(8)前記改質炉の操業条件が、改質炉の設定温度T(℃)、又は、改質炉に吹き込む酸素の量(vol.%)であることを特徴とする前記(7)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0026】
(9)前記ΔQt12が正のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)下げ、ΔQt12が負のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)上げ、さらに、ΔQt13が正のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)下げ、ΔQt13が負のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)上げることを特徴とする前記(8)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0027】
(10)前記改質炉の設定温度T(℃)が800〜1200℃であることを特徴とする前記(9)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0028】
(11)前記t1が30秒〜2分であり、t2が3〜7分であり、t3が60〜300分であることを特徴とする前記(9)又は(10)に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0029】
(12)前記ΔT2(℃)が3〜7℃であり、ΔT3(℃)が8〜12℃であることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【0030】
(13)前記発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更するともに、
(ii-2)下記式で定義する安定性指標で発熱量の変動の推移を監視し、前記安定性指標が所定値を超えた場合に、前記時間間隔t1、t2、及び、t3の少なくともいずれかを変更する
ことを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
安定性指標=(一定時間内の発熱量の標準偏差/一定時間内の平均発熱量)×100
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、炭素質複合廃棄物から、均質な化石燃料(重油、LNG、LPG等)の代替燃料として使用し得る“発熱量がほぼ一定の原燃料ガス”を製造することができるので、炭素質複合廃棄物をガス化したガスの用途が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】炭素質複合廃棄物の処理系統(熱分解炉+改質炉)を示す図である。
【図2】発熱量の制御態様を示す図である。
【図3】発熱量の別の制御態様を示す図である。
【図4】本発明の発熱量制御を実施しない場合(比較例)の発熱量の変動を示す図である。
【図5】本発明の発熱量制御を実施した場合(発明例)の発熱量の変動を示す図である。
【図6】本発明の発熱量制御を実施した場合(発明例)の発熱量の別の変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、炭素質複合廃棄物を熱分解し、次いで改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、(i)改質ガスの成分組成を、所要時間間隔で分析して瞬間発熱量を算出し、かつ、瞬間発熱量に基づいて、所要時間内の平均発熱量を算出し、瞬間発熱量と平均発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更することを基本思想とする。
【0034】
さらに、本発明は、瞬間発熱量と平均発熱量の変動に基づく改質炉の操業条件の変更に加え、
安定性指標=(一定時間内の発熱量の標準偏差/一定時間内の平均発熱量)×100
で発熱量の変動を監視することを基本思想とする。
【0035】
以下、図面に基づいて説明する。
【0036】
図1に、炭素質複合廃棄物の処理系統(熱分解炉+改質炉)を示す。熱分解炉1の頂部から炭素質複合廃棄物Mを装入し、下部から酸素含有ガスG0を吹き込んで、炭素質複合廃棄物Mを熱分解する。熱分解炉1の底部から、熱分解後の炭化物Cが排出され、上部から、熱分解ガスG1とタールTが排出される。熱分解ガスG1とタールTは、改質炉2に導入される。炭化物Cは、排出後、冷却され、金属と分離されて、炭材として使用される。
【0037】
熱分解炉1としては、ロータリーキルンやシャフト型熱分解炉を使用することが好ましく、炭素質複合廃棄物Mにタイヤが含まれる場合は、シャフト型熱分解炉を使用することが、より好ましい。
【0038】
改質炉2では、下部から吹き込まれる酸素含有ガスG3で、熱分解ガスG1の改質、及び、タールTの水蒸気改質がなされ、頂部から改質ガスG2が排出され、原燃料ガスとして使用される。酸素含有ガスG3は、酸素や酸素富化空気が用いられ、さらに、これに水蒸気が含まれていても構わない。改質炉2としては、気流床型の改質炉等を使用することができる。
【0039】
改質ガスG2は、原料の水分量の変動、及び/又は、原料の不均一性、さらに、改質炉の設定温度の変動に起因して、発熱量が大きく変動するので、そのままでは、均質な化石燃料(重油、LNG、LPG等)の代替燃料として使用することは難しい。
【0040】
例えば、改質炉の設定温度が上昇すると、CO量及びH2量は増加するが、CH4量が減少して、全体として発熱量は減少する。一方、改質炉の設定温度が下降すると、CO量及びH2量が減少するが、CH4量が増加して、全体として発熱量は増加する。
【0041】
炭素質複合廃棄物をガス化した改質ガスG2の発熱量の変動を、±10%以内、好ましくは、±5%以内に収め、発熱量を安定化することができれば、改質ガスG2を、加熱炉等の加熱用燃料に用いることが可能となる。なお、この変動はベースとなる発熱量の絶対値が変わったときの影響を防ぐため、以下に示す安定化指標で評価して、好ましくは、±10%以内、より好ましくは、±5%以内に収めて安定化を図ることが望ましい。
【0042】
本発明は、炭素質複合廃棄物をガス化した改質ガスG2の発熱量が、所要の範囲内に収まるように、算出した発熱量に基づいて改質条件を制御して、改質ガスの用途を拡大するものである。
【0043】
図2に、本発明による発熱量の制御態様を示す。
【0044】
改質炉から排出された改質ガス(図1中、G2)の成分組成を、所要の時間間隔で分析する。改質ガスは、主として、H2、CO、及び、CH4からなり、その他、CO2及びN2を含んでいるが、発熱量を算出するうえで、少なくとも、H2、CO、及び、CH4の組成(vol.%)を分析する必要がある。
【0045】
成分組成は、ガス分析計(図1中、図示なし)で測定するが、ガス分析計は、連続分析計、ガスクロマトグラフのどちらでもよい。なお、ガスクロマトグラフはタイムラグが大きいので、連続分析計が好ましい。
【0046】
2、CO、及び、CH4の分析値(vol.%)に基づいて、各ガスの発熱量と成分組成を元に改質ガス発熱量を算出する。
【0047】
具体的には、時間間隔t1(分)で、改質ガスの成分組成を分析し、分析値に基づいて瞬間発熱量Qt1を算出し、さらに、瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)(分)内の平均発熱量Qt2を算出する。
【0048】
t1(分)は、数分以内とする。制御精度の点から短時間が好ましいが、計算負荷が大きくなるので、t1(分)は、2分以下が好ましく、1分がより好ましい。なお、計算機能力が向上すれば、t1(分)を1分以下にすることは可能である。その場合、t1は、30秒以下が好ましい。
【0049】
t2(分)は、数分〜数十分とする。発熱量の制御精度と計算時間を考慮して適宜設定するが、t2(分)が短時間であると、瞬間発熱量Qt1の誤差の影響が大きくなり、一方、長時間にすると、発熱量の大きな変動に影響される時間帯が長くなる等の悪影響がある。t2(分)は、3〜7分が好ましく、5分がより好ましい。
【0050】
また、t2は、t1に対して3倍以上とすることが瞬間発熱量Qt1の誤差の影響をより少なくすることができるため好ましく、かつ、10倍以下とすることが、発熱量の大きな変動に影響される時間帯が長くなる等の悪影響をより防止できることから好ましい。即ち、t2/t1を、3〜10程度とすることが、より好ましい。
【0051】
発熱量を制御するため、瞬間発熱量Qt1と平均発熱量Qt2を対比する。具体的には、基準変動幅を平均発熱量Qt2×(a/100)(1≦a≦3)とし、基準変動幅[平均発熱量Qt2×(a/100)(1≦a≦3)]と、│ΔQt12│=瞬間発熱量Qt1−平均発熱量Qt2を対比し、以下(x)又は(y)に従って、改質炉の設定温度T(℃)をΔT2(℃)増減する。
【0052】
(x)ΔQt12が正で、│ΔQt12│が、基準変動幅[平均発熱量Qt2×(a/100)(1≦a≦3)]以上のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)下げる。
【0053】
(y)ΔQt12が負で、│ΔQt12│が、基準変動幅[平均発熱量Qt2×(a/100)(1≦a≦3)]以上のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)上げる。
【0054】
改質炉の設定炉温を調整するための基準変動幅は、平均発熱量Qt2の1〜3%が適当である。上記変動幅が平均発熱量Qt2の1%未満であると、制御頻度が非常に多くなり、制御により発熱量が安定化する前に、次の制御が入るという弊害が起き、一方、3%超であると、発熱量の制御が遅れて、オーバーシュートが発生する危険性が高くなる。
【0055】
それ故、aは、発熱量の設定値を考慮して、1以上3以下の範囲内で適宜設定する。即ち、上記基準変動幅は、平均発熱量Qt2×(a/100)(1≦a≦3)である。aは、好ましくは、1.5〜2.5であり、2がより好ましい。例えば、発熱量の設定値が2000kcal/Nm3の場合(実施例、参照)、aは2が好ましい。
【0056】
改質炉の設定温度を上下するΔT2(℃)は、改質炉の設定温度、及び、発熱量の設定値に基づいて適宜設定する。そのため、事前に、発熱量変動を所望の範囲内に抑えることができるΔT2(℃)を予備試験により把握しておくことが好ましいが、ΔT2(℃)は3〜7℃が好ましい範囲となることが多いため、通常はこの範囲で設定すればよい。
【0057】
ΔT2(℃)が3℃未満であると、発熱量の制御が遅れて、低発熱量又は高発熱量の期間が長くなる危険があり、また、7℃超であると、発熱量の制御が過剰となり、オーバーシュートが起きる危険性がある。
【0058】
通常、炭素質複合廃棄物中のプラスチックにより、発熱量が急峻に変動(又は、反動)する場合があるが、この場合、発熱量の急峻な変動(又は、反動)に過剰に応答しないように、ΔT2(℃)は4〜6℃がより好ましい。例えば、発熱量の設定値が2000kcal/Nm3の場 合(実施例、参照)、ΔT2(℃)は5℃が好ましい。
【0059】
改質炉の設定温度をΔT2(℃)で調整する代わりに、改質炉に吹き込む酸素含有ガスの酸素量を調整してもよい。但し、酸素量の調整は、原料の水分量等による発熱量のなだらかな変動に対しては適確に機能するが、発熱量のなだらかな変動に、プラスチック等による急峻な変動が重畳した場合には、調整値が過度に振れる場合が多い。
【0060】
改質炉の制御については、設定温度の調整のように、一定値を基準として調製する制御が、制御精度の点で好ましい。
【0061】
図3に、本発明による発熱量の別の制御態様を示す。瞬間発熱量と短時間内の平均発熱量に基づく短期間制御では、短期間内において、発熱量を適確に制御していても、長時間経過後には、発熱量が、設定値から大きく外れてしまう恐れがある。
【0062】
図3に示す発熱量の制御態様は、発熱量を、長期間、所要範囲内に維持するため、図1に示す制御態様に、長時間内の平均発熱量Qt13を制御指標とする制御を導入したものである。
【0063】
即ち、図3に示す発熱量の制御態様においては、瞬間発熱量Qt1、及び、平均発熱量Qt2を算出し、さらに、(i-3)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t3(>t2)内の平均発熱量Qt3を算出し、(ii-1)瞬間発熱量Qt1、平均発熱量Qt2、及び、平均発熱量Qt3が、下記式(1)及び(2)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する。
【0064】
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3) ・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2
│ΔQt13│≧Qt3×(b/100)(3≦b≦7) ・・・(2)
ΔQt13=Qt1−Qt3
【0065】
ここで、改質炉の操業条件は、改質炉の設定温度T(℃)(通常、800〜1200℃)、又は、改質炉に投入する酸素の量(vol.%)である。
【0066】
改質炉の設定炉温を調整するための基準変動幅は、短期間制御の場合より多少広くし、平均発熱量Qt3の3〜7%が適当である。上記変動幅が平均発熱量Qt3の3%未満であると、長期間制御の制御精度が上がらず、一方、7%超であると、発熱量の制御が遅れて、オーバーシュートが発生する危険性が高くなる。
【0067】
それ故、bは、発熱量の設定値を考慮して、3以上7以下の範囲内で適宜設定する。即ち、上記基準変動幅は、平均発熱量Qt3×(b/100)(3≦b≦7)である。bは、好ましくは、4〜6であり、5がより好ましい。例えば、発熱量の設定値が2000kcal/Nm3の場合(実施例、参照)、bは5が好ましい。
【0068】
具体的には、前記ΔQt12が正のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)下げ、ΔQt12が負のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)上げ、さらに、ΔQt13が正のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)下げ、ΔQt13が負のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)上げる。
【0069】
t1は、前述したように、30秒〜2分であり、好ましくは、1分である。t2は、前述したように、3〜7分が好ましく、5分がより好ましい。
【0070】
t3は、60〜300分とする。t3が60分未満であると、瞬間的な変動の影響を大きく受け、煩雑な制御が発生する危険性があり、一方、t3が300分超であると、発熱量の設定値から大きく外れる危険性があるので、60〜300分が好ましい。
【0071】
また、t3は、t2に対して10倍以上とすることが、煩雑な制御が発生する危険性をより少なくすることができことから好ましく、かつ、100倍以下とすることが、発熱量の設定値から大きく外れる危険性をより防止できることから好ましい。即ち、t3/t2を、10〜100倍程度とすることが、より好ましい。
【0072】
ΔT2(℃)は3〜7℃であり、4〜6℃が好ましく、5℃がより好ましい。ΔT3(℃)は、8〜12℃である。長時間後の発熱量の変動を一度で解消するため、改質炉の設定温度の変動幅ΔT3(℃)を、ΔT2(℃)より大きく設定する。
【0073】
ただし、ΔT3(℃)の操業変更をする際は、そのタイミングの前後(例えば、−t2(分)〜+t2(分)の間)ΔT2(℃)の操業変更を止めることが好ましい。これは、ΔT3(℃)+ΔT2(℃)の重複を防ぐためである。
【0074】
さらに、本発明では、発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更するともに、(ii-2)下記式で定義する安定性指標で発熱量の変動の推移を監視する。
安定性指標=(一定時間内の発熱量の標準偏差/一定時間内の平均発熱量)×100
【0075】
安定性指標は、算出した発熱量が、一定時間内の平均発熱量からどれだけ変動しているかを示す指標である。通常、一定時間は1時間とし、平均発熱量や標準偏差を求める際の発熱量の算出頻度としては1時間内で60回とする。
【0076】
一定時間をt3とし、発熱量の算出頻度をt1間隔とするなど、変更しても構わない。また、安定性指標の時間推移を求める場合は、移動平均及びそれに応じた標準偏差を用いて求めることができる。
【0077】
安定性指標で、制御を受けた発熱量の推移を監視することにより、発熱量制御の有効性を確認する。また、安定性指数の変化に基づいて、t1、t2、及び/又は、t3を設定しなおす。特に、安定性指標が所定値(例えば、10%)を超えた場合、t1、t2、及び、t3の少なくともいずれかの設定を変更して、安定性指数が所定値内に収まるような制御になるようにすることが好ましい。
【0078】
変更方法としては、原料の偏り等が原因で発熱量変化に測定タイミングが追随できてない可能性が大きいことから、t1及びt2を、いずれも小さく変更し(例えば、1/2)、こまめな変化に対応させ、安定性指標が所定値以下で落ち着いたら元に戻す等を実施する。
【0079】
頻繁にt1及びt2の変更が行われるようになった(所定値を超える)場合には、t3を小さくして、t1及びt2の変更で、所定値以内に収まるようにする等の手段をとることが望ましい。
【実施例】
【0080】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0081】
(実施例)
本発明を実施し、ガス発熱量と安定性指標で、本発明の効果を評価する。なお、安定性指標は、一定時間を一時間とし、一時間内で60個の発熱量を算出して求めた。
【0082】
(比較例)
図4に、比較例として、本発明の発熱量制御を実施しない場合(温度一定制御)の発熱量の変動を示す。
【0083】
比較例においては、木質バイオマス65質量%、タイヤ11質量%、及び、プラスチック24質量%を含む炭素質複合廃棄物を、投入酸素量260Nm3/h(熱分解炉、及び、改質炉)、蒸気量500kg/hで、19トン/日、処理した。
【0084】
改質炉の設定温度T(℃)は、1100℃とし、発熱量の基準値は、2000kcal/Nm3-dry(lhv:低位発熱量、以下同じ。)とした。
【0085】
生成ガスの成分組成は、vol.%で、CO:CO2:H2:CH4=23:30:38:5、他は窒素等であり、生成ガスの発熱量は、2040kcal/Nm3-dry(lhv)である。
【0086】
図4から、発熱量は、1100kcal/Nm3まで落ちることがあることが解る。この落ち込みの原因は、原料の混合比率の変動(発熱量が低く、水分の多い木質バイオマスが投入された)の影響であると推測される。
【0087】
安定性指標でみると、8%を超える割合が37%で、10%を超える割合が3.3%であり、生成ガスの発熱量は不安定に変動している。
【0088】
(発明例1)
図5に、発明例1として、本発明の発熱量制御(短時間制御:t1=1分、t2=5分、a=2、ΔT2=5℃)を実施した場合の発熱量の変動を示す。
【0089】
発明例1においては、木質バイオマス65質量%、タイヤ11質量%、及び、プラスチック24質量%を含む炭素質複合廃棄物を、投入酸素量255Nm3/h(熱分解炉、及び、改質炉)、蒸気量490kg/hで、18トン/日、処理した。
【0090】
改質炉の設定温度T(℃)は、1100℃とし、発熱量の基準値は、2000kcal/Nm3-dry(lhv)とした。
【0091】
生成ガスの成分組成は、vol.%で、CO:CO2:H2:CH4=22:32:37:5、他は窒素等であり、生成ガスの発熱量は2010kcal/Nm3-dry(lhv)である。
【0092】
図5に示すように、原料の混合比率の変動(比較例と同様)で、発熱量が1500kcal/Nm3まで落ちることがあるが、安定性指標は、8%を超える割合が0.8%、10%を超える割合が0.01%であり、生成ガスの発熱量は安定している。
【0093】
なお、引き続き上記条件で操業したところ、途中で安定性指標が10%を超えたため、t1を0.5分、t2を2.5分に変更して制御し、24時間操業したところ、安定性指標は、8%を超える割合が0.7%、10%を超える割合が0%となり、生成ガスの発熱量はより安定した。
【0094】
(発明例2)
図6に、発明例2として、本発明の発熱量制御(短時間+長時間:t1=1分、t2=5分、t3=120分、a=2、b=5、ΔT2=5℃、ΔT3=10℃)を実施した場合の発熱量の変動を示す。
【0095】
発明例2においては、発明例1と同様に、木質バイオマス65質量%、タイヤ11質量%、及び、プラスチック24質量%を含む炭素質複合廃棄物を、投入酸素量255Nm3/h(熱分解炉、及び、改質炉)、蒸気量490kg/hで、18トン/日、処理した。
【0096】
改質炉の設定温度T(℃)は1100℃とし、発熱量の基準値は、2000kcal/Nm3-dry(lhv)とした。
【0097】
生成ガスの成分組成は、vol.%で、CO:CO2:H2:CH4=22:32:37:5、他は窒素等であり、生成ガスの発熱量は2010kcal/Nm3-dry(lhv)である。
【0098】
図6に示すように、原料の混合比率の変動(比較例と同様)で、発熱量が1500kcal/Nm3まで落ちることがあるが、安定性指標は、8%を超える割合が0.6%、10%を超える割合が0%であり、生成ガスの発熱量は極めて安定している。
【0099】
また、発明例1及び2で生成したガスは、転炉ガスやコークス炉ガスを燃料と鋼板の加熱炉で問題なく使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
前述したように、本発明によれば、炭素質複合廃棄物から、均質な化石燃料(重油、LNG、LPG等)の代替燃料として使用し得る“発熱量がほぼ一定の原燃料ガス”を製造することができるので、炭素質複合廃棄物をガス化したガスの用途が拡大する。よって、本発明は、廃棄物処理産業及び鉄鋼産業において利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0101】
1 熱分解炉
2 改質炉
C 炭化物
0、G3 酸素含有ガス
1 熱分解ガス
2 改質ガス
M 炭素質複合廃棄物
T タール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質複合廃棄物を熱分解し改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、
(i-1)改質ガスの成分組成を時間間隔t1で分析して、瞬間発熱量Qt1を算出し、
(i-2)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)内の平均発熱量Qt2を算出し、
(ii-1)瞬間発熱量Qt1と平均発熱量Qt2が下記式(1)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する
ことを特徴とする炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3) ・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2
【請求項2】
前記改質炉の変更する操業条件が、改質炉の設定温度T(℃)、又は、改質炉に投入する酸素の量(vol.%)であることを特徴とする請求項1に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項3】
前記ΔQt12が正のとき、改質炉の設定温度T(℃)をΔT2(℃)下げ、ΔQt12が負のとき、改質炉の設定温度T(℃)をΔT2(℃)上げることを特徴とする請求項2に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項4】
前記改質炉の設定温度T(℃)が800〜1200℃であることを特徴とする請求項3に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項5】
前記t1が30秒〜2分であり、t2が3〜7分であることを特徴とする請求項3又は4に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項6】
前記ΔT2(℃)が3〜7℃であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項7】
炭素質複合廃棄物を熱分解し改質したガスの発熱量を所要範囲内に制御する発熱量の制御方法であって、
(i-1)改質ガスの成分組成を時間間隔t1で分析して、瞬間発熱量Qt1を算出し、
(i-2)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t2(>t1)内の平均発熱量Qt2を算出し、さらに、
(i-3)瞬間発熱量Qt1に基づいて、時間間隔t3(>t2)内の平均発熱量Qt3を算出し、
(ii-1)瞬間発熱量Qt1、平均発熱量Qt2、及び、平均発熱量Qt3が、下記式(1)及び(2)を満たす発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更する
ことを特徴とする炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
│ΔQt12│≧Qt2×(a/100)(1≦a≦3) ・・・(1)
ΔQt12=Qt1−Qt2
│ΔQt13│≧Qt3×(b/100)(3≦b≦7) ・・・(2)
ΔQt13=Qt1−Qt3
【請求項8】
前記改質炉の操業条件が、改質炉の設定温度T(℃)、又は、改質炉に吹き込む酸素の量(vol.%)であることを特徴とする請求項7に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項9】
前記ΔQt12が正のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)下げ、ΔQt12が負のとき、改質炉の設定温度をΔT2(℃)上げ、さらに、ΔQt13が正のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)下げ、ΔQt13が負のとき、改質炉の設定温度をΔT3(℃)上げることを特徴とする請求項8に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項10】
前記改質炉の設定温度T(℃)が800〜1200℃であることを特徴とする請求項9に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項11】
前記t1が30秒〜2分であり、t2が3〜7分であり、t3が60〜300分であることを特徴とする請求項9又は10に記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項12】
前記ΔT2(℃)が3〜7℃であり、ΔT3(℃)が8〜12℃であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
【請求項13】
前記発熱量の変動に基づいて、改質炉の操業条件を変更するともに、
(ii-2)下記式で定義する安定性指標で発熱量の変動の推移を監視し、前記安定性指標が所定値を超えた場合に、前記時間間隔t1、t2、及び、t3の少なくともいずれかを変更する
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の炭素質複合廃棄物をガス化したガスの発熱量の制御方法。
安定性指標=(一定時間内の発熱量の標準偏差/一定時間内の平均発熱量)×100

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−252084(P2011−252084A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126705(P2010−126705)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】