説明

炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品

【課題】曲げ強度や耐熱変形性の高い構造材用プリプレグ成形品を得る。
【解決手段】
炭素長繊維を40〜75質量%含有し、示差走査熱量計のヒートフロー曲線が150℃〜170℃の間に2つ以上の吸熱ピークもつポリプロピレンを25〜60質量%含有する炭素長繊維強化ポリプロピレンを成形してなることを特徴とする炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素長繊維とポリプロピレン樹脂からなる成形品に関する。詳しくは、炭素長繊維と、高耐熱で、かつ高結晶化したポリプロピレン樹脂からなる成形品に関する。更に詳しくは、耐熱変形性と強度が著しく改善された構造材用成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス長繊維強化ポリプロピレン複合材料は知られていた(例えば、文献1参照)。しかし、かかる従来技術は、ガラス繊維とポリプロピレンの接着性が低く、またガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低く、構造材としての実用性能は不満足であった。
ガラス繊維とポリプロピレンの接着性については、プロピレンを無水マレイン酸のような極性官能基により変性することは有効であると特開平05−001184(特許文献1)や特開平06−279615(特許文献2)に開示されている。さらに特殊なカップリング剤を含む集束剤で処理したガラス繊維を使用することが特開2005−170691(特許文献3)に開示されている。しかし、保安部品のような高強度の構造部材に要求される高い強度や物性の信頼性にははるかに未達であった。また、ガラス繊維より、強度や弾性率の高い炭素繊維を使用した炭素繊維強化ポリプロピレンについても、無水マレイン酸変性ポリオレフィン共重合体を使用して接着性を改善した組成物が特開2005−256206(特許文献4)に開示されている。しかし、炭素繊維とポリプロピレンの接着性はまだ低く、炭素繊維の高強度が複合材料に反映されず、構造材としての要求には未達であった。
【0003】
また、電線被覆法を応用したガラス長繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は知られていた。しかし、かかる従来技術は、ガラス繊維とポリプロピレン樹脂のコンパウンド材料を主に射出成形により成形品を得ていた。コンパウンド工程や射出成形工程でガラス繊維の折損が著しく、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低下し、構造材としての実用性能には不満足であった。
【0004】
高強度・高剛性成形品を得るために、炭素長繊維とポリプロピレン樹脂の複合材料も研究開発された。しかし、射出成形や押出成形工程で炭素繊維が折損し、その効果は要求に大幅に未達であった。また、強化繊維の折損を避けるために、成形時のせん断変形の小さい圧縮成形についても検討された。しかし、強化繊維が長くなると繊維のからみ合いが起こり、流動性が著しく低下して、大型成形品や細いリブやボス構造を有する成形品は、欠肉が起こり良好な成形品が得られなかった。
【0005】
繊維の絡み合いが起こらないように、繊維のロービングを単繊維状に開繊した後、ポリプロピレン樹脂を含浸して、強化繊維とポリプロピレン樹脂からなる一軸のテープ状プリプレグを予備成形した後、加熱圧縮成形する方法も開示された。炭素長繊維強化により、引張強度は改善されたが、引っ張りモード圧縮モードが複合される曲げ変形を受けた場合、曲げ強度の改善効果は、引っ張り強度に比較してかなり低く、曲げ変形を受ける構造材の強度要求には未達であった。曲げ強度は、炭素長繊維の分率を上げても必ずしも改善されず、ある分率を境に逆に低下し、炭素長繊維の分率を上げても要求を達成出来なかった。
【0006】
一方、非特許文献2に開示されているように、ポリプロピレンの結晶化挙動の研究から結晶化温度を高くすると、完全度の高い結晶分率が高くなることは知られている。しかし、非特許文献3に開示されているように、ポリプロピレンを成形する場合の金型温度は、通常50〜80℃程度、強化繊維分率が極めて高い複合材料においても100〜120℃が選択される。120℃を超える融点近傍の金型温度での成形を、ポリプロピレンの成形過程で実行することは、結晶化速度はたいへん遅く、固化がなかなか進まず、現実不可能であった。従って、融点近傍の高い金型温度で成形した成形品は、どのような物性を示すか、取り分け強化繊維と複合系でどのような物性を示すかは全く不明であった。しかし、本発明者らは、結晶化速度を改善したポリプロピレン樹脂組成物を、炭素長繊維の繊維分率を高度にした強化複合体とすることにより、金型温度を通常の成形不良温度域をさらに超えた135℃以上の領域まで高めた成形においても脱型が可能であることを見出した。従来、成形出来無かった高温型による成形が可能になった。この技術を基に、これまで未知であった結晶化制御による物性改善の可能性が出てきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−001184号公報
【特許文献2】特開平06−279615号公報
【特許文献3】特開2005−170691号公報
【特許文献4】特開2005−256206号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】プラスチックス、Vol.36(7),p103(1985)
【非特許文献2】Polymer Journal, Vol.5, p111 (1973)
【非特許文献3】新版 複合材料・技術総覧 p351, 産業技術サービスセンター,(2011)
【非特許文献4】Polymer, vol.36 No.12, p2407 (1995)
【非特許文献5】Crystallization of Polymers Second Edition vol.1, p265 Cambridge University Press (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
構造材の場合、高い強度や高い耐熱変形性が必要な部品が多い。強化ポリプロピレンの高強度化や高耐熱化ができれば、構造材用途へのポリプロピレン複合材料の適用範囲が拡大することから、強化ポリプロピレンの結晶化制御による高強度化および高耐熱化の市場の高い開発要求があった。
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、ポリプロピレンの結晶化を制御して得られた強度や耐熱性が飛躍的に優れた比強度の高い構造材用ポリプロピレン複合材成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.炭素長繊維を40〜75質量%含有し、示差走査熱量計のヒートフロー曲線が150℃〜170℃の間に2つ以上の吸熱ピークもつポリプロピレンを25〜60質量%含有する炭素長繊維強化ポリプロピレンを成形してなることを特徴とする炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
2.前記ポリプロピレンが、150℃〜170℃の間のヒートフロー曲線の吸熱ピークの中で、最も高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値に対して2番目に高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値がその60%以上であることを特徴とする1.に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
3.樹脂成分1g当たりの融解熱が、97J以上であることを特徴とする1.に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
4.成形部分の表面温度が135℃以上である金型を使用して圧縮成形されたことを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
【発明の効果】
【0011】
複合材料の母相の結晶性を制御した本発明により、曲げ強度や荷重たわみ温度が飛躍的に高くなり、設計の自由度が増し、構造材の軽薄短小化への要求を満たす複合材料を工業的に提供することができる。本発明により得られた複合材料を成形して得られる成形品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。本発明により、高い曲げ強度を有する複合材料が提供される理由は、未だ明確でないが、この効果は、母相に特定の結晶を高度に発現することにより、母相の弾性率を改善することで、圧縮面の母相中の炭素繊維やこのコンポジットの座屈が防止されたことと、母相の高い収縮率により、炭素繊維の拘束力が増し、樹脂―炭素繊維間の接着力が増大し炭素繊維の高い引っ張り強度が有効に作用したものと考察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例のDSC測定によるヒートフロー図。150℃と170℃の間に吸熱のダブルピークを有し、実線で示した最も高い吸熱フローに対し点線で示した2番目に高い吸熱フローの比は0.97である。
【図2】実施例のDSC測定によるヒートフロー図。150℃と170℃の間にショルダー状に吸熱のダブルピークを有し、実線で示した最も高い吸熱フローに対し点線で示した2番目に高い吸熱フローの比は0.94である。
【図3】比較例のDSC測定によるヒートフロー図。150℃と170℃の間に吸熱ピークはひとつである。このヒートフローに対して0.6以上のショルダー状ヒートフローも検出されない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳述する。
1.炭素長繊維を40〜75質量%含有し、示差走査熱量計のヒートフロー曲線が150℃〜170℃の間に2つ以上の吸熱ピークもつポリプロピレンを25〜60質量%含有する炭素長繊維強化ポリプロピレンを成形してなることを特徴とする炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
2.前記ポリプロピレンが、150℃〜170℃の間のヒートフロー曲線の吸熱ピークの中で、最も高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値に対して2番目に高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値がその60%以上であることを特徴とする1.に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
3.樹脂成分1g当たりの融解熱が、97J以上であることを特徴とする1.に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
4.成形部分の表面温度が135℃以上である金型を使用して圧縮成形されたことを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
【0014】
本発明は、40質量%以上の炭素繊維とポリプロピレンの特殊な結晶構造の組み合わせにより得られる成形品である。一般的な成形条件下で発現する結晶は、α型の結晶形態が主で、ISO11357-3により測定される融点は、単一ピークである。非特許文献4によると、α型結晶の他に、結晶核剤の選択により発現することが知られているβ型や、圧縮下における結晶化で発現することが知られているγ型があるが、β型やγ型結晶は、α型結晶より融点が低く、高融点・高弾性率を目的とする本発明には適さない。これに対して、本発明の炭素繊維とポリプロピレンからなるプリプレグを、135℃を超える金型でスタンピング成形して得られた成形品中のポリプロピレンの融解は、150℃〜170℃間に多重のピークを示し、高温側のピーク温度は、135℃未満の金型で成形して得られた融点のピーク温度より1.5℃以上高い融点を示す。すなわち、高融点結晶の発現により、曲げ強さや耐熱変形性が向上することを示している。広角X線回折ポロファイルから推察される結晶形態は、α型が主で、これにγ型が混在している。本発明でいう母相がポリプロピレンからなることは、樹脂の熱分析における融点と広角X線回折によるプロファイルがポリプロピレンの特性と一致することであり、樹脂中のポリプロピレンは60質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また本発明では、150℃と170℃間で最も高い吸熱ピーク値と2番目に高い吸熱ピーク値とベースライン間のそれぞれの高さを計測し、最も高い吸熱ピーク値に対する2番目に高い吸熱ピーク値の比率は0.6以上が好ましく、0.75以上が特に好ましい。前記比率が高いことは、融点の多重ピークを明確に示し、融解熱が高いことに関連するから好ましい。ピーク値の比率が0.6未満では、結晶化度が低く耐熱性や機械的性質が低くなり、本発明の目的を達成しない。
また本発明の成形品中のポリプロピレンの総結晶化度は、X線回折プロファイルからBragg反射の積分強度や示差走査熱量計(DSC)の融解エンタルピーと完全結晶の融解エンタルピーの比率から求めることができる。本発明の成形品に含まれるポリプロピレン総結晶化度は、46%以上が好ましく、特に50%以上が好ましい。非特許文献4によると、α型ポリプロピレンの完全結晶融解エンタルピーは、208.8J/gであり、樹脂成分当たり1g当たり、97J以上が好ましく、特に104.4Jであることが好ましい。97J未満では、弾性率、特に50℃以上の高温における弾性率が低く、機械的物性や耐熱性が低下するから好ましくない。
【0015】
本発明に使用されるポリプロピレンは特に限定されないが、本発明に使用されるポリプロピレンとしては、プリプレグ作製時の含浸性から分岐構造が殆どなく、物性的には高い弾性率を有する、95モル%以上がプロピレン繰り返し単位からなるホモタイプのポリプロピレンで、アイソタクチックスの立体規則性分率の高いものが好ましい。また、本発明に使用されるポリプロピレンの重合触媒は、特に限定されないが、立体規則性や分子量分布がシャープなポリプロピレンが提供できるメタロセン系触媒が好ましい。
【0016】
炭素繊維との接着性の面から、炭素繊維と接着性を有する官能基が導入され変性されたポリプロピレンが本発明に好ましい。特に、接着性を有する官能基としては、酸基が好ましい。更に、本発明で好ましく使用される酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、8万〜20万、好ましくは9万〜18万である。重量平均分子量が、20万を超えると、溶融粘度が高くなり、プリプレグ作製時、含浸性が低く、ボイドを含み易く、本発明が達成されない。また重量平均分子量が8万未満では、強度や伸度が低く、プリプレグから得られる成形品の強度・伸度が低く好ましくない。重合触媒としては、チグラーナッタ触媒より、メタロセン系触媒が好ましい。また酸変性は、有機過酸化物によるラジカルにより、不飽和酸や不飽和無水酸をグラフトすることで得られる。有機過酸化物では、パーオキシジカーボネート系やパーオキシケタール系より、ジアルキルパーオキサイドが好ましい。本発明に使用される酸変性ポリプロピレンの多分散性指数(数平均分子量に対する重量平均分子量の比)には1.5〜7、好ましくは1.6〜6、特に好ましくは1.7〜5である。多分散指数は、1.5未満の酸変性ポリプロピレンを得るには、分別処理が必要でコスト高となり、好ましくない。また7を超えると、重量平均分子量が、8万〜20万の範囲内あっても、混在する低分子量ポリプロピレンが強度・伸度を低下させるので好ましくない。逆に、混在する高分子量成分は、含浸性や接着性を低下させて好ましくない。多分散性指数が小さいために、比較的低い重量平均分子量品でも、低分子量成分が非常に少なく、酸変性ポリプロピレンの強伸度が高くなったためと考察される。プリプレグ製造時の含浸性は、重量平均分子量に強く依存する、一方機械的性質は低分量成分に依存することが分かった。分子量分布を大変狭く制御することで、低い重量平均分子量と少ない低分子量成分を両立することが可能となる。
重量平均分子量およびその分布は、JISK7252系に準じて、140℃の1,2,4−トリクロロベンゼン溶液について、ゲル浸透クロマトグラフィー法により、140℃の高温カラムを使用して測定される。
【0017】
本発明に使用される酸変性ポリプロピレンは、強化材と高い接着強度を有することが必要であり、赤外吸収スペルトルにおいて、840cm−1の吸光度面積に対して1790cm−1と1710cm−1の吸光度面積の和の比が0.1〜1.2、好ましくは0.2〜1.0である酸変性されている。無水酸変性度の尺度である吸光度面積の比が0.1未満では、プリプレグを成形して得られる成形品の強度が低く好ましくない。また1.2を超えると、熱分解や熱変色が起こり好ましくない。酸成分としては、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸などの無水酸やアクリル酸、メタクリル酸などが例示される。好ましくは、変性のしやすさからマレイン酸、イタコン酸の無水酸である。840cm−1は、ポリプロピレンに由来する赤外線吸収であり、測定した試験片の厚さ補正係数である。また1790cm−1,1710cm−1は、それぞれ無水カルボン酸とカルボン酸に由来する吸収であり、吸水と脱水状態を移行するから総合した変性度で効果は整理される。
【0018】
本発明の酸変性ポリプロピレン樹脂及び組成物は、出発原料や製造条件は制限されないが、メルトフローレート0.1〜4dg/minであるポリプロピレン100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部、半減期が1分となる温度が170〜185℃の範囲にある有機過酸化物0.05〜3質量部を溶融混練して得られることが好ましい態様である。半減期とは、有機過酸化物が熱分解して半分になるまでの時間であり、反応温度とラジカル反応に必要な時間の関係の指標となる。
ポリプロピレンに不飽和ジカルボン酸化合物と有機過酸化物を作用させて酸変性する方法が、工業的には好ましいが、この方法による変性時、ポリプロピレンの分子鎖はラジカルで切断される副反応が伴う。この反応を制御するには、有機過酸化物のラジカル発生特性が適合することが必要である。半減期が1分となる温度が170〜185℃、好ましくは、172〜183℃である有機過酸化物が好ましい。170℃未満では、低分子量のポリプロピレンのみ溶融した状態からラジカル発生を開始するから低分量のポリプロピレンが発生しやすく、多分散性指数が高くなり好ましくない。また185℃を超えると、滞留時間が2分以下の押出機で変性反応を行う場合、230℃以上の高温が必要となり、熱分解や熱変色を伴いやすく、品質安定性の面から好ましくない。半減期が1分となる温度が、170〜185℃である有機過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキシド(182℃)、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)、nーブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(173℃)などが例示される。これらの中では、t−ブチルハイドロパーオキシド(179℃)、ジクミルパーオキシド(172℃)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルパーオキシド)ヘキサン(180℃)が活性酸素量も高く好ましい。ポリプロピレン100質量部に対して、無水マレイン酸0.01〜5質量部をグラフト変性する場合、活性酸素の必要量から、有機過酸化物は0.05〜3質量部、好ましくは、0.1〜1質量部使用される。
0.05質量部未満では、反応不足となりやすく好ましくない。3質量部を超えると低分子量ポリプロピレンにもラジカルの作用が起こりやすく好ましくない。
【0019】
本発明には、炭素長繊維や連続繊維が使用される。重量平均繊維長が10mm未満では、構造材としての強度が未達となり、好ましくない。機械物性上は連続繊維が好ましいが、成形時の金型内における流動性が必要なことからプリプレグとしてより短く切断されたものが使用されることもある。炭素繊維としては、製造法に特に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200〜300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000〜3000℃以上で焼成され炭化製造された引張り強度20t/cm以上、引張り弾性率200GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用される単繊維径は、特に制限されないが、複合化の製造ライン工程から3〜25μmが好ましく、特に4〜15μmが好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、25μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の複合材料製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、100℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが好ましい。集束フィラメント数には特に制限ないが、1000〜30000フィラメント、好ましくは、3000〜25000フィラメントが好ましい。本発明に使用される炭素繊維の集束剤は特に限定されないが、炭素繊維と母相のポリプロピレン樹脂に高い接着力を有するウレタン系やエポキシ系集束剤が好ましい。
【0020】
本発明の成形品には、40〜75質量%、好ましくは50〜70質量%、特に好ましくは55〜70質量%の炭素長繊維が複合される。40質量%未満では、炭素長繊維による補強の効果が不十分となり、また炭素長繊維を含有する上限は特に制限されないが、75質量%を超えると、炭素繊維へのポリプロピレン樹脂の含浸が困難であり、共に本発明の目的である構造部材としての要求を満たせず好ましくない。
【0021】
本発明の成形品には、上記の必須成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、結晶核剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤などが配合できる。
本発明の複合材料の製造法は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン樹脂の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーにポリプロピレン樹脂および/またはポリプロピレン樹脂共重合体などを所定割合に予備混合して供給する。溶融樹脂をギアポンプの回転数にて計量して、樹脂の融点以上に温度調節された含浸用押出機の上流に供給する。一方、ロービング状炭素繊維を拡張開繊し、含浸用押出機の下流に供給する。下流先端に開口部を絞ったスリットダイを備えた含浸用押出機中で樹脂圧により、炭素繊維ロービングに樹脂を含浸・脱泡する。下流開口部から吐出されたテープ状の炭素繊維とポリプロピレン樹脂からなる複合材料を冷却してかせに巻き取る。さらに、このテープ状複合材料を10mm以上にカットすることや、テープ状複合材料をカットせずに織物状に織って成形用に提供される。または、下流の出口ダイにロービング状炭素繊維を供給して、繊維の送り速度と樹脂の吐出量を調節して、所定の繊維含有率からなるストランド状の炭素繊維の樹脂被覆材を得る。このストランドを冷却してかせに巻き取る。このストランドを10mm以上にカットするか、織物状に織って成形用に提供される方法などが上げられる。
【0022】
本発明の複合材は、赤外線加熱や高周波加熱して、樹脂を加熱溶融して、圧縮成形機にセットされた金型に供給される。金型温度は、前述の理由により好ましくは、135℃以上、特に好ましくは135〜160℃の金型に供給して、賦形冷却後脱型して構造材の部品が成形される。金型温度は、成形中一定とせず、加熱―冷却のサイクルプロセスをとることができる。急速加熱には、電熱加熱に加え、誘導加熱や赤外線加熱などが利用される。また急速冷却には、熱湯やオイルが回路に循環される。
本発明による荷重たわみ温度は160℃を超えることが好ましい。また曲げ強さは、ポリプロピレンの変性度と結晶化度に依存する。酸変性ポリプロピレンを母相とする場合、330MPaを超えることが好ましく、未変性ポリプロピレンの場合110MPaを超えることが好ましい。特に、酸変性ポリプロピレンを使用し、特定の結晶性を高めた成形からえられる曲げ強さである340MPaを超えた成形品が好ましい。
【0023】
本発明の複合材から得られた成形部品は、自動車のフレーム、バンパーフェースバーサポート材、シャシーシェル、座席フレーム、サスペンジョン支持部、サンルーフフレーム、バンパービーム、2輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜6)
炭素繊維のロービングを所定量になる速度で拡張開繊して押出機のダイヘッドに供給した。一方、種々のポリプロピレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂を、80℃にて1時間乾燥後、シリンダー温度230℃に温度調節された二軸押し出し機(日本製鋼所TEX30α)のホッパーに供給し、可塑化した。炭素繊維の引き抜き速度とポリプロピレン樹脂の供給量を変化して、炭素長繊維の質量分率を変えて種々のサンプルを得た。幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを水槽に浸漬して固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを35mm長さにカットし、短冊状プリリプレグを得た。コンソリ化プレート厚さ400mm×400mm×2mmに相当する短冊状プリプレグを400mm×400mm×5mmの枠内に面内ランダムになるようにばらまき、予め230℃に温度調節した金型をセットした圧縮成形機を使用して圧縮し、金型を100℃に冷却した後、型開きをして、プリプレグシートを得た。このプリプレグテープをIRヒータにより、230℃に予熱した後、温度100〜150℃に温度調節された400mm×400mm×2mmの金型にセットして、30分間30MPa圧縮保持した。金型を圧縮成形機から取り出した。得られた平板から10mm×100mm×2mmの曲げ試験用テストピース成形品を切削し、40本を得た。
なお、成形品の脱型性を、○:容易に脱型可能、△:真鍮製へらの使用で脱型可能、×:製品を一部破壊しないと脱型できないという3クラス評価分けした。
【0025】
(1)曲げ特性
得られた曲げ試験用テストピース各40本を、デシケータ中で23℃にて48時間保管後、ISO178に準拠した3点曲げ試験機(オリエンテック社製テンシロン4L型)を使用して、スパン長80mm、クロスヘッド速度1mm/minによる曲げ強度と曲げ弾性率を測定し、それぞれの平均値を得た。
(2)X線回折
曲げ試験片用テストピースから、10mm×10mm×2mm切り出し、得られた試験片をX線解析装置の試料台にセットした。CuKαのX線源に、40KV,200mAの電荷を掛けたX線解析装置(理学電機製RINT2500)を使用して、2θが10度から40度まで0.1°/分の速度で入射走査して、その回折強度を測定した。回折強度をグラフ表示して、そのプロファイルから結晶形態を推察した。
(4)示差走査熱量(DSC)分析
TA instruments社製Q100型DSCを使用し、試験片から5mg試験片をアルミパンに採取した。これを試験槽にセットし、窒素40ml/分流動しながら、10℃/分にて、200℃まで昇温するために必要なヒートフローをブランクと比較測定した。ヒートフローの多重吸熱ピーク温度を融点として整理した。また120℃と180℃のヒートフロー点を直線で結ぶ直線をベースラインとして、ベースラインとヒートフロー曲線で囲まれる面積から融解熱を算定した。また、150℃と170℃間で最も高い吸熱値を示す吸熱ピーク値と2番目に高い吸熱値を示す吸熱ピーク値とベースライン間のそれぞれの高さを計測し、最も高い吸熱値を示す吸熱ピーク値に対する2番目に高い吸熱値を示す吸熱ピーク値の比率を算定した。
(5)熱重量分析
(4)にてDSC測定済みアルミパンの蓋を開き、試験後の試料を取り出した。熱重量分析装置TA instruments社製Q50を使用し、TGAの炉内にセットした。窒素布雰囲気中で20℃/分にて室温から600℃まで昇温し,600℃にて5分保持して重量変化を測定した。100℃から600℃5分保持の間の重量減少率を測定し、これを樹脂分率と見なし算定した。
(6)荷重たわみ温度
曲げ試験片用に成形したシートから、繊維軸に対して0度方向の曲げ試験片と同様に切削して、10mm×100mm×2mmの試験片4本を得た。HDT試験機(東洋精機社製)を使用して、JIS K7191−1,−2に準拠して、表裏各2本をフラットワイズ状態で1.82MPaの荷重下で2℃/分にて昇温して、支点間中央部のひずみが0.2%に達する温度として測定し、4本の平均温度を求めた。
実施例について、得られたデータを表1に示した。
【0026】
(比較例1〜6)
ポリプロピレン樹脂の種類や炭素繊維の質量分率を変更した以外は、実施例と全く同様に、コンパウンドペレットやそれを用いたプリプレグを作製した後、テストピースを成形した。得られた試験片について,実施例と全く同様に0度曲げ強度と90度曲げ強度、荷重たわみ温度、プリプレグについて、X線回折強度比、DSC分析、TGA分析を測定した。得られた試験データを表2に示した。
【0027】
実験に使用した原料と記号
PP−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(東洋紡績製試作品、ホモポリプロピレンに、無水マレイン酸と半減期1分が178℃有機過酸化物を配合し、200℃で1分溶融加熱して得た。メルトフローレート85g/10min, 無水マレイン酸分率0.3%)
PP−2:ポリプロピレン(プライムポリマー社製、ホモポリプロピレン、J139,メルトフローレート 60g/10min, 無水マレイン酸率0%)
炭素繊維:帝人社製 東邦テナックス IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
【0028】
【表1】

【0029】
本発明の効果により、荷重たわみ温度は5℃上昇している。曲げ強さと曲げ弾性率は、母相をなすポリプロピレンの物性にも大変依存する。同一のポリプロピレンを使用した、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、弾性率は殆ど同じであるが、成形条件により特殊な結晶融解挙動を有する実施例の曲げ強さは、比較例より高い曲げ強さを有している。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、曲げ強度に優れたスタンピング成形品を得ることが可能となり、比重が比較的小さく、プリプレグ製造法や成形法も非常に容易であることからも、構造部材やハウジングの樹脂化が可能となり、軽量化や省エネルギーの面から産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素長繊維を40〜75質量%含有し、示差走査熱量計のヒートフロー曲線が150℃〜170℃の間に2つ以上の吸熱ピークもつポリプロピレンを25〜60質量%含有する炭素長繊維強化ポリプロピレンを成形してなることを特徴とする炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
【請求項2】
前記ポリプロピレンが、150℃〜170℃の間のヒートフロー曲線の吸熱ピークの中で、最も高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値に対して2番目に高い吸熱値を示す吸熱ピークの吸熱値がその60%以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
【請求項3】
樹脂成分1g当たりの融解熱が、97J以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。
【請求項4】
成形部分の表面温度が135℃以上である金型を使用して圧縮成形されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素長繊維強化ポリプロピレン成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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