説明

炭素電極

【課題】グラファイト化度が高く、比表面積が大きい炭素繊維集合体から成る炭素電極を提供すること。
【解決手段】ラマン分光スペクトルにおける1590cm−1ピーク強度(P)と1350cm−1ピーク強度(P)の比(P/P)が0.85以上であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極、又は、X線回折ピークにおける002回折ピークの半値幅が2.8°以下であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素電極に関し、詳しくは炭素繊維集合体から成る炭素電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素を素材とした電極は、金属電極と比べて軽量であり、耐酸性に優れ、特に、多孔質炭素、炭素繊維又は炭素粒子の集合体等から成る炭素電極は、反応密度を重視する電気化学反応場の形成に好適な電極として幅広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、炭素繊維集合体を水処理用電極として用いる方法が開示されている。ここでは炭素繊維電極に電圧を印加して、被処理水中の微生物を殺菌する方法が示されている。
【0004】
その一方で、炭素繊維集合体を用いて微生物を有効利用しようとする動きもある。例えば、特許文献2には、発酵槽において発酵液に浸漬した炭素繊維電極に微生物を担持することにより、発酵と燃料電池発電を同時に行う方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の炭素電極の導電性は、金属電極に較べて数桁も小さいもので、そのため電極反応性が悪く、導電性不足による電極内の電位分布のばらつきが生じ、これに伴って副反応が発生するなどの不具合を生じる。また、電極反応において、活性の低い活物質を十分に反応させるために、炭素電極の比表面積についても向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4001673号公報
【特許文献2】特開2007−227216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭素繊維集合体において、導電性は含有されるグラファイト質によって付与される。特にグラファイトの結晶化が高度である程、導電性は向上する。
【0008】
さらに、炭素繊維集合体を電極として用いた場合、炭素繊維集合体の比表面積が大きい程、活物質の反応性は向上する。
【0009】
したがって、本発明の課題は、グラファイト化度が高く、比表面積が大きい炭素繊維集合体から成る炭素電極を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
ラマン分光スペクトルにおける1590cm−1ピーク強度(P)と1350cm−1ピーク強度(P)の比(P/P)が0.85以上であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極。
【0013】
(請求項2)
X線回折ピークにおける002回折ピークの半値幅が2.8°以下であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極。
【0014】
(請求項3)
炭素繊維集合体の表面に微生物を担持して成る請求項1又は2記載の炭素電極。
【0015】
(請求項4)
バイオリアクター用電極として用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。
【0016】
(請求項5)
バイオ燃料電池における一方の極又は双方の極に用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。
【0017】
(請求項6)
キャパシタとして用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、グラファイト化度が高く、比表面積が大きい炭素繊維集合体から成る炭素電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】炭素繊維表面における顕微ラマンスペクトル
【図2】炭素繊維表面のX線回折スペクトル
【図3】表面処理の効果を示すSEM写真
【図4】電池兼電解装置の単セル断面図
【図5】実験装置の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「炭素繊維集合体から成る電極」、及び「炭素繊維電極」は同義であり、共に、電極表面の少なくとも一部に炭素繊維集合体を有する電極を表す。
【0021】
炭素繊維集合体を電極として用いる場合の望ましい特性として、導電性が大きいこと、大きな比表面積を有すること等が挙げられる。
【0022】
特に導電性は、炭素繊維集合体表面におけるグラファイト質の結晶性の程度によって大きく変わる。
【0023】
結晶性を分析するためには、顕微ラマン分光分析や、X線回折測定を用いることができる。
【0024】
具体的には、以下に説明するように、顕微ラマン分光分析によって、炭素繊維集合体表面のグラファイト化率が測定され、X線回折測定によって、グラファイト化されたグラファイト質の結晶性を評価できる。
【0025】
炭素繊維表面における顕微ラマンスペクトルを図1に示す。
【0026】
このスペクトルには、グラファイト質を示すピーク(1590cm−1)と炭素質を示すピーク(1350cm−1)とが現われている。
【0027】
例えば、炭素繊維集合体を焼成によって得る場合、炭素質が十分にグラファイト化されていると、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低くなる。
【0028】
炭素繊維集合体に導電性を付与させる場合、導電性はグラファイト質によって与えられるものであるから、上記のように、グラファイト質を示すピークが高く、炭素質を示すピークが低いことが好ましい。
【0029】
更に、本発明においては、1590cm−1ピーク強度(P)と1350cm−1ピーク強度(P)の比(P/P)が0.85以上であることが、より好ましい。
【0030】
炭素繊維表面のX線回折スペクトルを図2に示す。
【0031】
図2において、Aは、2500℃において焼成したカーボンフェルト繊維のスペクトルを示す。また、Bは、1350℃において焼成したカーボンフェルト繊維のスペクトルを示す。
【0032】
図2が示すように、焼成時の温度が異なる2つの炭素繊維表面のスペクトルを比較すると、002回折ピーク半値幅に差が現われる。ピーク半値幅は、ピーク強度の半分の強度におけるピーク幅として与えられ、ピークの広がりの程度を表す指標として用いられる。002回折ピークは、グラファイト結晶に対応したピークであり、この半値幅が小さいことは、炭素繊維表面における結晶構造に乱れがなく、高度に結晶化されていることを示している。高度に結晶化されたグラファイト質は、電気抵抗が小さく、炭素繊維集合体に高い導電性を付与する。
【0033】
本発明では、炭素繊維集合体の表面のX線回折ピークにおける002回折ピークの半値幅が、2.8°以下であることが好ましい。
【0034】
電極反応において、その反応密度は、電極の比表面積に大きく依存する。電極の比表面積を大きくすることは、電極反応密度を増加させることに繋がる。
【0035】
炭素繊維集合体を電極として使用した場合は、他の電極に比べて圧倒的に大きい比表面積が与えられる。しかしながら、従来の炭素繊維集合体の比表面積では、例えば溶液中における微量含有物の電極検出や、燃料電池電極のような、高感度、高出力の需要に対して、十分な電極反応密度を提供していなかった。
【0036】
比表面積の測定には、BET法を用いることができる。
【0037】
本発明による炭素繊維集合体から成る電極は、窒素吸着により測定したBET比表面積が400m/g(窒素吸着量)以上の比表面積を有する。
【0038】
そのため、本発明による炭素繊維集合体は、反応密度を重視する電気化学反応場の形成に好適な電極として用いることができ、例えば、活性の低い活物質でも十分に電極反応させることができる。
【0039】
更に、炭素繊維集合体を形成する繊維の直径(断面が円形でない場合は、円換算直径)は、20μm以下であることが好ましい。かかる短径の繊維から成る炭素繊維集合体においては、繊維集合体中に浸透した物質が、繊維間を3次元拡散することが可能であり、電極反応性が向上する。
【0040】
平板状の電極表面が2次元的であるのに対して、炭素繊維は、繊維が編み込まれた状態であるため、電極表面が3次元的に入り組んでいる。そのため、炭素繊維電極によって与えられる電気化学反応場は、3次元的な拡がりを有している。
【0041】
同じく3次元的な拡がりを有する電気化学反応場を提供できる素材としては、炭素粒子の集合体が例示できる。
【0042】
しかし、炭素繊維集合体を炭素粒子集合体と比較した場合、炭素粒子集合体は粒子間の接触不良による抵抗の増加や、取り扱いの困難さ等の問題を生じるため、多くの用途において、炭素繊維集合体を好適に用いることができる。
【0043】
次に、本発明による炭素繊維集合体の製造方法の一例について説明する。
【0044】
本発明による炭素繊維集合体は、セルロース、ポリアクリロニトリル、ピッチ系などの炭素を含む繊維を用いて形成した織布又は不織布を、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1500℃以上で空気を遮断して焼成し、グラファイト質化して導電性を付与することによって得られる。
【0045】
本発明による炭素繊維集合体は、焼成後及び/又は焼成と再焼成との間に表面処理を施してもよい。該表面処理によって、比表面積を大幅に増加させることができる。
【0046】
上記表面処理としては、比表面積を増加させることができるものであれば用いることができるが、水を噴霧した繊維上にアルミナ及び/又は硝酸等を散布する方法が好適である。
【0047】
上記表面処理の後、更に焼成を行う場合は、800℃以上において行うことが好ましい。
【0048】
図3に、表面処理の効果を示すSEM写真を示した。
【0049】
図3において、(A)は、焼成と再焼成との間に表面処理を行っていない炭素繊維のSEM写真であり、(B)は、焼成と再焼成との間に、水を噴霧した繊維上にアルミナを散布した炭素繊維のSEM写真である。
【0050】
(B)に示される表面処理を施した繊維表面は、(A)に示される無処理の繊維表面に比べて、繊維表面がエッチングされて多孔性が増し、比表面積が増加していることがわかる。
【0051】
このようにして得られた炭素繊維集合体に、更に酸化処理等を施して、炭素電極の欠点であった水素あるいは酸素過電圧を向上させることも好ましい。
【0052】
本発明による炭素繊維集合体は、以下に示すような様々な用途での利用が可能であり、また、それぞれの用途において、有意な効果を与える。
【0053】
炭素繊維集合体の用途として、まず、微生物担持電極としての利用が挙げられる。
【0054】
炭素質は微生物との親和性が高く、例えば、微生物含有液に浸漬するだけで微生物を担持できる等の特性を有する。しかし、微生物は、細胞膜に覆われているため、細胞内代謝物を電極が直接酸化還元したり、又は代謝過程で生じる電子を電極が直接授受したりすることは困難である。そのため、従来の炭素電極を用いても十分な量の電極反応が起こらなかった。
【0055】
本発明による炭素繊維集合体は比表面積が大きいため、微生物を担持させた場合は、多量の微生物を担持することが可能である。
【0056】
更に、炭素繊維が3次元的に折りたたまれて互いに近接しているため、これに微生物を担持させた場合、微生物を繊維中に3次元的に近接、密集させることが可能である。
【0057】
本発明による、微生物を担持した炭素繊維集合体(以下、微生物担持炭素繊維集合体と呼ぶ。)を用いれば、微生物担持数が飛躍的に向上するため、細胞内代謝物を電極が直接酸化還元したり、又は代謝過程で生じる電子を電極が直接授受したりする反応量が大きく増加する。更に、微生物の密集により微生物間距離が短縮されるので、微生物間における電子移動も起こりやすく、炭素繊維中の微生物全体に電子移動が及ぶ。これらの結果として、十分な電極反応が進行するようになる。
【0058】
本発明において、電極と微生物間、及び微生物と微生物間における電子移動反応は、酸化還元活性物質や導電性分子ワイヤー等を電子メディエータとして用いることにより、更に促進させることが可能である。
【0059】
本発明による微生物担持炭素繊維集合体を、バイオリアクター用の電極として用いることも好ましい。この場合、炭素繊維集合体に微生物の培養に好ましい電位を印加することにより、担持微生物の培養を促進する効果が得られる。
【0060】
本発明による微生物担持炭素繊維集合体を、以下に説明するような電池兼電解装置の作用極として用いることも好ましい。
【0061】
以下、本発明の実施態様の一つである図4を挙げて上記電池兼電解装置をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
図4は、電池兼電解装置の単セル断面図である。
【0063】
図4において、1は作用極であり、微生物担持炭素繊維集合体から成る。また、ここに担持する微生物としては、例えば、硫黄酸化細菌、好気性の従属栄養細菌、メタン菌等が挙げられ、担持する菌は用途に応じて使い分けられる。
【0064】
微生物の担持方法としては、微生物処理液や発酵液等の微生物含有液に浸漬するだけで十分である。
【0065】
図4において、2は対極であり、本発明による炭素電極を用いてもよいし、ガス発生電極を用いることもでき、電極であれば何れでもよい。
【0066】
作用極と対極との間には、3に示されるセパレータが設けられ、セパレータ3としては、固体高分子型燃料電池に用いられるイオン交換膜や、孔径の小さい微多孔膜等を用いることができ、内部短絡を防ぐ点からイオン交換膜が好ましい。セパレータ3と電極とは、図に示すように圧着させてもよい。
【0067】
また、図4において、4は仕切板であり、グラファイト等で構成される。5は集電シートで金属製のものが好ましい。その外側には、押さえ板6が配置される。
【0068】
さらに、両極は、7から10に示す液体又は気体の流路に接続している。
【0069】
7及び8は、それぞれ作用極及び対極に供給される電池活物質、硫化水素等の被電解物質含有ガス又は液であり、それぞれ異なる酸化還元電位を有することが好ましく、作用極よりも対極に供される被電解物質の酸化還元電位が高くなるように構成されることがより好ましい。対極には空気(酸素)を供給してもよい。
【0070】
9及び10は、加湿用水溶液又は水である。また、実際に用いるときは、これら気液を電極に供給、排出、循環する手段と、電極に電圧を印加する外部回路を設けることになる。
【0071】
上述の電池兼電解装置及び方法を用いることにより、硫化水素処理(脱硫)、有機性排水処理、窒素除去処理等を有利に行うことができる。
【0072】
微生物処理を行う際、処理速度が遅いBOD成分、窒素成分に対しては電極電位を調整することで、処理を促進することができる。処理速度の大きい硫黄系化合物処理の場合でも、電極電位の調整でさらに速やかに処理を行うことができる。また、外部から電力を加えて脱硫反応を制御するだけでなく、この技術を電池反応として用いることによって、硫化水素燃料電池として電力を取り出すことができる。特に、処理速度の速い成分については、電力を外部に容易に取り出すことができる(燃料電池)。
【0073】
BOD成分の微生物による分解についても、速度論的に硫化水素より遅くはなるものの、硫化水素と同様に電池としても利用することが可能である。
【0074】
本発明は生物脱硫法などに関する一方法でもあるが、酸化側(貴側)に分極させた電極が酸化力を有し得るため、酸化力を酸素に依存する必要がない。そのため、被処理ガス中に空気等の酸化成分を事前に混入する必要がなく、注入のための手段(ポンプ、酸素濃度計、制御弁及び制御装置)を必要としない。被処理ガスがメタンなど可燃性ガスの場合、空気混入の不要は、安全性の点で特に意義が大きい。
【0075】
その他、電極電位を調節することによって反応選択性を持たせることができ、メタン菌群担持作用極に二酸化炭素を流通させることによって二酸化炭素をメタンに変換でき、回転円盤法などの難分解性有機物や高負荷有機物を含む水処理において、微生物担持電極を用いればさらに速やか、且つ、容易に処理を進めることができる。これらの処理においても、酸化側(貴側)に分極させた電極が、酸素に代わる酸化力を提供し得るため、酸素を必要とする好気性菌を好適に微生物処理に利用できる。特に水処理において、コスト高であった窒素処理が容易、且つ、経済的に行える。
【0076】
さらに、本発明による微生物担持炭素繊維集合体は、生物膜法の水処理装置における微生物担体としても好適に用いることができ、例えば、該微生物担体を酸化側(貴側)に分極させることにより、好気性菌による生物学的水処理を効率化できる。
【0077】
また、電池兼電解装置における作用極及び対極を、共に本発明による微生物担持炭素繊維集合体により形成してもよい。この場合、それぞれの極に異なる微生物を担持するようにして、異なる微生物処理を行うように構成してもよい。
【0078】
上述した電池兼電解装置では、微生物担持炭素繊維集合体を一方の極のみに用いる態様を示したが、本発明による微生物担持炭素繊維集合体は、電池兼電解装置の作用極及び対極の双方に用いてもよい。
【0079】
例えば、微生物担持炭素繊維集合体をバイオ燃料電池における双方の極に用いることも好ましい。この場合は、担持微生物から生成された代謝物を、電極が好適に酸化還元でき、更に、細胞内代謝物を電極が直接酸化還元することもできる。多くの場合、好気性菌の生物代謝反応は高い酸化還元電位状態で行われ、反対に、嫌気性菌の生物代謝反応は低い酸化還元電位状態で行われている。そのため、正極に好気性菌を、負極に嫌気性菌を担持させることも好ましい。
【0080】
本発明による炭素繊維集合体は、キャパシタとしての利用においても顕著な効果を示す。
【0081】
本発明による炭素繊維集合体は、比表面積が大きく、400m/g以上であるため、高性能なキャパシタとしても好適に用いることができる。
【0082】
更に、本発明による炭素繊維集合体に微生物を担持させ、これをキャパシタとして用いた場合は、炭素繊維集合体に蓄えられる電荷に加えて、微生物にも電荷が蓄えられるため、キャパシタとしての静電容量が増加する効果がある。特に本発明による炭素繊維集合体は広い比表面積(400m/g以上)を有し、多量の微生物を担持できるため、微生物による蓄電効果も大きい。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0084】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル(以下、PANと表す。)系炭素繊維フェルトを1350℃において空気を遮断して焼成し、次いで、水を噴霧した繊維上にアルミナを散布して表面処理し、600℃において再焼成し、見かけ密度0.45g/cmの炭素繊維集合体を得た。
【0085】
得られた炭素繊維集合体を以下に示す各試験に供し、物性及び電極性能の測定を行った。
【0086】
<ラマン分光分析法>
顕微ラマン分光分析装置(Jobin−Yvon製U−1000ラマンシステム)を用いて、炭素繊維集合体表面における、1590cm−1ピーク強度(P)と1350cm−1ピーク強度(P)を測定し、強度比(P/P)を算出した。
【0087】
<X線回折法>
X線回折測定装置(日本電子JDX−8030)を用いて、炭素繊維集合体表面におけるグラファイト結晶に由来する002回折ピークを観察し、その半値幅を算出した。
【0088】
<BET法>
炭素繊維集合体の比表面積を、窒素吸着によるBET法によって測定した。
【0089】
<クーロメトリー法>
ビーカーに採取した活性汚泥25mLに炭素繊維集合体電極を浸漬し、1g/Lのグルコース水溶液を10μL添加し、攪拌子により攪拌し、グルコースのクーロメトリーを行った。25℃において、グルコース酸化による電流値の経時変化を観察する試験を繰り返し行った。その結果から、電極による電子捕捉効率及び定量時間の平均値、及び、繰り返し定量における変動係数を得た。
【0090】
(比較例2)
PAN系炭素繊維フェルトを1200℃において空気を遮断して焼成し、次いで、水を噴霧した繊維上にアルミナを散布して表面処理し、600℃において再焼成し、見かけ密度0.47g/cmの炭素繊維集合体を得た。
【0091】
得られた炭素繊維集合体を比較例1と同様の試験に供し、物性及び電極性能の測定を行った。
【0092】
(実施例1)
PAN系炭素繊維フェルトを1350℃において空気を遮断して焼成し、次いで、水を噴霧した繊維上にアルミナを散布して表面処理し、800℃において再焼成し、見かけ密度0.42g/cmの炭素繊維集合体を得た。
【0093】
得られた炭素繊維集合体を比較例1と同様の試験に供し、物性及び電極性能の測定を行った。
【0094】
(実施例2)
PAN系炭素繊維フェルトを1350℃において空気を遮断して焼成し、次いで、水を噴霧した繊維上にアルミナを散布して表面処理し、1000℃において再焼成し、見かけ密度0.40g/cmの炭素繊維集合体を得た。
【0095】
得られた炭素繊維集合体を比較例1と同様の試験に供し、物性及び電極性能の測定を行った。
【0096】
比較例1、2、及び実施例1、2の炭素繊維集合体について、ラマンピーク強度比による物性及び電極性能評価を表1に、X線回折半値幅による物性及び電極性能評価を表2に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
(比較例3)
比較例1と同様の炭素繊維集合体に、それぞれジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を含浸させ、図5に示すようなキャパシタの正負極として用いた。
【0100】
図5において、かかる2つの炭素繊維集合体11間には、微多孔膜(PVDF)12が挟持され、更に、各炭素繊維集合体の両外側には、それぞれ集電シート(SUS316)13が図中矢印方向に押圧され(約10kg/cm)、圧着される。
【0101】
キャパシタンスメータを用いて、静電容量測定を行ったところ、炭素繊維集合体の静電容量は0.01μF/cmであった。
【0102】
(実施例3)
実施例1と同様の炭素繊維集合体を用いること以外は、比較例3と同様の方法により静電容量測定を行ったところ、静電容量は0.5μF/cmであった。
【0103】
(実施例4)
実施例2と同様の炭素繊維集合体を用いること以外は、比較例3と同様の方法により静電容量測定を行ったところ、静電容量は1.5μF/cmであった。
【0104】
<評価>
表1及び表2に示した結果において、繰り返し分析の変動係数に着目した場合、実施例2による炭素繊維集合体が低い値を示し、安定な電極性能を有することが分かる。
【0105】
また、比較例3と比較して、実施例3及び実施例4の炭素繊維集合体が高い静電容量を有することが分かる。特に、実施例4の炭素繊維集合体の静電容量が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0106】
1:作用極
2:対極
3:セパレータ
4:仕切板
5:集電シート
6:押さえ板
11:炭素繊維集合体
12:微多孔膜
13:集電シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光スペクトルにおける1590cm−1ピーク強度(P)と1350cm−1ピーク強度(P)の比(P/P)が0.85以上であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極。
【請求項2】
X線回折ピークにおける002回折ピークの半値幅が2.8°以下であって、窒素ガスを用いるBET比表面積が400m/g以上の炭素繊維集合体から成ることを特徴とする炭素電極。
【請求項3】
炭素繊維集合体の表面に微生物を担持して成る請求項1又は2記載の炭素電極。
【請求項4】
バイオリアクター用電極として用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。
【請求項5】
バイオ燃料電池における一方の極又は双方の極に用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。
【請求項6】
キャパシタとして用いられる請求項1〜3の何れかに記載の炭素電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−49067(P2011−49067A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197223(P2009−197223)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【出願人】(502152126)学校法人智香寺学園 (10)
【Fターム(参考)】