説明

炭素顔料を含有する腐食抵抗性コーティング

【課題】有効腐食抑制量の炭素顔料を含むコーティング組成物を提供する。
【解決手段】一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、生成するコーティング膜の腐食抵抗性を高めるために、中性ないし弱酸性を生じる増量剤および酸性を生じる増量剤、希土類化合物、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、ゼラチンおよびゼラチン誘導体、有機系交換樹脂、およびそれらの組み合わせを含む増量剤など、その他の成分をさらに含む。一つの実施態様では、炭素顔料は表面改質炭素顔料である。コーティング組成物は、アルミニウムおよびアルミニウム合金を含む金属などの基板に対する良好な接着性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、腐食抵抗性コーティングに関する。詳しくは、本発明は、炭素を含有する腐食抵抗性コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
コーティングは、数多くの理由によって使用される。一般に、工場では電化製品、自動車、航空機および類似物などの所定の基板または製品に、製品コーティングまたは産業コーティングが塗布される。一般に、航空機産業を含む多くの産業は、腐食保護および改善された性能の両方を提供するコーティングシステムを使用する。
【0003】
金属基板の腐食抵抗性を高めるために、一般に、基板に塗布するコーティング中に腐食抑制顔料または添加剤が用いられる。通常の腐食抑制顔料は、優れた腐食抵抗性を提供するクロム酸ストロンチウムである。しかし、クロム酸塩類は毒性が強く発癌性であることが知られるにつれ、近年、クロム酸塩類の使用に対して広範な懸念が生じた。さらに、地方自治体および政府の規制がより厳しくなるにつれ、クロム酸塩物質の処分はますます難しくなりつつある。
【0004】
その結果、環境的に許容可能な腐食抑制顔料または添加剤を用いることによって、腐食抑制コーティングを製造する試みがなされた。しかし、これらのコーティングは、用いられる顔料または添加剤が塗料と適合しない、あるいは塗料を基板から剥離させてしまう点で問題が多い。いくつかは、実際には腐食プロセスを加速することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、効果的であるが、クロム酸塩類を使用しない腐食抵抗コーティングを提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
要約
有効腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料を含むコーティング組成物が提供される。一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、生成するコーティング膜の腐食抵抗性を高めるために、一つ以上の弱酸性を生じる増量剤(例えば、金属硫酸塩、リン酸塩等)、希土類化合物(例えば、酸化物、酸化物固溶体およびそれらの混合物、塩、希土類錯体および類似物)、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、ゼラチンおよびゼラチン誘導体、有機系交換樹脂、およびそれらの組み合わせと組み合わされる。一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である。
【0007】
本発明はさらにコーティングシステムを提供する。一つの実施態様では、前処理基板を作製するために基板に塗布した一つ以上の前処理コーティングと、前処理した基板に塗布する有効腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料とを含むコーティングシステムが提供される。一つの実施態様では、前処理コーティングはない。一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である。別の実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤と組み合わされる。他の実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、当分野において知られている任意の種類の増量剤と組み合わされる。一つの実施態様では、コーティングシステムは、トップコートを含む。一つの実施態様では、コーティングシステムは、樹脂コーティングである。一つの実施態様では、コーティングシステムは、UVコーティングシステム、電解コーティング(e−コーティング)システム、アップリケ、粉体コーティングシステムおよびマイクロ波コーティングシステムからなる群から選ばれる。一つの実施態様では、基板は、アルミニウムおよびアルミニウム合金、無被覆鋼および亜鉛メッキ鋼、亜鉛、亜鉛合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金、銅および青銅からなる群から選ばれる金属基板である。
【0008】
本発明は、さらに、塗料調合物を調製する工程と、コーティング組成物を製造するために塗料調合物に有効腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料を加える工程とを含むコーティング組成物を調製する方法を提供する。一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である。一つの実施態様では、この方法は、分散剤を用いて腐食抑制炭素顔料を予め分散させる工程をさらに含む。
【0009】
本発明は、さらに、塗布される基板を提供する工程と、有効腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料を有するコーティング組成物を基板に塗布する工程とを含むコーティング組成物を用いる方法を提供する。一つの実施態様では、コーティングは、スプレー塗布、ブラシ塗布、ローラー塗布および浸漬塗布を含むが、それらに限定されない任意の従来法によって塗布される。一つの実施態様では、この方法は、トップコートを塗布する工程をさらに含む。
【0010】
本明細書で説明するコーティング組成物は、許容できるレベルの塗料接着性を維持しながら、優れた腐食抵抗性能を有する。本コーティング組成物は、航空宇宙および航空機産業を含むが、それらに限定されない多くの産業で有用である。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料、および
バインダ
を含む、コーティング組成物。
(項目2)
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料、および
一つ以上の中性ないし弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤
を含む、コーティング組成物。
(項目3)
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料、および
アミノ酸
を含む、コーティング組成物。
(項目4)
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料、および
少なくとも一つの希土類化合物
を含む、コーティング組成物。
(項目5)
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料、
少なくとも一つの弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤、および
少なくとも一つの希土類化合物
を含む、コーティング組成物。
(項目6)
バインダ、
一つ以上の腐食抑制炭素顔料、および
一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤
を含む、コーティング組成物。
(項目7)
バインダ、
表面改質した腐食抑制炭素顔料、および
一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤
を含む、コーティング組成物。
(項目8)
バインダ、
腐食抑制炭素顔料、
一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤、および
少なくとも一つは希土類化合物である一つ以上の腐食補助抑制剤
を含む腐食抑制性組成物。
(項目9)
バインダ、
腐食抑制炭素顔料、および
少なくとも一つは希土類化合物である一つ以上の腐食補助抑制剤
を含む、コーティング組成物。
(項目10)
バインダ、
腐食抑制炭素顔料、および
増量剤
を含む、コーティング組成物。
(項目11)
前記腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目12)
前記表面改質した腐食抑制炭素顔料は、無機分散カーボンブラックである、項目7または11に記載のコーティング組成物。
(項目13)
前記表面改質した腐食抑制炭素顔料は、樹脂分散カーボンブラックまたは界面活性剤分散カーボンブラックである、項目7または11に記載のコーティング組成物。
(項目14)
前記腐食抑制炭素顔料は、導電性炭素顔料または非導電性炭素顔料である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目15)
前記腐食抑制炭素顔料は、アセチレンブラック、ガスブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、骨炭およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目16)
前記腐食抑制炭素顔料は、炭素の元素形である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目17)
前記腐食抑制炭素顔料は、炭素の非晶質形である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目18)
前記腐食抑制炭素顔料は、炭素含有混合物である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目19)
前記腐食抑制炭素顔料は、炭素含有混合物である、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目20)
前記コーティング組成物は、約5〜約55の間の顔料体積濃度を有する、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目21)
バインダをさらに含む、項目1〜5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目22)
前記バインダは、有機バインダである、項目6〜10、または21のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目23)
前記バインダは、無機バインダである、項目6〜10、または21のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目24)
前記バインダは、エポキシ系樹脂バインダである、項目22に記載のコーティング組成物。
(項目25)
前記エポキシ系樹脂バインダは、アミン硬化したエポキシ系樹脂バインダである、項目24に記載のコーティング組成物。
(項目26)
前記エポキシ系樹脂バインダは、水希釈系エポキシ−ポリアミドシステムである、項目24に記載のコーティング組成物。
(項目27)
前記バインダは、非エポキシ系樹脂バインダである、項目22または23に記載のコーティング組成物。
(項目28)
前記非エポキシ系樹脂バインダは、ウレタン、尿素、アクリレート、アルキド、メラミン、ポリエステル、ビニル、ビニルエステル、シリコーン、シロキサン、ケイ酸塩、スルフィド、スルホン、エポキシノビラック、エポキシフェノール、乾性油、炭化水素の各重合体およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目27に記載のコーティング組成物。
(項目29)
一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤をさらに含む、項目1、または3〜5、または9に記載のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目30)
前記一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤の少なくとも一つは、硫黄、リンまたはケイ素オキシアニオン含有化合物である、項目2、または6〜8、または29に記載のコーティング組成物。
(項目31)
前記硫黄、リンまたはケイ素オキシアニオン含有化合物は、金属陽イオン硫酸塩、金属陽イオン亜硫酸塩、金属陽イオンスルホン酸塩、金属陽イオンプロトン化リン酸塩、陽イオンリン酸塩、金属陽イオン亜ホスホン酸塩、オキシリン酸塩、粘土鉱物カオリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目30に記載のコーティング組成物。
(項目32)
前記一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤の少なくとも一つは、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目2、または6〜8、または29に記載のコーティング組成物。
(項目33)
前記硫黄、リンまたはケイ素オキシアニオン含有化合物は、硫黄、リンまたはケイ素オキシアニオン含有塩である、項目30に記載のコーティング組成物。
(項目34)
前記一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤の少なくとも一つは、硫酸塩である、項目2、または6〜8、あるいは29のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目35)
前記硫酸塩は、金属硫酸塩である、項目34に記載のコーティング組成物。
(項目36)
前記金属硫酸塩は、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目35に記載のコーティング組成物。
(項目37)
前記一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または一つ以上の酸性を生じる増量剤の少なくとも一つは、リン酸塩である、項目2、または6〜8、あるいは29のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目38)
前記一つ以上の中性ないし弱酸性増量剤の少なくとも一つは、プロトン化リン酸カルシウムである、項目2、または6〜8、あるいは29のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目39)
前記一つ以上の中性ないし弱酸性増量剤は、約45%〜約75%の間の重量パーセントで加えられる、項目6〜8、または29のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目40)
前記増量剤は、可溶性である、項目10に記載のコーティング組成物。
(項目41)
一つ以上の腐食補助抑制剤をさらに含む、項目1〜7、または10、あるいは40のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目42)
前記一つ以上の腐食補助抑制剤の少なくとも一つは、希土類化合物である、項目40に記載のコーティング組成物。
(項目43)
前記希土類化合物は、希土類含有化合物の塩、希土類含有化合物の水酸化物、希土類含有化合物の酸化物またはそれらの組み合わせである、項目42に記載のコーティング組成物。
(項目43)
前記希土類化合物は、酸化セリウム、水酸化セリウム、セリウム固溶体混合酸化物、酸化セリウム混合物、セリウム塩、酸化ネオジム、ネオジム水酸化物、ネオジム固溶体混合酸化物、酸化ネオジム混合物、ネオジム塩、酸化プラセオジム、水酸化プラセオジム、プラセオジム固溶体混合酸化物、酸化プラセオジム混合物、プラセオジム塩、酸化イッテルビウム、水酸化イッテルビウム、イッテルビウム固溶体混合酸化物、酸化イッテルビウム混合物、イッテルビウム塩、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、イットリウム固溶体混合酸化物、酸化イットリウム混合物、イットリウム塩、酸化テルビウム、水酸化テルビウム、テルビウム固溶体混合酸化物、酸化テルビウム混合物、テルビウム塩およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる、項目41に記載のコーティング組成物。
(項目44)
前記希土類化合物は、プラセオジム混合酸化物、プラセオジム(III)酸化物、プラセオジム(III)水酸化物、プラセオジム(IV)酸化物およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれるプラセオジム化合物である、項目41に記載のコーティング組成物。
(項目45)
前記希土類化合物は、プラセオジム(III/IV)化合物である、項目41に記載のコーティング組成物。
(項目46)
前記希土類化合物は、プラセオジム(III)硫酸塩またはプラセオジム(III/IV)酸化物である、項目41に記載のコーティング組成物。
(項目47)
前記腐食抑制炭素顔料は、約0.1〜約100%の重量パーセント範囲で加えられる、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目48)
前記腐食抑制炭素顔料は、約3〜約25%の重量パーセント範囲で加えられる、項目1〜5、または8〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
(項目49)
前記一つ以上の腐食抑制炭素顔料の少なくとも一つは、結晶性炭素である、項目6に記載のコーティング組成物。
(項目50)
少なくとも二つの補助抑制剤を含む、項目8または9に記載のコーティング組成物。
(項目51)
前処理基板に塗布した腐食抑制炭素顔料を有効な腐食抑制量含むコーティング
を含むコーティングシステム。
(項目52)
トップコートと、基板に塗布され前処理基板を形成する一つ以上の前処理コーティングとをさらに含む、項目51に記載のコーティングシステム。
(項目53)
基板に塗布され前処理基板を形成する一つ以上の前処理コーティング、および
弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤と組み合わせた腐食抑制炭素顔料を有効な腐食抑制性量含むコーティングであって、前記前処理基板に塗布されるコーティングを含むコーティングシステム。
(項目54)
基板に塗布され前処理基板を形成する一つ以上の前処理コーティング、および
少なくとも一つの希土類化合物と組み合わせた腐食抑制炭素顔料を有効な腐食抑制量含むコーティングであって、前記前処理基板に塗布されるコーティング
を含むコーティングシステム。
(項目55)
基板に塗布され前処理基板を形成する一つ以上の前処理コーティング、および
増量剤、一つ以上の希土類化合物、一つ以上の添加剤およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる材料と組み合わせた腐食抑制炭素顔料を有効な腐食抑制量含むコーティングであって、前記前処理基板に塗布されるコーティング
を含むコーティングシステム。
(項目56)
前記腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である、項目51〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目57)
トップコートをさらに含む、項目51〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目58)
前記トップコートは、ウレタントップコートである、項目57に記載のコーティングシステム。
(項目59)
前記コーティングシステムは、樹脂システムである、項目51〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目60)
前記コーティングシステムは、UVコーティングシステム、電解コーティングシステム、アップリケ、粉体コーティングシステムおよびマイクロ波コーティングシステムからなる群から選ばれる、項目51〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目61)
前記前処理基板は、スプレー塗布、ブラシ塗布、ローラー塗布および浸漬塗布からなる群から選ばれる方法によって被覆される、項目51〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目62)
前記基板は、コンポジット基板である、項目52〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目63)
前記基板は、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼、亜鉛メッキ鋼、亜鉛、亜鉛合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金からなる群から選ばれる、項目52〜55のいずれか1項に記載のコーティングシステム。
(項目64)
塗料調合物を調製する工程、および
コーティング組成物を製造するために有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料を塗料調合物に添加する工程
を含む、コーティング組成物を調製する方法。
(項目65)
分散剤を用いて前記腐食抑制炭素顔料を予め分散させる工程をさらに含む、項目64に記載の方法。
(項目66)
前記腐食抑制炭素顔料は、表面改質した腐食抑制炭素顔料である、項目64または65に記載の方法。
(項目67)
酸性増量剤、中性増量剤、一つ以上の希土類化合物、一つ以上の添加剤およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる材料を前記塗料調合物に添加する工程をさらに含む、項目64〜66のいずれか1項に記載の方法。
(項目68)
コーティングされる基板を準備する工程、および
有効な腐食抑制量の腐食抑制炭素顔料を有するコーティング組成物を前記基板にコーティングする工程
を包含する、方法。
(項目69)
前記コーティング組成物は、増量剤、一つ以上の希土類化合物、一つ以上の添加剤およびそれらの組み合わせからなる群から選ばれる材料をさらに含む、項目53に記載の方法。
(項目70)
前記増量剤は、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤である、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記基板は前処理基板である、項目69または70に記載の方法。
(項目72)
前記前処理基板は、スプレー塗布、ブラシ塗布、ローラー塗布および浸漬塗布からなる群から選ばれる方法によって被覆される、項目69〜71のいずれか1項に記載の方法。
(項目73)
ウレタントップコートを塗布する工程をさらに含む、項目69〜72のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施態様の詳細な説明
以下の詳細な説明では、当業者が本発明を実施することができるように、十分詳細に実施態様を説明する。その他の実施態様を利用してもよく、本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく構造、論理およびその他の変化を施してもよい。従って、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではない。以下の詳細な説明は、用語に関するセクションで始まり、炭素に関する概論および本発明のさまざまな実施態様の説明がそれに続く。その後で一連の実施例を提示し、それから短い結論を示す。
【0012】
用語
本明細書で用いられる用語「基板」は、固有の性質を提供するために清浄にし、および/または保護し、および/または改質することができる表面を有する構造物を指す。腐食抑制コーティングを塗布することについては、そのような基板は一般に金属であるが、「基板」はいかなる特定の種類の物質にも限定されない。しかし、腐食抑制コーティングは、重合体基板(例えば被覆金属基板)などのその他の基板に塗布してもよい。腐食抑制コーティングは、炭素繊維およびエポキシ樹脂で作られた基板などのコンポジット基板に塗布してもよい。コンポジット基板は腐食しないが、それでも、コーティングは基板材料と適合しなければならない制約はあるものの、表面保護および/またはその他の固有の性質を基板に提供するために、コンポジット基板で腐食抑制コーティングを用いてもよい。いくつかの場合には、基板の主な部分はコンポジット材料から作られ、従って腐食からの保護を必要としないが、所望のコーティング区域内の他の金属表面、例えば金属リベットの存在のために、腐食抑制コーティングの使用が必要である。
【0013】
本明細書で用いられる用語「化成皮膜被覆基質」は、ほとんどの場合、同じ元素を有する金属基質と接触する水溶液を指す。化成皮膜は、沈殿が起こるように電子移動を開始させる外部推進力によって金属基板上に析出する。外部推進力は電流であってよく、あるいは電流は基板それ自体によって発生してよい。基本的に、コーティングと金属表面との間の接触によって金属表面は異なる物質、例えば酸化物からリン酸塩に変換され、結果として基板金属から沈澱した陽イオンはコーティングそれ自体の一部になる。化成皮膜を使用すると、その後の重合物質(例えば、塗料、シーラント等)の金属基板への密着性が改善され、腐食に対する金属基板の短期抵抗(すなわち2週間以下)も改善することが知られている。さらに、当業者は、多くの場合に異種元素の金属基板と接触する水溶液を化成皮膜と呼び、そのようなコーティングはこの定義の範囲に含まれると考えられる。これらのコーティングは、外部推進力によって析出させることができるが、それは必須要件ではない。これらの種類のコーティングでは、基板は溶解し、コーティングの沈殿を生成する。例えばクロム、鉄または希土類イオンを含む溶液は、アルミニウムまたは鋼を溶解し、クロム、鉄または希土類イオンをそれぞれ沈澱させて化合物を形成させ、こうなるとコーティングは基板と共通の元素を含むことが知られている。
【0014】
本明細書で用いられる用語「イオン交換樹脂」は、局所環境中の同じ電荷を有するイオンを、樹脂マトリックス中に組み込まれた類似の電荷を有するイオンと交換することができる有機系樹脂を意味する。一般的に、「イオン交換樹脂」は添加剤の一種とみなされる。
【0015】
本明細書で用いられる用語「重合体樹脂」は、液体重合物質中に抑制剤を組み込むために用いられる有機系重合体を意味する。一般に、「重合体樹脂」はバインダの一種とみなされる。
【0016】
本明細書で用いられる用語「前処理」は、その後のプロセス操作のために基板を改善する任意の基板の表面改質を意味する。そのような表面改質は、当分野で知られているように、洗浄(表面から不純物および/または塵埃を除去するため)および/または一層以上のコーティングの塗布を含むがそれらに限定されない一つ以上の操作を含んでよい。前処理には、前処理した基板へのその後のコーティングの改善された接着強さなど多くの利益がある。腐食抵抗性が望ましい用途では、前処理する基板の性質に従って、前処理コーティングは少なくとも一つの腐食抑制剤を含んでよい。化成皮膜は、前処理の一つの種類である。
【0017】
本明細書で用いられる用語「バインダ」は、コーティングを作製するために用いることができる任意の膜形成重合体材料を指す。重合体物質は、有機物でも無機物でもよい。有機バインダは、炭素主鎖を有し、無機バインダは、大体において、シリコーン主鎖を有する。有機バインダは、有機モノマーおよびオリゴマーから製造され、バインダの名称は、大体において有機モノマーおよびオリゴマーから派生する。これらの例は、アクリル、エポキシ、ウレタン、メラミンおよびその他である。バインダは、水希釈系エポキシ−ポリアミドシステムなどのエポキシ系樹脂バインダ(有機重合物質用)、あるいはウレタン、尿素、アクリレート、アルキド、メラミン、ポリエステル、ビニル、ビニルエステル、シリコーン、シロキサン、ケイ酸塩、スルフィド、スルホン、エポキシノビラック、エポキシフェノール、乾性油、炭化水素重合体および類似物などの非エポキシ系樹脂バインダを含む。
【0018】
本明細書で用いられる用語「塗料」は、バインダ(上記で参照した)、一般に少なくとも一つの顔料(本明細書で参照する)、一般に少なくとも一つの溶媒または溶媒の混合物、および硬化剤の混合物を意味する。オプションとして、一つ以上の添加剤を含んでよい。塗料は、湿った状態または「十分に硬化していない」状態で基板に塗布され、自然に、または加速手段(例えば、UV硬化システム)によって時間とともに乾燥(すなわち、溶媒が蒸発)し膜または「硬化」塗料を形成する。塗料は、プライマ層(すなわち、プライマコーティングであり、自己プライマトップコートを含むものとする)、中間層(すなわち塗料層)および/またはトップコート層(すなわちトップコート)として基板に塗布してよい。塗料は、接着膜またはアップリケなどの傷のないフィルムとして塗布してよい。
【0019】
本明細書で用いられる用語「シーラント」は、必ずしも顔料を含まない重合体物質を意味する。
【0020】
本明細書で用いられる用語「水系」または「水希釈系」は、溶媒、すなわち媒質の大部分またはすべてが水である塗料を意味する。
【0021】
本明細書で用いられる用語「溶媒系」は、溶媒/媒質の大部分またはすべてが有機溶媒である塗料を意味する。
【0022】
本明細書で用いられる用語「コーティング」は、重合体膜を形成するために液体(例えば塗料)としても固体(例えば粉体)としても基板に塗布することができる重合体物質(有機または無機)を指す。そのような重合体物質は、粉体コーティング、塗料、シーラント、導電性重合体、ゾルゲル(例えば、イリノイ州シカゴ(Chicago,Illinois)に事業所を有するボーイング社(Boeing Co.)製のボーゲルTM(BoegelTM))、ケイ酸塩、シリコーン、ジルコン酸塩、チタン酸塩および類似物を含むが、それらに限定されない。「コーティング」は、バインダ、溶媒、顔料および添加剤の複雑な混合物で構成される。多くのコーティングは、これらの4つの範疇のそれぞれからの一つ以上の物質を有する。光沢および色などのコーティングの性質は、膜の表面、すなわち二次元の実体としての膜の表面に関連する。しかし、コーティングのバルクの性質は、その三次元構造に関連する。相連続性は、体積概念であり、コーティングの性能は、バインダ相の整合性に依存する。
【0023】
本明細書で用いられる用語「トップコート」は、有機系または無機系重合体または重合体のブレンドであってよいバインダ(単数または複数)と、一般に少なくとも一つの顔料との混合物を指し、オプションとして少なくとも一つの溶媒または溶媒の混合物を含んでよく、オプションとして少なくとも一つの硬化剤を含んでよい。一般に、トップコートは、単層または多層コーティングシステム中の、外表面が大気または環境に露出し、内表面が別のコーティング層または重合体基板と接触しているコーティング層である。
【0024】
本明細書で用いられる用語「自己プライマトップコート」は、本明細書で「直接基板コーティング」とも呼ばれるが、有機系または無機系重合体または重合体のブレンドであってよいバインダ(単数または複数)と、一般に少なくとも一つの顔料との混合物を指し、オプションとして少なくとも一つの溶媒または溶媒の混合物を含んでよく、オプションとして少なくとも一つの硬化剤を含んでよい。一般に、自己プライマトップコートは、基板に直接塗布される。オプションとして、自己プライマトップコートは、プライマまたは塗料膜などの有機または無機重合体コーティングに塗布してよい。一般に、自己プライマトップコートは、単層または多層コーティングシステム中のコーティング層であり、このコーティングの外表面は大気または環境に露出し、一般にこのコーティングの内表面は基板またはオプションの重合体コーティングまたはプライマと接触している。
【0025】
本明細書で用いられる用語「強化自己プライマトップコート」は、本明細書で「強化直接基板コーティング」とも呼ばれるが、単体で、あるいは有機系または無機系重合体または重合体のブレンドであってよい他のバインダ(単数または複数)と併せた一部としてのフルオロエチレン−アルキルビニルエーテルなどの官能化フッ素化バインダと、一般に少なくとも一つの顔料との混合物を指し、オプションとして少なくとも一つの溶媒または溶媒の混合物を含んでよく、オプションとして少なくとも一つの硬化剤を含んでよい。一般に、強化自己プライマトップコートは、基板に直接塗布される。強化自己プライマ化トップコートは、オプションとしてプライマまたは塗料膜などの有機または無機重合体コーティングに塗布してよい。一般に、強化自己プライマ化トップコートは、単層または多層コーティングシステム中のコーティング層であり、このコーティングの外表面は大気または環境に露出され、一般にこのコーティングの内表面は基板またはオプションの重合体コーティングまたはプライマと接触している。
「0026」トップコート、自己プライマトップコート、および強化自己プライマトップコートは、時間とともに乾燥または硬化、すなわち溶媒が蒸発するウェットまたは「十分に硬化していない」状態で基板に塗布してよい。コーティングは、膜または「硬化した」塗料を作製するために、自然にまたは加速手段、例えば紫外線硬化システムによって乾燥してよい。コーティングは、接着剤などの半硬化状態または十分硬化した状態で塗布してもよい。
【0026】
本明細書で用いられる用語「塗料調合物」、「プライマ調合物」、「トップコート調合物」、「自己プライマトップコート調合物」および「強化自己プライマトップコート調合物」は、一連の原料および/または成分を指し、コーティング組成物を製造するために原料および/または成分を調製し混合する一連の手順を含んでもよい。
【0027】
本明細書で用いられる用語「練り顔料」、「練り顔料調合物」、「プライマ練り顔料」、「トップコート練り顔料」および「基材」、「基材調合物」または「プライマ基材」、「トップコート基材」、「自己プライマトップコート基材」および「強化直接基板基材」は、コーティング組成物ならびにいくつかの添加剤の顔料組成物のすべてではないにしても、大部分を構成する塗料調合物の部分または成分を指す。
【0028】
当分野において知られていているように、以下に示す成分の多くは多機能であり、そのため、特定の用途に従って添加剤および/または顔料であると適切にみなされる。
【0029】
本明細書で用いられる用語「顔料」は、材料が硬化するにつれて最終的なコーティング中に組み込まれ、生成する最終的なコーティングに体積を提供する、重合物質と混合される固体粒子を指す。顔料は、ほとんどの場合着色剤であるが、本明細書では、増量剤、腐食抑制顔料、艶消し剤(添加剤としても用い得る)その他を含むともみなされる。顔料は、色および不透明さを付与する他に、さまざまなコーティング特性に影響することがある。最終的な膜の中では、顔料は不連続相を構成し、バインダは連続相を形成する。「顔料」は、伝統的に可溶性物質だけを含むとみなされるが、本明細書では、顔料はより広義に、硫酸カルシウム、石膏、硫酸ストロンチウム、硫酸マグネシウムおよび類似物などの様々な溶解度の固体を含むものとする。コーティング中の顔料比率は、一般的に、顔料対バインダ(P/B)比または顔料体積濃度(PVC)のどちらかとして表される。
【0030】
本明細書で用いられる用語「P/B」は、不揮発性バインダの重量(B)に対する顔料(増量剤を含む)の重量(P)の比を指す。顔料対バインダ比は、同じ顔料−バインダシステムを比較するときに適する。顔料は、バインダよりはるかに重いので、この重量比は体積による膜組成の現実的な印象を与えない。同じP/B比で、軽い顔料は重い顔料より多くの顔料粒子を意味する。
【0031】
本明細書で用いられる用語「PVC」は、最終的な膜の中の全不揮発物質、すなわち顔料およびバインダの体積に対する顔料(増量剤を含む)の体積の比を指す。通常、この数字は百分率として表される。PVCは、コーティング中の顔料比率を記述する最も普及している方法である。PVCは、膜中の気泡の体積の比率を考慮しない。PVCが増大するとともに、最終的な膜の中のバインダ体積は減少し続ける。PVCはコーティング組成物の性質に影響し、連続相を維持するためにちょうど十分なバインダしかない点に近づくほどその傾向を強める。この点は、臨界顔料体積濃度(臨界PVCまたはCPVC)と呼ばれる。CPVCを超えると、顔料粒子間の空隙を充てんする十分なバインダがなく、バインダ相は不連続になり、コーティング中に気泡が生じる。コーティングの性質はCPVCの前後で急激に変わる。CPVCを超えると、例えば光沢、エナメル持続性、接着性、水膨れ、腐食抵抗性などの性質、および引張強度などの力学的性質は低下するが、CPVCより上では、空げき率、錆び、乾燥隠ぺい力および汚染感受性は増大する。従って、総体的に、コーティングはCPVCレベルより下で調合される。
【0032】
本明細書で用いられる用語「添加剤」は、硬化した膜の一つ以上の性質に影響を及ぼす目的で、重合物質と混合される固体または液体成分を指す。例えば、当分野において知られていているように、界面活性剤などの添加剤は、顔料を濡らす助けとなる。その他の添加剤が、粗い表面または滑らかな表面などの特定の表面特性の開発で助けとなることがある。添加剤の例は、界面活性剤、ケイ素艶消し剤(上記で「顔料」の定義でも記した)、染料、アミノ酸および類似物を含む。いくつかの場合には、増量剤または顔料は着色添加剤として用いられる。
【0033】
本明細書で用いられる用語「炭素顔料」は、元素状炭素または炭素含有混合物のどちらであってもよい非常に多様な炭素を指すものとする。元素状炭素に関しては、炭素顔料は、結晶性(例えば、黒鉛)、非晶質、部分結晶性または非晶質、すなわち準黒鉛形、「フラーレン」および炭素の任意のその他の形などの多くの形であってよい。(無定形炭素は、多くの場合細かく分割された黒鉛または準黒鉛物質と考えられることに注意する)。本明細書で参照する「炭素顔料」は、必ずしも大部分炭素であるというわけではない。例えば骨炭、すなわち骨灰は、実際には約10%の炭素しか含まない炭素混合物で、残りの部分はリン酸カルシウムである。しかし、いくつかの例では、当業者は、カーボンブラックを活性炭、獣炭、ノーリットTM(NoritTM)(ジョージア州アトランタ(Atlanta,Georgia)に事業所を有するノーリットアメリカズ社(Norit Americas Inc.)製)およびウルトラカーボンTM(UltracarbonTM)(ドイツのナイデルンハウゼ(Neidernhause,Germany)のウルトラカルボン(Ultracarbon)製)および類似物などの他の用語と同一視してきたことに注意し、本明細書の「カーボンブラック」へのいかなる参照も、いかなる特定の種類の物質に限定されるものではないものとする。さまざまな炭素顔料は、固有の特性を最終製品に与えるさまざまな既知の製法によって作られる。炭素顔料がすべて腐食抑制炭素顔料であるわけではないこともさらに理解される。
【0034】
本明細書で用いられる用語「腐食抑制炭素顔料」は、炭素顔料を含む組成物の腐食抵抗性を、同様に調合した炭素顔料を含まないコーティング組成物と比較して、高める炭素顔料の有効量である。
【0035】
本明細書で用いられる用語「骨炭」は、炭化骨で作られる炭素顔料を指す。骨炭は「骨灰」および「アイボリーブラック」とも呼ばれる。
【0036】
本明細書で用いられる用語「カーボンブラック」は、重質石油留分および残渣油、コールタール製品、天然ガスおよびアセチレンなどの炭化水素混合物の熱分解によって製造される炭素の形を含む炭素顔料を指す。当業者に知られているように、一般的に、カーボンブラックは、製造されるプロセスに従って、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックまたはサーマルブラックおよびそれらの表面改質変化形として分類される。カーボンブラックの種類は、一次粒子のサイズ分布、一次粒子の凝集および凝隗の程度ならびに表面に吸着されているさまざまな化学物質によって特徴づけることができる。いくつかの商業生産されているカーボンブラックの平均一次粒子直径は、約10nm〜約400nmの間の範囲であるが、平均凝集体直径は約100nm〜約800nmの間の範囲である。「炭素顔料」定義で考察したように、用語カーボンブラックは、炭素の他の形と同一視してもよい。
【0037】
本明細書で用いられる用語「表面修飾炭素顔料」は、凝集、空げき率、粒子サイズ、表面積、表面化学、物理的形態およびサイズ分布などの特性に差異を生じさせるために修飾した加工炭素顔料を指す。これらの化学的および物理的性質は表面反応性に影響し、特定のコーティング用途のための所望の性質を実現するために変化させることができる。
【0038】
本明細書で用いられる用語「触媒」または「硬化剤」は、適切な練り顔料と混合されたとき、硬化機構を開始させることを目的とする添加剤を指す。
【0039】
本明細書で用いられる用語「増量剤」または「増量顔料」は、コストを減らすためなどの他の理由で加えられることもあるが、注釈なしで用いられるときには、塗料硬化後に最終的に生成するコーティングの体積を増加させるために一般に塗料調合物中に加えられる顔料の一種類を指す。さらに、またはあるいは、増量剤は、システム全体をより腐食抵抗性にする上で活性成分のことがある。体積を増加させる増量剤は、多くの場合「充填剤」または「増量/充填剤」と呼ばれる。
【0040】
本明細書で用いられる用語「弱酸性を生じる増量剤」、すなわち「中性ないし弱酸性発生添加剤」は、金属陽イオンおよび対応するオキシアニオン(一つ以上の非金属と結合した酸素を有する陰イオンを意味する)を指す。好ましいが必須でない増量剤は、硫黄、リンおよびケイ素オキシアニオンを含む化合物である。特に興味あるのは、硫黄、リンおよびケイ素オキシアニオンを含む塩である。中性ないし弱酸性を生じる増量剤は、コーティング組成物中に約4〜約8の間のpH環境(コーティング組成物のpHは、当業者に既知の標準的な方法および濃度によって定められるとする)を生じさせるために単独で、あるいは他の成分と組み合わせて用いてよい。この環境は、コーティング組成物から接触する下地の基板の区域への、用いられる特定の抑制剤化学種の輸送を促進し最適化する助けとなるようである。弱酸性を生じる増量剤は、それ自体酸性、中性または塩基性(例えば、NaHPO)であってよく、コーティング組成物に増量剤的な性質を加えてもよい。ほとんどの場合、弱酸性を生じる増量剤は、コーティング組成物に実質的に溶けず、それによって組成物の体積を増加させる。弱酸性を生じる増量剤の例は、硫酸塩、亜硫酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ホスホン酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸水素塩、リン酸一水素塩および二水素塩、亜リン酸一水素塩および二水素塩、およびホスホン酸一水素塩を含むが、それらに限定されない。また別の例は、リン酸第一セリウムなどのオキシリン化合物および硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウムおよび類似物などのいくつかのIIA族硫酸塩を含む。しかし、実質的に可溶性であり、従って組成物の体積を増加させない弱酸性を生じる増量剤、すなわち添加剤は、この用語の範囲内に包含されることを明らかにしておく。例は、硫酸マグネシウムおよびいくつかのIA族硫酸塩など、体積を増加させることには有用でないことが当分野で知られているが、腐食抑制剤として驚くほど良好な結果を示した、ある種の硫酸塩を含む。組成物中に所望のpHを生じさせるために必要な酸性を生じる増量剤の正確な量は、バインダ、溶媒、顔料およびコーティング組成物中に存在するその他の種類の増量剤を含むその他の添加剤の種類および量に依存して変化する。
【0041】
本明細書で用いられる用語「酸性を生じる増量剤」、すなわち「酸性発生添加剤」は、金属陽イオンおよび対応するオキシアニオン(一つ以上の非金属と結合した酸素を有する陰イオンを意味する)を指す。好ましいが必須でない増量剤は、硫黄、リンおよびケイ素オキシアニオンを含む化合物である。特に興味あるのは、硫黄、リンおよびケイ素オキシアニオンを含む塩である。酸性を生じる増量剤は、コーティング組成物中に約2〜約4の間より低いpH環境(コーティング組成物のpHは、当業者に既知の標準的な方法および濃度によって定められるとする)を生じさせるために単独で、あるいは他の成分と組み合わせて用いてよい。この環境は、コーティング組成物から接触する下地の基板の区域への、用いられる特定の抑制剤化学種の輸送を促進し最適化する助けとなるようである。酸性を生じる増量剤は、それ自体酸性または中性であってよく、コーティング組成物に増量剤的な性質を加えてもよい。約2〜約4の間のpH環境を生じさせることができる化合物の例は、硫酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウムおよびリン酸二水素カルシウムなどのある種の硫酸水素塩を含むが、それらに限定されない。ここでも、実質的に可溶性であり、それによって組成物の体積を増加させない酸性を生じる増量剤は、この用語の範囲内に包含されることを明らかにしておく。同一化合物が、両方の環境を生じさせることができるので、「酸性を生じる増量剤」としても、「弱酸性を生じる増量剤」としても適切に分類されることはあり得る。両方の環境を発生させることができる化合物の一つの例は、リン酸水素カルシウムを含むが、それに限定されない。さらに、組成物中に所望のpHを発生させるために必要な酸性を生じる増量剤の正確な量は、バインダ、溶媒、顔料および存在するその他の添加剤の種類および量に依存して変化する。
【0042】
本明細書で用いられる用語「実質的に可溶性」は、水1リットル当り約一(1)モル(モル/L)より大きな溶解度レベルを指す。
【0043】
本明細書で用いられる用語「実質的に溶けない」は、約一(1)モル/Lより低い溶解度レベルを指す。
【0044】
本明細書で用いられる用語「e−コート」または「電解コート」は、電解プロセスによって基板上に析出したコーティングを指す。これは、静電プロセスで乾燥粉体が塗布され、硬化するとき形成されるコーティングを指す「粉体塗装」とは区別されるものである。
【0045】
本明細書で用いられる用語「UV硬化システム」は、紫外線を用いて重合体が硬化するコーティングシステム、すなわち一つ以上のコーティング層を指す。
【0046】
本明細書で用いられる用語「重量パーセント(wt%)」は、注釈なしで用いられるときには、一般に、重合体樹脂を除いて存在するすべての固体成分と比較した特定の固体成分、例えば顔料、増量剤等の重量パーセントを指す。例えば、コーティング中に存在する唯一の固体成分が腐食抑制炭素顔料なら、腐食抑制炭素顔料は100のwt%を有するとみなす。
【0047】
本明細書で用いられる用語「混合酸化物」は、複数の酸化状態を有する単一元素の固溶体を指し、酸化物の混合物を指すものではないとする。
【0048】
炭素概観
周期律表の第IV族に位置する原子量12の元素炭素は、有機および無機化学用途の主要構成元素である。高い融点および沸点は、望ましいレベルの安定性を提供し、原子構造は、等極性および異極性両方の固有の結合のさまざまな機会を提供する。固体炭素の主な形は、ダイヤモンド、結晶性および非晶質である。主な結晶相は、炭素原子のシート型配置からなる黒鉛である。炭素シートは剥離できるが、容易には破れない。このシートの中で、炭素原子は、ベンゼン型配置で結合し、シート同士は、ファンデルワールス力によって保持される。シートに平行な電気伝導率は、垂直な方向より何桁も大きい。シートの間隔は、さまざまな化学種のインターカレーションを可能にする距離3.4Åである。インターカレーションした化学種は、その後、炭素の化学的挙動において活性となることがある。「フラーレン」など、特定のカテゴリーに当てはまらないその他の非常に特別な構造形も製造された。
【0049】
本明細書で参照する炭素顔料は、コーティングの特定の物理的性質を変化させるために塗料/コーティング中に用いられる。例えば炭素顔料は、黒色着色として、また酸化チタン(TiO)などの白色着色顔料と混合したときにはさまざまなグレイ階調レベルを作成するために、着色顔料として用いられてきた。例えば、米国特許第6,506,245号明細書を参照すること。カーボンブラックの分散性および濡れ性を増大させるために、分散助剤および界面活性剤を用いてカーボンブラック粒子の表面を改質することが可能である。例えば、オルガノシリコーン類およびケイ酸塩化合物を表面改質材として用いることができることが知られている。得られるケイ素改質カーボンブラック生成物は、改善された塗料適合性および貯蔵安定性を有し、改善された分散および混合特性も有する。カーボンブラック(およびその他の顔料)の分散性を改善することが知られているその他の表面改質剤は、ポリアルキルエーテルと、ポリエステルまたはポリアクリレートのどちらかとジアミンとで構成される樹脂との使用を含む。例えば、米国特許第6,506,889号明細書を参照すること。
【0050】
炭素顔料の導電性グレードは、コーティング中の静電気放電体としても用いられる。例えば、火工品用途の着火カートリッ用に用いられる電気放電可能プライマを提供する米国特許第5,996,500号明細書を参照すること。炭素コーティングは、大電流を放電させることによって、風車のブレードを落雷から保護するために用いてもよい。例えば、米国特許第6,457,943号明細書を参照すること。炭素は、コーティング表面を溶接可能にするため、あるいは用途のために導電性表面を必要とすることがあるその後のコーティングを受けるために、十分に導電性にするためにも用いられる。例えば、米国特許第6,312,812号明細書を参照すること。当分野においては、カーボンブラックなどの炭素顔料は、赤外線放射の良好な吸収体であることも知られていて、低い赤外線反射率が望まれる軍用コーティング用途で多くの場合に用いられる。
【0051】
さまざまな種類のカーボンブラックに関連する数多くの構造的性質および物理的性質のため、カーボンブラックは、上記のようにさまざまな理由で多数の塗料調合物中に組み込むことができる。しかし、腐食抵抗性に関しては、これまでカーボンブラックは、実は、コーティングが保護するはずの金属基板の腐食の速度および電食活性を増大することによって、コーティングの総合的な腐食抵抗性を減らすと考えられていた。米国特許第4,544,581号明細書を参照すること。
【0052】
当分野において知られていているように、カーボンブラックは、一般に多環芳香族炭化水素原料オイルを原料として用いる酸化熱分解プロセスによって製造される。このプロセスは、高温で酸素の存在下原料の不完全燃焼を必要とする。得られるカーボンブラック製品(例えば、ランプブラック、ガスブラックまたはファーネスブラック)は、製造プロセスのオフガスから濾別される。すべてのカーボンブラックは酸化熱分解プロセスを用いて製造されるが、所望の最終製品に従って、多くのプロセス変化形が可能である。例えば「ファーネスブラック」は、火炎を用いてカーボンブラック原料を不完全燃焼させることによって製造される。ファーネスブラック生成物は、生成すると急速に水吹き付けによってクエンチされ、気流から除去される。「ランプブラック」を製造するプロセスは、制御した空気流および放射熱を用いて、炭素原料を蒸発させ不完全燃焼させることを含む。気体を放冷したら、製造したランプブラックは、フィルタを用いて気流から分離される。「ガスブラック」を製造するプロセスは、水素を含むキャリヤーガス中で炭素原料を蒸発させることを含む。炭素原料は、製造するガスブラックの一部が冷却されたローラーシステム上に析出し、一方残るガスブラックがフィルタ中で気流から分離されるように、いくつかの小さな炎を用いて燃焼させる。
【0053】
得られる製品、すなわちファーネスブラック、ランプブラックおよびガスブラックのそれぞれは、すべていくつかの性質を共通に有するが、カーボンブラック製品のそれぞれの種類は、用いられる特定のプロセス加工方法に固有の性質も有する。これは、着色力、pH、油吸着、構造、その他の変化形を含むが、それらに限定されない。例えば、カーボンブラック製品の特定の構造は、塗料粘度に影響することがある。詳しくは、ファーネスブラックは、約10〜約80nmの間の粒子サイズ、約60〜約130の間の着色力を有する傾向があり、pHは約6〜約10の間である。対照的に、ランプブラックは約110〜約120nmの間の粒子サイズ、約25〜約35の間の着色力を有し、pHは約6〜約9の間である。さらに、ガスブラックは、約10〜約30nmの間の粒子サイズ、約90〜約130の間の着色力および約4〜約6の間のpHを有する。本明細書で参照するその他の種類のカーボンブラック(例えば、黒鉛、無定形炭素、結晶性炭素、活性炭、導電性炭素、非導電性炭素、骨炭、その他)も、固有のプロセス加工方法を有し、その結果、その方法に固有の性質を有する。
【0054】
考察
組成物
一つの実施態様では、本発明は、生成するコーティング膜の腐食抵抗性を改善するために、腐食抑制炭素顔料をさまざまな濃度で含むコーティングを提供する。一つの実施態様では、コーティングは、液体、例えば塗料として塗布される水系または溶剤系コーティング組成物である。他の実施態様では、コーティングは、粉体またはペースト(例えばゾルゲル)の形で塗布される。さらに他の実施態様では、コーティングは、シーラント、導電性重合体または類似物である。
【0055】
有効腐食抑制量と考えられる腐食抑制炭素顔料の正確な量は、用いられる炭素顔料の種類、所望の腐食抵抗性のレベル、基板の種類、およびその他に依存して、著しく変わることがある。全体として、少な過ぎる腐食抑制炭素顔料を加えると、コーティング中に十分な腐食抑制性が失われよう。多過ぎる腐食抑制炭素顔料を加えると、液体重合物質は使用するにはあまりにも粘性になり、あるいは固化することさえある。下記でより詳しく考察するシステムの臨界顔料体積濃度(CPVC)を越えないように注意しなければならない。
【0056】
一つの実施態様では、本発明がそのように限定されるわけではないが、腐食抑制炭素顔料は、約0.1〜約65の間の顔料体積濃度(PVC)で重合物質に添加される。いくつかの実施態様では、PVCが約65より大きいことが有り得る。対応するwt%は、用いられる腐食抑制炭素顔料の密度によって、著しく変化することがある。一つの実施態様では、腐食抑制炭素顔料の約0.1〜約65の間のPVC範囲は、全顔料の約0.1〜約100%の間の重量パーセントに対応する。別の実施態様では、約0.1〜約65の間のPVC範囲は、約3〜約25%の間の重量パーセントに対応する。好ましくは、腐食抑制炭素顔料は、コーティング組成物中に約0.1〜約99重量パーセントの間の量で存在する。より好ましい量は、約5〜約55重量パーセントの間である。
【0057】
本明細書で用いることができる腐食抑制炭素顔料は、結晶形(例えば黒鉛)、非晶質形(例えば活性炭、導電性炭素、非導電性炭素、獣炭、脱色炭、および類似物)、無機分散炭素顔料、炭素球体、表面改質炭素顔料(例えばジョージア州マリエッタ(Marietta,Georgia)に事業所を有するコロンビアケミカルズ社(Columbian Chemicals Co.)製のRaven(登録商標)(Raven(登録商標))1040、Raven(登録商標)1250、Raven(登録商標)1255、5000ウルトラ(Ultra)IIおよび類似物)、界面活性剤および/または樹脂分散炭素顔料(例えば、すべてオハイオ州シンシナティ(Cincinnati,Ohio)に事業所を有するサン・ケミカル(Sun Chemical)(着色剤事業部(The Colors Group))製のLHD−9303すなわちサンスパーズ(登録商標)(Sunsperse(登録商標))カーボンブラック分散液、U47−2355すなわちポリバーシル(登録商標)(Polyversyl(登録商標))フラッシュドカラー、PLD−2070すなわちスペシャリティカーボンブラック分散液等などのサン・ケミカルカーボン分散液)、骨炭(例えば、ミシガン州メルビンデール(Melvindale,Michigan)に事業所を有するエボネックス社(Ebonex Inc.)製の骨炭顔料であるコズミック・ブラック(Cosmic Black)7などのエボネックス(Ebonex)顔料)およびその同等品、ならびにそれらの組合せなどのさまざまな形の炭素顔料を含むが、それらに限定されない。骨炭について興味あるのは、約10%の炭素しか含まず、残りの含量は大部分がリン酸カルシウムであることである。実施例1の表1は、用いることができるさまざまな種類の炭素顔料に関する追加情報を、濃度範囲の例とともに提供する。
【0058】
好ましい実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、表面改質腐食抑制炭素顔料である。好ましい表面改質腐食抑制炭素顔料は、約8nm〜約28nmの間の平均粒子サイズ、約86m/g〜約583m/gの間の窒素表面積(NSA)(すなわち全表面積の測定値)、およびASTM方法で測定した約82m/g〜約356m/gの間の統計厚み表面積(STSA)(すなわち外部表面積の測定値)を有する。これらの表面改質腐食抑制炭素顔料の例は、米国ジョージア州マリエッタに事業所を有するコロンビア化学社から市販されているRaven(登録商標)5000ウルトラIIなどの約8nmの平均粒子サイズ、約583m/gのNSA表面積、およびASTM法で測定した約356m/gのSTSA表面積を有する腐食抑制炭素顔料、米国ジョージア州マリエッタに事業所を有するコロンビア化学社から市販されているRaven(登録商標)1255などの約20nmの平均粒子サイズ、約122m/gのNSA表面積、およびASTM法で測定した約119m/gのSTSA表面積を有する腐食抑制炭素顔料、米国ジョージア州マリエッタに事業所を有するコロンビア化学社から市販されているRaven(登録商標)1250などの約21nmの平均粒子サイズ、約113m/gのNSA表面積、およびASTM法で測定した約102m/gのSTSA表面積を有する腐食抑制炭素顔料、および米国ジョージア州マリエッタに事業所を有するコロンビア化学社から市販されているRaven(登録商標)1040などの約28nmの平均粒子サイズ、約86m/gのNSA表面積、およびASTM法で測定した約82m/gのSTSA表面積を有する腐食抑制炭素顔料を含む。しかし、当業者が理解するように、硫黄、灰、残渣等などのその他の成分を有する表面改質腐食抑制炭素顔料に加えて、その他の粒子サイズおよび表面積を有する表面改質腐食抑制炭素顔料を用いてよい。
【0059】
最大限の腐食保護にとって、塗料と基板との界面近傍の局所環境を制御することも重要である。局所pHおよびイオン活量は、固有のまたは表面改質pH特性を有するさまざまな顔料を用いて、またはイオン交換樹脂を用いることによって、有利に変化させることができる。これらのコーティングシステムの腐食抵抗性をさらに改善するために、希土類化合物などの補助抑制剤および/またはアミノ酸などの抑制剤化学種として知られている他の顔料を、その他の種類の顔料および/または添加剤とともに取り込むことを利用してよい。一つの実施態様では、環境は、本発明を限定するわけではないが、酸性抑制剤顔料を用いるなど任意の適当な手段によって、中性または弱酸性にされる。別の実施態様では、環境は、任意の適当な手段によって塩基性にされる。
【0060】
増量剤は、二酸化チタンなどの着色顔料のコスト効率のよい代用品としても利用され、さらにコーティング剤の所望の顔料対バインダ比を提供することができる。これらの増量剤の多くは、環境中(例えば、既に塗布した化成皮膜の中、重合体コーティング自体の中など)に存在することがある抑制剤の活性化の助けとなり、従って保護コーティングの腐食抵抗性を改善するようである。いくつかの実施態様では、ある種の増量剤、すなわち弱酸性を生じる増量剤および酸性を生じる増量剤はそれ自体が腐食抑制剤として作用すると思われる。
【0061】
一つの実施態様では、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤が用いられる。一つの実施態様では、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤は、I族およびII族金属陽イオンを含む。一つの実施態様では、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤は、プラセオジム(プラセオジム(III)、(IV)または(III/IV)混合物など)、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびマグネシウムの硫酸塩およびリン酸塩、ならびに石膏および天青石などのこれらの化合物の天然形を含む。本発明をそのように限定するわけではないが、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤は、好ましくはコーティング組成物に実質的に溶けないカルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの硫酸塩およびリン酸塩を含む。一つの実施態様では、弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤は、金属硫酸塩(例えば無水硫酸カルシウム、水和硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、水和硫酸マグネシウム等)を含む硫酸塩、金属リン酸塩(例えば含水リン酸カルシウム、無水リン酸カルシウムおよびリン酸一水素および二水素カルシウム等)を含むが、それらに限定されない群から選ばれる。ここでも、本明細書で説明する増量剤のどれでも天然形(鉱物)または合成形のどちらで用いてもよい。酸性増量剤は、焼成粘土、例えば焼成カオリン粘土等を含む、ジョージア州サンダーズビル(Sandersvill,Georgia)に事業所を有するバージェス・ピグメンツ社(Burgess Pigments Co.)製のバージェス(Burgess)増量剤および類似物などの非硫酸塩、非リン酸塩および非硝酸塩の酸性増量剤をさらに含んでよい。しかし、本開示を参照すれば当業者が理解するように、前記の性質を有するその他の金属陽イオンおよび陰イオンを中性ないし弱酸性増量剤として、本発明のコーティング組成物において用いてよい。
【0062】
一つの実施態様では、一つ以上の弱酸性を生じる増量剤または酸性を生じる増量剤が用いられる。用いられる増量剤の量は、用いられる特定のシステムではいくつかのものがより効率的なので、著しく変化することがある。一つの実施態様では、増量剤は、コーティング中の顔料の総量の約1〜約99%の間の重量パーセントで加えられる。ほとんどの実施態様では、コーティングは、約30から80wt%の間の一つ以上の弱酸性を生じる増量剤および/または酸性を生じる増量剤を含む。より好ましい実施態様では、コーティングは、約45から75wt%の間の弱酸性を生じる増量剤を含む。特定の実施態様では、約0.1〜約3wt%の間の一つ以上の種類の硫酸マグネシウムが用いられる。好ましくは、中性ないし弱酸性増量剤は、コーティング組成物中に約0.1〜約99重量パーセントの間の量で存在する。より好ましい量は、約25〜約98重量パーセントの間であり、最も好ましい量は約80から95重量パーセントの間である。腐食抑制炭素顔料および水和硫酸塩増量剤を含むコーティングとともに基板上でクロム化成皮膜が用いられる特定の実施態様では、良好な腐食抵抗性が観測された。
【0063】
別の実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、代わりに、カルシウム酸化物(例えば水酸化カルシウム)、炭酸カルシウム、タルク、扁平タルク、ケイ酸塩およびその他の既知の増量剤などの伝統的な増量剤をさらに含むがそれらに限定されない当分野において知られている通常の塩基性増量剤と組み合わせられる。一つの実施態様では、塩基性増量剤は7より高く、最高約13のpHを有する。加える塩基性増量剤の量も、特定のシステムではいくつかのものがより効率的なので、変化することがある。さらに別の実施態様では、腐食抑制炭素顔料は、増量剤なしで用いられる。本実施態様で特に好ましいのは、骨炭および類似物などの腐食抑制炭素顔料である。
【0064】
本発明では、オプションとして、当分野において知られている補助抑制剤を、腐食抑制炭素顔料、およびオプションとして本明細書で説明する任意のその他の成分(例えば増量剤等)とともに使用してもよい。そのような補助抑制剤は、希土類化合物、金属酸化物、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アニリン、ポリアニリンおよび類似物を含むが、それらに限定されない。本発明では、オプションとして、ナルザンTM(NalzanTM)(ニュージャージー州ハイズタウン(Highstown,New Jersey)に事業所を有するNLインダストリーズ(NL Industries)製)、ブサンTM(BusanTM)(テネシー州メンフィス(Memphis,Tennessee)に事業所を有するバックマン・ラボラトリーズ(Buckman Laboratories)製)、ハロックスTM(HaloxTM)(インディアナ州ハモンド(Hammond,Indiana)に事業所を有するハロックス社(Halox Inc.)製)、モリホワイトTM(MolywhiteTM)(カンザス州コフィービル(Coffeyville,Kansas)に事業所を有するシャーウィン・ウィリアムズ社(Serwin Williams Inc.)製)および類似物などのその他の補助抑制剤を使用してもよい。炭素含有塗料調合物と化学的に適合する補助抑制剤だけを用いることが適切である。
【0065】
本発明において有用な希土類化合物は、希土類酸化物、混合酸化物、固溶体酸化物、水和酸化物、塩、トリフラート、およびエチレンジアミン四酢酸を用いる希土類錯体などの錯体、有機系イオン交換樹脂等および類似物を含むが、それらに限定されない。コーティングは、さらに約0.1〜約95wt%の間の希土類化合物補助抑制剤を含んでよい。(この場合、wt%はコーティング中に存在するすべての補助抑制剤の総wt%に対するものである)。一つの実施態様では、コーティングは、約0.4〜約26wt%の間の希土類化合物補助抑制剤を含む。一つの実施態様では、希土類化合物は、ランタニド系列のどれを基にしてもよい。一つの実施態様では、希土類化合物は、プラセオジム、セリウムおよびテルビウムからなる群から選ばれる。プラセオジムは、特に良好な結果を提供した。(実施例4参照)。その他の実施態様では、参照によって本明細書中に全体として組み込まれる2004年1月16日出願の「腐食抵抗コーティング」という標題の米国特許出願第xx/xxx,xxx号明細書に記載されている希土類化合物の任意のものが用いられる。
【0066】
特定の用途のために希土類化合物を選ぶとき、使用する希土類金属の酸化状態も重要な考慮対象である。例えばプラセオジムの場合、一つの実施態様では、プラセオジム(III)の酸化状態を有するプラセオジムが用いられる。別の実施態様では、プラセオジム(III/IV)混合物が用いられる。さらに別の実施態様では、プラセオジム(IV)が用いられる。希土類化合物の好ましい酸化状態も、使用する最終的なコーティングシステムに依存することもある。一つの実施態様では、希土類化合物は、プラセオジム(III)硫酸塩である。別の実施態様では、希土類化合物は、プラセオジム(III/IV)酸化物またはプラセオジム(III/IV)固溶体である。その他の実施態様では、希土類化合物は、プラセオジム混合酸化物、プラセオジム(III)酸化物、プラセオジム(III)水酸化物、プラセオジム(IV)酸化物およびそれらの任意の組み合わせであってよく、任意のその他のプラセオジムまたは他の金属との組み合わせをさらに含む。
【0067】
一つの実施態様では、希土類化合物は、セリウム酸化物、水酸化セリウム、セリウム固溶体混合酸化物、酸化セリウム混合物、セリウム塩、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、ネオジム固溶体混合酸化物、酸化ネオジム混合物、ネオジム塩、酸化プラセオジム、水酸化プラセオジム、プラセオジム固溶体混合酸化物、酸化プラセオジム混合物、プラセオジム塩、酸化イッテルビウム、水酸化イッテルビウム、イッテルビウム固溶体混合酸化物、酸化イッテルビウム混合物、イッテルビウム塩、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、イットリウム固溶体混合酸化物、酸化イットリウム混合物、イットリウム塩、酸化テルビウム、水酸化テルビウム、テルビウム固溶体混合酸化物、酸化テルビウム混合物、テルビウム塩およびそれらの組合せであってよい。
【0068】
本発明では、オプションとして、腐食抑制を提供する添加剤は、炭素顔料および、オプションとして、本明細書で説明するその他の任意の添加剤とともに使用してもよい。一つの実施態様では、アミノ酸が添加剤として用いられる。本発明において有用なアミノ酸および/またはその他の添加剤は、グリシン、アルギニン、メチオニン、およびメチオニンスルホキシド、メチルスルホキシドおよびヨウ化物/ヨウ素酸塩などのアミノ酸の誘導体、動物ゼラチンおよび魚類ゼラチンなどのゼラチンおよびゼラチン誘導体、アルファおよびベータシクロデキストリンを含む直線状および環状デキストリン、トリフル酸、トリフラート、アセタート、有機系陽イオンおよび陰イオン交換樹脂、希土類化合物と予め交換または反応した有機系イオン交換樹脂などのイオン交換樹脂を含むが、それらに限定されない。一つの実施態様では、添加剤は、重合物質中の固体成分の約0.03〜約5wt%の間を構成する。別の実施態様では、添加剤は、コーティング中の固体成分の約0.1〜約1wt%を構成する。特定の実施態様では、コーティングは、約0.03〜約5wt%の間の錯形成性直鎖および環状デキストリン、ゼラチン、ゼラチン誘導体およびそれらの組み合わせを含む。特に興味あるのは、アルギニン、メチオニン、ゼラチンおよび交換樹脂であり、これらの成功は、使用される重合体物質に多少依存する。
【0069】
抑制剤のために錯体生成剤として使用するイオン交換樹脂は、陽イオン性および陰イオン性を両方同じ塗料調合物中に用いてもよいが、中性、陽イオン性または陰イオン性であってよい。一つの実施態様では、イオン交換樹脂は、コーティング中の固体成分の約0.1〜約7wt%の間を構成する。別の実施態様では、イオン交換樹脂は、コーティング中の固体成分の約0.5〜約3wt%の間を構成する。イオン交換樹脂は、さらに希土類のイオン形および/またはアミノ酸を含んでよい。一つの実施態様では、イオン交換樹脂は、希土類イオン形、アミノ酸、アミノ酸誘導体、希土類化合物のアミン系錯体、およびそれらの組み合わせを、重合体物質中の固体成分の約0.1〜約5wt%の間の量で含む。別の実施態様では、この量は約0.5〜約1.5wt%の間である。
【0070】
一般に、本明細書で利用するバインダは、水希釈系エポキシ−ポリアミドシステム(有機重合物質の場合)などの樹脂バインダであるが、無機重合物質から作られるコーティングのように、その他の種類のバインダも用いてよい。有機重合体は、水に可溶性のもの、非水系に可溶性のものおよび粉体コーティングシステムを含む。一つの実施態様では、硬化によって橋かけする膜形成重合体が用いられる。本発明の実施態様で用いることができる有機重合体の例は、エポキシ、ウレタン、尿素、アクリレート、アルキド、メラミン、ポリエステル、ビニル、ビニルエステル、シリコーン、シロキサン、ケイ酸塩、スルフィド、スルホン、アミド、エポキシノビラック、エポキシフェノール、アミド、アミン、乾性油および炭化水素重合体を含むが、それらに限定されない。一つの実施態様では、バインダは、エポキシ系ではない樹脂である。そのような樹脂は、ウレタン、尿素、アクリレート、アルキド、メラミン、ポリエステル、ビニル、ビニルエステル、シリコーン、シロキサン、ケイ酸塩、スルフィド、スルホン、エポキシノビラック、エポキシフェノール、乾性油および炭化水素重合体および類似物を含むが、それらに限定されない。
【0071】
任意の適当な種類の溶媒を用いてよい。一つの実施態様では、溶媒は有機系溶媒または溶媒の混合物、水、または水と有機系溶媒との混合物である。
【0072】
本発明のコーティング組成物は、オプションとして、着色顔料を含んでもよい。一般的に、着色顔料は、コーティング組成物の総重量(固体成分だけのwt%と対比して)を基準として、約0.1〜約80wt%の間、通常は約一(1)〜約30wt%の間の量で、コーティング組成物中に組み込まれる。一つの実施態様では、オプションの顔料は、コーティング組成物の総重量の最高約25wt%を構成する。表面コーティングに通常用いられる着色顔料は、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルーおよびフタロシアニングリーンなどの無機顔料を含むが、それらに限定されない。本発明の水系コーティング組成物では、金属フレーク顔料組成物も有用である。適当な金属顔料は、アルミニウムフレーク、亜鉛、銅ブロンズフレーク、および金属酸化物で被覆した雲母を含む。
【0073】
所望の美的または機能的効果を提供するために、別の添加剤および顔料を使用してよい。望むなら、本発明のコーティング組成物は、調合表面コーティングの技術分野で公知であるその他のオプションの物質を含んでよい。これらのオプションの物質は、コーティングシステムおよび用途の機能として選ばれ、流れ調整剤、チキソトロープ剤(例えば、ベントナイト粘土)、気体発生防止剤、有機共溶媒、触媒およびその他の慣習的な補助剤を含んでよい。
【0074】
当分野において知られていているように、炭素顔料およびその他の腐食抑制剤の表面を改質するために炭素、ケイ酸塩等を使用することも可能である。詳しくは、表面改質顔料は重合体物質中により容易にブレンドされる。さらに、表面が改質される特定の方法も役割を果たすことがある。
【0075】
腐食抑制炭素顔料粒子の実際の粒子サイズも、腐食抵抗性を改善する上で役割を果たすことがあり、小さな粒子は改善された抵抗性を提供する。その結果、腐食抑制炭素顔料を粉砕すると、腐食抵抗性が向上すると考えられる。
【0076】
さらに、本明細書で説明する予備分散剤の使用も腐食抵抗性を改善する上で役割を果たすことがある。
【0077】
添加するすべての種類の顔料の総量については、それを超えるとコーティングが適切に機能しなくなる臨界顔料体積濃度(臨界PVC)として知られている点がある。しかし、このレベル未満では、任意の所望量の顔料を添加してよく、多くの場合、そのような量は全PVCと呼ばれる。一つの実施態様では、本発明をそのように限定するわけではないが、臨界PVCは65である。ある実施態様では、最適組成物を提供するために、臨界PVCの下に十分にとどまることが重要なことがある。一つの実施態様では、全PVCは約20〜約45の間の範囲にある。全PVC範囲は、重量基準で顔料含有量のほとんど無制限な範囲に関連付けることができる。一つの実施態様では、上記で考察したように、コーティング中に存在する単一顔料、例えば腐食抑制炭素顔料の重量パーセントは、約0.1〜約100wt%の間の範囲である。より好ましい範囲は、用いられる顔料の種類、必要とされる腐食抵抗性の程度、使用されるコーティング調合物、処理する表面、およびその他など、多くの因子に依存する。濃度範囲の例に関する情報については、実施例1の表1および2を参照すること。
【0078】
本明細書で説明するコーティング組成物は、すべて基板に対する良好な接着性を有する。これらのコーティングは、さらに、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,Missouri)に事業所を有するボーイング社(The Boeing Co.)が開発したケラー(Keller)腐食評点スケールによって定められる良好から優秀な腐食抵抗性を実証する。このスケールでは、「3」、「4」と[A]との結果は「良好」、「1」と「A」との結果は優秀(さまざまな評点の説明については、実施例4の表6を参照すること)とみなされる。
【0079】
コーティング組成物を用いることができる基板の例は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム鋳物、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、亜鉛、亜鉛被覆鋼、亜鉛合金、亜鉛−鉄合金、亜鉛−アルミニウム合金、無被覆鋼および亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼、酸洗い鋼、鉄化合物、マグネシウム合金、金属前処理基板(例えば、クロム系化成皮膜、陽極処理コーティング、コバルト系化成皮膜、リン酸塩系化成皮膜、シリカ系化成皮膜、希土類系化成皮膜、ステンレス金属前処理および類似物)、重合体、重合体/金属コンポジット、被覆基板および類似物を含むが、それらに限定されない。
【0080】
本発明のコーティングを塗布してよい化成皮膜は、当分野で知られているセリウム化成皮膜(CeCC)、プラセオジム化成皮膜(PrCC)、リン酸塩化成皮膜、亜鉛型化成皮膜、クロム化成皮膜(CrCC)および類似物を含むが、それらに限定されない。特定の実施態様では、用いられるCrCCは、ミシガン州マディソン・ハイツ(Madison Heights,Michigan)に事業所を有するヘンケル・サーフィス・テクノロジーズ社(Henkel Surface Technologies)製のアロダイン(登録商標)(Alodine(登録商標))クロムおよび非クロム化成皮膜(例えばアロダイン(登録商標)1000、1200、1200S、2000および類似品)である。別の特定の実施態様では、用いられるCrCCコーティングは、コネティカット州ウォーターベリー(Waterbury,Conneticut)に事業所を有するマクダーミド社(MacDermid,Inc.)のイリダイトTM(IriditeTM)プロセス(例えばイリダイトTM14.2)を用いて作られる。さらにその他の実施態様では、CrCCは、クロムシールを有する陽極酸化したクロム酸、クロムシールを有する陽極酸化した硫酸および類似物を含む。塗布した化成皮膜の経過時間および厚さは、その後の塗料コーティングの腐食抵抗性にさらに影響することがある。一つの実施態様では、コーティングは、処理後3日未満で、比較的中程度から厚い化成皮膜上に塗布される。そのようなシステムは、良好な接着性を維持することが知られている。所定の用途には厚すぎる化成皮膜は、化成皮膜層中に凝集不良を有するコーティングを生じる傾向がある。適当な化成皮膜の厚さは、当業者には容易に明らかになる。
【0081】
方法
本発明は、さらに上記コーティング組成物を調製し使用するプロセスに関する。塗料を製造する任意の従来法を用いてよい。そのような方法の例は、圧縮空気または電気によって動力を供給されるボール盤、適切な粉砕媒体を用いるサンドミルおよび類似物の使用を含むが、それらに限定されない。そのような方法は、当業者に既知であり、本明細書では詳細に説明しない。
【0082】
ポリアミド/エポキシ系水希釈プライマ調合物用の練り顔料は、一つ以上のバインダ、一つ以上の顔料、必要なら溶媒、および硬化剤を分散させることによって調製することができる(本明細書で説明する実施例のすべてで実際に調製した)。自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物用の基材も、同じ方法で調製してよい(本明細書で説明する実施例のすべてで実際にこの方法で調製した)。このプロセスでは、当分野で知られているように、標準分散ブレードなどの分散ブレードおよび標準分散装置またはボール盤さえ用いて、適切なサイズの容器中650rpmで基材を分散させる。次に、約600〜700rpmなどの適切な速度での撹拌下、着色顔料、天然増量剤、すなわち石膏などの鉱物および合成増量剤が、任意のその他の腐食抑制剤とともにコーティング調合物中に組み込まれる。適切な粉砕媒体が望ましければ、必要に応じて加えてよい。
【0083】
次に、材料が調合物に適切に添加されたら、650rpmでさらに約5分間などの適当な時間および速度で基材を分散させる。この時間の後、所望の練り顔料基材粉砕物が得られるまで、必要に応じて分散速度を約1600から1640rpmに増大してよい。高速での分散の間に、練り顔料の温度をモニタし、用いられる成分および樹脂システムの推奨温度より低温に保ってよい。練り顔料温度が材料または樹脂の安定性のための推奨温度を超えそうに見えたら、分散速度を適切に低下させてよい。必要なら、適当な冷却を可能にするために分散プロセスを一時的に停止してもよい。本開示を参照して当業者が理解するように、追加手段としてまたは代替手段として、より高い分散温度を最小限度にするために冷却装置を用いる工程などのその他の工程を用いてよい。また、本開示を参照して当業者が理解するように、本コーティングシステムの調製に使用される溶媒は、コーティング混合物の調製を容易にし、適当な塗布性を提供し、環境的に許容できる塗料を提供するように選ばれる。
【0084】
次に、基材粉砕物用に望ましい顔料粒子サイズが得られたら、分散プロセスを停止し、望むなら、オプションとして用いることがある粉砕媒体などの望ましくない物質があれば、基材から除去するために基材を濾過する。次に、顔料基材または練り顔料を混合しながら、当分野で知られている「沈下相」で、処方材料の残りを加える。オプションの工程は、基材または完成塗料を使用前に少なくとも24時間熟成させる工程である。これによって樹脂がすべての顔料を濡らす。
【0085】
ポリアミド/エポキシ系水希釈プライマ調合物、自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物の使用前の貯蔵寿命は、総合的に樹脂システムの供給者が提供する時間仕様によって定まる。
【0086】
次に、上記で説明した完成した基材中にイソシアネート触媒などの適切な量の触媒または活性化剤を撹拌することによって、ポリアミド/エポキシ系水希釈プライマ調合物、自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物が調製される。自己プライマトップコートまたは強化自己プライマトップコート調合物用のイソシアネート触媒の例は、カリフォルニア州アーバインに事業所を有するデフト社から市販されているデフト97GY088CATとして知られているイソシアネート溶液を含む。生成する塗料膜の適当な硬化および架橋を確実にするために、本開示を参照して当業者が理解するように、完成した塗料基材に加えられるイソシアネート触媒の量は、コーティングシステムの特定の成分に依存して変化することがある。
【0087】
つぎに、自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物の場合、完成基材と触媒とを混合したら、コーティングは基板への塗布準備完了である。被覆される基板は、例えば航空機、自動車、トラックおよび農機具などの二次加工品の基板であってよく、これらの加工品のための構成要素および部品をさらに含む。
【0088】
次に、ポリアミド/エポキシ系水希釈プライマ調合物の場合、適切な量のエポキシ触媒と練り顔料とを十分に混合したら、プライマ練り顔料/エポキシ触媒ブレンド中に適切な量の水をゆっくり混合し、試験を実行してよい。加えられる水の純度および量は、スプレー粘度および最終コーティング用途にもとづいて、コーティングシステムの供給者が推奨するものに依存する。塗料調合物は、水希釈システムなので、水性成分をエポキシ触媒/練り顔料ブレンドに加えるとき、注意する必要がある。
【0089】
一般に、本発明の塗装系のコーティングシステムの調製に使用される媒質は、コーティング混合物の調製を容易にし、基板への十分な接着性を提供するように選ばれる。好ましい媒質は、水系コーティングの調製を含む水である。その他のシステムは、溶媒系および粉体コーティングを含む。
【0090】
上記のように、練り顔料/エポキシブレンドと適切な量の水とを混合したら、プライマは、基板への塗布の準備完了である。適当な基板は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム鋳物、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、亜鉛、電解亜鉛、亜鉛被覆鋼、亜鉛合金、亜鉛−鉄合金、亜鉛−アルミニウム合金、鋼、ステンレス鋼、酸洗い鋼、鉄化合物、マグネシウム合金および類似物などの金属基板を含む。本発明の実施にとって好ましい基板は、アルミニウムおよびアルミニウム合金である。上記で説明したように、被覆される基板は二次加工品の基板であってよく、これらの物品のための構成要素および部品をさらに含む。
【0091】
本発明のコーティング混合物は、スプレー塗布、ブラシ塗布、ローラー塗布、浸漬塗布および類似法などの任意の従来技法を用いて金属基板の表面に塗布してよいが、ほとんどの場合スプレー塗布によって塗布される。空気スプレーおよび静電スプレー用の通常のスプレー技法および装置、ならびに手動または自動法のどちらを用いてもよい。本発明の実施にとって好ましいのは、スプレー塗布である。
【0092】
金属表面などの表面は、コーティングを受けるために準備することが好ましい。この準備は、最初に油分およびその他の汚染物質を除去するために表面を洗浄する従来法を含む。表面に表面汚染物がなくなれば、酸化物コーティングを除去するために、およびある種の場合には腐食抑制混合物がより容易に結合できる化成皮膜を提供するために、処理を加えてよい。表面が厚い酸化物コーティングを有する場合には、そのような表面コーティングを除去する濃い酸およびアルカリを含む一連の連続的な化学薬品浴中への浸漬などの通常の手段によって、このコーティングを除去してよい。
【0093】
ほとんどの実施態様では、コーティングを実施する前に基板またはコーティングした基板を準備、すなわち前処理する。この準備は、最初に油分およびその他の汚染物質を除去するために表面を洗浄する従来法を含む。表面に表面汚染物がなくなれば、例えば基板をそのような表面コーティングを除去することが知られている高濃度の酸およびアルカリを含む一連の連続的な薬浴中に浸漬することなどの通常の手段によって、酸化物コーティングを除去するために処理を加えてよい。上記のように、いくつかの実施態様では、コーティングがより容易に結合することができる化成皮膜を提供するために、基板を処理する。そのような化成皮膜は、高濃度のクロム酸中への浸漬によるなどの当分野で既知の任意の手段で調製してよい。例えばアルミニウム基板が用いられるとき、このプロセスは、アルミニウムまたはアルミニウム合金基板の表面に酸化アルミニウムの制御された混合物が作り出される。あるいは、ホウ酸/硫酸または任意のその他の陽極処理プロセスによって表面を処理してよい。このプロセスによって、アルミニウムまたはアルミニウム合金基板の表面に酸化アルミニウムの制御された混合物が作り出される。オプションとして、化成皮膜を提供するために表面を処理した後、クロム酸の希薄溶液中に基板を浸漬することによって表面をシールしてよい。表面は、シールされていてもシールされていなくても、本明細書で説明するコーティングを被覆してよい。
【0094】
一つの実施態様では、クロム含有溶液中でのシールを有するアルミニウム陽極処理システムおよびシールを有しないアルミニウム陽極処理システムを創り出すために、アルミニウム陽極処理基板にコーティングを塗布する。一つの実施態様では、希土類溶液中でシールを有するアルミニウム陽極処理システムおよびシールを有しないアルミニウム陽極処理システムを創り出すために、アルミニウム陽極酸化基板にコーティングを塗布する。一つの実施態様では、適切な溶液中でシールを有する鋼およびシールを有しない鋼の基板にコーティングを塗布する。
【0095】
本明細書で説明するコーティングは、スプレー、「塗装」(例えば、ブラシ、ローラーおよび類似物を用いる)、浸漬、その他などの任意の従来技法を用いて基板に塗布してよい。スプレー塗布による塗布については、空気スプレーおよび静電スプレーのために用いられる従来の(自動または手動)スプレー技法および装置を用いてよい。他の実施態様では、コーティングは、電解コーティング(e−コーティング)システム、静電(粉体)コーティング、および類似物である。さまざまな種類の硬化方法を下記で説明する。
【0096】
本明細書で説明するコーティングは、用途の要件に従って任意の適当な厚さであってよい。一つの実施態様では、コーティングは、約1〜約3ミリの間の厚さである。別の実施態様では、コーティングは、約0.8〜約1.2ミリの厚さである。
【0097】
一般に、コーティングの塗布後、任意の適当な方法を用いてコーティングを硬化させる。一般的な硬化方法は、自然乾燥および/または加熱および/またはUV硬化法を含む。その他の方法は、マイクロ波硬化システム、超音波硬化システムおよび類似システムを含むが、それらに限定されない。硬化の方法は、使用されるコーティング混合物の種類、塗布される表面、その他に依存する。
【0098】
コーティングが塗布され硬化したら、その後のトップコートを塗布してもよく、あるいは単独コーティングとして硬化させてもよい。コーティングに単数または複数のその後のトップコートを塗布するなら、その後のコーティングは、既存のコーティング層と適合するように、一般に樹脂および/またはトップコート製造者の仕様に従って塗布する必要がある。コーティングにその後のトップコートをまったく塗布しないなら、硬化させてよい。
【0099】
一つの実施態様では、当分野で知られているように、分散剤を用いて炭素顔料を予備分散させることによってコーティングを施す。しかし、本発明では、予備分散工程は、被覆特性を改善することに加えて、腐食抵抗性を改善するためである。炭素顔料(および/または重合体物質に加えられるその他の腐食抑制剤)を予備分散させることによって、顔料のより良好な分離が得られると考えられている。
【0100】
追加実施態様
一つの実施態様では、コーティング組成物は、自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物である。これらのコーティング組成物は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム鋳物、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、亜鉛、亜鉛被覆鋼、亜鉛合金、亜鉛−鉄合金、亜鉛−アルミニウム合金、無垢および電解鋼、ステンレス鋼、酸洗い鋼、鉄化合物、マグネシウム合金などの金属、例えばクロム系化成皮膜、陽極処理コーティング、コバルト系化成皮膜、リン酸塩系化成皮膜、シリカ系化成皮膜、希土類系化成皮膜およびステンレス金属前処理などの金属前処理を有する基板、および重合体、重合体/金属コンポジット、コンポジット、塗布基板、および類似物に用いてよい。
【0101】
好ましいが必須でない実施態様では、自己プライマトップコート組成物、または強化自己プライマ組成物は、調製後3日未満の化成皮膜上に塗布する。自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物を化成皮膜の上に塗布すると、基板へのコーティングの良好な接着性が維持されることが見いだされた。所定の塗布には厚すぎる化成皮膜は、化成皮膜層中の凝集不良を生じる可能性があることも見いだした。本開示を参照して当業者が理解するように、特定のコーティング組成物のための適当な化成皮膜性能および厚さは明らかであり、好ましいコーティングは、MIL−C−5541に適合する。
【0102】
別の実施態様は、自己プライマトップコート組成物または強化自己プライマトップコート組成物を調製し使用するプロセスを提供する。この実施態様によると、塗料を製造するための従来法を用いてよい。本開示を参照して当業者が理解するように、そのような方法の例は、圧縮空気または電気によって電力を供給されるボール盤、適切な粉砕媒体を用いるサンドミル、および類似物の使用を含むが、それらに限定されない。
【0103】
下の表1は、表中に示し本発明中で有用である腐食抑制炭素顔料および他の成分の可能な濃度範囲のリストを提供する。試験した組み合わせに関して、実施例1〜6は、基材塗料調合物のための製造業者の指針に従って、特定の基板上に吹き付けられた試験組成物の多くに関するデータを提供する。結果(主に実施例4を参照)が示すように、本明細書で説明するコーティングによって、改善された腐食抵抗性が得られ、いくつかのシステムは良好なあるいは優れた腐食抵抗性を示した。
【0104】
【数1−1】

【0105】
【数1−2】

【0106】
【数1−3】

本発明のさまざまな実施態様の例をさらに示すために提供される以下の非限定的な例を参照して、本発明をさらに説明する。しかし、本発明の範囲にとどまりながら多くの変化および変更を施すことができると理解されるべきものとする。
【実施例】
【0107】
実施例1
練り顔料調合物の例
炭素顔料を含むポリアミド/エポキシ水希釈系プライマ練り顔料調合物を調製した。一つの実施例調合物を下の表2に示す。その他の調合物も試験した。
表2.プライマ練り顔料調合物
成分:
ポリアミド樹脂ブレンド 397g
分散剤 6g
2−ブタノール溶媒 83g
炭素または炭素ブレンド 514g
練り顔料合計: 1000g。
【0108】
プライマ調製例の説明
上記の練り顔料調合物から調製したポリアミド/エポキシ水希釈系プライマは、さらにエポキシ触媒および水を含む。すなわち、三部調合物である。上記で説明した練り顔料中に適切な量のエポキシ触媒を撹拌することによって、ポリアミド/エポキシ水希釈系プライマ例を適切に調製した。試験したポリアミド/エポキシ水希釈系プライマ調合物用のエポキシ触媒の一つの例は、デフト社から市販されているエポキシ/ニトロエタン溶液「44WO16CAT」である。練り顔料に対するエポキシ触媒の量は、生成するプライマ塗膜の適当な硬化および架橋を保証するためにこのコーティングシステムの供給者が推奨する量に依存する。
【0109】
エポキシ触媒および練り顔料の適切な量を十分に混合したら、所定の塗布手順に適する粘度にするために、プライマ練り顔料/エポキシ触媒ブレンド中に適切な量の水をゆっくり混合した。加えられる水の純度および量は、供給者の推奨、吹き付け粘度、および意図するコーティング用途に依存した。塗料調合物は水希釈システムだったので、エポキシ触媒/練り顔料ブレンドに水性成分を加えるとき、注意する必要があった。
【0110】
本発明のコーティングシステムの調製に使用した溶媒は、コーティング混合物の調製を容易にし、基質への十分な接着力を提供するように選んだ。ほとんどの実験では、水が溶媒として用いられた。
【0111】
練り基材/エポキシブレンドと適切な量の水を混合したら、プライマは基質への塗布準備完了であった。試験結果は実施例4で考察する。
【0112】
実施例2
練り顔料調合物および試験組成物の例
さまざまな炭素顔料を、オプションとして、ポリアミド/エポキシ水希釈系プライマ練り顔料調合物中の着色顔料をさらに含む以下の酸性または中性増量剤、塩基性増量剤、金属リン酸塩、希土類化合物、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、ゼラチンおよびゼラチン誘導体、直線形および環状デキストリン、有機系交換樹脂、およびそれらの組み合わせの一つ以上と組み合わせた。一つの実施例調合物を下の表3に示す。その他の調合物も試験した。
表3.プライマ練り顔料調合物
成分 質量(g)
ポリアミド樹脂ブレンド 332
分散剤 5
2−ブタノール溶媒 69
増量剤 384
炭素または炭素ブレンド 48
腐食抑制剤 162
練り顔料合計: 1000
希土類化合物、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、ゼラチンおよびゼラチン誘導体、有機系交換樹脂、およびまたは類似物の組み合わせを指す。
【0113】
試験したプライマは、上記の実施例1で説明したように調製した。
【0114】
表4は、試験したさまざまな組成物および好ましいwt%範囲の要約を提供する。
【0115】
【数2】

実施例3
練り顔料調合物例
さまざまな炭素顔料を、ポリアミド/エポキシ水希釈系プライマ練り顔料調合物中で酸性または中性増量剤、あるいは塩基性増量剤、および/または金属リン酸塩、および/またはアミノ酸およびアミノ酸誘導体、および/またはゼラチンおよびゼラチン誘導体、および/または有機系交換樹脂と組み合わせた。いくつかの調合物は、着色剤(例えば二酸化チタン)などのその他の添加剤を含む。一つの実施例調合物を下の表5に示す。その他の調合物も試験した。
表5.プライマ練り顔料調合物
成分 質量(g)
ポリアミド樹脂ブレンド 332
分散剤 5
2−ブタノール溶媒 69
増量剤 384
炭素化合物 48
腐食抑制剤追加分 162g
練り顔料合計: 1000
希土類化合物、アミノ酸およびアミノ酸誘導体、ゼラチンおよびゼラチン誘導体、有機系交換樹脂、およびまたは類似物の組み合わせを指す。
【0116】
試験したプライマは、上記の例1で説明したように調製した。
【0117】
試験したさまざまな組成およびそれらの好ましいwt%範囲の要約については、実施例2の表4を参照すること。
【0118】
実施例4
コーティング例に対する試験結果
これまでの実施例中に記した調合物の多くについて、さまざまな基質上で腐食抵抗性を試験した。用いた腐食評点スケールを表6に示す。調製して評価したプライマ調合物の実施例を表7〜9に示す。
【0119】
出発物質
デフトSrCrプライマ(44GN072)は、カリフォルニア州アーバインに事業所を有するデフト社から入手した。上記のように、レーベン材料およびウルトラII材料は、ジョージア州マリエッタに事業所を有するコロンビア化学社から得た。LHD、U47およびPLD材料は、オハイオ州シンシナティに事業所を有するサン・ケミカルから入手した。Pr11は、カリフォルニア州マウンテンパス(Mountain Pass,California)に事業所を有するモリコープ社(Molycorp,Inc.)か、マサチューセッツ州ウォードヒルに事業所を有するアルファ・イーザー社の両方かから入手した。導電性炭素、非導電性炭素、および活性炭は、マサチューセッツ州ウォードヒルに事業所を有するアルファ・イーザーから入手した。骨炭は、ミシガン州メルビンデールに事業所を有するエボネックス社から入手した。ジェット・ブラックは、イリノイ州フェアビューハイツに事業所を有するエレメンティス・ピグメンツ社から入手した。CaSO・2HOはイリノイ州シカゴのUSギプサム社から入手した。SrSOは、テキサス州ヒューストン(Houston,TX)のエクスカリバー(Excalibar)から入手した。
【0120】
試験手順
種々の金属基板上にコーティングをスプレー塗布し、自然に時間をかけて乾燥(硬化)させた。一般に、これに一週間を要した。試料の辺および背面にテープを貼り、ASTM B117の手順に従って前面に「X」パターンをケガキした。ASTM B117手順に従って、500時間または3000時間のどちらかの試験を実施し、表7に示すケラー(Keller)腐食評点スケールによって結果を評価した。
表6:ケラー腐食評点スケール(ボーイング−セントルイス)、すなわち表8で使用する3000および500時間塩霧評点コード ケガキ線評点説明
1. ケガキ線黒ずみ始めるかまたはケガキに光沢
2. ケガキ線の>50%が黒ずむ
3. ケガキ線黒色
4. ケガキ線中に局所的ないくつかの白い塩の部位
5. ケガキ線中に多数の局所的な白い塩の部位
6. 白い塩がケガキ線を満たす
7. ケガキ線中に暗色の腐食部位
8. ケガキ線に沿ってプライマの下にわずかな水膨れ(<12)
9. ケガキ線に沿ってプライマの下に多数の水膨れ
10. ケガキ線に沿って若干の浮き上がり
11. ケガキに沿ってコーティングのめくれ上がり
12. 有機コーティング表面にピンポイント部位/孔食(直径1/16から1/8インチ−−約0.16cm(0.06インチ)〜約0.32cm(0.13インチ)
13. ケガキから離れた表面に一つ以上の水膨れ
14. ケガキから離れたプライマの下に多数の水膨れ
15. 表面全体で水膨れ開始

ケガキ線活動度(ケガキからの腐食表面移動)
A. 表面移動なし
B. 0から1/64インチ−−約0cm(インチ)〜約0.04cm(0.02インチ)
C. 1/64から1/32インチ−−約0.04cm(0.02インチ)〜約0.08cm(0.03インチ)
D. 1/32から1/16インチ−−約0.08cm(0.03インチ)〜約0,16cm(0.06インチ)
E. 1/16から1/8インチ−−約0.16cm(0.06インチ)〜約0.32cm(0.13インチ)
F. 3/16から1/4インチ−−約0.2cm(0.48インチ)〜約0.5cm(0.25インチ)
G. 1/4から3/8インチ−−約0.6cm(0.25インチ)〜約0.95cm(0.38インチ)
【0121】
【数3】

【0122】
【数4−1】

【0123】
【数4−2】

【0124】
【数5−1】

【0125】
【数5−2】

最小許容腐食抵抗性は、用途によって変わる。しかし、上記のように、良好な腐食抵抗性は、「2」、「4」と「A」、優れた腐食抵抗性は、少なくとも「1」と「A」との読み値であるとされる。上記の結果が示すように、腐食抑制炭素顔料含有コーティングの多くは、これらのテストで非常によい性能を示した。
【0126】
実施例5
自己プライマトップコート基材調合物の例
金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属硝酸塩、および/または金属ケイ酸塩および類似物などの一つ以上のIA族またはIIA族、および/またはイットリウム、および/またはランタニド化合物、およびオプションとして、一つ以上の希土類化合物、金属酸化物、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アニリン、ポリアニリンおよび類似物などの補助抑制剤を含む自己プライマ化トップコート基材調合物を調製した。調合物の例を下の表10に示す。その他の調合物も調製し試験した。
表10. 自己プライマトップコート基材調合物
成分 質量(g)
ポリエステル樹脂ブレンド(バインダ ) 307
分散剤 2
ケトンおよびエステル溶媒 123
添加剤 7
着色顔料 265
中性ないし酸性増量剤および/または 29
腐食抑制顔料
基材合計: 1000。
【0127】
実施例6
強化自己プライマトップコート基材調合物
金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属硝酸塩および/または金属ケイ酸塩およびその類似物などのIA族またはIIA族、および/またはイットリウム、および/またはランタニド化合物、およびオプションとして、希土類化合物、金属酸化物、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アニリン、ポリアニリン、その他類似物などの一つ以上の補助抑制剤を含む強化自己プライマトップコート基材剤形を調製した。調合物の例を下の表11に示す。
表11.強化自己プライマトップコート基材調合物
成分 質量(g)
ポリエステル樹脂ブレンド(バインダ) 130
フッ素化樹脂ブレンド(バインダ) 240
分散剤 6
ケトン溶媒 77
VOC除外溶媒 5
着色顔料 45
腐食抑制顔料 310
増量顔料 74
基材合計: 1000。
【0128】
本発明に従って、本明細書で説明した基材剤形を用いて、直接金属コーティングおよび強化直接金属コーティングを調製した。コーティング組成物は、イソシアネート触媒、すなわちカリフォルニア州アーバインに事業所を有するデフト社から市販されているイソシアネート溶液97GY088CATなどの二部調合物を含んでいた。例として本明細書に示す金属直接コーティングおよび強化金属直接コーティングは、上記で説明した基材調合物中に適切な量のイソシアネート触媒を適切に撹拌することによって調製した。生成するコーティングの適当な硬化および架橋を保証するために供給者が推奨する量に従って、コーティング組成物中に含まれる量のイソシアネート触媒を加えた。コーティング混合物の調製を容易にし、十分な塗布性を提供し、環境的に許容できる塗料を提供するように、本発明のコーティングシステムの調製に使用する溶媒を選んだ。
【0129】
基材およびイソシアネート触媒を混合したら、直接金属コーティングおよび強化直接金属コーティングは基板であった。ASTM B117手順に従って、1000、2000または3000時間のどれかで、さまざまな試料調合物に対して、試験を実施した。ケラー腐食評点スケールに従って、結果を評価した。調製し評価したコーティング調合物の例を下記に示す。
【0130】
試験手順
試験するコーティング組成物を種々の金属基板に吹き付け、時間をかけて、一般に約1週間自然に乾燥(硬化)させた。試料の辺および背面にテープを貼り、ASTM B117の手順に従って前面に「X」パターンをケガキした。結果を表12〜14に示す。
【0131】
【数6】

【0132】
【数7】

【0133】
【数8−1】

【数8−2】

表12〜14に示したように、強化自己プライマトップコート中に希土類腐食抑制剤とともに増量剤を組み込むと、良好な、あるいは、優れた性能を有するコーティング組成物が得られる。表14に示したように、希土類腐食抑制剤と組み合わせた増量剤は、強化自己プライマトップコート中に組み込まれたとき、最善の腐食抵抗性を提供する。表12に示したように、トップコート中に腐食抑制剤を直接組み込み、非クロムプライマ上に塗布すると、表14に示したコーティングの性能には及ばないコーティングシステムが得られる。表13に示したように、増量剤および希土類化合物腐食抑制剤を有する自己プライマトップコートの腐食抵抗性は、表12に示した非クロムプライマおよびトップコート調合物の性能に匹敵する。従って、本発明によると、自己プライマトップコート組成物は、プライマを使わずに、非クロムプライマおよびトップコートを用いるシステムと類似の性能を実現することができる。さらに、表14に示したように、強化自己プライマトップコートは、非クロムプライマとトップコートとを合わせたシステムより優れた性能を発揮し、従ってインターコート重合体コーティングまたはプライマを必要とすることなく、単回コートシステムとして、より良好な腐食保護を提供する。従って、強化自己プライマトップコートは、優れた耐候性および耐久性、ならびに下地の基板に保護を提供するために必要な腐食抵抗性を有する。
【0134】
さらに、本発明によるコーティング組成物は、非クロム含有であり、現在知られているクロム含有コーティングシステムより環境的に優れている。最後に、自己プライマトップコートおよび強化自己プライマトップコート組成物は、インターコート重合体コーティングまたはプライマを必要とすることなく、単回コーティングシステムとして腐食保護を提供し、従って工業製品、消費者向け製品、および軍用部品および商品を製造する生産時間およびコストを最小化する。
【0135】
結論
本明細書で示したように、腐食抑制炭素顔料を添加すると、さまざまなコーティング組成物の腐食抑制性が改善される。腐食抑制炭素顔料が機能する正確な機構は不明であるが、腐食抑制炭素顔料が存在すると、ほとんどの場合に、コーティングシステムの腐食抵抗性が改善されることを見いだした。特定の界面活性剤で分散したカーボンブラックおよび/または樹脂で分散したカーボンブラックも有益なことがあるが、それらの存在が他の顔料成分を分散させる助けとなることもある。
化学的および機械的安定性、良好な伝導性、表面反応速度に合わせられる広範な構造形の利用可能性、表面を化学的に改質できることおよび比較的低いコストのために、炭素は、電解プロセスで陽極または陰極として効果的に使用できることも知られている。電極として用いられることが報告されている炭素のいくつかの形は、さまざまなグレードおよび空げき率の黒鉛、ガラス状炭素および熱分解黒鉛、網状炭素、炭素繊維、球体およびフレーク、表面改質炭素および層間化合物炭素を含む。
【0136】
半電池反応で直接に使用されなくても、炭素は他の化学反応および電気化学反応を促進する優れた基板として作用する。さらに、既に説明した開放構造によって、その点に存在する抑制剤化学種に、腐食が開始されるかもしれない部位に到達する効果的な輸送路を提供することができるであろう。
【0137】
従って、改善された腐食保護および改善された総合的な電気化学的活性を提供する原因となる炭素質物質の一つの特徴は、酸素還元のための大表面積分極剤としてのものであると推測される。この機構では、炭素は、局所的な負極として機能し、塗料に加えられた無機抑制剤化学種の酸化および活性を増大させると考えられる。炭素の吸着特性も、増大する腐食の原因となるすべての不純物を捕集する部位を提供することができるであろう。
従って、腐食からの直接の化学的または電気化学的な保護を炭素が提供するとは期待されないし、実際、この点に関しては有害であり得る(米国特許第4,544,581号明細書を参照)と思われていたのであるが、本発明は、適当な状況では、炭素は金属表面の長期腐食抑制性に顕著な援護を与える適当な環境を提供することがあり得ることを初めて実証する。クロム酸塩、ナルザンTM、ブサンTM、ハロックスTM、モリホワイトTM、導電性重合体、および類似物などの従来の塗料抑制剤とともに存在するとき、このことが特に成立することがある。全体的な腐食抑制活性を改善することが塗料中の成分としての炭素の主な役割である。本発明は、クロム酸ストロンチウム等などのクロム酸塩を有しないという一層の利点を提供し、従って、現在知られているクロム含有コーティングシステムより環境的に優れている。
【0138】
すべての出版物、特許および特許出願は、参照によって本明細書中に組み込まれる。ここまで説明した明細書では、本発明の一定の好ましい実施態様に関連して本発明を説明し、説明を目的として数多い詳細を明らかにしたが、本発明に新たな実施態様を加えることができること、および本発明の基本原理から逸脱することなく本明細書において細部を著しく変えることができることは、当業者には明らかであろう。従って、本発明は請求項および請求項の等価物によってのみ限定されることを明らかにしておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明

【公開番号】特開2010−209356(P2010−209356A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138791(P2010−138791)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【分割の表示】特願2006−501003(P2006−501003)の分割
【原出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(505267511)ユニバーシティー オブ ミズーリ キュレーターズ (4)
【Fターム(参考)】