説明

炭素14測定試料の調製方法と装置

【課題】乾留炭化物と金属リチウムの真空加熱反応により、リチウムカーバイドを調製し、引き続きアセチレンガスを生成する化学処理工程において、リチウムカーバイドの収率向上と操作時間短縮が課題であった。
【解決手段】乾留炭化試料中の全炭素量に対して、化学量論的に必要な重量の2〜4倍の金属リチウムを投入することにより、乾留炭化試料中の炭素以外の不純物元素との反応での消耗および操作中の蒸発・散逸による消耗をカバーし、リチウムカーバイドを調製する方法。および、この方法を実施するための反応管を迅速に着脱出来る構造のリチウムカーバイド・アセチレン調製装置。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は液体シンチレーション計数装置による木片、炭化物等試料中の炭素14(以後14Cで表す)濃度測定に対応する、化学処理法とそれを実現するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
14C濃度測定を液体シンチレーション計数法で行う場合、試料を化学処理によってリチウムカーバイドを経由し、ベンゼンに変換する調製工程を採ることが多い。その場合、試料の乾留炭化から燃焼、炭酸塩化、炭酸ガス発生、リチウムカーバイド、アセチレンそしてベンゼン調製までの化学処理工程からなる。これらの工程のうち燃焼は試料から炭素のみを抽出するための工程であり、炭酸塩化は抽出炭素を一時保存するための工程。また、ベンゼンは常温で液体であり、その分子量に占める炭素重量が多く、液体シンチレーション計数法の測定に適しているため用いられる。(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、図2参照)
【0003】
前述した化学処理工程のうち、燃焼、炭酸塩化、炭酸ガス発生工程を省略して乾留炭化物を金属リチウムと真空中、高温で直接反応させてリチウムカーバイドを得る方法も行われている。(例えば、非特許文献4、非特許文献5、図3参照)
【0004】
【非特許文献1】富樫茂子、松本英二:地質調査所月報,34,513−527(1983)
【非特許文献2】科学技術庁:“放射性炭素分析法”,44−63(1993)
【非特許文献3】磯貝啓介:日本分析センター広報,24,56−62(1994)
【非特許文献4】村中 健、本田和也:RADIOISOTOPES,47,212−215(1998)
【非特許文献5】VADIM V.SKRIPKIN and NIKORAI N.KOVALIUKH:RADIOCARBON,Vol.40,No.1,211−214(1998)
【発明の開示】

【発明が開示しようとする課題】
【0005】
乾留炭化物とリチウム金属から真空加熱反応によりリチウムカーバイドを生成する場合、操作時間の短縮とリチウムカーバイドの収率向上とが課題である。
【0006】
操作時間の短縮と収率向上という課題に対処するために構造が単純で、調製操作の容易な装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リチウムカーバイドを生成する反応式は
【化1】
2C+2Li→Cであり、炭素重量が決まれば化学量論的に必要なリチウム重量が決まる。しかし、実際には乾留炭化物は炭素のみではなく、水素、窒素、酸素を有機物の形で含んでおり、このような不純物元素と金属リチウムとの反応を考慮する必要があり、また、調製操作中のリチウム金属の蒸発・散逸による消耗を考慮することも必要である。そこで、乾留炭化試料が全量炭素としてリチウムカーバイド生成反応の化学量論から求まる金属リチウム重量の2〜4倍投入する。
【0008】
リチウムカーバイド・アセチレン調製系と真空排気系を軟体製ホース、金属ベローズなどで接続し、容易に着脱が可能な構造とする。
【発明の効果】
【0009】
乾留炭化試料が全量炭素であるとしてリチウムカーバイド生成反応の化学量論から求まる金属リチウム重量の2〜4倍を投入することにより、試料ごとに最適乾留条件を調査することなく、反応温度、反応時間を一律に設定してリチウムカーバイドの生成収率を向上できる効果がある。
【0010】
反応管の迅速脱着可能構造により試料化学処理能率を向上する効果がある。
【実施例】
【0011】
図1にリチウムカーバイドおよびアセチレン調製装置1を示す。リチウムカーバイド反応管2上部に、アセチレン収集・ベンゼン合成系13への接続配管、真空計11およびトリチウムフリー水12との接続配管が配置された反応管蓋3が配置されている。
【0012】
以下にリチウムカーバイド・アセチレン調製装置の操作方法を示す。リチウムカーバイドの調製は反応管2に乾留炭化試料4と金属リチウムロッド5を詰め込み、金属リチウムの融点180℃以下で、真空排気しながら1時間以上、乾留炭化試料の脱ガスをおこない、その後、バルブ7、8を閉じて800℃で2〜3時間保持する。
【0013】
その後、電気炉6を取り外し、空冷して反応管2の温度を下げ、トリチウムフリー水12を真空計11で滴下量をモニターしながら、始めは少なく、次第に滴下量を増やし、アセチレンの発生を行い、発生したアセチレンはその都度、アセチレン収集・ベンゼン合成系13に送られる。
【0014】
アセチレンの発生操作が終了したらバルブ9を閉じ、軟体製ホース10をはずしてリチウムカーバイド・アセチレン調整装置1をアセチレン収集・ベンゼン合成系13から切り離し、さらに反応管2と反応管蓋3部分を分離して各部分のクリーニングをおこなう。クリーニング作業は毎回必要なのでリウムカーバイド・アセチレン調製装置を迅速に着脱できる構造とした。
【0015】

セチレン生成収率は平均して52.5%であり、収率の低い原因は乾留炭化物が炭素以外の有機物を含むためと推定した。(非特許文献4)
【0016】
この実施例の場合、乾留炭化試料重量4.8g、金属リチウム10gであり、
【化1】
から乾留炭化試料4.8gが炭素のみとすると、化学量論的に必要な金属リチウム重量は、2.8gとなり、投入量はその3.6倍であった。
【産業上の利用可能性】
自動車排ガス中の炭酸ガスは14Cを含まない。そのため、車道近傍に生育して自動車排ガスの影響を受けている植物は14C濃度が低いことが想定され、植物中の14C濃度は自動車排ガスの環境影響を示す指標として有効である。また、産業廃棄物投棄現場付近の環境指標となる可能性もある。したがって、今後、14C濃度測定の機会は増加すると考えられ、本調製方法が利用される可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】リチウムカーバイド・アセチレン調製装置
【図2】燃焼、炭酸塩化工程を含むリチウム−ベンゼン法のブロック図
【図3】乾留炭化物と金属リチウムの直接反応によるリチウム−ベンゼン法のブロック図
【符号の説明】
図1について
1はリチウムカーバイド・アセチレン調製装置
2は反応管
3は反応管の蓋
4は乾留炭化試料
5は金属リチウム
6は電気炉
7〜9はバルブ
10は軟体製ホース
11は真空計
12はトリチウムフリー水
13はアセチレン収集・ベンゼン合成系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾留炭化物と金属リチウムを真空中で加熱してリチウムカーバイド(Li)を調製する化学操作において、乾留炭化物中の全炭素重量に対して、化学量論から定まる以上の金属リチウムを投入することを特徴とする炭素14測定試料の調製方法と装置。
【請求項2】
投入する金属リチウム重量は乾留炭化物中の全炭素重量により化学量論から定まる金属リチウム重量の2〜4倍であることを特徴とする請求項1の炭素14測定試料の調製方法。
【請求項3】
リチウムカーバイド・アセチレン調製系と、それに接続するアセチレン収集・ベンゼン合成系とを迅速に着脱できることを特徴とする請求項1の炭素14測定試料の調製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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