説明

炭酸カルシウムの製造方法

【課題】クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液に、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液を添加してこれを苛性化した際に生成する石灰スラッジから、塗被紙用顔料として使用可能な不純物の含まれない高白色度の炭酸カルシウムを取得する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液にて苛性化し生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって石灰スラッジを乾燥させると共に、これを乾式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液に、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液を添加してこれを苛性化した際に生成する石灰スラッジから、塗被紙用顔料として使用可能で、スラリー分散性の良い高白色度の炭酸カルシウムを取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、塗被紙用顔料として、あるいは製紙用填料として、従前から広く使用されているが、この種の炭酸カルシウムは、化学的に合成して得られる軽質炭酸カルシウムと、天然より産出する石灰石を湿式粉砕した重質炭酸カルシウムとに大別することができる。軽質炭酸カルシウムは、炭酸ガス法によって製造するのが一般的であり、反応条件を変化させることによって、粒子径や形状をコントロールできる利点があるものの、重質炭酸カルシウムに比較して高価である。一方、重質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムより安価であるばかりでなく、塗被組成物に高配合してもその塗工作業に支障をきたさないため、塗被紙用顔料として多用されている。
【0003】
ところで、炭酸ガス法を代表例とする合成法や天然鉱物に頼らない炭酸カルシウム源としては、クラフト法によるパルプ製造工程で副生される緑液を、生石灰にて苛性化した際に生成する石灰スラッジがある。この石灰スラッジは、不定形の炭酸カルシウム粒子が凝集した塊状物であり、その主成分は炭酸カルシウムであるので、夾雑物を全く含まないまたは殆ど含まない石灰スラッジとして精製させることができれば、これを適宜粉砕することにより、製紙用填料として、あるいは高濃度で粉砕することにより塗被紙用顔料として使用可能な高白色度の炭酸カルシウムを得ることができる。
【0004】
緑液を生石灰で苛性化した際に生成する石灰スラッジに、夾雑物を持ち込まないようにする従来技術としては、緑液の苛性化に先立ち、当該緑液中に空気を吹き込み、夾雑する遊離カーボンなどの黒色浮遊物を凝集させて緑液を清澄化させる方法が、既に提案されている(特許文献1参照)。しかし、空気吹き込みによって凝集させ得る成分は、緑液中の夾雑物の一部でしかないので、この方法では、高品質の炭酸カルシウムを回収する上で一定の限界がある。
【0005】
また、下記の特許文献2には、製紙用填料に使用できる炭酸カルシウムを、上記の石灰スラッジから製造する方法として、石灰スラッジに夾雑するシリカ及び不溶解物質含有量を所定量以下とし、シリカや不溶解物質の少ない石灰スラッジを粉砕することが開示されている。そして、シリカや不溶解物質の少ない石灰スラッジを取得する方法として、静置またはろ過手段による緑液の清澄化が記載されている。しかしながら、この特許文献2は、緑液の清澄化をどの程度進めれば着色夾雑物が少ない高品質の炭酸カルシウムからなる石灰スラッジが得られるかを具体的に教示していない。
【0006】
さらにパルプ製造工程で得られる緑液を、緑液200gを孔径1μmのガラス繊維製ろ紙に通過させ、ろ紙上に残るろ過残渣乾燥物を分光白色度測色計で測定した明度が50以上に保持されるよう、清澄化処理する工程と小粒子化された石灰スラッジのスラリーを、アルカリ成分の除去を目的とする水洗工程に供給し、排出されるろ液のpHが11.0以下になるまで洗浄し且つ脱水する工程を組み合わせ、塗被紙用顔料を精製しようとする方法が提案されているが、苛性化工程は複雑であり、以降の工程からも不純分は混入するため、この方法によっても塗被紙用顔料として必要とされる白色度に到達することは困難である(特許文献3参照)。
【0007】
さらに、下記の特許文献4には、緑液を65℃以上の温度でろ過して緑液に含まれる固形不純物を予め除去した後、ろ液に相当する緑液に生石灰を加えて消和を行って未反応物質を除去し、しかる後、液中の炭酸カルシウムを粉砕または粉砕することなく回収し、これを80℃以上の温水で洗浄した後、粉砕処理と酸化剤による漂白処理を施すことからなる炭酸カルシウムの回収方法が記載されている。しかし、この方法は、回収する炭酸カルシウムの粒度が微細すぎて、苛性化本来の目的つまり白液製造に大きな難点が生じてしまうという欠点がある。このようなことから、その実用化は困難である。
【0008】
さらに、下記の特許文献5には、クラフト蒸解パルプの製造に際して、苛性化工程から得られる塊状の石灰スラッジを水中に分散し、濃度20〜70質量%となるように調整後、湿式粉砕処理する記載がなされているが、水中に分散し、20〜70質量%の濃度にしてしまうと、濃度が低すぎて塗工用に用いることは難しくなり、後工程として脱水、乾燥工程を付加するとなると経済的に大きな負担を要するものであった。
【0009】
さらに、工程中の消和、苛性化反応の部分で、再利用のための別ラインを形成し、反応を制御して微細な炭酸カルシウムを得て、これを填料用などに用いる記載がなされているが、苛性化工程から別ラインを作るという大きな設備投資が必要となると同時に、塗工層用の顔料として用いる場合には、その濃度を高くする必要があるために、後工程として脱水、乾燥工程を付加する必要があり、工業的には具体性を欠いた方法であった(特許文献6〜8参照)。
【0010】
さらに、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって乾燥させ、この乾燥したものを使用することも考えられるが、この方法では、乾燥したスラッジは凝集力が通常の乾燥前の含水スラッジよりも強いため、スラリーでの分散性が悪いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−53112号公報
【特許文献2】特開昭61−179398号公報
【特許文献3】特開2004−26639号公報
【特許文献4】特開昭61−183120号公報
【特許文献5】特開2001−98482号公報
【特許文献6】特開平10−226517号公報
【特許文献7】特開平10−226974号公報
【特許文献8】特開平10−292283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点を考慮すると共に、クラフト法によるパルプ製造工程で副生される石灰スラッジの性状、特にこれに夾雑する成分の種類や量が、蒸解する木材の種類やパルプ廃液である黒液の濃縮物を燃焼させる際の燃焼条件や補助燃料の種類などによって変化することにも配慮して、石灰スラッジに夾雑する着色成分の種類や量が変化しても、常に着色夾雑物が少ない石灰スラッジを回収することができ、さらにこの工程をプロセスの廃熱回収工程設備で乾燥を行い引き続き乾式粉砕処理を施すことにより、塗被紙用顔料として使用可能な、白色度が90%以上であるスラリー分散性の良い高白色度の炭酸カルシウムを容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液にて苛性化し生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって石灰スラッジを乾燥させると共に、これを乾式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法である。
前記石灰スラッジを、粒度分布の標準偏差で4.0μm以下に乾式粉砕すると好ましい。また、前記石灰スラッジをフラッシュドライヤーで乾燥させる際に、300℃以下の乾燥温度で乾燥させると好ましい。
さらに、前記炭酸カルシウムの白色度が90%以上であり、かつ、前記炭酸カルシウムに分散剤を添加し、固形分濃度75質量%で分散し、分散後の粘度が650mPa・s未満であると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、苛性化工程で副生する石灰スラッジから高品質の炭酸カルシウムを得、高能率の塗工を可能にする高濃度塗工用顔料として利用できるようになる。さらに、粒度分布の標準偏差で4.0μm以下に乾式粉砕することにより、スラリーの分散性が向上し、ハンドリングや経済性の観点から優位な、より高品質の炭酸カルシウムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
クラフト法における緑液に生石灰または消和液を加えて生成される石灰スラッジは、通常、パルプ製造工程に使用される白液(水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を主成分として含む)から分離され、次いで弱液(アルカリ成分)の回収を目的として、1段の希釈脱水洗浄工程に付されるのが通常である。これまで提案されている苛性化工程から副生する石灰スラッジの精選方法は希釈、あるいは置換洗浄方法にのみよっており、未然カーボンなどの不純分は本来不溶性であり、上記の方法では塗被紙用顔料として使用する高白色度の炭酸カルシウムは精製できない。
【0016】
本発明に係る炭酸カルシウムの製造方法は、これらクラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、消和生石灰液にて苛性化し、生成する石灰スラッジを固液分離して炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程とアルカリ成分の回収工程を経た後、フラッシュドライヤーによって乾燥した石灰スラッジを得、これを乾式で粉砕することを特徴とする。
【0017】
さらに、石灰スラッジを、粒度分布の標準偏差で4.0μm以下に乾式粉砕することを特徴とする。ここでいう標準偏差とは、粉体の粒度分布の拡がりを示す指標として一般的に使われているもので、粒度分布を正規分布と見なし、積算分布の84%粒子径(D84)から16%粒子径(D16)を減じ2で除した数値である。すなわち、SD(標準偏差)=(D84−D16)/2で表される。
【0018】
最初に、木材チップから紙の素材となるパルプ繊維を製造するプロセスを概説する。クラフト法によるパルプ製造プロセスでは、苛性ソーダと硫化ソーダを主成分とする蒸解薬液を収めた蒸解釜中で、木材チップが高温・高圧下にて蒸煮される。この蒸煮によって、木材に含まれるリグニンなどの成分は蒸解薬液に溶出され、目的物であるパルプ繊維はこの薬液に分散した状態で蒸解釜から取り出されるので、これを固液分離することにより紙の素材となるパルプ繊維が取得される。そして、固液分離によりパルプ繊維から分離されたパルプ廃液(黒液と呼ばれる)は、薬品回収及び熱回収の目的で、多重効用缶などで濃縮され、黒液回収ボイラーで燃焼せしめられる。
【0019】
濃縮黒液の燃焼で生成するスメルト(炭酸ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする無機溶融物)を、後述する弱液に溶解させたものがいわゆる緑液であって、通常のパルプ製造プロセスでは、この緑液に含まれるドレッグス(不溶性夾雑物)を沈降分離し、ドレッグスが分離除去された緑液は、これに生石灰を投入する苛性化工程に供され、当該工程で生起する消和反応と苛性化反応により石灰スラッジが生成される。通常の工程ではこの消和反応と苛性化反応は同時に行われる。
【0020】
次にこの石灰スラッジを含むスラリーを固液分離し、その液状成分に含まれる水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムは、白液として木材チップの蒸解に再利用される。一方、液状成分から分離された石灰スラッジは、ロータリーキルン、カルサイナーなどで焼成されて生石灰に転化し、その生石灰は緑液の苛性化工程に循環使用される。分離されたドレッグスや石灰スラッジを洗浄した際に得られる液状成分は弱液として、上記したスメルトの溶解に使用される。
【0021】
連続操業されている通常のパルプ製造プロセスでは、蒸解工程で消失するナトリウム分及び硫黄分を補う目的で、例えば、硫酸ナトリウムを添加することと、緑液の苛性化に使用する生石灰が不足している場合には、これを系外から補充することを除いて、蒸解に必要な薬品は、緑液の苛性化工程で回収される白液で賄い、緑液の苛性化に必要な生石灰は、当該苛性化工程で生成される石灰スラッジの焼成物で賄うのが一般的である。
【0022】
しかし、パルプ製造プロセスで副生される石灰スラッジを炭酸カルシウムの供給源として考えた場合、特に紙用の填料、顔料として使用されるに必要な白色度が高い炭酸カルシウムの供給源として考えた場合には、ドレッグス成分にかなり含まれる有色の未燃カーボンや金属塩が炭酸カルシウムの白色度に大きく影響することから、石灰スラッジに含まれるドレッグス成分の除去が極めて重要である。石灰スラッジよりこのドレッグス成分を洗浄などの方法により分離精選して炭酸カルシウムとして再生する提案がなされているがドレッグス成分は基本的に不溶性であり希釈洗浄、あるいは置換洗浄などの方法はドレッグス成分の分離精選には無力である。
【0023】
紙パ産業ではロングロータリーキルンに対し一般的に設備設置負荷の低いショートロータリーキルンが設置される。このショートロータリーキルンではその排ガス温度は300〜450℃の高温に達する。熱経済の上からもロングロータリーキルンと同様に排ガス温度を低下させ熱能率を上げると共にロータリーキルンの焼成能力を増加させる目的でフラッシュドライヤーが釜尻に設置される。水分35〜40質量%の石灰スラッジケーキをコンベアーにてダブルパドルミキサーに送り、この中でフラッシュドライヤーより送られる水分1〜2質量%の乾燥石灰と共に十分に混合撹拌され、水分10〜13質量%に減湿される。こうして減湿された石灰スラッジはデバイダーにて振り分けられ、一部はスクリューコンベアーにてキルンに供給焼成され、残りはケージミルに送られる。
【0024】
ケージミルは回転翼列を有する一種の破砕機で、ケージミルに送られた石灰スラッジは細かい粒子に破砕されると同時にキルンからの高温排気ガス(300〜450℃)と十分撹拌され石灰の水分は急激に除去される。この石灰は水蒸気及びガスと共にミル内より乾燥管を通りフラッシュドライヤーにて水蒸気及びガスが捕集分離される。フラッシュドライヤーにて捕集された石灰はエアーロックフィーダーを経てミキサーに帰る。フラッシュドライヤーよりの排ガスは排風機及び集塵機を通って大気へ放出される。集塵機にて回収されたダストは石灰スラッジとして再び石灰スラッジ洗浄槽に戻す。
【0025】
本発明は、高熱温風を使用したフラッシュドライヤーを通過することによって、石灰スラッジが乾燥すると共に、そのスラッジに含まれる未燃カーボンなどの不純物が完全に分離され、清浄化しているという性状に着目し、塗被紙用顔料として利用することを要件とする。
【0026】
本発明でいうフラッシュドライヤーとは、いわゆる遠心力を利用した気流式サイクロン分離装置を備えた排熱回収装置のことである。本発明で用いられるフラッシュドライヤーは、高熱熱風を使用して石灰スラッジを乾燥しつつ分級を行えるサイクロンであれば、一般に使用されるものを問題なく使用できる。この際、高温熱風の供給源には特に制限はなく、任意の装置が使用できる。また、キルン釜尻からの廃熱なども利用できる。
【0027】
緑液の苛性化には、パルプ製造プロセスで常用されている反応条件を採用することができ、この苛性化により石灰スラッジが生成する。ここで得られた石灰スラッジの分散液(石灰乳)は、白液を回収する目的で固液分離され、次いでアルカリ成分の回収を目的として、固液分離された石灰スラッジを水に再分散して脱水し、ここで得られたろ液は弱液として再使用される。このための脱水機には、ベルトフィルター、ドラムフィルター、ディスクフィルター、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、またはこれらを加圧条件下で行う装置が挙げられる。これら脱水機から適宜選択された装置の一種を単段で用いることにより、目的とする白液とアルカリ成分の回収を行うのが従来の慣行である。
【0028】
しかしながら、アルカリ成分の回収を主目的とした脱水洗浄(弱液が得られる)では石灰スラッジに随伴する未燃カーボンなどの不純分を十分に除去することができないので、白色度の高い塗被紙用炭酸カルシウムの取得を目指す本発明は、弱液から分離された石灰スラッジを、気流式サイクロンをシステムに含む高熱温風を使用したフラッシュドライヤーに通すことによって乾燥させると共に、未燃カーボンなどの不純物を完全に分離、清浄化するものである。
【0029】
白液を分離し、清水で洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは通常80質量%以上の濃度を有する。清水で洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは、ドラムフィルターなどの減圧ろ過装置などで脱水され、80質量%以上の濃度まで濃縮されるが、塗被紙用炭酸カルシウムとして使用することを考えると、不純物の除去を行う工程で希釈する必要性があり、そうしたとすると、ある程度の濃度まで再度濃縮しなくてはならない。
【0030】
このような観点から、一度乾燥させ、その後、不純物を分離することが、その後の工程に有利であるが、清水などで洗浄した苛性化処理後の石灰スラッジは通常20質量%前後の水分を有しているため、十分に乾燥するにはかなりのエネルギーコストが必要になり、好ましくない。本発明は、上記のようなこれまで提案されている方法の限界を新たな着想で解決するものである。
【0031】
高熱温風を使用したフラッシュドライヤーを用いることにはその他の重要な理由が含まれる。苛性化処理後の石灰スラッジに含まれる白色度を低下させる要因について調査した結果、蒸解工程で発生する未燃カーボンと無機化合物であることが明らかとなった。未燃カーボンは説明するまでもなく黒色であるがゆえに白色度を低下させるし、緑色や黒色を呈する硫黄化合物を主体とした無機化合物の存在も白色度を低下させる原因である。
【0032】
検討した結果、未燃カーボンは粒子径が小さく、炭酸カルシウムよりも比重が小さいため、気流式サイクロンを構造として有するフラッシュドライヤーを通すことで容易に分離可能であることが判明した。また、無機化合物に関しては、加熱処理を行うことで分解され、発色がなくなることが判明した。即ち、高熱温風を使用したフラッシュドライヤーを経由することにより、未燃カーボンは比重差から容易に分離可能になるし、排熱を利用することにより、加熱乾燥が達成され、一方、加熱処理が同時に行われることにより、緑色や黒色を呈する無機化合物が分解され、無色な無機化合物になることで、白色度が向上することが明らかとなった。また、その他に石灰スラッジに含有される未燃カーボンなども、乾燥される脱水工程で、水分と一緒に除去されることにより、より純度の高い炭酸カルシウムを得ることが可能となる。この結果、白色度が90%以上となる炭酸カルシウムが得られる。
【0033】
高熱温風の温度は特に制限はないが、あまりに高温すぎると炭酸カルシウムが脱炭酸反応を生じ、酸化カルシウムに分解されてしまうので好ましくなく、逆に低温すぎても未乾燥となるし、上記のような白色度を低下させる無機化合物の分解が促進されないので好ましくない。フラッシュドライヤーで用いられる高熱温風の温度としては500℃以下が好ましく、150〜300℃の範囲がさらに好ましい。この温度範囲で使用することで、石灰スラッジの水分を完全になくし、完全に乾燥化した炭酸カルシウムを得ることができるし、同時に、白色度を低下させる無機化合物の分解を促進し、未燃カーボンを除去することが可能となる。
【0034】
このようにして得た乾燥石灰スラッジには従来の湿った石灰スラッジにはない塗被紙用顔料として利用する上で好適な性質が種々あることは上記した。しかし、このまま利用するとその利用範囲は填料用途などに限られる。なぜなら、このような石灰スラッジ粒子は苛性化反応の結果形成される多孔体粒子であり、さらに石灰スラッジ中に微量に水酸化カルシウムが含まれていることなどにより、水性でスラリー化しようとする場合その液の粘度が高くなり、スラリー化時の希釈液を多く要するため、近年、紙塗工で主流の調整水の少ない高濃度塗工用の顔料としては利用できないからである。
【0035】
このことを以下のようにして解消した。石灰スラッジは2μmほどの小粒子が凝集した結果30μmほどの多孔体粒子となっている。この2次凝集した石灰スラッジを2〜3μmの1次粒子に粉砕することは容易で、強い粉砕力を与えずして可能である。
【0036】
石灰スラッジを粉砕することにより、スラリー化した時に容易に固形分濃度で、75質量%程の濃度で分散が可能になる。この濃度で分散が可能であることは紙用塗被液の高濃度化を可能にする。本発明の炭酸カルシウムは、分散剤を添加し、固形分濃度で75質量%で分散後、650mPa・s以下に制御することができる。
【0037】
さらに、この2次凝集した石灰スラッジを、粒度分布の標準偏差で4.0μm以下に乾式粉砕することにより、同じ平均粒子径でも、スラリーでの分散性が大幅に改善され、分散剤添加量の低減も図れる。この点については、フラッシュドライヤーを通すことによって得られる乾燥した石灰スラッジの場合、高温での乾燥の際、粒子表面に脱炭酸化に伴う生石灰やぼう硝等が生成して固くなっており、凝集性が強まり分散性が悪い。この乾燥した石灰スラッジを粉砕する際、粒度分布のよりシャープな方すなわち標準偏差の小さい方が、凝集性が強く残留した粗粒が少なく、かつ粒子が均一な方が分散剤の効果が発揮されやすいことより、著しくスラリー分散性が向上するものと推定される。
【0038】
石灰スラッジの粉砕に要する手段としてはジェットミル、アトライター、ロールミルなど乾式で運用する既往の粉砕機を使用することができる。特に、粒度分布のシャープな粒子を提供するには、ジェットミル方式が有効であり、粉砕機に内蔵される分級機の調整により調整することが可能である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、例中の%表示は白色度の数値以外は質量%を示す。
【0040】
実施例1
(石灰スラッジ作製)
パルプ製造プロセスにおいて、濃縮黒液の燃焼によって得られるスメルトを弱液に溶解させて緑液を調製し、ステンレスビーカーに収め、オイルバス中で104℃まで加温した。次いで生石灰を緑液1リットル当り70gの割合で緑液に混合し、104℃で2時間、消和・苛性化反応を行って石灰乳を得た。白液回収を目的として、この石灰乳をポリプロピレン製ろ布にて吸引ろ過し、ケーキ固形分濃度が80質量%の石灰スラッジを得た。
【0041】
(フラッシュドライヤー処理)
次に、得られた石灰スラッジを小型のラボ用気流式フラッシュドライヤーに通した。フラッシュドライヤーの処理は分離される不純分の固形分が投入した全量の2.5質量%が廃棄されるように実施し、この時の熱風の温度は330℃で行った。
【0042】
フラッシュドライヤー処理前後の白色度と水分値、平均粒子径、標準偏差を以下の方法にて測定した。
[白色度]:
得られた炭酸カルシウム粉末を真ちゅう製の型枠に入れ、鏡面処理を施した平板を型枠の上に置き、70kgf/cmで30秒間プレスしてペレット状とし、分光白色度測色計(SC−10WN、スガ試験機社製)を用いて鏡面にあたっていた側のペレットの白色度を測定した。なお、白色度測定に際しては、D65光源、10度視野の条件を用いた。
[水分値]:
得られた炭酸カルシウム10gを100℃の乾燥機で30分乾燥させ、乾燥前後の質量差から、炭酸カルシウムの水分値を測定した。
[平均粒子径、標準偏差]:
マイクロトラック社製MT3000にて、50%平均粒子径及び標準偏差を計測した。
【0043】
(粉砕処理)
次に、この乾燥石灰スラッジをターボミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)にて、平均粒子径6μm、標準偏差5μmに粉砕した。この石灰スラッジ200gを投入し、分散剤(アロンT40、東亞合成社製)固形分濃度で0.16質量%を加えた上で、全体の固形分濃度が75質量%となるように調節しこれを攪拌機にて撹拌分散後、B型粘度計にて粘度を計測した。この結果、分散後の粘度は320mPa・sであった。
【0044】
実施例2
粉砕処理において、石灰スラッジを平均粒子径10μm、標準偏差6μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は380mPa・sであった。
【0045】
実施例3
粉砕処理において、石灰スラッジを平均粒子径16μm、標準偏差7μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は410mPa・sであった。
【0046】
実施例4
粉砕処理において、ターボミルの代わりにジェットミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)を用い、石灰スラッジを平均粒子径6μm、標準偏差3.5μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は280mPa・sであった。
【0047】
実施例5
粉砕処理において、ターボミルの代わりにジェットミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)を用い、石灰スラッジを平均粒子径7μm、標準偏差4.0μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は350mPa・sであった。
【0048】
実施例6
フラッシュドライヤー処理において熱風温度を450℃とし、粉砕処理において、ターボミルの代わりにジェットミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)により平均粒子径6μm、標準偏差3.5μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は600mPa・sであった。
【0049】
実施例7
フラッシュドライヤー処理において熱風温度を300℃とし、粉砕処理において、ターボミルの代わりにジェットミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)により平均粒子径6μm、標準偏差3.5μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は220mPa・sであった。
【0050】
実施例8
フラッシュドライヤー処理において熱風温度を150℃とし、粉砕処理において、ターボミルの代わりにジェットミル(シングルトラックジェットミルFS4、セイシン企業社製)により平均粒子径6μm、標準偏差3.5μmに粉砕したこと以外は実施例1と同様の処理を行った。この結果、分散後の粘度は210mPa・sであった。
【0051】
比較例1
実施例1と同様にしてケーキ固形分濃度が80質量%の石灰スラッジを得、この石灰スラッジについて実施例1と同様に白色度と水分値、平均粒子径、標準偏差を測定した。次いでこの石灰スラッジを投入し、全体の固形分濃度が75質量%となるように調節し、これを攪拌機にて撹拌分散後B型粘度計にて粘度を計測した。この結果、分散後の粘度は3500mPa・sであった。
【0052】
上記した各実施例並びに比較例において、得られた石灰スラッジの白色度、水分、これを乾式にて粉砕した後の平均粒子径、標準偏差、それを分散する時の石灰スラッジ濃度、分散後の粘度をまとめて表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜8と比較例1を比較すると、本発明の石灰スラッジを乾燥処理し、その後、乾式粉砕処理することで、白色度が90%以上で分散性の良好な炭酸カルシウムを提供することができることがわかる。
【0055】
実施例1と実施例4を比較すると、粉砕された粒子の粒子径の標準偏差を小さくすることで、分散性が改良されることがわかる。この効果は、粒子分布を狭くすることで、特に、粗大な粒子の混入を防ぎ、分散性を安定化させるものと推定する。
【0056】
実施例4、5と実施例7、8を比較すると、石灰スラッジの乾燥処理時における乾燥温度を300℃以下に抑えることで、高い白色度を維持したまま、さらに分散性の良好な炭酸カルシウムを提供することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液にて苛性化し生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムを製造する方法において、石灰スラッジを、白液回収工程を経た後、高温熱風を使用したフラッシュドライヤーを通すことによって石灰スラッジを乾燥させると共に、これを乾式粉砕することを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記石灰スラッジを、粒度分布の標準偏差で4.0μm以下に乾式粉砕する請求項1記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記石灰スラッジをフラッシュドライヤーで乾燥させる際に、300℃以下の乾燥温度で乾燥させる請求項1または2記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムの白色度が90%以上であり、かつ、前記炭酸カルシウムに分散剤を添加し、固形分濃度75質量%で分散し、分散後の粘度が650mPa・s未満である請求項1〜3いずれか1項記載の炭酸カルシウムの製造方法。

【公開番号】特開2010−132522(P2010−132522A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18513(P2009−18513)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】