説明

炭酸カルシウムの製造方法

【課題】本発明の技術課題は、パルプ製造における苛性化工程を改善する技術を提供することである。
【解決手段】パルプ製造工程の苛性化工程において、貝殻焼成物と緑液とを添加して苛性化反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸カルシウムの製造方法に関する。特に本発明は、硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程の蒸解液を再生する苛性化工程において高白色度の炭酸カルシウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷あるいは筆記用に使用される紙には、白色度、不透明度、平滑性、筆記性、手触り、印刷適性等の改良を目的として通常、填料が内添されている。この抄紙方法としては、填料にタルク、クレー、酸化チタン等を使用してpH=4.5付近で紙を抄くいわゆる酸性抄紙と、pH=7〜8.5の中性〜弱アルカリ性領域で紙を抄く中性抄紙とがある。
【0003】
中性抄紙では、輸入品で高価なタルク、クレーに代えて、国産の炭酸カルシウムを填料として使用することができるという特徴がある。また、酸性で抄紙した紙は経年により劣化が進行するという欠点があることから、中性抄紙によって抄紙される中性紙が近年、注目されるようになった。この他にも、中性紙には、紙質、コスト、環境対策等の面でメリットが多いことから、中性抄紙への移行が進んでおり、今後もその普及が拡大する情勢にある。さらに、最近の紙を需要面からみると、商業印刷では、チラシ、カタログ、パンフレット、ダイレクトメール等の分野が伸びており、出版印刷では、情報化社会の進展と共にコンピュータ、マルチメデイア、ゲーム関連書籍、雑誌、写真集、ムック、コミック紙の分野の伸びが大きい。この様な背景から、用紙のコストダウンの要請は一層強まっており、使用する紙に対しては、低価格化や軽量化が求められている。
【0004】
このように、安価で軽量な中性紙の要求が高まってくる中で、填料としての炭酸カルシウムの位置付けは非常に重要である。この中性抄紙に填料として用いられる炭酸カルシウムには、天然の石灰石を乾式或いは湿式で機械粉砕して製造する重質炭酸カルシウムと、化学的方法によって製造する軽質炭酸カルシウム(沈降性炭酸カルシウム、合成炭酸カルシウムとも称される)がある。
【0005】
ところが、天然石灰石をボールミル等の粉砕機で粉砕して得られる重質炭酸カルシウムは、粉砕粒子表面にシャープエッジが生じるため、填料として使用した場合、プラスチックワイヤーを激しく摩耗させてしまう。さらに、出発原料である石灰石を微粉砕した時の粒子径分布は、反応条件を制御して製造した軽質炭酸カルシウムに比べて極めてブロードなため、この填料を使用して抄紙した場合には、嵩、白色度、不透明度、平滑性、筆記性、手触り、印刷適性等の品質において不十分である。
【0006】
一方、化学的方法によって製造される軽質炭酸カルシウムは、プラスチックワイヤー摩耗度が低いため有利であるが、その製造方法としては、
(1)石灰の焼成装置などから発生する二酸化炭素を含有したガスと、石灰乳との反応による方法、
(2)アンモニアソーダ法における炭酸アンモニウムと塩化カルシウムとの反応による方法、
(3)炭酸ナトリウムの苛性化によって水酸化ナトリウムを製造するという、石灰乳と炭酸ナトリウムとの反応による方法、
が知られている。これらの方法のうち、(2)、(3)は、その主生産物を得る製造法が新たな方法に転換されたり、生成する炭酸カルシウムが副産物であることから不純物含量が多い、などの理由で、その利用方法についてはあまり検討されていない。一方、(1)は、反応系が比較的単純であり、様々な用途毎に目的に合った炭酸カルシウムを製造する方法について広く研究が進み、石灰メーカーから市販されている商品も数多く見られる。しかしながら、この方法は炭酸カルシウムが唯一の生産物であることから、製造コストが非常に高くなるため、安価な紙には使用しにくく、その使用量が大きく制限されている。
【0007】
ところで、硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程におけるいわゆる苛性化工程では、蒸解薬品を回収・再生して白液を製造する際に炭酸カルシウムが副産物として生成する。苛性化工程から生成する苛性化軽質炭酸カルシウムは副産物のため極めて安価であり、紙を製造する上で有利である。
【0008】
一般に、硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程において、「黒液」から「白液」を再生する工程として苛性化工程が知られている。「白液」とは、木材チップを蒸解してパルプを製造するために使用される蒸解液であり、水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを主成分とする。一方、「黒液」は、木材チップを蒸解した後の蒸解廃液であり、木材繊維やリグニン、ヘミセルロースなどを含んでなる。この「黒液」は、以下に説明する苛性化工程によって「白液」に再生され、木材チップの蒸解液として再利用される。
【0009】
硫酸塩法またはソーダ法パルプ製造における苛性化工程では、回収された黒液をボイラーで燃焼してスメルトを得て、さらにそのスメルトを溶解させて得られる上澄み液(「緑液」)に生石灰を投入して、緑液中の炭酸ナトリウムを水酸化ナトリウムに変換し、その結果生じた炭酸カルシウムを除去して、木材チップの蒸解液である「白液」を調製する工程である。「緑液」は、炭酸ナトリウム、硫化ナトリウムを主成分とした強アルカリ性水溶液であり、この緑液に生石灰(CaO)を投入すると、生石灰は水と反応して水酸化カルシウム(Ca(OH))を生成する(消和反応)。さらに、水酸化カルシウムは緑液中の炭酸ナトリウム(NaCO)と交換反応を起こし、水不溶性の炭酸カルシウム(CaCO)が生成する(苛性化反応)。
(消和反応) CaO+HO → Ca(OH)
(苛性化反応) Ca(OH)+NaCO → CaCO↓+2NaOH
すなわち、苛性化反応の結果、「緑液」から、水溶性の水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、水不溶性の炭酸カルシウムを含んで構成される石灰泥スラリーが得られ、この石灰泥(ライムマッド)を固液分離すると、濾液は水酸化ナトリウムなどを含む「白液」としてパルプ蒸解工程に送られ、フィルター表面に分離された石灰泥ケーキはキルンなどの焼成炉で焼成されて、下式の反応よって生石灰(酸化カルシウム)に再生され、再び苛性化工程で循環使用される。
【0010】
CaCO→CaO+CO
苛性化工程によって、石灰泥から得られる炭酸カルシウムを苛性化炭酸カルシウムといい、この炭酸カルシウムを苛性化工程から抜き出して製紙用材料として使用することができる。ここで、苛性化工程で生成する炭酸カルシウムは副産物であるため、極めて安価に製造することができる。また、閉鎖系である苛性化工程のカルシウム循環サイクルから、炭酸カルシウムを系外に抜き取ることによって、系内の清浄化及び循環石灰の高純度化を図ることができ、その結果、消和反応、苛性化反応の反応性向上や白液の清澄性向上、さらには廃棄物の低減を達成できる。
【0011】
苛性化工程で副生する苛性化軽質炭酸カルシウムに関する従来技術としては、例えば、以下の技術が知られている。すなわち、特許文献1には、苛性化軽質炭酸カルシウムのスラリーにハイドロサルファイトを添加し、その後、リン酸塩を添加することによって、高白色度の炭酸カルシウムを得る技術が開示されている。また、特許文献2には、苛性化軽質炭酸カルシウムのスラリーにハイドロサルファイトを添加し、その後、界面活性剤を添加することによって、高白色度の炭酸カルシウムを得る技術が開示されている。しかし、これらの技術では、着色成分が苛性化軽質炭酸カルシウムに残留するため、これを填料や顔料に利用した場合、再発色のおそれがある。
【0012】
また、特許文献3には、緑液に空気を吹き込んで浮上した不純物を凝集・除去した後に苛性化反応を行う方法が開示されている。しかし、この技術では、浮上分離装置等の特別な設備が必要となって、経費がかさむばかりでなく、還元性の硫化ナトリウムの空気酸化によって硫化度の低下を招く。
【0013】
さらに、特許文献4には、緑液の清澄化処理方法として苛性化工程において添加する酸化カルシウムを二段に分割し、前段の添加で生成した炭酸カルシウムを不純物と共に系外に除去し、これにより清澄化された緑液と、後段で添加する酸化カルシウムとの反応で、高白色の苛性化軽質炭酸カルシウムを得る技術が開示されている。この方法では、不純物除去の観点からは優れた効果を期待できるが、二段に分割添加する酸化カルシウムごとに生成する苛性化軽カルを分離、洗浄する装置が必要になる。
【0014】
その他、特許文献5には、硫黄含有率を低減させた酸化カルシウムまたは該酸化カルシウムを消和した水酸化カルシウムと、苛性化工程で発生する緑液とを混合し、苛性化反応を行うことで白色度の高い炭酸カルシウムを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭51−47597号
【特許文献2】特開昭51−47598号
【特許文献3】特開昭61−53112号
【特許文献4】特開平1−226719号
【特許文献5】特開2004−231431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者らは、苛性化工程で副生する炭酸カルシウムを製紙用原料として使用すべく、副生炭酸カルシウムの高品質化技術について研究し、特定条件下の苛性化反応により、米粒状、紡錘状、針状、イガグリ状と言った特有の形状を有する高品質な軽質炭酸カルシウムを製造する技術を開発した(特許第3227421号、特許第3227422号、特開2000−264628号、特開2000−264629号、特開2000−264630号、特開2001−199720号、特開2001−199721号、特開2002−284522号など)。
【0017】
しかし、これら改良法で製造した炭酸カルシウムに関しても、製造工程がクラフトパルプ製造工程の一部であるため、クラフトパルプ製造工程の変動の影響を受けやすく、得られる軽質炭酸カルシウムの白色度が不安定であるという課題があった。
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程の蒸解用白液を再生する苛性化工程において、副生する苛性化軽質炭酸カルシウムの白色度を向上させる技術の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は上記課題について鋭意研究したところ、苛性化工程の生石灰として貝殻焼成物を用いることにより白色度の高い炭酸カルシウムが製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、これに限定されるものではないが、以下の発明を包含する。
(1) パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とを混合して苛性化反応を行って軽質炭酸カルシウムを得ることを含む、苛性化軽質炭酸カルシウムの製造方法。
(2) 前記貝殻が、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻である、(1)に記載の方法。
(3) 前記炭酸カルシウムが製紙用である、(1)または(2)に記載の方法。
(4) (1)または(2)に記載の方法によって得られた炭酸カルシウムを原紙上に塗工することを含む、塗工紙の製造方法。
(5) (1)または(2)に記載の方法によって得られた炭酸カルシウムを紙に内添することを含む、紙の製造方法。
(6) パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とを混合して苛性化反応を行って白液を得ることを含む、白液の製造方法。
(7) パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とによる苛性化反応によって得られる白液を用いる、クラフトパルプの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、苛性化工程で副生する炭酸カルシウムの白色度を向上できる。本発明によって得られる炭酸カルシウムは白色度が高いため、それを原料とした填料や顔料は高白色度であり、製紙用材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、パルプ製造工程の苛性化工程、特に硫酸塩法またはソーダ法によるパルプ製造工程の苛性化工程に関する。本発明においては、苛性化工程における生石灰(酸化カルシウム)として天然動物性石灰の焼成物を用いる。したがって、本発明においては、貝殻焼成物と緑液とを添加して苛性化反応を行う。
【0023】
上述したように、パルプ製造工程の苛性化工程において、本発明のように貝殻焼成物と緑液とを添加して苛性化反応を行うことによって、炭酸カルシウムの高白色度化を達成することができる。本発明によってこのような効果が得られる理由の詳細は明らかでなく、本発明はこれに限定されるものではないが、以下の理由が推測される。すなわち、本発明によって苛性化軽質炭酸カルシウム(石灰泥)の白色度が向上するのは、貝殻焼成物中に含まれる鉄分が、天然鉱物由来の生石灰よりも少なく、炭酸カルシウム中の着色成分が少ないためと考えられる。
【0024】
(貝殻焼成物)
本発明の苛性化工程においては、生石灰(酸化カルシウム)としてホタテ貝殻以外の貝殻焼成物を使用する。貝殻焼成物は、酸化カルシウム純度が高く、鉄分等の不純物が少ないことが特徴である。実施例の表1に示すように、貝殻焼成物と、天然石灰石を焼成して得られる生石灰とを比較すると、貝殻焼成物は、酸化カルシウム純度が高く、鉄・硫黄・マンガン・マグネシウム・アルミニウム等が少ない。
【0025】
本発明の焼成物は、好ましくは、酸化カルシウムに対する鉄の含有率が、元素分析の酸化物(Fe)換算で0.05重量%、より好ましくは0.03重量%以下である。焼成物の鉄含有率が0.05%以上の場合、苛性化軽カルの白色度が低下するおそれがあるため、これを製紙原料に使用した場合、紙の白色度に悪影響を及ぼし、目標とする紙質が得られないおそれがある。酸化カルシウム中の鉄含有率は低いほど苛性化軽質炭酸カルシウムの白色度にとって有利である。なお、一般的な態様において、貝殻や卵の殻の焼成物の鉄含有率は、Fe換算で0.001重量%以上であることが多い。
【0026】
本発明の焼成物のマグネシウム含有率は、元素分析の酸化物(MgO)換算で0.001〜1.5重量%が好ましく、1.0重量%以下がより好ましい。また、本発明の焼成物の硫黄含有率は、元素分析の酸化物(SO)換算で0.001〜1.0重量%が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。生物由来の炭酸カルシウム原料の鉄含有率が0.05重量%以上、マグネシウム含有率が1.5重量%以上、硫黄含有率が1.0%以上の場合、苛性化軽カルの白色度が低下するおそれがある。酸化カルシウム中の鉄含有率は低いほど苛性化軽質炭酸カルシウムの白色度にとって有利である。なお、一般的な態様において、ホタテ貝殻、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻の焼成物の鉄含有率は、Fe換算の鉄含有率が0.001%以上、MgO換算のマグネシウム含有率は0.001以上、SO換算での硫黄含有率が0.001以上である。
【0027】
本発明において貝殻とは、貝の残滓物であり、主に炭酸カルシウムから構成される。本発明の貝殻としては、二枚貝や巻貝の貝殻を挙げることができ、サザエやハマグリなどの海産貝、イシマキガイやシジミなどの汽水産貝、ヒラマキガイやタニシなどの淡水産貝、カタツムリなどの陸貝の貝殻などを挙げることができる。ただし、エビやカニなどの甲殻類の殻(甲羅)、腕足類の殻などは本発明の貝殻には該当しない。甲殻類の殻は、甲殻類の器官から分泌されるものであり、腕足類の殻(鉱物層)はリン酸カルシウムが主体である。貝殻は、天然鉱物である石灰石に比べて産地間のバラツキが小さい点も好適である。一般にホタテやカキは、大量に養殖されて消費されているが、その廃棄物である貝殻の多くは埋立処分がなされており、その埋立処分地の確保が困難な状況にある。したがって、そのような貝殻を本発明によって有効活用することができれば、廃棄物削減、環境保全といった点からも好適である。
【0028】
本発明において好ましい貝殻としては、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻、アコヤ貝殻、イケチョウ貝殻、ハマグリ貝殻、バカ貝殻、アオヤギ貝殻、ムラサキ貝殻、アカ貝殻、サザエ貝殻、アワビ貝殻などが挙げられ、特に好ましい貝殻として、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻などが挙げられる。
【0029】
一般に貝殻は、炭酸カルシウムとコラーゲンなどのタンパク質とが交互に積層した構造を有し、含有される炭酸カルシウムは、ホタテ貝やカキ貝ではカルサイト型、アサリ貝などではアラゴナイト型であるとされる。また、ホタテ貝殻を構成する炭酸カルシウムは、貝の生理作用によって常温常圧の条件で形成されたものであるのに対し、天然鉱物由来の石灰石は、地殻の作用による極めて長期間の結晶化によって生じたものであり、その結果、貝殻の炭酸カルシウムは、天然石灰石と比較して反応性が高く、基本粒子径が小さい。一般に貝殻本体は炭酸カルシウムの結晶とコンキオリンと総称されるタンパク質を主とする間基質からなり、その構造は、多数の結晶が間基質によって繋ぎ合わされたもので、規則正しく、三方晶系の方解石(カルサイト)と斜方晶系のアラレ石(アラゴナイト)が大部分である。そのため、貝殻を焼成すると粒径の揃ったものが得られる。
【0030】
貝殻の焼成は、炭酸カルシウムから酸化カルシウムが得られるような条件で行えばよく、具体的な条件は特に制限されない。貝殻を十分に焼成するために、焼成温度は800℃以上とすることが好ましく、1200℃程度が特に好適である。また、貝殻は、そのまま焼成してもよく、焼成効率を高めるために粉砕処理を施してから焼成してもよい。その他、水洗などの一般的な前処理を行ってもよい。貝殻を焼成することによって、炭酸カルシウム粒子を接合しているコラーゲンなどのタンパク質は燃焼除去され、炭酸カルシウムは酸化カルシウムとなる。
【0031】
焼成装置に関しても特に制限されず、一般的な焼成装置を利用することができるが、例えば、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、ロータリーキルン、国井式炉、KHD(カーハーディー)炉、コマ式炉、カルマチック炉、流動焼成炉、混合焼き立炉、電熱炉等の、炭酸カルシウムを酸化カルシウムに転化する装置を好適に使用することができる。
【0032】
(苛性化反応)
本発明の苛性化工程では、好ましくはFe換算で鉄含有率が0.05重量%以下、より好ましくは0.03重量%以下である焼成物(酸化カルシウム)と緑液とを混合し、攪拌あるいは捏和しながら苛性化反応を行う。また、本発明の苛性化工程では、酸化カルシウムの緑液への添加に代えて、貝殻焼成物を水で消和した水酸化カルシウムを粉体またはスラリー状で緑液に添加することも可能である。
【0033】
本発明においては、苛性化工程において添加する生石灰(酸化カルシウム)の少なくとも一部として、貝殻焼成物を使用すればよい。したがって、苛性化工程に添加する生石灰として、本発明の焼成物に加えて、苛性化工程で生じた石灰乳を焼成して得た生石灰、系外から導入される生石灰などを併用することができる。苛性化工程に添加する生石灰に占める貝殻焼成物の割合は特に制限されないが、本発明の効果をより大きく享受するために、生石灰の30%以上が焼成物であることが好ましく、生石灰の50%以上が焼成物であることがより好ましい。
【0034】
本発明の苛性化反応は、一般的な苛性化反応条件で実施することができる。また、特開平10−226974号公報(特許第3227421号公報)、特開平10−292283号公報(特許第3227422号公報)、特開2000−264628号公報、特開2000−264629号公報、特開2000−264630号公報、特開2001−199720号公報、特開2002−284522号公報などに記載の苛性化反応条件を本発明に適用することによって、苛性化軽質炭酸カルシウムの形状制御、プラスチックワイヤー摩耗性の向上、苛性化軽質炭酸カルシウムのさらなる高白色度化を図ることもできる。
【0035】
苛性化工程の反応装置は特に制限されず、公知の装置を使用することができる。特にスレーカーと呼ばれる反応装置は、緑液と生石灰とを十分に混合させて反応させることができるため、好適に使用することができる。また、スレーカーの後に1又は複数の苛性化槽を設置すると、消和反応と苛性化反応のそれぞれを制御しやすくなるため好ましい。
【0036】
苛性化工程によって得られた石灰乳スラリーは固液分離工程によって、白液と石灰泥ケーキに分離してもよい。この固液分離は、一般的な装置を用いて行うことができ、例えば、ドラム型真空脱水式のライムマッドフィルターを好適に用いることができる。また、一般に使用されているライムマッドフィルターである、オリバーフィルター、ヤングフィルターあるいはプリコートフィルター等を本発明においても好適に使用することができる。一般に、石灰泥ケーキの含水率は通常20重量%〜40重量%であるが、本発明によれば石灰泥の脱水性が向上するため、好ましい態様において、石灰泥ケーキの含水率を20重量%以下に低下させることができる。
【0037】
(苛性化炭酸カルシウム)
本発明で得られる苛性化軽質炭酸カルシウムは、必要に応じて、湿式あるいは乾式粉砕により、粒子径を調整することができる。粉砕装置としては、一般的な装置を使用することができるが、湿式回分式粉砕機(アトライター等)、湿式連続式粉砕機(サンドグラインダー等)、循環式粉砕機(SCミル、SCミルロング等)などを好適に使用することができる。
【0038】
本発明によって、苛性化反応で生成する苛性化軽質炭酸カルシウムの白色度が向上するため、苛性化軽質炭酸カルシウムの付加価値が高まり、種々の用途に苛性化軽質炭酸カルシウムを利用することが可能になる。また、苛性化軽質炭酸カルシウムの利用が促進される結果、苛性化工程からの苛性化軽質炭酸カルシウムの抜き取り量が増大し、苛性化工程内を循環する石灰に蓄積し易い不純物が低減できると共に、焼成用キルンの負荷低減が達成できる。さらに、苛性化工程から炭酸カルシウムを全量抜き取ることができれば、キルン停止も可能となり、苛性化工程での主生産物である白液の生産コストを大幅に削減することが可能となる。
【0039】
本発明によって得られる苛性化軽質炭酸カルシウムは、従来の苛性化工程で得られた炭酸カルシウムに比べて白色度が高いため、機能性充填剤として使用することができ、特に製紙用材料として好適である。その際、得られた苛性化軽質炭酸カルシウムを粉砕して、製紙用材料として適した粒径に調整してもよい。
【0040】
本発明の苛性化軽質炭酸カルシウムを製紙填料として紙に内添することによって、填料配合紙の白色度、不透明度、印刷適性等を向上させることができる。本発明の苛性化軽質炭酸カルシウムを添加する紙には特に限定はなく、新聞用紙、中質紙、印刷用紙、書籍用紙、証券用紙、辞典用紙、両更クラフト紙、晒クラフト紙、薄葉紙、ライスペーパー、インディアンペーパー、板紙、ノーカーボンペーパー等の紙、更にアート紙、軽量コート紙、キャストコート紙などの各種コート紙の原紙などに使用することができる。
【0041】
また、本発明の苛性化軽質炭酸カルシウムは白色度が高いため、製紙用塗工顔料としても好適に使用することができる。したがって、ある態様において本発明は、上記苛性化工程によって得られた炭酸カルシウムを原紙上に塗工することを含む、塗工紙の製造方法である。さらに、ある態様において本発明は、上記苛性化工程によって得られた炭酸カルシウムを塗工層に含有する塗工紙である。
【0042】
本発明によって得られる炭酸カルシウムの粒径は、0.1〜100μmが好ましく、0.5〜50μmがより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を実施例および比較例をあげて、詳細に説明するが、当然ながら本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、特記しない限り、本明細書において%および部は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0044】
材料
(1)貝殻焼成物
貝殻として、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻、卵の殻、ホタテ貝殻(オホーツク産、三陸産)を試験した。これらの材料を擂潰(らいかい)機で1時間粉砕した後、電気炉で850℃、2時間の条件で焼成して、貝殻由来の生石灰(酸化カルシウム)を得た。
(2)甲殻類の殻の焼成物
比較例として、甲殻類の殻(ウニ殻、フジツボ殻、ズワイガニの殻)の焼成物を試験した。上記(1)と同様に甲殻類の殻を焼成して、生石灰を含む粉体を得た。
(3)石灰石を焼成して得た生石灰
石灰石を焼成して得た生石灰として、北海道石灰化工社製の生石灰を用いた。
(4)緑液
日本製紙株式会社のクラフトパルプ製造プラントの苛性化工程から採取した。緑液のNaOH濃度は12g/L、NaS濃度は25g/L、NaCO濃度は95g/L(いずれもNaO換算)であった。
【0045】
試験法
(1)アルカリ分析法:TAPPI624hm−85,TAPPI625hm−85に準じて測定した。
(2)酸化カルシウム中の鉄含有量:JIS K 0119に従って測定した。
(3)酸化カルシウム中の炭酸カルシウム含量:金属中炭素分析装置(堀場製作所EMIA−100)により、二酸化炭素量を測定し、その量より炭酸カルシウム含量を計算した。
(4)生成炭酸カルシウムの白色度:乾燥粉体を加圧式錠剤成形器でペレットとし、分光測色計(CMS−35SPX、株式会社村上色彩技術研究所製)で測定した。
(5)生成炭酸カルシウムの平均粒子径:生成物を水洗浄・濾過し、水で希釈後、レーザー回折式粒度分布計(シーラス社モデル715)で平均粒子径を測定した。短径、長径については、生成物を水洗濾過し乾燥後、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM5300)により決定した。
(6)生成炭酸カルシウムの形態:生成物を水洗濾過し乾燥後、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5300)で形態観察した。
(7)結晶系:Rigaku製X線回折RAD−2Cにより測定した。
(8)ワイヤー摩耗測定は、日本フィルコン式摩耗試験装置で測定した。ワイヤーとして日本フィルコン製COS−60ポリエステルワイヤーを用い、スラリー濃度2重量%、荷重1250gの条件で90分間摩耗試験を行った。摩耗試験前後のワイヤーの摩耗量(ワイヤーの重量減少量:mg)により、炭酸カルシウムのワイヤー摩耗性を評価した。
【0046】
[実施例1]
撹拌機(撹拌速度450rpm、Kyoei Power Srirrer Type PS-2N)及び加熱用のマントルヒーターを備えたセパラブルフラスコ(容積1L)を苛性化反応装置とした。フラスコに50℃の温水を90ml注入し、次いで三陸産カキ貝殻の焼成物60gを加え、消石灰スラリーを得た。更に、50℃の緑液630mLを2時間で逐添して苛性化した。反応液から生成した炭酸カルシウムを吸引ろ過で回収し、水道水で充分洗浄後脱水し、105℃の送風乾燥機中で乾燥し、粉体状の炭酸カルシウムを得た。炭酸カルシウムの白色度と色相の測定結果を表1に示す。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が76.5g/L、硫化ナトリウム濃度が25.2g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0047】
[実施例2]
アサリ貝殻焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が76.3g/L、硫化ナトリウム濃度が25.1g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0048】
[実施例3]
シジミ貝殻焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が76.4g/L、硫化ナトリウム濃度が25.1g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0049】
[実施例4]
ホッキ貝殻焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が76.0g/L、硫化ナトリウム濃度が25.2g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0050】
[実施例5]
サザエ貝殻焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が76.1g/L、硫化ナトリウム濃度が25.2g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0051】
[実施例6]
カタツムリの殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。また、ろ液を分析したところ、水酸化ナトリウム濃度が77.0g/L、硫化ナトリウム濃度が25.3g/Lであり、クラフトパルプ製造用の蒸解液(白液)として好適なものであった。
【0052】
[参考例1]
オホーツク産ホタテ貝殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。
【0053】
[参考例2]
三陸産ホタテ貝殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様にして炭酸カルシウムを製造した。
【0054】
[比較例1]
ウニ殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。
【0055】
[比較例2]
フジツボ(節足動物・甲殻類)の殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。
【0056】
[比較例3]
スワイガニ(甲殻類)の殻の焼成物を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。
【0057】
[比較例4]
石灰石由来の生石灰を使用した以外は、実施例1と同様の操作で炭酸カルシウムを製造した。
【0058】
【表1】

【0059】
貝殻焼成物を原料とする苛性化軽質炭酸カルシウムは、比較例に比べて、白色度が6〜8ポイント高い。苛性化反応で使用する酸化カルシウム中の鉄・マグネシウム・硫黄の含有率が低いほど、得られる炭酸カルシウムの白色度が高くなる傾向があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とを混合して苛性化反応を行って軽質炭酸カルシウムを得ることを含む、苛性化軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記貝殻が、カキ貝殻、アサリ貝殻、シジミ貝殻、ホッキ貝殻、サザエ貝殻、カタツムリ貝殻である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムが製紙用である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法によって得られた炭酸カルシウムを原紙上に塗工することを含む、塗工紙の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の方法によって得られた炭酸カルシウムを紙に内添することを含む、紙の製造方法。
【請求項6】
パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とを混合して苛性化反応を行って白液を得ることを含む、白液の製造方法。
【請求項7】
パルプ製造における苛性化工程で発生する緑液と、ホタテ貝殻以外の貝殻の焼成物とによる苛性化反応によって得られる白液を用いる、クラフトパルプの製造方法。

【公開番号】特開2011−214186(P2011−214186A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82912(P2010−82912)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【特許番号】特許第4663815号(P4663815)
【特許公報発行日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】