説明

炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液における添加剤としてのポリエチレンイミンの使用

かかる使用により懸濁液の伝導度に関して改善された安定性が得られる、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%で含有する水性懸濁液における、添加剤としての少なくとも1種のポリエチレンイミンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液およびそれに添加される添加剤の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液の調製において、当業者はしばしば、この懸濁液の1つ以上の特性を調整するために添加剤を選択して導入することが要求される。
【0003】
この添加剤の選択を行う際、当業者は、この懸濁液の輸送、処理、および適用において、コスト効率を維持し、その後の望ましくない相互作用や影響をもたらすことがないように留意しなければならない。
【0004】
ほとんど対処されてこなかったが、本出願者が重要であると認識している当業者の検討項目の中に、炭酸カルシウム含有物質の懸濁液の電気伝導度に大幅な変動、すなわち増加を起こさない添加剤の選択がある。
【0005】
実際、懸濁液の電気伝導度の測定値に基づいてそのような懸濁液の処理や輸送の態様を制御することは有利であり得る。
【0006】
例えば、所与の流路またはユニットを通るそのような懸濁液の流速は、懸濁液の伝導度についてなされた測定値に従って制御し得る。Klausner Fらによる、「A Conductance Based Solids Concentration Sensor for Large Diameter Slurry Pipelines」と題する出版物(J.Fluids Eng.第122巻、第4冊、技術論文)には、コンダクタンス測定に基づいて、所与の直径のパイプラインを通過するスラリーの固形分濃度を測定する計器が記載されている。これらのコンダクタンス測定に基づいて、パイプ中の頂部から底部に至るスラリー濃度の変動、ならびに領域平均の濃度履歴をグラフ表示することが可能である。
【0007】
同様に、容器の充填の程度も、容器の壁に沿った所与の高さで伝導度を検出することにより管理可能である。
【0008】
しかし、電気伝導度の測定に基づくこのような制御システムを使用し利用するために、当業者は、同時に電気伝導度値に大幅な変動を起こさない1種以上の機能を果たすために必要な添加剤を選択するという難題に直面している。
【0009】
炭酸カルシウム含有物質の懸濁液に使用される添加剤の機能の中に、懸濁液の酸性化、中和、またはアルカリ化によるかどうかであれ、懸濁液のpHの調整がある。
【0010】
懸濁液のアルカリ化が、懸濁液が導入される適用環境のpHに適合させるため、またはpHに敏感な添加剤の添加の準備において、特に必要とされる。pHを上昇させるステップはまた、懸濁液の消毒または消毒を支援するのに役立ち得る。pHの調整は、処理中に酸性環境と接触して起こる炭酸カルシウムの不要な溶解を回避するために必要となる場合がある。
【0011】
炭酸カルシウム含有物質懸濁液の水性懸濁液に使用され、当業者に利用可能なそのようなpH調整添加剤は数多い。
【0012】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げるために使用され得る添加剤の第1のグループは、水酸化物含有添加剤であり、特にアルカリおよびアルカリ土類金属の水酸化物である。
【0013】
例えば、US6,991,705は、水酸化ナトリウムの供給などのアルカリ金属水酸化物の供給と二酸化炭素の供給との組合せにより、炭酸カルシウムを含み得るパルプ懸濁液のアルカリ度を増加させることに言及している。
【0014】
EP1 795 502が言及しているように、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化アンモニウムは、10から13の範囲内で、PCC懸濁液のpHを制御するために使用される他のそのような添加剤である。
【0015】
炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げるために使用され得る添加剤の第2のグループは、水酸化物イオンを含有しないが、水との反応でこのようなイオンを生成する添加剤である。
【0016】
そのような添加剤は、ナトリウム塩などの弱酸の塩であり得る。この種類の添加剤の例としては、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムならびに(トリポリリン酸塩、オルトリン酸ナトリウムおよび/またはカリウムなどの)アルカリ性リン酸塩が含まれる。
【0017】
さらなる可能性は、炭酸カルシウム含有物質の懸濁液のpHを高めるために、例えば、アンモニア、アミンおよびアミドを含む窒素系添加剤を使用することである。特に、これらには、一級、二級または三級のアミンが含まれ得る。懸濁液のpHを高めるために使用されるアルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、およびメチルアミノエタノール(MAE)が含まれる。
【0018】
上記添加剤のすべてが、共通のメカニズムに従って、水性懸濁液のpHを上げるが、そのメカニズムは、水との反応に続いて、懸濁液中に水酸化物イオンを与えるまたは創出することによる。
【0019】
文献(「Analytikum」、第5版、1981年、VEB Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie、Leipzig、185−186頁、「Konduktometrische Titration」に言及している。)から、アルカリ性条件下で水酸化物イオン濃度を増加させると、同時に伝導度増大を導くことが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6,991,705号明細書
【特許文献2】欧州特許第1795502号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Klausner Fら、「A Conductance Based Solids Concentration Sensor for Large Diameter Slurry Pipelines」(J.Fluids Eng.第122巻、第4冊、技術論文)
【非特許文献2】「Konduktometrische Titration」、「Analytikum」、第5版、1981年、VEB Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie、Leipzig、185−186頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
後出の実施例の段落で示すように、アルカリおよびアルカリ土類水酸化物、ならびにトリエタノールアミンなどのアミンが、炭酸カルシウム含有物質の水性懸濁液のpHを上げると同時に、大幅な伝導度の増加を引き起こす裏付け証拠とともに、文献に記録されている上記の一般的な知識を考慮すると、当業者は、これらの添加剤と同一のメカニズム、すなわち、懸濁液中に水酸化物イオンを結果的に導入するというメカニズムに従って、懸濁液のpHを上げる特定のpH調節剤が、最小限の伝導度の増加しか引き起こさないと予想することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0023】
それゆえ、出願人が、懸濁液伝導度をpH単位当たり100μS/cm以内に維持しながら、懸濁液のpHを少なくとも0.3pH単位高めるために、8.5と11の間のpHを有し、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%で含有する水性懸濁液における添加剤として、ポリエチレンイミン(PEI)が使用され得ることを確認したことは、まったく驚くべきことであり、pHを高めるために使用される通常の添加剤に基づく予想に反することであった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
したがって、本発明の第一の態様は、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を懸濁液の全体積基準で25から62体積%で含有し、8.5と11の間のpHを有する水性懸濁液における、懸濁液伝導度の変化がpH単位当たり100μS/cm以下である、懸濁液のpHを少なくとも0.3pH単位高めるための、添加剤としての少なくとも1種のポリエチレンイミンの使用に言及する。
【0025】
本発明によれば、「伝導度」は、以下の実施例の段落で定義される測定方法に従って測定された炭酸塩含有物質の水性懸濁液の電気伝導度を意味する。
【0026】
本発明の目的のために、pHは、以下の実施例の段落で定義される測定方法に従って測定されねばならない。
【0027】
懸濁液中の固形物質の体積%(vol.%)は、以下の実施例の段落で定義される測定方法に従って決定される。
【0028】
本発明の意味での「ポリエチレンイミン」(PEI)は、一般式、−(CH−CH−NH)(式中、nは、2から10,000である。)のフラグメントを含む。本明細書中で使用される場合、以後においては別に記載されない限り、「ポリエチレンイミン」または「PEI」という用語は、ポリエチレンイミンそれ自体、ならびに変性ポリエチレンイミンおよび変性および未変性物質の混合物を含む。本発明に従うポリエチレンイミン(PEI)は、一級、二級および三級のアミン官能基の比によって定義され得るホモポリマー性のポリエチレンイミンであり得る。
【0029】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1種のポリエチレンイミン添加剤が、炭酸カルシウム含有物質に、水性溶液として添加される。
【0030】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンは、分岐ポリエチレンイミン、直鎖ポリエチレンイミンおよびこれらの混合物の群から選択される。好ましくは、本発明の分岐ポリエチレンイミンを変性することに先立って、本発明の分岐ポリエチレンイミン中の一級、二級および三級のアミン官能基の比が、好ましくは、1:0.86:0.42から1:1.20:0.76の範囲である。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態によれば、少なくとも1種のポリエチレンイミンは、変性および未変性ポリエチレンイミンの群から選択される。
【0032】
本発明の目的のために、ポリエチレンイミンは、エチレンイミン(アジリジン)またはその高級同族体のホモポリマー、ならびにポリアミドアミンまたはポリビニルアミンのエチレンイミンまたはその高級同族体とのグラフトポリマーをも含む。ポリエチレンイミンは、架橋または非架橋であってもよく、アルキレンオキシド、ジアルキルもしくはアルキレンカーボネートまたはC1からC8のカルボン酸との反応により四級化および/または変性されていてもよい。本発明のポリエチレンイミンは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはブチレンオキシドなどのアルキレンオキシド、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、エチレンカーボネートもしくはプロピレンカーボネートなどのアルキレンカーボネート、またはC1−C8のカルボン酸との反応により変性されていてもよい。本発明に従う変性PEIとしては、アルコキシル化ポリエチレンイミンが含まれる。アルコキシル化ポリエチレンイミン(APEI)は、当業界で周知であり、プロポキシル化ポリエチレンイミン(PPEI)およびエトキシル化ポリエチレンイミン(EPEI)が含まれる。APEI製品を作製する現在の方法は、ポリエチレンイミン(PEI)を含む組成物から出発する。さらなる好ましい変性ポリエチレンイミンは、未変性のPEIと1種以上のC1−C28の脂肪酸、好ましくは、1種以上のC6−C18の脂肪酸、特に好ましくは、例えば、ココナッツ脂肪酸のようなC10−C14の脂肪酸との反応により入手できる。PEIを含む組成物を作製する一つの方法は、水などの溶媒中で、酸触媒下にエチレンジアミン(EDA)とエチレンイミン(EI)との反応に基づいている。一般的なEIの例は、アジリジンである。組成物中の結果として得られるポリエチレンイミン(PEI)は、さらなる化学変換、例えば、APEIを形成するためのエチレンオキシドなどのアルキレンオキシドとのアルコキシル化反応に利用し得る、一級、二級および三級の官能基を有する。本発明に従うPEIはまた、エチレンジアミン(EDA)などのジ−またはポリアミン、アジリジンなどのエチレンイミン(EI)、水、および酸触媒から作製し得る。硫酸、炭酸、またはいずれかの低級カルボン酸触媒などの酸触媒を、PEIを含む組成物の製造に使用し得る。組成物中のPEIは、広範囲の分子量で入手できる。PEIの一級、二級および三級の官能基は、エトキシル化ポリエチレンイミン(EPEI)、プロポキシル化ポリエチレンイミン(PPEI)などのAPEI製品を作製するために、それぞれ、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドとのアルコキシル化反応に利用できる。変性および未変性PEIは当業界で周知であり市場で容易に入手できる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも1種のポリエチレンイミンは、変性されており、好ましくは、カルボン酸基、より好ましくは、1種以上のC1−C28の脂肪酸、1種以上のC6−C18の脂肪酸、または1種以上のC10−C14の脂肪酸で変性されており、および/またはアルコキシル化、好ましくは、エトキシル化、より好ましくは、10から50個のエチレンオキシド基でのエトキシル化により変性されている。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンは、100g/molと10,000g/molの範囲の分子量を有する。直鎖ポリエチレンイミンの「分子量」は、それぞれの化学式から直接計算され得る。本発明の意味での分岐ポリエチレンイミンの「分子量」は、光散乱(LS)手法により測定されるような重量平均分子量である。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、100から700g/mol、好ましくは、146から232g/molの分子量を有する直鎖ポリエチレンイミンの群から選択され、好ましくは、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミンおよびテトラエチレンペンタミンから選択される。直鎖ポリエチレンイミンは、一般式、H−[NH−CH−CH−]−NHで定義され得、式中、nは、好ましくは、2、3、4、5、6、7、8、9、または10などの整数である。
【0036】
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、500から8000g/mol、好ましくは、800から1200g/molの重量平均分子量を有する分岐ポリエチレンイミンの群から選択される。本発明の意味において、「分岐ポリエチレンイミン」という用語は、「球状ポリエチレンイミン」をも包含する。分岐ポリエチレンイミンは、次の一般式を持ってもよい。
【0037】
【化1】

【0038】
好ましい実施形態では、前記懸濁液が、少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、700と2000μS/cmの間、好ましくは、800と1300μS/cmの間の伝導度を有し得る。
【0039】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加後に、懸濁液伝導度の変化が、pH単位当たり70μS/cm以下、好ましくは、pH単位当たり50μS/cm以下であり、この変化が、好ましくは伝導度の減少である。
【0040】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加後に、懸濁液伝導度が、10%を超えて変化せず、好ましくは、6%を超えて変化せず、より好ましくは、3%を超えて変化しない。
【0041】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、懸濁液が、9と10.3の間のpHを有する。
【0042】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、水性懸濁液のpHを少なくとも0.4pH単位高める量で前記懸濁液に添加される。
【0043】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前の懸濁液のpHが8.5と9の間である場合、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、懸濁液のpHを少なくとも1.0pH単位高める量で前記懸濁液に添加されるのが好ましい。少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前の懸濁液のpHが9と10の間である場合、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、水性懸濁液のpHを少なくとも0.7pH単位高める量で前記懸濁液に添加されるのが好ましい。
【0044】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、前記懸濁液は、好ましくは5と100℃の間の温度、より好ましくは、35と85℃の間、さらに好ましくは、45と75℃の間の温度を有する。
【0045】
好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンは、前記懸濁液の水性相のリットル当たり、500から15000mgの量で、好ましくは、1000から5000mg、より好ましくは、1300から4000mgの量で、前記懸濁液に添加される。
【0046】
懸濁液中の前記炭酸カルシウム含有物質に関しては、この物質は、前記炭酸カルシウム含有物質の全当量乾燥重量に対する炭酸カルシウムを重量で、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも98%含む。
【0047】
前記炭酸塩含有物質の炭酸カルシウムが、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(NGCC)、表面活性化炭酸カルシウム(SRCC)、またはこれらの混合物であってもよい。
【0048】
表面活性化炭酸カルシウムとは、酸および二酸化炭素と炭酸カルシウムとの反応から得られる製品を指すと理解され、前記二酸化炭素は、酸処理によりその場で生成されおよび/または外部から供給され、この表面活性化天然炭酸カルシウムは、20℃で測定して、6.0より大きいpHを有する水性懸濁液として調製される。そのような製品は、他の文献中にもあるが、WO00/39222、WO2004/083316およびEP2 070 991中に記載されており、これらの参考文献の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0049】
好ましい実施形態では、前記懸濁液が、前記懸濁液の全体積基準で、前記炭酸カルシウム含有物質を、45から60体積%、好ましくは、48から58体積%、最も好ましくは、49から57体積%で含む。
【0050】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、前記懸濁液中で前記炭酸カルシウム含有物質を粉砕するステップの前に、途中でまたは後で、好ましくは、後で添加される。
【0051】
また、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、乾燥形態の前記炭酸カルシウム含有物質に添加され、好ましくは、炭酸カルシウム含有物質の前記懸濁液を形成する前にともに乾式粉砕されるのが有利であり得る。
【0052】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの前記懸濁液への添加後に、懸濁液は、伝導度ベースの調整デバイスを備えたユニット中に導入され得る。
【0053】
例えば、懸濁液は、懸濁液伝導度の測定によって決定されたレベルまで容器またはユニット中に導入され得る。
【0054】
懸濁液は、さらにまたは代わりに、懸濁液伝導度の関数として制御される懸濁液処理能力を有する流路の中を通過させ得る。
【0055】
この点で、「流路」は、処理能力の限られた領域、ならびになんらかの制限的な定義なしに、すなわち、工程のある流路の後の処理能力に関連づけられ得る。
【0056】
本発明の上記の実施形態は使用することができ、互いに組み合わせて使用することが意図されていると理解されるべきである。
【0057】
上記した少なくとも1種のポリエチレンイミンの使用の利点の観点から、本発明のさらなる態様は、方法が、懸濁液のpHが少なくとも0.3pH単位、好ましくは、少なくとも0.5または少なくとも0.7pH単位高められ、同時に、少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加により起こる懸濁液伝導度の変化が、pH単位当たり100μS/cm以下であり、好ましくは、pH単位当たり50μS/cm以下であり、非常に好ましくは、pH単位当たり20μS/cm以下であるような量で、少なくとも1種のポリエチレンイミンを懸濁液へ添加するステップを含む、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%で含有し、8.5と11の間の範囲のpHを有する水性懸濁液のpHを高める方法に言及する。
【0058】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の方法または使用により得られた懸濁液は、塗料および/または紙への適用において使用し得る。
【0059】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの本発明の使用に関する、上記の有利な実施形態も本発明の方法に使用することができることが理解されるべきである。言い換えれば、上記の好ましい実施形態およびこれらの実施形態のいずれの組合せも、本発明の方法に使用し得る。
【0060】
本発明の範囲および対象は、本発明の特定の実施形態を例示することを意図しており、非限定的である以下の実施例に基づいてさらに良く理解される。
【実施例】
【0061】
測定法:
懸濁液のpHの測定
懸濁液のpHは、25℃で、Mettler Toledo Seven Easy pH計およびMettler Toledo InLab(登録商標) Expert Pro pH電極を用いて測定する。
【0062】
計器の三点較正(セグメント方式に応じて)を、20℃で、4、7および10のpH値を有する市販の緩衝液(Aldrich社から入手)を用いて最初に行う。
【0063】
報告されるpH値は、計器により検出された終点値である(測定された信号が、その前の6秒間の平均値に対して、0.1mV未満の変化しか示さない時が終点である。)。
【0064】
懸濁液伝導度の測定
懸濁液の伝導度は、対応するMettler Toledo伝導度拡張ユニットおよびMettler Toledo InLab(登録商標)730伝導度プローブを備えた、Mettler Toledo Seven Multi計測器を用いて、pendraulik歯のディスク攪拌機を用いて1500rpmでこの懸濁液を攪拌した直後に、25℃で、測定される。
【0065】
計器は、Mettler Toledo社から市販されている伝導度較正溶液を用いて関係する伝導度範囲において、最初に較正される。伝導度に対する温度の影響は、線形補正モードで自動的に修正される。
【0066】
測定した伝導度は、20℃の基準温度で報告される。報告された伝導度の値は、計器により検出された終点値である(測定された伝導度が、その前の6秒間の平均値に対して、0.4%未満の変化しか示さない時が終点である。)。
【0067】
粒子状物質の粒径分布(Xより小さい直径を有する粒子の質量%)および重量中央値粒子直径(d50
粒子状物質の重量中央値粒子直径および粒子直径質量分布は沈降法、すなわち、重力場中での沈降挙動の解析によって決定される。測定は、Sedigraph(商標) 5100で行う。
【0068】
方法と計器は当業者に公知であり、一般に、充填剤および顔料の粒度を決定するために使用されている。測定は、Naの0.1重量%の水溶液中で行われる。試料は高速攪拌機および超音波を用いて分散させた。
【0069】
粘度測定
ブルックフィールド粘度は、RVT model Brookfield(商標)粘度計を用いて、室温で、攪拌1分後、回転速度100rpm(回転数/分)、室温で、適切なディスクスピンドル2、3または4を用いて測定する。
【0070】
懸濁液中の物質の体積固形分(体積%)
体積固形分は、水性懸濁液の全体積で固形物質の体積を除すことにより決定する。
【0071】
固形物質の体積は、懸濁液の水性相を蒸発させ、得られた物質を120℃で一定重量になるまで乾燥させて得られた固形物質を計量し、固形物質の比重で除すことにより、重量値を体積値へ変換することによって決定する。
【0072】
以下の実施例では、上記の体積固形分の計算のために、実質的に炭酸カルシウムのみからなる物質を使用し、Handbook of Chemistry and Physics(CRC Press;第60版)に、天然カルサイトに対して掲載されている値に基づいて、2.7g/mlの比重値を用いた。
【0073】
懸濁液中の物質の重量固形分(重量%)
重量固形分は、水性懸濁液の全重量で固形物質の重量を除すことにより決定する。
【0074】
固形物質の重量は、懸濁液の水性相を蒸発させ、得られた物質を一定重量になるまで乾燥させることにより得た固形物質を計量することにより決定する。
【0075】
懸濁液の水性相リットル当たりの添加剤の添加量(mg)
懸濁液の水性相リットル当たりの添加剤の量を評価するために、リットル(l)で表した水性相の体積を、懸濁液の全体積から固形相の体積(上記の体積固形分の決定参照)を差し引いてまず決定する。
【0076】
以下の試験に用いるPEIは、以下の表1に説明し特徴を挙げてある。
【0077】
【表1】

【0078】
[実施例1]
この実施例では、最初に、10から300mmの炭酸カルシウム岩石を、42と48μmの間のd50に対応する細かさまで乾式で自生粉砕し、続いてこの乾式粉砕された製品を、水中で、固形物質の当量乾燥重量基準で、0.65重量%の、ナトリウムおよびマグネシウムで中和されたポリアクリル酸塩(Mw=6000g/mol、Mn=2300g/mol)を添加し、1.4リットルの垂直アトライター粉砕機(Dynomill 1.4リットル、Bachofen、スイス、0.7−1.5mmのZrO/ZrSiOビーズ2.7kg使用)中で、重量固形分77.5重量%で、粒子の90重量%が直径<2μmを有し、粒子の65重量%が直径<1μmを有し、粒子の15重量%が直径<0.2μを有し、約0.8μmのd50になるまで再循環させて湿式粉砕することによって得られた、ノルウェー産の天然炭酸カルシウムを扱う。
【0079】
得られた懸濁液を、体積で56.9パーセントの体積固形分に希釈する。
【0080】
0.4kgのこの懸濁液を直径8cmの1リットルのビーカーに導入する。pendraulik歯のディスク攪拌機をビーカーに導入し、攪拌ディスクがビーカーの底から約1cm上方になるようにする。測定された初期の懸濁液の伝導度およびpH値は、下の表に報告する。
【0081】
5000rpmで攪拌しながら、下の表に記載されている試験のそれぞれに示されている添加剤の種類(PA=既存技術に従う添加剤、IN=本発明に従う添加剤)(水溶液の形で)を、示された量で1分間にわたってスラリーに添加する。添加が完了した後、スラリーをさらに5分間攪拌し、その後、懸濁液のpHと伝導度を測定する。
【0082】
【表2】

【0083】
初期懸濁液のpH、伝導度および粘度の違いは、懸濁液の経時変化によるものである。
【0084】
添加された添加剤の別の量でのさらなる実験結果の詳細は、下の表に記載されている。
【0085】
【表3】

上表の結果は、本発明の目的と利点(特に安定な伝導度)が、本発明のPEIを用いることにより達成されることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を水性懸濁液の全体積基準で25から62体積%で含有し、8.5と11の間のpHを有する懸濁液における、懸濁液のpHを少なくとも0.3pH単位高めるための添加剤としての少なくとも1種のポリエチレンイミンの使用であり、懸濁液伝導度の変化がpH単位当たり100μS/cm以下であり、少なくとも1種のポリエチレンイミンが、前記懸濁液の水性相1リットル当たり500から15000mgの量で前記懸濁液に添加される、使用。
【請求項2】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミン添加剤が、炭酸カルシウム含有物質に、水性溶液として添加されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、分岐ポリエチレンイミン、直鎖ポリエチレンイミンおよびこれらの混合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、変性および未変性ポリエチレンイミンならびにこれらの混合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、100g/molと10,000g/molの範囲の分子量を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、100から700g/mol、好ましくは、146から232g/molの分子量を有する直鎖ポリエチレンイミンの群から選択され、好ましくは、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミンおよびテトラエチレンペンタミンから選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、500から8000g/mol、好ましくは、800から1200g/molの分子量を有する分岐ポリエチレンイミンの群から選択され、分岐ポリエチレンイミン中の一級、二級および三級のアミン官能基の比が、本発明の分岐ポリエチレンイミンを変性することに先立って、好ましくは、1:0.86:0.42から1:1.20:0.76の範囲であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1種のポリエチレンイミンが、変性されており、好ましくは、カルボン酸基、より好ましくは、1種以上のC1−C28の脂肪酸、1種以上のC6−C18の脂肪酸、または1種以上のC10−C14の脂肪酸で変性されており、および/またはアルコキシル化、好ましくは、エトキシル化、より好ましくは、10から50個のエチレンオキシド基でのエトキシル化により変性されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記懸濁液が、前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、700と2000μS/cmの間、好ましくは、800と1300μS/cmの間の伝導度を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加後に、懸濁液伝導度の変化が、pH単位当たり70μS/cm以下であり、好ましくは、pH単位当たり50μS/cm以下であり、この変化が、好ましくは伝導度の減少であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加後に、懸濁液伝導度が、10%を超えて変化せず、好ましくは、6%を超えて変化せず、より好ましくは、3%を超えて変化しないことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、懸濁液が、9と10.3の間のpHを有することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、懸濁液のpHを少なくとも0.4pH単位高める量で前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前の懸濁液のpHが8.5と9の間である場合、前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、懸濁液のpHを少なくとも1.0pH単位高める量で前記懸濁液に添加され、また前記少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前の懸濁液のpHが9と10の間である場合、前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、懸濁液のpHを少なくとも0.7pH単位高める量で前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの添加前に、前記懸濁液が、5と100℃の間の温度、好ましくは、35と85℃の間の温度、より好ましくは、45と75℃の間の温度を有することを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、前記懸濁液の水性相のリットル当たり、1000から5000mg、より好ましくは、1300から4000mgの量で、前記懸濁液に添加されることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記炭酸カルシウム含有物質が、前記炭酸カルシウム含有物質の全重量に対して、炭酸カルシウムを重量で少なくとも50%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも98%含むことを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記炭酸塩含有物質の炭酸カルシウムが、沈降炭酸カルシウム(PCC)、天然粉砕炭酸カルシウム(NGCC)、表面活性化炭酸カルシウム(SRCC)、またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記懸濁液が、前記懸濁液の全体積基準で、前記炭酸カルシウム含有物質を、45から60体積%、好ましくは、48から58体積%、最も好ましくは、49から57体積%で含むことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、前記懸濁液中で前記炭酸カルシウム含有物質を粉砕するステップの前に、途中でまたは後で、好ましくは、後で添加されることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記少なくとも1種のポリエチレンイミンが、乾燥形態の前記炭酸カルシウム含有物質に添加され、場合によって、炭酸カルシウム含有物質の前記懸濁液を形成する前に共に乾式粉砕されることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの前記懸濁液への添加後に、懸濁液が、伝導度ベースの調整デバイスを備えたユニット中に導入されることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの前記懸濁液への添加後に、懸濁液が、懸濁液伝導度の測定によって決定されたレベルまで容器またはユニット中に導入されることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
少なくとも1種のポリエチレンイミンの前記懸濁液への添加後に、懸濁液が、懸濁液伝導度の関数として制御される懸濁液処理能力を有する流路の中を通過することを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
水性懸濁液のpHが、少なくとも0.3pH単位高められ、同時に、懸濁液伝導度の変化が、pH単位当たり100μS/cm以下であり、好ましくは、pH単位当たり50μS/cm以下であり、非常に好ましくは、pH単位当たり20μS/cm以下であるような量で、少なくとも1種のポリエチレンイミンを懸濁液へ添加する工程を含むことを特徴とする、少なくとも1種の炭酸カルシウム含有物質を25から62体積%で含有し、8.5と11の間の範囲のpHを有する水性懸濁液のpHを高める方法。
【請求項26】
塗料および/または紙の用途における、請求項25に記載の方法により得られる懸濁液の使用。

【公表番号】特表2013−518160(P2013−518160A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550410(P2012−550410)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050925
【国際公開番号】WO2011/092145
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(505018120)オムヤ・デイベロツプメント・アー・ゲー (31)
【Fターム(参考)】