説明

炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜

【課題】炭酸ガスレーザーのような高出力のレーザー照射に適する炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜を提供する。
【解決手段】光学素子1は、物理膜厚が2075〜2293nmのGe基板2と、Ge基板2上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第1層3と、第1層3上に形成される、物理膜厚が265〜293nmのZnSからなる第2層4と、第2層4上に形成される、物理膜厚が157〜173nmのGeからなる第3層5と、第3層5上に形成される、物理膜厚が588〜650nmのZnSからなる第4層6と、第4層6上に形成される、物理膜厚が861〜952nmのYFからなる第5層7と、第5層7上に形成される、物理膜厚が161〜178nmのZnSからなる第6層8と、第6層8上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第7層9と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ZnSeレンズの両面に、炭酸ガスレ−ザーとYAGレーザーの両方の光に対する反射防止膜を形成する光学素子が知られている。(特許文献1の請求項5に記載の発明を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/119838号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている光学素子は、炭酸ガスレ−ザーとYAGレーザーの両方の光に対応するものであるため、炭酸ガスレ−ザーとYAGレーザーのどちらかに特化して対応させた光学素子に比べると、性能が劣るのが一般的である。
【0005】
かかる性能は、たとえば光の透過率である。ここで、炭酸ガスレーザーは、赤外線のビームを発生する非常に高出力な連続波レーザーである。また、YAGレーザーも同様に高出力なレーザーである。このような高出力なレーザーが照射される光学素子には、その照射に対する耐久性等が求められる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、炭酸ガスレーザーのような高出力のレーザー照射に適する炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子は、Ge基板と、Ge基板上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第1層と、第1層上に形成される、物理膜厚が265〜293nmのZnSからなる第2層と、第2層上に形成される、物理膜厚が157〜173nmのGeからなる第3層と、第3層上に形成される、物理膜厚が588〜650nmのZnSからなる第4層と、第4層上に形成される、物理膜厚が861〜952nmのYFからなる第5層と、第5層上に形成される、物理膜厚が161〜178nmのZnSからなる第6層と、第6層上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第7層と、を備えている。
【0008】
ここで、基板の屈折率が4.0〜4.2であり、第1層の屈折率が1.77〜1.87であり、第2層の屈折率が2.0〜2.4であり、第3層の屈折率が4.0〜4.2であり、第4層の屈折率が2.0〜2.4であり、第5層の屈折率が1.28〜1.51であり、第6層の屈折率が2.0〜2.4であり、第7層の屈折率が1.77〜1.87であることが好ましい。
【0009】
また、炭酸ガスレーザー光の波長が8〜11μmであることが好ましい。
【0010】
また、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域の透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域の透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域の透過率よりも小さいことが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の炭酸ガスレーザー光を透過させる反射防止膜は、本発明の炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子を構成する第1層と、第2層と、第3層と、第4層と、第5層と、第6層と、第7層と、がこの順に積層されている。
【0012】
ここで反射防止膜は、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域の透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域の透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域の透過率よりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、炭酸ガスレーザーのような高出力のレーザー照射に適する炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子の縦断面概要図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子を構成する各薄膜の物質名、屈折率および物理膜厚を表として示す図である。
【図3】比較例の光学素子を構成する各薄膜の物質名、屈折率および物理膜厚を表として示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る反射防止膜の透過率を示す図である。
【図5】比較例の反射防止膜の透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜の構成および製造法について、図面を参照しながら説明する。また、比較例となる光学素子の反射防止膜と、本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子の反射防止膜の違いについても説明する。
【0016】
(本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子および反射防止膜の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子(以下、光学素子1と記す。)の縦断面概要図である。光学素子1は、直径25mm、板厚1mmのGeからなる基板2の両方の面に後述する第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9が、それぞれ基板2側から順に第1層3,第2層4,第3層5,第4層6,第5層7,第6層8,第7層9の順に形成されているものである。図1は、基板2の一方の面側の縦断面を示しているが、基板2の他方の面側の縦断面も図1と同様に表れる。
【0017】
基板2および第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9について詳述する。基板2は、屈折率が4.00のGeからなる。そして、基板2上には、物理膜厚が22nmで屈折率が1.77のYからなる第1層3が形成されている。そして、第1層3上には、物理膜厚が279nmで屈折率が2.31のZnSからなる第2層4が形成されている。そして、第2層4上には、物理膜厚が165nmで屈折率が4.00のGeからなる第3層5が形成されている。そして、第3層5上には、物理膜厚が619nmで屈折率が2.12のZnSからなる第4層6が形成されている。そして、第4層6上には、物理膜厚が906nmで屈折率が1.32のYFからなる第5層7が形成されている。そして、第5層7上には、物理膜厚が170nmで屈折率が2.15のZnSからなる第6層8が形成されている。そして、第6層8上には、物理膜厚が22nmで屈折率が1.77のYからなる第7層9が形成されている。
【0018】
以上の基板2および第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9を備えたものが、本発明の実施の形態に係る光学素子1となる。また、第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9が、本発明の実施の形態に係る反射防止膜10となる。
【0019】
図2は、光学素子1を構成する各要素の物質名、屈折率および物理膜厚を表として示す図である。
【0020】
(本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10の製造法)
第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9は、それぞれ真空蒸着によってこの順に基板2の両面に成膜・積層している。成膜の際には、真空蒸着の諸条件、たとえば蒸着時間、蒸着温度等を調整し、各薄膜を目的とする膜厚および屈折率とする。
【0021】
(比較例の光学素子について)
比較例の光学素子は、光学素子1と同様に直径25mm、板厚1mmのGeからなる比較例の基板の両方の面に、それぞれ比較例の基板側から順に比較例の第1層,比較例の第2層,比較例の第3層,比較例の第4層,比較例の第5層,比較例の第6層,比較例の第7層の順に形成されているものである。比較例の光学素子の縦断面概要図は、光学素子1の場合の図1と同様に表れる。図1の基板2に相当するのが比較例の基板であり、第1層3に相当するのが比較例の第1層であり、第2層4に相当するのが比較例の第2層であり、第3層5に相当するのが比較例の第3層であり、第4層6に相当するのが比較例の第4層であり、第5層7に相当するのが比較例の第5層であり、第6層8に相当するのが比較例の第6層であり、第7層9に相当するのが比較例の第7層である。
【0022】
図3は、比較例の光学素子を構成する各要素の物質名、屈折率および物理膜厚を表として示す図である。比較例の基板と基板2、比較例の第1層と第1層3、比較例の第2層と第2層4、比較例の第3層と第3層5、比較例の第4層と第4層6、比較例の第5層と第5層7、比較例の第6層と第6層8、比較例の第7層と第7層9の物質名は光学素子1のものと同一であるが、屈折率および物理膜厚が異なっている(比較例の基板と基板2を除く)。
【0023】
すなわち、比較例の基板は、屈折率が4.00のGeからなる板状の部材である。そして、比較例の基板上には、物理膜厚が16nmで屈折率が1.77のYからなる比較例の第1層が形成されている。そして、比較例の第1層上には、物理膜厚が200nmで屈折率が2.31のZnSからなる比較例の第2層が形成されている。そして、比較例の第2層上には、物理膜厚が238nmで屈折率が44.00のGeからなる比較例の第3層が形成されている。そして、比較例の第3層上には、物理膜厚が650nmで屈折率が2.12のZnSからなる比較例の第4層が形成されている。そして、比較例の第4層上には、物理膜厚が920nmで屈折率が1.32のYFからなる比較例の第5層が形成されている。そして、比較例の第5層上には、物理膜厚が150nmで屈折率が2.15のZnSからなる比較例の第6層が形成されている。そして、比較例の第6層上には、物理膜厚が16nmで屈折率が1.77のYからなる比較例の第7層が形成されている。
【0024】
以上の比較例の基板および比較例の第1〜7層を備えたものが、比較例の光学素子となる。また、比較例の第1〜7層が、比較例の反射防止膜となる。また、比較例の第1〜7層も、本発明の実施の形態に係る第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9と同様に、真空蒸着によって成膜している。
【0025】
(本発明の実施の形態に係る光学素子1と比較例の光学素子との性能比較)
反射防止膜10および比較例の反射防止膜に対してフーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)を用いて、それぞれの透過率を測定した。測定する波長は、7〜13μmの範囲とした。この測定では、溶接、切断、穴あけ等に用いられるレーザー加工機から発せられる、赤外線のビームである高出力の炭酸ガスレーザー光を反射防止膜10および比較例の反射防止膜に照射した場合と同等の透過率の評価を行うことができる。図4は、本発明の実施の形態に係る反射防止膜10の透過率を示す図である。図5は、比較例の反射防止膜の透過率を示す図である。ここで、光学素子1または比較例の光学素子に対して炭酸ガスレーザーを照射した場合には、基板2または比較例の基板が光の殆どを透過し、一部を吸収する。具体的には、基板2または比較例の基板は、波長が8μmより10μmの方の光をより吸収し、さらには波長10μmより12μmの方の光をより吸収する。そのため、光学素子1または比較例の光学素子は、その吸収分、透過率の低下が大きい。また、そのため、レーザー加工機から発せられる光を、光学素子1または比較例の光学素子に対して照射した場合の透過率は、図4および図5に示すグラフよりも約2%弱低下する。なお、レーザー加工機から発せられる光を、光学素子1または比較例の光学素子に対して照射した場合の図4および図5に相当するグラフの曲線形状は、図4および図5に示したグラフの曲線形状が概ね維持される。
【0026】
本発明の実施の形態に係る反射防止膜10は、比較例の反射防止膜に比べ、炭酸ガスレーザー光の透過率が波長9〜10μmの範囲で0.5〜1%良好だった。これは、反射防止膜10が、光吸収率が大きい物質であるGeからなる第3層5の厚みを、比較例の反射防止膜の比較例の第3層よりも薄くしており、反射防止膜10全体の光吸収率が低くなったためと考えられる。また、炭酸ガスレーザー光の波長8〜11μmの範囲に限ると、比較例に係る反射防止膜の炭酸ガスレーザー光の透過率は、本発明の実施の形態に係る反射防止膜101の炭酸ガスレーザー光の透過率よりも0.2〜1%程度劣っていることがわかる。
【0027】
また、図4に示すように、反射防止膜10は、炭酸ガスレーザー光の波長8〜11μmの範囲で特に高い値を示し、略100%に近い値が得られた。ここで、図4に示すように、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域Aの透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域Bの透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域Cの透過率よりも小さくなっていることがわかる。なお、この図4に示す特定領域A,B,Cの存在は、光学素子1に対して炭酸ガスレーザーを照射した場合にも、図4と同様に観測される。
【0028】
ここで、特定領域Aは、9.2〜9.9μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.7〜99.8%である。また、特定領域Bは、8.4〜8.9μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.9%である。また、特定領域Cは、10.6〜10.8μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.9%である。
【0029】
また、本発明の実施の形態に係る光学素子1に対して、炭酸ガスレーザー光を長時間透過させた場合には、破損、劣化等することなく、初期の性能を長期間に渡り維持できることがわかった。
【0030】
(本発明の実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10は、炭酸ガスレーザー光の透過率が高く、炭酸ガスレーザー光を長時間透過させても破損、劣化等することのない耐久性を有し、高出力のレーザー照射に適するものだった。特に、光学素子1は、波長9〜10.6μmの範囲で透過率98%以上(図示省略)を示し、レーザー加工機に用いられる炭酸ガスレーザー光を透過させる用途に適するものだった。
【0031】
また、仮に基板2のみに対して、波長8〜11μmの範囲の炭酸ガスレーザー光を照射すると、その透過率は約46%である。一方、光学素子1に対して波長8〜11μmの範囲の炭酸ガスレーザー光を照射すると、その透過率は97%を超える。そのため、反射防止膜10が、炭酸ガスレーザー光の反射の抑制に大きく寄与していることがわかる。
【0032】
また、本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10は、炭酸ガスレーザー光の波長が8〜11μmの範囲で特に透過率の高いという性能を得ることができた。特に、多くのレーザー加工機に用いられている波長10.6μmでは、反射防止膜10の透過率が99.9%と極めて高い値が得られている。
【0033】
また、本発明の実施の形態に係る反射防止膜10およびそれを用いた光学素子1は、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域Aの透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域Bの透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域Cの透過率よりも小さい。このように、透過率の高い2つの特定領域B,Cを存在させることによって、その特定領域B,Cの間の特定領域Aの透過率も引き上げることができ、広い波長領域の炭酸ガスレーザー光の透過に適した反射防止膜10およびそれを用いた光学素子1を提供できる。
【0034】
(他の形態)
上述した本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0035】
本発明の実施の形態に係る光学素子1は、板状の基板2の両面に、第1層3,第2層4,第3層5,第4層6,第5層7,第6層8,および第7層9がそれぞれ形成されている。基板2上には、物理膜厚が22nmのYからなる第1層3が形成され、第1層3上には、物理膜厚が279nmのZnSからなる第2層4が形成され、第2層4上には、物理膜厚が165nmのGeからなる第3層5が形成され、第3層5上には、物理膜厚が619nmのZnSからなる第4層6が形成され、第4層6上には、物理膜厚が906nmのYFからなる第5層7が形成され、第5層7上には、物理膜厚が170nmのZnSからなる第6層8が形成され、第6層8上には、物理膜厚が22nmのYからなる第7層9が形成されている。
【0036】
しかし、第1層3は、物理膜厚が21〜23nmの範囲であれば良い。また、第2層4は、物理膜厚が265〜293nmの範囲であれば良い。また、第3層5は、物理膜厚が157〜173nmの範囲であれば良い。また、第4層6は、物理膜厚が588〜650nmの範囲であれば良い。また、第5層7は、物理膜厚が861〜952nmの範囲であれば良い。また、第6層8は、物理膜厚が161〜178nmの範囲であれば良い。また、第7層9は、物理膜厚が21〜23nmの範囲であれば良い。
【0037】
これらの範囲であれば、光学素子1および反射防止膜10と同等の高透過率および高耐久性の光学素子および反射防止膜を得ることができる。以下、光学素子1を構成する各要素である基板2,第1層3,第2層4,第3層5,第4層6,第5層7,第6層8,および第7層9というときには、それぞれ、これらの物理膜厚の範囲内のいずれか一つを指すものとする。また、光学素子1または反射防止膜10というときには、その各要素について、これらの範囲内のいずれか一つを組み合わせたものを指すものとする。
【0038】
また、基板2は、直径25mmのものを使用しているが、基板2の直径寸法は適宜変更できる。たとえば直径1mm〜30cm、具体的には直径30cm、15cm、7cm、5cm、3cm、2cm、1cm等の寸法とすることができる。同様に、基板2は、板厚が1mmのものを使用しているが、基板2の厚み寸法は適宜変更できる。たとえば厚み0.5mm〜3cm、具体的には0.5mm、2mm、5mm、1cm、2cm、3cm等の寸法とすることができる。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係る光学素子1は、基板2の屈折率が4.00であり、第1層3の屈折率が1.77であり、第2層4の屈折率が2.31であり、第3層5の屈折率が4.00であり、第4層6の屈折率が2.12であり、第5層7の屈折率が1.32であり、第6層8の屈折率が2.15であり、第7層9の屈折率が1.77である。
【0040】
しかし、基板2の屈折率が4.0〜4.2の範囲であれば好ましい。第1層3の屈折率は1.77〜1.87の範囲(1.79等)であれば好ましい。また、第2層4の屈折率は2.0〜2.4の範囲(2.15、2.2、2.3等)であれば好ましい。また、第3層5の屈折率は4.0〜4.2の範囲であれば好ましい。また、第4層6の屈折率は2.0〜2.4の範囲(2.15、2.2、2.3等)であれば好ましい。また、第5層7の屈折率は1.28〜1.51の範囲(1.32、1.37等)であれば好ましい。また、第6層8の屈折率は2.0〜2.4の範囲(2.15、2.2、2.3等)であれば好ましい。また、第7層9の屈折率は1.77〜1.87の範囲(1.79等)であれば好ましい。
【0041】
これらの屈折率の範囲を外れる場合であっても、基板2および各層の物理膜厚が上述の範囲を満たしていれば、光学素子1と略同等の高透過率および高耐久性の光学素子を得ることができる。しかし、これらの屈折率の範囲を満たしている方が、より良好な高透過率および高耐久性の光学素子を得ることができる。以下、光学素子1を構成する各要素である、基板2,第1層3,第2層4,第3層5,第4層6,第5層7,第6層8,および第7層9というときには、それぞれ、これらの屈折率の範囲内のいずれか一つを指すものとする。また、光学素子1または反射防止膜10というときには、その各要素について、これらの屈折率の範囲内のいずれか一つを組み合わせたものを指すものとする。
【0042】
たとえば、基板2および各層の屈折率を好適なものとした例は、基板2の屈折率を4.10とし、第1層3の屈折率を1.82とし、第2層4の屈折率を2.20とし、第3層5の屈折率を4.10とし、第4層6の屈折率を2.20とし、第5層7の屈折率を1.40とし、第6層8の屈折率を2.20とし、第7層9の屈折率を1.82としたものである。
【0043】
また、本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10は、透過する炭酸ガスレーザー光の波長が8〜11μmの範囲で良好な高透過率が得られるものである。しかし、8μm未満の波長、11μmを超える波長の炭酸ガスレーザー光を透過する用途にも用いることができる。8μm未満の波長、11μmを超える波長の炭酸ガスレーザー光を透過する光学素子は、各層の厚みまたは屈折率を上述の範囲で光学素子1および反射防止膜10とは変えることが好ましい。なお、光学素子1および反射防止膜10は、炭酸ガスレーザーの主波長帯である9.4〜10.6μmの範囲にて非常に良好な高透過率および高耐久性を示している。
【0044】
また、本発明の実施の形態に係る光学素子1および反射防止膜10は、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域Aの透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域Bの透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域Cの透過率よりも小さくなっている。
【0045】
しかし、このような特定領域A,B,Cは、特に必要ない。たとえば、特定領域B,Cのような透過率の極大値領域を波長8〜11μmの範囲で一つのみ有するようにしても良い。ただし、このような透過率の極大値領域を一つのみ有する光学素子および反射防止膜は、広い波長に渡って高い透過率が得られ難い。逆に、特定領域B,Cのような透過率の極大値領域を波長8〜11μmの範囲で3つ、4つ、5つまたは6つ有するようにしても良い。このように波長8〜11μmの範囲で3つ以上の透過率の極大値領域を有する光学素子および反射防止膜は、より広い波長に渡って高い透過率が得られる。
【0046】
また、特定領域Aは、9.2〜9.9μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.7〜99.8%である。また、特定領域Bは、8.4〜8.9μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.9%である。また、特定領域Cは、10.6〜10.8μmの範囲の波長であり、その範囲の透過率は99.9%である。
【0047】
しかし、特定領域A,B,Cの波長の範囲は、これら以外の値であっても良い。特定領域Aは、炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内のものであることが好ましいが、たとえば炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内のものであっても良い。また、特定領域Bは、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内のものであることが好ましいが、たとえば炭酸ガスレーザー光の波長が7μmを超え8μm以下の範囲内のものであっても良い。また、特定領域Cは、炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内のものであることが好ましいが、たとえば炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え11μm以下の範囲内のものであっても良い。
【0048】
また、特定領域A,B,Cの透過率も、これら以外の値であっても良い。特定領域Aの透過率は、たとえば99.4〜99.6%であっても良い。特定領域Bの透過率は、たとえば99.7〜99.8%であっても良い。特定領域Cの透過率は、たとえば99.5〜99.7%であっても良い。
【0049】
また、図4に示すように、波長8〜11μmの範囲では、透過率の極小値領域である特定領域Aが、透過率の極大値領域である特定領域B,Cに挟まれている。しかし、波長8〜11μmの範囲で、透過率の極大値領域が透過率の極小値領域に挟まれるようにしても良い。また、波長8〜11μmの範囲で、透過率の極小値領域と透過率の極大値領域の数を同数としても良い。このように、透過率の極小値領域と透過率の極大値領域の数の調整、および透過率の極小値領域と透過率の極大値領域の出現する波長領域の調整は、反射防止膜10を構成する各層の厚み、屈折率の調節等によって可能となる。
【0050】
また、光学素子1は、基板2の両面に反射防止膜10を形成(成膜)している。しかし、用途によって、レーザー光の透過率低下が問題にならない場合などは、基板2の炭酸ガスレーザー光が照射される側の面にのみ、あるいはその逆側の面にのみに反射防止膜10を形成するようにしても良い。このようにすると、若干炭酸ガスレーザー光の透過率が低下するが、その低下の度合いは許容できる範囲である。
【0051】
本実施の形態では、反射防止膜10を構成する第1層3、第2層4、第3層5、第4層6、第5層7、第6層8および第7層9を形成(成膜)するのに、真空蒸着法を採用した。しかし、真空蒸着法に代えてイオンアシスト蒸着法等を採用することができる。
【0052】
本実施の形態では、光学素子1にレーザー加工機から発せられる炭酸ガスレーザー光を透過させ、良好な高透過率および高耐久性を得た。しかし、光学素子1は、レーザーメスのような医療分野で用いられる炭酸ガスレーザー光を透過させた場合にも良好な高透過率および高耐久性が得られる。
【0053】
また、光学素子1および反射防止膜10は、炭酸ガスレーザー光を透過させる用途の他、センサー、監視カメラ等の赤外線を用いる光学部品としても利用できる。このセンサー、監視カメラ等の赤外線を用いる光学部品については、光の波長8〜12μmの広帯域で良好な透過率を得ることができる。
【0054】
また、光学素子1は、基板2にGeを用いている。しかし、Geに代えてたとえばSi、ZnSeまたはカルゴゲナイドガラス等を基板の材質として採用できる。これらの基板の材質は、反射防止膜が用いられる光学素子の用途によって変更することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 光学素子(炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子)
2 基板
3 第1層
4 第2層
5 第3層
6 第4層
7 第5層
8 第6層
9 第7層
10 反射防止膜
A 炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域
B 炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域
C 炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子において、
Ge基板と、
上記Ge基板上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第1層と、
上記第1層上に形成される、物理膜厚が265〜293nmのZnSからなる第2層と、
上記第2層上に形成される、物理膜厚が157〜173nmのGeからなる第3層と、
上記第3層上に形成される、物理膜厚が588〜650nmのZnSからなる第4層と、
上記第4層上に形成される、物理膜厚が861〜952nmのYFからなる第5層と、
上記第5層上に形成される、物理膜厚が161〜178nmのZnSからなる第6層と、
上記第6層上に形成される、物理膜厚が21〜23nmのYからなる第7層と、を備えたことを特徴とする炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子。
【請求項2】
請求項1記載の炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子において、
上記基板の屈折率が4.0〜4.2であり、
上記第1層の屈折率が1.77〜1.87であり、
上記第2層の屈折率が2.0〜2.4であり、
上記第3層の屈折率が4.0〜4.2であり、
上記第4層の屈折率が2.0〜2.4であり、
上記第5層の屈折率が1.28〜1.51であり、
上記第6層の屈折率が2.0〜2.4であり、
上記第7層の屈折率が1.77〜1.87であることを特徴とする炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子において、
上記炭酸ガスレーザー光の波長が8〜11μmであることを特徴とする炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子において、
炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域の透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域の透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域の透過率よりも小さいことを特徴とする炭酸ガスレーザー光を透過させる光学素子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の前記第1層と、前記第2層と、前記第3層と、前記第4層と、前記第5層と、前記第6層と、前記第7層と、がこの順に積層されていることを特徴とする炭酸ガスレーザー光を透過させる反射防止膜。
【請求項6】
請求項5記載の反射防止膜において、
炭酸ガスレーザー光の波長が9μmを超え10μm以下の範囲内の特定領域の透過率が、炭酸ガスレーザー光の波長が8μmを超え9μm以下の範囲内の特定領域の透過率、および炭酸ガスレーザー光の波長が10μmを超え11μm以下の範囲内の特定領域の透過率よりも小さいことを特徴とする反射防止膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−15562(P2013−15562A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146268(P2011−146268)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000227364)日東光学株式会社 (151)
【Fターム(参考)】