説明

炭酸ガス溶解水の評価方法及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置

【課題】電子材料などのウェット洗浄工程で使用される炭酸ガス溶解水中の極微量の塩素イオン濃度を、正確に定量することができる炭酸ガス溶解水の評価方法及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置を提供する。
【解決手段】超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸ガス溶解水を脱気処理したのち、炭酸ガス溶解水中の塩素イオンを定量することを特徴とする炭酸ガス溶解水の評価方法、及び、炭酸ガス溶解水を脱気処理する脱気装置、脱気処理した炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定する電気伝導率計又は電気伝導度計及び脱気処理した炭酸ガス溶解水を充填する採水容器を有することを特徴とする炭酸ガス溶解水試料の採水装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス溶解水の評価方法及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、電子材料などのウェット洗浄工程で使用される炭酸ガス溶解水中の塩素イオン濃度を、正確に定量することができる炭酸ガス溶解水の評価方法及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子産業分野における超微細加工化、高性能化に伴い超純水の水質に対する要求レベルは厳しく、各種イオン、金属、有機体炭素(TOC)などの不純物を極微量まで定量することが求められている。また、最近では、超純水の水質のみならず、超純水に特定のガスを溶解して調製したガス溶解水に対しても、超純水と同等レベルの水質が要求されている。ウェット洗浄工程のリンスに使用する超純水に、特定のガスを溶解させて、様々な機能を付与した水が洗浄に有効であることが分かってきた。リンスで使用される超純水は導電性が低いために帯電しやすく、被洗浄物に静電破壊を起こさせることがしばしばある。そのために、半導体製造工場などでは、静電破壊を起こさせないために、超純水に炭酸ガスを溶解させて電気伝導率を高め、帯電を抑える方法がよくとられている。
【0003】
炭酸ガスを溶解するための原水となる超純水が高純度の水質であっても、超純水又は炭酸ガス溶解水が、炭酸ガス溶解装置、炭酸ガス溶解水移送配管などと接してそれらの接触部材から溶出する不純物や、溶解される供給炭酸ガスに含まれる極微量の不純物が炭酸ガス溶解水に混入するおそれが皆無とは言えず、炭酸ガス溶解水について改めて水質分析が求められる。例えば、塩素イオンもできる限り除去すべきイオンの一つであり、ng/Lレベル以下の塩素イオン濃度の測定が要求される。
【0004】
近年、超純水の水質分析技術は進歩し、極微量の塩素イオンの分析も可能であるが、ガス溶解水の水質分析に関しては十分に検討されておらず、超純水の水質分析技術を単にガス溶解水の分析に転用しても、必ずしも正確に分析できるとは言えない。水中の塩素イオンの微量分析は、通常、イオンクロマトグラフィーにより用いて行われる。イオンクロマトグラフィーにおいては、試料水をイオン交換樹脂が充填された濃縮カラムに通水してイオンを吸着後、濃縮カラムに溶離液を通液し、濃縮カラムから流出した溶離液を分離カラムに順次通液し、分離カラムから流出する液の電気伝導度を常時測定してイオン種による分配係数の差を利用してクロマトグラムを作成し、イオン種に応じた保持時間帯に検出ピークが表わされる。検出ピークの面積に基づいて、そのイオンが定量される。しかし、このようなイオン定量方法を、炭酸ガス溶解水の塩素イオンの定量に用いても、炭酸ガスが塩素イオン定量の妨害物質となり、極微量の塩素イオン濃度を精度よく測定することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料などのウェット洗浄工程で使用される炭酸ガス溶解水中の極微量の塩素イオン濃度を、正確に定量することができる炭酸ガス溶解水の評価方法及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、塩素イオンの定量に際して、塩素イオン濃度の測定値は、試料水中の重炭酸イオン及び/又は炭酸イオン(以下、「(重)炭酸イオン」と言う。)の濃度に応じて変化し、(重)炭酸イオンの濃度が高いと塩素イオン濃度の測定値も高くなり、炭酸ガス溶解水中の炭酸ガスを脱気により除去したのちにイオンクロマトグラフィーで塩素イオンを定量することにより、極微量の塩素イオンであっても精度よく定量し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸ガス溶解水を脱気処理したのち、炭酸ガス溶解水中の塩素イオンを定量することを特徴とする炭酸ガス溶解水の評価方法、
(2)炭酸ガス溶解水を脱気処理して、電気伝導率を0.1mS/m以下としたのち塩素イオンを定量する(1)記載の炭酸ガス溶解水の評価方法、
(3)塩素イオンの定量を、イオンクロマトグラフィーにより行う(1)又は(2)記載の炭酸ガス溶解水の評価方法、及び、
(4)炭酸ガス溶解水を脱気処理する脱気装置、脱気処理した炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定する電気伝導率計又は電気伝導度計及び脱気処理した炭酸ガス溶解水を充填する採水容器を有することを特徴とする炭酸ガス溶解水試料の採水装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭酸ガス溶解水の評価方法により、炭酸ガス溶解水中の極微量の塩素イオンをイオンクロマトグラフィーによって正確に定量することができ、半導体製造工場などで使用される洗浄水の水質を高精度で管理することができる。本発明の炭酸ガス溶解水試料の採水装置を用いることにより、分析装置が炭酸ガス溶解水を使用するラインから離れた場所にあっても、試料水に品質変動を生ずることなく、炭酸ガス溶解水中の塩素イオン濃度を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の炭酸ガス溶解水の評価方法においては、超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸ガス溶解水を脱気処理したのち、炭酸ガス溶解水中の塩素イオンを定量する。本発明方法によれば、電子部品の洗浄工程などにおいて洗浄水として使用される炭酸ガス溶解水中の塩素イオン濃度の分析精度を高め、工程管理を容易にし、不良品の発生を防ぎ、製品の品質を高めることができる。炭酸ガス溶解水の原水として用いられる超純水中の塩素イオン濃度は極めて低いが、超純水へ炭酸ガスを溶解する炭酸ガス溶解水の製造工程や、その後の炭酸ガス溶解水の移送工程などにおいて、炭酸ガス溶解水中へ塩素イオンが混入する場合があり、塩素イオン濃度の高い炭酸ガス溶解水で電子部品などを洗浄すると、不良品が発生する。本発明方法を用いて炭酸ガス溶解水を評価することにより、炭酸ガス溶解水中の塩素イオン濃度が所定の管理水準以下であることを確認し、安定した水質の炭酸ガス溶解水を用いて、電子部品などを洗浄することができる。
【0010】
本発明方法において、炭酸ガス溶解水の脱気手段は、水中の炭酸ガスを除去し得るものであれば特に制限はなく、例えば、真空脱気、膜脱気、窒素脱気、加熱脱気、これらの組み合わせなどを挙げることができる。脱気の程度は、真空度、脱気水量、窒素ガスなどの不活性ガス供給量、気液接触面積などを調整することにより制御することができ、また、脱気装置を多段に設けて調整することもできる。
【0011】
炭酸ガス溶解水を脱気処理することにより、分析される炭酸ガス溶解水中に溶解している(重)炭酸イオンの量を減少し、微量の塩素イオンを正確に定量することが可能となる。炭酸ガスが水に溶解すると炭酸H2CO3を生じ、さらに炭酸の解離により重炭酸イオンHCO3-と炭酸イオンCO32-が生成する。(重)炭酸イオンは、塩素イオンの分析において、妨害物質として作用する場合が多い。例えば、イオンクロマトグラフィーにおいては、炭酸ガスが超純水に溶解して生成した(重)炭酸イオンのピークと、塩素イオンのピークとが重なり、あるいは、近接していることに起因して、塩素イオンのピークのベースレベルが押し上げられた状態となり、真の塩素イオン濃度より高い測定値となると推測される。あるいは、試料水中の炭酸濃度又は(重)炭酸イオン濃度に応じて、カラム、充填材、配管、ポンプなどの分析装置から塩素イオンが溶出して、塩素イオン濃度の測定値を高めていることも考えられる。
【0012】
炭酸ガス溶解水から脱気処理によって炭酸を除去することにより、水中において炭酸の濃度が低下し、さらに炭酸と平衡状態にある(重)炭酸イオンの濃度も低下する。塩素イオンの定量に対して妨害物質として作用する(重)炭酸イオンの濃度を低下させることにより、極微量の塩素イオン濃度の測定の精度を高めることができる。
【0013】
本発明方法において、炭酸ガス溶解水の脱気の程度は、脱気処理された炭酸ガス溶解水の電気伝導率により判定することができる。炭酸ガス溶解水は、超純水に炭酸ガスを溶解して調製したものであり、基本的には、極めて微量の不純物を除いては、溶存するイオン性物質は、炭酸ガスが溶解して生成した(重)炭酸イオンのみである。したがって、電気伝導率は、水中の(重)炭酸イオンの濃度を反映したものとなり、そして脱気の程度を反映したものとなり得る。
【0014】
本発明方法において、塩素イオンの定量方法に特に制限はなく、例えば、硝酸銀滴定法、イオン電極法、イオンクロマトグラフィーなどを挙げることができる。これらの中で、極微量の塩素イオンの定量に適したイオンクロマトグラフィーを好適に用いることができる。本発明方法においては、脱気により塩素イオン定量の妨害物質となる(重)炭酸イオンを低濃度まで除去しているので、極微量の塩素イオンを精度よく定量することができる。
【0015】
本発明方法において、脱気処理後の炭酸ガス溶解水の電気伝導率は、0.1mS/m以下であることが好ましく、0.068mS/m以下であることがより好ましく、0.017mS/m以下であることがさらに好ましい。脱気処理後の炭酸ガス溶解水の電気伝導率が低いほど、水中の(重)炭酸イオン濃度が低く、塩素イオン濃度の測定値は真の塩素イオン濃度に近くなる。
【0016】
本発明方法においては、イオンクロマトグラフィーにより測定された値をそのまま塩素イオン濃度とみなすことができ、あるいは、あらかじめ塩素イオンが存在しない炭酸ガス溶解水について、種々の脱気の程度すなわち種々の電気伝導率のブランク水について塩素イオン濃度の測定値を求め、実際の炭酸ガス溶解水について脱気処理したのち定量分析し、炭酸ガス溶解水の塩素イオン濃度の測定値から、脱気の程度が同じブランク水の測定値を減じて、真の塩素イオン濃度とみなすこともできる。
【0017】
本発明方法において、炭酸ガス溶解水の脱気の程度は、洗浄工程において要求される炭酸ガス溶解水の水質に応じて選択することができる。イオンクロマトグラフィーにより求められる塩素イオン濃度の測定値は、(重)炭酸イオンの影響により真の塩素イオン濃度より高くなる。したがって、例えば、洗浄水の水質として塩素イオン濃度5.0ng/L以下が要求されるとき、脱気処理後の炭酸ガス溶解水の塩素イオン濃度の測定値が5.0ng/L以下になるまで脱気すれば、真の塩素イオン濃度が5.0ng/L以下であることを確認することができる。
【0018】
電子部品などの製造工場において、炭酸ガス溶解水は、膜式溶解装置、散気式溶解装置、吸引式溶解装置などの溶解装置を用いて、超純水に炭酸ガスを溶解させることによって調製される。溶解装置から排出される炭酸ガス溶解水は、炭酸ガス溶解水供給配管を介して洗浄装置に供給され、洗浄水やリンス水として用いられる。
【0019】
本発明方法により評価する炭酸ガス溶解水は、溶解装置の出口部、炭酸ガス溶解水供給配管、洗浄機など任意の位置で採取することができる。炭酸ガス溶解水供給配管にサンプリング口が設けられている場合には、そのサンプリング口に採取管を取り付けて採取することが簡便である。試料水の採取は、常時でも、定期的でもよく、また、炭酸ガス溶解装置の新設時、定期点検時など炭酸ガス溶解水の水質評価が必要な任意の時期でもよい。採取した試料水は、脱気処理したのち、直ちに定量分析装置、例えば、イオンクロマトグラフに供給して定量することもできるが、通常は、イオンクロマトグラフは離れた場所に設置されている場合が多いために、脱気処理された炭酸ガス溶解水をいったん採水容器に受けることが好ましい。
【0020】
本発明の炭酸ガス溶解水試料の採水装置は、炭酸ガス溶解水を脱気処理する脱気装置、脱気処理した炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定する電気伝導率計又は電気伝導度計及び脱気処理した炭酸ガス溶解水を充填する採水容器を有する。
【0021】
図1は、本発明方法の実施の一態様及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置の一態様の説明図である。本態様は、オフラインにおける評価方法である。炭酸ガス溶解水が、配管1を経由して脱気装置2に送られる。脱気装置は、例えば、ポリプロピレンなどの高分子膜を介して気相側を減圧にするか、あるいは、窒素ガスなどの不活性ガスを通気しながら減圧にして、液相から気相に炭酸ガスを移動させる機構や、炭酸ガス溶解水を噴霧などで液滴化し、気液接触面積を増やして、窒素ガスなどの不活性ガスと接触させることにより、炭酸ガスを気相に移動させる機構などとすることができる。脱気装置で脱気処理された水は、電気伝導率計3により電気伝導率が測定される。電気伝導率を測定したのち、環境中の塩素イオンを除去して空気を純化する機構を有する採水箱4に送られ、採水箱の中の採水容器5に注入される。
【0022】
採水され、密栓された採水容器5は、炭酸ガス溶解水の採取場所から、分析装置の設置場所まで運搬される。必要に応じて、水中の溶存ガスをさらに気相に移動させるために、減圧装置6に移動され、採水容器が減圧装置の中で開栓され、水中の溶存ガスが減圧下に脱気される。また、配管7を経由して、採水容器の中に不活性ガスを供給することにより、さらに脱気を促すことができる。脱気処理された炭酸ガス溶解水の電気伝導率は、電気伝導率計8で測定することができる。脱気装置2で十分に脱気が行われた場合には、減圧装置6及び配管7を経由した不活性ガスの供給による脱気処理は省略することができる。これらで脱気処理された炭酸ガス溶解水を、ポンプ9により分析装置10に送って定量分析を行う。本態様によれば、炭酸ガス溶解水製造装置のある場所で脱気処理し、脱気処理された炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定して、所望の電気伝導率の炭酸ガス溶解水試料を採取することができる。
【0023】
図2は、本発明方法の実施の他の態様の説明図である。本態様は、オンラインにおける評価方法である。炭酸ガス溶解水が、配管11を経由して脱気装置12に送られる。脱気装置で脱気処理された水は、電気伝導率計13で電気伝導率が測定されたのち、減圧装置14内の採水容器15に送られる。脱気処理させれ水は、採水容器15に溢れさせながら供給される。必要に応じて、減圧装置14で採水容器15の周囲を減圧にし、配管16を経由して容器15に不活性ガスを供給し、さらに脱気処理を行うことができる。脱気処理された炭酸ガス溶解水の電気伝導率は、電気伝導率計17で測定することができる。脱気装置12で十分に脱気が行われた場合には、減圧装置14及び配管16を経由した不活性ガスの供給による脱気処理は省略することができる。これらで脱気処理された炭酸ガス溶解水を、ポンプ18により分析装置19に送って定量分析を行う。
【0024】
図3は、本発明に用いる脱気処理された炭酸ガス溶解水試料の採水箱の一態様の説明図である。本態様の採水箱は、採水室20、送気装置21、気液接触装置22、水の循環路23、気体の循環路24を有する。採水室20は、前面に扉25を有し、この扉を開いて室内に採水容器26を出入することができる。採水室は多孔の床板27を有し、床板の上に採水容器を載置し、床板の下は貯水部28になっている。採水室の上壁は、炭酸ガス溶解水の流路に接続したチューブ29を挿通する開口を有し、開口に挿通したチューブの先端を採水容器の底の近傍まで挿入する。
【0025】
採水室の開放した背面には、水滴除去用のデミスター30、気液接触装置22、ガスフィルター31、送風ファン32が連接している。送風ファンを運転すると、気体はガスフィルター、気液接触装置、デミスターを吹き抜けて採水室へ入り、多孔の床板27から気体の循環路24を経由して送風室33に循環する。貯水部28には溢水管34を設け、水位を制御して、気体の循環路を確保する。
【0026】
脱気処理された炭酸ガス溶解水試料を採取するには、採水室の内部に挿入したチューブの先端を採水容器の底部に位置させたのち扉を閉じ、採水容器内に試料水を供給する。試料水の供給は、試料水が採水容器の口部から溢れ出ても続け、これにより採水容器を試料水で洗浄する。溢れ出た試料水は、貯水部に溜まる。貯水部に溜まった水は、循環ポンプ35の運転により気液接触装置の上部の散水管36に供給され、気液接触装置の内部を下向流して気体と接触し、気体に含まれる不純物が除去され、採水室の気相からの不純物の混入を防止することができる。採水箱の内部は若干陽圧にし、採水箱への外気の侵入を防止することが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
膜式溶解装置を備えた機能性洗浄水製造装置[栗田工業(株)、KHOW SYSTEM]を用いて炭酸ガス溶解水を調製し、炭酸ガス溶解水中の塩素イオンを定量した。
炭酸ガス溶解水の調製に用いた超純水の塩素イオン濃度は1ng/L未満であり、炭酸ガスの溶解濃度は30mg/Lとした。図4に示す脱気装置37、導電率計[(株)堀場製作所、D−54T]38及び炭酸ガス溶解水試料の採水装置39を備えた試験装置に炭酸ガス溶解水を5L/minで給水した。脱気装置は、耐圧容器の内部に気体透過膜材からなる細管で構成された炭酸ガス溶解水の通路を収容した装置であり、耐圧容器の内部の空間を減圧にして脱気処理した。採水装置は、図3に示す構造の装置である。
脱気装置の内部の圧力を一定にして60分間通水し、最後に導電率計により脱気処理された炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定し、採水装置から採水容器を取り出し、イオンクロマトグラフ[日本ダイオネクス(株)、DX−500]を用いて試料水のクロマトグロムを求め、あらかじめ作成した検量線より塩素イオン濃度の測定値を算出した。
試料水の電気伝導率0.0675mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値10.0ng/Lであり、試料水の電気伝導率0.0242mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値5.0ng/Lであり、試料水の電気伝導率0.0166mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値2.8ng/Lであり、試料水の電気伝導率0.0056mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値1.0ng/L未満であった。
【0028】
比較例1
脱気処理の程度を弱め、試料水の電気伝導率を十分に低下させなかった以外は、実施例1と同じ操作を行った。
試料水の電気伝導率0.144mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値18.2ng/Lであり、試料水の電気伝導率0.113mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値15.0ng/Lであった。
比較例1及び実施例1の結果を、第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
第1表に見られるように、脱気の程度を高め、電気伝導率の低い試料水とするほど、塩素イオン濃度の測定値が小さくなる。試料水の電気伝導率が0.0675mS/m以下になると、定量範囲の下限値とされている塩素イオン濃度10ng/L以下の定量も可能となる。試料水の電気伝導率により表される炭酸ガスの脱気の程度は、工程において要求される塩素イオン濃度に応じて適宜選択することができる。
【0031】
実施例2
実施例1で調製した炭酸ガス溶解水に、高純度食塩水(NaCl)を添加して塩素イオン濃度10ng/Lとした試験水を用いて、実施例1と同じ操作を行った。
試料水の電気伝導率0.010mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値11.8ng/Lであり、試料水の電気伝導率0.0056mS/mのとき、塩素イオン濃度の測定値10.3ng/Lであった。
実施例2の結果を、第2表に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
第2表に見られるように、塩素イオン濃度10ng/Lの炭酸ガス溶解水も、炭酸ガスを脱気により除去してイオンクロマトグラフィーにより分析すると、分析精度が向上し、試料水の電気伝導率を0.0056mS/mまで低下させると、塩素イオン濃度の測定値は、真の塩素イオン濃度にほぼ一致する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の炭酸ガス溶解水の評価方法によれば、電子部品などの製造工程において、洗浄水として用いられる炭酸ガス溶解水中の塩素イオン濃度の分析精度を高め、従来は定量範囲の下限とされていた10ng/L以下の塩素イオンの定量を可能とし、工程管理を容易にし、不良品の発生を防ぎ、製品の品質を向上することができる。本発明の炭酸ガス溶解水試料の採水装置を用いることにより、脱気処理した炭酸ガス溶解水試料を採水して、水質の変動を招くことなく、洗浄工程から離れた場所に位置する分析装置まで運んで正確に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明方法の実施の一態様及び採水装置の一態様の説明図である。
【図2】本発明方法の実施の他の態様の説明図である。
【図3】本発明に用いる採水箱の一態様の説明図である。
【図4】実施例で用いた装置の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 配管
2 脱気装置
3 電気伝導率計
4 採水箱
5 採水容器
6 減圧装置
7 配管
8 電気伝導率計
9 ポンプ
10 分析装置
11 配管
12 脱気装置
13 電気伝導率計
14 減圧装置
15 採水容器
16 配管
17 電気伝導率計
18 ポンプ
19 分析装置
20 採水室
21 送気装置
22 気液接触装置
23 水の循環路
24 気体の循環路
25 扉
26 採水容器
27 多孔の床板
28 貯水部
29 チューブ
30 デミスター
31 ガスフィルター
32 送風ファン
33 送風室
34 溢水管
35 循環ポンプ
36 散水管
37 脱気装置
38 導電率計
39 採水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸ガス溶解水を脱気処理したのち、炭酸ガス溶解水中の塩素イオンを定量することを特徴とする炭酸ガス溶解水の評価方法。
【請求項2】
炭酸ガス溶解水を脱気処理して、電気伝導率を0.1mS/m以下としたのち塩素イオンを定量する請求項1記載の炭酸ガス溶解水の評価方法。
【請求項3】
塩素イオンの定量を、イオンクロマトグラフィーにより行う請求項1又は請求項2記載の炭酸ガス溶解水の評価方法。
【請求項4】
炭酸ガス溶解水を脱気処理する脱気装置、脱気処理した炭酸ガス溶解水の電気伝導率を測定する電気伝導率計又は電気伝導度計及び脱気処理した炭酸ガス溶解水を充填する採水容器を有することを特徴とする炭酸ガス溶解水試料の採水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−343192(P2006−343192A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168372(P2005−168372)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】