説明

炭酸ジアリールの製造方法およびポリカーボネートの製造方法

【課題】シュウ酸ジアリールを非腐食性の固体触媒の存在下に脱カルボニル化反応させて炭酸ジアリールを効率的にかつ低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】シュウ酸ジアリールを、(1)活性炭、(2)希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物、或いは(3)活性炭に担持させた希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物、の存在下で脱カルボニル化反応させる炭酸ジアリールの製造方法。製造された炭酸ジフェニルとビスフェノールAとを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させるポリカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸ジアリールの製造方法およびポリカーボネートの製造方法に係り、詳しくは、シュウ酸ジアリールを脱カルボニル化反応させることにより、ポリカーボネートの製造原料として有用な炭酸ジアリールを効率的に製造する方法と、製造された炭酸ジアリールを用いてポリカーボネートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジアリールはポリカーボネートの製造原料等として工業的に有用な化合物である。
【0003】
従来、炭酸ジアリールの製造方法として、シュウ酸ジアリールを脱カルボニル反応させて炭酸ジアリールを生成させる方法が知られているが、この方法は反応速度が遅い上に、目的の炭酸ジアリールの選択率が著しく低いという問題を有している。即ち、例えばシュウ酸ジフェニルを蒸留フラスコ中で煮沸して炭酸ジフェニルを製造する方法(有機合成協会誌,5,報47(1948),70)では、反応速度が遅い上に、フェノールと二酸化炭素が副生し、目的の炭酸ジフェニルの選択率が著しく低い。
【0004】
また、シュウ酸ジエステルをアルコラート触媒の存在下に50〜150℃に液相で加熱して炭酸ジアリールを製造する方法も提案されているが(USP4,544,507号公報)、この方法では、主生成物として得られるものは原料のシュウ酸ジフェニルであって、目的の炭酸ジフェニルは得られない。
【0005】
また、金属ハロゲン化物や金属の有機酸塩、或いは金属トリフェニルホスフィン錯体の存在下にシュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応を行う方法も提案されているが(特開平10−101619号公報)、この方法であっても、選択率および収率は十分であるとは言えず、また、金属ハロゲン化物等のハロゲン含有化合物は腐食性が高く、反応容器やポンプとして高価な高耐食性のものを用いる必要があることが実用化の障害となっている。また、金属塩類は、反応液中に溶解してしまうため、目的生成物との分離が必須であるため、コストが高くなるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】USP4,544,507号公報
【特許文献2】特開平10−101619号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】有機合成協会誌,5,報47(1948),70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、シュウ酸ジアリールを非腐食性の固体触媒の存在下に脱カルボニル化反応させて、炭酸ジアリールを効率的にかつ低コストで製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、脱カルボニル化反応の触媒活性に優れた非腐食性の固体触媒を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] シュウ酸ジアリールを、活性炭の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【0012】
[2] シュウ酸ジアリールを、希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【0013】
[3] シュウ酸ジアリールを、活性炭に担持させた希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【0014】
[4] 希土類金属がランタノイドおよびイットリウムより選ばれる1種または2種以上である[2]または[3]に記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【0015】
[5] 両性金属が、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、およびスズより選ばれる1種または2種以上である[2]または[3]に記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【0016】
[6] シュウ酸ジアリールが、一酸化窒素と酸素とメタノールを原料として亜硝酸メチルを製造し、これを一酸化炭素と反応させてシュウ酸ジメチルを製造し、得られたシュウ酸ジメチルとフェノールとをエステル交換触媒の存在下で反応させて、生成するメタノールを除去しながらシュウ酸メチルフェニルを生成させ、得られたシュウ酸メチルフェニルをエステル交換触媒の存在下で不均化反応させて、生成するシュウ酸ジメチルを除去しながら生成させたシュウ酸ジフェニルであり、生成する炭酸ジアリールが炭酸ジフェニルである[1]ないし[5]のいずれかに記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【0017】
[7] [1]ないし[6]のいずれかの方法で製造された炭酸ジフェニルとビスフェノールAとを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明で脱カルボニル化反応の触媒として用いる(1)活性炭、(2)希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物、(3)活性炭に担持させた希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物は、いずれも上記金属材料に対する腐食の問題がなく、しかもシュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応に対する触媒活性に優れ、固体触媒であるために目的生成物との分離も容易である。
従って、本発明によれば、シュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応により炭酸ジアリールを効率的にかつ低コストで製造することができ、また、製造された炭酸ジアリールを用いてポリカーボネートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0020】
[炭酸ジアリールの製造方法]
本発明においては、下記反応式(I)によるシュウ酸ジアリールの脱カルボニル化反応による炭酸ジアリールの製造にあたり、触媒として、以下の(1)〜(3)のいずれかを用いる。
(1) 活性炭
(2) 希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物
(3) 活性炭に担持させた希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物
【0021】
【化1】

【0022】
<シュウ酸ジアリール>
原料のシュウ酸ジアリールのアリール基としては、置換基を有していても良いフェニル基、置換基を有していても良いナフチル基等が挙げられ、好ましくは置換基を有していても良いフェニル基、より好ましくはフェニル基である。
【0023】
フェニル基、ナフチル基に置換する置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜12のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
【0024】
置換フェニル基や置換ナフチル基は、置換基の位置により各種の異性体が存在するが、原料のシュウ酸ジアリールはこれらのいずれであっても良い。例えば、置換フェニル基の異性体として、2−,3−または4−メチルフェニル基、2−,3−または4−エチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基を有する2−,3−または4−アルキルフェニル基、2−,3−または4−メトキシフェニル基、2−,3−または4−エトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基を有する2−,3−または4−アルコキシフェニル基、2−,3−または4−ニトロフェニル基、2−,3−または4−フルオロフェニル基、2−,3−または4−クロロフェニル基等のハロゲン原子を有する2−,3−または4−ハロフェニル基などが挙げられるが、これらのいずれであっても良い。
【0025】
本発明で用いるシュウ酸ジアリールはシュウ酸ジアルキルと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応で製造することができる。
シュウ酸ジアルキルは下記反応式(II)で示すように、一酸化炭素と酸素と脂肪族または指環式アルコールを原料とする酸化カルボニル化反応で製造される。
【0026】
【化2】

【0027】
上記反応式(II)で、Rは炭素数1から10の直鎖または分岐アルキル基、あるいは指環式アルキル基を示し、不飽和結合を有していても良いし、有していなくても良い。
【0028】
上記の酸化カルボニル化反応では、副生する水を除去することで反応の効率を高めることができる。そのためには一酸化窒素と酸素とアルコールを原料として亜硝酸アルキルを製造し、これを一酸化炭素と金属触媒の存在下で反応させてシュウ酸ジアルキルを製造する2段階の反応を行うことが効果的である。
【0029】
シュウ酸ジアルキル生成反応は、例えば、一酸化炭素および亜硝酸アルキルを含有する原料ガスを白金族金属触媒と気相で接触させることによって行われる。
上記の方法により得られたシュウ酸ジアルキルは、芳香族ヒドロキシ化合物とエステル交換させて、シュウ酸ジアリールを生成させ、そのシュウ酸ジアリールを分離・回収する。
【0030】
エステル交換反応としては、例えば、エステル交換触媒の存在下、副生するアルコールを蒸留除去しながら、シュウ酸ジアルキルと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行わせてシュウ酸アルキルアリールを生成させ、次いで、エステル交換触媒の存在下、シュウ酸ジアルキルを除去しながら、シュウ酸アルキルアリールの不均化反応を主体とする反応を行わせて、本発明で用いるシュウ酸ジアリールを製造することができる。
【0031】
例えばシュウ酸ジアリールとしてのシュウ酸ジフェニルは、一酸化窒素と酸素とメタノールを原料として亜硝酸メチルを製造し、これを一酸化炭素と反応させてシュウ酸ジメチルを製造し、得られたシュウ酸ジメチルとフェノールとをエステル交換触媒の存在下で反応させて、生成するメタノールを除去しながらシュウ酸メチルフェニルを生成させ、得られたシュウ酸メチルフェニルをエステル交換触媒の存在下で不均化反応させて、生成するシュウ酸ジメチルを除去しながら生成させることができる。
【0032】
<触媒>
本発明で用いる触媒のうち、(1)活性炭としては、特に制限はなく、木質系、ヤシガラ系、石炭系のいずれの活性炭を用いることも出来る。比表面積についても特に制限は無いが、300m/g以上のものが通常用いられ、好ましくは500m/g以上、特に好ましくは600m/g以上のものが用いられる。また、比表面積の上限としては2500m/g以下のものが通常用いられ、好ましくは2000m/g以下、特に好ましくは1500m/gのものが用いられる。
【0033】
また、活性炭の平均粒径としては100μm以上のものが通常用いられ、好ましくは300μm以上、特に好ましくは400μm以上のものが用いられる。また、5mm以下のものが通常用いられ、好ましくは3mm以下、特に好ましくは2mm以下のものが用いられる。
形状についても特に制限はなく、球状、破砕状、円柱状、ペレット状等いずれの形状のものも用いることができる。
【0034】
(2)希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物のうちの希土類金属酸化物としては、ランタノイドおよびイットリウムより選ばれる希土類金属の酸化物が挙げられ、より具体的には、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(Ce)、酸化イットリウム(Y)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化ネオジム(Nd)、酸化ジスプロジウム(Dy)、酸化プラセオジム(Pr)、酸化サマリウム(Sm)、酸化エルビウム(Er)などが挙げられる。これらのうち触媒性能に優れることから、好ましくは酸化イットリウム(Y)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化ジスプロジウム(Dy)、酸化エルビウム(Er)が用いられる。
【0035】
また、両性金属酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0036】
これらは1種を単独で用いても良く、希土類金属酸化物の1種または2種以上と、両性金属酸化物の1種または2種以上とを混合して用いても良い。
【0037】
また、上記希土類金属の2種以上の複合酸化物であったり、上記両性金属の2種以上の複合酸化物や、上記希土類金属の1種または2種以上と両性金属の1種または2種以上の複合酸化物であっても良い。
【0038】
更には、上記希土類金属および/または両性金属と、他の金属との複合酸化物であっても良い。この場合、他の金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属、コバルト、鉄、ニッケル等の鉄族金属などが挙げられ、これらの1種または2種以上を複合酸化物としたものを用いることもできる。
これらの他の金属を複合酸化物として含む場合、希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物を用いることによる本発明の効果を有効に得る上で、複合酸化物中の、希土類金属および/または両性金属と他の金属との合計に対する希土類金属および/または両性金属の割合が、5mol%以上、特に10mol%以上であることが好ましい。
【0039】
上記(3)の活性炭担持触媒としては、上記(2)の希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物として例示したものを活性炭に担持したものが挙げられる。この場合、活性炭への担持量には特に制限はないが、活性炭に対する希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の金属換算の担持量(以下、活性炭と希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の金属換算の合計mol量に対する、希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の金属換算の担持mol量を「金属担持量」と称す。)として0.01mol%以上特に0.05mol%以上であることが好ましく、また10mol%以下、特に5mol%以下であることが好ましい。この金属担持量が上記下限未満では活性点が少なすぎ十分な転化率が達成できず、上記上限を超えると、金属酸化物の分散性が悪化し、十分な選択率が達成できない。
【0040】
このような担持触媒を調製する方法には特に制限はなく、例えば、含浸法、混練法、沈着法、共沈法、蒸発乾固法、イオン交換法、含浸中和法(金属塩を担体に含浸後、塩基性水溶液に入れ、金属塩を金属水酸化物に変換)等の通常実施される方法により、担持する金属の化合物を担体に担持させた後、乾燥、熱分解(金属酸化物生成)する方法によって調製することができる。好ましくは、含浸法、含浸中和法である。乾燥は空気中、50〜150℃で、熱分解は不活性ガス中、100〜900℃で通常行われる。
【0041】
前記の担持触媒は、粉末、粒状もしくは成型体で使用される。そのサイズは特に限定されるものではないが、通常、粉末では粒径100〜300μm程度のもの、粒状では粒径300μm〜2mm程度のもの、成型体では長さ2〜5mmのものが好適に使用される。
【0042】
<反応条件>
本発明において、脱カルボニル化反応は液相反応であってもよく、気相反応であってもよい。各々好適な反応条件は以下の通りである。
【0043】
(液相反応)
液相反応は、反応器にシュウ酸ジアリールと上記触媒とを入れて、好ましくは攪拌下に、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下で液相を加熱することにより行われる。
【0044】
反応圧力は特に制限されるものではないが、通常、常圧または加圧で行う。
【0045】
反応時間は通常0.05〜30時間程度である。
【0046】
触媒の使用量は、シュウ酸ジアリールに対する有効成分(活性炭量、希土類金属酸化物量、両性金属酸化物量、触媒中にこれらを複数種含む場合はその合計)として通常0.01重量%以上、特に0.05重量%以上、また通常30重量%以下、特に20重量%以下とすることが好ましい。
【0047】
脱カルボニル化反応には特に溶媒を用いる必要はないが、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒、炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等を適宜使用することもできる。
【0048】
本発明において用いる触媒は、非腐食性の固体触媒であることから、反応器の材質には特に制限はないが、副反応でフェノールが生成する場合があるので耐酸性材質が好ましい。通常はステンレス鋼(SUS)などの金属製の容器、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS410など)、フェライト系ステンレス鋼(SUS430など)、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316など)が好ましく使用できる。
【0049】
本発明の脱カルボニル化反応は、攪拌槽型の反応容器を用いて触媒をシュウ酸ジアリールに懸濁させ、バッチ式あるいは連続式で行うことができる。あるいは触媒をシュウ酸ジアリールに懸濁させ、反応管の内部に連続的に流通させながら反応させても良い。さらに反応管内に触媒層を形成し、この触媒層内にシュウ酸ジアリールを連続的に流通させながら反応させても良い。
【0050】
なお、該脱カルボニル化反応は吸熱反応なので、反応器を加熱する必要がある。攪拌槽型の反応器では反応器外部に設置したジャケットあるいはコイル、および/または反応器内部に設置したコイルに加熱媒体を流通させることにより加熱する方法が効率的である。反応管型の反応器では反応器外部に設置したジャケットあるいはコイルにより加熱する方法や、多管式反応器を使用し、触媒を充填したチューブ内に反応液を流通させながらシェル側から加熱媒体により加熱する方法が利用できる。さらに電気ヒーター等の加熱媒体によらない方法も使用することができる。こうして合成した炭酸ジアリールは蒸留や晶析等の手段により分離精製される。また、未反応のシュウ酸ジアリールは反応器へリサイクルすることができる。
【0051】
(気相反応)
気相反応の場合、反応は気相連続式で行うのが工業的に有利である。この場合、触媒は反応系で固定床、流動床のいずれの形態でも使用されうるが、通常は固定床で使用される。本発明で用いる触媒は非腐食性の固体触媒であるため、反応器の材質としては特に制限はない。
【0052】
気相連続式で反応を行う場合、脱カルボニル化反応は、前記触媒を充填した反応器に、通常、反応温度が150℃以上、好ましくは200℃以上、また通常500℃以下、好ましくは400℃以下、触媒に対する空間速度が100hr−1以上、好ましくは200hr−1以上、また30000hr−1以下、好ましくは20000hr−1以下の条件で、シュウ酸ジアリールを供給することによって行われる。また、原料シュウ酸ジアリールには窒素ガス等の不活性ガスまたは一酸化炭素ガスを同伴させても良い。反応圧力は気相で反応を行うことができれば特に制限されないが、通常は常圧もしくは減圧下で反応を行うのが好ましい。
【0053】
シュウ酸ジアリールは、例えば固体状態、溶融液状態または溶媒に溶解された状態のシュウ酸ジアリールを予め気化器または気化層等で気化させ、必要に応じて窒素ガス等の不活性ガスまたは一酸化炭素ガスと共に反応器に導入することによって供給される。また、反応中、管壁に付着する反応生成物を溶解させて補集するために、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒を反応管の下部から供給することもできる。反応後、生成した炭酸ジアリールは蒸留等により分離精製される。また、未反応のシュウ酸ジアリールは反応器へリサイクルすることができる。
【0054】
[ポリカーボネートの製造方法]
本発明のポリカーボネートの製造方法は、上述の本発明の炭酸ジアリールの製造方法により製造された炭酸ジアリールとビスフェノールAとをアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることによるものである。上記エステル交換反応はそれ自体公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に、一例を説明する。
【0055】
〈原料〉
本発明のポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジアリールは、ビスフェノールAに対して過剰量、例えばビスフェノールAの1molに対して1.001〜1.3mol、特に1.02〜1.2molで用いることが好ましい。上記範囲よりも炭酸ジアリールの使用量が少ないと、製造されたポリカーボネートの末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化する傾向があり、また、上記範囲よりも炭酸ジアリールの便用量が多いと、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量のポリカーボネートの製造が困難となる傾向がある。
【0056】
原料の供給方法としては、ビスフェノールAおよび炭酸ジアリールを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0057】
〈エステル交換触媒〉
炭酸ジアリールとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。本発明のポリカーボネートの製造方法においては、このエステル交換触媒としてアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用する。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。
【0058】
触媒は、ビスフェノールAまたは炭酸ジアリール1molに対して0.05μmol以上、好ましくは0.08μmol以上、さらに好ましくは0.1μmol以上、また5μmol以下、好ましくは4μmol以下、さらに好ましくは2μmol以下の範囲で用いられる。
【0059】
触媒の使用量が上記量より少ないと、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成型時の流動性が低下する。
【0060】
アルカリ金属化合物としてはセシウム化合物が好ましく、最も好ましいセシウム化合物は炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
【0061】
〈エステル交換反応〉
本発明によりポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
【0062】
エステル交換法によるポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0063】
エステル交換反応は、一般的には2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜1.33Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られるポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、低滞留時間の設定が好ましい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0065】
[液相反応の実施例および比較例]
<実施例1>
50ml容量の2口フラスコに、シュウ酸ジフェニル5gと活性炭(Norit社GAC1240PLUS、比表面積1125m/g、粒径12〜40メッシュ)1gを入れて、攪拌下、265℃まで昇温した後、常圧下、この温度で3時間加熱し、脱カルボニル化反応を行った。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフラン(THF)で生成物を完全溶解させ、液相クロマトグラフィーで分析したところ、シュウ酸ジフェニルの転化率は12.5%、生成した炭酸ジフェニルの選択率は28.1%であった。
【0066】
<実施例2〜20>
活性炭1gの代りに、表1に示す触媒1gを用いた他は実施例1と同様に脱カルボニル化反応および分析を行って、結果を表1に示した。
【0067】
なお、活性炭担持触媒のうち、Laを活性炭に担持させた触媒は以下のようにして調製した。他の触媒についても同様である。
【0068】
(触媒調製例)
硝酸ランタン6水和物1.11gを純水2.76gに溶解し、均一溶液とした。これを活性炭(Norit社GAC1240PLUS、比表面積1125m/g、粒径12〜40メッシュ)6gにポアフィリングで含浸した後、100℃の乾燥機で8時間乾燥した。室温まで冷却後、10重量%重炭酸アンモニウム水溶液40mlを入れ、1時間攪拌した。水洗後、100℃の乾燥機で8時間乾燥した後、窒素流通下、500℃で2時間加熱し、炭酸ジアリール製造触媒とした。
【0069】
<比較例1>
活性炭1gの代りに、酢酸セリウム(Ce(OAc))1gを用いた他は実施例1と同様に脱カルボニル化反応を行った。このとき酢酸セリウムは反応液に一部溶解していた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、生成物をTHFで完全溶解させ、液相クロマトグラフィーで分析し、結果を表1に示した。
【0070】
<比較例2>
活性炭1gの代りに、酢酸亜鉛(Zn(OAc))1gを用いた他は実施例1と同様に脱カルボニル化反応を行った。このとき酢酸亜鉛は反応液に一部溶解していた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、生成物をTHFで完全溶解させ、液相クロマトグラフィーで分析し、結果を表1に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
[気相反応の実施例および比較例]
<実施例21>
内径20mmのガラス製反応管に、触媒として活性炭(Norit社GAC1240PLUS、比表面積1125m/g、粒径12〜40メッシュ)2gを入れ、この触媒の上部にはグラスウールを充填した。
この反応管を加熱炉に固定し、窒素ガスを146ml/minの流量で流しながら、反応管を300℃に加熱制御した。次いで、165℃に加熱制御されたステンレス製シリンジにより、シュウ酸ジフェニルの溶融液を8.8mmol/hrの速度で反応管上部より導入し、触媒層上部で気化させて触媒層に供給し、300℃で6時間反応を行った。反応液は210℃に加熱された脱水ドデカンで捕集した。得られた反応液を室温まで冷却し、THFで完全溶解させ、液相クロマトグラフィーで分析したところ、シュウ酸ジフェニルの転化率は1.5%、炭酸ジフェニルの選択率は71.4%、炭酸ジフェニル生成速度は0.09mmol/hrであった。
【0073】
<実施例22〜27、比較例3,4>
活性炭2gの代りに、表2に示す触媒2gを用いた他は実施例21と同様に脱カルボニル化反応および分析を行って、結果を表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
表1,2より本発明によれば、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル化反応を効率的にかつ低コストで進行させて炭酸ジフェニルを得ることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジアリールを、活性炭の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項2】
シュウ酸ジアリールを、希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項3】
シュウ酸ジアリールを、活性炭に担持させた希土類金属酸化物および/または両性金属酸化物の存在下で脱カルボニル化反応させることを特徴とする炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項4】
希土類金属がランタノイドおよびイットリウムより選ばれる1種または2種以上である請求項2または3に記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項5】
両性金属が、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、およびスズより選ばれる1種または2種以上である請求項2または3に記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項6】
シュウ酸ジアリールが、一酸化窒素と酸素とメタノールを原料として亜硝酸メチルを製造し、これを一酸化炭素と反応させてシュウ酸ジメチルを製造し、得られたシュウ酸ジメチルとフェノールとをエステル交換触媒の存在下で反応させて、生成するメタノールを除去しながらシュウ酸メチルフェニルを生成させ、得られたシュウ酸メチルフェニルをエステル交換触媒の存在下で不均化反応させて、生成するシュウ酸ジメチルを除去しながら生成させたシュウ酸ジフェニルであり、生成する炭酸ジアリールが炭酸ジフェニルである請求項1ないし5のいずれかに記載の炭酸ジアリールの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの方法で製造された炭酸ジフェニルとビスフェノールAとを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることを特徴とするポリカーボネートの製造方法。

【公開番号】特開2011−236146(P2011−236146A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108372(P2010−108372)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】