説明

炭酸ジエステルの製造方法

【課題】従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応により十分な収率及び選択率で製造する。
【解決手段】アルコキシ化合物と一酸化炭素とを電解反応させて炭酸ジエステルを製造する方法において、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む炭素電極を用いる。1次粒子径100nm以下というような極微細粒子状の導電性カーボンであれば、担体の体積固有抵抗値が低下し、電気伝導性が向上することにより、触媒・電極性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ化合物と一酸化炭素とを、白金族元素を含む触媒の存在下で電解反応させることにより炭酸ジエステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジエステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリカーボネートやポリウレタンの原料等として広く使用されている。
【0003】
従来、炭酸ジエステルの製造方法としては、ホスゲン法、酸化的カルボニル化法、エステル交換法などが知られているが、このうち、有害物質であるホスゲンを用いない方法が求められている。
【0004】
このため、電解液溶媒として需要の伸びている炭酸ジアルキルは、古くはホスゲン法で製造されていたが、近年は酸化的カルボニル化法やエステル交換法で製造されるケースが増えている。一方、ポリカーボネート原料として注目されている炭酸ジフェニルは、フェノールから生成するフェノキシアニオンの求核性が低いため、炭酸ジアルキルと同様の反応では製造できず、多くはホスゲン法もしくは炭酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換法で製造されている。
【0005】
炭酸ジエステルの合成法のうち、酸化的カルボニル化法は、有機ヒドロキシ化合物と一酸化炭素との反応によるものであり、その例としては、周期律表第IB族、第IIB族又は第VIII族に属する金属を含む触媒の存在下、一酸化炭素及び酸素の混合ガスを液状のメタノールと反応させる方法(特許文献1を参照)や、酸素、一酸化炭素及びアルカノールを金属ハライド触媒の存在下、気相で反応させる方法(特許文献2を参照)、亜硝酸エステルと一酸化炭素とを白金族金属を含む固体触媒の存在下、気相で反応させる方法(特許文献3を参照)等が知られている。
【0006】
一方、合成反応において、物質の酸化を進行させる方法として様々な方法が知られているが、その中の一つとして、被酸化物質の溶液に電極を接触させ、両極間に電圧を印加させることにより起こる電気分解反応(以下これを「電解反応」と称することとする)を利用して物質の酸化を行う方法がある。電解反応では、物質の酸化は電極の陽極で起こり、陰極では還元反応が起こる。このような電解反応では、電気分解を起こりやすくするために、目的とする反応には関与しない支持電解質を溶液に添加することが行われている。反応関与物質自体が電解質の役割をする場合は支持電解質を特に加えない場合もある。
【0007】
従来、電解反応の適用例としては、メタノール、エタノールからエーテル、アセタールを生成させる反応(非特許文献1を参照)、無水メタノールからホルムアルデヒドを生成させる反応(非特許文献2を参照)、メタノール、エタノールからギ酸エステルを生成させる反応(非特許文献3を参照)等の反応が知られている。
【0008】
また、電解反応で炭酸ジエステルを製造する試みもいくつか知られている。例えば、ハロゲン(フッ素を除く)を含有する電解質の存在下で、1価もしくは2価アルコールと一酸化炭素を電解反応させて炭酸ジメチル、炭酸エチレンを得る方法が開示されている(特許文献4を参照)。また、周期表VIIIB族触媒と塩素、臭素又はヨウ素を含有する電解質の存在下で、アルコールと一酸化炭素を電解反応させて炭酸ジメチルを得る方法も開示されている(特許文献5を参照)。さらには、支持電解質の存在下、白金族元素を含む陽極を用いてアルコールと一酸化炭素を電解反応させて、炭酸エステルとギ酸エステルを同時に製造する方法が開示されている(特許文献6を参照)。
【0009】
また、プロトン伝導膜を介してアノードとカソードとが形成された隔膜により、反応器内をアノード側とカソード側の2つの反応空間に区画した反応器を用いて、アノード側の反応空間にアルコール及び一酸化炭素を供給し、カソード側の反応空間に酸素を供給し、アノードとカソードに電圧を印加して電解酸化還元反応を行なうことにより、アノード側で炭酸ジエステルを、カソード側で水を生成させることが開示されている(特許文献7を参照)。
【0010】
さらに、基質と還元性物質を含む系の電解酸化を行うための有機電解反応装置であって、ケーシング、アノード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるアノード、カソード活物質からなりイオン伝導性あるいは活性種伝導性であるカソード、及び該ケーシングの外側に設けられて該アノードと該カソードに接続された該アノードと該カソードの間に電圧を印加するための手段を包含し、該アノードと該カソードは該ケーシング中に間隔を置いて設けられ、該ケーシングの内部が、該アノードの内側と該カソードの内側の間に形成された中間室と、該アノードの外側にあるアノード室とに仕切られていることを特徴とする有機電解反応装置を使用して、メタノールと一酸化炭素から炭酸ジメチルを合成することが開示されている(特許文献8を参照)。
【0011】
しかしながら、上記従来の電解反応では、特定の構造をもつ有機ヒドロキシ化合物しか反応が進行せず、炭素数が2以上の脂肪族有機ヒドロキシ化合物、炭素数が5以上の脂環式有機ヒドロキシ化合物あるいは芳香族有機ヒドロキシ化合物と一酸化炭素との反応は効率的に進行せず、炭酸ジエステルが全く生成しないか、あるいは生成しても収率、選択率とも極めて低く、満足できるものではなかった。
【0012】
本発明者らは、この問題に鑑み、より広範囲の炭酸エステルを電解反応により効率的に製造する方法を提供するべく鋭意検討した結果、有機ヒドロキシ化合物類をアルコキシ化合物に変換し、さらに反応液中の水分量を5重量%以下とすることで、一酸化炭素との反応が効率よく進行し、従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応で効率的に製造することができることを見出し、本出願人より先に特許出願をした(特許文献9。以下「先願」という。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第1,492,757号
【特許文献2】特表昭63−503460号
【特許文献3】特許第2,850,859号
【特許文献4】米国特許第4,131,521号
【特許文献5】米国特許第4,310,393号
【特許文献6】特開平6−173057号
【特許文献7】特開平6−73582号
【特許文献8】WO2003/004728号
【特許文献9】特願2009−028581号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J.Electroanal.Chem,31(1971)265-267
【非特許文献2】J.Electrochem Soc.,123(1976)818-823
【非特許文献3】J.Electrochem Soc.,124(1977)1177-1184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記先願の方法を更に改良し、従来の電解反応では十分な収率及び選択性をもって製造できなかった炭酸ジエステルを、電解反応により十分な収率及び選択率でより一層効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、電解反応を行うための電解反応装置に特定構造の陽極を使用することで、さらに効率よく炭酸ジエステルを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0018】
(1) アルコキシ化合物と一酸化炭素とを電解反応させて炭酸ジエステルを製造する方法において、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む炭素電極を用いることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【0019】
(2) 該アルコキシ化合物がフェノキシ化合物であり、該炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルである(1)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0020】
(3) 該導電性カーボンのBET比表面積が100m/g以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0021】
(4) 該導電性カーボンがカーボンブラックであることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0022】
(5) 該炭素電極が、白金族元素担持触媒を導電性助剤と混合して成形してなることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0023】
(6) 該導電性助剤が、粉体抵抗率0.5Ω・cm以下の導電性カーボンであることを特徴とする(5)に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0024】
(7) 該白金族元素がパラジウムであることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【0025】
(8) 該白金族元素担持触媒が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素の金属単体を担持させたものであることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリカーボネートやポリウレタンの原料等として幅広い分野において有用な炭酸ジエステルを、より広範囲に、即ち、従来の電解反応では製造することができなかった炭酸ジエステルも含め、広範囲の炭酸ジエステルを、電解反応により、ホスゲン等の有害物質を使用することなく、工業的に実用化し得る程度の収率及び選択率で効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施に好適な電解反応装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施に好適な電解反応装置の他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
本発明の炭酸ジエステルの製造方法は、アルコキシ化合物と一酸化炭素とを、特定の炭素電極を用いて電解反応させることにより炭酸ジエステルを製造する方法であり、下記式(1)で表されるアルコキシ化合物と一酸化炭素(CO)との反応で、下記反応式(2)に従って、炭酸ジエステルが製造される。
【0030】
RO (1)
(Rは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基を表し、これらの炭化水素基は、置換基を有していても良い。また、Xは、ROと塩を成すカチオン種を示す。但し、Xは水素イオン(H)ではない。)
2RO+CO → RO−C(=O)−OR+2e+2X (2)
【0031】
なお、本明細書において、「アルコキシ」とは、上記式(1)においてRが脂肪族(即ち鎖状)炭化水素基又は脂環式炭化水素基である一般的な有機化学命名法上の「アルコキシ」だけでなく、Rが芳香族炭化水素基である「アリーロキシ」も包含するものである。
【0032】
また、本発明の方法は、1種類のアルコキシ化合物を用いて炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法に限らず、2種類以上のアルコキシ化合物を用いて、エステル部分の異なる炭酸ジエステルを製造する方法、例えば、アルコキシ化合物(R)とアルコキシ化合物(R)とを用いて、炭酸ジエステル(RO−C(=O)−OR)を製造する方法をも包含する(ここで、R,RはRと同義であり、R≠Rである。)。
【0033】
[アルコキシ化合物]
本発明において、原料として使用するアルコキシ化合物は、前記式(1)で表されるものであるが、前記式(1)において、Rとしては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素基、或いは芳香族炭化水素基が挙げられる。また、これらの炭化水素基が有していても良い置換基としては、例えば、アルキル基、ヒドロキシ基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などが挙げられる。
【0034】
より具体的には、Rとしては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、アリル基、クロチル基などの飽和もしくは不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの飽和もしくは不飽和の脂環式炭化水素基、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数5〜10のシクロアルキル基又はシクロアルケニル基;ベンジル基やα−フェニルエチル基のようなアラルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などのアリール基又は置換アリール基、及びこれらの誘導体(水素原子が、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、スルホン基、アミノ基などで置換されたもの)などの、置換基を有していても良い、炭素数6以上の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0035】
これらのうち、Rとしては、特に炭素数2以上、好ましくは炭素数2〜10の鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数5以上、好ましくは炭素数5〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6以上、好ましくは炭素数6〜14の芳香族炭化水素基等、とりわけフェニル基が好ましく、これにより、従来、特に電解反応による合成が困難であった、これらのアルコキシ基をエステル部分に有する炭酸ジエステルを工業的に有利に合成することができる。なお、ここで「炭素数」とは、当該基が置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた炭素数である。ROは上記Rと酸素原子が結合してできたアニオン種を示し、対応するカチオン種により1価のアニオンのみならず、2価以上の価数を持つアニオンでもよい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、Xは、ROと塩を成すカチオン種を示し、Xとしてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン又はマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリフェニルアンモニウム、ジメチルアニリニウム、ピリジニウム等の3級アンモニウムカチオン、ジイソプロピルアンモニウム等の2級アンモニウムカチオン、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の1級アンモニウムカチオン、NHによって表されるアンモニウムカチオン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどの4級アンモニウムカチオンが挙げられる。またXは1価のカチオンのみならず、2価以上のカチオンであってもよい。これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
ROで表されるフェノキシド化合物としては、ナトリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等が挙げられる。
【0036】
反応に使用するアルコキシ化合物は、有機ヒドロキシ化合物(即ち、下記式(3)で表される有機ヒドロキシ化合物)と塩基性物質とを反応させて、有機ヒドロキシ化合物の水素イオンを脱離することにより製造してもよい。このアルコキシ化合物は、電解反応装置内で電解反応と同時進行で合成しても良いし、別途合成しても良い。
【0037】
R−OH (3)
(Rは、式(1)におけると同義である。)
【0038】
アルコキシ化合物の調製に使用する有機ヒドロキシ化合物としては、具体的には、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、アリルアルコール、クロチルアルコール等の飽和もしくは不飽和の、直鎖又は分岐の脂肪族アルコール、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数2〜10の直鎖又は分岐の飽和又は不飽和脂肪族アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロヘキサノール、3−ヒドロキシ−1−シクロヘキセン、4−ヒドロキシ−1−シクロヘキセン等の飽和又は不飽和脂環式アルコール、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数5〜10の飽和又は不飽和脂環式アルコール、ベンジルアルコール、ヒドロキシベンジルアルコール、ジフェニルカルビノール等のアリール置換アルコール、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、ヒドロキシアントラセンなどの芳香族有機ヒドロキシ化合物又はそれらの誘導体(芳香環の水素原子がアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホン酸基、アミノ基、などで置換されたもの)が挙げられる。
【0039】
アルコキシ化合物の調製に使用する塩基性物質は、有機ヒドロキシ化合物との反応性に応じて選択する必要があるが、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどのアルカリ金属又は金属カルシウム、金属マグネシウム等のアルカリ土類金属、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属又は水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、リチウムハイドライドやナトリウムハイドライドなどのアルカリ金属又はカルシウムハイドライド、マグネシウムハイドライド等のアルカリ土類金属の水素化物、酢酸ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩、炭酸塩等の弱酸塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン等のアミン類、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)SA10Aなどの塩基性イオン交換樹脂などを挙げることが出来る。これらは1種を単独で使用しても良いし2種以上を併用しても良い。
【0040】
塩基性物質の使用量は、有機ヒドロキシ化合物からアルコキシ化合物を生成させることができる反応当量以上であれば良い。
また、塩基性物質は、電解反応に先立ちその必要量を供給する他、電解反応中に複数回に分けて分割供給したり、連続供給したりすることもできる。
【0041】
[白金族元素担持触媒]
本発明の電解反応で使用する白金族元素担持触媒の白金族元素としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらのうち、目的の反応が効率的に進行することからパラジウムが好ましい。
【0042】
本発明においては、これらの白金族元素を、導電性カーボンよりなる担体に担持させて用いる。この導電性カーボンとしては、1次粒子径が100nm以下、好ましくは50nm以下の導電性カーボンの微粒子、またはそれらの凝集体を用いる。
【0043】
ここでいう1次粒子径とは透過型電子顕微鏡のような電子顕微鏡を用いて分散させた複数の粒子を撮影し、写真から観察されたそれらの個々の粒子径の平均値を言う。粒子径の算出の際には、写真から観察される粒子の形状が柱状などアスペクト比が大きい場合は短辺長さを粒子径として用いることとし、平均値を求める際に用いる粒子数に特に制限はないが、できるだけ多い粒子を観察した方が好ましく、具体的には100個以上、さらにこのましくは1000個以上、例えば5000〜10000個の粒子を観察するとよい。平均値の算出の際には市販の粒子径測定用のソフトウェアを使用してもよい。
【0044】
1次粒子径100nm以下というような極微細粒子状の導電性カーボンを担体として使用することにより奏される本発明の効果の作用機構の詳細は明らかではないが、このような極微細粒子であれば、担体の体積固有抵抗値が低下し、電気伝導性が向上することにより、触媒及び電極性能が向上し、これにより、反応効率が高められることによるものと考えられる。
【0045】
本発明では、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンのうち、BET比表面積が100m/g以上、特に200m/g以上の、比表面積の大きい導電性カーボンを担体として使用するのが、触媒単位重量あたりの反応点を増加させるという点で好ましい。
【0046】
ここで導電性カーボンのBET比表面積は、次のようにして測定される。
まず、試料を試料管(吸着セル)に入れて加熱しながら真空排気し、脱ガス後の試料重量を測定する。次にセル内に窒素ガスを送り込んで試料表面に窒素ガスを吸着させながら圧力の変化に対する吸着量の変化をプロットする。このグラフから試料表面にだけ吸着したガス分子吸着量をBET吸着等温式より求める。窒素分子は予め吸着占有面積がわかっているので、ガス吸着量より試料の表面積を測定することができる。
【0047】
本発明で用いる導電性カーボンの1次粒子径の下限及びBET比表面積の上限には特に制限はないが、製造法上の限界や機械的強度の制限により、通常1次粒子径は10nm以上、BET比表面積は10000m/g以下である。
【0048】
導電性カーボンのカーボン素材としては特に制限はないが、好ましく使用できるカーボン素材としては、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、賦活処理した炭素繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良いし2種以上を併用しても良い。このうち、カーボンブラックが担体としての入手容易性、価格などの点から好ましい。
【0049】
白金族元素担持触媒は、上述のような導電性カーボンよりなる担体上に、白金族金属(白金族元素の金属単体。合金を含む。)あるいは白金族金属を含む化合物を担持してなるものであるが、電解反応効率の点では、白金族元素を金属単体として担持したものが好ましい。
【0050】
このような白金族元素担持触媒の製造法には特に制限はないが、導電性カーボンを分散させた水中に、白金族元素の塩類を溶解した水溶液を所定量滴下し、蒸発乾固させる方法などが挙げられる。これをさらに水素気流下で100〜500℃程度に加熱することにより、担体上の白金族元素の塩類を還元させて、白金族金属が単体として導電性カーボン上に担持された白金族元素担持触媒を得ることができる。
【0051】
[炭素電極]
本発明で用いる炭素電極は、上述の白金族元素担持触媒を含むものである。
この炭素電極は、例えば、上述の白金族元素担持触媒に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなバインダーを加えて成形することにより製造することができる。あるいは、上述の白金族元素担持触媒を、上記バインダーおよび白金族元素を担持していない導電性助剤と混練して成形することにより製造することができる。ここで使用する導電性助剤としては、白金族元素担持触媒の白金族元素の担体として用いられる導電性カーボンと同じものを使用してもよいし、異なるものを使用しても良いが、粉体抵抗率が0.5Ω・cm以下、好ましくは0.25Ω・m以下の導電性カーボンを使用するのが好ましい。導電性カーボン等の導電性助剤を併用することにより、電極内部抵抗が抑制されるという効果が奏されるが、用いる導電性助剤の粉体抵抗率が0.5Ω・cmを超えると、電極内の抵抗が大きくなり電流効率が低下する。導電性カーボンの粉体抵抗率の下限には特に制限はないが、通常0.01Ω・cm程度である。
ここで、粉体抵抗率は、試料に4本の針状の電極(四探針プローブ)を直線上に置き、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定して求めることができる(四探針法)。
【0052】
このような炭素電極中の白金族元素担持触媒量が少ないと反応速度が低下し、多すぎると電極から脱離して不活性化するので経済的でない。従って、炭素電極中の白金族元素担持触媒量は、これを用いる反応系に応じて適宜選択することができるが、例えば、電極に含まれる有効成分(白金族元素換算)の担持量として0.1〜20μmol/cmが好ましく、1〜15μmol/cmがさらに好ましい。
【0053】
従って、炭素電極の成形に当たり、バインダーや導電性助剤は、得られる炭素電極の電極面積あたりの白金族元素担持量が上記範囲となるように適宜その使用量を調整して白金族元素担持触媒と混合する。
【0054】
[支持電解質]
本発明の電解反応では、反応を促進するために支持電解質を使用することができる。
【0055】
支持電解質としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜ヨウ素酸カリウム、次亜ヨウ素酸リチウム等のアルカリ金属の次亜ハロゲン酸塩;塩素酸カリウム、塩素酸リチウム等のアルカリ金属のハロゲン酸塩;過塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム等のアルカリ金属の過ハロゲン酸塩;塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムのハロゲン化物;過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム等のアルキル四級アンモニウムの過ハロゲン酸塩等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0056】
ただし、本発明の電解反応系では、前述したアルコキシ化合物や、該アルコキシ化合物を生成させるために添加する塩基性物質が電解質として機能し、別途支持電解質を添加する必要がない場合がある。支持電解質を添加しなければ、反応後の目的物と支持電解質との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0057】
[溶媒]
本発明の電解反応では、溶媒を使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0058】
溶媒を使用する場合には、電解反応に不活性な(酸化電位の高い)溶媒を選択する必要がある。このような溶媒としては、例えば、アセトニトリル、四塩化炭素、ジクロロメタン(塩化メチレン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
本発明の反応基質としてのアルコキシ化合物を、原料となる有機ヒドロキシ化合物が含まれた反応液に、塩基性物質を添加することで調製する場合には、上記溶媒中に有機ヒドロキシ化合物を溶解して用いることができる。溶媒中の有機ヒドロキシ化合物の濃度は、任意の範囲で選択できるが、0.01mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がさらに好ましい。また、該濃度の上限は、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度によって決まるため、適宜選択することができるが、有機ヒドロキシ化合物に対する支持電解質の溶解度が低い場合は、有機ヒドロキシ化合物の濃度を低く抑える必要がある。有機ヒドロキシ化合物が支持電解質をよく溶かす場合や、支持電解質を使用しない場合は、必ずしも溶媒を使用する必要はない。溶媒を使用しない場合は反応後の目的物と溶媒との分離操作が不要となり、工業上有利である。
【0060】
[水分量]
本発明の電解反応は、反応液中の水分により反応が阻害されるので、水分含有量の少ない原料や溶媒を使用するなどして、反応液中の水分量を好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは1000重量ppm以下、最も好ましくは800重量ppm以下とする。反応液中の水分量は少ないほど反応効率の面では有利であるが、反応液中の水分量を0.1重量ppm未満とするのは操作に困難が伴い、経済的に不利となるため、通常、反応液中の水分量は0.1重量ppm以上である。
【0061】
本発明において反応液中の水分量とは、陽極と同一の反応区画における反応液に含有される水分量を示す。具体的には、電解反応を回分式で実施する場合は反応開始前の水分量を示し、連続式で実施する場合は供給液中の水分量を示す。反応液中の水分量の測定方法としては、陽極と同一の反応区画の反応液をサンプリングし、これをカールフィッシャー水分計などで測定する方法が挙げられる。
【0062】
反応液中の水分量を上記範囲とするためには、原料や溶媒から水を除去する方法が用いられ、この具体的な方法としては、一般的に用いられる水分除去方法のうちのいかなる方法でも良いが、例えば、蒸留による脱水、モレキュラーシーブ等の水分吸着材による吸着脱水、膜分離による脱水等が挙げられる。
【0063】
また、反応に先立ち、反応液中に窒素やヘリウムのような不活性気体を流通させて、残存する水分や酸素を除去することも有効である。さらに、反応に先立ち、反応液中に一酸化炭素を流通させて反応液中の一酸化炭素濃度を高めておくことで反応初期の反応速度を向上させることができる。
【0064】
[一酸化炭素]
アルコキシ化合物と反応させる一酸化炭素は、アルコキシ化合物を含む反応液中に、反応系の規模に応じた供給量で通気すれば良い。一酸化炭素は電解反応中に反応液に供給することもできるが、一般的には通気を開始してから一定濃度(=飽和濃度)に達するまでに時間を要することから、電解反応に先立ち、即ち、電解反応のための通電に先立ち、反応液中に十分量の一酸化炭素を流通させて溶解させた後、電解反応を開始する。
【0065】
[反応条件]
<反応温度>
本発明の電解反応の反応温度は、反応基質が固化しない範囲で自由に設定できる。好ましくは0℃〜200℃、さらに好ましくは20℃〜100℃であるが、一般的には室温程度(例えば20〜30℃程度)で実施される。反応温度を低くするためには、冷却のための設備が必要になり経済的に不利となる。また、反応温度を高くすると、反応基質の蒸発を抑えるために加圧する必要が生じるほか、原料の熱分解等の反応が起きやすくなる。
【0066】
<反応圧力>
反応圧力は減圧とすることもできるが、通常は、常圧あるいは加圧下で行うことができる。好ましくは1〜15気圧である。1気圧より低い圧力ではCO分圧が低下して反応速度が低下し、好ましくなく、15気圧を超えると設備費用が高価となる。
【0067】
<電位・電流>
本発明の電解反応は、定電位電解、定電流電解のいずれも可能である。
定電位電解の場合は電位が低いと反応が進行せず、高いとアルコキシ化合物を生成させるために添加した塩基性物質の酸化が進行して反応が進行しなくなる。好ましい電位は0.01〜5V(vs.Ag/AgCl)、さらに好ましくは0.1〜2V(vs.Ag/AgCl)である。
【0068】
また、定電流電解の場合は電流密度が低いと反応が進行せず、高いと電解反応装置の抵抗に応じて電解電位が高くなって有機ヒドロキシ化合物や塩基性物質の直接酸化が進行して選択率が低下する。好ましい電流密度は抵抗値に左右されるため、電流密度、電解電位を好ましい範囲とするためにも抵抗値をできる限り低くすることが好ましい。
【0069】
<反応時間>
電解反応時間は、適宜選択されるが、回分式の場合、例えば0.5〜24時間程度である。
【0070】
<反応方式>
本発明の電解反応は回分式で行っても良いが、好ましくは連続式で行われる。反応器は単一の反応器で構成する必要はなく、複数の反応器を直列、あるいは並列に接続して構成しても良い。複数の反応器で構成する場合、回収ラインからの反応生成物に含まれる未反応の有機ヒドロキシ化合物、アルコキシ化合物、塩基性物質、一酸化炭素等の原料物質は同一又は異なる反応器の供給ラインに循環しても良い。
【0071】
[反応装置]
本発明の電解反応は、陽極側でアルコキシ化合物と一酸化炭素の酸化反応が進行して炭酸ジエステルを生成するとともに、陰極側では水素イオンが還元される。そこで、用いる装置としては、図1に示す如く、陽極と陰極をイオンを透過する隔膜、例えば、ガラスフィルター、アニオン交換膜等の隔膜で仕切り、陽極室と陰極室に分割したものを用いることもできるが、それが必須の条件ではなく、図2に示す如く、単一の反応区画に陽極と陰極をおくこともできる。一般には単一の反応区画の反応器の方が構造が単純となり、設備コスト上は有利となる。
【0072】
陰極材としては、通常の電解反応に使用できるものであれば、形状、材質ともに制限はないが、水素過電圧の低いものが好ましい。具体的には炭素、白金、カドミウム、鉛、金及びそれらを含む合金等を用いることができる。
陽極材としては、前述の炭素電極が用いられる。
【0073】
図1,2は、本発明の炭酸ジエステルの製造方法の実施に好適な電解反応装置の一例を示す模式的な構成図である。
【0074】
図1において、10は反応器(電解セル)であり、陽極室11を構成する有底円筒形状の容器部と、陰極室12を構成する有底円筒形状の容器部とが円筒状の連通部13で連結された構造を有する。陽極室11の底部には陽極11Aとして前述の炭素電極が設けられ、陰極室12には陰極12Aが設けられ、これら陽極11Aと陰極12Aが電源19に接続されている。また、連通部13には、イオン透過性の隔膜14が設けられている。11B,12Bは、各々の電極室の上部をおおうための栓である。15は陽極室11内の反応液に一酸化炭素を供給するためのガス供給管である。このガス供給管は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。16は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管である。17はガスサンプリング管である。18はガスサンプリング管を兼ねたガス抜き管である。
【0075】
この電解反応装置では、陽極室11に、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質もしくはアルコキシ化合物を含む反応液を、陰極室12に、有機ヒドロキシ化合物を含む反応液を投入し、ガス供給管15より一酸化炭素を供給し、電源19により陽極11Aと陰極12Aとの間に通電すると、陽極室11内で陽極11Aの炭素電極に含まれる白金族元素担持触媒の存在下、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物と一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。なお、同時に一酸化炭素の酸化で二酸化炭素が生成することがある。一方、陰極室12では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。
なお、反応に先立ち、ガス供給管15,16からHe等の不活性気体を流通させることにより、反応液の水分量を低減することができる。
【0076】
図2において、20は反応器(電解セル)であり、有底円筒形の容器部20Aと容器部20Aの上部開口をおおうための栓20Bを有する。容器部20Aの底部には陽極21として前述の炭素電極が設けられている。また、栓20Bから、容器部20A内の高さ方向の中間位置まで陰極22が挿入されている。これら陽極21と陰極22が電源23に接続されている。24は、電源23と陽極21とを導通する集電体である。25は容器部20A内の反応液に一酸化炭素を供給するためのガス供給管である。このガス供給管25は、He等の不活性気体を流通させるためのガス供給管を兼ねている。26はガスサンプリング管を兼ねたガス抜き管である。
【0077】
この電解反応装置では、容器部20Aに、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質あるいはアルコキシ化合物を含む反応液を投入し、ガス供給管25より一酸化炭素を供給し、電源23により陽極21と陰極22との間に通電すると、容器部20A内の陽極21の炭素電極に含有される白金族元素担持触媒の存在下、有機ヒドロキシ化合物と塩基性物質との反応で生成したアルコキシ化合物と一酸化炭素とが電解反応し、炭酸ジエステルが生成する。なお、同時に一酸化炭素の酸化で二酸化炭素が生成することがある。一方、陰極室22近傍では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。
なお、反応に先立ち、ガス供給管25からHe等の不活性気体を流通させることにより、反応液の水分量を低減することができる。
【0078】
なお、この図1,2の電解反応装置は、本発明に適用し得る電解反応装置の一例を示すものであって、何ら本発明の実施態様を限定するものではない。
【0079】
[炭酸ジエステルの回収]
本発明の電解反応により生成した炭酸ジエステルは、それ自体公知の通常の方法で回収される。回収方法としては、例えば、蒸留や抽出、あるいは晶析による方法が挙げられる。
【0080】
[用途]
本発明の電解反応により製造された炭酸ジフェニルは、公知の方法により製造された炭酸ジフェニルと同様の用途で使用することができ、例えば、ジヒドロキシ化合物とエステル交換反応させて芳香族ポリカーボネートを製造する際の原料として使用することができる。その他、本発明の電解反応により製造された炭酸ジエステルは、電解液等の溶媒、アルキル化剤、カルボニル化剤等の合成原料、ガソリンやディーゼル燃料の添加剤、ポリウレタンの原料等として、広範な用途に有用である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
(1)白金族元素担持触媒の調製
200mLのビーカーに、イオン交換水80mLと導電性カーボン担体として、表1に示す1次粒子径及びBET比表面積のカーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製「カーボンECP」、以下「ECP」と略称する)650mgを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら、濃度0.03mo1/Lの塩化パラジウム酸(HPdCl)水溶液4.19mLを滴下した。全ての溶液を滴下し終えた後に、100℃に加熱したホットプレート上に、溶液が入ったビーカーを置き、水分が無くなるまで蒸発乾固させることにより、黒色状の粉末を得た。この黒色状粉末にはPd金属規準で2.06重量%の塩化パラジウム(PdCl)が含まれていた。これを150℃で1時間、次いで300℃で2時間、水素気流中(20mL/min)で処理することにより、担持されたPd2+が水素還元によりPd(0)となり、Pdが導電性カーボン担体に担持された黒色状粉末の白金族元素担持触媒を得た。この白金族元素担持触媒のPd担持量は、導電性カーボンに対して2.06重量%である。
【0083】
(2)炭素電極(陽極)の作製
上記(1)で得られた白金族元素担持触媒の黒色状粉末155mg(Pd含有量30μmol)にバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン社製、F−104)を40mg添加してメノウ乳鉢で混練した。それを120℃のホットプレート上で圧延し、丸いシート状に成形して電極面積5cm(幾何学的面積)、厚さ約1.6mmの炭素電極(陽極)を作製した。この炭素電極の電極面積当たりのPd担持量は6μmol/cmである。
【0084】
(3)電解反応
上記方法により作製した炭素電極を陽極21として用い、図2に示した電解反応装置を用いて定電流電解を行った。
陰極22としては白金ワイヤーを使用した。
反応液には、反応溶媒としてのアセトニトリル(和光純薬社製、有機合成用)40mLに、有機ヒドロキシ化合物としてフェノール(和光純薬社製、特級)を30mmol、フェノキシド化合物として無水ナトリウムフェノキシド(Alfa Aeser社製)を0.5mmol、支持電解質として塩化リチウム(和光純薬社製、特級)を0.78mmol加えた。溶媒のアセトニトリルは事前に300℃で10時間焼成したモレキュラーシーブズ3A(和光純薬社製、化学用)を100mLあたり約5g添加し、時々振り混ぜながら、12時間以上置いて脱水した。
電解セル20の気相部分にヘリウム(ジャパンヘリウムセンター社製、純度99.9995%)を900mL/Hrで10分間流通させることにより溶存する酸素、及び水分を除去し、さらに一酸化炭素(日本酸素社製、純度99.95%)を900mL/Hrで60分間流通させた後、電流密度を0.2mA/cmとして10時間、定電流電解を行った。
【0085】
電解反応液は適時サンプリングを行い、ガスクロマトグラフィー(検出器:FID、カラム島津製作所社製GC−2010、ZB−1キャピラリーカラム、φ0.25mm×30m、分析条件:インジェクション温度220℃、カラム温度190℃一定、検出器温度250℃)を用いて分析した(分析の際には内部標準物質としてフェナントレン(和光純薬社製、特級)を0.004%になるように加えた)。
【0086】
反応終了後の反応生成物も同様の方法で分析を行った、また、サンプリングガス中の二酸化炭素はガスクロマトグラフィー(検出器:TCD、カラム島津製作所社製GC−8A、PorapakQパックドカラム、70℃恒温分析)で、水素はガスクロマトグラフィー(検出器:TCD、カラム島津製作所社製GC−8A、活性炭カラム(4mm×2m)、120℃恒温分析)で分析した。
【0087】
その結果、炭酸ジフェニル(DPC)は1時間当たり約23μmolの割合でほぼ直線的に生成量が増加して、反応開始後5時間の時点での生成量は114.7μmolに達していることが分かった。DPC生成の電流効率はほぼ100%で、サンプリングガス中からはやはり電流効率100%に相当する量の水素が検出された。5時間反応した時点の触媒のTON(turnover number)は3.8mol−DPC/mol−Pd、10時間後のTONは7.2mol−DPC/mol−Pdであった。
結果の概要は表1に示した。
【0088】
[実施例2]
(1)白金族元素担持触媒の調製
200mLのビーカーに、イオン交換水100mLと導電性カーボン担体として、表1に示す1次粒子径及びBET比表面積のカーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製「カーボンECP600JD」、以下「ECP600JD」と略称する)0.5mgを加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら、濃度0.03mo1/Lの塩化パラジウム酸(HPdCl)水溶液20mLを滴下した。全ての溶液を滴下し終えた後に、100℃に加熱したホットプレート上に、溶液が入ったビーカーを置き、水分が無くなるまで蒸発乾固させることにより、黒色状の粉末を得た。この黒色状粉末にはPd金属規準で10.6重量%の塩化パラジウム(PdCl)が含まれていた。これを150℃で1時間、次いで300℃で2時間、水素気流中(20mL/min)処理することにより、担持されたPd2+が水素還元によりPd(0)となり、Pdが導電性カーボン担体に担持された黒色状粉末の白金族元素担持触媒を得た。この白金族元素担持触媒のPd担持量は、導電性カーボンに対して10.6重量%である。
【0089】
(2)炭素電極(陽極)の作製
上記(1)で得られた白金族元素担持触媒の黒色状粉末30mg(Pd含有量30μmol)に、導電性助剤として、Pdが担持されていないECP600JD(粉体抵抗率は表1に示す通り)を125mg、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(ダイキン社製、F−104)を40mg添加してメノウ乳鉢で混練した。それを120℃のホットプレート上で成形して電極面積5cm(幾何学的面積)の炭素電極(陽極)を作製した。この炭素電極の電極面積当たりのPd担持量は6μmol/cmである。
【0090】
(3)電解反応
陽極として、上記方法で作製した炭素電極を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で10時間、定電流電解を行った。
その結果、DPCは1時間当たり約19μmolの割合でほぼ直線的に生成量が増加して、反応開始後6時間の時点での生成量は110.8μmolに達していることが分かった。DPC生成の電流効率は99.0%で、サンプリングガス中からは電流効率100%に相当する量の水素が検出された。反応時間6時間での触媒のTONは3.7mol−DPC/mol−Pdであり、さらに4時間反応させることにより(全反応時間10時間)、触媒のTONは7.5mol−DPC/mol−Pdまで上昇した。
【0091】
[実施例3]
白金族元素担持触媒の担体と炭素電極の導電性助剤をともにECPとしたこと以外は、実施例2と同様の方法で10時間、定電流電解を行った。
その結果、DPCはほぼ直線的に生成量が増加して、反応開始後6時間の時点でのDPC生成量は93.4μmol、電流効率は83.5%、触媒のTONは3.1mol−DPC/mol−Pdであった。
さらに4時間反応させることにより(全反応時間10時間)、触媒のTONは5.9mol−DPC/mol−Pdまで上昇した。
【0092】
[実施例4]
白金族元素担持触媒の担体をECP600JDとし、炭素電極の導電性助剤を、平均繊維径150nm、繊維長さ10〜20μmの気相成長カーボンファイバー(昭和電工社製、通常品、以下「VGCF」と略称する)(粉体抵抗率は表1に示す通り)とした以外は、実施例2と同様の方法で7時間、定電流電解を行った。
DPC生成量はわずかながら時間とともに低下し、反応開始から6時間の時点で62.9μmol生成した。電流効率は56.2%、触媒のTONは2.1mol−DPC/mol−Pdであった。
【0093】
[実施例5]
白金族元素担持触媒の担体をECPとし、炭素電極の導電性助剤をVGCFとした以外は、実施例2と同様の方法で7時間、定電流電解を行った。
DPC生成量は時間とともに低下し、6時間の時点で52.0μmol、電流効率は46.4%、触媒のTONは1.7mol−DPC/mol−Pdであった。
【0094】
[実施例6]
白金族元素担持触媒の担体を、表1に示す1次粒子径及びBET比表面積のカーボンブラックXC−72(Cabot社製「VULCAN XC−72」、以後「XC72」と略称する)とし、導電性助剤をVGCFとした以外は、実施例2と同様の方法で6時間、定電流電解を行った。
DPC生成量は時間とともに低下し、6時間の時点で34.3μmol、電流効率は30.6%、触媒のTONは1.1mol−DPC/mol−Pdであった。
【0095】
[比較例1]
白金族元素担持触媒の担体を、表1に示す1次粒子径及びBET比表面積の活性炭(和光純薬社製、特級、以後「AC」と略称する)とし、導電性助剤をVGCFとした以外は、実施例2と同様の方法で6時間、定電流電解を行った。
DPC生成量はほぼ直線的に増加したが生成量は少なく、6時間の時点で17.7μmol、電流効率は15.8%、触媒のTONは0.6mol−DPC/mol−Pdであった。
【0096】
[比較例2]
白金族元素担持触媒の担体をVGCF、導電性助剤をVGCFとした以外は実施例2と同様の方法で6時間、定電流電解を行ったが、DPCは生成しなかった。
【0097】
[比較例3]
カーボンブラックの粉末(ECP)155mgにPdを担持せずに、Pdを金属単体(Pdブラック)として30μmol混合したものに、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末を40mg添加してメノウ乳鉢で混練した。それを120℃のホットプレート上で成形して電極面積5cm(幾何学的面積)の炭素電極を作製した。この電極面積あたりのPd担持量は6μmol/cmである。
陽極としてこの炭素電極を使用した以外は、実施例1と同様の方法で6時間、定電流電解を行ったが、DPCは生成しなかった。
【0098】
【表1】

【0099】
表1より、本発明によれば、1次粒子径が100nm以下の導電性カーボン担体、特に1次粒子径が100nm以下でBET比表面積が100m/g以上の導電性カーボン担体に白金族元素を担持させた触媒を含む炭素電極を用いることにより、電解反応により炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルを効率的に製造することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、電解液やポリカーボネートの原料等として有用な炭酸ジエステルを、工業的に実用化し得る程度に効率よく、かつホスゲン等の毒性物質を使用することなく製造する方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0101】
10,20 反応器(電解セル)
11 陽極室
11A,21 陽極
12 陰極室
12A,22 陰極
14 隔膜
15,16,25 ガス供給管
18,23 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ化合物と一酸化炭素とを電解反応させて炭酸ジエステルを製造する方法において、
1次粒子径が100nm以下の導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素を担持させてなる白金族元素担持触媒を含む炭素電極を用いることを特徴とする炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項2】
該アルコキシ化合物がフェノキシ化合物であり、該炭酸ジエステルが炭酸ジフェニルである請求項1に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項3】
該導電性カーボンのBET比表面積が100m/g以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項4】
該導電性カーボンがカーボンブラックであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項5】
該炭素電極が、白金族元素担持触媒を導電性助剤と混合して成形してなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項6】
該導電性助剤が、粉体抵抗率0.5Ω・cm以下の導電性カーボンであることを特徴とする請求項5に記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項7】
該白金族元素がパラジウムであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。
【請求項8】
該白金族元素担持触媒が、導電性カーボンよりなる担体上に白金族元素の金属単体を担持させたものであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の炭酸ジエステルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−153909(P2012−153909A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200292(P2009−200292)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】