説明

炭酸入りゼリー飲料の製造方法

【課題】ゲル化剤が加熱溶解され、かつ、ゲル化していない温度域のゼリー飲料調合液に、インライン方式で直接炭酸ガス圧入をすることができる、炭酸入りゼリー飲料の工業生産ラインでの製造方法を提供する。
【解決手段】ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃のゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上且つ0.5MPa以下とし、これを容器に充填・密封し、その後冷却して内容液をゲル化し、炭酸入りゼリー飲料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを含有するゼリー状の飲料(炭酸入りゼリー飲料)の製造方法に関するものである。詳細には、本発明は、炭酸入りゼリー飲料の製造において、炭酸ガス圧入(カーボネーション)により炭酸ガスを飲料中に吸収させる工程を含む製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の嗜好多様化を背景に、容器を振とうするなどしてゼリーを崩して飲用するゼリー状の飲料(ゼリー飲料)が多く販売されている。そして最近では、炭酸飲料と同様に、清涼感を付与させた新たな食味のゼリー飲料として、炭酸ガスを含有するゼリー状の飲料(炭酸入りゼリー飲料)も上市されている。
【0003】
一般的なゼリー飲料の製造工程は、ゲル化剤を加熱溶解して液状又はゾル状のゼリー飲料調合液を調合する工程、この調合液を殺菌する工程、殺菌後の調合液を液状又はゾル状のまま(例えば、高温域に液温を保って流動性を維持したまま)容器に充填する工程、容器充填後に食品衛生法に順じた殺菌をする工程、容器ごと冷却して内容液をゲル化する工程からなっている。炭酸入りゼリー飲料を製造する場合には、これらの工程間のいずれかに炭酸ガスを吸収させる工程を行なうことになる。
【0004】
なお、通常の炭酸飲料において炭酸ガスを吸収させる方法としては、大別してポストミックス法(調合シロップ液と炭酸水を容器充填後に混合する)とプレミックス法(調合液を冷却して炭酸ガスを直接圧入する(カーボネーション))の2つがある。一般的かつ効率的な方法はプレミックス法であり、調合液中に炭酸ガスをスプレーする方式(スプレー式)や調合液を炭酸ガスが充満したタンク内に設置した板の上に薄膜として流す方式(薄膜流下式)が主流な方式である。また、炭酸ガスと調合液を充填塔で向流接触させる方式(充填塔式)や圧力容器タンク内の調合液に炭酸ガスを供給し加圧攪拌する方式(攪拌式)なども行なわれている。
【0005】
最近では、インライン方式による炭酸ガス圧入も行なわれている。この方式は、飲料調合液の配管路に炭酸ガス圧入システムを設置して、加圧した炭酸ガスを供給し、スタティックミキサーなどにより分散しながら連続的に溶解させるものである。
プレミックス法により炭酸ガス圧入を行なう場合には、上述のいずれの方式においても、炭酸ガスの溶解度を高め且つ飲料調合液への炭酸ガス圧入時、及び炭酸含有飲料原液の容器充填時のフォーミング(泡噴き)発生を抑制するため、炭酸ガス圧入時における飲料調合液の液温を10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却する必要があることが技術常識となっている。
【0006】
しかし、例えばゼリー飲料調合液にインライン方式によるカーボネーション工程で直接炭酸ガスを圧入しようとする場合には、当該ゼリー飲料調合液を10℃以下に冷却するとゲル化(固化)してしまい、送液や炭酸ガス圧入、容器充填などで不具合が生じるため、通常はこの方法をそのまま用いることはできない。
けれども、炭酸入りゼリー飲料は新しいタイプの飲料であり、専用の装置もなく、製造方法も確立されていないため、炭酸飲料の製造方法を応用するアプローチで製造を行なうしかなかった。
【0007】
現状では、炭酸入りゼリー飲料の製造方法としては、ゲル化させた調合液を細片状とし、別に炭酸ガスを圧入した低温シロップ液を用意してそれぞれ容器に別途充填、密封し、その後容器を加熱して細片状ゲルを液状化した後再冷却(ゲル化)する方法(特許文献1)、ゲル化していない高温域のゼリー調合液と、別に炭酸ガスを圧入した低温域のシロップ液を用意してそれぞれ容器に別途充填、密封し、その後容器を冷却(ゲル化)する方法(特許文献2)などのポストミックス法を応用した方法や、ゲル化剤を加熱溶解させることなく低温域の飲料調合液中に分散させ、この調合液について、炭酸ガス圧入・容器充填、密封を行った後、その容器を加熱してゲル化剤を溶解させ、その後冷却して内容液をゲル化する方法(特許文献3及び4)、冷却した粒状のゲルを含む流動性を有するゼリー飲料調合液に炭酸ガス圧入を行い、容器充填、密封を行った後、その容器を加熱してゲル化剤をゾル状に溶解させ、その後冷却して内容液を再度ゲル化する方法(特許文献5)などのプレミックス法を応用するためにゲル化剤や調合液を工夫した方法等が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、細片状のゼリーと炭酸ガスを封入したシロップ液の2種類を用意する必要があり、これらを特殊な充填装置で別充填しなければならず製造ラインの制約が大きい。そして、充填後の殺菌目的だけでなく、ゼリーの再溶解によるシロップ液との混合及び再ゲル化のために、2種の内容液を充填した容器を加熱、冷却する必要があり、炭酸ガスを含有していない通常の製造方法により製造されたゼリー飲料と比較して製品の加熱劣化(風味劣化、褐変等)が大きくなる可能性がある。さらに、細片状ゼリーとシロップ液を常に正確な量充填することは非常に困難であり、かつ、容器内での加熱・冷却では攪拌等による充分な混合、均一化ができないため、得られる炭酸入りゼリー飲料のゲル状態及び炭酸ガス溶解度が均一でない。しかも、その不均一性が原因で、容器充填後加熱による殺菌効果が不十分となる可能性もある。また、ゼリーを物理的に細片状とするため、ゲルの物理的ダメージ(ゲル強度の低下等)もある。
【0009】
特許文献2の方法も、ゲル化剤を加熱溶解した液と炭酸ガスを封入したシロップ液の2種類を用意する必要があり、これらを特殊な充填装置で別充填しなければならず製造ラインの制約が大きい。そして、ゼリー液とシロップ液を常に正確な量充填することは非常に困難であり、かつ、温度帯が全く異なる液を容器に充填して混合し、冷却、ゲル化するため、ゲル状態や炭酸ガス溶解度のムラ(不均一性)の発生も大きく、また充填時のフォーミング発生が危惧される。
【0010】
特許文献3及び4の方法では、ゲル化剤を低温域の調合液に加熱溶解せずに分散しておく必要があり、そのため、使用できるゲル化剤が、カラギナンやローカストビーンガムなどの低温域の液体に分散が可能なごく限られた種類のみである。さらに、特許文献1の方法と同様に、内容液を充填した容器を殺菌目的だけでない(ゲル溶解目的も兼ねた)加熱、冷却工程を行う必要があり、内容液を攪拌等できないため過加熱や加熱不均一(つまりゲル溶解不均一及び殺菌不均一)が発生しやすく、かつ、冷却後に得られる炭酸入りゼリー飲料のゲル状態及び炭酸ガス溶解度も均一でない。
【0011】
特許文献5の方法では、ゼリー飲料調合液を冷却して粒状のゲルを含む流動性を有するものとする必要があり、ゼリー飲料調合液の製造時の温度管理等の操作が容易でない。また、炭酸ガスを圧入する冷却ゼリー飲料調合液が粒状のゲルと液体の混合物であるため、炭酸ガスの均一な圧入が困難であり、さらに、特許文献1、3、4の方法と同様に、内容液を充填した容器を加熱してゾル状とし、冷却・再ゲル化する必要もあり、内容液を攪拌等できないため過加熱や加熱不均一(つまりゲル溶解不均一及び殺菌不均一)が発生しやすく、かつ、冷却後に得られる炭酸入りゼリー飲料のゲル状態及び炭酸ガス溶解度も均一でない。
【0012】
つまり、開示されているいずれの炭酸入りゼリー飲料製造方法でも、通常の炭酸飲料の製造方法と同様に炭酸ガス圧入時には調合液等の冷却が必要であり(つまりカーボネーションを低温で行なうことが要求され)、また、これらの方法は、製造ラインの簡略性、エネルギー効率、得られる炭酸入りゼリー飲料の品質などの面において充分に満足できるものではなく、これらの全てが充分に満足できる新たな炭酸入りゼリー飲料の製造方法の確立が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−223735号公報
【特許文献2】特開2004−298113号公報
【特許文献3】特開2007−236299号公報
【特許文献4】特開2009−112236号公報
【特許文献5】特開2001−211839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、炭酸ガスを含まない通常のゼリー飲料の製造方法を応用して、ゲル化剤を加熱溶解し、かつ、ゲル化していない(流動性を有する)温度域のゼリー飲料調合液にインライン方式で直接炭酸ガス圧入(カーボネーション)を行う炭酸入りゼリー飲料の製造方法を提供することを目的とし、この際、低温域(10℃以下)条件と同様に、製造工程中でフォーミング(泡噴き)を発生させることなく当該調合液に炭酸ガス圧入が可能な、工業生産ラインでの製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
換言すれば、炭酸入りゼリー飲料の製造において、ゼリー飲料調合液が流動性を有する液温での炭酸ガス圧入(カーボネーション)、及びその後の炭酸含有ゼリー飲料原液のタンク、容器充填でのフォーミング(泡噴き)発生を防止ないし抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、これまでの炭酸飲料製造の技術常識であるカーボネーション(炭酸ガス圧入)時の飲料調合液温度を10℃以下に冷却することに反し、あえて10℃以下に冷却しない条件で炭酸入りゼリー飲料を製造することに挑戦し、ゲル化剤を加熱溶解したゼリー飲料調合液が流動性を有する温度域(35〜80℃)において、当該調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行う際、炭酸ガス圧力、バッファータンク圧力、ヘッドタンク圧力を所定の条件(関係)に設定することで、炭酸ガス圧入時及びその後のタンク貯留時、容器充填時のフォーミング発生を抑制できることを見出した。そして、当該方法を用いることにより、ゼリー飲料調合液を冷却することなく(流動性を保持したまま)直接炭酸ガス圧入ができ、また容器充填前後にゲル溶解のための再加熱工程を行う必要もなく、単一の炭酸含有ゼリー飲料調合液を容器充填後に冷却するだけで炭酸入りゼリー飲料が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃の(流動性を保持した)ゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上(すなわち90%以上)且つ0.5MPa以下とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上(いずれの圧力と比べてもそれ未満でない)且つ0.5MPa以下とし、これを容器に充填・密封し、その後冷却して内容液をゲル化する工程からなることを特徴とする、炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
(2)炭酸ガス圧入時のゼリー飲料調合液の液温が40〜60℃であることを特徴とする、(1)に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
(3)炭酸ガス圧力が0.1〜0.4MPaであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
(4)バッファータンク圧力が炭酸ガス圧力の10分の9以上であり且つ0.2〜0.4MPaであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
(5)ヘッドタンク圧力が炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上であり且つ0.3〜0.5MPaであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法により製造された、ゲル状態が均一であり、且つ、炭酸ガスがゼリー飲料中に均一に分散、溶解してなる炭酸入りゼリー飲料。
【0018】
(7)ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃、好ましくは40〜60℃の(流動性を保持した)ゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下、好ましくは0.1〜0.4MPaとし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下(好ましくは0.2〜0.4MPa)とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上(いずれの圧力と比べてもそれ未満でない)且つ0.5MPa以下(好ましくは0.3〜0.5MPa)とし、これを容器に充填することを特徴とする、炭酸入りゼリー飲料製造における液温35〜80℃(例えば40〜60℃)での炭酸ガス圧入時及びその後の容器充填時のフォーミング(泡噴き)発生抑制(ないし防止)方法。
【0019】
(8)炭酸ガスを圧入した後(好ましくは、炭酸ガス圧入工程後バッファータンク送液前)に、炭酸ガスが溶解した(液状又はゾル状の)ゼリー飲料原液と未溶解の炭酸ガスを気液分離することを特徴とする、(1)〜(5)及び(7)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ゲル化剤が加熱溶解した、流動性を有する温度域のゼリー飲料調合液に直接炭酸ガス圧入ができ、かつ、炭酸ガス圧入から充填工程までのフォーミング発生がないため、低温域での炭酸ガス圧入を行なうための複数の調合液調製及び特殊な製造設備による複数液充填、特殊な調合液調製などを必要としない。また、充填性向上のための容器充填前のゲル溶解工程や容器充填後のゲル溶解、混合も必要とせず、簡便で効率的に炭酸入りゼリー飲料を工業生産することができる。したがって、製造の安定化、低コスト化を図ることができ、また、得られる炭酸入りゼリー飲料に過度な熱負荷及び物理的負荷を与えないため、ゲル状態や炭酸ガスが均一であり、好ましい風味、食感を維持した炭酸入りゼリー飲料を得ることができる。
【0021】
さらに、本発明の製造方法では、従来の炭酸入りゼリー飲料の製造方法と異なり、特殊な性質のゲル化剤や熱耐性が極めて高い容器などが必要という制約がない。さらに、得られる炭酸入りゼリー飲料も従来の方法で得られるものと異なり、調合段階でゲル化剤を含む全ての原料を溶解、混合し、その単一調合液に直接炭酸ガス圧入を行い、これを容器充填してから単に冷却してゲル化させているため、ゲル状態及び炭酸ガスの均一性が確保されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いる炭酸入りゼリー飲料製造ラインの模式図を示す。プレートは殺菌プレートを、BTはバッファータンクを、HTはヘッドタンクを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、最初に、ゲル化剤を含む全ての原料を溶解して、単一のゼリー飲料調合液を調製する。本発明においては、ゼリー液を別途調製する等の複数調合液の調製は必要ない。使用するゲル化剤は、加熱溶解後に35〜80℃の液温において液状又はゾル状で流動性を有するという一般的なゲル化剤の特性をもつものであればいずれでも使用可能であり、特段の限定はない。ゲル化剤としては、ジェランガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ペクチン、グァーガム、タマリンドシードガム、カラギナン(カッパー、イオタ、ラムダ)などが例示される。ゲル化剤は、常温程度の液温(例えば20〜40℃)で充分に分散してから加熱溶解する方法が好ましいが、加熱した溶解水にゲル化剤を直接添加する方法でもよい。
【0024】
ゲル化剤以外の原料としては、飲料の原料として用いることができる食品原料は全て使用でき、これも特段の限定はない。例えば、砂糖、異性化糖、甘味料、酸味料、果汁類、牛乳、その他乳製品、コーヒー抽出液、その他飲料原液、着色料、香料などが例示される。また、調合液の流動性や充填性などに影響を与えない範囲で、果実等の固形分を加えることもできる。
【0025】
調製したゼリー飲料調合液は、常法(プレート殺菌、通電殺菌など)により殺菌される。殺菌条件(殺菌温度、殺菌時間等)は、殺菌方法、最終製品のpH、流通温度帯などを勘案して適宜設定すればよく、そして、ゼリー飲料調合液を殺菌後に35〜80℃、好ましくは40〜60℃の液温に調整し、その液温を維持させながら液状又はゾル状のまま(ゼリー飲料調合液が流動性を保った状態で)炭酸ガス圧入(カーボネーション)工程に送液する。従来の炭酸飲料の製造方法で技術常識とされている、カーボネーション工程送液前の調合液の10℃以下への冷却工程は、本発明においては全く必要ない。また、例えば流動性ゲルのように、冷却及び破砕により調合液の性状を特殊な状態にコントロールする必要もない。
【0026】
炭酸ガス圧入(カーボネーション)工程は、バッチ式で行うのでなく、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行う。上述のとおり、カーボネーション工程は、通常、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるため調合液の液温を10℃以下(好ましくは4℃以下)として行うのが技術常識であるが、本発明では、ゼリー飲料調合液が流動性を有する液温(35〜80℃)で行うことが極めて特徴的であり、この点において従来の炭酸飲料の製造方法の技術常識から逸脱しているといえる。この場合において、カーボネーションシステムは低温域で行う従来の装置がそのまま使用でき、35〜80℃でカーボネーションを行なうための特殊な設備は必要ない。
【0027】
具体的な工程は、35〜80℃のゼリー飲料調合液が通液する配管内に所定の加圧をした炭酸ガスを供給してスタティックミキサーなどにより連続的に混合、溶解させる。なお、この工程後に、炭酸ガスが溶解したゼリー飲料原液と未溶解の炭酸ガスを気液分離する工程を経ることが、安定的なカーボネーションや炭酸ガスの過剰な使用を抑制するという点でより好ましい。気液分離方法としては、サイクロンセパレーターを使用する方法が例示される。
【0028】
カーボネーション工程においての炭酸ガス圧力は、ゼリー飲料調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とする。通常の炭酸飲料製造におけるカーボネーション工程では、効率的な炭酸ガス圧入のため、炭酸ガス圧を調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力よりかなり高く設定するのが一般的であるが、本発明においてはこのような設定はフォーミング発生抑制という点で好ましくない。つまり、本発明においては、一般的なカーボネーション時の炭酸ガス圧より低い圧力条件であり、例えば、液温60℃のゼリー飲料調合液では0.4MPa以下とする。
このように、炭酸ガス圧はゲル化剤の特性や調合液の液温、最終製品で求めるガス容量などにより調整されるものであるが、本発明でのカーボネーション工程においての液温(35〜80℃)と、炭酸飲料として好まれる最終製品に必要なガス容量(1.02vol%(0.1MPa)程度以上)から、本発明でのカーボネーション工程においての炭酸ガス圧力として0.1〜0.4MPa、好ましくは0.2〜0.4MPaが例示される。
【0029】
カーボネーション(及び気液分離)工程を経た炭酸入りゼリー飲料原液は、バッファータンクに送液する。この時のバッファータンク圧力は、カーボネーション時の炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下とする。炭酸ガス圧力の10分の9未満の場合には、バッファータンク等においてフォーミング発生の可能性があり、0.5MPaを超える条件とすると、充填工程において大気圧との差によりフォーミング発生の可能性があるため、いずれも好ましくない。このバッファータンク圧力も炭酸ガス圧力と同様に、ゲル化剤の特性や液温、最終製品で求めるガス容量により調整されるものであるが、上記の条件などから、炭酸ガス圧力の10分の9以上であることを前提として、0.05〜0.5MPa、好ましくは0.2〜0.4MPa、更に好ましくは0.2〜0.36MPaが例示される。
【0030】
バッファータンク内の炭酸入りゼリー飲料原液は、その後容器充填工程前のヘッドタンクに送液する。この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上(いずれの圧力と比較してもそれ以上)且つ0.5MPa以下とする。炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力より低い圧力ではヘッドタンク等においてフォーミング発生の可能性があり、0.5MPaを超える条件とすると、充填工程において大気圧との差によりフォーミング発生の可能性があるため、いずれも好ましくない。ヘッドタンク圧力も上記同様にゲル化剤の特性や液温、最終製品で求めるガス容量により調整されるものであるが、上記の条件などから、炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上であることを前提として、0.3〜0.5MPa、好ましくは0.3〜0.46MPaが例示される。
【0031】
なお、上述の炭酸ガス圧力、バッファータンク圧力、ヘッドタンク圧力の各条件については、炭酸入りゼリー飲料の製造装置(カーボネーター、充填機等)の特性や製造スケール(タンク容積等)などによっては、最適な設定に調整するための若干の増減が許容される場合がある。例えば、製造装置や製造スケールによっては、炭酸ガス圧力をゼリー飲料調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力よりやや高く設定する、バッファータンク圧力を炭酸ガス圧力の10分の9よりやや低くする、ヘッドタンク圧力を炭酸ガス圧力及び/又はバッファータンク圧力よりやや低くする、バッファータンク圧力及び/又はヘッドタンク圧力を0.5MPaよりやや高くする、などの条件設定が許容される場合がある。
【0032】
ヘッドタンク内の炭酸入りゼリー飲料原液は、常法に従い流動性を維持したままフィラーに送液して容器に密封充填する。容器充填後は、必要に応じて食品衛生法に準じた殺菌(pH4未満の製品では65℃10分間以上、pH4以上の製品では85℃30分間以上)を行う。容器は炭酸飲料等に通常用いられている耐圧容器(缶、瓶、ペットボトル等)であれば使用でき、そのほかの特段の限定はない。特に、本発明においては、容器充填前後にゼリーやゲル溶解を目的とした強い加熱を必要とせず、耐熱性の極めて高い容器は必要としない。
【0033】
このように、本発明は従来の炭酸を含有しないゼリー飲料の製造方法を応用した全く新しい発想の炭酸入りゼリー飲料の製造方法であり、この方法により品質の良い炭酸入りゼリー飲料を簡便な工程で特殊な設備を必要とせず効率的に製造でき、安定大量生産、低コスト化、保守管理の容易性など多くの産業上の利点がある。さらに、ゲル化剤を溶解した調合液に直接炭酸ガス圧入できること、温度、圧力条件の調整により異なる特性を持つ各種ゲル化剤や容器の使用に柔軟に対応できることも利点である。
そして、本発明は、常温流通可能な密閉容器入りの炭酸入りゼリー飲料だけでなく、チルド流通させる炭酸入りゼリー(ゼリー飲料だけでなく、通常のゼリーも包含する)などにも応用ができる。さらには、通常の炭酸飲料の製造にも応用でき、この場合、カーボネーション時に調合液を冷却する必要がなく、製造コストを低減できる。
なお、本発明で用いる炭酸入りゼリー飲料製造ラインの一例(模式図)を図1に示した。
【0034】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(ゼリー飲料調合液への炭酸ガス圧入における圧力条件確認試験)
炭酸飲料の製造工程上、最も注意が必要な点は容器充填時のフォーミング発生である。容器充填時のフォーミングとは、充填直後に容器から泡が噴き出す現象であり、原因は大きく分けて2つある。1つは、充填前工程のバッファータンク、ヘッドタンク、フィラー内において泡噴きが発生し、そのまま充填される場合であり、もうひとつは、フィラーから充填する際、フィラー内での溶液圧力と大気圧の圧力差により泡噴きが発生する場合である。
本試験では、ゼリー飲料調合液温度60℃において各圧力条件でカーボネーションを行い、充填前工程でのフォーミング発生の有無を確認した。
【0036】
ゼリー飲料調合液は以下の配合で調製した。
ジェランガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1kg、果糖ブドウ糖液糖(三松工業社製)15kg、無水クエン酸(扶桑化学工業社製)2kg、クエン酸3Na(扶桑化学工業社製)0.9kg、香料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1kg、乳酸カルシウム(ピューラックジャパン社製)0.1kg、溶解水89kg。
【0037】
調合は調合タンクで行い、まず、溶解水の一部にジェランガムを加えて十分に攪拌し、分散させた。この分散液を攪拌しながら、果糖ブドウ糖液糖、クエン酸、クエン酸3Na、香料を添加溶解した。さらに、乳酸カルシウムを添加し、あらかじめ80℃に加熱した残りの溶解水と混合して充分に攪拌、溶解した。そして、95℃3秒の条件で殺菌処理した後、冷却した。
【0038】
このゼリー飲料調合液が60℃となったところで、インライン方式で設置したカーボネーター(カーボネーターCN2000型、GEAプロセスエンジニアリング社製)に通液し、下記表1に記載の各圧力条件でカーボネーションを実施した。その後、図1の模式図に記載の通り、バッファータンク、ヘッドタンクの順に通液し(その際の圧力条件も表1に示した)、最後にフィラーに供給して280ml容の耐圧缶容器に充填、密封した。密封した容器を65℃、10分間相当の殺菌をしたのち容器ごと冷却し、内容液をゲル化させた。
【0039】
【表1】

【0040】
本試験では、最初に、液体の飲料を8℃でカーボネーションする際の圧力条件をそのまま適用して試験を実施した(試験1)。しかし、この条件では、バッファータンク前で既にフォーミングが発生した。そこで、炭酸ガス圧を60℃における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力(0.4MPa)まで下げ、BT圧、HT圧もこれに比例して下げた圧力条件として試験を実施した(試験2)。しかし、この場合においても、バッファータンク内でフォーミングが発生した。さらに、試験2の条件からBT圧を段階的に上げた圧力条件(試験3〜5)で試験を実施したところ、BT圧を炭酸ガス圧の10分の9以上とすることでバッファータンクでのフォーミング発生は抑制されたが、この条件ではヘッドタンクでフォーミングが発生した(試験5)。そして、試験5の条件からHT圧を段階的に上げた圧力条件(試験6〜8)で試験を実施したところ、HT圧を炭酸ガス圧及びBT圧以上の条件(いずれと比較してもそれ以上となる条件)とすることで各工程でのフォーミング発生は全て抑制された(試験7、8)。
【0041】
以上より、高温域でのカーボネーションでは、炭酸ガス圧力を調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とし、バッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上とし、ヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上とすることで、フォーミングが発生しない安定なカーボネーションができることが明らかとなった。
【実施例2】
【0042】
(低ガス容量製品製造時の圧力条件確認試験)
製品ガス容量が低い設定の場合(低ガス容量製品の場合)について、実施例1の調合液、及び装置で同様にカーボネーションを行い、この際、炭酸ガス圧を0.1MPa及び0.25MPaとし、フォーミング発生がないBT圧、HT圧条件を確認した。
【0043】
この結果、炭酸ガス圧が0.1MPa及び0.25MPaの場合(低ガス容量に設定する場合)でも、実施例1で示したのと同様の炭酸ガス圧力、バッファータンク圧力、ヘッドタンク圧力の関係を保つことでフォーミングが発生しない安定なカーボネーションができることが明らかとなった。本実施例において、フォーミング発生が抑制された圧力条件を表2に示した。
なお、バッファータンク圧力及びヘッドタンク圧力を0.5MPaを超える条件とすると、充填前の溶液圧力と大気圧の差圧によって充填直後に泡噴きが発生するため、これらは0.5MPa以下とすることが必要であることも明らかとなった。
【0044】
【表2】

【実施例3】
【0045】
(各種ゲル化剤を用いたカーボネーション試験)
実施例1で調製した配合の調合液(本実施例の試験B)、及び、試験Bの調合液からゲル化剤をカッパーカラギーナン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.4kgとローカストビーンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.3kgに置き換え乳酸カルシウムを添加しない調合液(試験A)、試験Bの調合液からゲル化剤をローカストビーンガム0.2kgとキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.2kgに置き換え乳酸カルシウムを添加しない調合液(試験C)、試験Bの調合液からゲル化剤をLMペクチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製)0.1kgに置き換えた調合液(試験D)の4種ゼリー飲料調合液を調製し、40℃及び60℃でのカーボネーション試験を実施例1記載の装置で実施した。
各試験のゲル化剤配合及び製造適正の一覧を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
この結果、全ての条件において、ゲル化剤の種類、特性の影響を受けず、カーボネーションでの噴出し性(フォーミング発生が無い場合が○)及びカーボネーションでのガス保持性(炭酸ガス圧入後に5分放置した際、ガス容量が当初の60%以上が○)が良好なものであり、製造適正があることが確認された。特に、試験AやCのゼリー飲料調合液のように、一定の粘度があるゾル状の調合液でも流動性を有していれば製造適正があることが明らかとなった。
【実施例4】
【0048】
(各温度帯でのカーボネーション試験)
実施例3の試験Aの配合の調合液を使用して、各種温度によりカーボネーションから容器充填までを実施例1記載の製造工程で試験した。各温度における圧力条件は、炭酸ガス圧力を調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力とし、バッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9とし、ヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力と同じで実施した。
【0049】
【表4】

【0050】
この結果、30℃以下の製造条件では、ライン中でゼリー飲料調合液のゲル化が進行し、このゲルについて配管通液やカーボネーションを行うことによりゲルが崩され、ゲル強度がほとんど残らない状態となった。また、そのままでは容器充填が不安定であったり不可能であったりし、充填適正及びランニングコストの面で問題が生じた。
【0051】
ゼリー飲料調合液の温度を35℃以上とすると、配管通液及びカーボネーションを確実かつ良好に行うことができた。そして、この温度帯の場合には、容器充填前に再加熱をしなくとも安定充填が可能であり、また、得られた製品のゲル強度も良好であった。さらに、特に40〜60℃の条件では、製品ガス容量が1.0vol(体積分率)以上となり、容器強度(保形性等)についても非常に良好な結果であった。
【0052】
以上の実施例1〜4の結果から、炭酸入りゼリー飲料の製造において、液状又はゾル状の単一ゼリー飲料調合液に直接インライン方式で所定の圧力条件でカーボネーションを行い、これを所定のタンク圧条件で通液、貯留して液状又はゾル状のまま容器に充填・密封し、殺菌、冷却するだけで炭酸入りゼリー飲料が製造できることが確認された。そして、この製造方法により各工程でのフォーミングが抑制されること、特殊な設備や過度の熱負荷、物理的負荷を必要とせず、簡便で効率的に品質の良い炭酸入りゼリー飲料を製造できることも明らかとなった。
【0053】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0054】
本発明は、ゲル化剤が加熱溶解され、かつ、ゲル化していない温度域の液状又はゾル状ゼリー飲料調合液に、インライン方式で直接炭酸ガス圧入をすることができる、炭酸入りゼリー飲料の工業生産ラインでの製造方法を提供することを目的とする。
【0055】
そして本発明は、ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃のゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガスの溶解度が最大となる圧力以下とし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上且つ0.5MPa以下とし、これを容器に充填・密封し、その後冷却して内容液をゲル化し、炭酸入りゼリー飲料を製造することを特徴とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃のゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上且つ0.5MPa以下とし、これを容器に充填・密封し、その後冷却して内容液をゲル化する工程からなることを特徴とする、炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
【請求項2】
炭酸ガス圧入時のゼリー飲料調合液の液温が40〜60℃であることを特徴とする、請求項1に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
【請求項3】
炭酸ガス圧力が0.1〜0.4MPaであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
【請求項4】
バッファータンク圧力が0.2〜0.4MPaであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
【請求項5】
ヘッドタンク圧力が0.3〜0.5MPaであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸入りゼリー飲料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により製造された、炭酸ガスがゼリー飲料中に均一に分散、溶解してなる炭酸入りゼリー飲料。
【請求項7】
ゲル化剤を加熱溶解した、液温が35〜80℃のゼリー飲料調合液にインライン方式で炭酸ガス圧入を行い、この時の炭酸ガス圧力は当該調合液の液温における炭酸ガス溶解度が最大となる圧力以下とし、これをバッファータンクに送液し、この時のバッファータンク圧力は炭酸ガス圧力の10分の9以上且つ0.5MPa以下とし、これをヘッドタンクに送液し、この時のヘッドタンク圧力は炭酸ガス圧力及びバッファータンク圧力以上且つ0.5MPa以下とし、これを容器に充填することを特徴とする、炭酸入りゼリー飲料製造における液温35〜80℃での炭酸ガス圧入時及び容器充填時のフォーミング発生抑制方法。

【図1】
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