説明

炭酸化硬化積層体及びその製造方法

【課題】 揮発性化学物質(VOC)吸着性能及び調湿性能に優れており、さらに強壮剤として好適に用いることができる炭酸化硬化積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭からなる群から選択された少なくとも1種の炭を含む炭類含有層と、前記炭類が含有されていない炭酸化硬化体層とが積層されている構造を有する積層体であって、前記積層体の積層方向外側の片面もしくは両面が前記炭酸化硬化体層で形成されている炭酸化硬化積層体、並びに活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭のうち少なくとも1種の炭を脱水成形用濾過布上に層状に配置する工程と、次に、前記炭を前記脱水成形用濾過布上に層状に配置している部分の上に、珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とを含む混合物を層状に展開し、水を脱水する工程と、脱水により得られた積層体を炭酸化させる工程とを備える炭酸化硬化積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築部材などにおいて調湿作用を果たす材料として好適に用いられる炭酸化硬化体及びその製造方法に関し、より詳細には、炭酸化硬化体層と、他の材料層とが積層された構造を有する炭酸化硬化積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅設計分野では、断熱性を高める構造が種々提案されてきている。これに伴って、住宅内の気密性が高まってきている。住宅内の気密性が高くなると、エネルギー消費量を低減することができ、好ましい。もっとも、気密性の向上は、これまで見られなかった新たな問題を引き起こしている。
【0003】
例えば、気密性の高い住宅内においては、揮発性化学物質(VOC)が比較的高い濃度で存在すると、VOCが外部に揮散し難いため、人や動物が比較的長期間に渡りVOCに接触することがあった。また、結露により、カビが生じたり、エネルギー源となるダニの発生が生じやすいなどの問題もあった。特に、トルエンなどのVOCは、住宅材料に用いられていた場合、いわゆるシックハウス症候群を引き起こす主たる原因となっていた。
【0004】
上記のような問題に鑑み、エアコンや空気清浄機などの電気的機器を用いることなく住宅内の湿度を一定に制御すること、あるいは住宅内の化学物質の吸着を目的とした調湿・吸湿建材の開発が進められている。例えば、下記の特許文献1には、不燃材料である、スラグ、石膏またはセメント系の材料からなる基材に、調湿性材料として、特定の粒径の珪藻土を添加し、抄造法などにより製造される調湿建材が開示されている。
【0005】
珪藻土は、多孔性を有し、一定の調湿性能及び吸着性能を発現する。しかしながら、トルエンなどのVOCの吸着能は低く、吸着したとしても、住宅内の温度が40℃付近まで上昇した際には、VOCが脱離し、再放散が生じるおそれがあった。すなわち、珪藻土は、VOCを確実に吸着・保持する性能を十分に発現するものではなかった。
【0006】
他方、下記の特許文献2には、樹脂成形体中にVOCの吸着能力に優れた炭が配合されている硬化体が開示されており、この硬化体は調湿性能及び吸着性能に優れているとされている。
【0007】
しかしながら、活性炭などの炭を樹脂成形体中に配合した場合、得られた硬化体が黒色や灰色を帯びがちであった。従って、住宅内の内装材として用いるには、外観性が悪いという問題があった。すなわち、住宅内の表層材として上記硬化体を用いることはできず、下地材などに用いなければならなかった。下地材として使用した場合には、表面を化飾のためのビニルクロスを貼付したり、塗装したりしなければならない。その結果、上記硬化体からなる下地材表面が、非調湿性の材料で被覆されてしまうことになり、調湿性能や吸着性能が十分に発現し難かった。
【0008】
また、下記の特許文献3には、セメントやスラグウールと水との混合物からなるスラリー状原料を抄造して基材層を形成し、基材層の表面に炭などからなる調湿材を堆積させて調湿材層を形成してなる調湿積層体の製造方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の製造方法で得られた調湿積層体を使用するに際し、上記基材層を表層とし、調湿材層を裏面層として用いた場合には、VOCが表層である基材層を通過することができず、十分なVOC吸着性能は得られなかった。調湿性能につい
ても同様であり、水蒸気が表層である基材層を十分な速度で通過できず、調湿性能も著しく低下しがちであった。すなわち、上記調湿積層体では、基材層を表層として用いた場合には、十分な調湿・吸湿性能が得られず、他方、上記炭などからなる調湿材層を表層として用いた場合には、特許文献2に記載の場合と同様に外観性が低下する。そのため、やはり調湿材層の表面をビニルクロスや塗装等により覆う必要があり、その場合には調湿・吸着性能が低下せざるを得なかった。
【特許文献1】特開2001−322863号公報
【特許文献2】特開平10−317536号公報
【特許文献3】特開2000−202815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、VOC吸着性能及び調湿性能に優れており、さらに建物や車両内の表層材として好適に用いることができる炭酸化硬化積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る炭酸化硬化積層体は、活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭からなる群から選択された少なくとも1種の炭を含む炭類含有層と、前記炭類が含有されていない炭酸化硬化体層とが積層されている構造を有する積層体であって、前記積層体の積層方向外側の片面もしくは両面が前記炭酸化硬化体層で形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る炭酸化硬化積層体のある特定の局面では、前記炭類含有層が、少なくとも1種の前記炭が混入されている炭酸化硬化体層である。
【0013】
本発明に係る炭酸化硬化積層体の他の特定の局面では、前記炭類含有層が、少なくとも1種の前記炭がシート基材に添着された炭類添着シートである。
【0014】
本発明に係る炭酸化硬化積層体では、好ましくは、前記少なくとも1種の炭の平均粒子径が1mm以上、5mm以下の範囲とされる。
【0015】
本発明に係る炭酸化硬化積層体のさらに別の特定の局面では、前記炭酸化硬化体層が、アタパルジャイト及び/またはセピオライトを150〜800℃の温度で焼成して得られる含水マグネシウム珪酸塩鉱物を含有する炭酸化硬化体である。
【0016】
本発明に係る炭酸化硬化積層体のさらに限定的な局面では、前記炭酸化硬化体層が、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム及び非晶質シリカをさらに含む。
【0017】
本発明に係る炭酸化硬化積層体の製造方法は、活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭のうち少なくとも1種の炭を脱水成形用濾過布上に層状に配置する工程と、次に、前記炭を前記脱水成形用濾過布上に層状に配置している部分の上に、珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とを含む混合物を層状に展開し、水を脱水する工程と、脱水により得られた積層体を炭酸化させる工程とを備える。
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0019】
(炭類)
本発明に係る炭酸化硬化積層体では、活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭からなる群から選択された少なくとも1種の炭を含む炭類含有層を有する。ここで、炭とは、上記のように、活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭からなる群から選択された少なくとも1種である。
【0020】
上記活性炭とは、原料は特に限定されるわけではないが、例えば木炭、石炭、もしくはやし殻炭などの各種炭素質原料と、水蒸気及び炭酸ガスを含む燃焼ガスとを反応させることにより、あるいは上記各種炭素質原料に燐酸もしくは塩化亜鉛などの薬品を高温下で含浸させることにより得られる、高比表面積の吸着剤である。
【0021】
本発明において上記木炭とは、400℃以上の高温下で炭化させることにより得られる炭であり、燃焼温度により乾留炭、黒炭、白炭などが挙げられる。中でも、VOCを効果的に吸着し得る細孔を有するため、黒炭が好ましく用いられる。
【0022】
本発明において竹炭もしくはやし殻炭とは、竹もしくはやし殻を高温下で炭化させることにより得られる炭である。
【0023】
(炭酸化硬化体)
本発明に係る炭酸化硬化積層体は、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層と、上記炭を含む炭類含有層とが積層されている構造を有する。なお、後述するように、炭類含有層は、炭を含む炭酸化硬化体により構成されていてもよい。
【0024】
ところで、本発明において、炭酸化硬化体とは、ワラストナイトなどの珪酸カルシウム含有無機材料と水などとの混合物からなる賦形体を二酸化炭素に接触させ、珪酸カルシウムなどの無機材料成分が二酸化炭素と反応することにより得られる無機硬化体を意味する。上記炭酸化硬化体は、珪酸カルシウムの炭酸化反応により生じるシリカゲルを有するため、高い調湿性を有するだけでなく、VOCを透過し易い構造を有する。
【0025】
好ましくは、上記炭酸化硬化体としては、アタパルジャイト及び/またはセピオライトを150〜800℃の温度で焼成して得られる含水マグネシウム珪酸塩鉱物を含有する炭酸化硬化体が用いられる。この場合には、調湿性をより一層高めることができ、さらに酸性化学物質や塩基性化学物質の吸着性能も高められる。
【0026】
上記珪酸カルシウム化合物としては、例えば、セメント水和物やトバモライトのような珪酸カルシウム水和物や、セメントやワラストナイト(珪灰石)のような珪酸カルシウム無水和物が挙げられる。中でも、炭酸化硬化体の強度発現性の点から珪酸カルシウム無水和物(以下、単に「珪酸カルシウム」という)を使用することが好ましく、反応速度や硬化体物性の化学的安定性の観点からワラストナイトを用いることがより好ましい。
【0027】
ワラストナイトとはCaSiO3で示される珪酸カルシウムからなる珪酸塩鉱物であり
、白色の繊維状又は塊状物として天然に産出される。一般にその繊維状の形状を利用して、アスベスト代替等の補強部材として利用されている。
【0028】
上記ワラストナイトとしては、微粉砕処理を行い比表面積を増加させたワラストナイトが好ましく、粒子の大きさは平均粒径で10μm以下が好適である。特に3.5μm〜8.5μmが好ましい。平均粒径が10μmより大きい場合、粒子の内部まで炭酸化反応が進行しにくくなることがある。ここで平均粒子径とは粉体粒度の体積分布において累積50%径を意味する(JIS Z8825−1で規定)。またワラストナイトの針状形態の強度発現を期待するならば、アスペクト比が5〜25であるものが好ましく、アスペクト比が10〜23であるものがより好ましい。
【0029】
アスペクト比が5未満であると、炭酸化処理前の賦形工程で、ワラストナイトの配向が効率的に起こらず賦形体の緻密化が不十分で、炭酸化硬化後の機械的強度が小さくなる傾向があり、アスペクト比が25を超えると、ワラストナイト繊維同士の絡み合いが大きく
、嵩密度が大きくなり、賦形に高圧かつ、長時間のプレス成形が必要となる傾向がある。
【0030】
なお、上記のようなアスペクト比を有するワラストナイトは、特に限定されないが、たとえば、ジェットミルなどによる粉砕と分級処理により得ることができる。
【0031】
また、上記ワラストナイトは、高いエネルギーを与える処理を行うこと等により活性化されたものであってもよい。活性により、ワラストナイトの連鎖珪酸塩構造を変化させることができ、ワラストナイトの反応性を高めることができる。
【0032】
上記活性化は、例えば、ワラストナイト粉体に粉砕媒体などを用いて機械的エネルギーを与えることにより得られる。上記機械的エネルギーとしては特に限定されず、例えば、圧縮力、剪断力、衝撃力、摩擦力等によるエネルギーが挙げられる。
【0033】
本発明においては、炭酸化硬化体には、調湿性や吸着性を高めるために、適宜の多孔質材が配合されてもよい。このような多孔質材としては、シリカゲル、珪藻土、アロフェン、アタパルジャイト、セピオライト等が挙げられる。高い調湿性と酸性・塩基性化学物質の吸着性能からアタパルジャイト、セピオライトの焼成非晶化物が好ましい。
【0034】
なお、本発明においては、上記多孔質材以外にも、目的や成形方法に応じ、珪砂、フライアッシュ、炭酸カルシウム、石膏、高炉スラグ、シリカフューム、タルク、マイカ等の無機充填材、パーライト、フライアッシュバルーン、ガラスバルーン、シリカフラワー、スチレンビーズ等の軽量骨材、木片、パルプ等の天然繊維、ビニロン、ポリピロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド等の合成樹脂繊維、カーボン繊維などが添加されても良い。
【0035】
(炭類が含有されていない炭酸化硬化体層)
本発明における、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層は、上記炭酸化硬化体からなる。この炭類を含有していない炭酸化硬化体層の層数は特に限定されず、本発明の炭酸化硬化積層体では、積層体の積層方向外側の片面もしくは両面に、炭類が含有されいない炭酸化硬化体層が配置されておればよい。炭類が含有されていない炭酸化硬化体層を表層として用いることにより、外観性の低下を抑制することができる。
【0036】
すなわち、炭類含有層は、炭類を含有しているため黒色や灰色を呈するおそれがあるが、炭類が含有されいない炭酸化硬化体層は黒色や灰色を呈し難く、また白色顔料などの適宜の顔料を混入することにより、色調整が容易であり、外観性に優れている。
【0037】
炭類を含有しない炭酸化硬化体層において充填材を配合する場合には、白色顔料を配合した場合に色調整が可能な充填材を用いることが望ましい。黒色や灰色などの色調整が困難な充填材を配合した場合には、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層の外観性が低下し、好ましくない。
【0038】
なお、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層と、炭類含有層とが交互に積層され、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層が3以上の層数で積層されていてもよく、その場合においても、積層体の積層方向外側の片面もしくは両面が上記炭類が含有されていない炭酸化硬化体層で配置されておればよい。
【0039】
(炭類含有層)
本発明において用いられる炭類含有層は、上述した少なくとも1種の炭を含む適宜の層状物により構成される。このような炭類含有層としては、少なくとも1種の炭が混入されている炭酸化硬化体層であってもよく、あるいは少なくとも1種の炭がシート基材に添着
された炭類添着シートであってもよい。
【0040】
少なくとも1種の炭が混入されている炭酸化硬化体層により炭類含有層を構成する場合、上記珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とからなる混合物に、さらに上記少なくとも1種の炭を混合した材料を用い、賦形し、炭酸ガスによる硬化処理を行うことにより、炭類が混入されている炭酸化硬化体層を形成することができる。炭を含む炭酸化硬化体層における炭の含有割合は特に限定されないが、3〜20重量%が好ましい。3重量%より低いと、VOCの吸着性能が小さくなるおそれがある。20重量%を超えると、炭類含有層の強度が低下するおそれがある。
【0041】
また、上記炭類含有層が、少なくとも1種の炭がシート基材に添着された炭類添着シートである場合、シート基材としては、特に限定されないが、ウレタンフォーム、不織布もしくはパルプシートなどの炭粉末を添着し得る適宜のシート基材を用いることができる。このようなシート基材に、上述した少なくとも1種の炭が添着されている限り、炭類添着シートの構造及び製造方法は特に限定されない。炭類添着シートでは、ウレタンフォーム、不織布またはパルプシートなどに炭粉末を添着し、シート状とされているものであるため、軽量であり、可撓性を有するように構成され得る。従って、上記炭類添着シートを用いた炭酸化硬化積層体は、空気清浄機のフィルター、寝具用マットまたは建材の下地材などに好適に用いられる。
【0042】
上記炭類添着シートにおける炭の添着割合については、0.1〜300重量%の範囲であることが望ましい。0.1重量%未満では、VOC吸着性能が十分でないおそれがあり、300重量%を超えると、可撓性が低下するおそれがある。
【0043】
また、炭類添着シートの厚みについては特に限定されないが、可撓性等を考慮すると、1mm〜20mm程度の範囲が好ましい。もっとも、本発明に係る炭酸化硬化積層体において、炭類添着シートを用いる場合、炭類添着シートは2層以上用いられてもよく、従って、炭類添着シートの厚みは特に限定されるものではなく、用途及びVOC吸着性能などに応じて適宜定められればよい。
【0044】
本発明に係る炭酸化硬化積層体において、炭類含有層に含まれる炭の平均粒径は、1mm以上、5mm以下であることが好ましい。1mm未満の場合には、炭の種類によっては、炭が表面に浮き上がるおそれがあり、外観性が低下したりするおそれがある。例えばフローオン成形法で積層体を成形しようとした場合、炭は疎水性であり、水よりも比重が軽い。従って、平均粒径が1mm未満の炭を用いた場合には、炭が配合される層状に、炭が配合されていない層を積層しようとしても、炭の種類によっては表層に浮き上がることがある。また、他の製造方法においても、水と炭とを含む混合物を用いて賦形した場合、炭の平均粒径が1mm未満の場合には、同様に炭類含有層表面に炭が浮き上がるおそれがある。また、5mmを超えると、表面に露出し、外観不良の原因となることがある。
【0045】
上記炭の平均粒径とは、粒子の長辺の長さ、短辺の長さ及び高さから求められた多数の炭粉末の粒径の平均値を示し、これらの寸法はマイクロスコープなどにより直接測定することにより得られる。
【0046】
(製造方法)
本発明に係る炭酸化硬化体の製造方法では、上記少なくとも1種の炭を脱水成形用濾布布に層状に配置する工程と、その上に珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とを含む混合物を層状に展開し、水を脱水する工程と、脱水により得られた積層体を炭酸化させる工程とを備えることを特徴とする。
【0047】
また、上記炭類含有層が炭類添着シートにより構成されている場合には、上記炭類添着シートを、脱水成形用濾過布の上に設置し、その上に、上記珪酸カルシウム含有無機質粉体と水との混合物を積層し、所定量の水を脱水し、それによって積層体を得ればよい。そして、得られた積層体を炭酸化することにより、炭酸化硬化体を得ることができる。
【0048】
もっとも、本発明に係る炭酸化硬化体を製造するに際しては、本発明の製造方法以外の製造方法を用いてもよい。すなわち、一般の窯業系建材の製造に用いられる方法を広く用いることができる。このような製造方法としては、例えば、乾式プレス法、抄造法、脱水プレス法、フローオン法等が考えられる。例えば乾式プレス法を用いる場合は、活性炭、木炭、竹炭、やし殻炭の内少なくとも1種と、珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水
からなる混合物を型の上に展開し、表面を平滑にした後、その層の上に、該炭を含有しない珪酸カルシウムと水からなる混合物を展開し、表面を平滑にした後に加圧成形する。この時、充填性を良くするため、加圧と減圧を複数回繰り返しても良い。積層体が得られた後、加圧炭酸ガスにより硬化処理を行う。
【0049】
また脱水プレス法の場合は、活性炭、木炭、竹炭、やし殻炭の内少なくとも1種と、少
なくとも珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水からなる混合物を脱水成形用濾過布上に均一に積層し、所定量の水を脱水し、更に少なくとも珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と、水からなる混合物を積層し、所定量の水を脱水し、積層体を得る。得られた積層体を加圧炭酸ガスにより硬化処理を行う。
【0050】
抄造法、フローオン等の湿式法により賦形する場合は原料固形分全量に対する添加水量は200〜400重量%が好ましい。この範囲より少ないと混合物の分散性が悪く、不均一になったり、表面への型の柄の転写性が低下することがある。この範囲より多いと賦形時に余分な水を搾り出す時間が長くなることがある。
【0051】
また、上記混合物を抄造法、あるいはフローオン法により脱水した後の賦形体の含水率は10〜50重量%であることが好ましい。上記含水率が10重量%未満の場合は、炭酸化処理する際の炭酸化反応が不十分になることがあり、含水率が50重量%を超える場合は、ハンドリングに支障をきたしたり、炭酸化反応が不十分になったりして硬化体として必要な性能を満たさなくなることがある。
【0052】
上記抄造法としては、その方式について特に限定されず、丸網式や長網式などの公知の方法が好適に適用可能であり、例えば、抄造機のコンベア上にある透水性シート上に供給されたスラリー状の上記混合物が、余剰水分が搾水されながらロールよって所望の厚さで挟み込まれて脱水され一定の長さに切断されたものをプレス等で更に加圧脱水することによって含水率が10〜50重量%になるよう賦形される方法等が好適である。用いられる炭原料が粉末の場合は、分散性を考慮し乾式プレス法が好ましい。
【0053】
なお、上記炭酸化については、通常、気体状態もしくは超臨界状態の二酸化炭素を用いて炭酸化処理する方法が好適に用いられる。この場合、二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、100%に近い濃度にすることが、炭酸化効率を高める上で好ましい。
【0054】
炭酸化処理時の温度としては、特に限定されないが40〜120℃であることが好ましい。温度が低すぎると炭酸化反応に長時間を要すことがあり、また、温度が高すぎる場合には炭酸化処理時に水が蒸発しすぎて、炭酸化反応速度が低下することがあるだけでなく、硬化体に微孔が生じ機械的強度の低下を招くことがある。
【0055】
炭酸化処理時の二酸化炭素の圧力としては、特に限定されないが、0.5〜20MPaの範囲であることが好ましい。圧力が0.5MPaより低いと二酸化炭素の浸透性や炭酸
化反応率が低下し、炭酸化反応が不充分であったり、炭酸化反応に長時間を要することがある。圧力が20MPaを超える場合は、炭酸化反応速度はほとんど変化せず、大きなエネルギーが必要となるため工業生産性や設備の大型化という観点から好ましくない。
【0056】
また、炭酸化処理の時間としては、特に限定されないが、5〜120分であることが好ましい。処理時間が5分未満の場合、炭酸化が不充分になり硬化体の機械的強度が得られにくくなることがある。処理時間が120分を超える場合、炭酸化速度はほとんど変化しないが、生産性の観点から効率的でない。
【発明の効果】
【0057】
本発明に係る炭酸化硬化積層体では、積層体の積層方向外側の片面もしくは両面が炭類が含有されていない炭酸化硬化体層により構成されている。炭類が含有されていない炭酸化硬化体層は、炭類を含まないため、外観性に優れており、かつVOC透過性が高い。他方、該炭類含有層は優れたVOC吸着性能及び調湿性能を発揮し、一度吸着すると高温下でもVOCが脱着し難い。従って、炭を含む炭酸化硬化層が表層としない場合には、炭類の黒色・灰色といった外観状の問題を解決でき、高いVOC 吸着性能を有する調湿・吸
着表装材として適用することができる。よって、本発明の炭酸化硬化体は、住宅や建物などの内装材として好適に用いることができる。しかも、炭酸化硬化体を主成分としているため、炭類が含有されていない炭酸化硬化体層も、高い調湿性及び化学物質吸着性能を発現する。
【0058】
よって、本発明に係る炭酸化硬化積層体は、住宅を始めとする建物内部の建材や車両の内装材に好適に用いることができ、それによって内部空間におけるVOC濃度の低減、内部空間の調湿を果たすことが可能となる。
【0059】
本発明に係る炭酸化硬化積層体の製造方法では、上記活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭のうち少なくとも1種の炭を脱水成形用濾布布上に層状に配置し、次に上方に珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とを含む混合物を層状に展開し、水を脱水し、脱水により得られた積層体を炭酸化させる一連の簡便な工程で、本発明に係る炭酸化硬化積層体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
珪酸カルシウムとしてワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、非晶化アタパルジャイト(昭和鉱業社製)100重量部と、活性炭(クラレケミカル社製、品番:クラレコールGGやし殻活性炭粉末)8重量部とを含む組成物と、水9重量部とをヘンシェルミキサーで混合し、原料組成物を得た。得られた原料組成物80gを、80×150mmのプレス用金型に展開し、炭類含有層を形成した。
【0062】
次に、ワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、非晶化アタパルジャイト(昭和鉱業社製)100重量部と、水9重量部とをヘンシェルミキサーで混合し、混合物を得た。得られた混合物80gを、上記炭類含有層の上に展開し、面圧40MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、100℃、圧力0.9MPaの二酸化炭素環境下に1時間放置し、炭酸化硬化体を得た。
【0063】
(実施例2)
珪酸カルシウムとしてワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重
量部と、非晶化アタパルジャイト(昭和鉱業社製)100重量部と、ハルプ繊維(ALABAMA LIVER)9.5重量部と、活性炭(クラレケミカル社製、品番:クラレコールGGやし殻活性炭、破砕炭)14重量部と、水700重量部とを市販のミキサーで30秒間混合し、スラリーを得た。得られたスラリー200gを、脱水面にフェルト(市川毛織社製、通気度74cc)を敷いた80×150mmの脱水プレス用金型に流し込み、450mmHgの圧力で120秒間脱水し、炭類含有層を形成した。
【0064】
ワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、非晶化アタパルジャイト(昭和鉱業社製)100重量部と、パルプ繊維(ALABAMA LIVER)9.5重量部と、水700重量部とを市販のミキサーで30秒間混合し、スラリーを得た。得られたスラリー200gを、上述した炭類含有層の上に展開し、450mmHgにて120秒間脱水し、しかる後面圧5.9MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、温度100℃、圧力0.9MPaの二酸化炭素環境下に1時間放置し、炭酸化硬化体を得た。
【0065】
(実施例3)
シート基材(クラレケミカル社製、商品名:クラシート#5109H番1mm品)を脱水面にフェルト(市川毛織社製、通気度74cc)を敷いた80×150mmの脱水プレス用金型に敷き、ワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、非晶化アタパルジャイト(昭和鉱業社製)100重量部と、パルプ繊維(ALABAMA LIVER)9.5重量部と、水700重量部とを市販のミキサーで30秒間混合して得られたスラリー400gを流し込み、450mmHgにて120秒間脱水し、しかる後面圧5.9MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、温度70℃、圧力0.9MPaの二酸化炭素環境下に4時間放置し、炭酸化硬化体を得た。
【0066】
(比較例1)
珪酸カルシウムとしてワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、活性炭(クラレケミカル社製、クラレコールGGやし殻活性炭粉末)2重量部と、水5重量部とをミキサーで混合し、混合物を得た。得られた混合物160gを、80×150mmのプレス用金型に展開し、面圧40MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、100℃、0.9MPaの二酸化炭素環境下に1時間放置し、炭酸化硬化体を得た。
【0067】
(比較例2)
珪酸カルシウムとしてワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、パルプ繊維(ALABAMA,LIVER)4.7重量部と、活性炭(クラレケミカル社製、品番:GGやし殻活性炭、破砕炭)3.5重量部と、水350重量部とを市販のミキサーで30秒間混合し、スラリーを得た。得られたスラリー400gを、脱水面にフェルト(市川毛織社製、通気度74cc)を敷いた80×150mmの脱水プレス用金型に流し込み、450mmHgにて120秒間脱水し、しかる後面圧5.0MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、実施例2と同様にして炭酸化処理し、炭酸化硬化体を得た。
【0068】
(比較例3)
珪酸カルシウムとしてワラストナイト(清水工業社製、品番:H1250F)100重量部と、活性炭(クラレケミカル社製、品番:クラレコールGGやし殻活性炭、破砕炭)2重量部と、水4.7重量部とをミキサーで混合し、混合物を得た。得られた混合物160gを、80×150mmのプレス用金型に展開し、面圧40MPaで10秒間加圧し、賦形体を得た。得られた賦形体を、100℃の温度で、0.9MPaの圧力の二酸化炭素環境下に1時間放置し、炭酸化硬化体を得た。
【0069】
(実施例及び比較例の評価)
実施例及び比較例で得られた各炭酸化硬化体の炭類が含有されていない炭酸化硬化体層の表面の白色度を、JIS L 0805グレースケールに基づき評価した。結果を下記の表1に示す。
【0070】
また、各炭酸化硬化体を平面視した際の寸法が40×40mmとなるように切断し、正方形板状の試料を得、105℃及び24時間養生した。養生後に、正方形板の炭類を含有していない炭酸化硬化体層面である1つの面を残し、残りの5つの面をVOCを含有していないテープ(中興化成工業社製、ASF−110)でシールした。しかる後、試料を5リットルの容積のガス定量用袋に投入し、袋内を脱気し、溶着シールした。この袋中に、トルエン(和光純薬社製、特級相当品)を標準エアーを用いて50ppmに調整したトルエン標準ガスを4リットル注入した。各炭酸化硬化体試料が投入された袋内のトルエン濃度を一定時間ごとにガス検知管(ガステック社製、品番:122L)を用いて測定した。なお、測定に際し、測定時間及び温度は、ガス注入直後、10分後、20分後、30分後、60分後、120分後及び240分後までは24℃の温度に維持し測定を行い、ガス注入してから240分後から1時間後、2時間後及び1日後に40℃で測定を行った。実施例1〜3についての測定結果を図1〜図3に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、実施例1〜3では、グレースケールは5であり、すなわち表面の白色度に優れているのに対し、比較例1〜3では、黒色部が存在したり、グレースケールが1〜2に留まり、白色度が十分でなかった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1で得られた炭酸化硬化体を用いたトルエン吸着性能評価試験結果を示し、経時によるトルエン検出濃度の変化を示す図。
【図2】実施例2で得られた炭酸化硬化体を用いたトルエン吸着性能評価試験結果を示し、経時によるトルエン検出濃度の変化を示す図。
【図3】実施例3で得られた炭酸化硬化体を用いたトルエン吸着性能評価試験結果を示し、経時によるトルエン検出濃度の変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭からなる群から選択された少なくとも1種の炭を含む炭類含有層と、前記炭類が含有されていない炭酸化硬化体層とが積層されている構造を有する積層体であって、前記積層体の積層方向外側の片面もしくは両面が前記炭酸化硬化体層で形成されていることを特徴とする炭酸化硬化積層体。
【請求項2】
前記炭類含有層が、少なくとも1種の前記炭が混入されている炭酸化硬化体層である、請求項1に記載の炭酸化硬化積層体。
【請求項3】
前記炭類含有層が、少なくとも1種の前記炭がシート基材に添着された炭類添着シートである請求項1に記載の炭酸化硬化積層体。
【請求項4】
前記少なくとも1種の炭の平均粒子径が1mm以上、5mm以下の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸化硬化積層体。
【請求項5】
前記炭酸化硬化体層が、アタパルジャイト及び/またはセピオライトを150〜800℃の温度で焼成して得られる含水マグネシウム珪酸塩鉱物を含有する炭酸化硬化体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸化硬化積層体。
【請求項6】
前記炭酸化硬化体層が、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム及び非晶質シリカをさらに含む請求項5に記載の炭酸化硬化積層体。
【請求項7】
活性炭、木炭、竹炭及びやし殻炭のうち少なくとも1種の炭を脱水成形用濾過布上に層状に配置する工程と、
次に、前記炭を前記脱水成形用濾過布上に層状に配置している部分の上に、珪酸カルシウムを含有する無機質粉体と水とを含む混合物を層状に展開し、水を脱水する工程と、
脱水により得られた積層体を炭酸化させる工程とを備えることを特徴とする炭酸化硬化積層体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−212896(P2006−212896A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27075(P2005−27075)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】