説明

炭酸化養生設備および表層緻密化セメント硬化体の製造方法

【課題】炭酸ガス濃度を20%を超える任意の濃度、好ましくは30%を超える任意の濃度に維持することができる炭酸化養生設備を提供する。
【解決手段】セメント硬化体を収容して外部の大気環境から遮蔽する遮蔽空間を有し、その遮蔽空間には、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口があり、前記ガス流量調整機構とガス流入防止機構は、内部雰囲気の制御モードを少なくとも「ガス置換モード」と「定常モード」のいずれかに設定するように切り替え操作が可能である炭酸化養生設備。この設備は、特に低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下であるセメント混練物の硬化体を炭酸化養生に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスを使用してセメント硬化体の炭酸化養生を行うための炭酸化養生設備、およびその設備を用いて表層が緻密化されたセメント硬化体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタルに代表されるセメント硬化体は、大気中の二酸化炭素が表面から侵入して炭酸イオンとセメント成分が反応すると、その領域が中性化する。この中性化はセメント硬化体のひび割れを招く要因となる他、鉄筋コンクリートでは中性化の領域が深くなると鉄筋を腐食させる要因ともなる。このため、一般的には中性化は抑制すべきであるとされ、中性化を軽減するための措置も種々検討されている。
【0003】
一方、発明者らはγC2S(γ−2CaO・SiO2、γビーライトとも呼ばれる)を配合したセメント系材料について、炭酸ガスによる強制的な中性化(以下「炭酸化」という)を施した場合の表層部の構造変化に関する研究を行ってきた。その結果、γC2Sは水と反応しない一方で炭酸イオンと反応し、その反応生成物がわずかに膨張してセメントマトリクスの空隙を埋めることで緻密な構造が形成されることを見出した。この手法を用いると、コンクリートやモルタルの表面近傍に緻密で化学的に安定した層を設けることができ、セメントマトリクスからのカルシウムイオンの溶脱や、外部からの塩化物イオン等の侵入を抑制した長期耐久性に優れたセメント系材料が実現される(特許文献1〜3)。
【0004】
セメント硬化体を炭酸化することが可能な養生装置として、特許文献4には、硬化体が格納されて密閉される容器を備えたものが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−348465号公報
【特許文献2】特開2006−182583号公報
【特許文献3】特開2007−22878号公報
【特許文献4】特開2006−143531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来一般的に、炭酸化養生を行う養生室(中性化養生槽)では、炭酸ガス濃度を20%程度に維持することが、実用上の限界とされる。一方、特許文献4の養生装置では密閉状態で炭酸化養生を行うので、炭酸ガス濃度100%という高濃度ガス中での養生(いわゆる「袋養生」、図4参照)が可能である。ただし、炭酸ガス濃度100%の場合と、従来の養生室(中性化養生槽)を用いて炭酸ガス濃度20%とした場合とでは、4週間の養生後に得られたコンクリートの炭酸化深さや空隙間に大きな変化はなく(図4)、中性化の進行は同等となっている(段落0034)。炭酸ガス濃度を100%としても、20%の場合と中性化の進行が同等であるのは、特許文献4に開示の養生方法は密閉容器中での養生(袋養生)であることが一因と推察される。すなわち、従来の養生室では炭酸ガスの補充を行いながら所定の炭酸ガス濃度が維持されるが、袋養生では基本的に炭酸ガスの補充はない。特許文献4には養生期間中に密閉容器内の炭酸ガス濃度を一定に保つための手段は記載されていない。
【0007】
これまで、20%を超える炭酸ガス濃度領域でのセメント硬化体の炭酸化挙動については系統的な調査報告がなく、より耐久性のあるセメント硬化体を開発する上で検討の余地が残っていた。また、最近では環境問題への更なる配慮や、鉄筋コンクリートの耐久性向上のために、従来にも増してカルシウムの溶脱やイオンの侵入に対する抵抗力を改善したコンクリートの要求が強まっている。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑み、炭酸ガス濃度を20%を超える任意の濃度、好ましくは30%を超える任意の濃度に維持することができる実用的な炭酸化養生設備を提供すること、および、従来よりも耐久性を向上させた表層緻密化セメント硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、セメント硬化体を収容して外部の大気環境から遮蔽する遮蔽空間を有し、その遮蔽空間には、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口があり、前記ガス流量調整機構とガス流入防止機構は、内部雰囲気の制御モードを少なくとも下記X、Yのいずれかに設定するように切り替え操作が可能である炭酸化養生設備が提供される。
モードX; ガス導入口から炭酸ガスを遮蔽空間に導入するとともにガス排出口から遮蔽空間のガスを外部に排出することにより遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を上昇させるモード(ガス置換モード)
モードY; 炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)
前記ガス排出口は、さらに二酸化炭素トラップ機構を介して外部につながるようにすることもできる。
【0010】
この炭酸化養生設備を用いると、セメント硬化体の表層部を炭酸ガス濃度20超え〜90体積%好ましくは30超え〜90体積%の雰囲気下で炭酸化させることができる。その場合、γC2Sを含まない一般的な組成のセメント混練物の硬化体であっても、表層部のセメントマトリクスは大幅に緻密化することがわかった。また、低熱ポルトランドセメントをベースとしてγC2Sを含有する特定組成のセメント混練物の硬化体においては、特に炭酸ガス濃度50〜90%の雰囲気下で炭酸化させたとき、比較的短い養生期間で顕著な表層緻密化が実現できることが明らかになった。
【0011】
そのような表層緻密化セメント硬化体を製造する方法として、本発明では、セメント混練物の硬化体を、大気環境から遮蔽され炭酸ガス濃度が20超え〜90%の範囲に維持されている遮蔽空間に置くことにより、その硬化体の表層部を炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法が提供される。
【0012】
より具体的には、セメント混練物の硬化体を炭酸化養生するに際し、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口を有する遮蔽空間に、脱型されているセメント硬化体を置き、ガス導入口から炭酸ガスを遮蔽空間に導入するとともにガス排出口から遮蔽空間のガスを外部に排出することによって遮蔽空間内のセメント硬化体配置位置の炭酸ガス濃度を20超え〜90%の所定濃度まで上昇させるモード(ガス置換モード)を経た後、ガス導入口からの炭酸ガス導入量とガス排出口からのガス排出量を調整して、炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)を実施することによって、セメント硬化体の表層部を炭酸ガス濃度20超え〜90%の雰囲気下で炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法が提供される。上記の「定常状態」は、必ずしも炭酸ガス濃度が常時一定である必要はなく、ある範囲内(例えば目標濃度(%)±10(%))で変動しても良い。
【0013】
特に、混練物の配合を、低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下となるようにし、その硬化体に対して、上記炭酸ガス濃度範囲を50〜90%の範囲とすることによって、表層部の極めて顕著な緻密化が実現される。結合材には、低熱ポルトランドセメントを40質量%以上含有させることが好ましく、その他にフライアッシュやシリカフュームなどの混和材を結合材として含有させることができる。水結合材比は例えば30±5%の範囲に管理することができる。γC2Sについては、例えばブレーン比表面積が1500〜8000cm2/g程度のものを使用することができる。ダスティング直後のブレーン比表面積が1500〜2000cm2/gのものが特に好適である。本発明の表層緻密化セメント硬化体の製造方法は、前記の炭酸化養生設備を用いることによって好適に実施できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭酸化養生設備によれば、炭酸ガス濃度を20%を超える任意の濃度に設定して炭酸化養生を行うことができる。これにより、従来知られていなかった高炭酸ガス濃度領域でのセメント硬化体の炭酸化挙動を種々研究することが可能になり、新たな高耐久性セメント系材料の開発に資することができる。また、本発明の表層緻密化セメント硬化体の製造方法によれば、例えばJISに規定される一般的な配合を有しながら表層部を大幅に緻密化した高耐久性セメント系材料が得られる。γC2Sを配合したものでは、非常に緻密化された表層部を有するものが得られ、しかもその炭酸化領域は浅く形成されるので、これは鉄筋コンクリートの高耐久化に極めて有用である。炭酸化によるこのような顕著な効果は、炭酸ガス濃度を100%近くに高めなくても十分実現できるので、本発明の炭酸化養生設備は特段に密閉性の高い容器で構成する必要がなく、コスト面でも実用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に本発明の炭酸化養生設備の構成を模式的に例示する。
本発明の炭酸化養生設備は、遮蔽体2によって大気環境1から遮蔽された遮蔽空間3を有している。遮蔽体2は、大気環境1から遮蔽空間3への大気の侵入および遮蔽空間3から大気環境1への二酸化炭素の流出が防止できる材料で構成され、遮蔽空間3側は80℃程度までの耐熱性を有する素材であることが好ましい。また、保温性および保湿性に優れた構造を有することが望ましい。遮蔽空間3の中には被養生体であるセメント硬化体4が脱型された状態で収容される。セメント硬化体4は、炭酸化が必要な表面が遮蔽空間内のガス雰囲気に曝されるように配置される。
【0016】
遮蔽空間3の中には炭酸ガスを導入するためのガス導入口11が設けられている。ガス導入口11は、ガス流路21によって炭酸ガス供給源5につながっている。炭酸ガス供給源5は、大気圧より高い圧力で二酸化炭素含有ガスを供給することができる装置であり、例えば炭酸ガスボンベや二酸化炭素含有ガスが収容されたタンクが採用でき、必要に応じてガスを送り出すポンプ機構を内蔵させることができる。炭酸ガス供給源5とガス導入口11の間には、炭酸ガスの流量を調整するためのガス流量調整機構6が介在している。ガス流量調整機構6としては流量調整可能な弁を用いることが好ましいが、開/閉2段階の弁としてもよい。二酸化炭素は空気より重いことから、ガス導入口11の設置位置はセメント硬化体4の配置位置よりも高くすることが望ましい。
【0017】
また、遮蔽空間3の中には当該空間内のガスを外部に排出するためのガス排出口12が設けられている。ガス排出口12は、ガス流路22によって外部につながっているが、途中にガス流入防止機構7が介在している。ガス流入防止機構7は、ガス流路22を通って外部の大気が遮蔽空間3内に流入するのを防止するものであり、例えば逆止弁や開閉弁を使用することができる。開閉弁を使用する場合には、前述のガス導入口11からの炭酸ガスの導入を止めているときに当該開閉弁が「閉」になるように制御することでガス流入を防止することができる。後述のガス置換モードにおいて遮蔽空間3内の空気を迅速に効率良く炭酸ガスで置換するためには、ガス排出口22の設置位置はセメント硬化体4の配置位置よりも高くすることが望ましい。
【0018】
ガス排出口12から外部につながるガス流路22には、必要に応じて二酸化炭素トラップ機構8を介在させる。簡単な構造の二酸化炭素トラップ機構8としては、例えば、水酸化カルシウム水溶液中にガスを通す装置が採用できる。
【0019】
本発明の炭酸ガス養生設備には、遮蔽空間3内の二酸化炭素濃度を測定するための炭酸ガス濃度測定装置13を設けることが望ましい。セメント硬化体4の設置高さに相当する遮蔽空間3内の位置での炭酸ガス濃度がモニターできるようにセンサーまたは検出用ガス採取口の位置を設定することが望ましい。さらに、遮蔽空間3内のガスの温度を制御する温度調整機14を設けることが望ましく、また、湿度を制御する湿度調整機15を設けることが望ましい。図1に例示されるものは、遮蔽空間3内のガスを取り込んで、適正な温度および湿度に調整されたガスを遮蔽空間3に戻すタイプのものであり、温度調整機14と湿度調整機15が一体化された温度・湿度調整機である。
【0020】
上記のガス流量調整機構6とガス流入防止機構7は、互いに連携した動作によって、下記X、Yのモードを切り替えて実施できるようになっている。
モードX; ガス導入口11から炭酸ガスを遮蔽空間3に導入するとともにガス排出口12ら遮蔽空間3のガスを外部に排出することにより遮蔽空間3内の炭酸ガス濃度を上昇させるモード(ガス置換モード)
モードY; 炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間3内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)
【0021】
モードXの「ガス置換モード」は、基本的に炭酸ガス供給源5で発生する大気圧より大きいガス供給圧力によって、遮蔽空間3のガスをガス排出口12から追い出すモードである。つまり、遮蔽空間3内の圧力が大気圧と大差ない状態において内部のガスを入れ替えることになるので、この方法は、遮蔽空間3内の炭酸ガス濃度を概ね90%程度以下の範囲で調整する場合に適している。炭酸ガス濃度を100%にまで引き上げることは困難であるが、後述のように炭酸ガス濃度80%程度でも本発明の目的は十分に達成できる。
【0022】
ガス流量調整機構6に開閉弁を使用し、ガス流入防止機構7に逆止弁を使用した場合は、ガス流量調整機構6の開閉弁を「開」にすることによって炭酸ガスが導入されるとともに、遮蔽空間3の内部に存在していた空気は自ら逆止弁を押し開けることによって外部に排出され、遮蔽空間3の内部の空気は炭酸ガスに置換される。遮蔽空間3の炭酸ガス濃度が設定値を超えた時点でガス流量調整機構6の開閉弁を「閉」にすれば、逆止弁も「閉」になり、モードXの「ガス置換モード」からモードYの「定常モード」に移行することができる。あるいは、ガス流量調整機構6の弁の開度を絞ることにより、逆止弁を「開」に保ちながら少量の炭酸ガスを導入し続けるようにして「定常モード」に移行することもできる。上記逆止弁の代わりに開閉弁を使用した場合は、ガス流量調整機構6の開閉弁とガス流入防止機構7の開閉弁の動作を連動させる必要がある。その場合は、例えば両者とも電磁弁を使用し、ガス流量制御装置31によって両者を「開」に設定することで「ガス置換モード」とし、その後、両者を「閉」にしてガスの導入および排出を中止するか、あるいは両者の開度を絞ってガス流入防止機構7の開閉弁から外部のガスが流入しない状態でガスを流すようにすることで「定常モード」に切り替えることができる。
【0023】
モードYの「定常モード」は、遮蔽空間3の炭酸ガス濃度を概ね一定に保ちながら炭酸化養生を進行させる過程である。遮蔽空間3内の炭酸ガスは、セメント硬化体4の炭酸化反応に消費される他、不可避的に遮蔽空間3から外部にリークすることによっても減少する。このため、ガス流量調整機構6とガス流入防止機構7の開閉弁をいずれも「閉」にした状態で放置すると徐々に炭酸ガス濃度は低下する。したがって、「定常モード」を維持するためには途中で炭酸ガスの補給が必要である。補給の方法は、ガス流量調整機構6の開閉弁とガス流入防止機構7の開閉弁または逆止弁とを単純に開/閉を繰り返すように作動させる方法と、両者の弁の開度を絞って少量の炭酸ガスを連続的に導入する方法が挙げられる。いずれにしても、炭酸ガス濃度測定装置13によって遮蔽空間3内の炭酸ガス濃度をモニターしながら、一定範囲内の炭酸ガス濃度が維持されるようにガス流量調整機構6とガス流入防止機構7の動作を連動して制御することが望ましい。
【0024】
次に、本発明の炭酸化養生設備を使用した表層緻密化セメント硬化体の製造方法について説明する。まず、セメント混練物を打設した後、所定時間経過後に型枠を外し、硬化途上にある脱型されたセメント硬化体4(モルタルまたはコンクリート)を遮蔽体2で覆われた場所に配置する。プレキャスト製品の場合は、当該製品を工場などに設置した遮蔽体2の内部に移動して、炭酸化が必要な表面が雰囲気ガスに曝されるように配置した上で、遮蔽空間3を構築すればよい。現場で打設されたセメント硬化体4の場合も、遮蔽体2の設置方法を工夫すること(例えばシート状の遮蔽体2で構造物を覆うこと)によって遮蔽空間3を構築することが可能である。
【0025】
遮蔽空間3を構築した後、「ガス置換モード」を実施する。すなわち、ガス流量調整機構6の弁を「開」とし、ガス流入防止機構7に開閉弁が使用されている場合はこれも「開」とすることによって、ガス導入口11から遮蔽空間3に炭酸ガスを導入するとともに、炭酸ガス供給源5からの炭酸ガス導入圧力を利用して遮蔽空間3に存在していた空気をガス排出口12から外部に追い出していく。遮蔽空間3内の、特にセメント硬化体4の配置されている部位における炭酸ガス濃度が20超え〜90%好ましくは30超え〜90%の範囲内に設定した所定の濃度を上回るまで「ガス置換モード」を継続する。炭酸ガス濃度は炭酸ガス濃度測定装置13によってモニターすれば正確に把握される。なお、低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下であるセメント混練物の硬化体を対象とする場合は、特に炭酸ガス濃度を50%以上の範囲に設定することによって、非常に緻密な表層部を形成させることが可能になる。
【0026】
所定の炭酸ガス濃度になった後、「定常モード」に移行する。このモードを維持するためには炭酸ガスを補給することが必要である。補給の方法は前述のように、ガス流量調整機構6の開閉弁とガス流入防止機構7の開閉弁または逆止弁とを単純に開/閉を繰り返すように作動させる方法、あるいは、両者の弁の開度を絞って少量の炭酸ガスを連続的に導入する方法を採用すればよい。炭酸ガス濃度は多少変動しても構わないが、目的の緻密化表層を短期間で得るためには、それに必要な炭酸ガス濃度が確保されるように制御することが重要である。
【0027】
また、「定常モード」では雰囲気の温度および湿度を制御することが望ましい。養生温度が高いほどセメント水和反応の反応速度が増大し、またγC2Sを配合したものでは炭酸化温度が高いほど炭酸イオンとの反応の速度が大きくなるので、炭酸化養生を高温で行うと早期に高強度化および表層の高緻密化が実現できる。具体的には25℃以上の温度に制御することが望ましく、40℃以上に制御することがより効果的である。ただし、あまり高温での養生を実現するには困難を伴うことが多いので、通常70℃以下の範囲で行えばよい。湿度は40〜60%RHに制御することが望ましい。この範囲で炭酸化速度が最も大きくなる傾向がある。
【0028】
炭酸化養生期間は、通常、7〜28日の範囲とすればよい。すなわち、この期間内に「定常モード」を終え、炭酸化養生を終了させることができる。高濃度炭酸ガス下での養生によると、表層部が顕著に緻密化されるので、炭酸化の進行は比較的短期間で飽和する。
【実施例】
【0029】
表1に示す材料を用いて、表2に示す配合のモルタル混練物を作製した。γC2Sは石灰石、ケイ石の工業原料を用いて実キルンで1450℃、20分保持して焼成し、徐冷によってダスティングした直後のものをそのまま使用した。表2のモルタルAはJIS R5201−1997のモルタルであり、質量比でセメント1、標準砂3、水結合材比50質量%である。モルタルBは上記モルタルAにおいて、結合材の30質量%に相当する量のγC2Sを細骨材置換で添加したものである。モルタルCは低熱ポルトランドセメントをベースとした結合材を用い、結合材の30質量%に相当する量のγC2Sを細骨材置換で添加し、水結合材比30質量%としたものである。なお、γC2Sは配合上、不活性な粉体とみなし、結合材としては取り扱わない。
【0030】
これら3種類のモルタルとも、目標空気量は5%とした。モルタルフローについては、モルタルA、Bは目標値を定めず、モルタルCはモルタルフローで225±40mmとした。練混ぜ方法は、3種類のモルタルとも同様に行うことを基本として、10Lモルタルミキサーを使用して、結合材、γC2S、水の順番で投入し、3分間低速、細骨材を投入し2分間低速、その後2分間中速で合計7分間練混ぜて混練物を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
各混練物を型枠に打設した後、1日間湿空養生(温度20℃、湿度90%RH以上)を行い、その後、脱型し、モルタルからなるセメント硬化体(40×40×160mm)を得た。これを20℃で1日間水中養生した後、炭酸化養生を5日間行い、全養生期間を7日間とした。ここで、炭酸化深さは経過時間の平方根に比例するとされており、その精度も高いことが確認されていることから、早期に傾向を把握することを目的に炭酸化養生期間を比較的短い5日間とした。
【0034】
炭酸化養生は、図1に示した構成を有する炭酸化養生設備によって行った。具体的には、遮蔽体2として恒温恒湿槽を用い、炭酸ガス供給源として二酸化炭素ボンベ、ガス流量調整機構6およびガス流入防止機構7として開/閉2段切り替えタイプの電磁弁を用いた。遮蔽空間3に相当する恒温恒湿槽内のガスを採取して炭酸ガス濃度を常時測定するように炭酸ガス濃度測定装置13を設置するとともに、その炭酸ガス濃度測定値に基づいて、ガス流量調整機構6およびガス流入防止機構7の電磁弁を同時に「開」または「閉」に切り替えるように制御するガス流量制御装置31を設置した。この恒温恒湿槽の中にセメント硬化体を40×160mmの面が全て炭酸ガスに曝されるように配置して炭酸化養生を行った。まず「ガス置換モード」により恒温高湿槽内部の空気を炭酸ガスで置換し、迅速に所定濃度の炭酸化雰囲気とした。その後「定常モード」に移行し、5日間の炭酸化を行った。炭酸化養生条件は、温度40℃、湿度50%RHを基本とし、モルタルCについては温度を10〜70℃、湿度を30〜90%の範囲で変動させた試験も実施した。炭酸ガス濃度は0〜80%の範囲で変化させた。ここで炭酸ガス濃度0%というのは、炭酸化養生の代わりに40℃での水中養生を行ったものである。「定常モード」では、炭酸ガス濃度を所定濃度±2体積%の範囲に制御した。例えば、炭酸ガス濃度「50%」と表示されるものは、48〜52%の制御下で実施したことを意味する。炭酸化処理後のセメント硬化体について、以下の項目を測定する試験に供した。
【0035】
〔炭酸化深さ〕
40×40×160mmのセメント硬化体の破断面に対し、JIS A1152−2002に準拠した方法でフェノールフタレインによる鮮明な赤紫色の着色が生じない領域を炭酸化領域と判定して、表面からの炭酸化深さを測定した。図2に、破断面におけるフェノールフタレインによる着色の様子および炭酸化深さ測定方法を模式的に示す。断面における測定は、打設面、底面を除いた側面のみを対象とし、さらに、打設面、底面に近い10mmを除いた中心近傍20mmを5mmピッチでノギスを用いて0.1mm単位で測定し、その平均値を採用した。
【0036】
図3に、温度40℃、湿度50%RHでの炭酸ガス濃度と炭酸化深さの関係を示す。モルタルAおよびBでは、炭酸ガス濃度が20%を超える領域において、炭酸ガス濃度の累乗に比例して炭酸化深さが増加する結果となった。一方、低熱ポルトランドセメントをベースとして所定量のγC2Sを配合したモルタルCでは、炭酸ガス濃度が高くなると、一定の炭酸化養生期間で生じる炭酸化領域の深さは減少するという特異な挙動が見られた。
【0037】
湿度の影響については、炭酸ガス濃度5〜10%での既往の検討結果から、40〜60%RHが最も炭酸化速度が大きいとされているが、20%を超える炭酸ガス濃度でも同様の傾向が見られた。γC2Sを配合したモルタルB、Cでも同様であった。つまり、γC2Sを含有するモルタルであっても、空隙水による炭酸ガスの供給速度と炭酸ガスの溶解によって炭酸化反応が律速されるものと考えられる。
【0038】
〔空隙率〕
水銀圧入法によって、炭酸化領域の表面から2mmまでの表面近傍部分について空隙率を測定した。図4に、温度40℃、湿度50%RHにおける炭酸ガス濃度と空隙率の関係を示す。いずれのモルタルも炭酸ガス濃度が増大すると空隙率が低減し、セメントマトリクスが緻密化する現象が見られた。γC2Sを配合していない一般的な組成のモルタルAでも、炭酸ガス濃度が80%になると、γC2Sを配合したモルタルBに近い空隙率にまで緻密化されることが確認された。ところが、モルタルCについては、20%を超える高炭酸ガス濃度領域において、極めて顕著な緻密化現象が発現した。このモルタルCは低熱ポルトランドセメントをベースにγC2Sを配合したものであるが、特に炭酸ガス濃度50%以上の領域では、γC2Sを配合したモルタルBとの対比においても空隙率の著しい低減効果が見られることから、モルタルCの特異な緻密化挙動は単にγC2Sを配合したことによるものではなく、セメントの種類や、水結合材比との適切な組合せによってもたらされたものと考えられる。そのメカニズムについては現時点で未解明であるが、バテライトが多く生成されるなどの水和物の種類が影響しているものと推測される。
【0039】
本発明の炭酸化養生設備を用いた詳細な検討により、本発明者らは、モルタルCの例に見られるように、低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下であるセメント混練物は、特に炭酸ガス濃度50%以上での炭酸化養生によって顕著な緻密化が可能であることを見出した。しかも、このようなセメント混練物の硬化体は、前述の図3に示されるように炭酸化領域が薄く形成され、硬化体内部まで深く炭酸化が進行することがない。これは顕著に緻密化された表層が早期に形成されるためと考えられる。したがって、このようなセメント混練物の硬化体を高炭酸ガス濃度下で炭酸化させたコンクリートは、鉄筋の腐食に対して長期間優れた耐久性を維持しうるものであると考えられ、場合によってはかぶり厚低減によるコンクリート構造物の合理化も可能になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の炭酸化養生設備の構成の一例を模式的に示した図。
【図2】炭酸化深さの測定方法を模式的に示した図。
【図3】炭酸ガス濃度と炭酸化深さの関係を例示したグラフ。
【図4】炭酸ガス濃度とセメント硬化体表層部の空隙率の関係を例示したグラフ。
【符号の説明】
【0041】
1 大気環境
2 遮蔽体
3 遮蔽空間
4 セメント硬化体
5 炭酸ガス供給源
6 ガス流量調整機構
7 ガス流入防止機構
11 ガス導入口
12 ガス排出口
13 炭酸ガス濃度測定装置
14 温度調整機
15 湿度調整機
21、22 ガス流路
31 ガス流量制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体を収容して外部の大気環境から遮蔽する遮蔽空間を有し、その遮蔽空間には、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口があり、前記ガス流量調整機構とガス流入防止機構は、内部雰囲気の制御モードを少なくとも下記X、Yのいずれかに設定するように切り替え操作が可能である炭酸化養生設備。
モードX; ガス導入口から炭酸ガスを遮蔽空間に導入するとともにガス排出口から遮蔽空間のガスを外部に排出することにより遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を上昇させるモード(ガス置換モード)
モードY; 炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)
【請求項2】
前記ガス排出口は、さらに二酸化炭素トラップ機構を介して外部につながるものである請求項1に記載の炭酸化養生設備。
【請求項3】
セメント混練物の硬化体を、大気環境から遮蔽され炭酸ガス濃度が20超え〜90%の範囲に維持されている遮蔽空間に置くことにより、その硬化体の表層部を炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法。
【請求項4】
低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下であるセメント混練物の硬化体を、大気環境から遮蔽され炭酸ガス濃度が50〜90%の範囲に維持されている遮蔽空間に置くことにより、その硬化体の表層部を炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法。
【請求項5】
セメント混練物の硬化体を炭酸化養生するに際し、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口を有する遮蔽空間に、脱型されているセメント硬化体を置き、ガス導入口から炭酸ガスを遮蔽空間に導入するとともにガス排出口から遮蔽空間のガスを外部に排出することにより遮蔽空間内のセメント硬化体配置位置の炭酸ガス濃度を20超え〜90%の所定濃度まで上昇させるモード(ガス置換モード)を経た後、ガス導入口からの炭酸ガス導入量とガス排出口からのガス排出量を調整して、炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)を実施することによって、セメント硬化体の表層部を炭酸ガス濃度20超え〜90%の雰囲気下で炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法。
【請求項6】
低熱ポルトランドセメントとγC2Sを含有し、結合材100質量部に対しγC2S配合量が30±10質量部、水結合材比が35%以下であるセメント混練物の硬化体を炭酸化養生するに際し、ガス流量調整機構を介して炭酸ガス供給源につながるガス導入口と、ガス流入防止機構を介して外部につながるガス排出口を有する遮蔽空間に、脱型されているセメント硬化体を置き、ガス導入口から炭酸ガスを遮蔽空間に導入するとともにガス排出口から遮蔽空間のガスを外部に排出することにより遮蔽空間内のセメント硬化体配置位置の炭酸ガス濃度を50〜90%の所定濃度まで上昇させるモード(ガス置換モード)を経た後、ガス導入口からの炭酸ガス導入量とガス排出口からのガス排出量を調整して、炭酸ガスの平均導入流量を前記ガス置換モードよりも小さくした状態で遮蔽空間内の炭酸ガス濃度を定常状態に制御するモード(定常モード)を実施することによって、セメント硬化体の表層部を炭酸ガス濃度50〜90%の雰囲気下で炭酸化させる表層緻密化セメント硬化体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149456(P2009−149456A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326881(P2007−326881)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】