説明

点滴スタンド連結具

【課題】点滴スタンドを車椅子に連結することにより点滴スタンドと車椅子とを一体化させる点滴スタンド連結具を提供する。
【解決手段】車椅子Aの肘掛けa1を支持する肘掛け支持フレームa2に装着した筒状のホルダ10と、このホルダ10に引出可能に挿入したロッド20と、このロッド20の先端に装着して点滴スタンドBの支柱b1に環着させる筒状のジョイント30とを有し、ジョイント30は、蝶番で連結した半円筒体状の第1ケースと第2ケースとで1つの円筒を形成して支柱b1に環着させることとし、第1ケースと第2ケースには、蝶番が設けられている端縁と反対側の端縁に、径方向に突出させて互いに対向させた第1突出片と第2突出片とを設け、第1ケースと第2ケースとで1つの円筒を形成した際に、第1突出片と第2突出片とで挟み込む位置に弾性体を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴スタンドを車椅子に一体的に連結する点滴スタンド連結具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、点滴パックを吊り下げる点滴スタンドでは、下部に複数のキャスタを装着して移動可能となっており、入院患者が点滴を受けながらでも病院内を移動可能となっている。
【0003】
この点滴スタンドは、歩行可能な患者が使用するだけでなく、輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材を用いながら点滴を行う必要がある場合に、これらの機材を搬送する台車としても機能しており、所望の機材を装着した点滴スタンドごと患者のベッドまで移動させ、点滴が行えるようになっている。
【0004】
また、機材付きの点滴スタンドを利用して点滴を行っている患者が、検査などのために移動する必要がある場合には、患者を車椅子に乗せ、点滴スタンドとともに移動可能となっている。
【0005】
点滴スタンドとともに患者が車椅子で移動する場合には介助者が必要であって、介助者が車椅子を押す一方で、車椅子に座っている患者が点滴スタンドを支持して、移動することとなっている。
【0006】
この場合、点滴スタンドに装着しているキャスタが、点滴スタンドの支柱の下部からそれぞれ放射状に張り出させて設けたキャスタ支持脚の先端部分に装着されているため、このキャスタ支持脚が車椅子に当たることによって、点滴スタンドを車椅子の近くにまで引き寄せることが困難となっている。
【0007】
そこで、例えば、一方端にハンドルを設けるとともに、他方端に点滴スタンドの支柱への取り付けを可能としたクランプ部材を設けた所定長さの棒状の補助具を点滴スタンドに取り付けて、車椅子に座っている患者が補助具を介して点滴スタンドを車椅子から一定の距離を隔てた状態に保持可能とし、点滴スタンドが車椅子での移動の障害とならないようにすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
ただし、患者が怪我などにより手が使えなかったり、高齢者であったりした場合には、患者が点滴スタンドを支持する補助具を使用できないことがあり、そのような場合には、車椅子自体に点滴パックの吊り下げ部を設けた特別な車椅子を使用しなければならなかった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3161833号公報
【特許文献2】特開2010−253121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
点滴パックの吊り下げ部を設けた車椅子では、点滴に際して、輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材を必要とする場合には、これらの機材の付け替え作業が必要であって、この付け替え作業がかなりの作業負担となっているという問題があった。しかも、付け替え作業後の機材の動作確認も必要であって、これらの問題点のために、付け替え作業が実際に行われることはなく、患者の移動と点滴とのタイミングを調整することにより、点滴をしない状態で患者の移動を行うようにしており、患者の管理負担が増えることとなっていた。
【0011】
一方、患者が補助具を介して点滴スタンドを支持しながら車椅子で患者を移動させる場合には、車椅子を押す介助者と点滴スタンドを支持する患者との協力が必要であって、特にエレベータへの乗降の際には、エレベータと床面との間に生じる隙間に点滴スタンドのキャスタが嵌り込まないように患者が注意を払う必要があった。
【0012】
特に、点滴スタンドに輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材を装着した場合には、点滴スタンドが全部で20Kgを越える重量となることがあり、このような点滴スタンドのキャスタがエレベータと床面との間に生じる隙間に嵌り込まないように補助具を介して点滴スタンドを操作することは困難であり、しかもそれを車椅子で移動しながら行わねばならず、患者への負担が極めて大きいという問題があった。
【0013】
本発明者らは、このような現状に鑑み、点滴スタンドを車椅子に一体的に連結可能とすることにより、輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材の付け替え作業を不要とするとともに、患者が点滴スタンドを支持することなく、しかもエレベータと床面との間に生じる隙間への点滴スタンドのキャスタの嵌り込みを防止できるように研究開発を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の点滴スタンド連結具では、点滴スタンドを車椅子に連結することにより点滴スタンドと車椅子とを一体化させる点滴スタンド連結具において、車椅子の肘掛けを支持する肘掛け支持フレームに水平方向に延伸させて装着した筒状のホルダと、このホルダ内に車椅子の前方方向に向けて引出可能に挿入したロッドと、このロッドの先端に装着して点滴スタンドの支柱に環着させる筒状のジョイントとを有するものである。
【0015】
特に、ロッドは、中途部分で湾曲させ、この湾曲部分よりも先端側を鉛直下方向に向けて延伸させて接続部とし、ジョイントは、外周面を接続部に接続した半円筒体状の第1ケースと、この第1ケースと同形状とした半円筒体状の第2ケースと、第1ケースの軸方向と平行な一方の端縁と第2ケースの軸方向と平行な一方の端縁とを連結して第1ケースと第2ケースとで1つの円筒とする蝶番と、第1ケースと第2ケースとで形成した1つの円筒の状態を保持させる留め具とを備えるものである。
【0016】
そして、第1ケースと第2ケースには、蝶番が設けられている端縁と反対側の端縁に、それぞれ径方向に突出させて互いに対向させた第1突出片と第2突出片とを設けるとともに、第1突出片と第2突出片の少なくとも一方に弾性体を設けて、第1ケースと第2ケースとで1つの円筒を形成した際に、第1突出片と第2突出片とで弾性体を挟み込むものである。
【0017】
また、本発明の点滴スタンド連結具では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)ロッドの接続部に接続した第1ケースの中心軸を通る第1仮想線と、ホルダに挿入されたロッドの中心軸を通る第2仮想線とを直交させていること。
(2)第1ケース及び第2ケースの軸方向の長さ寸法を、点滴スタンドの支柱の直径寸法の3倍以上としていること。
(3)ロッドに設けた湾曲部分の曲率を、車椅子の肘掛け支持フレームの前方側に設けた湾曲部分の曲率と等しくしていること。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、車椅子の肘掛けを支持する肘掛け支持フレームに水平方向に延伸させて装着した筒状のホルダと、このホルダ内に車椅子の前方方向に向けて引出可能に挿入したロッドと、このロッドの先端に装着して点滴スタンドの支柱に環着させる筒状のジョイントとからなる点滴スタンド連結具で点滴スタンドと車椅子とを一体化させることにより、輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材が装着された点滴スタンドを、そのまま車椅子に連結して一体化させることができ、しかも、患者が点滴スタンドを支持する必要がなく、車椅子での患者の移動をスムーズに行うことができる。
【0019】
特に、ジョイントを構成している第1ケースと第2ケースには、蝶番が設けられている端縁と反対側の端縁に、それぞれ径方向に突出させて互いに対向させた第1突出片と第2突出片とを設けるとともに、第1突出片と第2突出片の少なくとも一方に弾性体を設けて、第1ケースと第2ケースとで1つの円筒を形成した際に、第1突出片と第2突出片とで弾性体を挟み込むことにより、点滴スタンドの支柱に環着させたジョイントに、弾性体の分だけ遊びを生じさせることができる。
【0020】
この遊びによってジョイントは点滴スタンドの支柱に緩く環着されており、ジョイントを介して連結されていても点滴スタンドはジョイントに対して上下に動くことができる。
【0021】
このように、ジョイントに対して点滴スタンドの上下動が許容されていることにより、点滴スタンドの支柱はジョイントによる規制を受けることとなって、点滴スタンドの支柱をまっすぐに直立させた状態に保持することができる。
【0022】
しかも、車椅子の移動にともなって点滴スタンド連結具を介して点滴スタンドを牽引する際に、点滴スタンドでは、ジョイントを介して点滴スタンドの支柱に対して直交する水平方向に牽引力を作用させることができ、点滴スタンドを安定的に牽引することができる。
【0023】
そして、エレベータと床面との間に生じる隙間部分を点滴スタンドが乗り越える際には、車椅子の前輪を浮かせる操作によって車椅子に連結された点滴スタンドの最前端に位置するキャスタを浮き上がらせた状態とすることができ、この状態で隙間部分を越えさせることにより、隙間部分へのキャスタの嵌り込みを防止して、スムーズに移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】点滴スタンド連結具の使用状態の説明図である。
【図2】点滴スタンド連結具の説明図である。
【図3】(a)点滴スタンド連結具のジョイントの背面図、(b)点滴スタンド連結具のジョイントの正面図、(c)点滴スタンド連結具のジョイントの平面図である。
【図4】(a)点滴スタンドの支柱への装着前における点滴スタンド連結具のジョイントの状態を示す平面図、(b)点滴スタンドの支柱への装着前における点滴スタンド連結具のジョイントの状態を示す正面図である。
【図5】点滴スタンド連結具のジョイントを点滴スタンドの支柱に環着する操作の説明図である。
【図6】点滴スタンド連結具の使用状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、本発明の点滴スタンド連結具Cは、車椅子Aの肘掛けa1を支持する肘掛け支持フレームa2に水平方向に延伸させて装着した筒状のホルダ10と、このホルダ10内に車椅子Aの前方方向に向けて引出可能に挿入したロッド20と、このロッド20の先端に装着して点滴スタンドBの支柱b1に環着させる筒状のジョイント30とを具備し、この点滴スタンド連結具Cによって点滴スタンドBと車椅子Aとを一体的に連結するものである。
【0026】
なお、点滴スタンドBの支柱b1の下端部には、支柱b1から放射状に張り出させた複数のキャスタ支持脚b2を設けており、このキャスタ支持脚b2の先端部分の下側にキャスタb3をそれぞれ装着している。
【0027】
ホルダ10は、肘掛け支持フレームa2に溶接することによって取り付けてもよいし、結束バンドなどを用いて固定的に装着してもよく、できるだけ強固に取り付けることが望ましい。
【0028】
ホルダ10は、ロッド20の基端側を水平方向に沿って延伸させた状態に保持できる長さ及び径寸法となっていればよく、本実施形態では、外観を考慮して、図2に示すように、肘掛け支持フレームa2の水平となっている部分の長さとほぼ同じ長さとしている。
【0029】
また、本実施形態では、十分な強度を得るために、ホルダ10は金属製としている。本実施形態の車椅子Aでは、肘掛け支持フレームa2に水平状態となっている部分が存在しているが、このような水平状態となっている部分が存在していない場合には、適宜の連結金具を用いながらホルダ10を水平方向に沿って延伸させた状態として車椅子Aに装着することが望ましい。
【0030】
さらに、本実施形態では、ホルダ10には、先端側の端部にホルダ10に挿入されたロッド20を締着して固定するための締着ネジ11を設けている。なお、ロッド20の固定手段は締着ネジ11に限定するものではなく、適宜の固定手段を用いてもよい。
【0031】
ロッド20は、十分な強度を有する所定の太さの金属棒であって、中途部分で湾曲させており、この湾曲部分よりも基端側をホルダ10に挿入して水平方向に沿って延伸させた状態とする一方、湾曲部分よりも先端側を鉛直下方向に向けて延伸させている。この湾曲部分よりも先端側を接続部21としている。
【0032】
ロッド20は、ホルダ10に対して出し入れ自在としており、点滴スタンドBを車椅子Aに連結しない場合には、ロッド20をホルダ10内に深く挿入して、ロッド20の湾曲部分よりも先端側だけを突出させた収納状態としてもよいし、場合によってはホルダ10からロッド20を引き抜いてもよい。
【0033】
また、ロッド20に設けた湾曲部分の曲率は、車椅子Aの肘掛け支持フレームa2の前方側に設けた湾曲部分の曲率と等しくしており、収納状態において、接続部21に接続したジョイント30の部分が邪魔となりにくくすることができるとともに、全体的な統一感が得られるようにすることができる。
【0034】
ジョイント30は、図3及び図4に示すように、ロッド20の先端の接続部21に外周面を接続した半円筒体状の第1ケース31と、この第1ケース31と同形状とした半円筒体状の第2ケース32と、第1ケース31の軸方向と平行な一方の端縁と第2ケース32の軸方向と平行な一方の端縁とを連結して第1ケース31と第2ケース32とで1つの円筒とする蝶番33と、第1ケース31と第2ケース32とで形成した1つの円筒の状態を保持させる留め具34とで構成している。
【0035】
本実施形態では、第1ケース31と第2ケース32は、内径寸法を点滴スタンドBの支柱b1の外径寸法と同じとした金属製のパイプを、このパイプの中心軸を含む平面に沿って2分割して形成しているが、適宜の金属板に対してプレス加工などを行って半円筒体状とし、第1ケース31及び第2ケース32としてもよい。
【0036】
また、本実施形態の第1ケース31及び第2ケース32では、蝶番33を取り付けやすくするために、第1ケース31及び第2ケース32の軸方向と平行な一方の端縁の外側面側を削り落として平坦面とした第1内側平坦面31aと第2内側平坦面32aとをそれぞれ設けている。
【0037】
そして、第1内側平坦面31aに蝶番33の一方端を接続するとともに、第2内側平坦面32aに蝶番33の他方端を接続することにより、蝶番33を介して第1ケース31と第2ケース32とを一体的に連結して、第1ケース31と第2ケース32の端縁がそれぞれ互いに突き合わされて1つの円筒を構成する閉状態と、非閉状態としての開状態のいずれかの状態となるようにしている。
【0038】
また、第1ケース31では、第1内側平坦面31aを設けた端縁の反対側の端縁の外側面側も削り落として第1外側平坦面31bとし、この第1外側平坦面31bには、径方向に突出させた平板状の第1突出片31cを設けている。同様に、第2ケース32では、第2内側平坦面32aを設けた端縁の反対側の端縁の外側面側も削り落として第2外側平坦面32bとし、この第2外側平坦面32bには、径方向に突出させた平板状の第2突出片32cを設けている。
【0039】
第1突出片31c及び第2突出片32cは、第1外側平坦面31b及び第2外側平坦面32bにそれぞれ設けたことにより、第1ケース31及び第2ケース32に取り付けやすくすることができる。なお、鍛造などのプレス加工で第1ケース31及び第2ケース32を形成する場合には、第1突出片31c及び第2突出片32cも同時に形成してもよい。
【0040】
第1突出片31cと第2突出片32cは、互いに対向させながら第1ケース31と第2ケース32からそれぞれ径方向に突出させており、本実施形態では、図4に示すように、第2突出片32cには、第1ケース31と第2ケース32とで1つの円筒を形成した際に第1突出片31cと第2突出片32cとで挟み込む位置に弾性体35を設けている。なお、弾性体35は、第1突出片31cに設けてもよい。
【0041】
弾性体35は、本実施形態では、所定の厚みを有するシート状のゴムとしている。なお、弾性体35はゴムに限定するものではなく、後述するように留め具34で第1ケース31と第2ケース32とで1つの円筒の状態を保持した際に、第1突出片31cと第2突出片32cとの間に斥力が生じるものであれば何であってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、図4(b)に示すように、第1突出片31cと第2突出片32cには、先端の中央部分にU字状の第1切欠溝31dと第2切欠溝32dをそれぞれ設けており、第1ケース31と第2ケース32とで1つの円筒を構成する閉状態とした際に、第1切欠溝31dと第2切欠溝32dとが向き合う位置に設けている。
【0043】
留め具34は、本実施形態では、図4(a)に示すように、基端を第1突出片31cに回動自在に取り付けるとともに、先端側に第2突出片32cと係り合う係合体34bを設けた棒状のレバー34aとしている。
【0044】
すなわち、第1突出片31cでは、第1切欠溝31dを設けることにより二股状となった第1突出片31cの先端間に、レバー34aの基端に設けた貫通孔(図示せず)に挿し通した枢軸34cを取り付けて、レバー34aを回動自在としている。特に本実施形態では、枢軸34cはネジで構成し、第1突出片31cの先端には、第1ケース31の軸方向と平行となる方向に、枢軸34cとなるネジが挿し込まれるネジ穴を設けて、枢軸34cを取り付け可能としている。
【0045】
また、本実施形態では、棒状となっているレバー34aには、外周面にネジ山を刻んでおり、係合体34bとなる第1ナットと、この係合体34bの移動を禁止するストッパ34dとしての第2ナットを装着して、係合体34bの位置を調整可能としている。
【0046】
さらに、レバー34aの最先端には球形状のハンドル34eを装着して、レバー34aを操作しやすくしている。なお、ハンドル34eの形状は球形状に限定するものではなく、適宜の形状としてよいが、球形状とすることにより、点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBと車椅子Aとを一体的に連結した状態で、患者が車椅子Aに乗り降りする際に、患者が着用しているパジャマあるいは浴衣がハンドル34eに引っかかることを防止でき、安全に乗り降りすることができる。
【0047】
このように構成した留め具34を備えたジョイント30を点滴スタンドBの支柱b1に環着させる場合には、まず、図5(a)に示すように、開状態としたジョイント30の第1ケース31の内側に点滴スタンドBの支柱b1を挿し入れる。
【0048】
次いで、蝶番33によって第2ケース32を回転させて、第1ケース31と第2ケース32の端縁をそれぞれ互いに突き合わせた閉状態とする。
【0049】
次いで、図5(b)に示すように、留め具34のレバー34aを第2ケース32側に回転させて、第2突出片32cの第2切欠溝32dに挿し入れ、図5(c)に示すように、留め具34の係合体34bと第2突出片32cとを係合させることとしている。
【0050】
このとき、レバー34aに設けた係合体34bは、レバー34aの回転中心である枢軸34cを中心とする円弧状の軌跡に沿って移動するため、図5(b)に示すように、第2ケース32の第2外側平坦面32bに径方向に突出させた平板状の第2突出片32cを越える際に、第2突出片32cに当たった係合体34bが、第2突出片32cを第1突出片31c側に強く押すこととなる。
【0051】
強く押された第2突出片32cによって、第1突出片31cと第2突出片32cに挟まれた弾性体35は大きく弾性変形する。このときの変形状態を、説明の便宜上、「第1変形体」と呼ぶこととする。
【0052】
そして、図5(c)に示すように係合体34bが第2突出片32cを完全に越えると、係合体34bによる第2突出片32cを第1突出片31c側に押す力が小さくなるので、弾性体35の変形量は小さくなるものの完全には元の形状とはならず、弾性変形した状態となっている。このときの変形状態を、説明の便宜上、「第2変形体」と呼ぶこととする。
【0053】
この第2変形体となっている弾性体35に生じている復元力によって、第2突出片32cとレバー34aの係合体34bの係合状態が維持されることとなっている。
【0054】
特に、第2突出片32cとレバー34aの係合体34bの係合状態を解除する場合には、弾性体35を第2変形体から第1変形体にまで弾性変形させる必要があり、勝手にレバー34aが回転することの抑止力となっている。
【0055】
したがって、点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBと車椅子Aとを一体的に連結した状態として使用している際に、意図せずに点滴スタンド連結具Cのジョイント30が点滴スタンドBの支柱b1から外れることがなく、安心して使用することができる。
【0056】
また、本発明の点滴スタンド連結具Cでは、ジョイント30の第1突出片31cと第2突出片32cで弾性体35を挟む構成としていることにより、弾性体35の厚み分だけ寸法上の遊びを生じさせることができ、ジョイント30を点滴スタンドBの支柱b1に環着させた際に、ジョイント30が支柱b1を強く締め付けることがなく、支柱b1に環着させたジョイント30に対して、点滴スタンドBが上下に動くことができることとなっている。
【0057】
このように、支柱b1に環着させたジョイント30に対して、点滴スタンドBが上下に動くことが許容されていることにより、点滴スタンドBはジョイント30の規制を受けることとなって、点滴スタンドBの支柱b1をまっすぐに直立させた状態に保持することができる。
【0058】
また、本実施形態では、図2に示すように、ロッド20の接続部21に接続した第1ケース31の中心軸を通る第1仮想線L1と、ホルダ10に挿入されたロッド20の中心軸を通る第2仮想線L2とは直交させている。
【0059】
したがって、車椅子Aの移動にともなって点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBを牽引する際に、点滴スタンドBでは、ジョイント30を介して点滴スタンドBの支柱b1に対して直交する水平方向に牽引力を作用させることができ、点滴スタンドBを安定的に牽引することができる。
【0060】
そして、エレベータと床面との間に生じる隙間Sなどの障害を点滴スタンドBが乗り越える際には、図6に示すように、介助者が車椅子Aの前輪a3を浮かせる操作を行うことにより、車椅子Aに連結された点滴スタンドBの最前端に位置するキャスタb3を浮き上がらせた状態とすることができる。
【0061】
点滴スタンドBの最前端に位置するキャスタb3を浮き上がらせた状態のまま車椅子Aを前進させ、最前端に位置するキャスタb3が隙間Sを越えたところで着地させれば、それ以後のキャスタb3は、最前端に位置するキャスタb3による支持によって隙間Sに嵌りにくくすることができ、安心してスムーズに前進移動することができる。
【0062】
なお、図6では、説明の便宜上、点滴スタンドBが全体的に持ち上げられているように描いているが、点滴スタンドBが軽量であった場合には可能であるが、点滴スタンドBに輸液ポンプやシリンジポンプなどの機材を装着して重くなっている場合には、点滴スタンドBが全体的に持ち上がることはなく、点滴スタンドBの支柱が後ろ側に少し倒れた状態となることにより点滴スタンドBの重心が後ろ側に移動し、最前端に位置するキャスタb3に点滴スタンドBの荷重がほとんどかからない状態となって、その状態で前進することにより、キャスタb3が隙間Sに嵌り込むことを防止できることとなっている。
【0063】
特に、ジョイント30の第1ケース31及び第2ケース32の軸方向の長さ寸法を、点滴スタンドBの支柱b1の直径寸法の3倍以上としておくことにより、車椅子Aの前輪a3を浮かせる操作を行った際の点滴スタンドBの最前端に位置するキャスタb3の浮き上がらせをより効果的に行うことができる。
【0064】
このように構成した点滴スタンド連結具Cには、以下のような利点を有する。
【0065】
車椅子に座っている患者が、点滴スタンドBを自ら支持する必要がなく、医療安全上の有効性を高めることができる。
【0066】
点滴スタンド連結具Cは、車椅子Aの肘掛けa1を支持する肘掛け支持フレームa2に後付け可能であり、汎用性を高めることができる。
【0067】
点滴スタンド連結具Cによって、車椅子Aと点滴スタンドBとを適切な剛性をともないながら一体的に連結することができ、走行中の段差の乗り越えに対して点滴スタンドBの姿勢を安定に保つことができ、点滴スタンドBの転倒のおそれを解消できる。
【0068】
特に、床面に点滴スタンドBのキャスタb3が嵌り込むような隙間や段差がある場合には、介助者が車椅子Aの後部に設けられたティッピングレバーを踏み込んで車椅子Aの前輪a3を浮かせる操作を行うことにより、点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBのキャスタb3を浮き上がらせることができ、隙間や段差を容易に乗り越えることができる。
【0069】
したがって、エレベータへの乗り降りの際に、エレベータのゴンドラと建物の床との間に生じている隙間や段差を通過する際に、点滴スタンドBの姿勢を安定に保持したまま通過でき、点滴スタンドBの転倒のおそれを解消できる。
【0070】
また、通常、エレベータに乗り降りする際には、姿勢の安定化のために車椅子Aを後進させながら乗り降りを行っていたが、点滴スタンドBの転倒のおそれを解消できたことにより、前進でも後進でも乗り降りを行うことができる。
【0071】
点滴スタンド連結具Cは、ホルダ10と、ロッド20と、ジョイント30とによってシンプルに構成しているため、点滴スタンド連結具Cが設けられている車椅子Aに乗り降りする患者の動きを妨げることがない。
【0072】
特に、ロッド20では、ジョイント30と接続する接続部21を鉛直下方向に向けて延伸させており、左右の幅方向への出っ張りを生じにくくして、点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBを車椅子Aに一体的に連結した際の幅方向の広がりを最小限として、車椅子Aの走行性及び操作性が低下することを抑制できる。
【0073】
点滴スタンドBの支柱b1へのジョイント30の環着は、ジョイント30に設けた留め具34でワンタッチ的に行うことができ、患者または介助者が点滴スタンドBを極めて容易に着脱できる。
【0074】
特に、点滴スタンドBの支柱b1にジョイント30を環着する際に、点滴スタンドBがどのような向きに向いていてもよく、点滴スタンドBの向きを気にすることなくジョイント30を環着することができる。
【0075】
さらに、ジョイント30の第1ケース31に設けた第1突出片31cと第2ケース32に設けた第2突出片32cとで挟む弾性体35を設けていることにより、点滴スタンドBの支柱b1の直径に多少のばらつきがあっても、確実にジョイント30を環着して点滴スタンドBを支持することができる。
【0076】
点滴スタンド連結具Cを介して点滴スタンドBを車椅子Aに一体的に連結しない場合には、ロッド20をホルダ10内に深く挿入して、ロッド20の湾曲部分よりも先端側だけを突出させた収納状態とすることができ、通常の車椅子Aと同様に取り扱うことができる。
【0077】
ホルダ10から引き出したロッド20は、任意の長さに引き出して締着ネジ11で固定することができ、ロッド20の固定位置の設定を不要とすることができ、患者に合わせて適宜の長さとすることができる。
【0078】
点滴スタンドBは、点滴スタンド連結具Cを介して車椅子Aの前方側に連結しているので、介助者が車椅子Aを押す際の邪魔になることがないだけでなく、介助者の視界を遮りにくくすることができ、操作性を損なうことを防止できる。
【符号の説明】
【0079】
A 車椅子
a1 肘掛け
a2 肘掛け支持フレーム
B 点滴スタンド
b1 支柱
b2 キャスタ支持脚
b3 キャスタ
C 点滴スタンド連結具
10 ホルダ
11 締着ネジ
20 ロッド
21 接続部
30 ジョイント
31 第1ケース
31a 第1内側平坦面
31b 第1外側平坦面
31c 第1突出片
31d 第1切欠溝
32 第2ケース
32a 第2内側平坦面
32b 第2外側平坦面
32c 第2突出片
32d 第2切欠溝
33 蝶番
34 留め具
34a レバー
34b 係合体
34c 枢軸
34d ストッパ
34e ハンドル
35 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点滴スタンドを車椅子に連結することにより前記点滴スタンドと前記車椅子とを一体化させる点滴スタンド連結具において、
前記車椅子の肘掛けを支持する肘掛け支持フレームに水平方向に延伸させて装着した筒状のホルダと、
このホルダ内に前記車椅子の前方方向に向けて引出可能に挿入したロッドと、
このロッドの先端に装着して前記点滴スタンドの支柱に環着させる筒状のジョイントと
を有し、
前記ロッドは、中途部分で湾曲させ、この湾曲部分よりも先端側を鉛直下方向に向けて延伸させて接続部とし、
前記ジョイントは、
外周面を前記接続部に接続した半円筒体状の第1ケースと、
この第1ケースと同形状とした半円筒体状の第2ケースと、
前記第1ケースの軸方向と平行な一方の端縁と前記第2ケースの軸方向と平行な一方の端縁とを連結して前記第1ケースと前記第2ケースとで1つの円筒とする蝶番と、
前記第1ケースと前記第2ケースとで形成した1つの円筒の状態を保持させる留め具と
を備え、
前記第1ケースと前記第2ケースには、前記蝶番が設けられている端縁と反対側の端縁に、それぞれ径方向に突出させて互いに対向させた第1突出片と第2突出片とを設けるとともに、前記第1突出片と前記第2突出片の少なくとも一方に弾性体を設けて、前記第1ケースと前記第2ケースとで1つの円筒を形成した際に、前記第1突出片と前記第2突出片とで前記弾性体を挟み込む点滴スタンド連結具。
【請求項2】
前記ロッドの接続部に接続した前記第1ケースの中心軸を通る第1仮想線と、前記ホルダに挿入された前記ロッドの中心軸を通る第2仮想線とを直交させている請求項1記載の点滴スタンド連結具。
【請求項3】
前記第1ケース及び前記第2ケースの軸方向の長さ寸法を、前記点滴スタンドの支柱の直径寸法の3倍以上としている請求項1または請求項2に記載の点滴スタンド連結具。
【請求項4】
前記ロッドに設けた湾曲部分の曲率を、前記車椅子の肘掛け支持フレームの前方側に設けた湾曲部分の曲率と等しくしている請求項1〜3のいずれか1項に記載の点滴スタンド連結具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−34630(P2013−34630A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172475(P2011−172475)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(511193156)メカニカルサポート株式会社 (1)
【Fターム(参考)】