説明

点眼剤

【課題】 アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(SSSR)若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド(FGLM)若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤の薬効を最大化し、副作用の発生を最小化し、点眼剤の保存安定性を改善すること。
【解決手段】 SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比を1/5〜1/50とし、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.001〜0.3%(w/v)とし、FGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.015〜1.5%(w/v)とし、さらに点眼剤のpH範囲を2.5〜6.5に保つことにより、上記課題を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(以下、「SSSR」とする)若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド(以下、「FGLM」とする)若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤であって、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類それぞれの配合濃度、および該点眼剤のpH範囲を特定することによって得られる、角膜障害の治癒促進効果および点眼剤中の有効成分の安定性が改善された点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SSSRは、インシュリン様成長因子−I(以下、「IGF−I」とする)の部分ペプチドであり、また、FGLMは、サブスタンスPのC末端側のテトラペプチドである(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1において、創傷治癒促進作用に関してSSSRがIGF−Iの最小活性発現単位であることが見い出され、また、SSSRなどのIGF−Iの部分ペプチドとFGLM又はサブスタンスPを併用すれば、角膜の障害治癒および皮膚の創傷治癒を促進する効果を有することが開示されている。
【0004】
そして、特許文献1は、IGF−Iの部分ペプチドであるSSSRなどの新規物質、およびSSSRなどのIGF−Iの部分ペプチドとFGLM又はサブスタンスPを併用した医薬用途に関する発明であるが、SSSRとFGLMを併用する点眼剤の配合処方については十分検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−231695号
【特許文献2】特開平10−17489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、SSSRとFGLMの二剤を併用する点眼剤の配合処方において、SSSRおよびFGLMの各化学的特性を詳細に検討した上で配合剤の配合濃度比、各薬物の配合濃度等を決定して配合剤の薬効を最大化すると共に副作用の発生を最小化すること、さらに、点眼剤の流通過程や点眼剤の使用態様のバリエーションを考慮して点眼剤の保存安定性を改善することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究を行なった結果、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤において、
1)SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比を1/5〜1/50とし、
2)SSSR若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.001〜0.3%(w/v)とし、
3)FGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.015〜1.5%(w/v)とし、
4)該点眼剤のpHを2.5〜6.5の範囲とすれば、
薬効である角膜障害の治癒促進効果を最大化できること、および点眼剤を長期間安定に保存できることなどを見い出し本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤において、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比を検討することによって配合剤の薬効を最大化し、また、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類それぞれの配合濃度を低減化することによって薬物による副作用の発生をなくし、さらに該点眼剤のpHによる影響を検討することによって点眼剤を長期間安定に保存することを可能にしたものである。
【0009】
本発明において、医薬として許容される塩類としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ギ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等が挙げられるが、SSSRについては酢酸塩がより好ましく、FGLMについては塩酸塩がより好ましい。
【0010】
本発明の点眼剤において、SSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比は、1/5〜1/50であり、より好ましい配合濃度比は、1/10〜1/350であり、さらに好ましい配合濃度は1/15〜1/20である。
【0011】
後述する薬理効果試験の結果より、本発明の点眼剤におけるSSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類を併用した配合剤の薬効は配合濃度比1/5〜1/50の範囲で最大化する。
【0012】
本発明の点眼剤におけるSSSR若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度は0.001〜0.3%(w/v)であり、より好ましくは0.005〜0.1%(w/v)である。
【0013】
また、本発明の点眼剤におけるFGLM若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度は0.015〜1.5%(w/v)であり、より好ましくは0.1〜1%(w/v)である。
【0014】
後述する安定性試験の結果より、本発明の点眼剤におけるSSSR酢酸塩およびFGLM塩酸塩の配合濃度がそれぞれ、0.001%(w/v)以上および0.015%(w/v)以上であれば配合剤として優れた薬効を発揮するが、一般に薬物濃度が高くなれば副作用が発生することがあるので、薬物濃度はなるべく低く設定することが好ましい。
【0015】
本発明の点眼剤のpHは2.5〜6.5の範囲であり、より好ましくは3.0〜6.0の範囲であり、さらに好ましくは3.5〜5.5の範囲である。後述する安定性試験の結果より、SSSR酢酸塩を含有する水溶液はpH6.5以下(2.5〜6.5の範囲)で安定であり、また、FGLM塩酸塩を含有する水溶液はpH2.5以上(2.5〜7.0の範囲)で安定であるので、本発明のSSSR若しくはその医薬として許容される塩類とFGLM若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤は、pHが2.5〜6.5の範囲で長期間安定に保存することができる。
【0016】
本発明の点眼液は汎用されている方法によって調製することができ、必要に応じて等張化剤、pH調節剤等を添加することができる。
【0017】
等張化剤としては、例えば濃グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリハロース、シュクロース、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を挙げることができ、より好ましくは塩化ナトリウム、濃グリセリンである。
【0018】
pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸ニ水素カリウム、氷酢酸、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、モノエタノールアミン、硫酸、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0019】
本発明の点眼剤は、角膜障害の治療剤として使用され、角膜障害としては例えば角膜潰瘍、角膜上皮欠損、角膜炎、ドライアイ等を挙げることができる。
【0020】
本発明の点眼剤の点眼回数は症状、年齢、剤型等によって適宜選択されるが、1回量1〜数滴を1日1〜数回(例えば、1〜6回)点眼すればよい。
【発明の効果】
【0021】
後述する試験の項で詳述するが、本発明の点眼剤は、SSSR酢酸塩とFGLM塩酸塩の配合濃度比を1/5〜1/50とすれば配合剤の薬効を最大化することができ、また、SSSR酢酸塩の配合濃度を0.001%(w/v)以上とし、FGLM塩酸塩の配合濃度を0.015%(w/v)以上とすれば優れた薬効を発揮することができ、さらに、本発明の点眼剤のpHを2.5〜6.5の範囲に保持すればSSSR酢酸塩およびFGLM塩酸塩を長期間安定に保存することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、各種の試験結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
1.薬理効果試験
以下に示す被験製剤を用いて薬理効果試験を実施した。
【0024】
1−1 薬物の調製
i)SSSR酢酸塩
C-末端アミノ酸原料としてH-Arg(NO2)-OBzlを使用し、Boc法によりBoc-Ser(OBzl)-OHを用いてペプチド鎖延長を行うことにより、保護テトラペプチド(Z-Ser(OBzl)-Ser(OBzl)-Ser(OBzl)-Arg(NO2)-OBzl)を合成した。この保護テトラペプチドに酢酸の存在下、パラジウムを用いて接触水素化による脱保護を行うことでSSSR酢酸塩を得た。
【0025】
ii)FGLM塩酸塩
アミノ酸誘導体Boc-Phe-OHとH-Gly-OBzl、及びBoc-Leu-OHとH-Met-NH2からそれぞれ縮合剤を用いたペプチド結合を形成することにより、保護ジペプチド(Boc-Phe-Gly-OBzl、及びBoc-Leu-Met-NH2)を合成した。これら保護ジペプチドをパラジウムを用いた接触水素化による脱ベンジル、及びBoc法でのペプチド合成により、保護テトラペプチド(Boc-Phe-Gly-Leu-Met-NH2)に誘導した。この保護テトラペプチドに塩化水素を用いた脱保護を行うことでFGLM塩酸塩を得た。
【0026】
1−2 被験製剤の調製
被験製剤1
SSSR酢酸塩およびFGLM塩酸塩をリン酸緩衝生理食塩液に溶解させ、0.01%(w/v)のSSSR酢酸塩および0.005%(w/v)のFGLM塩酸塩を含む被験製剤1(点眼液)を調製した。
【0027】
被験製剤2〜8
表1に示す各被験製剤の配合濃度、配合濃度比となるように、被験製剤1のSSSR酢酸塩の配合量およびFGLM塩酸塩の配合量を変化させる以外は被験製剤1と同様の操作を行なって被験製剤2〜8を調製した。
【0028】
1−3 試験方法及び結果
Naganoらの方法(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 44, 3810-3815 (2003))に準じて作製した神経麻痺性角膜症モデルラットを用い、角膜上皮剥離後の角膜上皮創傷治癒に対する影響を検討した。具体的には以下の方法で評価した。角膜上皮剥離後、各被験製剤を1.5時間間隔で1日6回(5μl/回)点眼した。創傷面積を測定する際に、フルオレセイン染色を行い角膜の写真を撮影し、フルオレセイン染色面積を、画像解析システムを用いて算出した。
【表1】

【0029】
○:明らかな角膜上皮創傷治癒促進効果あり
△:角膜上皮創傷治癒促進傾向あり
×:角膜上皮創傷治癒促進効果なし
1−4 考察
表1から明らかなように、被験製剤3〜6の配合剤は、SSSR酢酸塩とFGLM塩酸塩の併用による薬効が最大化されている。したがって、SSSR酢酸塩とFGLM塩酸塩の配合濃度比を1/5〜1/50とし、SSSR酢酸塩の配合濃度を0.001%(w/v)以上とし、FGLM塩酸塩の配合濃度を0.015%(w/v)以上とすれば、優れた薬効を発揮することが期待できる。
【0030】
2.点眼液の安定性試験
2−1 試料の作成及び試験方法0.003%(w/v)のSSSR酢酸塩および0.05%(w/v)のFGLM塩酸塩を含むpH2.5〜7.0の各試料100ml(点眼液)を調製し、40℃で保存した。2ヶ月保存後、3ヶ月保存後、6ヵ月保存後のSSSR濃度およびFGLM濃度をHPLC法で測定し、SSSRおよびFGLMの各残存率を求めた。
【0031】
2−2 試験結果
表2にSSSRの残存率を、また、表3にFGLMの残存率を示す。
【表2】

【表3】

【0032】

2−3 考察
表2より、SSSRについては40℃で6ヵ月間保存してもpH2.5〜6.5の範囲では50%以上が残存し、また、表3より、FGLMについてもpH2.5〜7.0の範囲で50%以上が残存することが明らかとなった。したがって、本発明のSSSR酢酸塩とFGLM塩酸塩を含有する点眼剤は、pHを2.5〜6.5の範囲に保持すればSSSR酢酸塩およびFGLM塩酸塩のいずれをも長期間安定に保存することができる。
【0033】
3.製剤例
表4および表5に示す通り、汎用される方法を用いて点眼剤1〜8を調製した(各100ml)。
【表4】


【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼剤であって、
1) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比が1/5〜1/50であり、
2) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度が0.001〜0.3%(w/v)であり、
3) アミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度が0.015〜1.5%(w/v)であり、
4) 該点眼剤のpHが2.5〜6.5の範囲である、
点眼剤。
【請求項2】
アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩を含有する点眼剤であって、
1)アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩の配合濃度比が1/10〜1/30であり 、
2)アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩の配合濃度が0.005〜0.1%(w/v)であり、
3)アミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩の配合濃度が0.1〜1%(w/v)であり、
4)該点眼剤のpHが3.0〜6.0の範囲である、
点眼剤。
【請求項3】
アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類を含有する点眼液において、
1) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度比を1/5〜1/50とし、
2) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.001〜0.3%(w/v)とし、
3) アミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチド若しくはその医薬として許容される塩類の配合濃度を0.015〜1.5%(w/v)とし、
4) 該点眼液のpHを2.5〜6.5の範囲とする、
角膜障害の治癒促進効果に優れた点眼剤の安定化方法。
【請求項4】
アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩を含有する点眼剤において、
1) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩とアミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩の配合濃度比を1/10〜1/30とし、
2) アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの酢酸塩の配合濃度を0.005〜0.1%(w/v)とし、
3) アミノ酸配列がPhe−Gly−Leu−Met−NH2で表されるペプチドの塩酸塩の配合濃度を0.1〜1%(w/v)とし、
4) 該点眼剤のpHを3.0〜6.0の範囲とする、
角膜障害の治癒促進効果に優れた点眼剤の安定化方法。

【公開番号】特開2011−140482(P2011−140482A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213058(P2010−213058)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】