説明

点眼剤

【課題】点眼容器口における液切れが良い高粘度点眼剤、及び高粘度点眼剤の点眼容器口における液切れ性能向上方法を提供する。
【解決手段】カルボキシビニルポリマー、及びモノテルペンを含み、粘度が200mPa・s以上700 mPa・s未満である点眼剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液切れのよい点眼剤、及び点眼剤の液切れ向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高粘度の眼科用組成物は、その組成物の眼球表面における滞留時間を長くして、薬効を持続させたり、目の乾燥を防ぐ効果があるため、有用なものである。このような高粘度眼科用組成物に配合される増粘剤としては、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等のビニル系高分子の他、カルボキシビニルポリマー等のアクリル酸ポリマーが知られている。中でもカルボキシビニルポリマーは、点眼剤成分として多用されているセルロース系高分子に比較して増粘効果が高く、少量配合でも数千〜数万mPa・sの粘度を達成できるので、有用な増粘剤である。
【0003】
一方、一般に、点眼剤等の眼科用組成物は、容器に対する押圧によって注出口(ノズル)から液滴が滴下できる様に構成された容器に収容され、使用される。その為、点眼剤をノズルから滴下する際の工夫が考えられている。
例えば、点眼剤の液切れを良くする方法として、特許文献1にはノズルの材質、形状を改良する方法が記載されているが、この方法はコスト高であるとともに、ノズル形状を特定することにより容器形状まで制限される場合がある。
また、点眼剤のノズルからの液切れが悪い場合の対処法として、含有成分の析出を防ぐために、点眼の都度ノズルを清潔なワイパー等で拭き取る方法が考えられるが、これは液切れ自体を良くするものではない上に、使用者に不便を強いることになる。また、特許文献2には液状組成物中に特定成分を配合することで含有成分の析出を抑制する方法が開示されているが、この方法は、液切れ自体を良くするものではない。
【0004】
一方、眼科用組成物にメントール、カンフル、ボルネオール等の清涼化剤を配合することは既に知られている。これら清涼化剤は清涼感を付与する以外に、含有成分により引き起こされる眼痛を軽減するという効果や(特許文献3)、コンタクトレンズの濡れ性を良くするという効果(特許文献4)などの効果を奏することが知られている。
また、眼科用組成物に、メントール、カンフル、ボルネオール等の清涼化剤とともに水溶性高分子を配合することも知られている。このような眼科用組成物は、コンタクトレンズの濡れ性を良くする(特許文献5、6)、コンタクトレンズへの成分吸着を抑制する(特許文献7、8)、清涼感を持続させる(特許文献9)、点眼時の刺激を緩和する(特許文献10)といった効果を奏することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−196417号公報
【特許文献2】特開2006−219484号公報
【特許文献3】特開2002−201126号公報
【特許文献4】特開平11−130667号公報
【特許文献5】特開2006−193521号公報
【特許文献6】WO97/28827号公報
【特許文献7】WO2005/025539号公報
【特許文献8】特開2002−322048号公報
【特許文献9】特開2002−97129号公報
【特許文献10】特開2005−8596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高粘度の眼科用組成物(特に点眼剤)では、容器から注出する際に注出口(点眼容器ではノズル)部分における液切れが悪く、液の滴下後に注出口付近(点眼容器ではノズル外側)に多くの液が付着残存する。また、点眼剤は常に一定の角度で点眼することが実際上困難であることから、使用者によって点眼時の容器の向きは様々である。特に容器が横向き(容器が眼表面に並行する方向、即ち、容器口の面方向が眼表面に対して垂直である方向)に近づくと、ノズルに付着残存する量が多くなる傾向がある。このように、滴下後にノズルの外部表面に点眼剤が残存する場合には、残存液を介して異物の付着等の汚染を招くおそれがあり、その結果、次回使用時に汚染されたノズルを介して眼科用液体組成物が滴下される可能性も考えられることから、好ましくない。更には残存した眼科用液体組成物の成分がノズルの外部表面に析出したり、ノズルから容器表面に眼科用液体組成物が液垂れすることによって、使用者に対して商品イメージや信頼性をも損ねさせるという懸念もある。更に、ノズルからの液切れが悪い場合には、滴下時に容器外の環境に晒された眼科用液体組成物の一部や析出物が容器内に逆流し、これによって容器内の眼科用液体組成物への異物混入のリスクが高くなる。また、特に点眼剤の場合、過度に液切れが悪い場合は、点眼する一滴量に差が出てしまい、薬物の適用量がばらつくといった問題点もある。
そこで、本発明は、点眼容器口における液切れが良い高粘度点眼剤、及び高粘度点眼剤の点眼容器口における液切れ性能向上方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) カルボキシビニルポリマーにモノテルペンを配合して粘度200〜100000mPa・sの点眼剤とすることにより、高粘度であるにもかかわらず、点眼時の点眼容器口付近への付着液量が著しく低減し、即ち液切れが向上した点眼剤となる。
(ii) 一般に、カルボキシビニルポリマーを含む高粘度の点眼剤は、光照射により粘度が低下するが、カルボキシビニルポリマーにモノテルペンを配合して粘度200〜100000mPa・sの点眼剤とすることにより、光照射による粘度低下が抑制される。
(iii) 高粘度の点眼剤は点眼後に視界のぼやけが発生するが、カルボキシビニルポリマーにモノテルペンを配合して粘度200〜100000mPa・sの点眼剤とすることにより、この視界のぼやけの持続時間が短かくなる。
本発明は、この知見に基づき完成されたものであり、以下の点眼剤、及び点眼剤の液切れ向上方法、光照射による粘度低下の抑制方法、及び点眼後の視界のぼやけからの回復性能の向上方法を提供する。
項1. カルボキシビニルポリマー、及びモノテルペンを含み、粘度が200〜100000mPa・sである点眼剤。
項2. モノテルペンが、メントール、カンフル、及びボルネオールからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の点眼剤。
項3. カルボキシビニルポリマーの含有量が、点眼剤の全体に対して、0.001〜10 w/v%である項1又は2に記載の点眼剤。
項4. モノテルペンの含有量が、点眼剤の全体に対して、0.0001〜1 w/v%である項1〜3のいずれかに記載の点眼剤。
項5. 点眼容器に充填されている項1〜4のいずれかに記載の点眼剤。
項6. 点眼容器が透明容器である項5に記載の点眼剤。
項7.カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の点眼容器口における液切れ性能の向上方法。
項8. カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の光照射による粘度低下の抑制方法。
項9. カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の点眼後の視界のぼやけからの回復性能の向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の点眼剤は、高粘度であるにもかかわらず、点眼時に点眼容器口付近に付着残存する液量が少なく、即ち、液切れがよい。このため、容器口付近に点眼剤成分が析出して容器を汚すことや、容器口付近で汚染された液や析出した成分が眼に入る事によって引き起こされる眼障害などの不都合が回避される。また、液切れが良いため、滴下される液量のバラツキが抑制され、一定の液量を安定して点眼できるものとなる。
更に、点眼剤は、品質管理し易い透明性の高い容器に充填されることが多い。一般に、高分子増粘剤を配合した高粘度点眼剤は、長時間光に暴露されると粘度が低下して、薬効の持続や眼の乾燥防止といった高粘度点眼剤の効果が損なわれてしまう。そして、高分子増粘剤のなかでもカルボキシビニルポリマーを用いた場合には、この粘度低下の傾向が強い。本発明の点眼剤は、このように粘度低下を引き起こし易いカルボキシビニルポリマーを配合した高粘度点眼剤でありながら、光照射による粘度低下が抑制されているため、保存後も薬効の持続や眼の乾燥防止といった高粘度点眼剤の効果が保たれる。
また、一般に点眼剤の粘度が高い場合、点眼後に「霧視」と呼ばれることもある視界のぼやけを引き起こし易く、この視界がぼやけた状態が長時間持続すると不快感をもたらす。本発明の点眼剤は、カルボキシビニルポリマーを含み粘性を有するにもかかわらず、点眼後に生じる視界のぼやけからの回復が早く、使用感に優れたものである。
これらのことから、本発明の点眼剤は、高い安全性と実用性を兼ね備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例において粘度測定に用いた単一円筒形回転粘度計の概略構成を示す図である。
【図2】円すい−平板形回転粘度計の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の点眼剤は、カルボキシビニルポリマー、及びモノテルペンを含み、粘度が200
〜100000mPa・sである点眼剤である。
カルボキシビニルポリマー
カルボキシビニルポリマー(Carboxyvinyl polymer:本明細書中、「CVP」と略記することもある。)は、アクリル酸を主成分として重合して得られる親水性ポリマーであり、ポリアクリル酸、又はポリアクリル酸塩の何れであってもよい。
各成分の混合時にポリアクリル酸を使用する場合でも、pHを調整すると、結果として得られる組成物中では、その一部又は全部がポリアクリル酸塩になっている場合がある。好ましくは、カルボキシビニルポリマーとその他の成分とを混合する時に低粘度のポリアクリル酸を使用し、pH調整により、場合によりその一部又は全部をポリアクリル酸塩として点眼剤の組成物の粘度を上げればよい。また、混合時からポリアクリル酸塩を使用するのも好ましい。
ポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;ポリアクリル酸のモノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩のようなアミン塩;ポリアクリル酸のアンモニウム塩などを使用できる。中でも、アルカリ金属塩が好ましい。
また、ポリアクリル酸またはその塩は架橋型、又は非架橋型のいずれであってもよいが、増粘効果が高く本願発明の効果をより一層発揮し易い点で架橋型ポリマーが好ましい。
カルボキシビニルポリマーは市販品を利用できる。市販品としては、カーボポール(商品名)(Noveon社、ルーブリゾール社)、シンタレン(商品名)、ハイビスワコー(商品名)(共に和光純薬社)、アクペック(商品名)(住友精化)、ジュンロン(商品名)(日本純薬)等を使用することができる。
カルボキシビニルポリマーは1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
カルボキシビニルポリマーの含有比率は、点眼剤の粘度を所望の範囲とする為に必要な含有比率であれば特に限定されないが、点眼剤全体に対して、カルボキシビニルポリマーの総量として0.001〜10w/v%程度が好ましく、0.05〜5 w/v%程度がより好ましく、0.1〜1 w/v%程度がさらにより好ましい。上記含有比率の範囲であれば、所望の増粘効果が得られる。また、上記含有比率の範囲であれば、良好な粘度低下抑制効果、良好な液切れ向上効果や滴下量のばらつき抑制効果、及び良好な使用感が得られる。
【0011】
モノテルペン
モノテルペンとしては、ゲラニオール、ネロール、ミルセノール、リナロール、酢酸リナロール、ラバンジュロールのような非環式モノテルペン;メントール、リモネン、アネトール、オイゲノールのような単環式モノテルペン;カンフル、ボルネオール、イソボルネオール、シネオール、ピネンのような二環式モノテルペン;などが挙げられる。中でも、単環式モノテルペン及び二環式モノテルペンが好ましく、メントール、カンフル、ボルネオールがより好ましい。モノテルペンは、d体、l体又はdl体の何れでもよい。モノテルペンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
モノテルペンとしては、それを含む精油を用いてもよい。このような精油としては、ハッカ油、ユーカリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、スペアミント油、ローズ油などが挙げられる。これらの精油は、植物から、公知の方法で採取することができる。このような公知の精油採油方法として、水蒸気蒸留法、脱臭した動物油脂に植物を添加して精油を吸着させた後、エタノールで精油を抽出する油脂吸着法、植物をヘキサンやベンゼンのような有機溶媒又は超臨界流体で抽出し、抽出溶媒をエタノールに溶解させた後、エタノールを蒸発させて残渣を採取する溶剤抽出法、圧搾法などが挙げられる。モノテルペンは、精油から、各種クロマトグラフィーにより回収することもできる。
モノテルペンの含有比率は、点眼剤全体に対して、0.0001〜1w/v%程度が好ましく、0.001〜0.05 w/v%程度がより好ましく、0.002〜0.05 w/v%程度がさらに好ましく、0.003〜0.02 w/v%程度がさらにより好ましい。上記含有比率の範囲であれば、モノテルペンの作用が効果的に得られると共に、刺激が強すぎない使用感のよい点眼剤となる。
好ましいモノテルペンについて以下に詳しく説明する。
<メントール>
メントールは、通常、l−メントール、又はdl−メントールを用いることができる。メントールは、例えば、高砂香料工業社製などの市販品を使用できる。
メントールの含有比率は、点眼剤全体に対して、0.0001〜1w/v%程度が好ましく、0.001〜0.05 w/v%程度がより好ましく、0.002〜0.05 w/v%程度がさらに好ましく、0.003〜0.02 w/v%程度がさらにより好ましい。上記含有比率の範囲であれば、モノテルペンの作用が効果的に得られると共に、刺激が強すぎない使用感のよい点眼剤となる。
<カンフル>
カンフルは、通常、d-カンフル、又はdl-カンフルを用いることができる。カンフルは、例えば、高砂香料工業社製などの市販品を使用できる。
カンフルの含有比率は、点眼剤全体に対して、0.0001〜1w/v%程度が好ましく、0.001〜0.05 w/v%程度がより好ましく、0.002〜0.05 w/v%程度がさらに好ましく、0.003〜0.02 w/v%程度がさらにより好ましい。上記含有比率の範囲であれば、モノテルペンの作用が効果的に得られると共に、刺激が強すぎない使用感のよい点眼剤となる。
<ボルネオール>
ボルネオールは、通常、d-ボルネオール、又はdl-ボルネオールを用いることができる。ボルネオールは、例えば、高砂香料工業社製などの市販品を使用できる。
ボルネオールの含有比率は、点眼剤全体に対して、0.0001〜1w/v%程度が好ましく、0.001〜0.05 w/v%程度がより好ましく、0.002〜0.05 w/v%程度がさらに好ましく、0.003〜0.02 w/v%程度がさらにより好ましい。上記含有比率の範囲であれば、モノテルペンの作用が効果的に得られると共に、刺激が強すぎない使用感のよい点眼剤となる。
ホウ酸緩衝剤
本願発明の点眼剤は、さらにホウ酸緩衝剤を含有することができる。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、並びにホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂のようなホウ酸塩などが挙げられる。中でも、ホウ酸又はホウ砂が好ましく、ホウ酸及びホウ砂を組み合わせて用いることがより好ましい。
ホウ酸緩衝剤の含有比率は、点眼剤全体に対して、0.05〜3w/v%程度が好ましく、0.2〜2.5w/v%程度がより好ましく、0.7〜2w/v%程度がさらにより好ましい。
【0012】
任意成分
本発明の点眼剤には、上記の成分に加えて、眼科用組成物において汎用される有効成分(薬理活性成分や生理活性成分等)を配合することができる。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分又は収斂薬成分、抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分又は殺菌薬成分、糖類、高分子化合物又はその誘導体、セルロース又はその誘導体、局所麻酔薬成分、緑内障治療成分、白内障治療成分等が例示できる。本発明において好適な薬理活性成分及び生理活性成分としては、例えば、次のような成分が挙げられる。
【0013】
充血除去成分:例えば、α−アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリン、硝酸ナファゾリンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0014】
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピンなど。
【0015】
抗炎症薬成分又は収斂薬成分:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、イプシロン−アミノカプロン酸、インドメタシン、塩化リゾチーム、硝酸銀、プラノプロフェン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロムフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリンなど。
【0016】
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分:例えば、アシタザノラスト、ジフェンヒドラミン又はその塩酸塩などの塩、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、レボカバスチン又はその塩酸塩などの塩、アンレキサノクス、イブジラスト、タザノラスト、トラニラスト、オキサトミド、スプラタスト又はそのトシル酸塩などの塩、クロモグリク酸ナトリウム、ペミロラストカリウムなど。
【0017】
ビタミン類:例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールカルシウム、ユビキノン誘導体など。
【0018】
アミノ酸類:例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸、クレアチニン、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム、イプシロン−アミノカプロン酸、グリシン、アラニン、アルギニン、リジン、γ−アミノ酪酸、γ−アミノ吉草酸、コンドロイチン硫酸ナトリウムなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0019】
抗菌薬成分又は殺菌薬成分:例えば、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロラムフェニコール、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾールジエタノールアミン、スルフイソキサゾールモノエタノールアミン、スルフイソメゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、アシクロビルなど。
【0020】
糖類:例えば単糖類、二糖類、具体的にはグルコース、マルトース、トレハロース、スクロース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。
【0021】
高分子化合物又はその誘導体:例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、デキストラン、ペクチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール(完全、または部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴールおよびその薬学上許容される塩類など。
【0022】
セルロース又はその誘導体:例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシエチルセルロース、ニトロセルロースなど。
【0023】
局所麻酔薬成分:例えば、クロロブタノール、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなど。
【0024】
点眼剤の分野において各種成分の配合割合は既知であり、本発明の点眼剤における上記成分の配合割合は、薬理活性成分又は生理活性成分の種類等に応じて適宜設定される。例えば、薬理活性成分又は生理活性成分の配合割合は、点眼剤の総量に対して0.0001〜30重量%程度、好ましくは0.001〜10重量%程度の範囲から選択できる。
【0025】
また、本発明の点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な成分や添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して含有させることができる。それらの成分または添加物として、例えば、液剤の調製に一般的に使用される担体(水性溶媒、水性又は油性基剤など)、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、キレート剤、緩衝剤、安定化剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0026】
以下に本発明の点眼剤に使用される代表的な成分を例示するが、これらに限定されない。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性溶媒。
【0027】
界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)−ポリオキシプロピレン(以下、POPと略す)ブロックコポリマー (具体的には、ポロクサマー407など)、エチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物(具体的には、ポロキサミンなど)、POEソルビタン(具体的には、ポリソルベート80など)、POE硬化ヒマシ油(具体的には、POE(60)硬化ヒマシ油など)、ステアリン酸ポリオキシルなどの非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)などの陽イオン界面活性剤など。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0028】
香料又は清涼化剤:例えば、精油(ウイキョウ油、ケイヒ油など)など。
【0029】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩化ポリドロニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド又はその塩酸塩など)、グローキル(ローディア社製 商品名)など。
【0030】
pH調節剤:例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ジエタノールアミンなど。
【0031】
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコールなど。
【0032】
キレート剤:例えば、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸など。
【0033】
緩衝剤:クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス−塩酸緩衝剤など。具体的には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂 、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、塩酸など。
【0034】
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリンなど。
任意成分は1種を単独で、又は2種以上を組合わせて使用できる。
【0035】
粘度
本発明の点眼剤の粘度は、通常約200〜100000mPa・sであり、約500〜20000mPa・sが好ましく、約700〜10000mPa・sがより好ましく、約1200〜5000mPa・sが特に好ましく、1500〜4000mPa・sがさらに特に好ましい。主に、カルボキシビニルポリマーの種類や使用量を適宜選択することにより、上記粘度の点眼剤を得ることができる。
本発明において、粘度の測定は、第15改正日本薬局方の一般試験法に記載の粘度測定法に準拠し、(2)単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)にて行う。本願ではRB-80L(東機産業)を使用し、ロータや回転速度等の条件の選定は、本機の取扱説明書に準拠し、25℃における粘度を測定する。
単一円筒形回転粘度計に関する説明を以下に記載する。単一円筒形回転粘度計は、液体中の円筒を一定角速度で回転させたときのトルクを測定する粘度計である。装置の概略を図1に示す。あらかじめ粘度計校正標準液を用いて実験的にKBを定めることにより、液体の粘度ηを次式によって算出する。
η=KB × T/ω
η:液体の粘度(mPa・s)
KB:装置定数(rad/cm3
ω:角速度(rad/s)
T:円筒面に作用するトルク(10-7N・m)
【0036】
なお、本発明の比較例組成物のような、25℃の粘度が約100mPa・s未満と考えられる組成物の粘度の測定方法についても、参考までに記載する。このような場合、粘度の測定は、第15改正日本薬局方の一般試験法に記載の粘度測定法に準拠し、(3)円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計)にて行う。本願ではTV-20(東機産業)を使用し、ロータや回転速度等の条件の選定は、本機の取扱説明書に準拠し、25℃における粘度を測定する。
円すい−平板形回転粘度計に関する説明を以下に記載する。円すい−平板形回転粘度計は、同一回転軸をもつ平円板及び頂角の大きい円すいの隙間に液体を挟んで、一方を回転させ、他方の受けるトルク及びそれに対応する角速度を測定する粘度計である。装置の略図を図2に示す。円すいと平円板の角度αの隙間に液体を入れ、円すい又は平円板を一定の角速度若しくは一定のトルクで回転させ、定常状態に達したときの平円板又は円すいが受けるトルク及びそれに対応する角速度を測定することにより、液体の粘度ηを次式によって算出する。
η=3α/2πR3×100T/ω
η:液体の粘度(mPa・s)
π:円周率
R:円すいの半径(cm)
α:平円板と円すいがなす角度(rad)
ω:角速度(rad/s)
T:平円板又は円すい面に作用するトルク(10-7N・m)
【0037】
その他
本発明の点眼剤の剤型は特に制限されない。好ましくは液剤である。
また、本発明の点眼剤のpHは、約3〜10とすればよく、約4〜9が好ましく、約5〜8.5がより好ましく、約7〜8.5が特に好ましい。
【0038】
本発明の点眼剤を充填する容器としては、公知の点眼容器を制限なく使用できる。点眼容器としては、通常、眼に点眼剤を滴下できる形状、例えばノズルを備え、ノズルの先に容器口を備える形状のものを使用することができる。また、本発明の点眼剤を収容する点眼容器としては、容器にそれとは別成形されたノズルが装着されている構造のもの、及びノズル部(液の注出部)と容器本体とが一体成型された構造のもの(例えば、1回使い切りタイプの点眼剤など)のいずれであってもよい。
本発明の点眼剤を収容する容器は、通常プラスチック製とすればよい。該プラスチック容器の構成材質については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドの何れか1種、これらの共重合体、又はこれらの2種以上の混合体が挙げられる。特に押出の加減等で本願発明の効果を発揮し易い点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート又はこれらの共重合体、又はこれらの2種以上の混合体が好ましい。
本発明の点眼剤は、このような材料を主材料とする透明容器(異物を観察するのに差し支えない程度の透明性を備えた容器)に充填されてもよいし、遮光された容器に充填されてもよい。遮光は、例えば上記した透明容器材料に着色剤を添加することにより行ってもよいし、容器をシュリンクフィルムや外箱などで覆うことにより、遮光してもよい。
また、容器の容量は、押出の加減等で本願発明の効果をより一層発揮し易くするために、0.5〜20mL程度が好ましく、3〜18mL程度がより好ましく、5〜15mL程度がさらにより好ましい。
また、本発明の点眼剤を収容する容器に備えられているノズルについても、その構造や構成素材については特に制限されるものではない。ノズルの構造については、点眼剤容器のノズルとして一般的に採用されている構造であればよく、またノズルの構成素材については、例えば、上記プラスチック容器の構成素材と同様のものが例示される。本発明の点眼剤の液切れを一層良好にさせ、滴下量のバラツキも抑えるという観点からは、ポリエチレン、又はポリプロピレンを構成素材として含むノズルが好適である。ポリエチレンの種類としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等が挙げられるが、中でも低密度ポリエチレンを構成素材として含むノズルが好適である。
【0039】
製造方法
本発明の点眼剤は、慣用の方法の他、公知の方法(特公昭60−56684など)で調製できる。例えば、各成分(カルボキシビニルポリマー、モノテルペン、及び任意に配合してもよいその他の薬理活性成分や生理活性成分、添加物等)を水などの担体に分散させた後、ホモジナイザーなどを用いて均一化、溶解又は乳化させ、pH調整剤でpHを調整することにより調製すればよい。
また、モノテルペンの配合方法としては、水性溶媒にモノテルペンを添加し、必要に応じて加温し、攪拌溶解させる方法と、モノテルペンを必要に応じて添加される界面活性剤や溶解補助剤、または必要に応じて添加されるグリセリンやプロピレングリコールなどの多価アルコールに可溶化してから水性溶媒に添加する方法等があるが、いずれの方法も採用できる。また、製剤の滅菌方法としては、オートクレーブ滅菌、ろ過滅菌等の方法を選択することができる。
【0040】
用途・使用方法
本発明の点眼剤には、コンタクトレンズを装用したまま使用可能な点眼剤が含まれる。また、本明細書において、コンタクトレンズには、ハードコンタクトレンズ(酸素透過性ハードコンタクトレンズも含む)、ソフトコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズも含む)等のあらゆるタイプのコンタクトレンズが包含される。
本発明の点眼剤の用法・用量は、患者の症状、年齢等により変動するが、通常、1日約1〜6回、1回約1〜2滴を点眼すればよい。
本発明の点眼剤の使用対象は、特に限定されず、ドライアイ患者(目がかわく症状を有する者を含む)、眼精疲労患者などの人が挙げられる。特に、ドライアイ患者、中でも蒸発亢進型ドライアイ患者が好適な対象である。
【0041】
発明のその他の態様
カルボキシビニルポリマーを含む高粘度の点眼剤にモノテルペンを配合することにより、粘度低下を抑制しながら、点眼時の容器口における液切れを良くすることができる。従って、本発明は、カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の点眼容器口における液切れ性能の向上方法を包含する。
また、本発明は、カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の光照射による粘度低下の抑制方法を包含する。
また、本発明は、カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200〜100000mPa・sの点眼剤を調製する、点眼剤の点眼後の視界のぼやけからの回復性能の向上方法を包含する。
これらの方法における、各成分の種類、含有量、剤型、粘度、pH、使用方法、製造方法は、上記した点眼剤と同様である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(1)試料の調製
後掲の表1〜9に組成を示す実施例1〜25及び比較例1〜20の各点眼剤を以下の方法で調製した。即ち、攪拌下に、精製水にカルボキシビニルポリマー又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加し分散させ、次いで、pH調整剤(水酸化ナトリウム又は塩酸)以外の成分を添加して1時間以上攪拌溶解した。さらに、水酸化ナトリウム又は塩酸を用いてpHを7.3〜7.6に調整した後、精製水を適量加えて各処方濃度となるよう調製した。
調製した各点眼剤を、温度25℃、遮光状態で一晩静置した後、粘度、浸透圧、ノズルへの付着液量や光照射による粘度低下の測定、滴下量のバラツキ評価、及び官能評価を行った。
【0044】
(2)実験方法
(2-1)粘度測定
各点眼剤の粘度を以下の方法で測定した。
実施例1〜25、及び比較例1、3、4、7〜20
第15改正日本薬局方 一般試験法 粘度測定法 第2法回転粘度計法に記載されている「(2)単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)」の試験法に準拠して、RB-80L(東機産業)を使用して、以下の条件で粘度を測定した。
測定温度 25℃
回転数及びローターNo.
・粘度100 mPa・s以上350 mPa・s未満:回転数30rpm、ローターNo.M2
・粘度350mPa・s以上1500mPa・s未満:回転数12rpm、ローターNo.M2
・粘度1500mPa・s以上 :回転数12rpm、ローターNo.M3
設定時間 1分後の粘度
【0045】
比較例2、5、6
第15改正日本薬局方 一般試験法 粘度測定法 第2法回転粘度計法に記載されている「(3)円すい−平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計)」の試験法に準拠して、TV-20(東機産業)を使用して、以下の条件で粘度を測定した。
測定温度 25℃
回転数 2.5rpm 比較例5、6
100rpm 比較例2
ローターNo. 01
設定時間 3分後の粘度
【0046】
(2-2)光照射による粘度低下の測定
各点眼剤を30mL容量のガラス容器に30mL充填した。これらの点眼剤を充填した容器に、光照射装置であるサンテスター(SUNTEST XLS+;東洋精機製作所)を用いて放射照度350W/m2で8時間光照射した。放射照度350W/m2で8時間の光照射は10000kJ/ m2に相当する。
照射終了後、光を照射していない試料(未照射試料)及び光を照射した試料(照射試料)を25℃で一晩遮光保管した。その後速やかに、上記の「(2-1)粘度測定」の項目に記載したようにして、25℃における粘度を測定した。
未照射試料の粘度を100%として、照射後の粘度をそれに対する相対粘度で表して、各点眼剤の光照射による粘度低下を評価した。
相対粘度(%)
=〔照射試料の粘度(25℃)/未照射試料の粘度(25℃)〕×100
【0047】
(2-3)ノズルへの付着液量の測定
各点眼剤を、15mL容量のポリエチレンテレフタレート製点眼容器に充填し、この容器に低密度ポリエチレン製ノズルを装着した。様々な点眼場面を想定し、最もノズルに液残りし易いと考えられる横向き(ノズルの角度をほぼ水平)にして点眼剤を滴下し、1滴滴下毎に滴下重量を測定し、ノズル外側に付着した液をろ紙に吸い取った。この操作を20回繰り返し、平均滴下量を算出した。ノズル外側付着量については、ろ紙に吸い取られた20回滴下の合計重量を測定し、20で割って平均重量を算出した。
【0048】
(2-4)滴下量のバラツキの評価
各点眼剤を、15mL容量のポリエチレンテレフタレート製点眼容器に充填し、この容器に低密度ポリエチレン製ノズルを装着した。横向き(ノズルの角度をほぼ水平)にして点眼剤を滴下し、1滴滴下毎に滴下重量を測定した。この操作を20回繰り返し、平均滴下量(AVG)、標準偏差(SD)、変動係数(CV)を算出した。
【0049】
(2-5)浸透圧の測定
各点眼剤の浸透圧を第十五改正日本薬局方記載の浸透圧測定法( 氷点降下法) を用いて測定した。
【0050】
(2-6)点眼後の視界のぼやけからの回復時間の測定
被験者3名に対し、片眼に被験点眼剤を点眼させ、もう一方の眼に、モノテルペンを含
まない他は被験点眼剤と同組成の対照点眼剤を点眼させて、両点眼剤の点眼後の視界のぼ
やけからの回復時間を測定した。
【0051】
(3)結果
(3-1)ノズルへの付着液量
モノテルペンとしてl-メントールを用いた各点眼剤の組成、pH、浸透圧、粘度、1滴当りの付着液量、及びノズル付着率を以下の表1に示す。
【表1】

【0052】
上記の表1において、カルボキシビニルポリマーのAQUPEC HV−505Eは、住友精化社製であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのメトローズ65SH−4000は、信越化学社製である。
【0053】
表1において、実施例1と比較例1との比較から、カルボキシビニルポリマーにメントールを配合することにより、高粘度を維持しつつ、ノズルへの付着量を低減できることが分る。また、比較例3と比較例4との比較から、メントール配合による上記効果は、カルボキシビニルポリマーとの組み合わせで得られる効果であり、同じ増粘剤でもヒドロキシプロピルメチルセルロースとの組み合わせでは得られないことが分る。
また、比較例2はカルボキシビニルポリマーを含まないため、比較例5、6は、塩化ナトリウムを含むため、本願発明の点眼剤より低粘度である。従って、液切れ向上という課題が存在しない。
(3-2)滴下量のバラツキ(その1)
また、実施例1と比較例1との間、及び比較例3と比較例4との間で滴下量のバラツキを比較した。滴下量のバラツキは、Microsoft Excel97のF検定(2標本を使った分散の検定,有意水準0.05)にて算出した。結果を以下の表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例1と比較例1との比較から、P値が有意水準以下より両者のばらつきには有意な差があり、カルボキシビニルポリマーにメントールを配合することにより、滴下量のバラツキが有意に低減したことが分る。また、増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた比較例3と比較例4との間では、P値が有意水準以上より滴下量のバラツキに有意差が認められないことから、メントール配合による滴下量のバラツキの低減効果はカルボキシビニルポリマーとの組み合わせにおいて認められることが分る。
【0056】
(3-3)滴下量のバラツキ(その2)
モノテルペンとしてl-メントール、d-カンフル、又はd-ボルネオールを用いた各点眼剤の組成、pH、浸透圧、粘度、及び滴下量のバラツキ(標準偏差(SD)、変動係数(CV))を以下の表3〜6に示す。
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表3〜6から、モノテルペンを含まない比較例の点眼剤に比べて、カルボキシビニルポリマーと共にモノテルペンを含む本発明実施例の点眼剤では、滴下量の標準偏差(SD)値及び変動係数(CV)値が小さくなり、滴下量のバラツキが抑えられることが分かる。
【0061】
(3-4)光照射による粘度低下
モノテルペンとしてl-メントール、d-カンフル、又はd-ボルネオールを用いた各点眼剤の組成、光照射前後の粘度、及び相対粘度を以下の表7〜9に示す。
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
【表9】

【0064】
表7〜9から、モノテルペンを含まない比較例の点眼剤に比べて、カルボキシビニルポリマーと共にモノテルペンを含む本発明実施例の点眼剤では、光照射による粘度低下が抑制されており、また、粘度低下はモノテルペンの濃度に依存して抑制されていることが分かる。
【0065】
(3-5)点眼後の視界のぼやけからの回復時間
表3に組成を示す実施例5の点眼剤(カルボキシビニルポリマーとメントールを含む)、及び比較例8の点眼剤(メントールを含まない他は実施例5と同組成の点眼剤)について、点眼後の視界のぼやけからの回復時間を測定した。結果を以下の表10に示す。
【表10】

【0066】
表10から、カルボキシビニルポリマーと共にメントールを配合することにより、点眼後の視界のぼやけからの回復が早まることが分かる。
前述したように、一般に、点眼剤は、粘度が高くなるにつれて、点眼後に霧視と呼ばれることもある「ぼやけ」を引き起こし易く、このぼやけが長時間に亘り収まらないと不快感が増大することが知られている。本試験で用いた実施例5、及び比較例8の点眼剤は共に粘度が2600mPa・s前後と比較的高粘度のものである。
メントールを含まない比較例8の点眼剤は、糊状で使用感が非常に悪く、点眼後に下瞼に長く溜まり、瞬きをすると両瞼がくっつく使用感があり、また、いつまでも視界がぼやけているように感じさせるとの評価を被験者から受けた。一方、さらにメントールを組み合せて配合した実施例5の点眼剤は、点眼直後は比較例8と同様にねっとりし、瞬きをすると両瞼がくっつく使用感や、視界のぼやけがあるものの、すぐに治まって視界が良好になるとの高評価を受けた。
【0067】
表5に組成を示す実施例9の点眼剤(カルボキシビニルポリマーとメントールを含む)、及び比較例10の点眼剤(メントールを含まない他は実施例9と同組成の点眼剤)について、点眼後の視界のぼやけからの回復時間を評価した。結果を以下の表11に示す。
【表11】

【0068】
実施例9、及び比較例10の各点眼剤も粘度2100〜2400 mPa・s程度と比較的高粘度のものである。実施例9の点眼剤と比較例10の点眼剤との比較からも、カルボキシビニルポリマーにメントールを組み合わせて配合することにより、点眼後の視界のぼやけからの回復が早く、不快感が抑えられることが分かる。
【0069】
本発明の点眼剤の処方例を、以下の表12〜19に示す。表中、実施処方例1〜18は点眼剤であり、実施処方例19〜25は人工涙液型点眼剤であり、参考処方例1、2はコンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションであり、参考処方例3はコンタクトレンズ用洗浄液である。
【0070】
【表12】

【0071】
【表13】

【0072】
【表14】

【0073】
【表15】

【0074】
【表16】

【0075】
【表17】

【0076】
【表18】

【0077】
【表19】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の点眼剤は、高粘度であるにもかかわらず、滴下時における液切れが良く、滴下量のばらつきも抑えられ、光照射による粘度低下が抑制されており、高粘度でありながら点眼後の視界のぼやけからの回復が早い。従って、本発明の点眼剤は、実用性に富み、使用感が良好な点眼剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシビニルポリマー、及びモノテルペンを含み、粘度が200mPa・s以上700 mPa・s未満である点眼剤。
【請求項2】
モノテルペンが、メントール、カンフル、及びボルネオールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
カルボキシビニルポリマーの含有量が、点眼剤の全体に対して、0.001〜10w/v%である請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
モノテルペンの含有量が、点眼剤の全体に対して、0.0001〜1 w/v%である請求項1〜3のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項5】
点眼容器に充填されている請求項1〜4のいずれかに記載の点眼剤。
【請求項6】
点眼容器が透明容器である請求項5に記載の点眼剤。
【請求項7】
カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200mPa・s以上700 mPa・s未満の点眼剤を調製する、点眼剤の点眼容器口における液切れ性能の向上方法。
【請求項8】
カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200mPa・s以上700 mPa・s未満の点眼剤を調製する、点眼剤の光照射による粘度低下の抑制方法。
【請求項9】
カルボキシビニルポリマーを含有する点眼剤にモノテルペンを添加して、粘度が200mPa・s以上700 mPa・s未満の点眼剤を調製する、点眼剤の点眼後の視界のぼやけからの回復性能の向上方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213729(P2011−213729A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143439(P2011−143439)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【分割の表示】特願2010−217374(P2010−217374)の分割
【原出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】