説明

点鼻剤

【課題】
本発明は、塩基性薬物を配合する点鼻剤において、点鼻した際の刺激を緩和することを課題とする。
【解決手段】
特定のポリエチレングリコールとグリセリンを配合することにより、塩基性薬物(特にクロルフェニラミンマレイン酸塩)を配合する点鼻剤において、点鼻時の刺激を緩和する。すなわち、塩基性薬物、平均分子量が1300以上のポリエチレングリコール及びグリセリンを配合し、pHが7〜9であることを特徴とする点鼻剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点鼻剤の分野に関する。さらに詳しくは、塩基性薬物を含有する点鼻剤において点鼻時に生じる刺激感を緩和する技術である。
【背景技術】
【0002】
薬物の吸収は、一般的に薬物の分子型分率が高いほどよいと言われている(非特許文献1)。塩基性薬物に関しては、pHが高くなるほど分子型分率が高くなることから、pHが高いほど吸収性が増加し、酸性薬物に関しては、pHが低くなるほど分子型分率が高くなることから、pHが低いほど吸収性が増加する。
代表的な塩基性薬物であるクロルフェニラミンマレイン酸塩は抗ヒスタミン薬の一つである。じん麻疹、血管運動性浮腫、枯草熱、皮膚疾患に伴うそう痒( 湿疹、皮膚炎、皮膚そう、薬疹)、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、感冒等上気道炎に伴うくしゃみ・鼻水・咳嗽に対して効果を示し、アレルギーや風邪の治療薬として一般的に使用されている。
【0003】
従来から、花粉やハウスダストなどに対する鼻アレルギーの症状を改善する為の対症療法として、鼻炎用医薬品である点鼻剤が知られている(非特許文献2)。
クロルフェニラミンマレイン酸塩を配合した点鼻剤は、アレルギー性鼻炎や花粉症などの治療に使用されている。花粉症による鼻炎症状を抑えるためには、花粉粒子からの抗原の溶出がアルカリ性側で高いため、点鼻剤のpHを弱酸性に調整しており(特許文献1)、このような弱酸性の点鼻剤では刺激を生じない。
【0004】
クロルフェニラミンマレイン酸塩を配合し、製剤のpHをアルカリ性側に設定した点鼻剤の報告はあるが(特許文献2)、刺激感を十分に緩和した技術は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】新薬剤学、辻彰他編、南江堂、2002
【非特許文献2】鼻アレルギー診療ガイドブック、形浦昭克他編、南江堂、1994
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−255654号公報
【特許文献2】特開平7−258069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塩基性薬物を含有する点鼻剤において、点鼻した際の刺激を緩和することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
塩基性薬物の吸収性を高めるために点鼻剤のpHを7以上に設定すると、点鼻時に刺激を生じることを、本発明者らは発見した。
そこで、この問題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリエチレングリコールとグリセリンを配合することにより、塩基性薬物を配合する点鼻剤において生じる刺激を緩和できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)塩基性薬物、平均分子量が1300以上のポリエチレングリコール及びグリセリンを配合し、pHが7〜9であることを特徴とする点鼻剤、
(2)塩基性薬物が抗ヒスタミン薬である(1)に記載の点鼻剤、
(3)抗ヒスタミン薬がクロルフェニラミンマレイン酸塩である(2)に記載の点鼻剤、
(4)クロルフェニラミンマレイン酸塩の濃度が0.15w/v%以上である(3)に記載の点鼻剤、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、塩基性薬物を配合する点鼻剤において生じる刺激を緩和できる点鼻剤を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塩基性薬物としては、クロルフェニラミン、イソチペンジル、イプロヘプチン、ジフェテロール、ジフェニルピラリン、ジフェンヒドラミン、トリプロリジン、トリペレナミン、トンジルアミン、プロメタジン、メトジラジン、カルビノキサミン、アリメマジン、ジフェニルピラリン、アステミゾール、シクロヘプタジン、テルフェナジン、オキサトミド、アゼラスチン、エメダスチン、メキタジン、クレマスチン、エピナスチン、エフェドリン、テトラヒドロゾリン、オキシメタゾリン、ナファゾリン、フェニレフリン、メチルエフェドリン、リドカイン、デスモプレシン、スマトリプタン、カフェイン、プロプラノロール、またはその塩などが挙げられる。
【0011】
このうち、抗ヒスタミン薬としてはクロルフェニラミン、イソチペンジル、イプロヘプチン、ジフェテロール、ジフェニルピラリン、ジフェンヒドラミン、トリプロリジン、トリペレナミン、トンジルアミン、プロメタジン、メトジラジン、カルビノキサミン、アリメマジン、ジフェニルピラリン、アステミゾール、シクロヘプタジン、テルフェナジン、オキサトミド、アゼラスチン、エメダスチン、メキタジン、クレマスチン、エピナスチンが挙げられる。この中で最も好ましいのはクロルフェニラミンマレイン酸塩である。
【0012】
塩基性薬物の配合濃度は適用する疾病の症状に応じて適宜増減することができる。ここで、本発明者らは、クロルフェニラミンマレイン酸塩が濃度依存的に鼻粘膜に刺激が生じることを発見した。すなわち、製剤中にクロルフェニラミンマレイン酸塩を0.15w/v%以上含有すると刺激を生じ、さらに濃度が高まると刺激を強く感じることを発見した。本発明の点鼻剤におけるクロルフェニラミンマレイン酸塩点鼻剤全体の0.15〜2.0w/v%であることが好ましい。
【0013】
本発明で用いるポリエチレングリコールは、多価アルコールであり、点鼻剤において本来溶解補助剤として用いられる成分である。平均分子量が1300以上のポリエチレングリコールとしては、PEG1540、PEG4000、PEG6000等が挙げられる。これらはグリセリンと組み合わせて使用することで、塩基性薬物を含有する点鼻剤の点鼻時の刺激を緩和することが可能である。平均分子量が1300未満のポリエチレングリコール、例えばPEG400等を使用しても効果は認められない。
【0014】
また、ポリエチレングルコール以外の他の多価アルコールではグリセリンと組み合わせて使用しても点鼻時の刺激緩和効果は得られない。本発明は、平均分子量が1300以上のポリエチレングリコールに特異的な効果である。
【0015】
さらに、本発明の平均分子量が1300以上のポリエチレングリコールの配合濃度は、好ましくは点鼻剤全体の0.25〜15.0w/v%である。0.25w/v%未満であると点鼻時の刺激緩和効果が不十分になる恐れがあるからである。
【0016】
また、本発明のグリセリンの配合濃度は必要に応じて適宜増減することができるが、点鼻剤全体の0.01〜6.0w/v%であることが好ましく、0.1〜2.0w/v%であることが更に好ましい。
【0017】
本発明の点鼻剤は、クロルフェニラミンマレイン酸塩、平均分子量が1300以上のポリエチレングリコール及びグリセリンを、精製水や生理食塩水に溶解することにより調製できる。さらに、点鼻剤用の噴霧器などに充填することにより点鼻剤として提供できる。
【0018】
その際、本発明の効果を損なわない範囲で、他の有効成分として、ステロイド剤、血管収縮剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、殺菌剤、収斂剤、清涼化剤等を配合することができる。また、ポリエチレングリコール以外の溶解補助剤、グリセリン以外の等張化剤、精製水やアルコールなどの溶剤、安定化剤、界面活性剤、清涼化剤、増粘剤、緩衝剤、防腐剤、pH調節剤、抗酸化剤、香料、色素のような各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0019】
以下に、実施例、比較例及び試験例を示し、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
ポリエチレングリコール4000 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0021】
(実施例2)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 500mg
ポリエチレングリコール1540 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを7.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0022】
(実施例3)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 500mg
ポリエチレングリコール4000 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを7.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0023】
(実施例4)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 500mg
ポリエチレングリコール6000 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを7.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0024】
(実施例5)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 2000mg
ポリエチレングリコール4000 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを8.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0025】
(実施例6)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 150mg
ポリエチレングリコール4000 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0026】
(実施例7)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
ポリエチレングリコール4000 250mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0027】
(実施例8)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
ポリエチレングリコール4000 500mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0028】
(比較例1)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを6.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0029】
(比較例2)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0030】
(比較例3)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 100mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0031】
(比較例4)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 150mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0032】
(比較例5)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
ポリエチレングリコール4000 5000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0033】
(比較例6)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0034】
(比較例7)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 200mg
プロピレングリコール 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを9.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0035】
(比較例8)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 500mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを7.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0036】
(比較例9)
処方
クロルフェニラミンマレイン酸塩 500mg
ポリエチレングリコール400 5000mg
グリセリン 2000mg
水酸化ナトリウム 適量
生理食塩水 全100mL
生理食塩水(約80mL)に各成分を溶解後、水酸化ナトリウムを適量添加し、pHを7.0に調整後、生理食塩水で全量を正確に100mLとした。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【0037】
(試験例)
下表1〜5記載の実施例及び比較例で得た点鼻剤を点鼻剤用噴霧器に充填した。健常人2〜3名に対し、点鼻剤を鼻腔に噴霧し、刺激感の程度を0〜4(0は刺激感なし、1はほぼ刺激感なし、2は刺激を感じる、3はやや刺激が強い、4は刺激が強い)にスコア化して評価した。刺激緩和目標値を1以下と設定した。結果を同表下欄に記載する。処方の数値は「mg/100mL」で示した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
上表3より、比較例2〜4において、クロルフェニラミンマレイン酸塩を、0.15質量%以上含有すると刺激を生じ、濃度依存的に刺激を強く感じることが分かった。また、比較例1より、クロルフェニラミンマレイン酸塩が0.2質量%配合されても、pH6では刺激感を生じなかった。
【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
本発明にかかる実施例1〜8の点鼻剤は、比較例2、4〜9の点鼻剤と比較して鼻粘膜への刺激が緩和された。本発明で用いるポリエチレングリコールは、多価アルコールであるが、他の多価アルコール(プロピレングリコール)では、鼻粘膜への刺激緩和効果は得られず、ポリエチレングリコールに特異的な効果であった。本発明により、塩基性薬物、特にクロルフェニラミンマレイン酸塩を配合する点鼻剤において生じる点鼻時の刺激を緩和出来る極めて有用な点鼻剤を提供することが可能となった。また、点鼻剤が高pHに設定されているので、塩基性薬物の吸収性が増加することで薬物量の低減などが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
塩基性薬物を含有し、刺激の緩和されたpH7〜9の点鼻剤の提供が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性薬物、平均分子量が1300以上のポリエチレングリコール及びグリセリンを含有し、pHが7〜9であることを特徴とする点鼻剤。
【請求項2】
塩基性薬物が抗ヒスタミン薬である請求項1に記載の点鼻剤。
【請求項3】
抗ヒスタミン薬がクロルフェニラミンマレイン酸塩である請求項2に記載の点鼻剤。
【請求項4】
クロルフェニラミンマレイン酸塩の濃度が0.15w/v%以上である請求項3に記載の点鼻剤。

【公開番号】特開2012−131774(P2012−131774A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250593(P2011−250593)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】