説明

点鼻睡眠導入剤

【課題】経口睡眠改善剤(又は睡眠導入剤)の問題点を著しく改善し、不眠症などにおける睡眠導入において、優れた治療効果のある睡眠導入剤を提供すること。
【解決手段】点鼻睡眠導入剤は、催眠作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分を含み、経鼻的投与(又は経鼻的全身投与)により睡眠に導入する。薬効成分は、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、塩酸ヒドロキシジン、フマル酸ケトチフェン、塩酸アゼラスチンなどであってもよい。睡眠導入剤は、経鼻的に全身投与により、投与量が少なくても即効性が高く、一日当たりの薬効成分の投与量は、成人に対して薬効成分0.1〜50mgであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経鼻的投与により有効に睡眠に導入できる点鼻睡眠導入剤(又は点鼻睡眠改善剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から抗ヒスタミン剤(H1受容体拮抗剤)はアレルギー性鼻炎や喘息などのアレルギー性疾患の治療などに広く使用されている。これら疾患に対して抗ヒスタミン剤は末梢において抗炎症作用を発揮し治療効果を示す一方で、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジンなどの中枢移行性の高い抗ヒスタミン剤は覚醒系に働く脳内H1受容体を占拠するため、臨床において催眠鎮静作用を示すことが知られている。
【0003】
「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」,(株)じほう,(2006)(非特許文献1)には、このH1受容体拮抗剤の催眠鎮静作用を利用した不眠治療剤として、経口ジフェンヒドラミン製剤、経口ヒドロキシジン製剤などが使用されていることが記載されている。また、近年になって一般用医薬品において経口ジフェンヒドラミンが睡眠改善剤又は睡眠導入剤として応用され汎用されている。例えば、特開2008−174500号公報(特許文献1)には、ジフェンヒドラミン又はその酸付加塩と制酸剤とを配合する速吸収性経口製剤について開示されている。この文献には、消化管からのジフェンヒドラミンの吸収速度が早くなり、吸収性が向上し、睡眠改善剤、鎮暈剤、鼻炎用薬などに適用でき、睡眠改善剤として用いることにより極めて優れた睡眠導入効果が得られることも記載されている。特開2005−104927号公報(特許文献2)には、睡眠作用を有する抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど)とビタミンC類を含有する催眠剤組成物が開示されている。
【0004】
しかし、「薬局」Vol.34,No1(1983)(非特許文献2)には、ジフェンヒドラミンの経口投与(100mg)における血中動態は、投与2〜4時間後(Tmax)に最高血中濃度(Cmax)に達し、消失半減期(T1/2)は約7時間であることから、比較的緩やかに抗ヒスタミン作用を発現し、長く薬物が血中に存在することが報告されている。従って、経口ジフェンヒドラミンは催眠鎮静作用発現までに長時間を要し、睡眠導入剤(睡眠改善剤)としては即効性を欠き、消失半減期T1/2が7時間程度であることから起床後においても血中において十分に薬物が存在するため、「持ち越し効果」によるふらつき、倦怠感などの副作用を発揮することが報告されている。一方、睡眠導入剤として抗ヒスタミン剤を連用すると、薬剤耐性が示されることが知られている。そのため、一般用医薬品における睡眠改善剤として応用された経口ジフェンヒドラミンは一時的な不眠の改善に利用が制限されている。
【0005】
Arzneimittelforschung. Apr;36(4):752-756(1986)(非特許文献3)には、塩酸ジフェンヒドラミン(50mg)の成人男性への経口投与による錠剤及び溶液製剤の血中動態比較検討試験において、最高血中濃度(Cmax)に達する時間(Tmax)及びバイオアベイラビリティは両者において同等であることが示されている。従って、経口製剤において、製剤学的な工夫、例えば、錠剤の溶解性を向上させる工夫、シロップ剤のような液剤の形態とする工夫などの製剤学的な工夫では、薬物血中動態を改善することが困難である。
【0006】
このように、ジフェンヒドラミンなどの睡眠導入作用を有する薬剤(特に抗アレルギー剤又は抗ヒスタミン剤)の経口投与では、血漿中の薬剤濃度を速やかに有効濃度に到達させることが困難であり、しかも血漿中の薬剤の消失時間を短縮できない。
【0007】
なお、特表平3−501390号公報(特許文献3)には、薬学的に許容される経鼻用運搬体中の全身的に効果のある量のベンゾジアゼピンから成る催眠薬投与用組成物が開示され、前記組成物を、睡眠を改善するために効果のある量をヒトを対象に経鼻投与することも記載されている。この文献には、ベンゾジアゼピンの経鼻投与が、通常の投与形態よりも高い血中濃度と早い上昇により特徴づけられることも記載されている。
【0008】
しかし、上記組成物は、睡眠薬を含むため、めまい、ふらつき、健忘などの副作用が懸念される。しかも、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、向精神薬、習慣性医薬品及び処方せん薬に指定され、身体的依存性を生ずることがあり、安全性の点で一般薬として使用できない。
【0009】
また、特表2001−524108号公報(特許文献4)には、治療的に有効量の局所抗炎症剤、及び局所経鼻投与に適する少なくとも1種の薬剤であって、血管収縮剤、ノイラミニダーゼ阻害剤、ロイコトリエン阻害剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、抗コリン剤、麻酔剤、及び粘液溶解剤からなる群から選択される治療的に有効量の薬剤を含んでなる局所適用可能な経鼻組成物が開示されている。この文献には、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなどを含む組成物も記載されている。
【0010】
特開2005−112813号公報(特許文献5)には、内水相および外水相の両方に経鼻投与用薬剤を配合したW/O/W型複合エマルジョンを含む点鼻剤が開示され、経鼻投与用薬剤は、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤などを含むことも記載されている。
【0011】
しかし、これらの点鼻剤は鼻腔局所における抗炎症又は抗アレルギー作用を主眼としており、抗ヒスタミン薬を利用して、速やかに睡眠に導入し、かつ目覚めの悪さを改善することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−174500号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献2】特開2005−104927号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特表平3−501390号公報(特許請求の範囲、第3頁左上欄22行〜右上欄1行)
【特許文献4】特表2001−524108号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2005−112813号公報(特許請求の範囲、段落[0009][0011])
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」,(株)じほう,(2006)
【非特許文献2】「薬局」Vol.34,No1(1983)
【非特許文献3】Arzneimittelforschung. Apr;36(4):752-756(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、経口睡眠改善剤(又は睡眠導入剤)の問題点を著しく改善し、不眠症などにおける睡眠導入において、優れた治療効果のある睡眠導入剤を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、睡眠導入作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分の血漿中の濃度を速やかに有効濃度に到達させ、しかも血漿中の薬剤の消失時間を短縮できる睡眠導入剤を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、投与量が少量であっても有効に睡眠に導入でき、薬剤耐性の発現の回避が期待できる睡眠導入剤を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、ジフェンヒドラミンなどの鎮静作用を有する薬効成分(抗ヒスタミン剤など)を応用し、最高血中濃度(Cmax)に達する時間(Tmax)と安全性とを著しく改善できる睡眠導入剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、抗ヒスタミン作用を有する薬効成分を「脳波測定系による軽度睡眠障害モデル」に経鼻的に全身投与したところ、経口剤に比して非常に低用量にて、危険率0.1%未満という極めて小さな危険率で統計学的に極めて有意に、強力な睡眠導入作用を呈することが証明されたことに基づくものである。すなわち、本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、催眠作用(又は鎮静作用)及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分(例えば、ジフェンヒドラミンなど)を経鼻的に全身投与すると、少ない投与量であっても血漿中の濃度を速やかに有効濃度に到達でき、経口剤に比して非常に低用量で強力な睡眠導入作用が発現すること、投与量が少なくてすむため、血漿中の薬剤の消失時間を短縮でき、「持ち越し効果」がなく起床に伴う目覚めがいい(又はもうろう状態若しくはふらつきがない)こと、および薬剤耐性が発現しにくく安全性が高いことを見いだし、本発明を完成した。
【0019】
本発明の点鼻睡眠導入剤は、催眠作用(鎮静作用など)及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分を含み、経鼻的投与(又は経鼻的全身投与)により睡眠に導入する。前記薬効成分には抗ヒスタミン作用を有する全ての活性成分が含まれ、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する場合が多い。また、前記薬効成分(H1受容体拮抗作用を有する活性成分など)は中枢移行性を有し、催眠鎮静作用を発現する。このような薬効成分は、第一世代抗ヒスタミン剤(エタノールアミン系抗ヒスタミン剤、アルキルアミン系抗ヒスタミン剤、フェノチアジン系抗ヒスタミン剤、ピペラジン系抗ヒスタミン剤)、第二世代抗ヒスタミン剤(ケトチフェン又はその塩、アゼラスチン又はその塩など)、及び他の抗ヒスタミン作用を有する薬効成分から選択された少なくとも一種、例えば、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、アゼラスチンなど、及びこれらの薬学的に許容される塩から選択された少なくとも一種であってもよい。特に、薬効成分は、ジフェンヒドラミン又はその薬学的に許容される塩であってもよい。
【0020】
本発明の睡眠導入剤は、経鼻的に全身投与により、投与量が少なくても即効性が高いという特色がある。そのため、一日当たりの薬効成分の投与量は、成人に対して薬効成分0.1〜50mg(例えば、1〜25mg)程度であってもよい。本発明の睡眠導入剤の剤形は特に制限されず、例えば、粉剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤などの形態であってもよい。
【0021】
なお、本発明は、催眠作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分(抗ヒスタミン剤など)を経鼻的に投与(又は局所投与ではなく全身投与)し、睡眠を導入する方法;点鼻睡眠導入剤の製造における、催眠作用を有する薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の使用も開示する。また、経鼻的投与(又は点鼻による全身投与)により睡眠に導入するための睡眠導入剤であって、催眠作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分(抗ヒスタミン剤など)を含む睡眠導入剤も開示する。本発明は経鼻投与又は点鼻可能な種々の対象物、特にヒトなどの哺乳動物に適用できる。
【0022】
なお、前記点鼻睡眠導入剤(催眠促進剤)は、経鼻的睡眠導入剤、点鼻睡眠改善剤、睡眠導入用点鼻剤(又は睡眠導入用経鼻投与製剤)、点鼻睡眠促進剤ということもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の睡眠導入剤は、経鼻投与により鼻腔粘膜から速やかに薬効成分が吸収されるため、薬効成分の血漿中の濃度を有効濃度に速やかに到達させることができ、即効的に催眠作用又は睡眠導入作用が現れる。特に、経口投与においてはジフェンヒドラミンなどのようにTmaxが遅くT1/2が長い薬効成分であっても催眠作用又は睡眠導入作用が速やかに発現する。また、経口投与と比較して大幅な投与量の低減が可能であり、投与量が少量であっても有効に睡眠に導入できる。そのため、経口睡眠改善剤(又は睡眠導入剤)の問題点を著しく改善し、不眠症などの睡眠障害における睡眠導入において、強力な睡眠導入作用を示し、優れた治療効果が得られる。しかも血漿中の薬剤の消失時間を短縮できるため、「持ち越し効果」がなく起床に伴う目覚めの悪さを改善でき、もうろう状態又はふらつきがない。さらに、投与量が少量であっても即効性があり、薬剤耐性の発現の回避が期待でき、安全性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1はジフェンヒドラミンの経口投与による試験1で得られた睡眠潜時の結果を示すグラフである。
【図2】図2はジフェンヒドラミンの経鼻投与による試験2で得られた睡眠潜時の結果を示すグラフである。
【図3】図3は前記試験1で得られた睡眠の質(デルタ周波数帯域)の解析結果を示すグラフである。
【図4】図4は前記試験1で得られた睡眠の質(ベータ周波数帯域)の解析結果を示すグラフである。
【図5】図5は前記試験2で得られた睡眠の質(デルタ周波数帯域)の解析結果を示すグラフである。
【図6】図6は前記試験2で得られた睡眠の質(ベータ周波数帯域)の解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の睡眠導入剤は、催眠作用(又は鎮静作用)及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分を含み、この薬効成分は代表的には抗ヒスタミン剤で構成できるが、抗ヒスタミン作用を有する活性成分であればよい。薬効成分としては、催眠作用(又は鎮静作用)及び抗ヒスタミン作用を有する限り特に制限されず、第一世代抗ヒスタミン剤であってもよく第二世代抗ヒスタミン剤又は後続する世代の抗ヒスタミン剤であってもよい。また、薬効成分は抗ヒスタミン作用を有する他の薬効成分、例えば、抗うつ剤、鎮暈剤、抗セロトニン剤、生薬などであってもよい。なお、前記薬効成分(抗ヒスタミン剤など)は通常ヒスタミンH1拮抗剤として機能する。さらに、睡眠作用を有効とするためには、中枢移行性を有する薬効成分、特に中枢移行性の高い薬効成分、例えば、抗ヒスタミン剤(ヒスタミンH1受容体拮抗剤など)が好ましい。
【0026】
抗ヒスタミン剤(又はヒスタミンH1拮抗剤)のうち第一世代抗ヒスタミン剤としては、例えば、エタノールアミン系抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、ジフェニルピラリン、クレマスチン、ジメンヒドリナート、ドキシラミン、カルビノキサミンなど)、アルキルアミン系抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミン、トリプロリジン、ブロムフェニラミンなどのプロピルアミン系抗ヒスタミン剤など)、フェノチアジン系抗ヒスタミン剤(アリメマジン、イソチペンジル、プロメタジン、メキタジンなど)、ピペラジン系抗ヒスタミン剤(ヒドロキシジン、ホモクロルシクリジンなど)、ピペリジン系抗ヒスタミン剤(シクロヘプタジンなど)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩などが例示できる。また、第二世代抗ヒスタミン剤としては、例えば、ヒスタミンH1受容体拮抗剤(ケトチフェン、アゼラスチン、オキサトミド、メキタジン、ニポラジン、フェキソフェナジン、エメダスチン、エピナスチン、エバスチン、セチリジン、ベポタスチン、レボカバスチン、オロパタジン、ロラタジン、テルフェナジン、アステミゾール、ノルアステミゾール、セチラジン、アザチジン、など)、及びこれらの薬学的に許容可能な塩などが例示できる。他の薬効成分としては、例えば、抗ヒスタミン作用を有する三環系抗うつ剤(ノルトリプチリン、アモキサピン、イミプラミン、デシプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン、アミトリプチリン、ドキセピン、ロフェプラミン、ドスレピン、プロトリプチリン、及びこれらの薬学的に許容可能な塩など)、抗ヒスタミン作用を有する四環系抗うつ剤(マプロチリン、ミアンセリン、セチブチリン、及びこれらの薬学的に許容可能な塩)、抗ヒスタミン作用を有する鎮暈剤(ジメンヒドリナートなど)、抗ヒスタミン作用を有する抗セロトニン剤(フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプラン又はこれらの薬学的に許容可能な塩など)などが例示できる。
【0027】
これらの薬効成分(又はヒスタミンH1拮抗剤)は薬学的に許容可能な塩、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸(酢酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、サリチル酸、酒石酸、ベシル酸、テオクル酸、タンニン酸、パモ酸など)との塩(付加塩など)であってもよい。
【0028】
これらの薬効成分(抗ヒスタミン剤など)は単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、第一世代抗ヒスタミン剤と第二世代抗ヒスタミン剤とを組み合わせてもよい。好ましい薬効成分(抗ヒスタミン剤など)は、例えば、エタノールアミン系抗ヒスタミン剤(塩酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミンなどのジフェンヒドラミン又はその塩など)、アルキルアミン系又はプロピルアミン系抗ヒスタミン剤(マレイン酸クロルフェニラミン(DL体、D体など)などのクロルフェニラミン又はその塩など)、フェノチアジン系抗ヒスタミン剤(塩酸プロメタジンなどのプロメタジン又はその塩など)、ピペラジン系抗ヒスタミン剤(塩酸ヒドロキシジン、パモ酸ヒドロキシジンなどのヒドロキシジン又はその塩など)、フマル酸ケトチフェンなどのケトチフェン又はその塩、塩酸アゼラスチンなどのアゼラスチン又はその塩、三環系抗うつ剤(塩酸ノルトリプチリン、アモキサピン、塩酸イミプラミン、デシプラミン、塩酸クロミプラミン、トリミプラミン、塩酸アミトリプチリン、ノルトリプチリン、ドキセピン、塩酸ロフェプラミン、塩酸ドスレピン、プロトリプチリンなど)、四環系抗うつ剤(塩酸マプロチリン、塩酸ミアンセリン、マレイン酸セチブチリンなど)、鎮暈剤(ジメンヒドリナートなど)、抗セロトニン剤(マレイン酸フルボキサミン、塩酸パロキセチン水和物、塩酸ミルナシプランなど)から選択された少なくとも一種である。中でも抗ヒスタミン剤、例えば、エタノールアミン系抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン又はその薬学的に許容される塩、例えば、塩酸ジフェンヒドラミンなど)が好ましい。ジフェンヒドラミン又はその薬学的に許容される塩は水溶性及び脂溶性も高く、鼻孔粘膜からの吸収性が速い。そのため、ジフェンヒドラミン又はその薬学的に許容される塩は点鼻により即効的に催眠作用を発現できる。しかも一般薬として古くから使用されており、安全性も高い。
【0029】
なお、薬効成分は、異性体(立体異性体、光学異性体など)であってもよく、ラセミ体であってもよい。また、薬効成分には、プロドラッグや活性代謝物も含まれる。
【0030】
中枢移行性の高い薬効成分(抗ヒスタミン剤など)は、睡眠導入作用が強い。そのため、本発明では、前記薬効成分の睡眠導入作用を有効に利用し、経鼻投与(又は経鼻的全身投与)により速やかに睡眠に導入しつつ、目覚めの悪さを改善する。すなわち、経鼻又は点鼻により鼻腔粘膜を通じて薬効成分を迅速に吸収させて血中濃度の立ち上がりを向上でき、少量の投与量であっても血漿中の濃度を速やかに有効濃度に到達でき、即効的又は速やかに睡眠に導入できる。また、投与量が少なくてすむため、血漿中の薬剤の消失時間を短縮でき、「持ち越し効果」がなく起床に伴う目覚めの悪さを改善できる。さらに、投与量が少なくてすむため、薬剤耐性が発現しにくく、多用又は連続的に使用でき、安全性を向上できる。そのため、本発明の点鼻睡眠導入剤は、経鼻的睡眠導入剤、点鼻睡眠改善剤、睡眠導入用点鼻剤、点鼻睡眠促進剤又は睡眠導入用経鼻投与製剤(睡眠導入用点鼻製剤)として有用である。
【0031】
より具体的には、通常、睡眠改善で使用されるジフェンヒドラミンの経口剤はCmaxに達するまでに長時間を要するとともに、血中での消失半減期が長いため、就寝時の服用に対して催眠鎮静作用発現までに長時間を要するだけでなく、起床時まで血中に薬剤が残存することに起因して「持ち越し効果」を呈し、目覚め後に、ふらつき、不快感、倦怠感などの副作用が発生する事例が多い。また、睡眠導入を目的とする経口ジフェンヒドラミン製剤などの抗ヒスタミン剤の投与は連続的な使用において薬剤耐性を生じることから、一時的な不眠症状の改善のみに使用が制限されている。
【0032】
これに対して、本発明に係る点鼻睡眠導入剤(経鼻的全身投与製剤)では、前記薬効成分の血漿中濃度を速やかに有効血漿中濃度に到達可能である。そのため、即効性を有し、経口投与と比較して薬剤投与量を著しく減量でき、「持ち越し効果」及び「薬剤耐性」の発現を抑制できる。これらのことは、経鼻的投与により、薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の投与量が少量であっても極めて高い有意性をもって睡眠に導入できること、薬効成分の投与量が少量であっても経口投与に比べて短時間内に睡眠に導入できることから立証される。従って、本発明の点鼻睡眠導入剤は経鼻的に全身投与可能とすることにより、即効性を有することに加え、経口製剤において発生するデメリットを回避できる。
【0033】
このようなことは脳波に基づく周波数解析により確認できる。例えば、実施例で詳細に記述のように、睡眠期(non-REM)で、対照(0.5%CMC−Na)のPower値(μV)に対して、デルタ帯域(0.5〜4Hz)のPower値(μV)が有意に高くなり、ベータ帯域(13.25〜30Hz)のPower値(μV)が有意に低下する。すなわち、脳波の周波数解析から、深い睡眠時に現れるデルタ帯域が増え、浅い眠りで現れるベータ帯域が減少することを示しており、より深い睡眠に導いていることが判る。
【0034】
より詳細には、睡眠期(non-REM)での投与後の時間経過と周波数帯域のPower値(μV)との関係において、対照(媒体投与群)のPower値を「100」としたとき、デルタ帯域及びベータ帯域のPower値(相対値)は、以下の通りである。なお、投与後の時間経過と周波数帯域のPower値との関係は、血中動態に対応していると考えられる。
【0035】
デルタ帯域:
ジフェンヒドラミン20mg/kg経口投与群
投与後1時間まで:111
投与後1〜2時間:112
投与後2〜3時間:107
投与後3〜4時間:102
投与後4〜5時間:98
ジフェンヒドラミン1mg/匹(head)経鼻投与群
投与後1時間まで:128
投与後1〜2時間:114
投与後2〜3時間:102
投与後3〜4時間:97
ベータ帯域:
ジフェンヒドラミン20mg/kg経口投与群
投与後1時間まで:90
投与後1〜2時間:85
投与後2〜3時間:93
投与後3〜4時間:98
投与後4〜5時間:101
ジフェンヒドラミン1mg/匹(head)経鼻投与群
投与後1時間まで:74
投与後1〜2時間:86
投与後2〜3時間:95
投与後3〜4時間:101
デルタ帯域及びベータ帯域のPower値の増加及び低下は、ジフェンヒドラミンの経口投与では、多量に投与しても、投与後1〜2時間でしか有意な変化(デルタ帯域での増加とベータ帯域での有意な低下)が認められないのに対して、経鼻投与では少量の投与で投与後1時間までに最大かつ有意な変化(デルタ帯域での有意な増加とベータ帯域での有意な低下)が認められ、しかも変化の程度(デルタ帯域での増加とベータ帯域での低下)もより大である。また、作用が完全に消失する(すなわちPower値の相対値が100となる)のは、経口投与では投与後4時間付近(例えば、3時間30分〜4時間30分)であるのに対して、経鼻投与では投与後3時間付近(例えば、2時間30分〜3時間30分)となり、経口投与よりもより早く消失する。これらの帯域のデータからも、本発明では経鼻投与により血中濃度の立ち上がりを向上し、少量の投与量であっても血漿中濃度が速やかに有効濃度に到達することにより短時間に睡眠導入できること、また、投与量が少なくてすむために血漿中の薬剤消失までの時間を短縮でき、「持ち越し効果」がなく起床に伴う目覚めの悪さを改善できることが理解される。
【0036】
前記薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の含有量は、薬効成分の催眠作用の程度、剤形などに応じて、例えば、製剤全体に対して0.001〜90重量%程度の範囲から選択でき、通常、0.001〜50重量%、好ましくは0.01〜30重量%、さらに好ましくは0.1〜20重量%(例えば、0.1〜15重量%)程度であってもよい。前記薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の含有量は、通常、0.05〜10重量%(例えば、0.1〜5重量%)、好ましくは0.1〜3重量%(例えば、0.3〜2.5重量%)、さらに好ましくは0.2〜1重量%(例えば、0.2〜0.5重量%)程度である場合が多い。
【0037】
なお、睡眠導入剤は、必要であれば、前記薬効成分に加えて、種々の薬理活性成分を含んでいてもよい。このような薬理活性成分としては、例えば、抗炎症剤又は消炎剤、抗アレルギー剤、抗コリン剤、血管収縮剤、気管支拡張剤、鎮痛剤、鎮咳去痰剤、抗菌剤、局所麻酔剤、向精神薬(睡眠剤又は鎮静剤、抗うつ剤、気分安定剤(抗躁剤)、精神刺激剤、抗不安薬(精神安定剤)など)、中枢神経興奮剤、ビタミン類、生薬、アミノ酸類、ミネラル類などが例示できる。これらの薬理活性成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
抗炎症剤又は消炎剤としては、例えば、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、フルニソリド、アンレキサノクス、ブデソニド、デキサメタゾン、モメタゾンフロエート、トリアムシノロンアセトニド、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸メチル、アスピリンアルミニウム、アセチルサリチル酸、サリチルアミド、サリチル酸グリコール、フルフェナム酸、メフェナム酸、フロクタフェニン、トルフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、エテンザミド、ピロキシカム、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、塩化リゾチーム、およびこれらの塩などが例示できる。
【0039】
抗アレルギー剤としては、前記催眠作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分以外の抗アレルギー剤、例えば、メディエーター遊離抑制剤(クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、アンレキサノクス、レピリナスト、タザノラスト、ペミロラストカリウムなど)、ロイコトリエン拮抗剤(プランルカストなど)、トロンボキサンA2阻害剤(塩酸オザグレル、セラトロダスト、ラマトロバンなど)、Th2サイトカイン阻害剤(トシル酸スプラタストなど)などが例示される。抗コリン剤としては、例えば、イプラトロピウム、フルトロピウム、オキシトロピウムなどが例示され、抗炎症作用を有する成分を用いる場合が多い。
【0040】
血管収縮剤としては、例えば、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン、テトリゾリン、トラマゾリン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、プソイドエフェドリン及びこれらの塩などが例示できる。気管支拡張剤としては、例えば、エピネフリン、エフェドリン、テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、フェニレフリン、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン、これらの塩などが例示できる。
【0041】
殺菌剤としては、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、及びこれらの塩などが例示できる。
【0042】
収れん剤としては、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウムカリウムなどが例示できる。
【0043】
鎮痛剤としては、例えば、コデイン、ジヒドロコデイン、ペンタゾシン、ブプレノルフィン、プトルファノール、エプタゾシン、トラマゾール、エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、スマトリプタン、及びこれらの塩などが例示できる。鎮咳去痰剤としては、コデイン、ジヒドロコデイン、デキストロメトルファン、メチルエフェドリン、ノスカピン、メチルシステイン、エチルシステイン、カルボシステイン、及びこれらの塩などが例示できる。
【0044】
抗菌剤としては、抗生物質(セフェム系、ペネム系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、リンコマイシン系抗生物質など)、化学療法剤(サルファ剤、キノロン剤など)、抗真菌剤、抗ウィルス剤などが例示できる。
【0045】
局所麻酔剤としては、例えば、ジブカイン、リドカイン、プロカイン、プロピトカイン、ブピバカイン、メピバカイン、テトラカイン、オキシブプロカイン、及びこれらの塩などが例示できる。局所麻酔剤を併用すると、前記薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の刺激を抑制でき、円滑に睡眠に導入できる。
【0046】
本発明では、睡眠導入を補助するため、向精神薬を用いてもよい。向精神薬のうち、睡眠剤又は鎮静剤としては、例えば、ベンゾジアゼピン誘導体(トリアゾラム、ミダゾラム、ブロチゾラム、リルマザホン、ロルメタゼパム、フルニトラゼパム、ニメタゼパム、エスタゾラム、ニトラゼパム、フルラゼパム、ハルキサゾラム、クアゼパムなど)、バルビツール誘導体(ペントバルビタールカルシウム、セコバルビタールナトリウム、アモハバルビタール、アモバルビタールナトリウム、バルビタールなど)、その他の催眠・鎮静剤(酒石酸ゾルピデム、ゾピクロン、セミコハク酸ブトクタミド、抱水クロラール、ブロムワレリル尿素、トリクロホスナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、パッシフローラエキスなど)などが例示できる。
【0047】
抗うつ剤としては、抗うつ作用を有する種々の成分、例えば、モノアミン再取り込み阻害剤(ノルトリプチリン、アモキサピン、イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、トリミプラミン、デシプラミン、ロフェプラミン、ドスレピン、又はこれらの塩(塩酸塩など)などの三環系抗うつ剤、マプロチリン又はその塩(塩酸塩など)などの四環系抗うつ剤など)、フェニルピペラジン系抗うつ剤(又はセロトニン2受容体拮抗剤)(トラゾドンなど)、シナプス前α−アドレナリン受容体拮抗剤(ミアンセリン、セチプチリン、又はこれらの塩(塩酸塩、マレイン酸塩など)などの四環系抗うつ剤など)、ドバミン系薬剤(スルピリド、又はその塩など)、選択的セロトニン再取り込み阻害剤SSRI(フルボキサミン、パロキセチン、又はこれらの塩(塩酸塩、マレイン酸塩など)など)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤SNRI(ミルナシプラン又はその塩(塩酸塩など)など)などが例示できる。気分安定剤(抗躁剤)としては、例えば、炭酸リチウムなどが例示でき、精神刺激剤としては、例えば、メチルフェニデート、ペモリン、又はこれらの塩(塩酸塩など)などが例示できる。
【0048】
抗不安薬(精神安定剤)としては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬(エチゾラム、クロチアゼパム、フルタゾラム、ロラゼパム、アルプラゾラム、ブロマゼパム、フルジアゼパム、メキサゾラム、ジアゼパム、クロキサゾラム、クロルジアゼポキシド、クロラゼプ酸二カリウム、メダゼパム、オキサゾラム、フルトプラゼパム、ロフラゼプ酸エチル、ブラゼパムなど)、非ベンゾジアゼピン系抗不安薬(クエン酸タンドスピロン、ヒドロキシジンなど)などが例示できる。
【0049】
中枢神経興奮剤としては、例えば、カフェイン類又はキサンチン類(例えば、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン、カフェインサイレート、カフェイン(1水和物)など)などが例示できる。
【0050】
ビタミン類としては、ビタミンB1類(フルスルチアミン、プロスルチアミン、オクトチアミン、ビスベンチアミン、チアミンジスルフィド、チアミン、ジセチアミン、シコチアミン、ベンフォチアミン、ビスイブチアミンなど)、ビタミンB2類(リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムなどのリボフラビン類など)、ビタミンB6類(ピリドキシン、ピリドキサールなどのピリドキシン類又はその塩)、ニコチン酸類(ニコチン酸、ニコチン酸アミドなど)、ビタミンB12類(メコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミンなどのコバラミン類又はその塩)、葉酸、パントテン酸類(パンテノール、パントテン酸又はその塩(パントテン酸カルシウムなど))、ビタミンC類(アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸2−グルコシドなど)、ビタミンA類(酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、ビタミンA油、肝油、強肝油など)、ビタミンD類(エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロールなど)、ビタミンE類(d−α−トコフェロール、dl−α−トコフェロール、コハク酸d−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロールカルシウム、酢酸d−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロールなど)、ビオチン、ビタミンK、ビタミンP(ヘスペリジンなど)などが挙げられる。
【0051】
前記薬理活性成分の塩としては、例えば、無機酸塩(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などとの塩)、有機酸塩(酢酸、プロピオン酸、酪酸などとの塩)、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウムなどとの塩)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウムなどとの塩)などが例示できる。
【0052】
これらの各薬理活性成分も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。各薬理活性成分の使用量は、薬効成分の種類に応じて選択できる。例えば、製剤全体に対して、抗炎症剤又は消炎剤の含有量は、0.001〜1重量%(例えば、0.005〜0.7重量%)、好ましくは0.01〜0.5重量%(例えば、0.05〜0.3重量%)程度であってもよく、血管収縮剤及び/又は気管支拡張剤の含有量は、例えば、0.001〜5重量%(例えば、0.005〜2.5重量%)、好ましくは0.01〜1重量%(例えば、0.01〜0.5重量%)程度であってもよく、殺菌剤の含有量は、0.001〜1重量%(例えば、0.005〜0.5重量%)、好ましくは0.01〜0.1重量%(例えば、0.02〜0.05重量%)程度であってもよい。また、製剤全体に対して、収れん剤の含有量は、0.001〜1重量%(0.01〜0.7重量%)、好ましくは0.05〜0.5重量%(例えば、0.1〜0.4重量%)、局所麻酔剤の含有量は、0.01〜2重量%(例えば、0.05〜1.5重量%)、好ましくは0.1〜1重量%(例えば、0.25〜0.75重量%)程度であってもよい。
【0053】
本発明の点鼻睡眠導入剤又は経鼻睡眠導入剤の剤形は、経鼻投与又は点鼻が可能である限り特に制限されず、例えば、粉剤などの固形剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤などの半固形剤、液剤(溶液剤、乳剤、懸濁剤など)などの形態であってもよい。
【0054】
本発明の睡眠導入剤は、その剤形に応じて、さらに、ベヒクル(経鼻用ベヒクル又はキャリア)、湿潤剤、ゲル剤又は粘稠化剤、等張化剤、pH調整剤、乳化剤又は界面活性剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、保存剤又は防腐剤、清涼化剤、香料などを含んでいてもよい。
【0055】
ベヒクル(又はキャリア)としては、薬学的に許容される担体成分、例えば、液体ベヒクル(例えば、水、等張食塩水などの食塩水、アルコール類(エタノール、ベンジルアルコールなど)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、グリセリンなどの水溶性ベヒクル、油脂などの油溶性ベヒクル)、固体ベヒクル(固形製剤の担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤など)が例示できる。固体ベヒクルは、固形剤(粉剤などの粉粒状固形製剤)の担体として利用される。
【0056】
固体ベヒクルに関し、賦形剤としては、例えば、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトールなどの糖アルコール、白糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖、麦芽糖などの糖類、コーンスターチ、結晶セルロース、リン酸一水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素などが挙げられる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム末、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポビドン(PVP)、ビニルピロリドン共重合体(コポリビドン)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリル酸系高分子(後述するカルボキシビニルポリマーなど)、プルラン、デキストリン、アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、トラガント末、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、コーンスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、部分α化デンプンなどが挙げられる。
【0057】
固体ベヒクルとして、前記結合剤や後述するゲル剤又は粘稠化剤(カルボキシビニルポリマーなど)を用いると、粉粒状の睡眠導入剤(粉剤など)が鼻腔粘膜に対する付着性及び粘膜吸収性を向上でき、薬効成分を有効に利用できる。
【0058】
固体ベヒクルは、さらに他の添加剤、例えば、滑沢剤、流動化剤、着色剤、pH調節剤、甘味剤、香料、防腐剤などを使用してもよい。他の担体成分又は添加剤としては、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、硬化油、マクロゴール6000など)、流動化剤(例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、カオリンなど)、抗酸化剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、保存剤(パラオキシ安息香酸エステル類など)、着色剤、甘味剤(例えば、ショ糖、マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸ジカリウム、アセスルファームK、スクラロースなど)、香料(例えば、L−メントール、ハッカ油、ユーカリ油、オレンジ油、チョウジ油、テレビン油、ウイキョウ油、バニリンなど)、可塑剤(クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、トリアセチン、セタノールなど)、矯味剤又は着香剤(メントールなど)、吸着剤、防腐剤、湿潤剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0059】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどが例示できる。ゲル剤又は粘稠化剤としては、鼻粘膜への刺激を改善し、液ダレを抑制可能な成分、例えば、セルロースエーテル類(メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、アラビアゴム末、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアゴムなど)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール(マクロゴール4000など)などが例示できる。これらの成分のうちカルボキシビニルポリマー(例えば、カーボポール(グッドリッチ社製)、ハイビスワコー(和光純薬(株)製)など)を使用する場合が多い。遊離のカルボキシ基を有するゲル剤又は粘稠化剤(カルボキシビニルポリマーなど)は、塩基(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、アンモニアなどの無機塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、プロパノールアミンなどのアルカノールアミン、リジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸などの有機塩基)との塩を形成してもよい。湿潤剤、ゲル剤又は粘稠化剤の使用量は、例えば、0.001〜20重量%(例えば、0.01〜10重量%)程度の範囲から選択でき、通常、0.1〜5重量%(例えば、0.1〜2.5重量%)好ましくは0.3〜1.5重量%程度であってもよい。
【0060】
等張化剤としては、例えば、生理食塩水、ホウ酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどが例示できる。pH調整剤としては、無機酸類(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ホウ砂など)、有機酸類(酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸など)、無機塩基(水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなど)、有機塩基(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなど)、酢酸アンモニウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、乳酸カルシウムなどが例示できる。
【0061】
乳化剤又は界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、非イオン性界面活性剤[モノステアリン酸グリセリンなどのグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、モノステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタンなどのソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル(ポリソルベート20など)、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル(ポリソルベート80など)など)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテルなど)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルなど)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなど)、マクロゴール類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロキサミンなど)など]が例示できる。
【0062】
緩衝剤としては、慣用の緩衝剤、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、グッド緩衝剤などが例示できる。
【0063】
浸透圧調整剤としては、例えば、糖アルコール類(D−マンニトール、キシリトール、イノシトール、D−ソルビトールなど)、糖類(ブドウ糖、果糖、白糖、マルトース、乳糖などの単糖又はオリゴ糖など)、アルコール類(グリセリンなど)などが例示できる。
【0064】
保存剤又は防腐剤としては、例えば、パラベン類又はパラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アクリノール、セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、フェノキシエタノール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、硫酸ポリミキシンB、ホウ酸、ホウ砂などが例示できる。
【0065】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、これらの成分を含む精油などが例示できる。
【0066】
なお、液剤のpHは、例えば、4〜9、好ましくは4〜7.5、より好ましくは4.5〜7.0(例えば、4.5〜6.5)程度である。液剤の粘度は、室温(例えば、20℃)において、例えば、2〜500mPa・s、好ましくは3〜300mPa・s(例えば、3〜250mPa・s)、さらに好ましくは5〜150mPa・s(例えば、10〜100mPa・s)程度であってもよい。
【0067】
半固形剤の粘度は、室温(例えば、20℃)において、例えば、50〜10000mPa・s(例えば、100〜7500mPa・s)程度の範囲から選択できる。ゲル剤の粘度は、室温(例えば、20℃)において、例えば、50〜7000mPa・s(例えば、100〜6000mPa・s)、好ましくは150〜2000mPa・s、さらに好ましくは200〜1500mPa・s程度であってもよい。
【0068】
本発明の睡眠導入剤は、慣用の方法で製造でき、例えば、液剤は、前記各成分を、常法により液体ベヒクルに溶解又は懸濁させた後、必要によりpHや浸透圧などを調整して無菌ろ過し、容器に充填することにより調製できる。半固形剤(軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤など)は、上記液剤の製造方法において、軟膏基剤、クリーム基剤やゲル剤又は粘稠化剤を用いることにより調製できる。粉剤は、固体ベヒクルを含む各成分を用い、固形製剤の製造方法に準じて調製できる。例えば、各成分を練合し、必要により乾燥して顆粒を調製し、粉砕し、必要により整粒し容器に充填する方法、顆粒や錠剤を調製し、粉末状に粉砕し、必要により整粒し容器に充填する方法などにより調製できる。
【0069】
点鼻睡眠導入剤(又は点鼻睡眠改善剤)は、点鼻可能な形態、例えば、液滴、噴霧剤(噴霧器を用いて噴霧する粉剤、液剤、エアゾール剤など)、洗浄剤、注入剤などの形態で投与できる。点鼻睡眠導入剤(又は点鼻睡眠改善剤)の経鼻的投与(経鼻的全身投与)は、滴下、塗布、噴霧などの形態で行うことができ、噴霧又はスプレーにより投与する場合、手動ポンプ式容器、圧縮ガス(空気、酸素、窒素、炭酸、混合ガスなど)などの噴射剤を容器に充填したエアゾール式容器、一回のプッシュで所定量の薬効成分を噴出可能なプッシュ式容器などが利用できる。
【0070】
粉剤及び噴霧剤の場合、噴霧粒子(粉体粒子又は液滴)の平均粒子径は、例えば、1〜100μm、好ましくは5〜70μm、さらに好ましくは10〜50μm程度であってもよい。
【0071】
本発明は経鼻投与可能な種々の対象物(イヌ、猫、牛、馬などの哺乳動物)、特にヒトに適用できる。睡眠導入剤の投与量は、睡眠障害の程度、年齢、体重などに応じて選択できる。特に、本発明の睡眠導入剤は、投与量が少量であっても短時間内に血中の薬物濃度を高めることができ、有効に睡眠に導入できる。そのため、本発明の睡眠導入剤は、薬効成分の投与量を、従来の経口剤の投与量の3〜50%(好ましくは5〜30%、特に7〜25%(例えば、10〜20%))程度に低減しても、短時間内に睡眠に導入できる。本発明の睡眠導入剤において、薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の一日当たりの投与量は、例えば、体重1kg当たり0.01〜1mg/kg(例えば、0.03〜0.5mg/kg、特に0.05〜1mg/kg)程度の範囲から選択でき、通常、0.05〜0.7mg/kg(例えば、0.06〜0.6mg/kg)、好ましくは0.07〜0.5mg/kg(例えば、0.08〜0.3mg/kg)、さらに好ましくは0.1〜0.25mg/kg程度であってもよい。また、成人(体重60kg)に対する一日当たりの薬効成分(抗ヒスタミン剤など)の投与量は、薬効成分の種類に応じて、0.1〜75mg(例えば、0.5〜50mg)程度の範囲から選択でき、通常、0.1〜50mg(例えば、0.5〜30mg)、好ましくは1〜25mg(例えば、3〜20mg)、さらに好ましくは5〜15mg、特に5〜10mg程度であってもよい。
【0072】
睡眠導入剤は、1日当たり1回又は複数回(2〜4回程度)投与でき、1回の投与として一方の鼻腔又は双方の鼻腔に投与できる。1回の投与量は、一方の鼻腔あたり、液剤では0.1〜1000μL程度の範囲から選択でき、通常、1〜400μL(例えば、10〜200μL)、好ましくは20〜170μL(例えば、30〜150μL)、さらに好ましくは50〜150μL(例えば、70〜120μL)程度であってもよい。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0074】
[製剤例(点鼻剤)]
下記の各成分を秤量し、精製水に溶解した後に、塩酸、水酸化ナトリウムにてpH調整し、精製水で全量を100mLとした。得られた液を点鼻容器に充填し、点鼻剤を得た。なお、表中、水酸化ナトリウムは、カルボキシビニルポリマーの塩を形成するための塩基成分として用いた。
【0075】
【表1】

【0076】
[試験例]
以下のようにして、ジフェンヒドラミンを用い、ラット脳波測定系による睡眠導入作用を検討した。
【0077】
1.試験材料[被験物質および媒体]およびその調製
(1)媒体[0.5%カルボキシルメチルセルロース(CMC−Na)]
CMC−Naの必要量を秤量後、注射用水で0.5w/v%の濃度に溶解した。調製後の0.5%CMC−Na溶液は、被験物質保管室の保管庫内に冷蔵[設定温度:4℃(許容範囲:2〜8℃、実測値:2.3〜5.8°C)]の条件下で保管し、調製後10日以内に使用した。
【0078】
(2)媒体[リン酸緩衝生理食塩水PBS(−)]
PBS(調整用粉末)の必要量を秤量(後、注射用水で9.6mg/mLの濃度に溶解した。調製後のPBS(−)は、当日の投与検体調製に用いた後、残余は廃棄した。
【0079】
(3)投与検体[ジフェンヒドラミン20mg/kg,経口投与(試験1)]
ジフェンヒドラミンの必要量を秤量後、0.5%CMC−Naで、フリー体として4mg/mLの濃度で懸濁又は溶解した(換算係数:1.14)。
【0080】
(4)投与検体[ジフェンヒドラミン1mg/匹(head),経鼻投与(試験2)]
ジフェンヒドラミンの必要量を秤量後、PBS(−)でフリー体として16.7mg/mLの濃度で溶解した(換算係数:1.14)。
【0081】
2.試験系
(1)動物種、系統、供給源および選択理由
Slc:Wistarラット(日本エスエルシー(株))を使用した。本系統は、睡眠脳波測定によく用いられ、その系統維持が明らかであり、集積データが揃っている動物種である。
【0082】
(2)予備飼育
入手した動物は、5日間の予備飼育期間を設けた。この間に体重測定を3回および一般状態の観察を1日1回行い、体重推移および一般状態に異常の認められない動物を用いた。
【0083】
(3)群分け法
後述する予備測定(pre測定)の解析結果を元に、異常が認められなかった動物を選んだのち、コンピュータ(IBUKI)を用いて無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ均一になるように群分けした。
【0084】
(4)個体識別方法
予備飼育した動物は、入手時に予備飼育動物番号を付け、油性インクによる記入法を用いて尾に識別を付した。各ケージには、試験番号、入手年月日、予備飼育動物番号を記入したラベルを取り付けた。
【0085】
(5)環境条件および飼育方法
ラットは、固型飼料(CRF−1、オリエンタル酵母工業(株))を給餌器に入れ自由に摂取させるとともに、給水瓶を用いて水道水を自由に摂取させた。
【0086】
(6)投与
(6-1)試験1における群構成および投与量
(a)後述する予備測定(pre測定)および本測定において、投与検体、投与量及び獲得例数は次の通りである。
【0087】
投与検体1)0.5%CMC−Na;投与量 経口投与0mg(ジフェンヒドラミン)/kg;獲得例数7
投与検体2)ジフェンヒドラミン;投与量 経口投与20mg/kg;獲得例数7
(b)試験1における投与方法
群分け後の動物を用いて、2剤2期クロスオーバー方式(一個体につき、上記2種類の異なる投与検体を休薬期間後、2回の測定において投与)で行った。経口投与はディスポーザブルラット用経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ(株))を用いて行った。
【0088】
(c)試験1における投与液量および投与回数
経口投与は、投与日に最も近い体重測定日の体重値に基づいて5mL/kgとした。投与回数は、脳波測定時毎に1回とした。
【0089】
(6-2)試験2における群構成および投与量
(a)後述する予備測定(pre測定)および本測定において、投与検体、投与量及び獲得例数は次の通りである。
【0090】
投与検体 投与量 獲得例数
投与検体1)PBS(−);投与量 点鼻投与0mg(ジフェンヒドラミン)/head;獲得例数9
投与検体2)ジフェンヒドラミン;投与量 点鼻投与1mg/head;獲得例数9
(b)試験2における投与方法
群分け後の動物を用いて、2剤2期クロスオーバー方式(一個体につき、上記2種類の異なる投与検体を休薬期間後、2回の測定において投与)で行った。投与検体は、すべての群において鼻腔内投与とした。鼻腔内投与は、ディスポーザブルチップ(エッペンドルフ)を取り付けたマイクロピペット(エッペンドルフ)を用いて行った。
【0091】
(c)試験2における投与液量および投与回数
投与液量は、0.03mL×2/匹(head)とした。また、投与回数は、脳波測定時毎に1回とした。
【0092】
3.試験方法
(1)脳波・筋電図測定および観察
試験スケジュールの概要は以下の(a)〜(e)の順序で行った。予備測定(pre測定)で脳波測定の可否を確認後、検体の投与および脳波・筋電位を測定した。各期の測定の間に6日間の休薬期間をおいた。なお、測定は投与1時間前より開始し、検体の投与は午前8時とした。
【0093】
(a)脳波・筋電位測定用電極植え込み(回復期間10日以上)
(b)媒体の投与および予備測定(pre測定)[脳波・筋電位 6時間測定]
(c)検体の投与および本測定[脳波・筋電位 6時間測定](1期)
(d)休薬期間(6日間)
(e)検体の投与および本測定[脳波・筋電位 6時間測定](2期)
(2)脳波・筋電図用電極埋め込み手術
ラットをペントバルビタールナトリウム(ネンブタール注射液、大日本住友製薬(株))40mg/0.8mL/kgの腹腔内投与により麻酔し、脳定位固定装置(Kopf社製)に腹位にして固定した。頸部から頭頂部にかけて切開を行い、頭蓋骨を露出させた。Paxinos and Watsonの脳図譜に従って、bregmaよりA:1mm,L:2.5mm/前頭皮質の右部位、A:−1mm,L:3mm/頭頂皮質の左部位、A:−2.5mm,L:2.5mm/頭頂皮質の右部位に電気ドリルを用いて脳波導出電極用、また、部位(A:3mm、L:2.5mm)に不関電極用の小孔を開けた。大脳皮質の脳波導出用電極および不関電極として、ステンレス製ビスにリード線をハンダ付けして作製したネジ電極を、脳波導出用電極は小孔より大脳皮質の硬膜上に、不関電極は頭蓋骨に留めて設置し、歯科用セメントで固定した。
【0094】
さらに、頸部僧帽筋にステンレス製ワイヤー電極を差し込んで縫い付けて固定した。すべての電極の固定後、リード線をソケットにハンダ付けし、支柱として別に設置したビスとともに歯科用セメントで頭部にソケットを固定した。なお、術中および術後に異常が認められた動物はいなかった。
【0095】
(3)脳波・筋電図測定方法
(3-1)測定時の環境
ラットは、測定開始24時間以上前より投与時まではオートクレーブ処理した床敷(サンフレーク:日本チャールス・リバー(株))を入れた測定ケージ(底面30×30cm、高さ40cmの直方体)の中に入れ、頭部のソケットに脳波導出用リード線を接続して馴化させた。
【0096】
また、投与直後からは、水で湿らせた床敷(を入れた測定用アクリル樹脂製ケージに移して測定を行った。
【0097】
(3-2)測定装置
脳波および筋電位は、頭部のソケットより脳波導出用リード線を多素子生体電極用アンプの入力部にプリアンプを介して誘導し、多素子生体電極用アンプより脳波のアナログ波形をパーソナルコンピューターのA/D変換ボードに入力し、脳波・筋電図集積プログラム(Vital Recorder、キッセイコムテック(株))を用いて脳波・筋電図波形を記録した。
【0098】
(3-3)行動の記録
脳波・筋電図の測定と同時に、CCDカメラを用いて7時間の動物の行動を撮影し、DVDレコーダーのハードディスクに記録し、DVD−Rに複製記録して保存した。
【0099】
(3-4)動物の処理
試験期間中に試験系より除外された動物および試験終了後の動物は、ジエチルエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に廃棄処分した。
【0100】
4.測定データの解析
(1)睡眠−覚醒状態の解析
(1-1)睡眠−覚醒状態の分類
前記項3(3)(3-2)で記録した脳波・筋電図は、睡眠解析研究用プログラム(Sleep Sign ver.2.0、キッセイコムテック(株))を用い、4秒を1エポックとして以下に示すstage1)〜3)に分類した。ただし、最終的なstageの判断は前記項3(3)(3-3)で記録したDVD−Rを用いて視覚的に行い、判定に誤りがないか確認した。なお、得られた脳波の波形は、0−30Hzの範囲で解析した。
【0101】
1)覚醒期(wake):脳波は低振幅の速波を示し、筋電図は、高振幅の速波を示す
2)睡眠期(non-REM):脳波は高振幅の徐波またはspindleを示し、筋電図は、低振幅速波を示す
3)睡眠期(REM):脳波は低振幅の速波を示し、筋電図の活動は認められない。
【0102】
(1-2)睡眠潜時(sleep latency)
投与後、最初の15エポック(60秒)以上持続してnon-REMまたはREM睡眠期が認められるまでの時間を求めた。
【0103】
(1-3)睡眠の質の解析
記録された脳波から周波数解析を行い、0−30Hzの波長帯域を、デルタ(Delta)帯域:0.5−4Hz、シータ(Theta)帯域:4.25−8Hz、アルファ(Alpha)帯域:8.25−13Hz、ベータ(Beta)帯域:13−30Hzの4帯域に分類し、それぞれにPower値の和を算出し、睡眠−覚醒状態を質的に検討した。すなわち、non-REM睡眠期における各周波数帯域のPower値(μV)を求め、totalのPower値の総和に対する各周波数帯域の割合(%)(以下、相対量)を1時間ごとに算出した。
【0104】
5.統計学的方法
有意差検定は、媒体対照群と各投与群の2群間比較検定を行った。2群間比較検定ではF検定による等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定(t-test)、不等分散の場合はWelch検定を行った。有意水準は危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)、1%未満(p<0.01)、0.1%未満(p<0.001)に分けて表示した。なお、有意差検定には、市販の統計プログラムSAS SYSTEM (SAS software ReL.8.2. TS 020. SAS 前臨床パッケージ Version 5.0;SAS Institute Japan(株))を用いて行った。
【0105】
また、媒体投与時の睡眠潜時が40分を未満の個体については、この試験系において睡眠阻害ストレスに対する感受性が希薄な個体とみなし、データを除外した。
【0106】
6.結果
結果を図1〜図6に示す。図1、図3及び図4は、ジフェンヒドラミンの経口投与による試験1で得られた結果(睡眠潜時、睡眠の質(デルタ周波数帯域、ベータ周波数帯域))を示すグラフである。図2、図5及び図6は、ジフェンヒドラミンの経鼻的全身による試験2で得られた結果(睡眠潜時、睡眠の質(デルタ周波数帯域、ベータ周波数帯域))を示すグラフである。なお、図中、有意差検定において、「*」はp<0.05、「**」はp<0.01、「***」はp<0.001を示し、平均値±標準偏差(mean±S.E.)に基づいてグラフ化している。
【0107】
(1)睡眠潜時
(1-1)試験1における睡眠潜時
ジフェンヒドラミン20mg/kgの経口投与は、媒体対照に対して睡眠潜時の有意な短縮を示した(Student’s t-test,p<0.0025)。
【0108】
(1-2)試験2における睡眠潜時
ジフェンヒドラミン1mg/headの経鼻製剤の鼻腔内投与(0.03mL×2)は、媒体対照に対して睡眠潜時について極めて高い有意性をもって短縮した(Student’s t-test,p<0.00028)。しかも、ジフェンヒドラミンの経鼻投与群の平均体重(mean±s.e.,n=9)が317.6±4.6gであることから、体重あたりの投与量に換算すると3.1mg/kgに相当する。従って、試験1において実施した経口投与群における投与量(20mg/kg)の約15.5%程度という極めて低用量においても強力な睡眠導入作用が確認されたことを意味する。すなわち、上記(1-1)試験1での経口投与に比べて経鼻投与することにより、投与量が極めて少量であっても、危険率0.1%未満(p<0.00028)という極めて高い有意性をもって睡眠に導入できることが立証された。
【0109】
(2)睡眠の質の解析
(2-1)試験1におけるnon−REM睡眠時の周波数解析
ジフェンヒドラミン20mg/kgの経口投与では、媒体対照に対して、投与後1〜2時間において深い睡眠の指標となるデルタ帯域の相対量の有意な増加(Student’s t-test,p<0.05)および投与後1〜2時間において覚醒の指標となるベータ帯域の相対量の有意な減少(Student’s t-test,p<0.01)がみられ、低周波数側へのシフトが観察された。このことは、経口投与後1〜2時間においてジフェンヒドラミンによりラットが深い睡眠状態にあることが示された。
【0110】
(2-2)試験2におけるnon−REM睡眠時の周波数解析
媒体対照の投与による各周波数帯域の相対量は、投与後0〜1時間において、デルタ帯域の減少、シータ帯域およびベータ帯域の増加がみられ、それ以降は投与後6時間にわたり大きな変化はみられなかった。
【0111】
ジフェンヒドラミン1mg/headの鼻腔内投与(0.03mL×2)では、媒体対照に対して、投与後0〜1時間において深い睡眠の指標となるデルタ帯域の相対量の有意な増加(Student’s t-test,p<0.05)および投与後0〜1時間において覚醒の指標となるベータ帯域の相対量の有意な減少(Student’s t-test,p<0.01)がみられ、低周波数側へのシフトが観察された。このことから、試験1における経口投与製剤と比較して、経鼻投与製剤は、投与量が極めて少量であっても、投与後速やかに鎮静作用を発揮し、即効性を有することが証明された。一方、これらの周波数変動はいずれも投与後1時間以降には媒体対照と統計学的に有意差を有せず収束したことから、睡眠導入後、速やかにジフェンヒドラミンの作用は減弱し、臨床において副作用となる「薬物の持ち越し効果」は発揮しないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、少ない投与量で即効的に睡眠に導入できるため、不眠症などの睡眠障害の治療に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
催眠作用及び抗ヒスタミン作用を有する薬効成分を含み、経鼻的投与により睡眠に導入する点鼻睡眠導入剤。
【請求項2】
薬効成分がヒスタミンH1受容体拮抗作用を有する請求項1記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項3】
薬効成分が中枢移行性を有する請求項1又は2記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項4】
薬効成分が、エタノールアミン系抗ヒスタミン剤、アルキルアミン系抗ヒスタミン剤、フェノチアジン系抗ヒスタミン剤、ピペラジン系抗ヒスタミン剤、ケトチフェン又はその塩、アゼラスチン又はその塩から選択された少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項5】
薬効成分が、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、アゼラスチン、及びこれらの薬学的に許容される塩から選択された少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項6】
薬効成分が、ジフェンヒドラミン又はその薬学的に許容される塩である請求項1〜5のいずれかに記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項7】
成人に対して一日当たり薬効成分0.1〜50mgが経鼻的に全身投与可能である請求項1〜6のいずれかに記載の点鼻睡眠導入剤。
【請求項8】
粉剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤又は液剤の形態である請求項1〜7のいずれかに記載の点鼻睡眠導入剤。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195716(P2010−195716A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42871(P2009−42871)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】