説明

焙煎植物エキスの製造方法

【課題】焙煎植物原料から水抽出により得られる水性エキスにおいて、好ましい風味成分やコクはそのままに、過剰な苦味を選択的に低減しうる、焙煎植物エキスの製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程;イ)焙煎植物原料(a)に水を通液することによりエキスを得る工程、ロ)得られる水性エキスを静置状態にある焙煎植物原料(b)の抽出残渣に接触させる工程、及び、ハ)接触後の液を採取する工程を含む方法で焙煎植物原料から水性エキスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎植物原料から水抽出により得られる水性エキスにおいて、焦げ苦味が低減された焙煎植物エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆、麦茶用麦、ほうじ茶用茶葉などの焙煎植物原料を焙煎して、熱水等で浸出した液は、コーヒー、麦茶、ほうじ茶などの飲料として多くの人々に愛飲されている。焙煎処理は、焙煎植物原料を熱エネルギーによって化学反応を起こさせ、香り、コク、苦味、酸味、甘味といった独特の香味を生成する。特に、焙煎によって生成する香ばしい香味は極めて嗜好性が高い。
【0003】
焙煎植物原料は、均一に内部まで加熱するのが難しく、焙煎処理においては焦げ味が発生したり、焦げを抑制するために焙煎が浅くなり、焙煎植物原料の中心部分が生焼けとなったりして、その浸出液に苦味や雑味が多くなる等の問題がある。加熱条件を強くして焙煎時間を短くしても、焙煎植物原料の表面だけが焼けて中心部分まで均一に火が通らず、苦いだけでコクのない浸出液となる。
【0004】
そこで、焙煎植物原料から水抽出により得られる水性エキスで、焦げ臭や苦味を低減する方法が提案されている。例えば、焙煎穀物の焦げた部分を除去する精穀工程を含む、焙煎に起因するこげ臭や苦味が少なく、かつ甘味の強い風味の良好な穀物茶飲料を製造する方法(特許文献1)、水性エキス中に存在する微粒子、特に、粒子径が5μm以上の微粒子を除去することにより、苦味を除去する方法(特許文献2)等がある。また、平均再孔半径が30〜100Å付近に分布した活性炭を利用して、コーヒー抽出液中の渋味成分であるクロロゲン酸多量体などの高分子黒褐色成分を選択的に吸着除去する方法(特許文献3)や、酵素処理と、活性炭やPVPP等の吸着処理とを組み合わせ、コーヒー抽出液中の苦味成分であるタンニンやカフェイン等を低減する方法(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−207113号公報
【特許文献2】特開2001−017094号公報
【特許文献3】特許第2578316号公報
【特許文献4】特開2003−310162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来より抽出液(浸出液)中の不快成分である苦味を低減することは行われているが、苦味が十分に取れていなかったり、或いは苦味は取れるが、同時に焙煎植物独特の豊かな香りや風味、コク味までも取れてしまったりして、焙煎植物の浸出液自体の風味を低下させることがあった。
【0007】
本発明は、焙煎植物原料から水抽出により得られる水性エキスにおいて、好ましい風味成分やコクはそのままに、過剰な苦味を選択的に低減しうる、焙煎植物エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、焙煎処理により形成される焙煎植物の多孔質構造の隔壁が、強過ぎる苦味成分と特異的に親和力が高いことを見出した。そして、静置下で隔壁表面が露出した焙煎植物体に焙煎植物の水性エキスを接触させることで、水性エキス中に存在する強過ぎる苦味成分をクロマトグラフィー式に吸着除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に関する。
(1) 以下の工程;
イ)焙煎植物原料(a)に水を通液することによりエキスを得る工程、
ロ)得られる水性エキスを静置状態にある焙煎植物原料(b)の抽出残渣に接触させる工程、及び
ハ)接触後の液を採取する工程
を含む、焙煎植物エキスの製造方法。
(2) 焙煎植物原料(b)が、焙煎植物原料(a)と同属の植物である、(1)に記載の製造方法。
(3) 焙煎植物原料(b)の抽出残渣が、工程イ)により得られる残渣である、(2)に記載の方法。
(4) 工程ロ)に供される水性エキスのBrixが4〜30%である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 工程ロ)に供される水性エキスが、工程イ)にて抽出率20%以下で抽出されたエキスである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(6) 工程ハ)において、採取する焙煎植物エキスの濃度がBrix換算で4〜30%の範囲内であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 焙煎植物原料が焙煎コーヒー豆、焙煎大豆、焙煎麦茶用麦、または焙煎焙じ茎茶である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 焙煎植物原料を水抽出して得られる水性エキスを、焙煎植物原料の抽出残渣に接触させることを特徴とする、焙煎植物エキスの苦味低減方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によると、風味とコク味を維持しながらも過剰な苦味のみが低減された、極めて風味の良い焙煎植物エキスを簡便に得ることができるので、従来の濃いお茶と同等以上に濃く淹れても後味がすっきりとし、焙煎植物自体の個性が際立つ、従来にない飲料が製造できる。本発明の製造方法では微粒子も除去されるので、本発明で得られる水性エキスは、極めて清澄性が高く、雑味が少なく、保存安定性が高いという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の製造方法に用いることができる装置の図であり、抽出カラム1は抽出用の抽出溶媒(水)を送給するためのポンプ2と、抽出エキスを送給するためのポンプ4とで構成され、抽出カラム1の下部には抽出溶媒の供給口と焙煎植物エキスの取出し口(兼用)とが三方弁を介して備えられている。
【図2】図2は本発明の製造方法に用いることができる装置の図であり、抽出カラム1は抽出用の抽出溶媒を送給するためのポンプ2と、抽出エキスを送給するためのポンプ4とが切替弁を介して接続され、抽出カラム1の下部に抽出溶媒の供給口が抽出カラム1の上部に水性エキスの取出し口が備えられている。
【図3】図3は本発明の製造方法に用いることができる装置の図であり、抽出カラムは2機の抽出カラム1a,1bが直列に接続されている。
【図4】図4は本発明の製造方法に用いることができる装置の図であり、抽出カラム1の上部には抽出溶媒の供給口が、抽出カラム1の下部には抽出液(水性エキス)の取出し口が備えられている。
【図5】図5は本発明の製造方法に用いることができる装置の図であり、抽出装置10は上下に開口を有する略円柱状の顆粒収容部20を備え、顆粒収容部20の下端に形成された3方コック付き抽出管80と、抽出管80の3方コック90にチューブ50を介して接続された内径50mm、長さ100mmの熱水容器(ガラス管)40とを有している。
【図6】図6は、穀類(オオムギ)、豆類(ダイズ)、茶類(焙じ茶葉、焙じ茶茎)の電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいう焙煎植物とは、焙煎処理によって水分を蒸発させ、内部の細胞組織を空洞化して多孔質構造を有するものをいう。本発明において使用される植物は、焙煎して多孔質構造を有するものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、オオムギ、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オートムギ、イネ、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ、ソバもしくはハトムギなどの穀類;オーク、サクラ、キハダ、カエデ、トチ、クリ、エンジュ、ケヤキ、ヒノキ、スギ、コウヤマキ、竹、ミズナラ、松、ヒバ、笹、桐、梅、桃、藤、樅、楡、銀杏、椿、柳、桑、チーク、マホガニー、木蓮、柿、杏、花梨、ハマナス、バラ、枇杷、ボケ、キンモクセイ、楠、イチイ、アカシアもしくはウコギなどの樹木;茶類;ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメもしくはインゲンマメなどの豆類などが挙げられるがこれらに限られない。また、使用される部位も限定されず、例えば、発芽させた種子、発芽していない種子、種皮、芽、花、実、茎、葉または根等が挙げられる。図6に、穀類(オオムギ)、豆類(ダイズ)、茶類(焙じ茶葉、焙じ茶茎)の電子顕微鏡写真(SEM)画像を示す。写真から明らかなように、穀類、豆類、焙じ茶茎は、多孔質構造を有しており、吸着剤としての効力が大きいことがわかる。一方、焙じ茶葉は、その多孔質構造は断面のみであり、吸着剤としての効力が大きくない。したがって、本発明の効果をいっそう顕著に発揮する点からは、穀類の種子、豆類の種子、茶類の茎を使用するのが好ましい。なお、本発明では、焙煎植物の多孔質構造を破壊しない範囲内であれば、粉砕等の処理を行ってもかまわない。
【0012】
これら植物を焙煎処理して得られる焙煎植物は、焙煎によってできる多孔質構造の隔壁に、焙煎中に産生した多くの成分を産生した順に層をなして吸着し蓄積しており、特に焙煎の最終段階で産生する苦味の強い成分は、隔壁の最表面に吸着していると考えられている。
【0013】
本発明は、焙煎植物の多孔質構造をカラム(固定相)として利用し、クロマトグラフィー式に強過ぎる苦味成分を捕捉して分離することを特徴とするものである。すなわち、隔壁に吸着している成分を水性溶媒を通液することによっていったん脱着させて隔壁表面を露出させ、これに焙煎植物原料を水抽出して得られる水性エキスを通液することにより、水性エキス中の強過ぎる苦味成分を選択的に吸着除去する。焙煎植物の隔壁表面は、水性溶媒の接触で簡単に露出させることができる。したがって、隔壁表面の露出した焙煎植物として、焙煎植物の抽出残渣を好適に利用することができる。なお、本明細書中でいう抽出残渣とは、隔壁表面が露出する程度に水性溶媒を接触させたものをいい、焙煎植物を洗い及び/又は抽出等の処理を行って吸着成分を脱着させたものを指す。
【0014】
本発明には、カラム型抽出機(以下、単に「抽出カラム」ともいう)を用いて実施できる。カラム型抽出機としては、抽出原料となる焙煎植物を内部に静置状態で収容するための保持部材と、抽出溶媒(水)の供給口と、抽出エキスの取出し口とを備えるものであれば特に限定されるものではない。例えば、カラム型抽出機の上方から抽出溶媒を供給するタイプ、下方から抽出溶媒を供給するタイプ、あるいは双方から抽出溶媒を供給可能なタイプ等が利用できる。本発明は、上記のとおり、多孔質構造の隔壁表面が露出した焙煎植物(抽出残渣)を吸着剤として利用するものであり、その吸着効果を発揮させるためには、抽出残渣を静置状態に収容することが重要である。
【0015】
抽出残渣を静置状態に収容するための保持部材としては、抽出部に内接する板状の部材(保持板)や袋状の部材(保持袋)を例示できる。保持部材は、抽出原料を静置状態に収容できる状態、すなわち抽出溶媒や抽出液の通液により抽出原料が流動しない状態に略密封にされた状態にできるものであれば、その材質や形状は特に限定されない。具体的には、金属メッシュ、不織布(ネル布、リント布など)、紙フィルターなどの網目部材で、フラット、円錐状、角錐状、袋状等の形状のものを用いることができる。網目部材のメッシュを小さくし過ぎると目詰まりが発生しやすく、抽出に時間を要して過抽出を引き起こす可能性があることから、メッシュサイズは金属メッシュの場合、アメリカ式メッシュ20〜200番程度のものを用いるのが好ましい。
【0016】
略密封の状態は、乾燥状態の抽出原料の堆積層の最上面に当接する位置または近接する位置に保持部材が設置することで実現できる。近接する位置とは、抽出原料を抽出溶媒で湿潤させた際に、抽出原料が自然に膨潤する分(空隙)だけ抽出原料の堆積層の最上面から離間した位置をさす。具体的には抽出原料を僅かに圧縮する位置(抽出原料の体積の約0.9倍)から、抽出溶媒に接触させた後の抽出原料の膨潤を考慮し、抽出原料の体積の約2倍(好ましくは約1.5倍)に対応する位置との間の領域内をさす。
【0017】
また、本発明の特徴であるクロマトグラフィー式の分離、すなわち抽出残渣の吸着効果を最大限に発揮させるために、抽出原料の堆積層の形状、すなわち抽出部の形状(断面積と高さの関係)が重要となる。抽出原料の粒度等の特性にもよるが、一般的には、抽出部の軸線の沿う方向の略四角形状の断面形状において、四角形の幅(L)と高さ(H)の比(H/L)が0.1〜10、好ましくは2〜6、より好ましくは3〜6の範囲となるように抽出部に抽出原料を収容するのが好ましい。上記の範囲を超えると、抽出に時間がかかったり詰まりが発生したりして、過抽出を生じることがある。また、上記の範囲未満では、本発明の吸着効果が十分に得られないことがある。ここで、本明細書において、抽出原料を略密封状態で収容する部分、すなわち抽出原料と保持部材とで囲まれる領域を抽出部と表記する。
【0018】
本発明は、以下の工程;
イ)焙煎植物原料(a)に水を通液することによりエキスを得る工程、
ロ)得られる水性エキスを静置状態にある焙煎植物原料(b)の抽出残渣に接触させる工程、及び
ハ)接触後の液を採取する工程
を含むものであり、工程ロ)が上述したクロマトグラフィー式の分離を行う工程である。以下、本発明の製造方法について、その具体的実施の形態を図面に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
図1に示す抽出カラム1は、抽出用の抽出溶媒(水)を送給するためのポンプ2と、抽出エキスを送給するためのポンプ4とで構成され、抽出原料Mを抽出部Eに略密封に収容するための着脱自在な保持部材(保持板)6,7が装着されている。抽出カラム1の下部には、抽出溶媒(水)の供給口と焙煎植物エキスの取出し口(兼用)とが三方弁を介して備えられている。抽出カラム1の抽出部Eに抽出原料Mを保持板6,7で略密封状に収容し、溶媒タンク3からポンプ2により抽出カラム1の下部に設けられた供給口に溶媒を供給する。抽出溶媒はカラム下方から上方に通水される。このようにして、所定量の抽出溶媒を供給して焙煎植物を水抽出物である水性エキスを得る(工程イ))。ここで、所定量の抽出溶媒とは、抽出原料Mの容積に対して0.3〜2倍量程度、好ましくは0.5〜1.5倍量程度、より好ましくは抽出原料Mの堆積層の略上面程度まで注入される量をいう。
【0020】
次いで、抽出部Eにある水性エキスを、ポンプ4を利用して回収タンク5へ回収して焙煎植物エキスを得る(工程ロ)〜ハ))。この態様では、工程イ)で水性エキスを得ることにより隔壁表面を露出させ、これを工程ロ)及びハ)に利用している。このように、抽出溶媒の供給口と水性エキスの取出し口とを、抽出原料Mに対して同じ側に備えると、抽出溶媒が静置状態にある抽出原料の堆積層内を往復動するように流れ、本発明の工程イ)〜ロ)を連続的にかつ簡便に小スペースで実施することが可能である。
【0021】
なお、この態様において、工程ハ)でカラム上方より連続的または間欠的に加水を行い、水性エキスの回収を促進させてもよい。ただし、吸着効果を低減させないため、また抽出原料の中心部に含まれる雑味成分の浸出を抑制するため、回収される焙煎植物エキスのBrixが、4〜30%程度となるように、制御しながら行うことが好ましい。このような抽出を行った場合、焙煎植物エキスの抽出率は20%以下、好ましくは15%以下となる。
【0022】
焙煎植物エキスの抽出率(%)={焙煎植物エキスの重量(g)}×{焙煎植物エキスのBrix(%)}/{抽出原料の重量(g)}
(Brixは糖度計で測定される可溶性固形分を示す。糖度計は株式会社アタゴ製 デジタル屈折計 RX-5000α等を例示できる。)
図2に示す抽出カラム1は、抽出用の抽出溶媒(水)を送給するためのポンプ2と、抽出エキスを送給するためのポンプ4とが切替弁を介して接続され、抽出カラム1の内部には抽出原料Mを抽出部Eに略密封に収容するための着脱自在な保持部材(保持板)6,7が装着されている。抽出カラム1の下部に抽出溶媒(水)の供給口が、抽出カラム1の上部に水性エキスの取出し口が備えられている。抽出カラム1の抽出部Eに抽出原料Mを保持板6,7で略密封状に収容し、溶媒タンク3からポンプ2により抽出カラム1の下部に設けられた供給口に溶媒を供給する。溶媒はカラム下方から上方に通水される。このようにして、所定量の抽出溶媒を供給して焙煎植物を水抽出物である水性エキスを得る(工程イ))。ここで、所定量の抽出溶媒とは、抽出原料Mの容積に対して0.3〜2倍量程度、好ましくは0.5〜1.5倍量程度、より好ましくは抽出原料Mの堆積層の略上面程度まで注入される量をいう。次いで、抽出部Eにある水性エキスを、回収タンク5へ回収する。そして、回収タンク5からポンプ4を利用して、水性エキスを再び抽出カラム1に供給して、取出し口より水性エキスの処理液(焙煎植物エキス)を、回収タンク5’に回収する(工程ロ)〜ハ))。この循環式の抽出方法では、工程イ)で水性エキスを得、この抽出残渣を工程ロ)に利用している。工程イ)における抽出溶媒及び工程ロ)における水性エキスの通液方向は、カラム下方から上方に通水(上昇流)しても、カラム上方から下方に通水(下降流)してもよいが、抽出原料が圧密化によりカラムが閉塞することを防止可能であるという観点からは、図2に示すような上昇流とすることが好ましい。このような循環式の抽出方法では、本発明の工程イ)〜ロ)を連続的にかつ簡便に小スペースで実施することが可能である。
【0023】
図3に示す抽出カラムは、2機の抽出カラム1a,1bが直列に接続されている。抽出用の抽出溶媒(水)を送給するためのポンプ2が備えられ、抽出カラム1a,1bの内部には抽出原料Mを抽出部Eに略密封に収容するための着脱自在な保持部材(保持板)6,7が装着されている。抽出カラム1aの下部には抽出溶媒(水)の供給口が、抽出カラム1aの上部に抽出液(水性エキス)の取出し口が備えられ、抽出カラム1bの下部には水性エキスの供給口が、抽出カラム1bの上部には焙煎植物エキスの処理液の取出し口が備えられている。抽出カラム1aの抽出部Eに抽出原料Mを保持板6,7で略密封状に収容し、抽出カラム1bの抽出部Eに抽出残渣M’を保持板6,7で略密封状に収容する。ここで、抽出残渣M’は図1や図2の態様と異なり、予め用意しておく必要がある。抽出残渣M’は、多孔質構造を有する焙煎植物に洗い及び/又は抽出処理を行って、その隔壁表面を露出させたものであれば、どのようなものでも利用できるが、吸着能の高さと、香味の観点とから、抽出カラム1bに収容する抽出残渣の焙煎植物原料(b)としては、抽出カラム1aに収容する焙煎植物原料(a)と同属の植物を用いることが好ましく、特に同種の植物を用いることが好ましい。
【0024】
溶媒タンク3からポンプ2により抽出カラム1aの下部に設けられた供給口に溶媒を供給すると、溶媒はカラム1a下方から上方に通水され、水性エキスを得る(工程イ))。これをカラム1aの上部に設けられた取出し口より回収し、連続的又は間欠的にカラム1bの下部に設けられた供給口に送給する。カラム1b下方から上方に水性エキスを通水して、水性エキスの処理液(焙煎植物エキス)を回収タンク5へ回収する(工程ロ)〜ハ))。この連続多管式の抽出方法では、工程イ)における抽出溶媒及び工程ロ)における水性エキスの通液方向は、カラム下方から上方に通水(上昇流)しても、カラム上方から下方に通水(下降流)してもよいが、抽出原料が圧密化によりカラムが閉塞することを防止可能であるという観点からは、図3に示すような上昇流とすることが好ましい。このような連続多管式の抽出方法では、本発明の工程イ)〜ロ)を連続的にかつ簡便に小スペースで実施することが可能である。なお、この態様では、吸着効果を低減させないため、また抽出原料の中心部に含まれる雑味成分の浸出を抑制するため、回収される水性エキスのBrixが、4〜30%程度となるように、制御しながら抽出を行うことが好ましい。このような抽出を行った場合、水性エキスの抽出率は20%以下、好ましくは15%以下となる。
【0025】
焙煎植物エキスの抽出率(%)={焙煎植物エキスの重量(g)}×{焙煎植物エキスのBrix(%)}/{抽出原料の重量(g)}
(Brixは糖度計で測定される可溶性固形分を示す。糖度計は株式会社アタゴ製 デジタル屈折計 RX-5000α等を例示できる。)
図4に示す抽出カラムは、抽出用の抽出溶媒(水)を送給するためのポンプ2と水性エキスを送給するためのポンプ4とが備えられ、抽出カラム1の内部には抽出原料Mを抽出部Eに略密封に収容するための保持部材(保持袋)8が装着されている。抽出カラム1の上部には抽出溶媒(水)の供給口が、抽出カラム1の下部には抽出液(水性エキス)の取出し口が備えられている。抽出カラム1の抽出部Eに抽出原料Mを保持袋8で略密封状に収容し、所定量の抽出溶媒を供給する(工程イ))。ここで、所定量の抽出溶媒とは、抽出原料Mの容積に対して0.3〜2倍量程度、好ましくは0.5〜1.5倍量程度、より好ましくは抽出原料Mの堆積層の略上面程度まで注入される量をいう。この抽出原料Mを静置状態で浸漬させた状態で、5〜60分間、好ましくは7〜45分間保持する(工程ロ))。所定時間保持した後に、抽出液を回収する。回収する手段は特に限定されず、重力による自動落下、ポンプによる圧送などが考えられる。多孔質構造の隔壁表面に吸着した焦げ苦味成分を脱着させない目的から、SV(space velocity)=3〜100程度、好ましくはSV=5〜70、より好ましくは5〜50、特に好ましくは6〜40程度で回収するとよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1.大豆エキスの製造
L値17程度に焙煎した大豆を中挽き(平均粒径1〜2mm程度)に粉砕したもの用いて、大豆エキスを製造した。抽出装置には、図5に示す抽出装置10を使用した。抽出装置10は、上下に開口(20A,20B)を有する略円柱状の顆粒収容部20(上部開口20Aの内径:25mm、長さ:250mm)を備え、顆粒収容部20の下端に形成された3方コック付き抽出管(ガラス管/クロマトグラフ管)80と、抽出管80の3方コック90にチューブ50を介して接続された内径50mm、長さ100mmの熱水容器(ガラス管)40とを有している。
【0027】
大豆粉砕物を静置状態で収容するため、顆粒収容部20の底部に保持部材(ネル布)を設置し、その上面に焙煎大豆の粉砕物50gを収容し、この堆積面の上面から僅かに離間した位置(抽出溶媒を接触させ大豆粉砕物が膨潤したときに、膨潤した大豆粉砕物の堆積面の上面が当接する位置)に大豆粉砕物の流動を制するための保持部材(金属メッシュ80程度の周りにシリコンパッキンを装着させカラムとの密着性を高めたもの)110を配置した。3方コック90を操作して下方から抽出部Eに熱水(90℃)90mLを注入し、大豆粉砕物の堆積層を上昇する熱水の表面が上部濾材11に接触したところでコック9を閉じた。続いて、上部開口2Aから抽出部Eに向けて熱水(90℃)1200mLを加え、抽出率が10%程度になるまで大豆エキスを25mLずつ回収した(以下、CC法:Column Chromatographyという)。
【0028】
比較として、従来のドリップ式(カリタ式ドリッパー、型番:102D、2〜4人用)を抽出装置として用いて、同量かつ同一の焙煎大豆(同一の条件で粉砕したもの)と同様の熱水を用いて、大豆エキスを得た(PD法:Paper Drip)。
【0029】
CC法及びPD法で得られた大豆エキスをBrix=1.4となるように希釈し、その香味を、専門パネラー4名で評価した。PD法で製造されたエキスで知覚される苦味の強さを5点とし、本発明のCC法のエキスの苦味の強さを相対評価したところ、その平均値は2.9点であり、苦味の低減がされ顕著に知覚されていた。PD法で製造した大豆エキスは鋭い焦げ苦味があるのに対し、本発明のCC法で得られた大豆エキスは、まったりとマイルドな味わいであり、パネラー全員がPD法に比べてCC法のエキスが美味しい、飲みやすいと評価した。
【0030】
実施例2.麦茶エキスの製造
L値36程度に焙煎した麦茶用麦50gを用い、実施例1と同様にしてCC法及びPD法により焙煎植物(麦茶)エキスを製造した。得られたエキスについて、Brix=0.3となるように希釈し、専門パネラーで評価した。苦味の強さについて、実施例1と同様にしてPD法のエキスと相対評価したところ、本発明のCC法によるエキスは3.5点であった。PD法と比較して焦げ苦みがぬけて、まったりとしたマイルドな味わいであることが確認できた。また、CC法の麦茶エキスを希釈せず、そのまま飲用したところ、Brix=1.4という従来にない濃い濃度であっても、好ましい風味成分やコクを豊かに有し、過剰な苦味のみが適度に低減された極めて美味な飲料であることがわかった。
【0031】
実施例3.
焙煎した焙じ茎茶50gを用い、実施例1と同様にしてCC法及びPD法により焙煎植物(焙じ茎茶)エキスを製造した。得られたエキスについて、Brix=0.3となるように希釈し、専門パネラーで評価した。苦味の強さについて、実施例1と同様にしてPD法のエキスと相対評価したところ、本発明のCC法によるエキスは3.4点であった。また、PD法と比較して干草のようなエグみが抜けており、飲みやすい飲料となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法によると、風味とコク味を維持しながらも過剰な苦味のみが低減された、極めて風味の良い焙煎植物エキスを簡便に得ることができる。従来の濃いお茶と同等以上に濃く淹れても後味がすっきりとし、焙煎植物自体の個性が際立つ、従来にない飲料が製造できる。さらには、微粒子も除去されるので、本発明で得られる水性エキスは極めて清澄性が高く、雑味が少なく、保存安定性が高いという特徴を有し、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程;
イ)焙煎植物原料(a)に水を通液することによりエキスを得る工程、
ロ)得られる水性エキスを静置状態にある焙煎植物原料(b)の抽出残渣に接触させる工程、及び
ハ)接触後の液を採取する工程
を含む、焙煎植物エキスの製造方法。
【請求項2】
焙煎植物原料(b)が、焙煎植物原料(a)と同属の植物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
焙煎植物原料(b)の抽出残渣が、工程イ)により得られる残渣である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程ロ)に供される水性エキスのBrixが4〜30%である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程ロ)に供される水性エキスが、工程イ)にて抽出率20%以下で抽出されたエキスである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程ハ)において、採取する焙煎植物エキスの濃度がBrix換算で4〜30%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
焙煎植物原料が焙煎コーヒー豆、焙煎大豆、焙煎麦茶用麦、または焙煎焙じ茎茶である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
焙煎植物原料を水抽出して得られる水性エキスを、焙煎植物原料の抽出残渣に接触させることを特徴とする、焙煎植物エキスの苦味低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−42707(P2013−42707A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183056(P2011−183056)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】