説明

焙煎穀物抽出液、その製造方法、およびそれを含む飲料

【課題】焙煎穀物抽出液の採液率を改善できる焙煎穀物抽出液の製造方法の提供。
【解決手段】焙煎穀物が、以下の条件:底部面積X平方cmの装置に対し、10×Xg以上の焙煎穀物を投入し、水性溶媒100×Xg以上で抽出した場合の水性溶媒投入開始から1時間以内の採液率が50%以上であることを満たすことを特徴とする、焙煎穀物抽出液の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎穀物抽出液およびその製造方法に関する。また、本発明は、焙煎穀物抽出液を含む飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀物茶は、米、大麦、はと麦、そば、およびとうもろこしなどの穀類をそのまま焙煎したもの、および/または水に浸漬し、蒸煮することで澱粉質をアルファ化した後に焙煎したものを原料としており、そのままもしくは複数の原料を混合して熱水で抽出することで製造されている。また、穀物を使用した茶飲料としては、玄米茶のように焙煎穀物を緑茶と混合して抽出するものや穀物抽出液を茶抽出液にブレンドするものも知られている。
【0003】
穀物茶飲料に用いられる米原料としては、粳米や餅米の精白米を蒸し、乾燥し、焙煎したものの他に、精白米や玄米、籾米を焙煎したもの、発芽させた玄米、および/またはそれを焙煎したものなどがある。さらには、穀粒に麹菌を繁殖させ、その後に焙煎した原料を使用するものとして、焙煎麦麹を用いた麦茶の製造方法(特許文献1)を応用した、焙煎米麹を用いた酒類の製造方法(特許文献2)や玄米入り緑茶の製造方法(特許文献3)が提案されている。
【0004】
穀物茶飲料の製造工程において、米原料のような澱粉質の多い原料を使用する場合は、澱粉質の溶出や糊化の影響が顕著である。従来技術で提案されているような酒類や玄米緑茶飲料などでは、酒類では澱粉質が酵素反応によって低分子化しており、玄米緑茶飲料では穀物茶飲料に比べて短時間で抽出されるため、澱粉質の溶出や糊化の影響が小さい。そのため、製造工程において澱粉質による影響が問題とされてこなかった。
【0005】
以上のように、米原料に関する従来技術は香味や着色などの面からの検討が多く、穀物茶飲料の原料としての製造適性という側面からの検討は不十分であり、製造適性については何の言及もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−112969号公報
【特許文献2】特開平11−332548号公報
【特許文献3】特開平8−275742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、穀物抽出液の製造において、生玄米や米麹を原料とする際に、製造工程における澱粉質の溶出や糊化による採液速度の低下や原料の変質によって、抽出液の採液率が低下することを見出した。製造工程における抽出液の採液率の低下や原料の変質は、歩留まりの悪化によるコスト増加や、洗浄にあたり多大な労力や時間を費やすなど、飲料製造にとって大きな問題となる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、製造工程において、焙煎穀物抽出液の採液率を改善できる、焙煎穀物抽出液の製造方法を提供することを目的とする。また、このような製造方法により製造された、焙煎穀物抽出液およびそれを含む飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、製造に用いる焙煎穀物について、底部面積X平方cmの装置に対し、10×Xg以上の焙煎穀物を投入し、水性溶媒100×Xg以上で抽出した場合の水性溶媒投入開始から1時間以内の採液率を評価することで、香味等に優れた焙煎穀物抽出液を高効率で得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、焙煎穀物に水性溶媒を加えて、焙煎成分を抽出する工程と、抽出液を採取する工程とを含んでなり、焙煎穀物が、以下の条件:底部面積X平方cmの装置に対し、10×Xg以上の焙煎穀物を投入し、水性溶媒100×Xg以上で抽出した場合の水性溶媒投入開始から1時間以内の採液率が50%以上であることを満たすことを特徴とする、焙煎穀物抽出液の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の焙煎穀物抽出液の製造方法により製造された焙煎穀物抽出液およびそれを含む飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造工程において、焙煎穀物の採液率を向上させ、効率的に抽出液を得ることができる。また、他の穀物抽出液と混合した抽出液や、焙煎生玄米および/または焙煎米麹を他の穀物と同時に抽出した抽出液を飲料原料として用いることで、香味に優れ、甘さや香ばしさのバランスのとれた飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
焙煎穀物
本発明においては、焙煎穀物として、生玄米を焙煎した焙煎生玄米および/または米麹を焙煎した焙煎米麹を用いる。焙煎穀物は、好ましくは20〜40のL値、より好ましくは25〜35のL値を有するものである。本発明においては、異なるL値を有する2種以上の焙煎穀物を混合して用いてもよく、混合した焙煎穀物のL値の平均値が上記範囲内であればよい。
【0014】
本発明において、焙煎生玄米とは、未精白の玄米を焙煎したものである。焙煎生玄米は、好ましくは25〜35のL値、より好ましくは30〜33のL値を有する。
【0015】
本発明において、焙煎米麹とは、白米を蒸して、麹菌を繁殖させ、乾燥した後、糖化させずに焙煎したものである。焙煎米麹は、好ましくは20〜40のL値、より好ましくは25〜35のL値を有する。
【0016】
上記のL値とは、焙煎穀物の明度のことであり、色差計によって得られる値である。
【0017】
焙煎成分
本発明において、焙煎成分とは、上記の穀物を焙煎することにより生じる成分、例えば、苦み成分、甘み成分、コク味成分、香気成分、および着色成分等である。本発明においては、焙煎成分は水溶性であることが好ましい。
【0018】
焙煎穀物抽出液の製造方法
本発明において、焙煎穀物抽出液の製造方法は、抽出工程および採取工程を含むものである。好ましい態様によれば、穀物は、抽出工程、採取工程の順に処理される。なお、抽出工程と採取工程は同時に行われてもよい。
【0019】
焙煎工程
本発明において、焙煎工程とは、穀物を焙煎し、焙煎穀物を得る工程である。焙煎工程により、穀物中に焙煎成分を生じさせることができる。本発明においては、穀物として、生玄米および/または米麹を用いる。焙煎方法としては、公知の焙煎方法を用いることができる。焙煎工程において、穀物の焙煎度を調節することで、焙煎穀物のL値を特定の範囲内、好ましくは20〜40の範囲に調整することができる。このように焙煎して得られた焙煎穀物を抽出工程に付すことができる。
【0020】
抽出工程
本発明において、抽出工程とは、焙煎穀物に水性溶媒を加えて、焙煎成分を抽出する工程である。好ましい態様によれば、焙煎穀物に、生玄米および米麹以外の他の穀物、豆類、ならびに茶類からなる群から選択される1種以上を加えて同時に抽出してもよい。抽出工程としては、公知の抽出工程を用いることができる。好ましい態様によれば、抽出工程は、焙煎穀物の質量に対して100〜1000%、好ましくは200〜500%の質量の水性溶媒を加えて、焙煎穀物を水性溶媒に浸積した状態で保持するのがよい。浸積状態は、水性溶媒投入開始から1〜60分、より好ましくは5〜50分持続されるのがよい。抽出工程は、静置してもよいし、撹拌してもよい。抽出工程では、抽出工程に用いる装置の形態ならびに水性溶媒の種類および添加量等に応じて、抽出条件を設定することができる。
【0021】
採取工程
本発明において、採取工程とは、焙煎成分を抽出した抽出液を採取する工程である。採取工程としては、公知の採取工程を用いることができる。好ましい態様によれば、採取工程では、水性溶媒をさらに加えてもよい。採取工程では、焙煎穀物の質量に対して100〜2000%、好ましくは200〜1500%の質量の水性溶媒を加えてよい。また、追加の水性溶媒は、抽出工程に用いた水性溶媒と同様の組成および/または温度でもよいし、異なる組成および/または温度でもよい。採取工程では、採取工程に用いる装置の形態や水性溶媒の種類および添加量等に応じて、抽出液を採取する速度や追加の水性溶媒の添加速度を設定することができる。なお、抽出工程と採取工程は、同一のまたは連結した装置を用いることが好ましいが、異なる装置を用いてもよい。
【0022】
採液率
本発明では、焙煎穀物が、以下の条件:底部面積X平方cmの装置に対し、10×Xg以上、好ましくは10×Xg以上20×Xg以下の焙煎穀物を投入し、水性溶媒100×Xg以上、好ましくは100×Xg以上200×Xg以下で抽出した場合の、水性溶媒投入開始から1時間以内、好ましくは30分以上1時間以内の採液率が50%以上、好ましくは60%以上であることを満たすものである。焙煎穀物の種類やL値を変更することで、採液率を制御することができる。本発明において、採液率とは、製造工程(抽出工程および採取工程)に用いた水性溶媒の質量(供給量)に対する、採取された焙煎穀物抽出液の質量の割合のことである。具体的には、採液率は、焙煎穀物抽出液の採液量を用いて、
採液率=(採液量/供給量)×100
と表すことができる。
【0023】
その他の穀物、豆類、茶類
本発明において、上記の焙煎穀物の抽出と同時に用いられる、生玄米および米麹以外の他の穀物、豆類、ならびに茶類としては、以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他の穀物としては、例えば、大麦(二条大麦、六条大麦、裸麦等)や小麦、はと麦、炒り米、発芽玄米、古代米(黒米、赤米、緑米等)そば、とうもろこし、ごま、粟、稗、黍、キヌア、およびアマランサスからなる群から選択される1種以上を用いることができ、好ましくは大麦、はと麦、およびとうもろこしである。豆類としては、大豆、黒大豆、ソラマメ、インゲン豆、および小豆からなる群から選択される1種以上を用いることができる。茶類としては、緑茶、烏龍茶、紅茶、および後発酵茶からなる群から選択される1種以上を用いることができ、好ましくは緑茶である。
【0024】
水性溶媒
本発明において、抽出工程および採取工程で用いる水性溶媒としては、水、熱水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、およびアルコールからなる群から選択される1種以上を用いることができ、好ましくは熱水である。また、水性溶媒の温度は特に限定されないが、好ましくは80〜100℃、より好ましくは90〜100℃である。
【0025】
焙煎穀物抽出液、飲料
本発明の焙煎穀物抽出液は、上記の焙煎穀物抽出液の製造方法により得られるものである。また、本発明の飲料は、上記の焙煎穀物抽出液の製造方法により得られた焙煎穀物抽出液を含むものである。本発明において、飲料は、生玄米および米麹以外の他の穀物、豆類、ならびに茶類からなる群から選択される1種以上から得られる抽出液をさらに含んでもよい。これらの生玄米および米麹以外の他の穀物、豆類、ならびに茶類としては、上記のものが挙げられるが、上記に限定されるものではない。また、抽出工程と同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。製造される飲料は特に限定されないが、穀物茶飲料および緑茶飲料などの無糖茶飲料、加糖飲料、乳飲料、コーヒー飲料、ならびに炭酸飲料などがあり、好ましくは無糖茶飲料である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0027】
1.焙煎生玄米および焙煎米麹の製造
未精白の玄米、および精白米を蒸して麹菌を繁殖させた後、乾燥させた米麹を焙煎して、L値48〜33の焙煎生玄米およびL値50〜24の焙煎米麹を得た。また、国産の精白米を蒸して乾燥した後、焙煎して、L値32の炒り米を得た。焙煎穀物のL値は色差計ZE−6000(日本電色工業製)を用いて測定した。
【0028】
2.焙煎穀物抽出液の製造(I)
1で得られた焙煎生玄米、焙煎米麹、および炒り米を、底部に80メッシュ板を有する直径10cmの円筒に800g投入し、熱水2000gを投入した後30分静置し、その後200g/分の流量で熱水6000gを投入しながら底部から抽出液を採取した。焙煎穀物の焙煎度(L値)および採液率の結果を表1に示す。
【0029】
3.焙煎穀物抽出液の評価
2で得られた焙煎穀物抽出液の官能評価(評価項目:香味、甘さ、香ばしさ、およびバランス)を、茶に習熟したパネリスト5名により行った。各評価項目の基準は以下のとおりである。官能評価の結果を表1に示す。
評価基準
・○:(5段階評価で4〜5点)
・△:(5段階評価で3〜4点)
・×:(5段階評価で3点未満)
【0030】
【表1】

【0031】
以上の結果から、焙煎生玄米はL値35以下で採液率が60%以上となり、焙煎米麹はL値36以下で採液率が60%以上となり、製造工程における焙煎穀物抽出液の採液率を向上できることがわかった。
【0032】
4.焙煎穀物抽出液の製造(II)
1で得られた焙煎生玄米および焙煎米麹を、底部に80メッシュ板を有する直径80cmのコーヒー抽出機に60kg投入し、25L/分の流量で熱水220kgを投入した後2分静置し、その後25L/分の流量で熱水720kgを投入しながら抽出機底部から抽出液を採取した。焙煎穀物の焙煎度(L値)および採液率の結果を表2に示す。
【0033】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎穀物に水性溶媒を加えて、焙煎成分を抽出する工程と、
抽出液を採取する工程と
を含んでなり、
穀物が、生玄米および/または米麹であり、
焙煎穀物が、以下の条件:
底部面積X平方cmの装置に対し、10×Xg以上の焙煎穀物を投入し、水性溶媒100×Xg以上で抽出した場合の水性溶媒投入開始から1時間以内の採液率が50%以上であること
を満たすことを特徴とする、焙煎穀物抽出液の製造方法。
【請求項2】
焙煎生玄米が、25〜35のL値を有し、焙煎米麹が、20〜40のL値を有する、請求項1に記載の焙煎穀物抽出液の製造方法。
【請求項3】
水性溶媒をさらに加えて前記抽出液を採取する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水性溶媒が、水、熱水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、およびアルコールからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記焙煎穀物に、生玄米および米麹以外の他の穀物、豆類、ならびに茶類からなる群から選択される1種以上を加えて抽出する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、焙煎穀物抽出液。
【請求項7】
請求項6に記載の焙煎穀物抽出液を含んでなる、飲料。
【請求項8】
生玄米および米麹以外の穀物、豆類、ならびに茶類からなる群から選択される1種以上から得られる抽出液をさらに含んでなる、請求項7に記載の飲料。

【公開番号】特開2011−177109(P2011−177109A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44616(P2010−44616)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】