説明

無アルカリガラスを用いたセラミックス材料およびセラミックス構造体の製造方法

【課題】不要となり回収された無アルカリガラスの資源として有効に利用可能な用途を提供し、さらに電子部品や機械部品へ用いることができる高い電気特性、機械特性を有したセラミックス構造体が製造可能な、安価なガラスセラミックス材料、およびセラミックス構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とからなるセラミックス材料、ならびに、無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とを混合し、850〜1000℃の温度で焼成するセラミックス構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、ガラスセラミックス材料に関し、より特定的には、無アルカリガラスを原料としたセラミックス材料に関する。また、本発明は上記セラミックス材料を用いたセラミックス構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた液晶テレビなどの家電製品、パソコン、携帯端末などの製品が急速に普及している。ここで、上述した液晶パネルとは、貼り合せた2枚のガラス基板の内側に液晶材料を注入、封入し、各ガラス基板の外側に偏光板(樹脂)を貼り付けたものを指す。液晶パネルを用いた製品の普及に伴い、液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)の数量も急激に増加しているが、環境との共存が期待される循環型社会の形成の中、廃液晶パネルについてもリサイクルし資源を有効に利用することが要望されている。
【0003】
現在、家電製品や情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルは、廃棄物の量としては少ないこともあって、廃棄物の処理施設にて製品ごとに破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストと共に、埋め立て処理あるいは焼却処理されている。
【0004】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネル、ならびに、家電製品、情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置、液晶パネルの処理方法として、特開2000−84531号公報(特許文献1)には、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し珪石の代替材料として処理する方法が開示されており、一部で実施されている。この方法では、液晶パネル中のガラス成分は、スラグ中へ入り込む。
【0005】
また、特開2000−351664号公報(特許文献2)には、ガラス廃棄物と、粘土と、セラミックス廃棄物を原料として、タイル、レンガや各種ブロックなどのセラミックス製品を製造する方法が開示されている。この特許文献2に記載された方法は、粉砕したガラス廃棄物50〜80重量%と、粘土10〜45重量%と、粉砕したセラミックス廃棄物5〜40重量%より合計100重量%の組成物を調整し、成形、乾燥後1000℃〜1200℃で焼成する方法である。
【0006】
特開2002−308646号公報(特許文献3)には、ソーダ石灰ガラス微粉末を主原料とし、825〜900℃の温度範囲において焼成してなる結晶としてワラストナイトのみを含んでいると共にSiO2、CaO、Na2OおよびB23を主成分とするワラストナイト系低温焼成ガラスセラミックスが開示されている。ソーダ石灰ガラス微粉末として、びんガラスなどの廃ガラスを粉砕したものを用いる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2000−351664号公報
【特許文献3】特開2002−308646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液晶パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、廃液晶パネルも、数・量ともに急激に増大すると予想される。したがって、液晶パネルの重量の大半を占めるガラスについても、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、再生利用することが好ましい。しかしながら特許文献1に開示された方法では、液晶パネルのガラスはスラグとなりセメント材料として再利用することを意図しているため、ガラス自体として再生利用することはできない。
【0009】
資源有効利用の観点からは、回収された液晶パネルガラスを再び液晶パネルガラス自体としてマテリアルリサイクルすることが望ましい。しかしながら、液晶パネルガラス表面に付着している不純物、ガラス組成の異なる数多くの品種が存在することなどの理由で、光学的、熱特性の厳しい仕様が求められる液晶パネルガラスにリサイクルすることは、技術的に確立されていない。そのため、回収した液晶パネルガラスの、液晶パネル用ガラス以外の高付加価値製品としての用途開発が課題となっている。
【0010】
なお、液晶パネルガラスには無アルカリガラスと呼ばれるガラスが通常用いられており、無アルカリガラスの歪点は、650℃以上である。無アルカリガラスは、液晶パネルの製造工程に適合するようにつくられた特殊なガラスである。これに対し、びんガラス、建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなど幅広くガラス製品に用いられているソーダライムガラスの歪点は、550℃以下である。このように、100℃以上歪点が異なるため、一般的にガラス製品に使用されるソーダライムガラスの溶融加工設備で、再生利用のための無アルカリガラスの溶融加工を行うことは、加熱設備の性能、設備全般の耐熱性などの点で非常に困難である。また溶融温度の高い無アルカリガラスを、通常はソーダライムガラスを原料として使用する建築用窓ガラス、ガラス繊維、食器ガラスなどの汎用的な製品へ使用することは、エネルギー消費の観点からも不利となる。このように、通常のソーダライムガラス製品の原料としての用途に用いる方法は技術的に確立されていないのが現状である。このため、不要となった液晶パネルガラスの用途として、現状の製造工程の温度と比較し加工温度が上昇しない用途に用いる再資源化方法が望まれている。
【0011】
特許文献2に示した方法は、ガラス廃棄物を粘土およびセラミックス廃棄物と混合することにより、セラミックス製品と比較し低い焼成温度で製造可能であるが、ガラス相が連続相として製品中に存在する。そのため、セラミックス原料のみを用いたセラミックス製品と比較し機械特性および熱特性が劣り、建材などの用途に用いることはできるが、電子部品や機械部品のような高付加価値なセラミックス製品に使用するには課題がある。
【0012】
特許文献3に示した方法は、びんガラスなどのソーダ石灰ガラスを原料として、825〜900℃といった比較的低温での焼成でガラスセラミックスを製造可能であるが、ソーダ石灰ガラスはアルカリ成分を含むため可動イオンが存在するため、高温での電気絶縁性の低下に課題がある。また、アルカリ成分により、機械特性に課題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは不要となり回収された無アルカリガラスの資源として有効利用可能な用途を提供し、さらに電子部品や機械部品へ用いることができる高い電気特性、機械特性を有したセラミックス構造体が製造可能な、安価なガラスセラミックス材料を提供することである。
【0014】
また、本発明の別の課題は、不要となり回収された無アルカリガラスを原料として用い、高い電気特性、機械特性を有し、低コストなセラミックス構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とからなることを特徴とする。
【0016】
本発明のセラミックス材料における無アルカリガラス粉末は、液晶パネルガラスを粉砕して得られたものであることが好ましい。
【0017】
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とからなることが、好ましい。
【0018】
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末がSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有することが、より好ましい。
【0019】
本発明はまた、無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とを混合し、850〜1000℃の温度で焼成するセラミックス構造体の製造方法についても提供する。
【0020】
本発明のセラミックス構造体の製造方法において、無アルカリガラス粉末が、液晶パネルガラスを粉砕して得られたものであることが、好ましい。
【0021】
本発明のセラミックス構造体の製造方法においては、焼成により主結晶相としてワラストナイトを、他の結晶相としてはアノーサイトおよび/またはディオプサイトおよび/またはゲーレナイトを析出させることが、好ましい。
【0022】
本発明のセラミックス構造体の製造方法は、無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とを混合することが、好ましい。
【0023】
本発明のセラミックス構造体の製造方法における焼成温度は875〜950℃の範囲内であることが好ましい。
【0024】
本発明のセラミックス構造体の製造方法において、無アルカリガラス粉末はSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有することが、好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のガラスセラミックス材料によれば、不要となった液晶パネルなどから回収された無アルカリガラスを高付加価値なセラミックス構造体へと有効に利用することが可能となる。また、高品質で安価なガラスセラミックス材料を提供することが可能となる。
【0026】
また本発明は、ガラスセラミックス構造体の製造方法をも提供することができる。このような本発明の方法によれば、不要となった液晶パネルから回収された無アルカリガラスをセラミックス構造体へと有効に利用することが可能となる。安価なセラミックス構造体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のセラミックス材料に好適に用いられる液晶パネルガラスを備える液晶パネル1を模式的に示す断面図である。
【図2】900℃で焼成して得られた各組成比の焼成体(セラミックス構造体)のX線回折パターンである。下から、ガラス粉末:炭酸カルシウム(重量比)=100:0、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80である。
【図3】900℃で焼成して得られた焼成体(セラミックス構造体)のX線回折パターンである。
【図4】焼成温度とかさ密度および開気孔率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<セラミックス材料>
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とからなることを特徴とする。本発明において用いられる無アルカリガラス粉末は、資源として有効利用が望まれる液晶パネルガラスを、高付加価値なセラミックス製品の原料として利用できることから、液晶パネルガラスを粉砕しれ得られたものであることが、好ましい。本発明者らは、不要となった液晶パネルガラスを粉砕して得られた無アルカリガラス粉末が、ガラスセラミックスの原料として利用でき、これを原料として製造したガラスセラミックスは、電子部品や機械部品に用いることができる特性を持つことを見出した。なお、本発明においては、無アルカリガラスの粉末であれば、必ずしも液晶パネルガラスを粉砕して得たものでなくてもよい。
【0029】
図1は、本発明のセラミックス材料に好適に用いられる液晶パネルガラスを備える液晶パネル1を模式的に示す断面図である。図1に示す例の液晶テレビから取り出された液晶パネル1は、たとえば、対向配置された厚さ0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚さ4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)には、厚さ0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。本発明のセラミックス材料は、このような液晶パネルから得られた液晶パネルガラスを粉砕して用いる。
【0030】
無アルカリガラス粉末の調製は、たとえば以下のような手順で行う。まず、取り出された、たとえば図1に示すような構造の液晶パネル1から偏光板5を除去する。偏光板5の除去は、公知の機械的な方法を利用する。次に、貼り合わされたガラス基板2a,2bを、2枚に分離する。具体的には、ガラス基板におけるシール樹脂体3よりも内側の四辺を、該シール樹脂体3に沿って、ダイヤモンドソーやガラスカッターなどの切断工具を用いて矩形状に切断する。その後、必要に応じて外力を加えることにより、元の大きさよりも一回り小さい大きさのガラス基板を、液晶パネルから切断して取り外す。ガラス基板が取り外されると、封入されていた液晶層4が開封され、液晶は、ガラス基板に付着した状態で露出する。次に、液晶が露出したガラス基板から樹脂性のスキージを用いてかき取ることによって液晶を除去する。このようにして、液晶パネルから無アルカリガラスが回収できる。
【0031】
液晶パネルなどから回収された無アルカリガラスには、通常、カラーフィルタに使用される有機物薄膜、TFT(Thin Film Transistor)に使用される金属薄膜および無機物薄膜などの不純物が付着している。このような不純物は、たとえばサンドブラスト、回転研磨などの従来公知の機械的手法、ならびに、たとえば酸性溶液、有機溶媒によるエッチングなどの従来公知の化学的手法を適宜組み合わせることで、除去することができる。
【0032】
このように使用済み液晶テレビから取り出した液晶パネルから回収され、不純物を除去した後の無アルカリガラスをジェットミルなど従来公知の技術により粉砕し、無アルカリガラス粉末を得る。
【0033】
本発明に用いられる無アルカリガラス粉末は、SiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%という組成のものであることが好ましい。これは、元来、液晶パネルガラスとしての光学的性質、熱的性質、電気的性質を満足するための組成であるが、本発明のセラミックス材料を焼成して得られたセラミックス構造体において、セラミックス相が生成され、良好な電気特性、機械特性が得られるという効果がある。B23成分はガラスの融点を下げる効果があり、ガラス相の結晶化温度を低下させる効果がある。上記無アルカリガラス粉末の組成は、ガラス製品に幅広く用いられるソーダライムガラスの組成と異なり、Naなどのアルカリ元素を含まないため、可動イオンが少なく、それにより、焼成して得られたセラミックス構造体が良好な電気特性および機械特性を示すといった利点がある。さらに、Naを含まないことは、広い焼成温度帯を示すといった効果も奏する。
【0034】
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末)30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とからなる。無アルカリガラス粉末が30重量%未満である(上記化合物粉末が70重量%を超える)場合には、無アルカリガラス粉末に対し相対的に上記化合物粉末の割合が増加し、焼成温度が上記化合物粉末のみを原料とする場合の焼成温度近くにまで上昇してしまうため、エネルギー消費の観点から望ましくない。また、液晶パネルガラスの資源有効利用の観点から、無アルカリガラス粉末の混合割合は多いほどよいが、無アルカリガラス粉末が80重量%を超える(上記化合物粉末が20重量%未満である)場合には、焼成して得られたセラミックス構造体中に存在するガラス成分が多くなり、機械的強度が劣る傾向にある。
【0035】
本発明のセラミックス材料は、無アルカリガラス粉末(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末)50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とからなるものであることが好ましい。無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、前記化合物粉末50〜30重量%とすることにより、無アルカリガラス粉末と上記化合物粉末が反応、ガラス相が結晶化し、良質なセラミックス材料が得られるためである。無アルカリガラス粉末が50〜70重量%存在することで、焼成温度が低下するという利点もある。
【0036】
本発明のセラミックス材料に用いられる上記化合物粉末は、カルシウムを含むことで、セラミックス材料を焼成する際に、ワラストナイト相が析出させることができる。これにより、ワラストナイト相を主結晶相として含むセラミックス構造体が製造される。本発明のセラミックス材料を用いて製造したワラストナイト相を含むセラミックス構造体は、具体的には、比誘電率が5〜6、体積抵抗率が室温において1×1013Ω・cm以上であって、かさ密度が2.4g/cm3以上、曲げ強さが100MPa以上であり、回路基板や小型絶縁部品などに実用可能な電気特性と機械特性を具備している。
【0037】
カルシウムを含む化合物粉末としては、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)粉末、酸化カルシウム(CaO)粉末、ケイ酸カルシウム(CaO・mSiO2・nH2O)粉末などが用いられるが、炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウム微粉末が入手性や取扱い性などの点から好ましい。ガラス微粉末中のSiO2、CaOに水酸化カルシウムなどのCa成分を加えることによってワラストナイト結晶(CaO・SiO2)が析出する。
【0038】
<セラミックス構造体の製造方法>
本発明はまた、無アルカリガラス粉末(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末)30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とを混合し、850〜1000℃の温度で焼成する、セラミックス構造体の製造方法についても提供する。焼成温度が850℃未満である場合には、焼成が不十分で熱収縮率が小さく、緻密化が不十分である可能性があるためであり、また、焼成温度が1000℃を超えると溶融してしまうためである。本発明のセラミックス構造体の製造方法では、Alを含み、Naを含まない組成である無アルカリガラス粉末(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末)を用いているため、このように焼成温度帯が広く、製造プロセス面で有利である。なお、ワラストナイト(CaO・SiO2)、ならびに、アノーサイト(CaO・Al23・2SiO2)および/またはディオプサイト(CaO・MgO・2SiO2)およびゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)が析出する温度範囲であるため、焼成温度は875〜950℃であることが好ましい。
【0039】
本発明のセラミックス構造体の製造方法においても、本発明のセラミックス材料について上述したのと同様に、化合物粉末がカルシウムを含むことで、焼成によって主結晶相としてワラストナイトを、他の結晶相としてはアノーサイトおよび/またはディオプサイトを析出させることができる。主結晶相としてワラストナイトを析出させることで、得られたセラミックス構造体が低誘電率のため高周波電気絶縁材料としての用途に好適であり、また電気絶縁性、機械的強度が向上されるという利点がある。
【0040】
また本発明のセラミックス構造体の製造方法においても、本発明のセラミックス材料について上述したのと同様に、無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とを混合することが好ましい。また、無アルカリガラス粉末(好ましくは液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末)がSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有することが好ましい。
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
上述のようにして、液晶パネルから無アルカリガラスを回収し、ジェットミルを使用して無アルカリガラス粉末を作製した。得られた無アルカリガラス粉末は、メディアン径6μm、90%径10μmの粒径を持つ無アルカリガラス粉末であった。得られた無アルカリガラス粉末と、カルシウムを含む化合物粉末として炭酸カルシウム粉末とを、重量%で無アルカリガラス粉末:炭酸カルシウム粉末=100:0、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80という割合となるよう調合し、ボールミルにて混合した後、所定量の結合剤を添加し、該混合物を造粒し、圧力30MPaにて所要形状に金型プレス成形して成形品を得た。
【0043】
焼成温度900℃における、上記調合比の焼成体(セラミックス構造体)をX線回折測定による分析を行ったところ、無アルカリガラス粉末の含有量として30重量%以上、80重量%以下である調合比を有する焼成体では、主結晶としてワラストナイト(CaO・SiO2)が生成していた。他の結晶相としてはアノーサイトおよび/またはディオプサイドおよび/またはゲーレナイトなどの生成が認められた。ワラストナイト系セラミックスが得られていた。900℃焼成体のX線回折パターンを図2に示す。
【0044】
次に、上述と同様に得られた無アルカリガラス粉末62.7重量%に、カルシウムを含む化合物粉末として炭酸カルシウム粉末37.3重量%を加え、エタノールを媒体とした湿式ボールミル混合の後、所定量の結合剤を添加し、該混合物を造粒し、圧力30MPaにて所要形状に金型プレス成形して成形品を得た。
【0045】
次いで、前記成形品を100℃/hで昇温し、温度800〜1000℃で2時間保持して焼成して焼成温度800℃における焼成体、焼成温度850℃における焼成体、焼成温度875℃における焼成体、焼成温度900℃における焼成体、焼成温度925℃における焼成体、焼成温度950℃における焼成体および焼成温度1000℃における焼成体を作製した。
【0046】
焼成温度800℃、850℃、875℃、900℃、925℃、950℃、1000℃での焼成体をX線回折分析したところ、焼成温度800℃における焼成体では出発原料のCaCO3のピークが認められた。ここで、図3は、900℃で焼成して得られた焼成体(セラミックス構造体)のX線回折パターンである。なお、X線回折には全自動X線回折装置(型番:MXP3、株式会社マック・サイエンス製)を使用し、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)PDF(Powder Diffraction File)No.10−48、No.10−489、No.29−372、No.27−88を基準パターンとした。焼成温度850℃以上の焼成体は、主結晶としてワラストナイト(CaO・SiO2)が生成していた。他の結晶相としてはアノーサイトおよびディオプサイトの生成が認められた。ワラストナイト系セラミックスが得られていた。
【0047】
図4は、焼成温度とかさ密度および開気孔率の関係を示すグラフであり、左側の縦軸が開気孔率(%)、右側の縦軸がかさ密度(g/cm3)、横軸が焼成温度(℃)である。かさ密度および開気孔率はアルキメデス法により測定した。図4から、焼成温度875℃で最も緻密化しており、かさ密度が最大2.54g/cm3、開気孔率が0.0%となっていることが分かる。焼成温度875〜950℃では開気孔率が0.0%であった。875〜950℃で焼成することにより、緻密なセラミックス構造体が得られることが確認できた。また、本発明のセラミックス構造体の製造方法は、焼成温度帯が広く、製造プロセス面で利点があることが確認できた。これは、ガラス組成にAlを含み、Naを含んでいないことによる効果である。
【0048】
焼成温度900℃における焼成体の機械特性を、JIS R1601(JIS R2141:電気絶縁用セラミック材料試験方法/試験条件は同じ)に準拠する曲げ強さ(MPa)、ビッカース硬さにより測定した。曲げ強さが113MPa、ビッカース硬さが487HVであった。これに対し、磁器の曲げ強さが80MPa、ビッカース硬さが200HVであり、本発明のガラスセラミックス材料から製造したセラミックス構造体は、磁器よりも優れた機械的強度を持つことが確認できた。
【0049】
焼成温度900℃焼成体における電気特性を、JIS C 2141に準拠する100MHzにおける比誘電率および体積抵抗率により測定した。比誘電率が6.1、室温での体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上であった。これに対し、磁器の比誘電率は5.6、室温での体積抵抗率は1×109Ω・cmであり、本発明のガラスセラミックス材料から製造したセラミックス構造体は、磁器と同等の比誘電率、磁器以上の電気絶縁性を持つことが確認できた。
【0050】
本実施の形態によれば、液晶パネルガラスを粉砕して得たガラス粉末62.7重量%と炭酸カルシウム粉末37.3重量%とを混合して得たガラスセラミックス材料を、焼成してワラストナイト相を含む、機械特性と電気特性が優れたセラミックス構造体を得ることができる。
【0051】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、不要となった液晶パネルから回収した無アルカリガラスの埋立地への投棄量を極力抑え、資源を有効に利用することができる。さらに、電子部品あるいは機械部品へ使用可能な電気特性および機械特性を有する安価なセラミックス構造体を製造することができるガラスセラミックス材料およびセラミックス構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 液晶パネル、2a カラーフィルタ側ガラス基板、2b TFT側ガラス基板、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とからなる、セラミックス材料。
【請求項2】
無アルカリガラス粉末が、液晶パネルガラスを粉砕して得られたものである、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項3】
前記化合物粉末が炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムの粉末である、請求項1または2に記載のセラミックス材料。
【請求項4】
無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とからなる、請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス材料。
【請求項5】
無アルカリガラス粉末がSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス材料。
【請求項6】
無アルカリガラス粉末30〜80重量%と、カルシウムを含む化合物粉末70〜20重量%とを混合し、850〜1000℃の温度で焼成する、セラミックス構造体の製造方法。
【請求項7】
無アルカリガラス粉末が、液晶パネルガラスを粉砕して得られたものである、請求項6に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項8】
焼成により主結晶相としてワラストナイトを、他の結晶相としてはアノーサイトおよび/またはディオプサイトおよび/またはゲーレナイトを析出させる、請求項6または7に記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項9】
無アルカリガラス粉末50〜70重量%と、カルシウムを含む化合物粉末50〜30重量%とを混合する、請求項6〜8のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項10】
焼成温度が875〜950℃の範囲内である、請求項6〜9のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。
【請求項11】
無アルカリガラス粉末がSiO2:50重量%以上、Al23:10〜20重量%、B23:5〜20重量%、MgO+CaO+ZnO+SrO+BaO:5〜20重量%の組成を有する、請求項6〜10のいずれかに記載のセラミックス構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−1212(P2011−1212A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144403(P2009−144403)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(509171896)
【出願人】(394024444)
【出願人】(509171900)
【Fターム(参考)】